I am Sam/アイ・アム・サム
I am Sam
監督・製作・脚本:ジェシー・エルソン
出演:ショーン・ペン、ミシェル・ファイファー、ダコタ・ファニング
2001年アメリカ/133分/配給:松竹、アスミック・エース
公式サイト http://www.iamsam.jp/ チラシ 1

 7歳児程度の知能しかもたないサムはスターバックスで働きながら、一人娘のルーシーを育てていた。2人は仲良しで一緒にいることが幸せだったが、ルーシーが7歳になったとき、知能に障害のあるサムでは子供を養育できないと、ルーシーは児童福祉局へ連れられてしまう。サムがルーシーを取り戻すには、裁判で養育権を認められなくてはいけない。そのためにサムは、敏腕弁護士のリタへ弁護を依頼するが……。
 障害をもった父親と賢くいたいけな娘の愛情の物語。設定からして感動モノであることは予想に難くないわけだけど、それをあざとく見せない爽やかな演出がよかった。でも、演出はそうであっても、やはり泣かせてしまうわけですが、それには俳優陣の卓越した演技を抜きには語れないでしょう。主人公サムを演じるショーン・ペンはお見事の一言で、もはやこの映画の彼はサムそのもの。ルーシーのダコタ・ファニングは、本作で数々の新人賞を獲得したというのも納得できる、まさに天才的演技力。そしてあの愛らしさよ! 自分が父親よりも賢くなっていることを自覚し、そのことに対して複雑な気持ちを抱くというシーンには、思わず心揺さぶられましたよ。役者たちの良さもあるし、ストーリーも良いし。ちょっと長いような気もしたけど、飽きはこなかったし。泣いてる人もずいぶんいましたよ。僕自身、あまり泣かせねらいだったらどうしよう……とか思うところもありましたが、実際はそうでもなく、でも自然と泣かされる感じなところにホロリときましたね。そんでもって、やっぱりルーシーでしょ。超絶にかわいすぎ!


アイアン・ジャイアント
The Iron Giant
監督・製作:ブラッド・バード
出演:イーライ・マリエンタール、ヴィン・ディーゼル、ジェニファー・アニストン、ハリー・コニック・Jr、クリストファー・マクドナルド
1999年アメリカ/86分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 アメリカのとある小さな田舎町に、宇宙から鉄の巨人が落ちてくる。森の中でその巨大ロボットと出会ったホーガース少年は、ロボットが友好的で純粋な赤ん坊のような性格であることを知り、大人たちの目から匿いながら、友情を育んでいく。しかし……。
 アニメのアカデミー賞と言われるアニー賞を独占したアメリカのアニメーション史に残る傑作。物語はシンプルで予想できるとおりに進んでいくんだが、それでも涙が溢れそうになるほど胸を揺さぶられる。短い作品なので、ここで細かいことをあれこれ言うよりは是非観てほしいと思うのだけれども、序盤の少年とアイアン・ジャイアントのやりとりがクライマックスにきちんと効いていたり、思わず微笑ましくなってしまうアイアン・ジャイアントの細かな仕草など、どれをとっても丁寧で良心的に作られた作品です。子どもはもとより、大人こそ観るべき作品のひとつではないかと。


アイス・ストーム
The Ice Storm
監督・製作:アン・リー
出演:ケビン・クライン、ショーン・アレン、シガニー・ウィーバー、トビー・マクガイア、クリスティーナ・リッチ、イライジャ・ウッド
1997年アメリカ/113分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ

 1973年のアメリカ、コネティカット州。一見すると恵まれた家庭のフッド家とカーヴァー家。しかし、フッド家の父ベンとカーヴァー家の母ジェイニーは不倫関係。フッド家の娘ウェンディーはカーヴァー家の兄マイキーと恋人関係にあるが、マイキーの弟サンディはウェンディーのことが気になっていて…。
 こういう風に書くと、なんだ単なるどろどろとした人間関係のドラマか…と思われてしまうかもしれませんが、単純にそうではないです。この壊れた家族関係は、はっきりいって現代のものでしょうね。舞台設定は70年代ですけど。もちろんそうそう簡単に隣家同士で不倫や恋愛が簡単に起こるかどうかはわからないけど。ベンという男は我がままでありながら、良い父、良い夫であろうとして、それに娘は反発し…。カーヴァー家の両親も親として子を満足させることができずに、子供たちは鬱屈した感情を恋愛ごっこや物にあたる行動で発散させる。見ているととても痛い家族像が浮き彫りにされているように思います。この映画の中で、唯一、精神的に落ち着いているのがトビー・マクガイア演じるポール・フッド。彼はハイスクールに通うために一人暮らしをしているため、この2家族からはなれている。それ故に、見えてくるものがあるのだろう。家族が全て一緒にいることが幸せか。一緒にいることで傷つけあってしまう家族もいる。そんなことを静かに伝えているように思えます。出番は少なめだけど、彼のナレーションがこの映画のテーマを語っています。ラストで迎える事件によって、ベン・フッドが改めて家族の存在を認識しなおします。フッド家は今後、どうなっていくのか。そしてそれ以上に、カーヴァー家も。静かに幕を下ろすラストが印象的。豪華スターの共演が見所ですが、それ以上に、映画そのものが秀逸で、役者も一人一人が抑えた演技で素晴らしいです。


アイズ・ワイド・シャット
Eyes Wide Shut
監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック
出演:トム・クルーズ、ニコール・キッドマン
1999年アメリカ/159分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 本作品公開前に70歳で世を去ったキューブリックの最後の作品。トム・クルーズ&ニコール・キッドマン夫妻をそのまま夫婦役で起用。内科医のウィリアムは妻アリスと幸せな生活を送っていた。しかし、ある夜、妻とのほんの些細な会話がきっかけで、性の妄想にとりつかれる。そして夜の街を彷徨う彼が行き着いた先は・・・。
 実にキューブリックらしく、綿密に人物が描かれていると思う。全体として暗い雰囲気を漂わせ、画面全体を使って人物の心理を描写しているような演出は見事としか言いようがない。引き込まれずにはいられない映画。


“アイデンティティー”
Identity
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ジョン・キューザック、レイ・リオッタ、アマンダ・ピート、クレア・デュバル、アルフレッド・モリーナ
2003年アメリカ/90分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.id-movie.jp/ チラシ 1

 ある嵐の夜、街から離れた砂漠のモーテルに何の関係もない10人の男女が集まる。仕事に不平を漏らして逃げてきた女優とその運転手、事故にあって妻が重傷の3人家族、帰郷途中の売春婦、訳ありのカップル、囚人を護送する刑事……。そしてモーテルの管理人を合わせた11人が、吹き荒れる風雨の一夜を同じ場所で過ごすことになるだが、1人また1人と謎の死を遂げていく……。
 早い話が『シックス・センス』系のどんでん返し映画なんですが、今更これを宣伝文句にされても、もう驚かないんですよね。最初から「オチがあるだ」ということをわかってしまっていますから、「じゃあ、どんなに凄い結末なんだろう」と思ってしまうから。映画自体は割りと良く出来ていると思うんですよ。突っ込みどころはあるんですが……。そのへんのリアリティをもっと突き詰めてくれればさらによかったと思うんですが、まあ、あの結末から言うなら無理矢理ではないと思うので。うーん、なかなかネタをばらさずに語るのは難しいですが、嵐の夜の辺境のモーテルという舞台も良いですし(ありがちですか?)、演出も結構ハラハラドキドキするものがあったんで、それなりに怖いものが嫌いな人には怖いかも。ジェンル分けするならサスペンス・スリラーですね。ジョン・キューザックやレイ・リオッタというちょっと渋めだけど巧い通好みな役者を使っている点も良かったですし、雰囲気も味わえるし、さらに90分でそつなくまとめている点も好感ですけどね。


愛に関する短いフィルム
Krotki Film o Milosci
監督・脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ 脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
出演:オルフ・ルバシェンク、グラジナ・シャポロフスカ、ステファニア・イバンスカ
1988年ポーランド/87分/配給:KUZUIエンタープライズ

 郵便局で働く19歳の青年トメクは、向いのアパートに住むマグダという女性に恋し、自分の部屋から望遠鏡で彼女の部屋を覗いていたが……。
 モーゼの「十戒」をもとに製作された10話からなるテレビシリーズ「デカローグ」の第6話「ある愛に関する物語」を再編集し、劇場公開された映画。“汝、姦淫するなかれ”という戒律をテーマにしているが、果たしてどんな男女関係であれ、肉体関係なしに愛を成立させることができるのか……ということを描いているわけなんですが、最初のうちはひたすら覗いてばかりのストーカー君の行為にどうしても突っ込みたくなってしまい。ですが、後半になっていつしかトメクとマグダの立場が入れ替わったようになり、求める者の切実な思いが伝わってくるようで切ない。
 「デカローグ」からはもう1本、第5話「ある殺人に関する物語」が『殺人に関する短いフィルム』として公開されている。


愛の神、エロス
Eros
監督:ウォン・カーウァイ、スティーブン・ソダーバーグ、ミケランジェロ・アントニオーニ
出演:コン・リー、チャン・チェン、アラン・アーキン、ロバート・ダウニー・Jr、クリストファー・ブッフホルツ、レジーナ・ネムニ
2004年アメリカ+イタリア+フランス+中国/104分/配給:東芝エンタテインメント
公式サイト http://www.ainokami-eros.com/ チラシ 12

 「情事」で知られるイタリアの巨匠ミケランジェロ・アントニオーニの呼びかけのもと、「花様年華」のウォン・カーウァイ(香港)、「セックスと嘘とビデオテープ」のスティーブン・ソダーバーグ(アメリカ)の3人が、それぞれ愛について描いたドラマで、「若き仕立て屋の恋」(カーウァイ)、「ペンローズの悩み」(ソダーバーグ)「危険な道筋」(アントニオーニ)の3編で成るオムニバス形式。それぞれがカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した経験をもつ3人なだけに、映画の出来は保証されているようなものだが、個人的にはやはりウォン・カーウァイの作品が、画作りもいつも通りの美しさがあり、面白かった。アジア、アメリカ、ヨーロッパと、それぞれに異なる国を代表するような3人3様の描き方を比較してみるのも面白いと思いました。ただ、どうも1本の映画を観たときほどの満足感は得られず……といったところです。


