ヴァージン・スーサイズ
The Virgin Suicides
監督・脚本:ソフィア・コッポラ 製作:フランシス・フォード・コッポラ
出演:キルステン・ダンスト、ジョシュ・ハートネット
1999年アメリカ/98分/配給:東北新社

 フランシス・F・コッポラの愛娘、ソフィア・コッポラの監督デビュー作。美しいリズボン家の5人姉妹は、町の男の子たちの憧れでもあった。しかし、どこか謎めいた姉妹の末娘セシリアが、手首を切って自殺未遂。一命は取り留めたものの、数日後、自宅で開かれたパーティの最中に、彼女は自室から飛び降りて自殺した。残された4人は、やがて日常を取り戻したかのようにみえたが…。
 複雑で揺れ動く思春期の少女たちの心を描くガールズムービー。淡々と、それでいて衝撃を残す物語は結構好きかも。主人公はあくまで残された4人姉妹であり、その四女ラックスであるのですが、彼女たちをみつめる4人の少年たちのナレーションで物語が進められるので、視点がぼやけた感じがします。少女たちが主人公なのに、物語るのは少年たち。じゃあ、少年たちのことは何か描かれるかといえばそうではなく。少女たちのことを描いていながらも、ナレーションは少年側なので、何か隔たりがあります。そこに何かぼかしたもどかしさを感じなくもないのですが、これは意図的なのかもしれません。揺れ動く思春期を描く、とはいえ、はっきりとした命題の提示や解決があるわけでもありません。最初から最後まで、もやもやとした不安定さが全体を覆っているのは、それ自体が、“思春期の心情”というものを表しているのかもしれません。それはそれで上手だと思いますが、人によってはひどく退屈に感じてしまうかも…。僕はわりと好きでしたが、この雰囲気が。何がいいたかったのか? この少女たちの心理が理解できない…なんて声もあるでしょうが、それでよいのかもしれません。冒頭で自殺未遂になったセシリアに「まだ人生のつらさも知らない歳じゃないか」という医師に対し、セシリアは「でも先生は13歳の女の子になったことはないでしょう」と言います。この映画のテーマって、この一言に集約されてるような気がします。結局、わからないものなんじゃないかと。何が悲しいのか、何が耐えられないのか、何がそんなに生きるのにつらいのか。人は、若いがゆえに悩み、若いゆえにその悩みに押しつぶされるということもあるでしょう。それを描きたかっただけなのかもしれません。それにしてもなんですね、5人姉妹の四女であるはずのキルステンが、一番年上に見えますよ。美人だからいいけど。


ヴァン・ヘルシング
Van Helshing
監督・製作・脚本:スティーブン・ソマーズ
出演:ヒュー・ジャックマン、ケイト・ベッキンセール、リチャード・ロクスバーグ、デビッド・ウェンハム、シュラー・ヘンズリー、ウィル・ケンプ
2004年アメリカ/132分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.vanhelsing.jp/  チラシ 123

 19世紀のヨーロッパ。ヴァチカンの秘密組織から特命を受け、世にはびこるモンスターを闇に葬るモンスター・ハンターのヴァン・ヘルシングに下された新たな任務は、人間社会を脅かす存在のドラキュラ伯爵を抹殺することだった。ドラキュラ伯爵が住まうトランシルバニアに赴いたヴァン・ヘルシングは、その地で代々ドラキュラたちと戦い続けていたヴァレリアス一族の末裔であるアナ王女と出会い、共にドラキュラ伯爵と戦うことになるが……。
 ドラキュラ、フランケンシュタイン、ウルフマンという、往年のユニバーサル映画を支えたモンスター映画の怪物たちが一堂に会して、そこにモンスター・ハンターのヴァン・ヘルシングを登場させ、うまい具合に絡ませているのはいい……が、それ以外は始終ドタバタしているだけで、なーんにも残らないというか。ユニバーサル映画史上最高の製作費をつぎこんで作ったらしく、また、VFXを担当しているのはILMだから、確かに映像はスゴイ。でも、それだけだし、スゴイのはわかるけどくどい。なんかアクションやって、次の場面にいってまたアクションやって、次に移ってまた……という感じでどうもね。しかも、アクションといっても、あんまりカッコいいと思う見せ場もなかったしなぁ。ボウガンを撃ちまくってるだけだし、いろいろ小道具をもってそうなのに、結局あんまり出てこない。謎解きもなにも、目的地に行けば次々と勝手に謎が解かれていく感じで、なーんも考えてない感じの展開。主人公は記憶をなくしているという設定だけど、それに苦しんでいる様子も伝わってこないし。『スパイダーマン』みたいに人間ドラマがさっぱりできていないので、メリハリもなく、2時間以上の長い上映時間をひたすら過激なVFXの嵐にさらされているだけといった印象。モンスターの造形は結構よかったんだけど、ドラキュラの花嫁たちはうるさいし……。正直ちょっと疲れたなぁ。使っている役者も悪くないのに。救いはケイト・ベッキンセールの美しさを眺められていたということか。


