オーシャンズ11
Ocean's Eleven
監督・撮影:スティーブン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、ジュリア・ロバーツ、マット・デイモン、アンディ・ガルシア、ドン・チードル
2001年アメリカ/116分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.oceans11.jp/ チラシ 1

 窃盗罪で4年間の刑務所暮らしを送っていたダニー・オーシャン。仮釈放された彼は、ラスベガスのカジノから現金1億5000万ドルを盗み出すというとんでもない計画を早速実行にうつす。計画を実現させるため、まずは旧友のイカサマトランプ師ラスティに声をかけ、続けて2人は、計画に必要な11人の仲間を集める。オーシャンが狙うのは、ラスベガスの3大カジノ。それらは全て、冷徹なラスベガスの帝王ベネディクトの経営するカジノで、その収益が集められている巨大金庫を狙う。
 1960年のフランク・シナトラ主演作「オーシャンと11人の仲間」のリメイク。豪華スター共演、しかもソダーバーグ監督。これで面白くないはずがないでしょう。それがソダーバーグ監督です。軽妙な編集テクニックとストーリー展開で飽きさせることなく見せてくれます。毎度のことながら、この監督の作品ははずれない。でも、逆にいうと、ソダーバーグ監督なんだから、これくらい撮れて当然でしょう…みたいな先入観もある。しかし、実際に面白いのだから良いですね。豪華スターの共演も見ごたえがあって面白いのですが、さすがに11人全員にスポットがあたることはなく、強奪計画の中でうまく各々の個性が活かされているように描かれてはいますが、均等に描かれているとはいえません(といよりも、本当に11人も必要なのか、っていう疑問もあるんですけどね)。あくまでクルーニー、ブラピ…あたりが中心で。まぁ、それはしょうがないのでいいんですが、贅沢をいえば、もう少し個々を濃く描いてくれてもよかったかも。それでも全体的に申し分ない娯楽作品。娯楽映画とはかくあるべき、とでもいえるような軽妙さ、痛快さ、楽しさ、スター共演。それが味わえるのがこの映画だと思います。細かいところで笑えるシーンが多いのは楽しいです。この映画の売りでもあるキャスティングに難を言うならばジュリア・ロバーツ。演技力があるのは確かだけど、この作品で彼女である必要があったでしょうか。もっと華やかで麗しいほうが(彼女はどっちかというと快活で強いイメージがあるんで)、良かったと思いますが。といっても、クルーニーやアンディ・ガルシアの相手役となれば、それなりの年齢のつりあいもとれなくちゃいけなかったからしょうがないか。


オーシャンズ12
Ocean's Twelve
監督・撮影:スティーブン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アンディ・ガルシア、ドン・チードル、ジュリア・ロバーツ、ヴァンサン・カッセル
2004年アメリカ/125分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.oceans12.jp/ チラシ 12

 ラスベガスのカジノ王、テリー・ベネディクトのもとから1億6000万円を奪ったあの事件から3年。復讐に燃えるベネディクトが彼らの居場所を突き止め、ひとりひとりに盗んだ金に利子をつけて返済を要求する。居場所を突き止められては逃げることもできず、2週間の期限内に莫大な金を得るため、オーシャンらはアムステルダムに向かい、新たな計画を練るが……。
 大ヒットを記録した前作は、なるほどそれなりに見合った娯楽映画に仕上がっていた。しかし、その続編である本作では、元来のソダーバーグ節ともいえる展開と演出で、ハリウッドスターが大挙出演している映画でありながらも、非常にインディペンデント的な匂いがぷんぷんの映画になった。そういう意味で、個人的には映画としては前作よりも評価できるけど、前作と同じエンターテインメントを期待していった一般の観客の大方は、肩透かしと期待を裏切られた気持ちで映画館を後にするのではないかな……という感じ。巧妙な編集と、面倒な説明はばんばん省いていく展開で、昨今の説明過多なハリウッド大作しか観ていないようだと理解もつらいのでは? と思う節もしばしば。ドラマチックに大きな山場があるわけでもなく、ぼーっと観ていると本当にそれだけで終わってしまう。でも、ちゃんと観ていれば予想を裏切る展開もあって、ストーリー自体には納得。繰り返しになるけど「大きなインディペンデント映画」を見せられている気がして、なんとも不思議な感覚でした。……にしても、今回は12人なわけですが、ますますそこまで要らない感じに。仮に続編があるとして、今回のエンディングからしても「オーシャンズ13」になるのは確実かと思いますが、リストラしないと(笑)


オースティン・パワーズ
Austin Powers: Imternational Man of Mystery
監督:ジェイ・ローチ 製作・脚本:マイク・マイヤーズ 製作:デミ・ムーア
出演:マイク・マイヤーズ、エリザベス・ハーレー
1997年アメリカ/95分/配給:松竹富士

