バースデイ・ガール
Birthday Girl
監督・脚本:ジェズ・バターワース 脚本:トム・バターワース 製作:スティーブ・バターワース
出演:ニコール・キッドマン、ベン・チャプリン、マチュー・カソビッツ、ヴァンサン・カッセル
2002年アメリカ/94分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.birthday-girl.jp/ チラシ 1

 勤続10年の生真面目な銀行マン、ジョンは地味で出会いのない生活に終止符を打とうと、インターネットで結婚相手を“注文”する。早速、注文したロシア人女性ナディアがやってくるが、英語が話せることを条件にしていたはずなのに、彼女は英語が話せなかった。すぐに彼女を送り返そうと思うが、一夜をともにし虜になったジョンは彼女との生活を始める。そんな時に迎えたナディアの誕生日に、突然、彼女の友人と称する2人の男がジョンの家に押しかけてきたが…。
 この映画でまず面白いと語らねばならないのはキャスティングでしょう。ニコール・キッドマン、ベン・チャプリン、マチュー・カソビッツ、ヴァンサン・カッセル。ほぼこの4人だけで物語が進みますが、何しろオージーのニコールと、フランス人のマチュー、ヴァンサンの3人がロシア人という設定。可笑しすぎます。いやいや、馬鹿にしているのではないのですが、あまりの変さに逆に面白いです。特に、マチュー、ヴァンサンは存在感がありすぎなので、ロシア人……といっても、こっちにはフランス人にしか見えないんで。3人ともよくロシア語を話していましたが、それが上手いのかどうかもわからないですからね、こちらは。ストーリーなど、特に悪いところはありませんが、どうも全体的に小粒な感じが残念。つまらなくはないですが、とびきり面白いということもなく。ドラマでもあり、多少のコメディ(笑えるところ)あり、サスペンスあり…なんで、どの視点なのかなぁ〜…って感じだったのですがね。最終的には軽快な恋愛サスペンス・ドラマって感じなのかなぁ。もっとどぎついサスペンスにしてしまっても、それはそれでよかったかもね、と思いますが。まあ、キャストのアンサンブルが楽しめれば良いでしょうか。演じている彼ら自身も、それを楽しんでいる感じがしましたね。ニコール・キッドマンの衣裳はかわいかったです。ちなみに監督・脚本・製作のジェズ、トム、スティーブは兄弟。


ハートブレイカー
Heartbreakers
監督:デヴィッド・マーキン
出演:シガニー・ウィーバー、ジェニファー・ラブ・ヒューイット、レイ・リオッタ、ジェイソン・リー、ジーン・ハックマン
2001年アメリカ/124分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/heartbreakers/ チラシ 1

 母マックスと娘ペイジは親子の結婚詐欺師。母親が結婚した相手を娘がたぶらかし、離婚に持ち込み、慰謝料を頂く。それが彼女たちの手段。今まさに、車修理業(偽造ディーラーだけど)のディーンを見事にはめた二人は、次のターゲットに大富豪ジョージを選ぶが…。
 この映画を見ると、いかに男が女の色気に弱いかというのがわかるのだが…しょうがないんだよねぇ、こればっかりは(笑)。ジェニファー・ラブ・ヒューイットの抜群のスタイルがまぶしい…。しかして、この映画で笑えるのは下ネタ。結構笑いをこらえなくちゃいけないところが多かったりして楽しいです。くだらないのかもしれないけど、結局ああいうのって笑えるんですよね(“欠チン品”には笑ってしまった)。そういう作品なんですが、適度に母娘のドラマを入れたりしてるのも良いし、さらにそれがシリアスになりすぎず、結局のところ、とても気楽に楽しめる作品であるところが好印象です。


バーバー
The Man Who Wasn't There
監督・脚本:ジョエル・コーエン 製作・脚本:イーサン・コーエン
出演:ビリー・ボブ・ソートン、フランシス・マクドーマンド、ジェームズ・ガンドルフィーニ、スカーレット・ヨハンスン
2001年アメリカ/116分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.barber-movie.com/ チラシ 12

