家路
Je Rentre a la Maison
監督・脚本:マノエル・デ・オリヴェイラ
出演:ミシェル・ピコリ、ジョン・マルコヴィッチ、カトリーヌ・ドヌーヴ
2001年ポルトガル+フランス/90分/配給:アルシネテラン  チラシ 1

 舞台と映画を中心に活躍するベテラン俳優ジルベール・ヴァランス。今もイヨネスコの“瀕死の王”の舞台に出演していた。しかし、その舞台公演のさなか、彼の妻と娘夫婦が交通事故で亡くなったとの知らせが入る。残された孫のセルジュとの2人きりの生活が突如として始まった…。2人きりといっても、頼りがいのある家政婦もいる。セルジュは優しくてかわいい。ささやかだけど幸せな生活だ。そんなことを思うジルベール…。
 現役映画監督で最長老という93歳のオリヴェイラ監督が描く人生の哀歓。ひたすらに淡々と静かに進む物語だけれど、不思議と退屈感はあまり感じませんでした。劇中劇の部分がちょっと長くて気が緩んだけど(少しウトウトしてしまった…)、それ以外は、なんとも言えぬゆったりとした感覚が心地よいです。ただ、やっぱりこの映画を理解するには自分は若すぎるんだろうなと思いました。人生の晩年に差しかかった主人公に突然訪れた不幸。だけど、残された孫とのささやかな幸せ。そんな悲喜交々を主人公の日常の中で描いていく物語の、どこまでを自分は汲み取ることができただろうか…と我ながらに思います。でも、フィルムからはこれ以上にない落ち着きのようなものが感じられて、静かに繰り返される日常の風景もゆったりしていて良いです。例えば、主人公が毎日通うカフェのちょっとした人物の動きなんかも、当たり前にありそうでいて面白いんですよね。あと、この映画の舞台がパリで、パリのあちこちが映像の中に登場します。特にこれといって盛り上がるわけでもないですが、ただそこにあるパリ…という感じの飾らなさは、パリにいったことがある人なら懐かしく思うかも。僕もその部分がちょっと楽しかったり。
 出番は少ないけど、孫のセルジュがすごくいいです。特にラストシーンのセルジュ。この映画って、見方によれば、悲しくも見える映画なんじゃないかなぁ…と思うんですよね。ただ、あからさまな悲壮感はこれっぽっちもない。我が人生を思う主人公に対して、あくまで観客がどう受け取るか。本当にそんな感じですね。そういう押し付けがましさもないところから、90歳を過ぎた監督の、人生を知り尽くした落ち着き、感慨深さ、優しい視点……そんなものを感じる映画です。


イギリスから来た男
The Limey
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:テレンス・スタンプ、ピーター・フォンダ
1999年アメリカ/88分/配給:ザナドゥー

 娘が謎の事故死を遂げたウィルソンは、事の真相を追ってアメリカに渡った。当時、娘がつきあっていたテリーが娘の死に関わっているとにらみ、復讐のため彼を追跡するが…。
 89分という短めの作品なんですが、全編に渡って、その巧みな編集に驚かされます。ただ会話を流すだけなら普通の場面なのに、様々な時間軸の場面を交錯させることで印象を残しています。その演出技法は素晴らしいですね。これは実際に観てみないとわからないでしょうから(まぁそれを言ったらなんでも観てみないとわからないけど…)、是非一見あれ。ストーリー自体はとてもシンプルなんですが、それを編集と演出だけでグイグイとひっぱっていってしまう力技(といっても、粗いのではなく、洗練された技)はお見事です。


イノセンス
Innocence: Ghost in the Shell 2
監督・脚本:押井守 原作:士郎正宗
声の出演:大塚明夫、田中敦子、山寺宏一、大木民夫、仲野裕、竹中直人
2004年日本/109分/配給:東宝
公式サイト http://www.innocence-movie.jp/ チラシ 12