 マイク・マイヤーズが一人二役、製作、脚本をこなすコメディ。1967年イギリスのスパイ・オースティンは世界制服をたくらむDr.イーブルを追っていた。しかしDr.イーブルは自らを冷凍し、時を逃れる。いつか目覚めるイーブルに対抗するため、オースティンも冷凍保存されることになった。そして時がたち、90年代に復活した二人は再び雌雄を決する。
 過去のスパイ映画やなんやらのパロディがいっぱい。ついでに下ネタもいっぱい。パロディ部分は、やっぱり元になってるのがわかんないとねぇ…つまんない。下ネタのほうは、まぁ笑えるけど、度が過ぎるところもあって困る。確かに笑える個所もあるんだが、どうも全体的にテンポ悪い気がします。ひとつのギャグをひっぱりすぎっていうかな、もっとバーっとやっちゃってもいいのになぁ・・・と思います。 それにやっぱりある種の“品の無さ”が多少ひっかかるところもあります。そういうのが嫌いな人には絶対ダメな映画だと思います。うーん、僕としても微妙です。執拗に股間を隠しつづけるシーンは面白かったけどね。あとはなんといってもエリザベス・ハーレーの魅力! これにつきます。っていうか、これがほとんど? いやいや、ホントに良いです。そこは。


オースティン・パワーズ:デラックス
Austin Powers: The Spy Who Shagged Me
監督:ジェイ・ローチ 製作・脚本:マイク・マイヤーズ 製作:デミ・ムーア
出演:マイク・マイヤーズ、ヘザー・グラハム
1999年アメリカ/95分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.austinpowers.com/Japan/

 再び宇宙に逃れていたDr.イーブルが地球に帰還。今度はタイムマシンを開発し、1969年へ。オースティンのパワーの源“モジョ”を盗み出す。それによって現在(99年)のオースティンはパワーを失うが、モジョを取り戻すため、タイムマシンで69年へトリップする…。
 なんだかんだ言いつつも、とりあえず続編も見てしまった。今回も前回と同じく、相変わらず…って感じです。感じたことは前回とほぼ同じ。笑えるところは笑えるが、ちょっとお下品なところなんかは好かない…かなぁ。マイク・マイヤーズのお世辞にも美しいとはいえない裸体(しかももじゃもじゃの胸毛つき)をオープニングから見せ付けられてもなぁ…うーん。しかし、今回はのっけから「スター・ウォーズ」のパロディもあって、そのへんは僕にもわかって笑えた。他にも「アポロ13」「インデペンデンス・デイ」のパロディ(っていうか、まんまの映像)には笑いましたね。あと、影芝居のギャグもめちゃくちゃ面白かったです。今回のヒロインは、ヘザー・グラハム。これまた最高にチャーミング!! なのだけど、前回のエリザベス・ハーレーよりも魅力が引き出されていないような気がするのですが…。それは僕個人のヘザーへの思い入れのため? もっとヘザーが観たかったよう…。ちなみに今作のマイク・マイヤーズは一人三役こなしてます。


オースティン・パワーズ ゴールドメンバー
Austin Powers in Goldmember
監督:ジェイ・ローチ 製作・脚本:マイク・マイヤーズ 製作:デミ・ムーア
出演:マイク・マイヤーズ、ビヨンセ・ノウルズ、マイケル・ケイン
1999年アメリカ/95分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.austinpowers-gold.jp/ チラシ 12

 なんだかんだ言いつつも、また続編を観てしまった(いや、試写会だったからですが)。やはり、1も2も観ていると気になるもので。基本的に前作までの下ネタにゆるゆるギャグ(95分なのに長い)というのは変わってません。ですが今回、とにかく驚きなのは、そのカメオ出演の人々。これは最大の売りにもなってるわけですが、トム・クルーズ、グウィネス・パルトロウ、ケビン・スペイシー、ダニー・デヴィート、スティーブン・スピルバーグ、ブリトニー・スピアーズ、オジー・オズボーン、クインシー・ジョーンズ、ジョン・トラボルタ……なんなんだ一体!? どーしたの!? ってくらいの豪華な面子が次々と。映画自体は相変わらずですんで、僕としての評価は大して変わらないのですが、このカメオ出演だけは超A級間違いなし。しかも、どういうふうに彼らがでているか、というのがまた見物なわけでして(これは観てない人には決して言えません)。まぁ、そんなわけでして、カメオ出演ばかりに目がいてしまいましたが、本編で笑えるところは前作と同じく、またしても影絵ネタのとこ。あとは小便小僧のとこかな。マイク・マイヤーズは一人四役。今回のヒロインは、映画初出演、ディスティニーズ・チャイルドのビヨンセ・ノウルズ。確かにスタイルは抜群だけど、エリザベス・ハーレーやヘザー・グラハムに比べるとセクシー度は足りないよね。ワイルドさはあるけどさ。ちなみに、「ゴールドメンバー」っていうのは「007 ゴールドフィンガー」のパクリで、一時は使用差し止めになったんだけど、「ゴールドメンバー」って“金のチン○ン”って意味なわけ。そりゃ、「007」側からは差し止められるわな。
 そんなわけでして、今回はカメオの人々に乾杯で、ランクアップ。その中でも特に、個人的には、トム・クルーズ、ケビン・スペイシー、ダニー・デヴィート、ジョン・トラボルタに拍手をおくります。いや、ほんとに観る価値あるよ〜・・・って思うんですが、それもこれも、オースティンを知っている上で、かもしれないけど。カメオ出演陣のおかげでランクアップといえど、僕自身がこの映画を許せるようになってきたみたい。なんだかんだ言って、Dr.イーブルなんかは笑えるしな・・・。