ウィズ・ユー
Digging to China
監督:ティモシー・ハットン
出演:エヴァン・レイチェル・ウッド、ケビン・ベーコン、メアリー・スチュアート・マスターソン
1997年アメリカ/99分/配給:セテラ

 1960年代後半、ペンシルバニアの小さな田舎町でモーテルを経営するアル中の母と、男遊びの絶えない姉と3人で暮らす10歳の少女ハリエット。夢見がちな彼女は、自分を理解してくれる人を探していたが、ある時モーテルにやってきた知的障害をもつ青年リッキーと互いに理解しあえる仲であると気付く。
 風変わりな家庭環境のせいで(?)空想がちな少女と、知的障害のある青年の心の交流を描くドラマ。とっていも、そんなに重たくはなく、結構淡々として物静か。こういううるさくない“雰囲気”はとても好き。でもなんか、ハリエットとリッキーが本当に心から理解しあえていたのかはわかりづらいような。ハリエットが悩んだりするシーンはよく描かれているんだけど(お姉さんとの関係とかね)、リッキーのほうはなんだか描き方が曖昧な感じ。リッキーという人物をどう描こうか迷いながら進めているうちに終わっちゃったって感じです。そしてなにより、ケビン・ベーコンが……あんまりリアルじゃないんですよね。「ああ、演技してんだなー」って“くささ”を感じてしまって、やや引き。ダスティン・ホフマンやジョン・マルコヴィッチ、レオナルド・ディカプリオには負けてますね、残念ながら。しかーし、主演のエヴァン・レイチェル・ウッドがかわいかったので良し。いや、ホントに良かった。演技もね。


ヴィドック
Vidocq
監督・脚本:ピトフ キャラクターデザイン:マルク・キャロ
出演:ジェラール・ドパルデュー、ギヨーム・カネ、イネス・サストレ
2001年フランス/98分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.vidocq.jp/ チラシ 1