愛より強い旅
Exils
監督・製作・脚本・音楽:トニー・ガトリフ
出演:ロマン・デュリス、ルブナ・アザバル、レイラ・マクルフ、アビブ・シェック
2004年フランス/103分/配給:日活
公式サイト http://www.ai-tabi.com/

 パリに暮らす青年ザノは、ある日、両親の祖国アルジェリアに行こうと決意し、恋人のナイマとともに7,000キロの旅路に出るが。
 『ガッジョ・ディーロ』『ベンゴ』のトニー・ガトリフが、自身のルーツでもあるアルジェリアに向けて描いたロードムービーで、第57回カンヌ映画祭監督賞受賞作。ストーリーそのものよりも圧倒されるのは、やはり音楽。ガトリフ監督作品で音楽は重要だが、今回は旅の途上で立ち寄る各国の音楽……スペインのフラメンコ、アルメリアのライ、アルジェリアのスーフィーが、いつになく力強くなり響き、それだけで心を揺さぶられるものがある。特にクライマックスにあたるアルジェリアのスーフィー音楽の儀式は、もはや言葉というものが何も必要のない、まさに魂の響きともいえるほどの凄まじさ(といっても過言ではないはず)。ぜひとも映画館のスクリーンと大音響で“体感”してほしい。そして、こういう映画を観るにつけ思うことは、民族や宗教、国境という概念を自覚するすらもはや難しい我々日本人は、何をもって民族としてのアイデンティティーを確立すればよいのか……ということであり、それはおそらく何十年たっても、もはや答えは得られないものなんじゃないかという漠然とした思いだったりする。
☆★★★★


I LOVE ペッカー
Pecker
監督・脚本:ジョン・ウォーターズ
出演:エドワード・ファーロング、クリスティーナ・リッチ
1998年アメリカ/88分/配給:日本ヘラルド映画

 ボルチモアという片田舎の街に住む少年ペッカーは、中古カメラで写真を撮ることに夢中。彼にとっては周囲のものがなんでも被写体になる。そんなペッカーのピンぼけ写真や露出写真が、偶然ニューヨークのアート・ディーラーの目にとまり、あっという間に新鋭写真家として名声を手に入れるペッカー。しかし、有名になったら……。明るい少年ペッカーと愛すべき家族、恋人、友達、街の人々がおりなすお気楽コメディで、ジョン・ウォーターズ監督の半自伝的ストーリー。偶然有名になってしまったことで起こる彼の周囲の変化を、テンポ良く描く。構成も物語もシンプルでわかりやすいので、とても見やすいですが。


アイランド
The Island
監督:マイケル・ベイ 原案・脚本:カスピアン・トレッドウェル=オーウェン 脚本: アレックス・カーツマン 、ロベルト・オーチー
撮影:マウロ・フィオーレ 音楽:スティーブ・ジャブロンスキー
出演:ユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンスン、ショーン・ビーン、ジャイモン・フンスー、スティーブ・ブシェーミ、マイケル・クラーク・ダンカン
2005年アメリカ/136分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.island-movie.jp/ チラシ 1

 2019年。放射能に汚染された世界から隔絶され、全てが管理された施設のなかで暮らしているリンカーンは、地上で唯一汚染を逃れた最後の楽園“アイランド”へ行くことができる抽選会で、親しい女性ジョーダンが当選したその日、施設の秘密を知ってしまう。施設で暮らす彼らは皆、人工的に生み出されたクローンであり、アイランド行きとはすなわち、彼らの命が人知れず消されることだったのだ。リンカーンはジョーダンを連れて逃亡を図るが。
 『パール・ハーバー』『アルマゲドン』でおなじみのヒットメーカー、マイケル・ベイ監督の近未来SFアクション。マイケル・ベイといえばプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーとのコンビが定石だったが、今回は初めてブラッカイマーから離れて製作。でも、基本はやっぱり「アクションのマイケル・ベイ」といったところで、変わらず。いや、むしろよりクレイジーになったような、とにかく重量級のアクションが満載。主人公が、自身がクローンであることを知ってしまうあたりまでのくだりはそれなりに丁寧だけど、必死の逃避行が始まると、あとはおなじみのカーチェイスなどがこれでもかと出てくる。反面、どんどん物語の細部がおいてけぼりにされてしまう感じだが、むしろアクションを活かすためには、その程度の細かいことは無視してしまっているのだろう、意図的に。それはわかるが、でもやっぱり気にならないかなぁ〜。「どうなっちゃうのよ、これ」ってところも結構あるような。まあ、それでも全体を通じての物語構造はいいと思うし、アクションがいっぱいで2時間超えなので、観終わったあとはちょっと疲れるけど、緩急のテンポは良いので飽きさせない。近未来的なビジュアルもなかなか良くて、エンターテイメントとして満足できる1本。是非、大スクリーンの劇場で。
☆☆★★★


アヴァロン
Avalon
監督:押井守 脚本:伊藤和典
出演:マウゴダージャ・フォレムニャック
2001年日本/106分/配給:日本ヘラルド映画 チラシ 1

 時は近未来。仮想現実の非合法ゲーム“Avalon”を舞台にした物語。攻殻機動隊から5年。押井守の最新作はポーランドでオールロケを敢行した実写映画。全編にデジタル処理が施されており、実写でありながら仮想現実(ヴァーチャルリアリティ)のゲームの世界をうまく表現している。さらにゲームの世界だけでなく、現実の世界でもすべてがセピア調に彩られた画面が荒廃した社会を表現している。全てをセピア色で描かれていたのは、物語終盤でたどり着くある場所をよりリアルに表現するために、とても効果的。
 ここまでビジュアル的に凝ったつくりの実写映画というのも珍しいと思うので、その点は感心(というか、それが目的みたいだから当然といえば当然だが)。セピア調の美しくもスタイリッシュな映像を堪能できる。反面、ストーリーはゲーム初心者やゲームにあまり興味のない人にとっては面白みはないかも。

青い棘
Was Nulzt Die Liebe in Gedanken
監督・脚本:アヒム・フォン・ポリエス 脚本:ヘンドリック・ハンドレーグテン 原作:アルノ・マイヤー・ツー・キュイングドルフ
出演:ダニエル・ブリュール、アウグスト・ディール、アンナ・マリア・ミューエ、トゥーレ・リントハート、ヤナ・パラスケ
2004年ドイツ/90分/配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト http://www.aoitoge.com/ チラシ 1

 寄宿学校で親友同士のパウル・クランツとギュンター・シェラーは、両親が留守の間を利用して、ある週末をシェラー家の別荘で過ごすことに。パウルはギュンターの妹ヒルデに恋心を抱くが、奔放なヒルデはシャイなパウルを本気で取り合おうとはしない。やがて彼らは仲間を集めてパーティーに興じ、様々な感情が静かに露わになっていく……。
 1927年6月27日の朝、19歳の学生ギュンターが見習いシェフのハンスを射殺し、続けて自らの頭部に銃弾を打ち込んで自殺。現場にはギュンターの友人パウルと、妹ヒルデ、その友人エリがいたが、射殺現場を目撃したのはパウルだけだった――。当時の社会を揺るがした実在の事件「シュテークリッツ校の悲劇」を映画化した青春ドラマ。愛について理想を抱く若者が、その理想に殉じようとする様は、まさに若さゆえの“青さ”である。彼らが何ゆえにそこまでの思想を持つに至ったかという説明はないが、それは繰り返しになるけれども、やはり若さゆえの繊細さであり、そうしたものは時代が変わっても普遍なのかもしれない。独特の色使いをもって、優しい自然とその中で揺れる若者たちの心をとらえるカメラが美しい。こうした若者のデリケートな心情を描いたものには、誰しもなにかしら共感できる普遍性があるのではないかなと。また、全編に漂う危うい倦怠感というか、そういった物憂げが雰囲気がいい。
☆☆★★★


赤毛のアン
Anne of Green Gables
監督・製作・脚本:ケビン・サリバン 原作:ルーシー・モード・モンゴメリ
出演:ミーガン・フォローズ、コリーン・デューハースト、リチャード・ファーンズワース
1986年カナダ/198分/配給:松竹富士

 もはや言わずと知れたルーシー・モード・モンゴメリの世界的名作の映像化作品で、TVシリーズで放映されたものの総集編。原作の持つ素晴らしさをそのまま見事に映像化しています。アヴォンリーの緑豊かな情景とそこに暮らす人々を。約50分延長して出されたものが「完全版」で、僕が観たのもこれ。195分という長丁場ですが、全然飽きませんでした。僕が原作の大ファンだということもありますが、そのイメージを損なうことなく出来上がっているのには満足です。不満があるとすればダイアナとギルバートのキャスティング。特にダイアナは(失礼ですが)あまり美しくないし、老けてる・・・。物語開始時の年齢設定は、原作より1、2歳上になっていて、それでもアンやダイアナらは、演じてる役者さんの実年齢からすると、そのころの年齢にはちょっと無理も感じられましたが、成長して15、6歳になればぴったりでした。特にアンはね。是非とも、テレビシリーズとして、毎週一本ずつ観てみたかったな。


続・赤毛のアン/アンの青春
Anne of Green Gables: The Sequel
監督・製作・脚本:ケビン・サリバン 原作:ルーシー・モード・モンゴメリ
出演:ミーガン・フォローズ、ジョナサン・クロンビー、コリーン・デューハースト
1988年カナダ/220分/配給:松竹富士

 前作に引き続き、原作「アンの青春」「アンの幸福」をもとにTVドラマ化したものの総集編。キャスト、スタッフともに前作から変わらずなので、そのクオリティも変わらず。TVの総集編であるがために、映画的な盛り上がりは少なく、しかも長いのですが、物語のよさがそれを補って余りあります。アンの人を変える強さ、自分を認めていく成長が丁寧に描かれていますし、なにしろラストが感動なのですよ。とても幸せで、これぞハッピーエンド。大袈裟に飾り立てない、でもそこにあるのは真の幸福。泣けます。前作と並ぶクオリティながらも、やはり前作にはわずかに及ばず。それは原作にもいえてることですけど。シリーズ第2弾にして、ギルバートのキャスティングには慣れましたが、やはりダイアナのキャスティングには納得しかねるものが…、ううむ。僕が観たものは、前作と同じく「完全版」で、なんと220分もあるのです(オリジナル版は165分。正確にいうと劇場公開版が「続・赤毛のアン/アンの青春」。ビデオが「赤毛のアン/アンの青春 完全版」)。