 西暦2032年。愛玩用の少女型ロボットが所有者を殺害、逃走するという事件が発生。政府直属のテロ対策組織・公安9課の刑事バトーが捜査にあたる。謎のハッカーと思わしき人物の妨害を受けながらも、捜査を進めるバトーだが……。
 押井守9年ぶりの長編アニメーション監督作品で、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の続編。押井ファンの自分としては、もういろいろと語りたいことがいっぱいあって仕方ないんですが、ここでそれらを書いてもとめどなくなってしまうので、あえて簡単に済ませておきますが、まずはなんといっても映像が凄い。今までも押井作品は常に映像表現の最先端にいっていたけど、今回はこれまた凄い。とにかく、その映像だけで酔ってしまいそうなくらいで、全編どこを切り取っても凄くないところはないです。だから1回目は正直言って、映像を追いかけるのに精一杯。ただ、映像にこだわったぶん、ストーリーが小さくまとまってしまったような気がして、そこはちょっと不満ではありましたけど。また、相変わらず押井守独特の哲学性・作家性がふんだんにもりこまれて難易度が高いし、タイトルでは隠しているけどやっぱり続編だから、前作を観ていないと厳しいのでは?と思わなくもない。ですが、驚異的な映像と哲学性をはらんだ現代的なテーマを見事に融合させた上に、破綻なくストーリーを進行させる手腕はさすがだと思いますし、これまでの押井守の集大成的な味わいもする作品でした。なかなかわかりづらいから批判もそれなりにあるでしょうが、まぁ、是非その目で一度確かめていただきたい。そしてはまれば何度でも観られる作品だと思います。


イノセント・ボイス 12歳の戦場
Voces Inocentes
監督・製作・脚本:ルイス・マンドーキ 脚本:オスカー・トレス
出演:カルロス・パディジャ、レオノア・ヴァレラ、グスタボ・ムニオス、ダニエル・ヒメネス・カチョ
2004年メキシコ/112分/配給:アルバトロス
公式サイト http://www.innocent-voice.com/

 1980年、エルサルバドルでは、政府軍と反政府組織FMLNが激しい内戦下にあった。小さな町に住む11歳の少年チャバは、いなくなった父親の代わりに家族を支えようと日々を生きているが、12歳になった男子は政府軍に徴兵されてしまう。チャバにはあと1年しか残されていないが……。
 本作の脚本を書いたオスカー・トレスの自伝的物語。友達と戯れたり、あばら家のなかでも温かい家族の団欒があったり、少女との淡くて微笑ましい初恋があったり……しごく普通の11歳の少年として日々を過ごしている主人公チャバの生活が描かれる一方で、そんな平和な日常が突如として弾丸が飛び交う戦場にとってかわるという描写がたびたび登場することで、彼らの置かれた悲惨な現実を目の当たりにされる。いずれ政府軍になるならばゲリラに……と、意を決した少年たちに突きつけられるさらなる現実は、目を背けたくても背けることを許さない悲痛なもの。そこから逃げずにきちんと描いていることは、とても評価できると思う。それにしても、『メッセージ・イン・ア・ボトル』や『コール』の監督がこのような秀作を撮れるとは思わなかったが、ひとえに脚本のおかげなんだろうなぁ……と。一見の価値ありと断言できる秀作だけど、どこか今一歩の力強さが感じられないのもまた、監督の力量の限界か。
☆★★★★


イノセント・ボーイズ
The Dangerous Lives of Altar Boys
監督:ピーター・ケア 製作:ジョディ・フォスター
出演:エミール・ハーシュ、キーラン・カルキン、ジェナ・マローン、ジョディ・フォスター、ヴィンセント・ドノフリオ
2002年アメリカ/104分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.innocent-boys.jp/ チラシ 1