 「ロスト・チルドレン」「エイリアン4」などのジュネ監督作品でビジュアルエフェクトを担当していた映像作家ピトフの初監督作品。同じく「デリカテッセン」「ロスト・チルドレン」でジュネと組んだマルク・キャロがキャラクターデザインを担当している。1830年、パリ。街中にヴィドックの死を知らせる新聞が飛び交った。元は名をはせた大泥棒で何度も脱獄をするうち、その腕を買われて警察から特殊捜査の任を受けるようになった男で、今は私立探偵としてパリのヒーローとなった男、ヴィドック。彼が謎の“鏡の顔を持つ男”を追いかける捜査の中で、死亡したという。落胆するヴィドックの相棒ニミエの前に、作家のエチエンヌという若者が現われる。彼は、ヴィドックに依頼され、彼自身の伝記を執筆していたという。是非ともヴィドックの死の真相を知りたいというエチエンヌ。彼はニミエの話を皮切りに、独自の調査を開始するが…。
 もともと映像が凄いって評判だし、「ロスト・チルドレン」などのスタッフがこれだけ関わっているとなれば、だいたい予想できたものだけど、確かに映像は納得の出来。全編を通してデジタルカメラで撮影され、さらにデジタル加工された画面は見事。やはり、あの独特のこってり感も十分にあって、あぁなるほどな…と思う。ストーリーのほうは、割とわかりやすくて混乱することはないと思います。ただ、個人的に犯人の正体のことや、簡単に捜査の証言が得られてしまうのはちょっと満足とはいかないが、まぁ良いでしょう。なにしろ、圧倒的な映像とスピーディーな展開で十分、魅せられたものですから。19世紀パリの街並みがCGでよく表現されているけど、むしろ、史実的というよりはファンタジー……あるいはゲーム的といったほうが的確かもしれない。犯人を探し出す捜査、怪しげな館、鏡の仮面をつけた黒マントの男、派手な格闘アクションシーン……これらをみると、僕はRPGやアドベンチャーゲームのような感覚に近いものを覚えました。画面の中に純然たる世界を構築するということと、その中で展開される娯楽的ストーリー。これは最近の表現がリアルになったTVゲームにも共通してるんじゃないかな、と思いました。
 見終わってみると、で、結局なんだったわけ…という部分も残るのですが、先述したように、この映画では映像とスピーディーな物語展開が楽しめればそれでよいかな、と思って。特にこういう濃いデジタル表現が好きならば、結構満足できるんじゃないかと思います。ストーリーとしてはちょっと不足気味に感じても、その映像や、アクション――でっぷりとした体格のドパルデュー(ヴィドック役)の格闘は熊が戦ってるみたいで迫力ある――が楽しめれば良いでしょう。後には映像以外なーんも残らないけど。僕はそれでかなり楽しめたので、評価もちょっと贔屓目にしてみました。ちなみにヴィドックっていう人物は実在したそうで、フランスでは有名らしい。私立探偵という職業を確立したのも彼だそうです。


ヴィレッジ
The Village
監督・製作・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ホアキン・フェニックス、ブライス・ダラス・ハワード、エイドリアン・ブロディ、シガニー・ウィーバー、ウィリアム・ハート、マイケル・ピット
2004年アメリカ/108分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.movies.co.jp/village/ チラシ 12

 19世紀、ペンシルバニア州にあるその村は、深い森に囲まれ、外界から完全に遮断されていた。村人たちはひとつの家族のように共同体を営み、平和な日々を暮らしている。しかし、村を囲む森には魔物が住むといわれ、村人たちは絶対に破ってはならない掟――「その森に入ってはならない」「不吉な赤い色を封印せよ」「警告の鐘に注意せよ」――を遵守していた。しかし、村のひとりの青年と彼を慕う娘によって、掟が破られようとしていた……。
 『シックス・センス』は正直に驚いたけど、いつの間にこうなってしまったのか? シャマランよ……。『アンブレイカブル』はパッとしなかったし、『サイン』はB級テイストがプンプンでもはやそれが笑いの種になって楽しめたけど……。まあ、詳しくは語れないし、「ストーリーの詳細については明かさない」という誓約書を書いた上で試写を観たので、ストーリーの詳細には触れませんし、やはりネタバラシをしてしまっては面白くはないので、この映画に関しては何も知らずに観たほうがいいかもしれません。以下ネタバレではありませんが、鑑賞の心得(?)といいますか――これも読みたくない人は読まないでください(ということで、読みたい人だけマウスでドラッグしてください)→基本的に『サイン』の延長線上と思えばよいです。最初からそうだとわかって観ていればいいわけだし、そもそも、もうこの監督にそこまで騙される人はいないでしょ。これまでの作品とその宣伝戦略を見ていれば。だから、今回も基本は同じ。自慢じゃないが、今回はさすがにほぼ予測できたよ、ラストが。これにマジで怒るか、笑い飛ばせるかは人それぞれ。『サイン』の時は後者だった僕ですが、今回もまあ、まだ後者よりかな……。だけど、いつ来るかと思ってワクワクしながら見ていた「笑い所」も、今回はそれほど笑えず。さすがに同じことの繰り返しに感じられてきて、おいおい次はどうするんだヨ……って気持ちが大きいですね。別にこの作品がどうだったというよりも。これまでに稼いだ金で隠居生活でもしますか? あるいは監督を辞めてプロデューサーとか。←と、まあ、なんだかんだ言いつつも、こういうところ全て含めて堂々とやってのけてしまうところが、この監督のスゴイところであり、楽しみ方でもあるんだが……。
 それから本作で映画に本格的初出演でいきなり主役を演じているブライス・ダラス・ハワードは、ロン・ハワードの娘だけど、これはなかなかよいんじゃないでしょうか。今後に期待できるかも。もともとはキルスティン・ダンストが演じる予定だった役ですが、彼女よりはこの作品には向いてる感じ。