赤毛のアン/アンの結婚
Anne of Green Gables: The Continuing Story
監督:ステファン・スケイーニ 脚本・製作:ケビン・サリバン
出演:ミーガン・フォローズ、ジョナサン・クロンビー、キャメロン・ダッド
2000年カナダ/147分/配給:松竹
公式サイト http://www.an-movie.jp/ チラシ 1

 「赤毛のアン」「アンの青春」の続編として製作された第3弾。1作目、2作目で、アンの世界を見事に映像化したことで評価されているケビン・サリバンは、脚本と製作を担当し、監督は交代。キャストは全てオリジナルのまま。今回は原作から離れ、オリジナルストーリーで展開しているが、一応、原作シリーズの最終巻「アンの娘リラ」が原作と言えるらしい。というのも、本作の舞台は第一次世界大戦。原作は、1880年にストーリーがスタートするので、第一次大戦に行くのはアンの子供たちなのだが、映画版は時代設定が1900年代だったため、第一次大戦のころのアンたちは20代前半。「アンの娘リラ」では子供たちが赴いた戦場に、アン、ギルバートらが行くことになるわけです。
 しかし、まあ、観ていると「これは本当に『赤毛のアン』なのか?」ということをどうしても思ってしまいます。ニューヨークに行くのはまだしも、その後は、砲弾が飛び交う戦場に舞台を移し、フランス、イギリス、ベルギー、ドイツ…と各地を転々とするアン。しかも、戦時下のヨーロッパの過酷な状況が描写される様は、ほのぼのと自然の美しい描写が印象的な前作までとは大違い。原作とも大違い。野戦病院で傷ついた兵士たちが運び込まるところにいるアン。そこが爆撃にあい、すすだらけになるアン。血を流して倒れる人に呼びかけるアン。まるで、戦争大河ドラマです。さらにスパイものも絡んできますから、驚き。「これは『赤毛のアン』でなくてもいいのでは?」と思わざるを得ませんが、しかし、時代設定という名のもとに「もし、アンとギルバートが第一次大戦の時代にいたら」ということで描いたとするなら、リアルかもしれません。というのも、アンを演じるミーガン・フォローズは、年をとっても、彼女こそがアンであるなぁ…と感じさせてくれるし、アンはあくまでアンなのです。ひたむきで気が強く、ちょっと頑固で、思い込んだら一直線。だけど他人に対する思いやりは忘れない。そのアンが戦争という時代に生きたら…ということで描いているわけですから。次々と事件が起こって慌しく、2時間半あるにもかかわらず、やることが多いために、わりと展開も急いだ感じです。…もうちょっと人物を細やかに描いてくれても…って思いますけど、これはこれで内容が濃いんで飽きないともいえますけどね。アンが好きなら、好意的にとれる内容ではありますので、悪いものだとは思いませんが、ストーリーが多くてややダイジェスト版的な印象を受けることと、やっぱり「前作でアンは終わっていて、これは後日談みたいな、別ストーリーもんだなぁ〜」と思ってしまうあたりが残念といえば残念。だけど先述したとおり、キャラクターの魅力は死んでいないし、ラストシーンがすごーくアンらしいので、良しとしましょうかねぇ。うむ、マリラがいないのも寂しい。


赤ちゃん泥棒
Raizing Arizona
監督・脚本:ジョエル・コーエン 製作・脚本:イーサン・コーエン
出演:ニコラス・ケイジ、ホリー・ハンター
1988年アメリカ/95分/配給:20世紀フォックス

 スーパー専門の強盗・ハイと元婦人警官のエド。結婚して幸せな夫婦生活だが、子供ができなかった。そんなとき、有名家具メーカーのネイソン・アリゾナ氏に5つ子ができたというニュースが流れる。その一人を盗み出し、我が子として育てるハイとエド。しかし、ハイの刑務所仲間や赤ちゃんを取り戻そうとするマンハンターなどが入り乱れ、だんだんと事態は混乱していく。コーエン兄弟の作品らしく、どこか登場人物が戯画化されているような感じで、それがコメディ色を強めていると思います。そのへんの登場人物のキャラクター設定が、強すぎるような気もしなくはないですが、スピーディな展開にはそれくらいが丁度よいのかもしれない。テンポのよさはさすが。しかも、なんだか、いつのまにドタバタ劇だけでなく、ほろりとくるような温かい人情も展開されるところが美味しいですねぇ。


AKIRA
Akira
監督・脚本・原作:大友克洋
声の出演:岩田光央、佐々木望、小山茉美
1988年日本/124分/配給:東宝
公式サイト http://www.bandaivisual.co.jp/akira/

 なんだか今更あれこれ言うのもおこがましい気がしますし、この作品を自分の稚気な感想で語っても、凡百の評論に書き尽くされているようなことしか書けないと思うので省略です。ただ、この作品はやはり語り継がれていくのだろうし、今観ても全く色あせるものがなく、むしろ驚かされるくらいのレベルで、アニメであったからこそ描けたもの(アニメじゃなければ描けないもの)だけど、既にアニメという枠を超えて、日本の映画史に残るべく傑作になっているんだな、と。個人的にはオープニングの1988年の東京が崩壊するシーンから、そのまま2019年の東京に移るシーンだけで、既に世界に引き込まれてしまいました。


アザーズ
The Others
監督・脚本・音楽:アレハンドロ・アメナバール 製作総指揮:トム・クルーズ 製作:ホセ・ルイス・クエルダ
出演:ニコール・キッドマン、フィオヌラ・フラナガン、アラキナ・マン、ジェームズ・ベントレー、クリストファー・エクルストン
2001年アメリカ+スペイン+フランス/104分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.others-jp.com/ チラシ 1

 1945年、第二次世界大戦末期のイギリス、チャネル諸島のジャージー島。グレースは戦争にでたまま帰らぬ夫を待ちながら、2人の子供と広大な館に暮らしていた。2人の子供は重度の光アレルギーを患っており、この館では昼間でも分厚いカーテンをしめなくてはならない生活だった。そんなある時、忽然と姿を消してしまった使用人たちにかわって、新たな使用人の3人が館を訪れる。使用人募集の広告をだしていたグレースは早速その3人を雇うことにするが、それ以来、館にはなにやら見えないものの存在がうごめき始める・・・。
 アメナバール監督の「オープン・ユア・アイズ」に惚れこんだトム・クルーズが、同作のリメイクをアメナバール監督に依頼し、結局、監督自身によるリメイクは実現しなかったが、替わってキャメロン・クロウ監督を迎え「バニラ・スカイ」としてリメイクしたのは有名な話。その際に、アメナバール監督側から提示された脚本を、トム・クルーズは当時の妻ニコール・キッドマンを主演に、製作を買って出たのが本作。ストーリー部分ではネタバレせずに語ることはできませんので、そのことは差し控えますが、なるほどね・・・と思うことでしょう。ホラーといっても、気色悪い生き物もでませんし、一滴の流血もありませんので、そういう表現が嫌いな人でも大丈夫です。音楽も効果音も抑えられて、必要な時にのみその効果を発揮する演出方法は上手いですね。光も音もない、静かな館の雰囲気がよく表れていました。そして、それによって“いないはずのもの”がうごめく時の恐怖感が際立っていると思いました。本作は、ストーリーよりも、そういった見事に完成された画面作りや雰囲気によって、惹きつけられる映画だと思いました(別にストーリーがお粗末というわけではありません)。そして、それに多大な貢献をしているのが主演ニコール・キッドマンです。暗く静まりかえった館の中で、ニコールの限りない美しさは際立っています。完全なまでの「美」と「恐怖」の融合。一見、相反するこの2つの要素ですが、本作は、ニコールの美しさと、不可視な恐怖感とが一体となったことで、ここまでの完成度の映画になったということだと思います。


阿修羅城の瞳
Blood Gets in Your Eyes
監督:滝田洋二郎 原作:中島かずき 撮影:柳島克己 音楽:菅野よう子
出演:市川染五郎、宮沢りえ、渡部篤郎、樋口可南子、内藤剛志、小日向文世、韓英恵
2005年日本/119分/配給:松竹
公式サイト http://www.ashurajo.com/ チラシ 12

 人を喰らう“鬼”が世にはびこる江戸時代。かつては“鬼殺し”と異名をとった剣士・病葉出門(わくらばいずも)は、5年前のある事件をきっかけに鬼退治から身を引き、今は剣の腕を隠して舞台役者として活躍していた。そんなある日、出門はつばきという女と出会い、恋に落ちるが……。
 松竹と劇団☆新感線による共作で大ヒットした同名の舞台を映画化。主演の出門役は舞台版と同じ市川染五郎。自分は舞台のほうを知らないのでなんともいえないが、これは舞台版とほぼ同じ内容なんだろうか。たぶん、そんな感じだろう。いわゆる時代劇アクション・エンタテインメントで、こういうのは舞台だとケレン味があって楽しいかもしれないが、映画にするとどうも……。というか、個人的に滝田洋二郎ってどうも演出が大仰で肌が合わない気がするんだけど、今回もそのせいからしらん。役者は悪くない(市川染五郎はさすが堂々たる演技)、話は娯楽だからこんなもんでいいとして、プロダクションやらVFXがなぁ……。滝田洋二郎といえば『陰陽師』だが、あっちもこんな感じなのだろうか(観たことないので)。阿修羅になった宮沢りえの顔アップとか、笑っちゃいそうなんですが、それを真面目にやられても……ちょっと困るんですよねぇ。菅野よう子の音楽を選んだのは良かったと思う。そしてスティングのエンディングテーマも。