オープン・ウォーター
Open Water
監督・脚本・撮影・編集:クリス・ケンティス 製作・撮影:ローラ・ラウ
出演:ブランチャード・ライアン、ダニエル・トラヴィス
2003年アメリカ/79分/配給:ムービーアイ・エンタテインメント
公式サイト http://www.openwater-movie.jp/ チラシ 12

 ようやく取れた休暇でカリブ海にやってきたスーザンとダニエルは、沖合いでダイビングを楽しむ。しかし、ふたりが海面に戻ってきたとき、すでに彼らが乗ってきたボートは去っていた後だった……。救助を待つふたりだったが、彼らの周囲には無数の鮫が徘徊しはじめる。
 オーストラリアで起こった実話をベースに、クリス・ケンティスとローラ・ラウの夫妻が監督・脚本・撮影・編集を担当し、他に撮影監督と鮫のトレーナーを合わせた4人のスタッフと2人のキャストだけで撮った、超低予算のインディペンデント・ムービー。2004年のサンダンス映画祭で上映されて話題となり、全米トップ10に入る大ヒットを記録した。自分もダイビングをたしなむダイバーの端くれですが、そうであるからこそ余計に怖い! きっとこの怖さはダイビングをする人間でないとわからないのでは……。ただ、ダイビングを知らない人が、この映画を観てむやみに「だからダイビングって怖いよね」と偏見をもたれても困るなぁ……と(実際にダイバーが鮫に襲われるということは、ほぼありえない)。でも映画としてこのアイデアと、それをCGなし(鮫はすべて本物!)で実践してしまった勇気には感嘆するし、だからこそ余計に恐怖感が増す。必要以上に音楽や効果音、カメラアングルで恐怖を煽ったりしないから、ドキュメンタリーのような真に迫ったものも感じられた。


オープン・ユア・アイズ
Abre Los Ojos
監督・脚本・音楽:アレハンドロ・アメナバール 製作:ホセ・ルイス・クエルダ
出演:エドゥアルド・ノリエガ、ペネロペ・クルス、ナイワ・ニムリ
1997年スペイン/117分/配給:東京テアトル

 ハンサムで自由な恋を楽しんで暮らす青年セサール。しかし、交通事故で顔面に重症を負い、彼の顔は醜く傷ついてしまう。恋人ソフィアにも冷たくあしらわれ、絶望感を感じるセシール。だが、ある日、目覚めると不可能といわれていた手術が可能になり、彼の顔は元通りに。全てが事故の前と同じ幸福な状態に戻ったと思われたが…。
 現実と虚構が錯綜するサスペンスで、いったいどこからが現実でどこからが夢なのか? 見ているこちらもとても惑わされるような作品です。いわばバーチャルリアリティといってもいいもので、その危うさの恐怖感というようなものが伝わってきます。誰を信じ、誰を疑っていいのか? いささかテーマとしての新鮮味にかけるというか、最初何もわからずに見ているうちはいいのですが、この作品は、ラストでの種明かしの段階でちょっと失敗しちゃったかな…という気がしました。でも全体的にとても良くできた作品です(ペネロペ・クルスのヌードとか…って、そりゃかんけーないか)。


オール・アバウト・マイ・マザー
Todo Sobre Mi Madre
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:セシリア・ロス、アントニア・サン・ファン、マリサ・パレデス、ペネロペ・クルス
1998年スペイン/101分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ、東京テアトル

 シングルマザーとして一人の息子を育てるマヌエラだが、その最愛の息子を交通事故でなくしてしまう。生前、父のことを知りたがっていた息子のために、18年ぶりに父親を探しにバルセロナへでかけるのだが・・・。この映画はきっと女性がみると男とは違ってみえるんだろうなぁ・・・と思います。様々な女性が、人間として、女として、母親として、それぞれの悩みを抱えながら関わりあって生きていく。全体的に重たい雰囲気の映画ですが、それだけ深みもあります。が、やはり若輩者の男の自分には、完全に理解するのは難しいかもしれない。でも母親の愛情などは、男女関係ないからいいか。


ALWAYS 三丁目の夕日
Always
監督・脚本・VFX:山崎貴 原作:西岸良平 撮影:柴崎幸三 音楽:佐藤直紀
出演:吉岡秀隆、堤真一、小雪、堀北真希、薬師丸ひろ子、須賀健太、小清水一揮、三浦友和
2005年日本/133分/配給:東宝
公式サイト http://www.always3.jp/