ヴェニスの商人
William Shakespeare's The Merchant of Venice
監督・脚本:マイケル・ラドフォード 撮影:ブノワ・ドゥローム 音楽:ジョスリン・プーク
出演:アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジョセフ・ファインズ、リン・コリンズ
2004年アメリカ+イタリア+ルクセンブルグ+イギリス/130分/配給:アートポート
公式サイト http://www.venice-shonin.net/

 16世紀のヴェニス。貿易商のアントーニオは、親友のバッサーニオが美しき令嬢ポーシャと結婚するために必要な大金を、ユダヤ人の高利貸シャイロックから借りるための保証人になる。シャイロックは期限内に返済できなければ、アントーニオの身体から肉1ポンドをもらうという条件をつけるが……。
 シェイクスピアの戯曲「ヴェニスの商人」を、『イル・ポスティーノ』のマイケル・ラドフォードが映画化。基本的に原作どおりではあるが、シャイロックについての解釈に独自のものがある……らしい。というのも、自分は原作の戯曲を知らないため(もちろんタイトルは知ってるが観たり読んだりしたことなかったので)、なんともいえないが、人種差別による人の無情な憎しみが悲痛に描かれており、またそれを体現したアル・パチーノの熱演は見ものだったと思う。シャイロックに突きつけられた哀しい現実に、バッサーニオらの甘い現実の対比が切ない。おそらく原作に忠実であるがゆえに、台詞まわしなどがややまどろっこしくて尺も長めだが、壮麗な衣装やセットも見ごたえあり。
☆☆★★★


ウェルカム・トゥ・サラエボ
Welcome to Sarajevo
監督:マイケル・ウィンターボトム 脚本:フランク・コットレル・ボイス
出演:スティーブン・ディレイン、エミラ・ヌシェヴィッチ、ウディ・ハレルソン、マリサ・トメイ、ケリー・フォックス、ゴラン・ヴィシュニック
1997年イギリス+アメリカ/105分/配給:アスミック・エース

 戦時下のサラエボにやってきたイギリス人ジャーナリストのマイケルは、前線にある孤児院を取材することになる。そして、そこで出会ったエミラという少女に心を動かされ、「いつかここから連れ出す」と約束するが……。
 ところどころに実際のニュース映像を交えて現実感を出す一方で、物語も割りと静かに進むので、ちょっと中途半端という意見もあるけれど、個人的にはとても好きだ。リアルな現実をまざまざと見せ付けられたマイケルが、子ども達を助けたい、助けなければいけないという気持ちにとらわれるようになるに、前線で犠牲になっていく力のない市民たちを目の当たりにすること以上に必要なことはないでしょう。エミラを連れて行く過程とその結果には、悲しい出来事も起こるけれど、それも大仰な演出などなく、あたかもそれが現実であるかのように描かれる眼差しは、だからこそ真摯に受け止められるものだと思った。ちなみにこれ、実話に基づくお話。戦争ではこういう悲しみが際限なく繰り返されているということです。


WALKABOUT 美しき冒険旅行
Walkabout
監督・撮影:ニコラス・ローグ 脚本:エドワード・ボンド 音楽:ジョン・バリー
出演:ジェニー・アガター、リュシアン・ジョン、デビッド・ガルピリル
1971年イギリス/101分/配給:ケイブルホーグ、日本スカイウェイ
公式サイト http://www.cablehogue.co.jp/walkabout/ チラシ 12