あずみ
Azumi
監督:北村龍平
出演:上戸彩、原田芳雄、小栗旬、成宮寛貴、小橋賢児、石垣佑磨、北村一輝、オダギリジョー、竹中直人
2003年日本/142分/配給:東宝
公式サイト http://www.azumi-movie.jp/ チラシ 12

 戦乱の世で孤児となったあずみは、関ヶ原の合戦以降、天下の磐石を揺るがし兼ねない徳川に仇なす者を暗殺する刺客として育てられた。人里離れた山の中で鍛錬を積んでいたあずみ達10人は、ついに使命を果たすために山を下りるときがきた。しかし、彼らに剣術を教え、育て上げてきた爺が最初に下した使命は、2人に組んだ者たちで斬りあい、生き残った5人だけが山を下りるというものだった……。
 小山ゆうの人気同名コミックの映画化。自分は原作を全く読んでいないので、そのへんの心配はありませんでした。上戸彩が初主演というのも話題になってますが、彼女なりによく頑張っていたとは思います。それは結構、好印象。ただ、彼女のみならず、監督はじめスタッフもキャストも頑張りすぎっていうか、かなり余計なところに力を入れすぎたような印象もあり、肝心なストーリーやドラマの部分がいまいちで、2時間22分はちょっと長く感じました。キャラの性格付けや衣裳も突っ込みたくなるところが出てくるのは、漫画原作ということでご愛嬌でしょうかねぇ……。とにかく荒唐無稽の嵐! 加えてくどい演出。もっとさくさくと見せてくれれば、より楽しかったなぁ……とは思うんですが、なんか「どうだ、ボクたちがんばってここまでやりましたよ!」っていうのが、ひしひしと伝わってくる感じで、そこはもう認めますよ、はい。続編はあるのでしょうか? あるなら更なる躍進を期待します。もっとソフィスティケイトできると思うので。個人的にはどっちかといえば好きなジャンルなんでがんばってほしいです。そういう意味もこめて甘めの採点かな。世間では十分酷評されてますから。


あずみ2 Death or Love
Azumi 2: Death or Love
監督:金子修介 脚本:水島力也、川尻善昭 原作:小山ゆう 撮影:阪本善尚
出演:上戸彩、石垣佑磨、栗山千明、小栗旬、北村一輝、遠藤憲一、高島礼子、平幹二朗
2005年日本/112分/配給:東宝
公式サイト http://www.azumi2.jp/ チラシ 1

 徳川の刺客として浅野長政、加藤清正を討ち取った少女剣士あずみ。多くの仲間が倒れたが、最後に生き残ったながらと2人、最後の標的である真田昌幸を討つために旅を続けていた。そんなある日、追っ手に襲われた彼女は、夜盗の銀角という男に救われるが、彼はかつてあずみが試練のために自ら斬った初恋の青年なちと瓜二つだった……。
 小山ゆうの人気コミックを映画化したシリーズ第2弾。いろんな意味で前作ほどの破天荒さはなくなったものの、全体的に雰囲気が落ち着いて続編としてかなり見られる出来になっていたと思う。これも監督が替わったおかげか……。特に上戸彩の可憐さは健在というか前作にも増していて良かったんだけど、もっと“美少女”と“剣”のような対極を極端に見せてしまってもよかったんじゃないかなと思ったり。まあ、前作が思ったほどの成績を上げられなかったが故に、今回はそれでも見つづけてくれるファンを満足させればよいと割り切ったのか、あまり大風呂敷を広げなかったのが良かったか。高島礼子のキャラとか突っ込みどころも同時に健在だが、栗山千明の起用は効果的だったし、感情をいい具合に抑制したクライマックスも、そこから続くしっとりとしたエンディングも前作にはなかった成長が見られたと思います。


アダプテーション
Adaptation.
監督:スパイク・ジョーンズ 脚本:チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン
出演:ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、クリス・クーパー、マギー・ギレンホール、カーラ・シーモア、ブライアン・コックス
2002年アメリカ/115分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.adaptation.jp/ チラシ 1

 『マルコヴィッチの穴』で彗星の如く現れ、一躍“天才脚本家”として名を馳せたチャーリー・カウフマン。彼の次なる新作は、「蘭に魅せられた男」の映画化。フロリダで蘭の不法採取を行い栽培していた男ジョン・ラロシュを追った、スーザン・オーリアンのベストセラーだ。この原作本を脚色(アダプテーション)することを引き受けたチャーリーだが、困ったことに全く筆が進まない……。
 うーん、とにかく凄い! この現実と虚構の入り混じり具合…というか着想からして驚きじゃないでしょうか? 「蘭に魅せられた男」というのは実在する本です。もちろん、その著者スーザン・オーリアンも実在するし、その本で書かれているジョン・ラロシュも実在の人物。で、チャーリー・カウフマンも当然、実在の人物で、彼がこの本を映画用に脚色しようとしたのも本当の話?? ここらへんの事情を知っていないと、この映画がどれだけ凄いかったのはわからないかもしれないんですが…。だって、映画の中に『マルコヴィッチの穴』の撮影現場も出てきて、実際にマルコヴィッチやジョン・キューザックやキャサリン・キーナーも出てくるし(そういえばキャメロン・ディアスはいなかった)。チャーリーがスーザンに会いにいくあたりから、どんどんフィクションとノンフィクションが入り交じっていって、それでいて破綻していないこの脚本の凄さは、やっぱりチャーリー・カウフマンの天才っぷりを証明していると思います。それからニコラス・ケイジが双子の弟のドナルドを1人2役で演じているんですが、この撮影方法も興味あり。どうやって撮ったのでしょ? まあ、そういう舞台裏はさておき、このドナルド・カウフマンなる人物がまた秀逸。なにしろ、彼は実在しないのだから。けれど、映画を観ればわかるように、彼は脚本家として実際にクレジットされていて、しかもアカデミー賞にもノミネートされました(架空の人物がアカデミー賞にノミネートされたのは初めて)。これがフィクションであることは知っているけれど、劇中で語られるスーザンとジョンの話は(最初は)ノンフィクションなわけで、じゃあ、苦悩するカウフマンはどこまでが本当でどこまでが嘘?? というのが絶妙にブレンドされていて面白いことこの上なし。やはりチャーリー・カウフマン×スパイク・ジョーンズの掛け合わせは最高のブレンドなり。これについては、ここを読んでもらうと良くわかるかと思いますよ。


アダムス・ファミリー
The Addams Family
監督:バリー・ソネンフェルド
出演:アンジャリカ・ヒューストン、ラウル・ジュリア、クリストファー・ロイド、クリスティーナ・リッチ
1991年アメリカ/100分/

 「アダムスのお化け一家」というTVシリーズで人気を博した、リチャード・アダムスの怪奇漫画を映画化したもの。当主ゴメズを中心とした悪魔のような家族のもとに、25年前行方不明になったゴメズの兄フェスターが戻ってきたのだが・・・。ドタバタ・ファミリー・コメディの定番のような作品。ゲテモノやちょっとブラックなコメディだったりするところがあまり趣味にあわないと面白くないかもしれない。ダンスシーンの軽快なノリなどは、観ていて楽しい。が、もっと徹底的に笑わせてくれてもいいんじゃないかなぁ〜・・・とも思うのだけど、これは個々人の笑いのツボによるのかなぁ。個人的には、落ち着きはらった娘ウェンズデーを演じるクリスティーナ・リッチの演技が光っていると、贔屓目に見てしまうのですが・・(実際に彼女はこれが当たり役で、以後も活躍を続けることになるのだし)。


アダムス・ファミリー2
Addams Family Values
監督:バリー・ソネンフェルド
出演:アンジャリカ・ヒューストン、ラウル・ジュリア、クリストファー・ロイド、クリスティーナ・リッチ、ジョーン・キューザック
1993年アメリカ/100分/配給:UIP

 「アダムス・ファミリー」の続編。世の常識と価値観が全く逆のアダムス・ファミリー。新たな家族も加わって、また笑わせてくれます。世間一般的には、やはりパート2もののサガで、前作よりはパワーダウンとされているようですが。個人的には、前作よりも笑える箇所が多かったので、コメディとしてはとても楽しかったです。相変わらずのブラックコメディっぷりも、今回はますますパワーアップしていて、冗談のわかる人じゃないと観られないかも? そしてキャストも変わらず、皆ハマリ役。前作でも好評だった冷徹な娘ウェンズデーのクリスティーナ・リッチがますます光って見えました。すばらしい。話のメインは兄・フェスターと新キャラ・デビーの騒動が中心のはずなのに、健全な(笑)キャンプに出されてしまったウェンズデー達のほうが面白かった。人気シリーズなだけに、これ以降の続編も期待されたが、主演のラウル・ジュリアの死去によって実現はされなかった。


アップルシード
Appleseed
監督:荒牧伸志 脚本:半田はるか、上代務 プロデュース:曽利文彦 原作:士郎正宗
声の出演:小林愛、小杉十郎太、松岡由貴、子安武人
2004年日本/103分/配給:東宝
公式サイト http://www.a-seed.jp/ チラシ 1

 西暦2131年、世界規模で行われた非核大戦により、地上の大半が廃墟と化した世界。大戦を生き抜いた若き女性兵士デュナン・ナッツは、ある日、武装した兵士たちに捕まり、人間とクローン人間“バイオロイド”が暮らす最後の理想郷と呼ばれる都市オリュンポスに連行される。そして、そこでかつての恋人ブリアレオスと再会するが、彼は戦争で重傷を負い、体の大半を機械化されていた。
 モーション・キャプチャーした人間に2Dのセルアニメの質感を持たせるという新手法“3Dライブアニメ”で作られた全編3DCGアニメ。原作は「攻殻機動隊」と同じ士郎正宗。『ファイナルファンタジー』が完全なフルCGで大失敗した経験から、3Dと2Dの良いとこ取りのようなかたちで発案された今回の手法だが、結論から言えばまだまだといったところ。メカ類の動きは非常によくてそれなりにカッコイイんだが、やはり生身の人間となると違和感が付きまといましたね。まずはあのテクスチャーがダメ。妙につるつるで色の塗り分け部分も不自然な感じで、バストアップくらいであまり動かないならまだいいんだけど、ロングショットになると手足のふわふわした感じがなんか変だし、顔がアップになると目ばっかりがやたらとくっきりしてるのが気になるし。背景なんかはいいだけど、それだったら人物は今までどおりの2D(セル画風)に描いた『イノセンス』のほうが、全然見たときの映像としての衝撃度が違う。これはこれで、まあ、初めての試みだから及第点としても、既に製作に入っているという続編では、この点をもっと改善してくれなとなぁ。キャラクターの芝居も思うようにできてないでしょ、これは……っていうもどかしさも感じられたし。と、まあ、なんだか書いていたら厳しい感じになってきてしまいましたが、別に見て損をしたとは思いませんでした。こういう作品は嫌いじゃないし、予告編で見られたカットなんかは良かったんで、つきつめればもっと良くなるのではと。ぜひぜひ頑張ってほしいです。