 昭和33年、鈴木則文が経営する東京下町の自動車修理工場・鈴木オートに、集団就職で上京した六子がやってくる。一方、鈴木オートの向かいで駄菓子屋を営む売れない小説家の茶川竜之介は、ひょんなことから身寄りのない少年・淳之介の世話をすることになるのだが……。
 西岸良平のコミック「三丁目の夕日」を、『ジョブナイル』『リターナー』の山崎貴が映画化。VFXが得意で未来的世界のアクション映画を撮ってきた山崎監督が、一転してレトロな東京を舞台にした人情劇を描いたわけだが、これがなかなかいける。前向きで健全で、キャラが立っていて笑いあり涙ありの展開はわかりやすいし、CGやセットを駆使した30年代の街並みの出来も見事。リアルタイムで当時を知らない自分のような世代にとっては、あらゆるものがイメージ通りの30年代の世界だが、それは監督も同じく若い人間だからだろう。果たして本物の当時を知る人たちにはどう映るのか? また、若い世代の人間が作ったからこそだろう、「昔はよかったね」的な押し付けがましい懐古主義に陥っていないのも好感が持てるが、これもやはり、一方では30年代という設定が単なる舞台装置としてしか機能していないという見解もあるかもしれない。これは30年代を知らない人間が描いた、30年代を舞台にしたファンタジーであると言ってしまえば、それまでだが。欠点をあげるとすれば133分は長すぎということで、基本的に鈴木家と茶川家を主体に描いているところに、唐突に挿入される医師の家族の話は違和感ばりばり。「もはや戦後ではない」というセリフを言わせたいがためだけに、あのエピソードを入れたのであれば蛇足としか言いようがない。この欠点がなければ★4つでもよかったかなぁ……。
☆☆★


オールド・ボーイ
Oldboy
監督:パク・チャヌク 原作:土屋ガロン、嶺岸信明
出演:チェ・ミンシク、ユ・ジテ、カン・ヘギョン
2003年韓国/120分/配給:東芝エンタテインメント
公式サイト http://www.oldboy-movie.jp/ チラシ 12

 1988年、平凡なサラリーマンのオ・デスは突如何者かに誘拐され、見知らぬ部屋に監禁される。理由もわからぬまま年月は流れ、15年がたったある日、誘拐された日と同じように突然解放される。15年の間にすでに妻は何者かに殺され、デスはその容疑者にされており、娘も行方知れずとなっていた。一体誰が、なんのために? 多くのものを失ったオ・デスは犯人に復讐を誓い、ふとしたことで知り合った若い女性ミドの助けを借りながら、自分を陥れた犯人を探す。一方、ミドは次第にデスに惹かれていくが、そんな2人の前にイ・ウジンと名乗る謎の男が姿を現し、「5日間で監禁の謎を解け」と言うのだが……。
 土屋ガロン・作、嶺岸信明・画で「漫画アクション」に連載された同名コミックを、『JSA』のパク・チャヌク監督が映画化した衝撃のサスペンス。2004年の第57回カンヌ国際映画祭で、審査委員長のクエンティン・タランティーノに「グレイト!」と言わしめ、グランプリを受賞した。確かにタランティーノが好きそうなバイオレンス描写もふんだんな作風だが、だからといってバカにできない。いや、確かに物凄い。『華氏911』にパルムドールをあげたタランティーノにどうも一抹の不信感を抱いていたが、これは確かに「グレイト!」だ。後味も悪く、痛々しい描写も多い(R-15だし)ので、自信をもって人に勧めることはできないが、そういうのが苦手でないなら是非。また、苦手であっても(僕もそんなに得意じゃない)、映画好きな人は絶対見とけ。映画は気軽に楽しめればいいというだけの人は見なくてもいいが、どんなジャンルでも優れた映画を見たいのであれば、見逃せない一作でしょう。細かく書くとネタバレになってしまうし、もはやあれこれ書けるものでもない。とにかく壮絶で衝撃的で、重苦しいが、その勢いと圧倒的なパワーに気圧されて、スクリーンに釘付けになる。主演のチェ・ミンシクの“壮絶”という言葉を体現したかのような演技も、これまで穏かな青年役が多かったユ・ジテの冷徹な変貌ぶりも一級です。


おいしい生活
Small Time Crooks
監督・脚本:ウッディ・アレン
出演:ウッディ・アレン、トレーシー・ウルマン、ヒュー・グラント、エレイン・メイ
2000年アメリカ/95分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://e.goo.ne.jp/oishii-seikatsu/ チラシ 1

 結婚25年目の夫婦、レイとフレンチー。レイは銀行強盗の失敗で服役し、刑務所からでてきたばかり。今度こそはと、レイは地下にトンネルを掘って銀行に忍び込む計画をたて、そのカモフラージュのため妻のフレンチーにクッキー屋を始めさせる。ところが、この店がたちまち大盛況。2人はあこがれの大金持ちになって…。
 銀行の金庫までトンネルを掘ってお金を盗もうなどという計画自体が今更トホホなもので、それをやとうとするレイを始め、刑務所時代の仲間たちがこれまたお間抜けで笑っちゃいます。でも、ただのコメディなんじゃなくて、最後は夫婦の愛情に物語は流れていきます。といっても、しみったれてるわけでもなく。コメディといっても、どこかインテリジェンスな雰囲気が漂うのがウッディ・アレンの作風なのでしょうか。安心してみられます。個人的に好きなヒュー・グラントの出演もそんなところに一役買ってるのかな、と思いました。