 31歳で癌のため世を去ったクリス・ファーマンの処女作にして遺作「放課後のギャング団」をジョディ・フォスター製作、出演で映画化。漫画を書くのが得意なフランシスは、知恵の働くティムとは親友同士。そこにウェイドとジョーイを加えた4人組は、厳格なカトリックの教えを説く学校に、持て余す若さで次々と悪さを働く。そんな彼らの敵は、校長のシスター・アサンブラ。フランシスは得意の漫画で、シスターを悪役にしたて、自分たちが正義のヒーローとなって彼女を倒すコミックを描くが、それが見つかってしまい停学処分に。その仕返しにと、ある計画を練るティムだが…。
 青春時代の世の中に対する不満やいらつきをもった少年たちが、ひとつの事件を通して成長する姿を描く…故に「スタント・バイ・ミー」とも比較されますが。なんで彼らがあんなことをするのか…っていうのは、別に説明するまでもなく、いつの時代のどこの学校にも、そういうやつらっているよね、って感じでしょうか。そして、この映画の優れているところはキャスティングにありかなと思いました。映画初主演となるエミール・ハーシュ、兄を追い越して若手俳優として有望されるキーラン・カルキン、若きジョディ・フォスターといわれるジェナ・マローン。…若さゆえに生まれる複雑な心境。漠然とした焦りや不満と、それを解消するための無茶な行動。それによって得られる一時的な優越感と、後からくる虚無感と罪悪感。彼、彼女らがそれらを見事に演じていることに加えて、ジョディ・フォスターが大人の代表として、出すぎずに、あくまで厳格なシスターにのみ徹して脇を引き締めているからこそ、この苦い青春ストーリーが素晴らしくまとまっているのだと思いました。悲しいけど現実。つらいけど現実。現実を受け止めてこそ、少年・少女は大人になっていくのだと。


イン・アメリカ/三つの小さな願いごと
In America
監督・脚本・製作:ジム・シェリダン 脚本:ナオミ・シェリダン、カーティス・シェリダン
出演:サマンサ・モートン、パディ・コンシダイン、サラ・ボルジャー、エマ・ボルジャー、ジャイモン・フンスー
2002年アイルランド+イギリス/106分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/inamerica/ チラシ 1

 2歳の息子を亡くした悲しみから逃れられないジョニーとサラは、いまだ幼い2人の娘を連れ、アイルランドからニューヨークへ移り住む。住まいはおんぼろのアパートで、売れない役者のジョニーはオーディションに落ちつづけ、元教師のサラも教鞭はとれずにアイスクリーム店で働きはじめる。生活は貧しかったが、幼い姉妹のクリスティとアリエルには、ニューヨークは魅力に溢れた街だった。そして、同じアパートに住人で気難しいアーティストのマテオとの出会いと、姉妹の純真さが、悲しみを引きずったままの家族に再生の道を開く。
 名匠ジム・シェリダンが、幼くして弟を亡くし、アイルランドから移住した自らの体験をもとに、実の娘と共同で執筆した半自伝的物語。姉である10歳のクリスティの視点から物語は描かれる。ニューヨークは夢の街……とばかりに、子供たちの目から見えるニューヨークが不思議にキラキラと輝いて見え、一種のファンタジーのような美しさもある。それぞれが幼い息子(姉妹にとっては弟)の死が暗く影を引いているなかで、この魔法のような街の輝きが希望を予感させているような気がしました。物語の視点であるクリスティの冷静で芯のしっかりしたお姉さんぶりと、元気でつっぱしる妹アリエルの笑顔も最高にいい。そして訪れる家族の試練のとき、おさえていたクリスティが一瞬で思いを吐露するシーンにはグッとくるものが…。それまで常に冷静であったがゆえに。あのシーンが予告編で使われていなければ、もっと泣けたのになぁ…。劇中に出てくる『E.T.』の使われ方も上手いし(ラストに繋がってくるとは!)、つらいことがあっても、最後は家族というものの温かさを伝えてくれる、心温まる一本でした。静かな物語だけど、この優しさがたまらなく気持ちがよくて、ずっと観ていたくなるような、そんな映画でした。


イングリッシュ・ペイシェント
The English Patient
監督・脚本:アンソニー・ミンゲラ
出演:レイフ・ファインズ、ジュリエット・ビノシュ、クリスティン・スコット=トーマス、ウィレム・デフォー
1996年アメリカ/162分/配給:松竹富士