 都会暮らしの14歳の姉と6歳の弟は、父親に連れられてオーストラリアの砂漠を車で横断中、不測の事態から2人きりになってしまう。果てしない大地を歩み始めた2人は、水も食糧も尽きかけたとき、ひとりのアボリジニの少年と出会う。部族の習慣に則り放浪の旅をしていたその少年は、姉弟に水や狩りで獲った肉を与え、ともに歩み始める。言葉の通じない姉弟と少年だったが、次第に家族のような絆が芽生えていく……。
 『地球に堕ちた男』のニコラス・ローグ初監督作品で、カンヌ映画祭コンペティション部門出品作。72年、『美しき冒険旅行』のタイトルで、1週間だけ日本でも限定公開された幻の作品が、2004年、初公開時より5分長い101分のオリジナルバージョンでリバイバル。もともとは撮影監督として活躍していたローグ(トリュフォーの『華氏451』など)なだけに、撮影は素晴らしいです。子ども2人が過酷な環境に放り出されたという危機的な状況にも関わらず、それとは対照的にカメラは自然のあるがままの姿を捉え続ける。荒地に生きる生物たちの姿――何もないようにたたずんでいたり、捕食したり、時には死骸であったり――を、随所に挿入することで、姉弟の置かれた環境の厳しさや、砂漠の中に湧いたオアシスでの一時の休息をより強く印象付けていると思う。そして出会ったアボリジニの少年との道程で、幼い弟は柔軟な適応力を見せて彼の野生的な生き方に順応していく一方で、思春期の姉は、少年に惹かれながらも一線を引く。閉鎖された炭鉱に住んでいた男は、助けを求める姉弟に冷たかったが、それに反して優しさとおおらかさに溢れるアボリジニの少年は、文明社会へのちょっとした揶揄に見えなくもなくて、ちょっと心に響くものがありました。


ウォーク・ザ・ライン/君につづく道
Walk the Line
監督・脚本:ジェームズ・マンゴールド 脚本:ギル・デニス 原作:ジョニー・キャッシュ
撮影:フェドン・パパマイケル 音楽:T=ボーン・バーネット
出演:ホアキン・フェニックス、リース・ウィザースプーン、ジニファー・グッドウィン、ロバート・パトリック、ダラス・ロバーツ
2005年アメリカ/136分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/walktheline/

 貧しい農家にジョニー・キャッシュは、優しい兄ジャックが不慮の事故で他界し、心に深い傷を負う。やがて成長したジョニーは初恋の女性ヴィヴィアンと結婚するが、仕事はうまくゆかず、趣味のバンド活動にのめりこむ。ヴィヴィアンとの間にも深い溝ができる中、念願のプロミュージシャンとして活動を開始したジョニーは、少年時代の憧れ、ジューン・カーターと出会う。
 アメリカでいまも絶大な人気を誇るカントリー歌手ジョニー・キャッシュと、その妻ジューン・カーター(ともに2003年に他界)の10年に及ぶ愛の軌跡を、『17歳のカルテ』のジェームズ・マンゴールドが映画化した伝記ドラマ。主演のホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンは、ともに生前のキャッシュ夫妻から直々指名されたキャスティングとかで、歌もすべて彼ら自身が披露。その歌声、パフォーマンスは一見(一聴?)の価値ありだ。不幸な生い立ち→成功→挫折→復活といった過程は、ありきたりといえばありきたりだが、これが真実なわけだし、そうだからこそドラマになるわけで、物語にあまり新鮮味や驚きがなく、全体として可もなく不可もなく……といったところが正直な感想なんだけど、それでも手堅くまとめた演出となにより主演2人の好演が好感度大な1本でした。映画のなかでは描かれないが、ジューンのほうもそれなりに苦労しているはずだろうが、結局最後はそんな彼女に入れ込むジョニーを受け入れるジューンの懐の大きさが温かいなぁ……と。
☆☆★★★


宇宙戦争
The War of the Worlds
監督:バイロン・ハスキン 製作:ジョージ・パル 原作:H・G・ウェルズ
出演:ジーン・バリー、アン・ロビンソン、レス・トレメイン、ロバート・コーンスウェイト
1953年アメリカ/85分/配給:パラマウント