 サンタ・ローザの街で理髪店に勤める無口な男エド。店は義弟のもので、自分は雇われ理髪師。ただ毎日髪を切るだけ。妻のドリスは勤め先のデパートの社長と不倫関係にあるらしい。そんな時、理髪店に一人のセールスマンが現れる。彼は“ドライクリーニング”の事業を始めるパートナーを探していたが、この街でもその相手が見つからないとぼやく。新しい事業を始めることで、自分の人生も変わるかもしれない…そう思ったエドは、事業を始めるのに必要な1万ドルを、妻の不倫相手に脅迫状を送って手に入れようとする。このちょっとした脅しから、事態は思わぬ方向へと進んでいき…。
 おなじみコーエン兄弟の最新作。画面全てがモノクロームで物語られるこの映画は、コーエン兄弟らしい可笑しくも哀しい人生を描く。「ファーゴ」を観たときも思ったのですが、淡々としていて、事態が悪いほうへと転がっていくのに、とりたてて騒ぎ立てるわけでもなく、まるで人間なんてそんなちっぽけなもんさとでも言いたげな、どこか超越した視点が感じられるのが、この人たちの作品だと思うのです。本作は、無口な主人公のモノローグと、どこまでも美しいモノクロの映像が、どこか現実を離れた夢の物語のような印象を受けました。これは悪夢なのか。でも本当なのだ。エドという男の身に、現実に起こった悪夢。ちょっとしたことの重なりが次々と悲劇に変わっていく現実を、淡々と語る主人公、エドを演じるビリー・ボブ・ソートンも良いです。ひたすら無口で無表情。野心を抱いたはずなのに、どこか最初から全てを諦めているようにも見えてしまう彼は、不幸な男だと思う。どこにでもいそうな男だけど、もうそこにはいなかった。その街から。その店から。彼はいたのに、いなかった。“The Man Who Wasn't There”。哀しいけれど、彼という人間はたったそれだけの存在だったのかもしれない……。


バーバー吉野
Yoshino's Barber Shop
監督・脚本:荻上直子
出演:もたいまさこ、米田良、大川翔太、村松諒、宮尾真之介、石田法嗣
2003年日本/96分/配給:ユーロスペース
公式サイト http://www.pia.co.jp/pff/barbar/ チラシ 1

 どこにでもありそうなとある田舎町。この町の男の子は皆、町に一軒しかない床屋“バーバー吉野”で散髪し、“吉野刈り”と呼ばれる奇妙なおかっぱ頭に統一されていた。しかし、ある時、東京からやってきた転校生のおしゃれな髪型を見て、少年たちは町の伝統として吉野刈りを強制されることに疑問を抱き始め……。
 日本の田舎町における「スタンド・バイ・ミー」というのは、やや冗談めかした表現(笑)。伝統を守ることに頑なで疑問を抱かない大人と、それに反抗することで少しずつ成長していく子どもたちの対立をユーモラスに描く。その“伝統”を“吉野刈り”というヘンテコな髪型に表わしたこと、そして、それ(=外見がカッコいいか、悪いか)が小学校5年生の少年少女たちにとっていかに重大であるかということを、うまく絡めたプロットの勝利かな。爆笑するわけではないけど、ほのぼのと笑えて楽しい1本。


PERFECT BLUE
Perfect Blue
監督:今敏 キャラクター原案:江口寿史 企画協力:大友克洋
声の出演:岩男潤子、松本梨香、辻新八、大倉正章
1998年日本/81分/配給:レックスエンタテインメント