アニマトリックス
The Animatrix
監督:アンディー・ジョーンズ、前田真宏、渡辺信一郎、川尻善昭、小池健、森本晃司、ピーター・チョン
声の出演:キアヌ・リーブス、キャリー・アン=モス
2003年アメリカ/110分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.whv.jp/month/animatrix/

 『マトリックス・リローデッド』公開にあわせて製作されたオムニバス・アニメ。短編9本からなり、一部にはウォシャウスキー兄弟が脚本で参加している。
 企画としてはとても面白いもので、参加しているクリエイターも、アニメ好きな人間なら誰しもが「おっ」と思う人選で、ウォシャウスキー兄弟って本当に日本のアニメが好きなのね、と実感。『リローデッド』本編を観ていると、「誰こいつ?」と思ったやつの話も収録されていて、ちゃんと『リローデッド』につながっているあたりは上手い商売してると思う。でも、9本のうち、直接のつながりがあるのは数本だけで、あとは世界観と設定をうまくアレンジして作ったという感じで、実は『リローデッド』につながりのある話である「ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス」とかより、それらのほうが面白かったりします。僕が面白いと思ったのは川尻善昭の「プログラム」、森本晃司の「ビヨンド」、渡辺信一郎の「ディテクティブ・ストーリー」、ピーター・チョンの「マトリキューティッド」あたり。それぞれに監督の“らしさ”が出ていてよかったです。やっぱ日本アニメ界は才能と技術があるよなー、って思ったりしますね、これを見ると。アニメに興味がなくても『マトリックス』が好きなら観ておいてもいいかと思います。一応、映画3部作のほうの理解も深まりますしね。短いですから、1日1本とか観てもいいし。2週間だけ劇場で限定公開されてましたが、僕はDVDで観ました。


姉のいた夏、いない夏。
The Invisivle Circus
監督・脚本:アダム・ブルックス
出演:ジョーダナ・ブリュースター、クリストファー・エクルストン、キャメロン・ディアス
2001年アメリカ/93分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/invisiblecircus/

 1976年、高校を卒業したフィービーは、7年前に恋人とともにヨーロッパへ旅立って、帰らぬ人となった姉フェイスの足跡をたどる旅にでた。自分にとって大きな存在であった姉が、突然、ヨーロッパで自殺しなくてはならなかった真の理由はなんなのか? それを見つけるために、フィービーは、かつての姉の恋人ウルフを訪ね、やがて姉の死の意外な真相を知る。
 引っ込み思案な少女が、旅の中で、愛する姉の死という過去の大きな傷から、成長していく物語。70年代アメリカのヒッピー文化を踏襲した作品で、その世代の人たちには感銘を与えるものがあるのだろうか。自分には、肝心のその部分があまり共感をもってみることはできなかったです。こういうものなのかなぁ・・・と。世界を変えられると信じる若者は幸せか、不幸せか・・・・。それにしても、意外と恋愛の要素が絡んだ展開になっていくのは想像していたのと違ったなぁ。どこまで青い空と、そこに立つキャメロン・ディアスが印象的。彼女の心は、あの岬で解放されたのでしょうか…。


あの頃ペニー・レインと
Almost Famous
監督・製作・脚本:キャメロン・クロウ
出演:パトリック・フュジット、ケイト・ハドソン、ビリー・クラダップ、ジェイソン・リー、フランシス・マクドーマンド
2000年アメリカ/124分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト http://www.spe.co.jp/movie/almostfamous/

 大学教授で厳格な母に育てられた15歳のウィリアムは、4年前、家出した姉が残していったロック・ミュージックのレコードを聴くうちに、ロックの世界にのめり込んでいた。学校新聞で書いた記事が、伝説的な音楽ライターのレスターの目にとまり、ローリング・ストーン誌での仕事をもらう。それはブレイク寸前の人気ロックバンド、スウィートウォーターのツアーに同行取材することだった。そして、スウィートウォーターを取り巻く女性たちの中に、ひときわ輝く少女、ペニー・レインと出会い、ウィリアムは恋に落ちるが。
 15歳からローリング・ストーン誌のジャーナリストとして活躍したキャメロン・クロウ監督の半自伝的ストーリー。素晴らしい要素は沢山あるけど、開巻一番、お洒落なオープニングから一瞬にして世界に引き込まれた2時間でした。素晴らしい70年代の音楽、人気者であるロックスターの普通の苦悩や裏側の顔、自分は知らないはずのなのに懐かしさがこみ上げてくる70年代。どこを切り取っても、何度でもかみ締めたいほろ苦さでいっぱいの一本です。主演のパトリック・フュジット、ケイト・ハドソンの初々しく、瑞々しい魅力もこの上なく。


アパートメント
L' Appartement
監督・脚本:ジル・ミモーニ
出演:ヴァンサン・カッセル、ロマーヌ・ボーランジェ、モニカ・ベルッチ、ジャン=フィリップ・エコフェ
1996年フランス+イタリア+スペイン/111分/配給:エース・ピクチャーズ

 ニューヨークでビジネスマンとして成功したマックスは、美しい婚約者の女性もいる幸せの只中で、パリに帰ってきた。ある日、レストランで商談を進めていると、そこでかつての恋人で、突如として彼の前から消えてしまった女性、リザの後姿を見つける。彼女が使っていた公衆電話には、ホテルの鍵が残されており、その鍵を使って入った部屋でマックスは手掛かりを掴み、あるアパートメントの一室を探し当てる。そこにはリザが住んでいるものと思われたが、彼の前に姿を現したのは、リザとはまったく別人の女性だったが、彼女もまた、リザという名前だった。
 パリの街を舞台に繰り広げられる青春群像劇。リメイク版の『ホワイト・ライズ』を先に観て、それからこちらを見たんですが、あちらはかなり細かいところまでオリジナルに忠実だったんですねぇー。恋愛劇であると同時に、一種のミステリーでもあり、最後に謎が解かれていく様もなかなかお見事ではある。ちゃんとつじつまが合ってるしね。それに、こちらのほうが古いにも関わらず、結末は現代的というか、いい意味でハリウッド的でないし、後味の悪さはあるが、こちらのほうが現実なのかもしれない。ただ、ちょっと理解できない部分もなきにしもあらずだが。


アバウト・ア・ボーイ
About a Boy
監督・脚本:ポール・ウェイツ、クリス・ウェイツ
出演:ヒュー・グラント、ニコラス・ホルト、トニ・コレット、レイチェル・ワイズ
2002年アメリカ/115分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/aboutaboy/ チラシ 12

 親の遺産で働かずに暮らす、気軽な38才の独身男ウィル。鬱病の母親を抱え、学校ではいじめにあいながらも健気に母親を想う、母子家庭育ちの12才のマーカス。ウィルがナンパ目的でシングル・マザーの集会に忍び込んだところから、2人は知り合いに。母親の助けになる人を探していたマーカスはウィルに白羽の矢を立てる。こうしてマーカスはウィルの家に通うようになり、2人には次第に友情に似たものが芽生えていくのだが…。
 30代の独身男の赤裸々な本音を綴ったニック・ホーンビィ原作小説を映画化。男性版「ブリジット・ジョーンズの日記」と呼ばれているらしいけど(製作スタッフが同じ)、僕はこちらのほうが好きかも。「ブリジット〜」も良かったけれど、こちらのほうがより普遍的じゃないかな、って気がしました。つまり一応、男性向けとはなっているけど、男女どちらでも楽しめるような気がしたんですが。ウィルが冒頭で独白しているように、現代はある程度恵まれて生活していれば、人と関わらずに生きていけてしまう世界です。それで自分の好きなことをしていれば、それで気持ちが良い毎日が送れるかもしれません。だけど、本当はそうじゃない。気がつくと寂しさがあったり、そうやって自分の好きなことだけやって自分一人を満足させていても、満足するのはあくまで自分だけ。何か満たされないものが心の中に残る。人は人と支えあってこそ、誰かがいて、自分がいて、それでこそ自分が満たされていく。そんな当たり前のことを気付かせてくれる映画です。当たり前だけど、ともすれば誰もが陥ってしまいそうな自己満足、自己中心の世界に浸ったとき、この映画を観るとちょっと共感できるかもしれません。別に、それがいけないと言ってるわけではありません。押し付けているわけでもありません。でも、ちょっと考えてみれば、そういうことってあるよね、ってことを言ってるんだと思います。役者たちもとてもはまっていて、楽しめる映画でした。ハラハラしたり、ワクワクしたりする類の映画ではないけれど、心温まるストーリー。おかげでヒットはしていませんが、良い映画とはえてしてそういうもので…。そう、これはとても良い映画だと思いました。


アビエイター
The Aviator
監督:マーティン・スコセッシ 脚本:ジョン・ローガン 撮影:ロバート・リチャードソン 音楽:ハワード・ショア
出演:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ブランシェット、ケイト・ベッキンセイル、ジョン・C・ライリー、ジュード・ロウ、アレック・ボールドウィン、イアン・ホルム
2004年アメリカ/170分/配給:松竹、日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.aviator-movie.jp/ チラシ 12