 第二次大戦下の北アフリカを舞台にした恋愛ドラマ。撃墜された飛行機から一人の男が助け出された。彼は全身に重度の火傷を負い、記憶を失っていた。アロマシーという自分の名も忘れてしまった男は、“イングリッシュ・ペイシェント(英国人の患者)”と呼ばれ、野戦病院で看護婦ハナによって介護される。そこへアロマシーの過去を知る男カラバッジョや、インド人の少尉キップなどが訪れ、その生活の中でアロマシーは徐々に記憶を取り戻していく。それは砂漠の中で、友人の妻キャサリンと愛し合った思い出であったが…。
 アカデミー賞の作品賞をはじめ、9部門を総なめにした話題作。二重に織り成される愛のドラマが感動的。だけど、ちょっと長すぎ…。時間と心の余裕のある時に見ましょう。もうちょっと短くてもいいんじゃないかなぁ、と思いつつも、繊細に織り成される、こういう人間ドラマはすごく好き。ジュリエット・ビノシュ(すごくかわいい&きれい)がアカデミー賞の助演女優賞をとったけど、助演じゃなくて主演じゃないの? この映画では…。


インサイダー
The Insider
監督・脚本:マイケル・マン 脚本:エリック・ロス
出演:アル・パチーノ、ラッセル・クロウ、クリストファー・プラマー
1999年アメリカ/158分/配給:東宝東和

 人気報道番組のプロデューサー、ローウェル・バーグマンのもとに、ある日、匿名で大量の書類が届けられる。それは大手タバコメーカー、フィリップ・モリスの極秘ファイルだった。一方、同じく大手のタバコメーカー、B&W社に務める科学者ジェフリー・ワイガンドは、自社製品に含まれる物質の危険性を訴えていたため、上層部から疎まれ突然解雇される。しかも、守秘契約を交わしているため、ワイガンドはB&W社の業務内容を一切口外できない立場にいたのだが……。
 実際に起こった事件をもとに、巨大企業の隠匿工作を告発する元社員とジャーナリストの奮闘を描く社会派ドラマ。アル・パチーノ演じるバーグマンも、ラッセル・クロウのワイガンドも実在の人物だそうな。さらに企業名まで実名で出すところはスゴイが、あちらではタバコメーカーと、喫煙によって病気あるいは死亡した人の遺族による訴訟というのは社会問題として取り上げられていることなので、今更名前を隠すまでもないということか。硬派なカメラと印象的な音楽と名優の演技と、とりあえず文句の付け所はなし。骨太な男の生き様を見たければ是非。そして、当たり前かもしれないけど、登場人物が誰ひとりとしてタバコを吸ってなかったなぁ〜。


イン・ザ・カット
In the Cut
監督・脚本:ジェーン・カンピオン 原作・脚本:スザンナ・ムーア 製作:ニコール・キッドマン
出演:メグ・ライアン、マーク・ラファロ、ジェニファー・ジェイソン・リー、ケビン・ベーコン
2003年アメリカ/119分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.inthecut.jp/ チラシ 12

 ニューヨークで文学の教師をしているフラニーは、他人との距離を保ち、そうすることで傷つくことを避け、静かに日々を暮らしていた。腹違いの妹ポーリーンは、彼女とは対極に情熱的な恋をしているが、2人は互いに唯一無二の親しい友人でもあった。しかしある日、フラニーの住むアパートのそばで猟奇的な殺人事件が発生、彼女が偶然、それと知らずに犯人を目撃していたことから、彼女のもとに刑事が訪れ、事件に巻き込まれていく。そして同時に、その刑事マロイとの出会いは、フラニーの中に潜んでいた欲望を目覚めさせていく。
 “メグ・ライアンが全てを脱ぎ捨て、新境地を開拓!”という言葉通り、本当に脱ぎ捨てている。どうせチラッと見せる程度じゃないかなぁーと思っていたので、正直、あそこまで見せているのは意外でした。ボディダブルじゃないですよね? だとすれば、確かに、これまで“ラブコメの女王”と呼ばれ、キュートさが魅力の彼女が、よくぞやってくれましたと思います。で、当初、ジェーン・カンピオンはニコール・キッドマンを主演に想定していたそうだけど、脚本を読んだメグが猛烈アタックで主役をゲット、ニコールは裏方の製作にまわってバックアップ……という話ですが、確かにニコールがはまりそうな役でした。ただ、もしニコールだったら……と、想像すると、それはそれでいいんですが、今までにどこかで見たことがあるような作品になってしまったかもしれません。メグが演じることで、なにかしら新鮮味があり(少なくとも、このところ出演作が目白押しのニコールに比べれば)、それは良かったかと思います。それにニコールのほうが、多分、もっと強い女性に見えてしまうんじゃないかと思って。こういう役柄の少ないメグだから、どこか頼りなげな印象があって、それが逆に、“いつもどこか不安にかられていて、人と距離を置く(表面的に)冷めた薄い人柄”というのが良く表現できていたんじゃないかと。まぁ、“その実、内面には…”というお話なんですが、その辺は正直、あまり感情移入ができるタイプのキャラではなかったんですが(男と女の違いもあるかもしれませんけど)、サスペンスタッチの作風や、やはりメグの“新境地”を観るだけでも十分楽しめました。サスペンス的には、もうちょっと犯人の動機やら出現のシークエンスを描いて欲しかったとは思いますが。思わせぶりな描写はなかなか上手だと思いましたけど。