 キャラクター原案・江口寿史、企画協力に大友克洋が参加したサスペンス・アニメ。アイドルグループCHAMのリーダー格・霧越未麻は、事務所の方針からグループを脱退し、アイドルから女優へと転身を図る。すると、ある日、彼女の部屋に一通のFAXが届く。「裏切り者」。そう書かれたFAXに不信感を覚える未麻。そして、次第に彼女の周囲で不穏な空気が流れ始め、未麻自身の身にも危険が……。
 ジャパニメーションといわれて世界的評価を受ける日本アニメだけど、考えてみると、その多くがSFもの。その中で、この作品はSF的要素がない、現代を舞台にしたサスペンス・スリラー。例えば「攻殻機動隊」も素晴らしいが専門用語が多すぎたりして、ちょっと一般にはわかりづらいところがあるが、そういった点では、こちらはわかりやすい。徐々に恐怖が迫ってくる心理的切迫感のようなものもよく描かれていて、怖さ、不気味さもよくでていると思う。ただ、アイドルとそれをストーキングする人物という設定からか、またアイドルの追っかけたちなども、少々、陰湿に描かれすぎてるような気がしました。サスペンスものとしての恐怖感と、人間の陰湿さというのは別のものだと思うのですが。しかし、まぁ、そのおかげか、この映画はなかなか不気味な仕上がり。この手のジャンルとして、よくできてるんじゃないでしょうか。あとは個人的な好き嫌い如何によると思います。


バイオハザード
Resident Evil
監督・製作・脚本:ポール・W・S・アンダーソン
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ、ミシェル・ロドリゲス、エリック・メビウス
2002年アメリカ+ドイツ+イギリス/105分/配給:アミューズピクチャーズ
公式サイト http://www.biohazard-movie.jp/ チラシ 12

 巨大企業アンブレラ社は表向きの顔とは別に、秘密裏に生物兵器の研究を行っていた。その研究施設“ハイブ”で、研究中の“T-ウィルス”が何者かによって散布された。生物を死しても活動させるこの危険なウィルスの拡散を防ぐため、ハイブのメインコンピュータ“クイーン”は、研究所を閉鎖、500人の研究員は全て死に絶えた。それから数時間後、とある洋館で目を覚ますアリス。彼女は記憶を失っていた。そこへ、アンブレラ社の特殊工作部隊が現われる。アリスのいた洋館はハイブへの秘密の入り口であり、彼女は彼らと同じく特殊部隊の一員で、館の警備にあたっていたというが……。
 言わずと知れたゲーム「バイオハザード」の映画化。登場人物やストーリーは異なりますが、設定の一部は共有、ゲームファンも意識した作りになってます。それもそのはず、監督が大のゲームファンとのことで、ゲームと異なるとはいえども、“ああ、これは「バイオ」だなぁ〜”と思える映画でした。基本的に映画としてみれば、そんなに面白い…というか、記憶に残るほどのものではないと思います。なんとなく人物の描写も弱く(人間ドラマやってもしょうがないでしょうけど)、アクションとスリリングな展開に終始してるんで、後に残るものはないですが、「バイオハザード」というゲームの映画化としては面白いものであると思いました。ゾンビのビジュアルや動きはゲームのそれに忠実だし、また、扉をあけるときの感覚、見えない敵の音、わざと部屋を狭い範囲でうつすカメラなどもゲーム版に似てました(ゲームファンが一番“にやり”とするのは、あの列車じゃないでしょうかね。内部までそっくり)。ただ、恐怖感では、ゲームのほうが勝ってるかな、と。この映画も「バイオ」映画版としてよくできていますが、ゲーム版の怖さをそのままだしたら、そうとう怖いホラーになってしまいますから、しょうがないか。個人的には、もっと洋館のシーンが欲しかったんですけど、そこははしょられてしまっていますし。ミラ・ジョヴォヴィッチとミシェル・ロドリゲスはいいんですが、男性キャラが弱いのもあるし、主人公アリスがなんだかうやむやのうちに突き進んでいっちゃうんで、感情移入もしずらいなぁ・・・と不満点もあるにはありますが、単純にゲームファンとして観るぶんには及第点をあげられる出来だったと思います。いろいろと物足りなさは残りますけど。終わり方は良かったです。既に続編が決定していて、そちらはゲーム版「3」のラクーンシティに原爆が投下されるまでの12時間を描くもの、といっていましたが、なるほど。あの終わり方は、うなずけるものがありました。