 親の莫大な遺産を継ぎ、単身ハリウッドに乗り込んだ富豪の青年ハワード・ヒューズは、1927年、400万ドルを投じて製作した映画『地獄の天使』で一躍時の人となる。やがて人気女優キャサリン・ヘップバーンと恋に落ち、話題作を次々送り出すヒューズは、さらに飛行機会社を設立。自ら設計し、操縦桿を握って世界最速の飛行機作りに情熱を燃やすが……。
 1930〜40年代、第1次黄金期のハリウッドで映画と飛行機作りに情熱を燃やした伝説的人物ハワード・ヒューズの激動の半生を描いたドラマ。ディカプリオが長年温めてきた企画で、彼自身が主演のほか、初めてのプロデューサーを兼任。上映時間も含め、かなり力の入った大作で各方面からも絶賛。でも、我々日本人にはとんと馴染みのないハワード・ヒューズという人物を知るにはいいですが、その伝記的な要素をなぞっていくだけで、なかなか感情移入ができないというか。物語はどんどん進むんだけど、彼が何故そこまで執拗にこだわるのか? 例えば極度の潔癖症であることがオープニングから伺えるわけだが、それが何かドラマチックな効果を生むわけでもなく、つまりは「ヒューズはそういう人でした」としか受け取れず(こっちが鈍感なのかもしれないが)、彼が何をもって何を目指していたのかが曖昧な気がして、それが後を引いた感じです。撮影やら音楽やら、素晴らしい要素はたくさんあって、3時間近い長さも観ている間は感じさせないだけの力作ではあるんですが、もうちょいエモーショナルなドラマがあってほしかったというか。女優との恋があってもそれがメインで盛り上がるわけでもなく、あくまでヒューズその人が中心で添え物のようでしかなく(出番も少ない)、逆にいえばほぼ全編出ずっぱりなディカプリオの独壇場で、3時間をひとりでぐいぐい引っ張っていく彼の演技はスゴイ。


アビス
The Abyss
監督・脚本:ジェームズ・キャメロン
出演:エド・ハリス、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、マイケル・ビーン
1993年アメリカ(オリジナル:1989年)/171分(オリジナル:140分)/配給:20世紀フォックス

 アメリカの原子力潜水艦が原因不明の事故で沈没した。現場に最も近い位置にいた、民間の石油採掘の深海作業チームが、軍の依頼によって捜索の手伝いをすることになるのだが・・・。
 アクション、SF、ロマンスとあらゆる娯楽要素がつまった超大作で、海底基地の建造や水中撮影、SFXに巨額の製作費と膨大な製作日数を費やしたという。のちに未公開シーンを30分追加したものが「完全版」としてビデオリリース。僕が観たのもこちらです。現代の超大作エンターテインメントの先駆けのような作品ですが、しかし、それらのものとは一線を画する何かがあるような気もします。それは先駆者としてのこだわりといったようなものでしょうか・・・。とにかく、水中シーンのリアリティ満点な映像は見物。これだけでも面白いです。そして意外と少ない(と思う)深海を舞台にしたSFというものは。そう、これは「SF」なんですよね。ネタバレせずに語るのは難しいですが、僕はこの映画を観て、果てない宇宙もいいけれど、内なる海の底もまた、より人間を惹き付けるに寄せ付けない未知なる世界だということを感じました。いろんな要素を詰め込みすぎな感はありますが、遭遇ものは好きなので。見ごたえもあり、映画館で鑑賞したかったです。


アポロ13
Apolo13
監督:ロン・ハワード
出演:トム・ハンクス、ケビン・ベーコン、ゲイリー・シニーズ、エド・ハリス
1995年アメリカ/140分/配給:UIP

 1970年、月へ向けて打ち上げられたアポロ13号に爆発事故が発生し、絶望的状況に陥ったという実在した話を基にして作られた映画。 とにかく宇宙飛行のシーンはリアリティ満点で、無重力状態が実に本物っぽい。…と思ったら、実際にジャンボジェットの自由落下を用いた無重力状態の中で撮影したそうで、なるほど納得。ドラマとしても、徐々に盛り上がっていって無事に解決するかどうか、わかっていながらも、ついつい引き込まれてしまいました。実話がもとになっているだけあって(?)、全体的にしっかりしたつくりで手堅くみせてくれる映画です。


アマロ神父の罪
El Crimen del Padre Amaro
監督:カルロス・カレラ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、アナ・クラウディア・タランコン、サンチョ・グラシア、ダミアン・アルカザール
2002年メキシコ/118分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.spe.co.jp/movie/worldcinema/amaro/ チラシ 1

 メキシコ、アルダマ地方。将来を嘱望され、才気に溢れる若き神父アマロが、この村の教会に修行のため赴任する。ここで様々なことを学び、いずれはローマにも渡るだろうと言われていたアマロだったが、彼が師事することになったベニト神父の隠された秘密を知ってしまい、さらに教会の腐敗した実態を目の当たりにすることになる。そしてまた、彼自身も、美しく信仰心の篤いアメリアと出会い、禁じられた愛の道へ踏み出してしまう……。
 本国メキシコでは、興行記録を塗り替える大ヒット。また、そのセンセーショナルな内容から多くの批判も受けた問題作。アメリカなどでも批判は起こったそうだけれど、それはあくまでキリスト教の色濃い国柄であるからで、無宗教国家の日本および日本人では、その衝撃を実感することはまずないでしょう。アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞にダブル・ノミネートされているだけあり、質は高いんだけど、やっぱり描いている内容が挑発的なことでもあるからだと思うんで、その意図が伝わらない日本では、「どうしてそこまで?」って感じだろうとは思います。だからレイトショー公開にしかならないし…。でも、宗教的な衝撃度が低くても、人間の欲望や野心、愚かさを描いているという点では、十分観られる人間ドラマだと思いました。いかに聖職者といえども、所詮は人間。悲しいかな、人間は同じ過ちを繰り返しているということでしょうか……。場所や時代は違えど、人間なんてそんなに変わらない。主演のガエル・ガルシア・ベルナルは個人的にも注目していますが、『アモーレス・ぺロス』『天国の口、終りの楽園。』に比べれば、抑えた表情や演技が必要な役なので、彼独特のみずみずしさと若さがあまり感じられなかったかも(それは作品自体にも言えることかもしれませんが)。ただ、個人的にはヒロインを演じるアナ・クラウディア・タランコンのかわいさに120点! いや、マジでイイ! 真面目なドラマなのに、彼女を観ていてちょっとドキドキ(笑)。本格的映画デビューは初というけれど、これからにも期待。


アメリ
Le Fabuleux Destin D'Amelie Poulain
監督・脚本:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソビッツ
2001年フランス/140分/配給:アルバトロス
公式サイト http://www.amelie-movie.com/ チラシ 12

 「デリカテッセン」「ロスト・チルドレン」「エイリアン4」でお馴染みのジャン=ピエール・ジュネ最新作。空想の中で遊ぶことが好きな少女アメリ。彼女ははそのまま大人になり、モンマルトルのカフェで働いている。ふとしたことがきっかけで人を幸せにしてあげる悪戯を始めるアメリだが、そんな時、偶然であった青年ニノに恋をする。現実に直面することが苦手なアメリはどうしていいのかわからずに…。
 この映画のキャッチコピーはずばり「幸せになる」。観てみると…う〜ん、確かに幸せ♪ なんか“素敵な映画”に出会ったなぁ…という感じです。とってもお茶目で、だけどちょっぴり悲しいのはなんでだろう。この映画、アメリの茶目っ気たっぷりな悪戯で、笑えるシーンが結構たくさんあるのだけど、悲しい少女時代と家庭環境のおかげで現実に直面できない大人になってしまったアメリというのは、よく考えてみると実は少し切なくも感じる。好きな人に面と向かうことができない彼女は悪戯することしかできなくて。でも、それを周りで見守る温かい隣人がいてくれたりするのがとっても優しいですね。だからやっぱりこの映画は「幸せ」な映画で、2時間たっぷりとその気分を味わえます。
 全編を通してデジタル処理された色彩感覚やアメリの部屋、ファッションもとってもお洒落で効果的だし、なんだかすべての画面が凝りにこってつくられた完成度の高さです。どのシーンを切り取っても、それが一枚の写真になるような素晴らしさ。さらにオドレイ・トトゥが、かわいらしい容姿と演技で少女っぽさ(マチュー・カソビッツのほうもとても少年っぽさがでててよかった)を醸し出しているのも、とっても印象的。このキャスティングは大成功。さらにアコーディオンやおもちゃのヴァイオリンをメインにしたBGMも素敵で、まさに“大人のためのメルヘン”って感じだね(サントラは即購入です)。
 それから最後に、こういう映画が似合うのはやはり“パリ”でしかないんだなぁ・・と、あらためて思うのでした。


アメリカン・ビューティー
American Beauty
監督:サム・メンデス
出演:ケビン・スペイシー、アネット・ベニング、ゾーラ・バーチ、ウェス・ベントリー、ミーナ・スヴァーリ、クリス・クーパー
1999年アメリカ/117分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/americanbeauty/

 冷めた夫婦と反発する娘のいる家庭。それでもまだ普通だった家庭が、ちょっとしたことの重なりから崩壊してゆくドラマ。登場人物たちが終幕に向かって徐々に壊れていく様が、実に自然な流れにのって描かれているところが非常に上手いと思いました。この映画のみるべきところは、まさにそこにあるでしょう。最初のうちは、コミカルな部分もいくつかあって、ちょっと笑える部分もありましたが、そこから何かが段々とおかしくなっていく…。役者たちは誰にしても上手いし、文句のつけようはないですが、個人的にはあんまり感じ入るものがなかったのも事実。第72回アカデミー賞作品賞受賞作ですが、近年ではもっともアカデミー賞らしからぬ作品だと思うなぁ。


アモーレス・ペロス
Amores Perros
監督・製作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演:エミリオ・エチェバリア、ガエル・ガルシア・ベルナル、ゴヤ・トレド、バネッサ・バウチェ
1999年メキシコ/153分/配給:東京テアトル
公式サイト http://www.cinemabox.com/amoresperros/