王立宇宙軍 オネアミスの翼
Wings of Honneamise: Royal Space Force
監督・原作・原案・脚本:山賀博之
声の出演:森本レオ、弥生みつき、村田彩
1987年日本/120分/配給:東宝東和

 初の有人宇宙飛行を目指して設立された王立宇宙軍だったが、さしたる成果もあげずに計画は失敗続き。国防省内部でも宇宙軍廃止の声が聞こえる中、宇宙軍士官のシロツグは、仲間とともにぐうたらな日々を送っていた。そんな時、シロツグは町で出会った少女リイクニの純粋さに刺激され、宇宙飛行士として自ら志願する。ここで失敗したら俺たちは何をしてきたんだ? シロツグのその熱意が次第に仲間たちも動かしていくのだが……。
 バンダイの映像事業部(現・バンダイビジュアル)が映像分野に進出する第一歩として企画され、本作の制作のために立ち上げられたのがガイナックス。後に「不思議の海のナディア」や「新世紀エヴァンゲリオン」を生み出した主だったスタッフがほとんど参加している。ちなみに音楽監督は坂本龍一。そういったわけで、当時としては破格の製作費をつぎ込んで、若い優秀な才能を集めて作り、その作画のクオリティは当時としては大変なものだった様子。ただ、もう10数年がたった今では、それほど衝撃ではないけど、確かに80年代の作品とは思えない、今見ても遜色のない作画の美しさは見物だと思う。今だからこそ見慣れてしまい、かつ、今ならもっと凄くできたんだろう…というシーンはあるけれども。一番のハイライトであるシャトルの打ち上げシーンは圧巻で、物語そのものは割りと静かに進行しているんで、そのぶん、その瞬間に熱く燃え上がる様は、まさにシャトルの打ち上げそのものというか。日本のアニメ史を語る上でははずせない作品なので、アニメ好きは必ずチェックすべし。


オスカーとルシンダ
Oscar and Lucinda
監督:ジリアン・アームストロング
出演:レイフ・ファインズ、ケイト・ブランシェット
1997年アメリカ+オーストラリア/133分/配給:20世紀フォックス
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/oscar/

 19世紀半ば、イギリスの牧師オスカーは、オーストラリアへ伝道師として赴く。シドニーでガラス工場を経営する女性ルシンダと知り合い、二人はギャンブルという共通の趣味をもっており、すぐに意気投合する。やがて、彼らはオーストラリアの奥地に、ガラスでできた教会を運ぶという賭けにでるが・・。
 主人公が聖職者でありながらも、賭け事が病み付きになっているという設定が面白い。オスカーとルシンダが、共に社会からつまはじきにされていることを自覚して、お互いを認め合っていく過程がメインであり、果たしてどうなるのかと思いきや・・。


オテサーネク/妄想の子供
Otesanek
監督・原案・脚本:ヤン・シュワンクマイエル
出演:ヴェロニカ・ジルコヴァー、ヤン・ハルトゥル、クリスティーナ・アダムツォヴァー
2000年チェコ+イギリス/132分/配給:チェスキー・ケー、レン・コーポレーション
公式サイト http://plaza19.mbn.or.jp/~rencom/otesanek/Otesanek.htm チラシ 1

 稀代のシュリアリストとしても知られる、チェコのアニメーション作家、巨匠ヤン・シュヴァンクマイエルの最新作。切り株を子供として育てた夫妻が、その子供に呑み込まれてしまうというチェコの民話“オテサーネク”を現代に置き換えて映画化。ホラーク夫婦はともに不妊症で、子供のできない我が身を嘆き悲しむ妻を見兼ねて、夫は、人の形に似せた木の切り株を妻にプレゼントする。ほんの慰めのつもりが、妻はその切り株を本気で我が子として育てる。オテサーネクの民話から“オティーク”と名付けられたその切り株は、民話と同様に、やがて生命を宿し、次から次へと周囲のものを食らっていく・・・。なんとか秘密を守ろうとするホラーク夫妻だが、隣家の少女アルジュビェトカは、夫婦の異様な行動と切り株の赤子の秘密を知り、オテサーネクの民話と現実を照らし合わせていた・・・。
 この怖さはなんでしょう。紛れもなく時代背景は現代なのだが、その中に民話を取り込むことでファンタジー性すら感じられるのですが、そこに漂う雰囲気はダーク。実写と動く切り株のアニメーションを組み合わせているところにも、シュールさが漂ってます。ハリウッドの大作のような滑らかなCGでないところが、逆に不気味さ、怖さを演出してると思います。常人には理解しがたい狂気と妄想が生む悲劇と、それを見つめる少女も、また我々からすれば考えがたいが、あれが子供特有の純粋さからくる残酷さなのか。見た目にもグロテスクなシーンがちょっとあるけど、それ以上に、名状しがたい不気味な異様さが漂う映画。オープニングの赤子の声からしてなぜか怖い。これを観終わった後は、赤ちゃんの声をきくといいようのない不安に駆り立てられました・・・。観てる間、とても重かったけど、見終わってからも後をひく作品ですね。独特としか言いようのないこの雰囲気をまた味わいたいかどうか。