バイオハザードII アポカリプス
Resident Evil: Apocalypse
監督:アレクサンダー・ウィット 脚本・製作:ポール・W・S・アンダーソン
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ、シエンナ・ギロリー、オデッド・フェール、トーマス・クレッチマン、ジャレッド・ハリス
2002年アメリカ+カナダ+イギリス/91分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.sonypictures.jp/movies/residentevilapocalypse/ チラシ 12

 ラクーンシティの地下に存在する秘密の研究施設“ハイブ”から生還したアリスだったが、直後に何者か囚われてしまう。そして36時間後、病院のベッドで目を覚ましたアリスがそこから抜け出すと、街にはT-ウィルスが蔓延し、地獄と化していた。地元警察の特殊部隊S.T.A.R.S.の女性隊員ジルなど、生き残った者たちと合流したアリスは、街から脱出を図るが、そこにアンブレラ社のアシュフォード博士から連絡が入り、街に残った娘を助け出してくれれば、脱出方法を教えるという……。
 おなじみ同名人気ゲームを映画化した『バイオハザード』の続編。前作のラストシーンにあった通り、今度は街中にゾンビが溢れ返り、核爆弾が投下される前のラクーンシティを舞台にサバイバルが繰り広げられるというもので、ゲーム版「3」がベース。ジルとカルロスという「3」の主人公キャラも登場するけど、博士の娘を助け出す……というのはゲーム版「2」のコンセプトですね(まあゲームの「2」「3」は時間軸も舞台も同じだからね)。ただ、ゲーム版「2」の少女はシェリーだが、こちらではアンジェラという名前で、ちょっと設定は違う(でも詳しくいえないけど、やっぱゲーム版「2」におけるシェリーと同じ立場なんだよね)。敵キャラとしてなんとネメシスも登場するんだけど、これがゲーム版を忠実に再現した出来栄えで素晴らしい。ロケットランチャーに加えてマシンガンも携帯してるが、デザインはゲーム版そっくりで、まるでゲームから抜け出したよう(それは他のクリーチャーも同じだが)。そして、本作における“もうひとりのヒロイン”というべきジルも、これまたゲーム版にそっくり! コスチュームはファンに人気の高いゲーム版「3」のそのもので登場するし、演じているシエンナ・ギロリーはまだ無名な役者だが、かなりイイ! これでカルロスもゲーム版にそっくりだったら素晴らしかったんだが……。と、まあ、そんなわけで前作同様かなりゲーム版に対するリスペクトがみられて、ゲーム版のファンとして納得の出来。ストーリーはオリジナルなのに、いい意味でゲームと映画版で融合する部分と住み分けする部分が出来上がってる感じです。今回は監督が無名の新人に変更になったので、そこがどうなるか不安といえば不安でしたが、後半はアクションに偏重するものの、それまではホラー的要素とアクションのバランスが良くて、全体的に無駄がなく、スピーディーでキレのよい感じの演出がなかなか。ポール・アンダーソンがちゃんと脚本と製作で参加してるし、前作が思ったより良かったんで、今回はおのずと期待感が高かったんだけど、その期待は裏切られなかったと言っていい。……とは言ったもののもちろん不満もあって、例えばネメシスに関して確かにデザインの再現度は素晴らしいけど、“追跡者”としてのネメシスの恐怖感はまったく出てない。もっと彼とジル、アリスで絡みができたはずだ。彼はS.T.A.R.S.を追うのが目的なんだから、もっとジルを追いつめて、そこにアリスが割ってはいって、実はネメシスの正体が×××でした……って具合に。でも、下手にドラマを入れてもダレルだけと判断したのか、ある意味潔いとも言えるんだけど。
 ということで、ゲームファンでなければ「なんでよ?」ってツコミたくなる箇所もあるでしょうが、ゲームファンならば、まあ概ね満足できると思うし(少なくとも僕はそうだが)、そうでなくてもそれなりに楽しめるのでは? 物語は3作目に続きそうな雰囲気だけど、どうかな。最後の最後で、ちょっとアリスが超人化しすぎになりつつありそうなのがやや不安なんだけど、とりあえずこれまで通りポール・アンダーソンに任せておけば大丈夫じゃないかとも思うんですがね。


ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼ
Hide and Seek
監督:ジョン・ポルソン
出演:ロバート・デ・ニーロ、ダコタ・ファニング、ファムケ・ヤンセン、エリザベス・シュー、エイミー・アービング、ディラン・ベイカー
2004年アメリカ/102分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/hideandseek/ チラシ 12

 心理学者デビッドの妻アリソンが、ある日、湯船で手首を切って自殺。母親のその姿を見てしまった9歳の娘エミリーは、ショックで心を閉ざしてしまう。デイビッドは娘のために仕事を辞め、郊外の家に引っ越すが、エミリーは依然として周囲に心を開こうとせず、いつしか“チャーリー”という見えない友達との遊びに興じていく……。
 見えない存在の何者かによって、奇怪で不審な事件が続発していくが、その正体は……。いわゆる『シックス・センス』系のスリラーだが、結局のところはそういうわけで、最後のオチは、「ああ……こういう感じね」と言わざるを得ないというか、途中である程度予想がついてしまう。ロバート・デ・ニーロとダコタ・ファイニングという新旧スターの共演くらいが見物かと思うんだけど、デ・ニーロはまたこんなかっこ悪い役でいいんか……。ダコタがかわいいのは言うに及ばずだが(笑)。


パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち
Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black Pearl
監督:ゴア・ヴァービンスキー 製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイ、ジェフリー・ラッシュ
2003年アメリカ/138分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.movies.co.jp/pirates/ チラシ 1

 17世紀、カリブ海の港町ポート・ロイヤルを、バルボッサ船長率いる冷酷非道な海賊たちが襲い、自由奔放な海賊に憧れる総督の娘エリザベスと彼女が持つ金貨をさらっていく。鍛冶職人の青年ウィルは、エリザベスを救うため、町に囚われていた一匹狼の海賊ジャック・スパロウと手を組む。
 ディズニー・ランドのアトラクション映画企画第2弾は「カリブの海賊」。劇中には、ちゃんとアトラクションでの場面を連想させる箇所があり、ファンには嬉しいところ。ブラッカイマー製作の映画ということで「良くも悪くもブラッカイマー映画」であると言われながらも「キャスティングが良い」というのが大方の批評ですが、なんといってもジョニー・デップがはまっていてカッコイイ。それだけでいいと言ってしまったら乱暴ですけど。上映時間が2時間以上はちょっと長いと思いますが、「海賊映画」というコンセプト自体が最近では目新しく、青い海と空を背景に繰り広げられる物語自体がワクワク。そういう気持ちにさせること自体が、まさにディズニーランドのアトラクション的な映画だよなぁ……と。毒気もないし。「海」が舞台で「ディズニーランド」の匂いがするということで、夏の娯楽にはうってつけかと。


ハウルの動く城
Howl's Moving Castle
監督・脚本:宮崎駿 音楽:久石譲 原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、我修院達也、神木隆之介
2004年日本/119分/配給:東宝
公式サイト http://www.howl-movie.com/ チラシ 1