 ロサンゼルス郊外に突如飛来した隕石の中から、謎の円盤が出現。次々と街を焼き払っていく。円盤の軍団は世界中に都市に現れ、各国の軍隊が抵抗するも、その圧倒的な科学力の前に人類は成す術もなかった……。
 H・G・ウェルズの傑作SF小説を原作にしたSF映画の金字塔。アカデミー賞特殊効果賞を受賞しただけあって、50年も前の作品とは思えない迫力があり、加えて軍隊の出撃や攻撃シーン、パニックに陥る人々や暴徒と化す群衆などの物量もスゴイ。若干ネタばれになってしまうが、人類の科学力すら通じない相手を倒すのが、ごくごく小さななんでもない自然の力であるという皮肉な現実もなかなか。どのくらい原作通りなのかわからないが。


美しい夏キリシマ
A Boy's Summer in 1945
監督・脚本:黒木和雄 製作:松田正隆
出演:柄本佑、小田エリカ、石田えり、香川照之、牧瀬里穂、左時枝、平岩紙、倉貫匡弘、山口このみ
2002年日本/118分/配給:パンドラ
公式サイト http://www.pan-dora.co.jp/kirishima/

 1945年8月、宮崎県の霧島地方。15歳の康夫は働いていた工場で空爆にあい、目の前で親友を見殺しにしてしまう。それ以来、生き残ったことに罪悪感を感じて身体も壊してしまい、故郷であるこの地に療養に来ていたのだが。
 1988年『TOMORROW/明日』に続く黒木和雄監督の戦争体験を描いた群像劇。前作同様、本作でも描かれるのは、あくまでも戦時下における人々の日常で、直接的な戦闘シーンなどの描写はもちろんない。ただ、登場人物の生活や背景には、逃れられない“戦争”という大きな暗く重たい影がのしかかっている。それを抱えながら生きる人々の生き様が、美しい自然のなかで描かれるわけだ。前作と同じテーマ曲が使われていて、直接的な物語のつながりはまったくないけど(描いている時期は8月9日前後で同時期だが)、共通したテーマ性が感じられて良かったです。


海の上のピアニスト
The Legend of 1900
監督・脚本:ジョゼッペ・トルナトーレ 音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス
1999年イタリア+アメリカ/125分/配給:アスミック・エース

 1900年、欧米間を行き来する大型豪華客船の中で、一人の赤ん坊が捨てられていた。生まれた年にちなんで“1900(ナインティーン・ハンドレッド)”と名づけられた彼は、船の中で成長していく。船のダンスホールで音楽を聞くうちに、ピアノの才能を発揮しはじめた彼は・・。生涯を船の中で過ごした伝説のピアニストの物語。なんだか、トルナトーレ監督にしては派手めですが、物語自体は素直に感動できるものでした。ナインティーン・ハンドレッドのちょっと不思議な人柄を演じるティム・ロスも、ぴったりだったし。何よりやはり音楽が良いです。ピアノ対決のときの音楽などを聴くだけでも、価値があるんじゃないかなぁ。特に僕のような音楽好きには。ナインティーン・ハンドレッドの生き方、価値観などは、特殊な環境下で育った彼ならではのものなので、ちょっと現実感には欠けるのですが、実は、そうでもない何かを代弁しているようで、心に染み入るものがありました。


海辺の家
Life as a House
監督・製作:アーウィン・ウィンクラー
出演:ケビン・クライン、ヘイデン・クリステンセン、クリスティン・スコット=トーマス、ジェナ・マローン
2001年アメリカ/126分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.umibenoie.jp/ チラシ 12

 建築家でCGで設計図を書くようになった今でも、昔ながらの方式を変えないジョージは、癌で余命3〜4ヶ月と宣告された。折りしも、会社からは解雇され、残りの人生となる最期の夏、息子とともに家を建てることを決意する。妻とは10年前に離婚、息子のサムは彼を憎み、すさんだ生活を送っていたが、彼を無理矢理連れ出し、海辺にたっている古い家を取り壊し始める。そして、別れた妻、ロビンも次第に彼を手伝うようになり、絆を取り戻していく。
 父と子のドラマとして主に宣伝されている作品ですが、それだけではなく、妻と夫、母と子の絆も描かれています。家を建てる過程を通し、次第に心に柔らかさが戻っていくのがわかる、とても温かい作品でした。わかりやすいドラマではありますが、細かい人間関係の描き方が好き。さらに綺麗な海や夕焼け。登場人物も、心にわだかまりや悩みを抱えているけど、根は優しい人たちだから、物語が進むにつれて、互いを好きになっていく…昔は好きだったのだから、その昔のあるべき姿に戻っていく人物たちを見るのがとても清々しく、美しい海辺の風景とともに、爽やかな感動を残してくれます。誰もが涙する不朽の名作、というわけではないと思いますが、好きな人にとっては好きな作品であろう秀作。拡大系で公開されましたが、こういうのだったら単館公開でもいいんじゃないかなぁ(実際、興行的にはそれほど芳しくなかったので)。あまり目立つ作品ではないけど、心地よく癒してくれる隠れた一品です。