 兄嫁に恋する青年オクタビオ。不倫相手と新しい生活を始めたばかりの売れっ子モデル、バレリア。妻と娘を捨てて反政府運動に身を投じ、今は殺し屋となって生活している初老の男、エル・チーボ。なんのつながりもない3人が、ひとつ交差点の交通事故現場で居合わせたとき、運命は交える。「オクタビオとスサナ」「ダニエルとバレリア」「エル・チーボとマリ」の3部構成で織り成すオムニバスドラマ。
 監督はこれが処女作だというけれど、これだけの物語を織り成す構成力、演出力は抜きん出ていると思います。2時間半という長尺なんですが、最初の「オクタビオとスサナ」だけでも、ひとつの映画として鑑賞に堪える作品だと思います。それぞれ身分も暮らしも全く異なる人々だけれど、共通しているのは、愛に飢え、残酷な現実に苦しんでいるということ。そのことを、それぞれの物語で説得力をもって描いているのに、加えて、その3つのストーリーが絶妙にクロスオーバーしているという脚本の凄さ。さらに役者たちの名演も見逃せません。暴力的で痛ましく、それでいて切ない。タイトルの「アモーレス・ぺロス」とは、「愛を叫んだ犬」というような意味だそうですが、人間も孤独な犬と同じなのです。雑踏の中に生きる犬と人間。そして、この3つの物語はどれも犬が重要な役割を果たしています。特にオクタビオからエル・チーボへと渡る黒犬コフィ。彼もまた、この映画において一人の主人公といえるのではないかと。個人的には、中盤の「ダニエルとバレリア」がちょっとだるいんですけど、2時間半、どっぷりと浸れる傑作です。


あらしのよるに
Stormy Night
監督・脚本:杉井ギサブロー 原作・脚本:きむらゆういち 音楽:篠原敬介
出演:中村獅童、成宮寛貴、竹内力、山寺宏一、林家正蔵、KABA.ちゃん
2005年日本/107分/配給:東宝
公式サイト http://arayoru.com/

 突然の嵐に襲われ山小屋に避難したヤギのメイだが、しばらくするとそこへもう1匹の動物が雨宿りにやってくる。暗闇の中で互いの姿が見えないが、言葉を交わすうちに2匹のあいだには友情が芽生える。翌日に再会を約束した2匹だが、メイの前に現れたのは、天敵のオオカミだった……。
 食う者と食われる者という相容れない関係にあるオオカミとヤギの間に芽生える友情を描いたベストセラー絵本のアニメーション映画化。……という前触れだったので、個人的にもあくまで(具体的にではないが漠然と)"友情"物語を期待していたのだが、これはもはや友情など飛び越えた極限の"愛"に他ならない。そう、種族や性別すら超えた愛。彼を生かすためなら自らを殺そうとする自己犠牲の愛や、互いの種族から追われることになって添い遂げられぬなら来世でもめぐり合おうと心中しちゃう(別にそういう結末なわけではありません)ような、そんなガブとメイの関係は、もはや"愛"以外の何者でもない。しかもこの2匹はオス同士ですが、メイの声が成宮寛貴なのには非常に納得しました(笑)。一部の方々には大受けしそうな……。まあ、絵がとてもかわいいので、それだけでもOKな作品ですけど、何度もクライマックスのような場面があって、ちょっと長かったということと、上記のような内容で本当にお子様にお見せしていいんでしょうか? という心配が(笑)。
☆☆★★★


アリーテ姫
Princess Arete
監督・脚本:片渕須直
声の出演:桑島法子、小山剛志、高山みなみ、沼田祐介、こおろぎさとみ、佐々木優子
2001年日本/115分/配給:オメガ・エンタテインメント
公式サイト http://www.arete.jp/arete/ チラシ 1

 「魔女の宅急便」の演出補などで知られる片渕須直初監督作品で、ダイアナ・コールスの「アリーテ姫の冒険」をアニメーション映画化。
 お城の塔に閉じこもり、人々の前に姿を表すことが許されないアリーテ姫。彼女は、やがてくる婚礼の時まで、清らかな身でいることを使命づけられていた。しかし、抜け道を通って、たびたび城下町を見て回ったアリーテ姫は、様々なものを生み出す職人達をみて、人の手が生み出すことのできる大きさを知り、自分もただ日々を暮らすだけではなく、この手で何かを生み出すことができるのか、思い悩む。そのころ、城にはアリーテ姫の婿になろうという男たちが次々と凱旋する。アリーテ姫の婿になる条件は古代の魔法使い達の遺産を持ち帰ることで、各地を旅して古代の宝を持ち帰った男達が城に集まっていたが・・・。
 監督・プロデューサーがジブリ作品に関わった人なので、そういうものかと思いきや、アニメーション制作はSTUDIO4℃。STUDIO4℃といえば、何かと個性的でアーティスティックな作品が多い印象があるので、今回のような童話的なものは意外な気もしました(個人的な思いこみだけかもしれないですけど)。が、見るには、別にジブリだとかSTUDIO4℃とか、そんなことは関係ないです。むしろ、画面的に新しいものよりも、作品の雰囲気からして、懐かしい感じが画面から伝わってきた気がします。内容の方は、僕はもっと冒険活劇なものを期待していたのですが、意外とそうでもなかったです。なので、前半部分など、割とじれったい感じもして。もっと動き回ってくれても良かったかな、と思うのですが、結構“考え込む”ところが大きいです。「人のこころの強さ」「自分の出来ることはなにか」。そんなものがテーマになっているので、まぁ、当然かもしれませんが。ですから、あまりおもしろ楽しいお話を期待していくよりも、じっくり腰を据えて、落ち着いて見るようにしたほうが楽しめるかもしれません。アリーテ姫になって、一緒に考えてみましょう。・・・なんてね。最後のほうでアリーテ姫が本格的に動きだすと、ちょっとワクワクして面白いです。僕はそのへんを期待してたからかな。なんにしても、アリーテ姫にはがんばってほしくなる映画でした。贅沢を言えば、もっとアリーテの活躍が見たかったとも思うのですが。
 音楽・千住明、主題歌・大貫妙子ということで、音楽面もばっちり良し。サントラ買おうかな・・。


アリス
Alice
監督・脚本:ヤン・シュワンクマイエル
出演:クリスティーナ・コホトヴァ
1998年スイス/85分/配給:ヘラルド・エース

 ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」をチェコの人形アニメーション作家ヤン・シュワンクマイエルが映画化。主人公アリスは人間の女の子が演じているが、それ以外は全て人形。シュワンクマイエルにしては毒が薄め……と感じるのは、他の短編、長編含めほとんどのシュワンクマイエル作を観たあとだからか。一般の人がいきなりこれを観たら、やはり相当ダークだろう。物語はわりと原作に忠実(?)だが、繰り返される現実的な“音”や人形たちの造形や仕草は、とてもかわいらしい人形劇とはほど遠く、世界で愛される児童文学を、不気味で不安が漂う世界に変えてしまう手腕と感性は、唯一にして無二だろう。この世界観が病みつきになってしまうのだ。シュワンクマイエルの入門編としてはちょうど良い作品ではないだろうか。


ある子供
L' Enfan
監督・製作・脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:ジェレミー・レニエ、デボラ・フランソワ、ジェレミー・スガール
2005年ベルギー+フランス/95分/配給:ビターズ・エンド
公式サイト http://www.bitters.co.jp/kodomo/

 20歳のブリュノは仕事にも就かず、小さな盗みを働いては小銭を稼ぐその日暮らしの日々を送っている。18歳の恋人ソニアに子どもができ、出産して病院から戻ってくるが、子どもが高い金で取引されているとしったブリュノは、ソニアに黙って子どもを売ってしまう。
 『ロゼッタ』でカンヌ映画祭パルムドール、『ある息子』でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞したダルデンヌ兄弟が、再びパルムドールを受賞した人間ドラマ。タイトルで指摘されている子どもというのは、登場する赤ちゃんのことかと思っていたら、なんのことない主人公ブリュノ自身のことだったのだなと。彼は20歳で年齢も外見も大人だが、中身が子どもなのだ。命の重さもわからず、恋人を傷つけることで自らが否定されることも知らず……。自分中心で人のことなどなにもわかっていなかった男が、痛みを知って生まれ変わる。いや、彼はいまやっと「生まれた」んだと。子どもから一歩成長した人として、大人として。そんな題材を相変わらず音楽も一切使わない淡々とした手法で描いているわけで、テーマはシンプルなんだけど、その演出ゆえになぜか突き刺さる痛さがある映画なわけです。
☆☆★★★


アルマゲドン
Armageddon
監督・製作:マイケル・ベイ 製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ブルース・ウィリス、ベン・アフレックス、リヴ・タイラー、スティーブ・ブシェミ、ピーター・ストーメア、ビリー・ボブ・ソートン
1998年アメリカ/150分/配給:ブエナ・ビスタ

 地球に向かって飛来する小惑星が発見された。その大きさはテキサス州と同程度で、この小惑星が落下すれば地球人類は間違いなく絶滅する。そんな絶望的状況を打開するには、小惑星に核爆弾を埋め込んで内部から爆破するしかない。石油採掘者で、掘削のスペシャリストであるハリーが見出され、人類の存亡は彼ら14人の手にゆだねられた。巨大スケールパニックアクションの大ヒット作。なにしろ冒頭の隕石群落下からド派手。もうとにかく全てのシーンに金かかってます、という感じ。僕は普段派手めな映画はあまり見ないのですが、こういうのばっかりだと食傷気味になってしまうのはわかります。だから、たまにはいいんじゃないでしょうか。感動させるツボも抑えてる。ハラハラするシーンもある。これ以上にない娯楽作品でしょう。この手の映画の源流ともいえるインデペンデンス・デイよりは、よかったですね。主人公がはっきりしていたから。SFXに関してもいうことはないでしょう。隕石落下のシーンとかすごいですね、ホントに。
 それにしても批判の多かった映画でもある。確かに批判する人たちの言いたいことはわかるが、もうちょっと言い方が他にあるんでないの? と思う。


アレキサンダー
Alexander
監督・脚本:オリバー・ストーン
出演:コリン・ファレル、アンジェリーナ・ジョリー、ヴァル・キリマー、アンソニー・ホプキンス、ジャレット・レト、ロザリオ・ドーソン
2004年アメリカ/173分/配給:松竹、日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.alexander-movie.jp/ チラシ 12