 魔法と科学が混在する世界。父が遺した帽子店を切り盛りする18歳の少女ソフィーは、ある日、街中で魔法使いの青年と出会い、その立ち居振舞いに心を奪われるが、彼こそは人々が恐れている“動く城”に住まう魔法使いハウルだった。しかし、そんなことは知らないソフィーの前に、今度はハウルを追っている荒地の魔女が現れ、呪いでソフィーを90歳のおばあさんにしてしまう。その姿を人に見せることができないソフィーは、家を抜け出して街を離れ、やがてハウルの動く城にたどり着く。そこで彼女は、家政婦として城に住み込むことにするのだが……。
 『千と千尋の神隠し』で数々の偉業を成し遂げた宮崎駿監督の3年ぶりの新作。原作はイギリスの児童文学作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「魔法使いハウルと火の悪魔」。戦乱の時代を背景に、ソフィーと弱虫で美青年の魔法使いハウルの恋を描くファンタジー。全体的に話の展開がちょっとゴチャゴチャしていた感じはあるものの、「初めてラブ・ストーリーに挑戦する」と言っていたように、一番の焦点はソフィーとハウルの恋であり、メッセージ性は、ややなりを潜めている印象を受けました。もちろん反戦の想いなどはこめられていた感はありますが、それが前面に出すぎているのではなく、基本はあくまでソフィーとハウルと、彼らを取り巻く個性的なサブキャラたちによって織り成されるファンタジードラマなのである。今回は、それこそが最大のテーマといえるかもしれない。例えメッセージ性が薄くても、単純に楽しい、夢のような世界観やキャラクターたちが生き生きと動き回る様子を見てるだけで、幸せな気持ちになれる。なんだかんだいっても、宮崎作品をスクリーンで観られるという歓びが、至上の時間を約束してくれるでしょう。事前に話題になっていた声優陣ですが、キムタクは良かったです、案外。やや棒読みな感じはありますが、キャラと声質がマッチしていたと思います。むしろ違和感を覚えたのは、倍賞千恵子が演じる18歳のソフィー。90歳のおばあちゃんのときは問題ないんですが、やはり18歳にしては声が老けてるよ……。ただ、それでも物語が進めば進むほど、不思議とキャラとともに声も生き生きとしてきて、最後のほうではそれほど気にはならなかったんだけど、出だしはちょっとね……。宮崎作品は“可憐なヒロイン”の存在も大切なんだから!


博士の愛した数式
The Formula the Professor Loved
監督・脚本:小泉堯史 原作:小川洋子 撮影:上田正治、北澤弘之 音楽:加古隆
出演:寺尾聰、深津絵里、齋藤隆成、吉岡秀隆、浅丘ルリ子
2006年日本/117分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://hakase-movie.com/

 交通事故の影響で、記憶が80分しかもたない老数学博士のもとにやってきた家政婦の杏子は、次第と博士と打ち解けていき、博士は彼女の10歳の息子をルート(√)と呼んでかわいがる。3人は温かい時間を過ごしていくのだが……。
 芥川賞作家・小川洋子のベストセラー小説を、『雨あがる』『阿弥陀堂だより』の小泉堯史監督、寺尾聰主演のコンビで映画化した感動作。一見すると全てを数値化して片付けてうという堅い印象のある数学や数字を用いて、「大切なもの、目に見えない真実は心の中にこそある」という普遍的なテーマを伝える。その表現は面白いと思ったけど、いまいち博士の記憶障害を持っているがゆえの苦悩とか、その辺があまり描かれていなかったような気がする。中盤はなんか普通に杏子やルートとつきあっていて、本当に記憶が保てない人なのか? と疑問に思ったり。原作を読んでいないので原作との比較はできないし、そこそこ心温まる話であることは確かだけど、それ以上に心に響くものがこれといってないような気もしたなぁ……。きっと原作に対して真摯な姿勢で作っているんだろうとは思うけど。
☆☆★★★


博士の異常な愛情/また私は如何にして心配するのをやめて水爆を愛するようになったか
Dr. Strangelove: Or How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb
監督・脚本:スタンリー・キューブリック
出演:ピーター・セラーズ、ジョージ・C・スコット
1964年イギリス+アメリカ/93分/

 アメリカ軍基地司令官がソ連に対して独断で核攻撃命令を下した。彼の狂気の沙汰を知った副指令は、なんとか止めようとするがかなわず。大統領らも、懸命にソ連と連携をとって核戦争を食い止めようとする…。
 こう書くとシリアスに聞こえるが、巨匠キューブリックの代表的ブラックコメディ作品。とにかくシンプルなつくり(40年近く前のものだから当然だが)で、これ以上にないというほどのラストが待っている。この映画は、93分の上映時間が、全てあのオチのためにあるような気がする。あのラストの映像と音楽と。核戦争なんてとんでもないものが題材になっているにも関わらず。キューブリックという人の才能というべきか、感性・感覚というものを感じずにいられない。ピーター・セラーズの一人三役もお見事。