海をみる
Regarde la Mer
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:サーシャ・ヘイルズ、マリナ・ドゥ・ヴァン
1996年フランス/52分/配給:ユーロスペース

 海の美しい島に暮らすサーシャは、パリで働く夫の帰りを待ちながら10カ月の娘と2人で静かな日々を送っていた。そこへタチアナというバックパッカーの若い女性が現れ、2〜3日間、庭先にテントを張らせてくれというが……。
 美しい自然に囲まれながらも静かに紡がれる人間の黒い意思とでもいうべきか。いつなにが起こるのかといった不安感を募らせたまま最後に至る展開は、オゾンの作風を知っていればいるほど、納得のいくもの。


埋もれ木
The Buried Forest
監督・製作・脚本:小栗康平 脚本:ジェームズ・グレイ
出演:夏蓮、登坂紘光、浅野忠信、坂田明、大久保鷹、田中裕子、平田満、岸部一徳
2005年日本/93分/配給:ファントム・フィルム
公式サイト http://www.umoregi.info/ チラシ 1

 ある田舎町に暮らす女子高生のまちは、友人たちと空想の物語をリレーしていく遊びに興じていた。一方、町の大人たちにはそれぞれの日常があり、日々は淡々と流れていく。そんなある日、大雨でゲートボール場の崖が崩れると、古代の火山噴火で生きたまま地中に埋まっていた“埋もれ木”が出現する。
 デビュー作『泥の河』などで高い評価を得ている小栗康平監督が描くファンタジー。舞台は現代のとある片田舎の町なのだけれど、これはまぎれもなくファンタジー。一応のストーリーはあるようでないようで、空想の物語を語る主人公まちやその友人たちといった子どもたちの日常と、町に暮らす大人たちの日常が淡々と静謐に描かれていくだけ。ただ、その切り取り方が実に絶妙というか、どこにでもありそうで、今や失われてしまったかのような懐かしさも感じられる田舎町や自然の風景、そこに流れる音や空気……そうしたものが、あたかも現実と虚構の狭間に揺れるような幻想的な雰囲気を感じさせる(特にラスト近くの埋もれ木の森と、そこに浮かぶ紙堤燈の描写は、この上なくファンタジック)。あまりに静かで眠たくなることもあるが、雰囲気はものすごくいいし、例えば暑い夏の時がふと静かで涼しい時に変わってしまうような……そんな独特の魅力をもった映画です。
☆★★★★


裏切り者
The Yards
監督・脚本:ジェームズ・グレイ
出演:マーク・ウォルバーグ、ホアキン・フェニックス、シャーリーズ・セロン
2000年アメリカ/115分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.asmik-ace.com/Yards/ チラシ 1