男たちの大和/YAMATO
The Men of Yamato
監督・脚本:佐藤純彌 原作:辺見じゅん 撮影:阪本善尚 音楽:久石譲
出演:反町隆史、中村獅童、山田純大、松山ケンイチ、蒼井優、鈴木京香、仲代達矢、渡哲也
2005年日本/145分/配給:東映
公式サイト http://www.yamato-movie.jp/

 鹿児島県・枕崎。漁師の神尾のもとに訪れた内田真貴子は、ちょうど60年前に戦艦大和が沈没した北緯30度22分、東経128度4分の海まで船を出してほしいと言う。当時、特別年少兵として大和に乗艦していた神尾は、その申し出を一度は断るものの、彼女が当時の上官で大和とともに没したと思っていた内田守上等兵の養女だと知り、船を出すが……。
 角川春樹の出所後(?)プロデュース作品第1弾で、原作は実姉・辺見じゅん。戦艦大和といえば日本人なら誰しも名前は知っているだろうが、とにかくスゴイ戦艦だけど、一度の活躍もなく撃沈したという悲劇以外の詳細は、実はあまり知らないんじゃないかと思う。そういう現代の日本人のために(自分も含め)、大和がどのような存在であったかを伝えるにはいいと思うが、映画はあくまで大和が舞台なのであって、描かれるのは否応なく戦争に流されていき(戦争への賛否も関わりなく)、没していった人々であり、そうすることで戦争とはどんなものであるかを直視していると思う。もちろん、実物大のセットが建造されただけのことはある壮絶な戦闘シーンなども見どころではあるが、頑なに<戦争>というものに向き合っていることは評価できるのでは……と。また、ちょっと力みすぎかもしれないが、漁師の少年によって魂が現代に受け継がれていくのはよかったかな。
☆☆★★★


乙女の祈り
Heavenly Creatures
監督・脚本・製作:ピーター・ジャクソン
出演:メラニー・リンスキー、ケイト・ウィンスレット
1994年ニュージーランド+アメリカ/100分/配給:松竹富士

 ニュージーランドで実在に起きた事件の映画化。空想好きな少女ポウリーンと、転校生ジュリエット。ジュリエットもまた、夢見がちな少女で、二人はすぐに打ち解け、親友となる。二人は空想の世界を小説と粘土細工で築き上げていく。しかし、ジュリエットが再びイギリスに戻らなくてならないかもしれないという事態になったとき、二人の仲は周囲がいぶかしむほどに深まっていた。離れ離れになることを拒む二人は、ある計画をたてるが…。
 鬼才ピーター・ジャクソンが描く残酷で純粋な思春期の狂気。「乙女の祈り」ってタイトルだけを聞くと美しいものを想像するかもしれませんが…。いや、僕はこのタイトルと内容のバランスは好きですけどね。オープニングですでに結末がわかるんですが、それでもラストに起こる出来事が訪れるその瞬間がドキドキものです。ああ、ついに起こるぞ…っていうのがあって、言ってしまえば怖いんですが。思春期の心の揺れというものは誰にでもあるでしょうが、それが強烈すぎるとこうもなるのでしょうか。僕自身はそれをあまり理解できませんので、この二人に感情移入はしずらかったです(しかもこの二人は妙にハイテンションなので多少、置いてきぼりをくらいました)。が、空想から現実への狂気にかわっていくさまを描く過程は、とてもよくできてると思いました。怖いはずのものが、あからさまにそれらしく描くのではなくて、まさに乙女たちの祈りのような純粋さで描かれてるところがそう思わせるんでしょうか…。


踊る大捜査線 THE MOVIE
Bayside Shakedown
監督:本広克行
出演:織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、水野美紀、いかりや長介、ユースケ・サンタマリア
1998年日本/119分/配給:東宝

 基本的にTVドラマ版を一回も観たことがないのですが、そういう人間でもなかなか楽しめる出来だと思いました。細かい事件が複数並行するところで、ごちゃごちゃした印象もなきにもしあらずですが、むしろそれがこの映画の魅力なんだと思いますし。クソ真面目にひとつの大きな事件に取り組むよりも、あっちこっちであれこれやってるほうが面白いという。でも、あからまに有名映画のパクリとか入れているのはどうなんでしょか? と思わなくもないですけれど、話題性という点でいえばいいんでしょうね。誰が見ても楽しめる娯楽作としては及第点だと思います。ただ、あくまでTVドラマの延長版という感覚は抜け出せないですけど。でも、これを観てTVドラマ版もみてみてもいいかな、という気にはなりました。