裸のマハ
Volaverunt
監督・脚本:ビガス・ルナ
出演:アイタナ・サンチェス=ギヨン、ペネロペ・クルス、ホルヘ・ペルゴリア、ジョルディ・モリャ
1999年スペイン+フランス/95分/配給:シネマパリジャン
公式サイト http://www.cinemaparisien.com/volaverunt/ チラシ 1

 19世紀スペインを代表する画家、フランシスコ・デ・ゴヤ。彼が宮廷画家として最盛期に描いた“裸のマハ”を巡る愛憎劇。時の王妃マリア・ルイーサが権威を振るう宮廷では、一方で、名家の出身で美人の誉れ高いアルバ公爵夫人もまた、権威を振るっていた。アルバ公爵夫人は、野心家の大臣マヌエル・デ・ゴドイと愛人関係にあったが、マヌエルにはもう一人、ペピータという若く美しい愛人がいた。そんな時、マヌエルは、ゴヤにある絵の製作を依頼するが…。
 西洋美術史上、初めて女性の陰毛が描かれたという“裸のマハ”が、どのような経緯で描かれたのか…ということが中心になるのかなぁ、と思ったのですが、意外とそうでもなく。“裸のマハ”のあれこれはドラマの中の一要素として(もちろん重要なファクターではあるのですが)登場するにすぎないといった感じ。あくまで女同士の愛憎やら、男の権力への野心とか、そんなものが交えられる映画でした。現在が進行しつつ、過去の出来事が回想で語られるのですが、そのめりはりがあんまりなくて、やや冗長気味な印象。95分なのに少し長く感じましたねぇ……。19世紀のスペイン宮廷を舞台にしてますから、衣裳や建物はきらびやかで美しいので、そういうのが好きであれば、目で楽しむことはできます。僕もそのへんは好きなので良かったですが、お話としてはちょっと退屈かなぁ……とも思いました。ペネロペ・クルス(ハリウッド以前)は田舎娘の格好で出てるときがよかった。


裸足の1500マイル
Rabbit-Proof Fence
監督・製作:フィリップ・ノイス 撮影:クリストファー・ドイル 音楽:ピーター・ガブリエル
出演:エヴァーリン・サンピ、ローラ・モナガン、ディアナ・サンズベリー、ケネス・ブラナー、デビッド・ガルピリル
2002年オーストラリア/94分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/hadashi/ チラシ 12

 先住民族であるアボリジニの混血児たちを家族から強制的に隔離し、白人社会に適応させようとする“隔離同化政策”がとられていた1931年のオーストラリア。ジガロングに暮らす14歳のモリーは、妹で8歳のデイジー、10歳の従妹グレイシーとともに拉致され、同化政策の寄宿地ムーア・リバーへ連れてこられてしまう。しかし、母に会いたい一心で脱走し、大陸を横断する“ウサギ避けフェンス”を便りに、徒歩で1500マイルの道のりを進んだ。執拗な追跡にも負けずに。
 主人公モリーの娘ドリス・ピルキングトンが、母の体験を綴ったノンフィクションの物語を映画化。ストーリーは上に書いたようなことだけです。いたってシンプル。でも、それ以上のものがこの映画にはあります。もちろん、人種差別の愚かしさ、人間の傲慢さ……そういうものに対する批判もみえてくるのですが、この作品が描きたかったのは、そういうことではないでしょう。こういうことがあったという真実を描くだけ。それゆえにシンプル。でも、これほど寡黙にして雄弁な作品は、なかなかないんじゃないでしょうか。クリストファー・ドイルによる果てしなく美しい撮影と、そこに重なるピーター・ガブリエルのスピリチュアルでエモーショナルな音楽。そしてその中でただ歩む少女たち。それだけでもう何も言えないくらいの、人をひきつける強さがこの作品に生まれたと思います。必死で逃げつづける少女たちを、腕利きの追跡者が追いかけるという展開は、場合によってはサスペンスフルに演出するこもできるだろうに、この作品はそういうこともない。でも、そんなものは不要であることは、観ればわかるだろうと思う。それがないからこそ、ここまで優れた作品になりえたと思うし。映像と音楽が合わさっただけで、観客に訴えることができるのが映画だと、実感できる作品でした。そして、もちろん少女たち(特にモリー)の存在感も素晴らしく、先住民族の、子供のもつ穢れのない魂の強さ。そんなものが感じられました。余計なものは一切ない、ドキュメンタリーにも近いけれど、きちんとストーリーとしても成り立っている絶妙なバランス。映像、音楽、演出…すべてが一体となって完成した素晴らしいフィルムです。是非、ご覧ください。