 仲間をかばって窃盗罪で服役していたレオが1年4ヶ月の刑期を終えて出所。病身ながらも女手ひとつで育ててくれた母に、これ以上苦労はかけまいとまじめに人生をやり直す決意をするレオは、地下鉄工事などを請負う大手企業を経営する叔父フランクに仕事をもらうことになっていた。レオの親友ウィリーもフランクの片腕として働いており、しかも彼はレオの従妹エリカと将来を誓っている。ある日、レオはウィリーに連れられ地下鉄工事の入札に立ち会うが、しかし、そこは汚職や贈賄、陰謀の渦巻く社会の暗部であった。やがて、そこから端を発した思いがけない事件がレオやウィリーの歯車を狂わせてゆく…。実在の汚職事件を描いた社会派サスペンスドラマ。
 この映画はキャスティングがまず良いですね。主演の3人も当然のことながら、脇に豪華なベテラン陣を配しているので、社会派ドラマとしての厚みというかリアリティがあると思います。割と激しい感情の発露などはあまりなく、淡々と、それでいて全体的に重厚な雰囲気に 引き込まれていきます。残念な点としては、設定で“レオは仲間をかばって服役していた”とありますが、それがどういう意味があったのかということや、ウィリーが“おまえは白人にはなれない”と挑発されているけど、彼はそういうところに劣等感をもっていたのか(さらにそれが彼の行動原理と関係あったのか)、などがよく描かれてなくてわかりづらかったということでしょうか。登場人物の過去をもうちょっと描いてくれればな、と思いますが、そうするとまた印象も違ったものになってしまうでしょうか。実在の汚職を描いたドラマではありますが、そうした社会の暗部のことよりも、役者たちの好演による、登場人物の心情がよく表れた作品だと思いました。


うる星やつら オンリー・ユー
Urusei Yatsura 1: Only You
監督・脚色:押井守 脚本:金春智子 原作:高橋留美子
声の出演:平野文、古川登志夫、島津冴子、神谷明、鷲尾真知子、千葉繁、榊原良子
1983年日本/80分/配給:東宝

 押井守の劇場映画監督作品の1作目として観ました。それまで「うる星やつら」は原作も特に読んだことなかったし、テレビシリーズも観たことがありません。まあ、一般知識として知っている程度。なので、このテレビをそのまま拡大したような1作目は、まあそれなりに楽しめるね、というくらい。ただ、舞台が宇宙に移ってまがりなりにも艦隊戦を繰りひろげっちゃったりするところは、ちょっと押井守ならではのSF好きなところが入ってるのか? 監督自身も「テレビを拡大しただけで映画としては失敗作」と名言してる作品だけど(当初は他の人が作っていたのを嫌々引き継いだというエピソードもある)、最後にちょっと見せられるエルの心情とかは、結構侮れないんじゃない?って思ったり。彼女の悲しみ、想いは、結局誰にも理解されなかったんじゃないかなぁ。


うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
Urusei Yatsura 2: Beautiful Dreamer
監督・脚本:押井守 原作:高橋留美子
声の出演:平野文、古川登志夫、島津冴子、神谷明、鷲尾真知子、千葉繁、藤岡琢也
1984年日本/98分/配給:東宝

 押井守の名を轟かせた傑作アニメ。前作で失敗したと痛感した監督が好き勝手にやらせてもらうことを条件に作った劇場2作目。この作品でいわゆる押井守の作家性が開花。延々と繰り返される学園祭前日とそれに気がついた者たちが謎を解明しようと飛び出したところ、彼らの前につきつけられたそれは現実か虚構か!? 「うる星やつら」の世界観とキャラクターを活かしつつ、なおかつ自分の世界を築いてしまった押井はやっぱすごいと。原作者や原作ファンは、劇場1作目のほうが良かったらしいけど、そんなことおかまいなしに自分の哲学を貫いてしまうという……。個人的にも、これは「うる星やつら」に興味がなくてもOK。かなり楽しめるし、好きだし、何度も観たいと思う。押井作品でも上位になることは間違いない。


運動靴と赤い金魚
Bacheha-Ye Aseman
監督・脚本:マジッド・マジディ
出演:ミル=ファルク・ハシェミアン、バハレ・セッデキ
1997年イラン/88分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.asmik-ace.com/ChildrenOfHeaven/

 修理したばかりの妹ザーラの靴をなくしてしまったアリ。貧しい家庭で、新しい靴を買ってもらうこともできない兄妹は、仕方なく親にだまって、毎日一組の靴を交代で履いていた。そんな時、マラソン大会で3等の賞品が運動靴であることを知ったアリは、妹のために、マラソン大会に出場することを決意する。
 イランの映画なんて珍しい、と思いましたが、これは名作です。優しい兄妹愛と、貧困な家庭の事情。劇中で、都会にでていくシーンもあるのですが、イランでは貧富の差があんなに激しいものかと思わされます。そういった一見重いものを描いていながらも、さりげなく、全体として非常に温かな、ほのぼのとしたテイストをもった映画です。