インソムニア
Insomnia
監督:クリストファー・ノーラン 製作総指揮:ジョージ・クルーニー、スティーブン・ソダーバーグ
出演:アル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンク
2002年アメリカ/119分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.insomnia-movie.jp/ チラシ 1

 1997年のノルウェー映画「インソムニア」のリメイク。監督は長編第2作「メメント」で一気に名監督として名を馳せたクリストファー・ノーラン。アラスカの小さな町で、爪を切られ、髪を洗われた17歳の少女の死体が発見された。この事件の調査のため、ロサンゼルスから派遣されたベテラン刑事のドーマーと相棒のハップ。2人は、この町に住む小説家のウォルターを容疑者に定め、地元警察の女性刑事エリーらとともに調査を続ける。しかし、ウォルターを張り込んでいたある時、ドーマーは思いもよらない過ちを犯してしまう・・・。
 クリストファー・ノーランの監督作で、アル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズ、ヒラリー・スワンクと主演3人が揃ってオスカー俳優。さらにプロデューサーには、クルーニーとソダーバーグ。なんとも豪華なスタッフ、キャストに期待せずにはいられない作品ですが、その期待を裏切らず面白い作品でした。監督の前作「メメント」はプロットと編集によってみせた映画でしたが、今回は純粋なサスペンスものに真っ向から取り組んで、こういうものも撮れるということを証明してみせてくれたようです。しかし、本作では、監督のみならず俳優陣を差し置いて語ることはできないと思います。主演のアル・パチーノは、最初に画面に映ったとき、ずいぶんおじいさんになっちゃったなぁ〜・・・とは思いましたが、演技のほうは、もう抜群で、夜中でも日の沈まないアラスカの町で、苦悩と自責の念から不眠症(insomnia)に陥り、次第に判断力を失っていく様を見事に演じていました。ベッドに入っても眠れず、徐々にやつれていく様と刑事として感情を高ぶらせて動いているときの差がすごくて、お見事としか言いようがありません。本作のパチーノこそ、名優という言葉がふさわしと思います。ロビン・ウィリアムズも当然ながら大きな存在感を発揮して、彼とパチーノとの掛け合いは見物です。なんかスゴイ! って圧倒されます、この2人に。ヒラリー・スワンクだって悪いはずないのに(個人的に好きな女優さんなんですが)、この2人にちょっと食われた感があったと思います。でも、ヒラリーだからこそ、対等に渡り合う演技と存在感も出せたんだろうと。
 ストーリー自体も面白いですが、そこに主人公の心理的苦悩と圧迫感、緊張感、サスペンスを盛り込んで観客を引きずり込む本作は、観る価値あり。名監督と名優と名脚本(脚本のヒラリー・サイツは本作が初の執筆だそうですが、これが認められて、今後トニー・スコットやデビッド・フィンチャーとの仕事もあるそうで)の見事なまでのコラボレーション。そういうものが高いレベルで揃うと、こうもなるんだと思わされます。まぎれもなく正統派サスペンスの一級品。