踊る大捜査線 THE MOVIE2/レインボーブリッジを封鎖せよ!
Bayside Shakedown 2: Save the Rainbow Bridge
監督:本広克行
出演:織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里、水野美紀、いかりや長介、ユースケ・サンタマリア、真矢みき
2003年日本/138分/配給:東宝
公式サイト http://www.odoru.com/ チラシ 1234

 あれから5年、今や日本有数の観光スポットになったお台場。湾岸署には観光課も設置され、観光案内、交通整理に迷子にと大忙し。そんなある日、管内で殺人事件は発生、特別捜査本部が設置され、本庁からは初の女性管理官・沖田が派遣される。一方で連続スリ事件や婦女暴行事件など、複数の事件が多発するが……。
 いろいろ話題なのは既に誰もがご存知だと思うので、それは省くとして、まあ、それなりに面白かったです。これは間違いなく「踊る大捜査線だ!」と思える出来に、5年前にテレビシリーズにはまった人なら嬉しいだろうと思う。でも自分はブームに遅れて最初に劇場版の1作目を観て、それからテレビシリーズを観たという経緯があるため(全部レンタルビデオで)、どうも、そういった懐かしさのようなものはあまりなく。ただ、5年たってもやってることはあんまり変わりない…という印象。それが良いのか悪いのかわかりませんが、基本的には「踊る」は「踊る」であって、このスタンスを貫いているところはいいのかも。「キーワードは“増殖”」と亀山プロデューサーが言ってますが(しかし湾岸署内の人は増えすぎでしょ。普通あんなに警察署に一般人がごったがえしてるか? まぁ、そもそも観光課なるものが警察署にあるって時点で謎ですが。市役所じゃないんだし)、確かにスケールアップはしてる気がするんですよね、それなりにお金もかかっている感じがする。特にシネスコサイズの画面は、“映画”って感じがしてグッドです。新キャラで沖田というのがいますが、彼女は完全に悪役? 彼女は彼女なりの正義があったのかもしれないけれど、少なくともそれが描かれていたとは思えないんで、それがあればもっと深みが出たのに…。そこまで人間ドラマは求めてないってことですかね。これはこれで、ある種の勧善懲悪に近いものになるわけで、わかりやすいですけどね。ただ、事前にあれだけ情報統制を敷いていたからには、それなりのサプライズでもあってほしかったけど、やってることはそんなに今までと変わんないんで、これはすっかり宣伝戦略に乗せられてしまいましたな…。これから観る方は、あまり過度の期待はしないで、気軽に楽しみにしていくくらいが、最もこの映画を楽しめるコツかもしれません。自分はちと楽しみにしすぎたかも。いや、楽しかったですけどね、実際。「踊る」好きだから、あの面子の活躍を大スクリーンで観られて。
 しかし、まあ、エンディングロールで劇中で語られないキャラクターたちの舞台裏(?)をさりげなく語ったりとか、オープニングとか、細かいところまで凝っていて製作者たちの愛とファンサービスは十分に感じられる作品でした。そういう意味では、ヒット作だけど、客に媚びてるんじゃなくて、客と一緒に楽しもう…っていう気概は感じられる気がしました。


オペラ座の怪人
The Phantom of the Opera
監督・脚本:ジョエル・シュマッカー 製作・脚本・音楽:アンドリュー・ロイド=ウェーバー 原作:ガストン・ルルー
出演:ジェラルド・バトラー、エミー・ロッサム、パトリック・ウィルソン、ミランダ・リチャードソン、ミニー・ドライヴァー
2004年アメリカ+イギリス/140分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.opera-movie.jp/ チラシ 12

 1870年代、パリのオペラ座は華やかな舞台でにぎわっていたが、一方で謎の怪人“ファントム”による奇怪な事件が頻発していた。そのファントムを、亡き父が授けてくれた“音楽の天使”と信じる美しく若いクリスティーヌは、やがてプリマドンナへと上り詰め、幼馴染みの青年貴族ラウルとも再会し、恋に落ちる。しかし、その様子を目にしたファントムは……。
 全世界で8000万人が観劇し、今なお各地で上演され続けているアンドリュー・ロイド=ウェーバーの傑作ミュージカルを完全映画化。ロイド=ウェーバー自身が深く関わっているので、舞台版をほぼ再現したといっていいほどに忠実に作られているそうで、近年の『ムーラン・ルージュ』や『シカゴ』といったミュージカル映画のような斬新さはないものの、これでもかというほどの豪華絢爛で贅沢な美術やセット、100人を超えるフルオケによる圧巻の音楽などは、140分の長尺を忘れてミュージカルの世界に陶酔させてくれることは間違いない。台詞はほとんどなく、完全にミュージカルなのだが、舞台では再現できない場面転換やケレン味にあふれる豪華な舞台美術や、時に画面を縦横に駆け巡り、時に登場人物に肉薄し、表情を余すことなく映し出すカメラ……といった具合に、映画的な、映画ならではの醍醐味にも溢れ、まさに一粒で2度美味しい、素晴らしい出来。とにかく圧巻で、ミュージカルとかこうしたものが好きな人は十分、その世界に浸れるのではと。