 紀元前356年、マケドニア王フィリッポスとその妻オリンピアスの間に息子アレキサンダーが生まれる。野心的なオリンピアスと高慢で好色なフィリッポスはことあるごとに対立し、オリンピアスは自らの野望をアレキサンダーに注ぎ込んでいく。そして紀元前336年、フィリッポスが何者かによって暗殺され、アレキサンダーは若干20歳で王として即位するが……。
 誰もがアレキサンダー大王というその名を知っていても、意外と知られていないその32年間の激動の人生を、『プラトーン』『JFK』のオリバー・ストーンが巨費を投じて描いた一大スペクタクル。『グラディエイター』以降の歴史大作ブームですっかり目が肥えてしまっているけれども、やはり何十万という軍勢が入り乱れる合戦シーンの迫力には圧倒されるものがある。ただ、それは良いにしても、結局のところアレキサンダーが目指したもの……目指した理由はなんだったのか? その動機がいまいち不明瞭なままに終わった気がする。父と母への複雑な感情とトラウマというのはわかったが、それがどのようにして異文化への憧憬に繋がっていったのか……。そんへんがいまいちわからないままに物語はどんどん進んでいってしまった気が。結局のところ、両親に恵まれず、ひとりの友人のみに安息を見出し、神話の英雄への憧れが彼をあそこまで駆り立てたということか。あくなき探求者であったアレキサンダーへの尊敬の念は十分に感じ取れる映画だったが、だとすれば、その激しい指導者へ従うことに疲れた臣下たちによって引き起こされる終幕が切ない。まあ、それが真実だということであるなら、仕方のないことなんだけど。っていうか、「2300年の時を経て明かされる史上最大のミステリー」っていう宣伝文句はミスリードだろ……これは。


アンジェラの灰
Angela's Ashes
監督・脚本:アラン・パーカー 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:エミリー・ワトソン、ロバート・カーライル
1999年アメリカ+アイルランド/145分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.asmik-ace.com/Angela/

 1930年代のアメリカ。アイスランドから移民してきたアンジェラの一家だが、夫マラキは仕事にありつけず、失業手当も酒に変えてしまう有様。せっかく職についても長続きせずに、一家は貧困にあえぐ。生まれてくる命も消えてしまう・・。一家は再びアイルランドに戻るが、そこでも暖かな暮らしはなかった。長男フランクは、妹、弟たちを失いながらも、やがて自らが成長して働きに出るようになる。
 大恐慌の時代の、貧しい人々の生活をこれでもかというくらいに描いています。父マラキは、アルコール中毒でろくに仕事もできないし、せっかく手に入った金もお酒に変えてしまう。これだけ見ると、とんでもない父親です。でも子供たちは、父を憎めない。ちょっと気位が高くて、面白い話を聞かせてくれる父・・・。長男フランクの視点で描かれているわけですが、彼はどんなに貧しくても家族の愛情をどうしても願っている。普通、あそこまで生活が苦しいと、それどころでもない気がするのですが、フランクのそんな性格が、この映画のテーマなのかな。ものすごく重いんだけど・・・。甲斐性なしな父親マラキが、妙に不思議な印象があるのも、そこはロバート・カーライルの持ち味だと思います。タイトルから当然、推察されるとおり、全編を通して灰色がかった画面が、より一層、シビアさを演出してます。


アンダーワールド
Underworld
監督・原案・脚本:レン・ワイズマン 脚本・原案:ダニー・マクブライト
出演:ケイト・ベッキンセイル、スコット・スピードマン、シェーン・ブローリー、マイケル・シーン、ビル・ナイ
2003年アメリカ/121分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.underworld.jp/

 何世紀にも渡って繰り広げられてきた吸血鬼<ヴァンパイア>と狼男<ライカン>の種族をかけた闘い。吸血鬼の女戦士セリーンは、ある時、ライカンたちが一人の人間を追っている現場に出くわす。その人間、マイケルには、ある秘密が隠されており、ライカンたちはそれを狙っていたのだが……。
 ケイト・ベッキンセイルが今までのイメージからは想像できない役柄に挑戦しているので、興味をそそられたけど、観てみると全然違和感なし。とてもクールで似合っていました。アクションもそこそこ、ストーリーもオリジナルでわりと練りこまれてる感じ。敵と味方の善悪がいい具合に織り交ざってて、最初のヴァンパイアVSライカンという単純な構図が徐々に変化していくのは良かったと思いました。ひたすらダークな世界観もわりと好感もてるし、思っていた以上に楽しめました。ただ、ちょっと何度か同じようなシーンを繰り返すところが目に付いたので、カメラワークとか構図とか、もう一工夫してくれると楽しいかも。ケイト・ベッキンセイルのアクションもきまっていますけど、一番盛り上がるところをご老体にもっていかれちゃったのは、ちょっと残念かなぁ。まあ、アメリカではスマッシュヒットして、「2」「3」の製作も決定しているので、そちらに期待。あと、ライカンのほうは狼に変身することでパワーアップするのに、ヴァンパイアに関してはそういう肉体的な特徴が見当たらず――八重歯(笑)と瞳が変化することくらい――こっちも翼が生えるくらいのことを期待してたんですが……。それに「ライカン」って表現はどうもねー。「ライカン」だけだと「狼」になってしまう。「狼男」なら、「ワーウルフ」とかのほうが良かった気も(台詞にチラッとでましたが)。「ライカンスロープ」だと病気になっちゃうしねぇ。ともかく、続編を楽しみに待つとしましょう。


アンタッチャブル
The Untouchables
監督:ブライアン・デ・パルマ 脚本:デビット・マメット 音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ケビン・コスナー、ショーン・コネリー、アンディ・ガルシア、チャールズ・マーティン・スミス、ロバート・デ・ニーロ
1987年アメリカ/121分/配給:

 1930年代のシカゴ。裏社会を牛耳る暗黒街のボス、アル・カポネは、禁酒法が施行された後も酒の密輸などで私服を肥やしている。そんな彼を取り締まるため、財務省の捜査官エリオット・ネスがシカゴ警察に派遣されるが、警察は既に腐敗しきっており、ネスは唯一信頼できる老警官マローンを頼り、独自の捜査チームを結成する。
 1959〜63年に放映された名作テレビドラマを映画化。エンニオ・モリコーネの音楽が印象的に耳に残る。男の友情や信念を丹念に描きつつも、エンターテインメントとして楽しめる一作。コネリーの渋みもデ・ニーロの恐さもよく、キャストが効いている。


アンナとロッテ
De Tweeling
監督:ベン・ソムボハート
出演:ナディヤ・ウール、テクラ・ルーテン、フドゥルン・オクラス、エレン・フォーヘル
2002年オランダ/137分/配給:ファイン・フィルムズ、ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.anna-lotte.com/ チラシ 1

 1926年、ドイツに生まれた双子の姉妹アンナとロッテは、仲睦まじく暮らしていたが、両親の死によって別々の家に引き取られる。アンナはドイツの貧しい農家で学校に通うことも許されず、一方、ロッテはオランダの裕福な家の養女として何不自由なく育つ。時は流れて10年後、メイドの職を得て自立したアンナと、大学生として勉学に励むロッテは再会を果たすが、世界には戦争の暗い影が迫っていた……。
 ナチスが台頭するドイツと、そのナチスによって占領されたオランダに別れて暮らすことになった双子の姉妹の苦悩と悲劇を描いた大河ドラマで、2004年アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。少女時代に始まり、青年期を経て老女になるまでの2人の人生。何かちぃっとでもどこかで違っていたら、全く違う人生を歩んでいたかもしれない2人……。紛れもなく抗いようのない運命に流され、それでも自らの幸せを守ろうとした2人の行く末……。2人は彼女たち自身には何も問題はないのに、周囲の人間たちや戦争というあまりに大きな力によって戻れないところまで行ってしまった。そのどうしようもない状況の中で、それでもなんとか生きようともがく2人の姿が感動を誘う。ちょっと全体的に大仰な気もしなくもないんだけど(上映時間も2時間17分!)、下手をすれば“お涙頂戴”なだけの映画になりそうなところを、非常に真面目に、真剣に作っている感じがして良かったと思う。まあ、だからちょっとお堅い感じもしなくはないけど。映画よりもむしろ原作がとても読みたくなった一作でした。話はとても良いから。


アンブレイカブル
Unbreakable
監督・製作・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ブルース・ウィリス、サミュエル・L・ジャクソン
2000年アメリカ/107分/配給:ブエナ・ビスタ
公式サイト http://www.movies.co.jp/unbreakable/

 フィラデルフィアで列車事故が起きた。死者131名を出す大惨事となったが、たった1人だけ生存者がいた。しかも彼はまったくの無傷で・・・。その生存者―デヴィッド・ダン―は、何故自分ひとりが助かったのか、自分でもわからなかった。そんな彼のもとに、ある日、不可解なメッセージが届く。デヴィッドは、そのメッセージの差出人イライジャに会うのだが・・・。
 「シックスセンス」で観客を驚かせたシャマラン監督の第二作というだけあって、やはり、どうしても「シックスセンス」と比べてしまう。今回も、最後は秘密に・・・ということだから、ラストについては触れられないが。この映画は、全体的にもっている雰囲気はいいのだけど、それが災いして、人によってはかなり退屈になりかねないんじゃないかと。最初から“何故デヴィッドは助かったのか”という謎が付きまとい、最後にそれが明かされるから・・・と期待してずっと見ているんだけど、ラストはあれで終わりかい? ちょっとそりゃないぜ〜…って思いもしなくはないですよ。重厚な雰囲気も、ストーリーが伴ってこそ、さらなる効果があると思うのですが、いかんせん、雰囲気のほうが目立っていた・・・という印象が残ってしまった作品です。ブルース・ウィリスは良かったですね。この作品にはあってると思います。さて、「シックスセンス」「アンブレイカブル」ときたシャマラン監督。すっかり“ラストのオチがどうなってるのかサスペンス”な映画を撮る監督というイメージが板についたけど、次回作以降、どのような作品を見せてくれるか楽しみなところ。ところで、今回も、監督、チョイ役ででてませんでした?