インデペンデンス・デイ
Independence Day
監督・製作総指揮・脚本:ローランド・エメリッヒ 出演:ウィル・スミス、ビル・プルマン
1996年アメリカ/145分/配給:20世紀フォックス

 突如襲来したUFO群が地球全土を一斉に侵略。地球的規模の危機に瀕した人類が反攻にでる。というお話。近年の巨大スケールパニックアクションSF大作(なんじゃそりゃ?)の火付け役になった作品。とにかく、UFOなどの巨大さも圧倒的だし、それを最新のSFXで圧倒的に描き出しています。ということで、実はそれがこの映画のほとんどで、ストーリー自体はあまり面白くないですね・・残念ながら。そういう映画でもないでしょうし。何も考えずにわかりやすい勧善懲悪を楽しみたいときはいいでしょう。それはそれでも良いのですが、僕としてやはり主人公不在がいたかった映画です。感情移入できなくて、盛り上がれなかった。


インファナル・アフェア
Infernal Affairs
監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック 脚本:アラン・マック、フェリックス・チョン 視覚効果監修:クリストファー・ドイル 編集:ダニー・パン
出演:トニー・レオン、アンディ・ラウ、アンソニー・ウォン、エリック・ツァン、ケリー・チャン、サミー・チェン
2002年香港/102分/配給:コムストック
公式サイト http://www.infernal.jp/ チラシ 1

 18歳の2人の青年ヤンとラウ。警察学校で非凡な成績を誇るヤンは上官ウォンに見込まれ、表向きは規則破りで除隊扱いにされたが、潜入調査官としてマフィアの一員となった。一方、ラウはマフィアのボス、サムの命令で警察学校へ潜入した。そして、10年後、ヤンはサムの手下の中でも兄貴分として信頼を得、ラウも順調にキャリアを重ねていた時、ヤンから大きな麻薬取引があると情報を得た警察は、麻薬組織の一斉検挙に躍起になるが、しかし、その情報はラウからサムへと伝わり、麻薬取引も検挙も失敗に終わる。そして双方に内通者がいることが明らかになり、警察もマフィアも互いの裏切り者を探し始めるのだが……。
 2002年香港映画界の興行収入のうち全体の17%を占める大ヒットで、香港のアカデミー賞といわれる香港フィルム・アワードで主要7部門を独占、ハリウッドが史上最高額でリメイク権を獲得したりと(ちなみにブラピが主演するそうな)、なにかと話題の香港映画。どんなにすごいのかと思ったら、これがとにかくカッコイイ! トニー・レオンとアンディ・ラウがダブルで主演男優賞にノミネートされたというけれど、それも納得の、まさにこの2人が揃ってこそはじめて成りえただろう、この切なくも熱い男のドラマに感動。上映時間も102分と手ごろな長さで、しかも話の展開が実にキレがよくてぐいぐいと引っ張られていきました。細かい仕掛け、全てがストーリーに繋がっている緻密さ。「あの時のあれは、これのためだったのか…」と、伏線の張り方、小道具の使い方、全てが緊張感溢れるサスペンス要素にマッチング。加えて、それぞれに偽りの身分を得ながらも、いつしかその中で生きていくしかなくなる、つらい運命としかいいようのないものを受け入れて生き、それに抗おうとしても哀しい2人の静かでも熱い対決は必見でございます。それぞれにつらい決断をして先に進まなければならず、進んだ先にあるものが果たして…? ま、詳しくは四の五の言わずに観てください、って感じなので。個人的にはとってもお薦めな映画のひとつ。男も女も、きっとそれぞれに感じるものがあると思います。
 ちなみに共同編集のひとりは『レイン』『the EYE』のダニー・パン、視覚効果監修はクリストファー・ドイルが担当していて、ノンクレジットだけどジャッキー・チェンも製作に参加しているらしい。


インファナル・アフェア 無間序曲
Infernal Affairs II
監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック 脚本:アラン・マック、フェリックス・チョン
出演:エディソン・チャン、ショーン・ユー、アンソニー・ウォン、エリック・ツァン、カリーナ・ラウ、フランシス・ン
2003年香港/119分/配給:コムストック
公式サイト http://www.infernal.jp/ チラシ 12