おもひでぽろぽろ
Memories of Teardrops
監督・脚本:高畑勲 製作プロディーサー:宮崎駿
声の出演:今井美樹、柳葉敏郎、本名陽子
1991年日本/118分/配給:東宝

 27歳の独身OLタエ子が、休暇をとって山形の田舎へ帰る。その道中や田舎の生活の中で、タエ子は、小学5年生の頃を回想し、今の自分を 見つめなおす。
 この映画のメインターゲットはどの年齢層においているのだろうかと疑問。少なくとも、若者向けではないと思うのですが。いや、若者に向けて 発したものかもしれませんが、それも的を得ていないような気がします。悪く言うと、全編を通して、押し付けがましい説教くさい懐古主義の 塊で、ストーリーや人物の台詞、描写など全てがそれ一色。正直言って、ここまでやられるとうんざりしかねません。確かに、大切なものは何か訴えたいことはわかります。ですが、それがあからさますぎると、本来理解できるものも、精神的反発から理解できなくなってしまいかねないと思います。小学校の描写など、自分もちょっとは懐かしく感じる部分もなきにしもあらずなのですが……。それにしても、監督の自己満足的な 懐古主義がこれでもかというくらいに感じられてしまっていただけませんでした。もっと純粋なストーリーの中に、メッセージを込めることこそがストーリーテラーとしての手腕ではなのではないでしょうか…なんて思ったりします。褒めるとすれば、小学生たちの絵がかわいいことと、線や色使いがきれいなことですかね。


オリバー・ツイスト
Oliver Twist
監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロナルド・ハーウッド 原作:チャールズ・ディケンズ
撮影:パベル・エデルマン 音楽:レイチェル・ポートマン
出演:バーニー・クラーク、ベン・キングズレー、ハリー・イーデン、ジェイミー・フォアマン、エドワード・ハードウィック、リアン・ロウ
2005年イギリス+チェコ+フランス+イタリア/129分/配給:東芝エンタテインメント、東宝東和
公式サイト http://www.olivertwist.jp/

 19世紀イギリス。孤児オリバー・ツイストは夕食のおかわりを求めたために救済院を追い出され、一度は葬儀屋に引き取られるものの、理不尽な扱いを受けたオリバーは、一路70マイル彼方の大都会ロンドンに旅立つ。ロンドンにたどり着いたオリバーは、心優しい盗賊フェイギンに拾われるが……。
 19世紀英国の文豪チャールズ・ディケンズの名作を、『戦場のピアニスト』でオスカーを獲得したロマン・ポランスキー監督が映画化。19世紀の街並みを再現したセットなどに見応えはあるが、物語はあくまで「オリバー・ツイスト」。原作は読んでいませんが、正直なところ、語り継がれる良書を2時間に手際よくまとめたという印象くらい……。原作や過去のドラマ版や映画版と比較すれば、また違いや面白みもわいてくるかもしれませんが、『戦場のピアニスト』のように真に迫ってくるものはなく。金持ちが裕福な暮らしをして、貧乏人がそのあおりを受けるというテーマはあるといいますが、現代の日本で普通の暮らしをしている人間には、なかなか伝わりにくいのでは……と。見るべきところはフェイギンを演じたベン・キングズレーで、姿も声も普段からは想像もつかぬ怪演。そんな彼とオリバーの別れとなるラスト5分が唯一の泣き所か。
☆☆☆★★


女と女と井戸の中
The Well
監督:サマンサ・ラング 脚本:ローラ・ジョーンズ
出演:パメラ・レイブ、ミランダ・オットー、ポール・チャッブ
1997年オーストラリア/102分/配給:アスミック・エース

 オーストラリアの田舎で長年、父と2人で暮らしていた独身の中年女性ヘクターのもとに、家政婦としてやってきたキャサリン。孤独だったヘクターと若いキャサリンの間には、次第に母娘の友愛にも似た関係が生まれていく。そんなある日、ヘクターの父が他界し、巨額の遺産を引き継ぐ。そのお金で、ヨーロッパ旅行を計画する2人だったのだが……。
 それぞれに孤独を抱えた2人の女性の愛情や嫉妬が綴られる物語だが、なんといっても、その独特の“青い”映像がお見事。田舎の寂れた風景と、2人の微妙な心情とあいまって、その寒々しい青がなんとも言えず。とってもクールで、かつ女2人のちょっと妖しい感情の交錯も非常に微妙に描かれていてグッド。何気にこれ、監督も脚本家も撮影監督もプロデューサーもみんな女性で(原作者も女だ)、そう考えると、女性だからこその雰囲気を感じなくもない。うまく言い表せないけど。男だったら、ここまで女の心情をある意味冷徹に突き放して描くことはできるだろうか?と。女性だからこそ理解できる感情と、それを表せる手法があるんじゃないかなーと。あと、世間で言われてますけど、この邦題は素晴らしいですね。怪しさ満点。原題のただの「The Well(井戸)」だけど、これは邦題のほうがよく出来てる。