 1991年、香港。マフィアの大ボス、クワンが暗殺され、配下の4人のボスはそれぞれに離反を目論む。新参者で5人目のボス、サムだけは事態を静観していたが、今回の暗殺は、サムの妻マリーが、夫の出世を願って子分のラウに密かに命じたものだった。それを知らないサムは、ラウを警察に潜入させる。一方、警察では、組織犯罪課のウォン警部が、クワン亡き後、扱いやすいとみたサムが大ボスになることに期待したが、それに反してクワンの息子ハウが、早々に大ボスの地位を固めしまったのを知り、警察学校の優等生でありながらも、クワンの私生児であるがために退学処分となったヤンを、ハウのもとに潜入させる。
 マーティン・スコセッシがリメイク版を監督するという噂もある傑作ノワール「インファナル・アフェア」。その3部作の第2章にあたる本作は、前作から遡ること11年前、若きヤンとラウが互いに身分を隠してマフィアと警察に潜入する事件を描く。いわゆる「エピソード1」的なストーリー。スタッフ、キャストも前作と同じなので、クオリティは申し分なし。続編ものはどうしても1作目に比べていまいちなことが多いけど、本作は全くそんなことはなく、素晴らしいまでの完成度。緊迫感溢れる展開や無駄のない構成、熱い男たちのドラマ(主要な登場人物で女は1人だけ)と何もかもが前作に比べても遜色ない。もちろん、トニー・レオンとアンディ・ラウというスター俳優が抜けた部分はあるけれど、それぞれの若い頃を演じているショーン・ユー、エディソン・チャンも存在感があるし、前作でも素晴らしかったアンソニー・ウォンとエリック・ツァンが更に素晴らしくて、彼らの未来(つまり1作目のこと)を知っているうえで観ると、まさにその宿命や因縁に胸が熱くなります。そういう意味でも、1作目を知っていることでより楽しめるのは当然かもしれないんだけど、時系列順にこちらを先に観ても全然違和感はないはず。その出来栄えにも驚きなのだ。


インファナル・アフェアIII 終極無間
Infernal Affairs III
監督:アンドリュー・ラウ、アラン・マック 脚本:アラン・マック、フェリックス・チョン
出演:トニー・レオン、アンディ・ラウ、レオン・ライ、アンソニー・ウォン、エリック・ツァン、ケリー・チャン、チェン・ダオミン
2003年香港/118分/配給:コムストック
公式サイト http://www.infernal.jp/ チラシ 12345

 あれから10ヶ月後。警察内部には自分を含めて全部で5人の潜入マファアがいると知ったラウは、彼らをひとりずつ始末していく。しかし、潜入マフィアと目していたキム巡査部長が、保安部のエリート警視ヨンの前で自殺。その場に居合わせたラウは、状況からヨンに疑念を抱き、密かに彼を監視するが……。
 『インファナル・アフェア』3部作最終章。2作目は前編でしたが、今回は正真正銘の続編で1作目の後の登場人物たちが描かれる。この3作目を語る上で、1作目のラストに言及せずに語るのは難しいのですが、物語は現在のラウを巡るストーリーと、1作目では描かれずにいたヤンやその他の登場人物の謎が明かされる。伏線の張り方や構成の緻密さは、もう今更言うまでもなく素晴らしいのだけど、今回は少々凝りすぎ?というか、複雑にしすぎた気もしなくはない。物語が過去と現在を行き来するので、今はどちらなのかとか、また、さらに1作目のことも併せて頭の中で整理しながら観ていたので、かなり頭の中はフル回転。1作目はちゃんと復習していくとよいと思いました。しかし、それはさておき、何よりもその切ないラストといいましょうか……「善人でありたい」と願ったラウの迎える結末がなんとも言えず胸に迫る。これぞ「無間道」と冠されたタイトルの本シリーズのフィナーレにふさわしい。この3作目で、『インファナル・アフェア』は完結するんだと感慨深くなりました。1作目も単体で素晴らしい出来でしたが、本当のラストは間違いなくこちらなのだと。