8人の女たち
8 Femmes
監督・脚本:フランソワ・オゾン 脚本:マリア・ドゥ・ヴァン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、エマニュエル・ベアール、ファニー・アルダン、ダニエル・ダリュー、ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、フィルミーヌ・リシャール
2002年フランス/111分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/8femmes/ チラシ 1

 1950年代のフランス。クリスマスを祝うために大邸宅に集まった8人の女たち。しかし、その時、何者かによって一家の主が殺されてしまう。しかも、家には誰かが出入りした形跡もなく、電話線や車の配線も切られており、折からの大雪で外部に連絡を取ることもできない。女たちは互いに疑惑をぶつけあい、次第にそれぞれが隠していた秘密や想いが暴露されていく。
 こう書くと、アガサ・クリスティ的な世界で繰り広げられるミステリだが、その要素もありつつ、何よりも新旧8人のフランスを代表する大女優が「歌って踊る」のが本作の見所。つまりミュージカルでもあるわけ。しかし、まあ、本当に豪華絢爛である。これだけの女優たちが揃って笑わせてくれるのだから、たまったものではない。個人的にはイザベル・ユペールの堅物叔母さんには最高に笑わせてもらいました。エゴをぶつけあう女たちの言い争いに笑ってみていても、最後にはオゾンらしいブラックな部分がちらりと顔を覗かせるのもまた、一筋縄ではいかない感じ。ベルリン国際映画祭では、8人の女優全員に最優秀芸術貢献賞が授与されたが、それも納得。ただ、これだけの大女優にこれだけのことをさせてしまうフランソワ・オゾン、恐るべし。


バッド・エデュケーション
La Mala Education
監督・製作・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、フェレ・マルティネス、ルイス・オマール、ダニエル・ヒメネス・カチョ、ハビエル・カマラ
2004年スペイン/105分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/badeducation/ チラシ 12

 若くして成功を収めた映画監督エンリケのもとに、ある日、神学校時代に同級生で今は役者として活動している青年イグナシオが、映画の脚本をもって現れる。それは、かつて強い絆で結ばれていたエンリケとイグナシオの間を引き裂いた、悲しい事件を基にした物語で、その脚本が気に入ったエンリケは早速映画にしようと準備を始めるが……。
 『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』のペドロ・アルモドバルによる半自伝的物語だが、どこからどこまでが自伝なんだろうか……。同性愛者として有名なアルモドバルなだけに、今回も毎度おなじみのホモセクシャルネタが満載だが、これはいつも以上のような。というか、全編これ、ホモネタばかり(笑)。まあ、そういう映画なんですけど。気がつけば女性キャラって、ほんの端役で出ているアルモドバル作品常連のレオノール・ワトリングだけ……。バッド・エデュケーション=悪い教育が、彼らをそうさせたというのか、あるいは神に仕えるべき神学校の禁欲的生活が、逆にこうした歪んだ人間愛を育んでしまうのか。謎が解かれていくサスペンス調でもあるけれど、原点にあるのは、そうした人間の欲と業のようなものだと感じましたが。
☆☆★★★


二十日鼠と人間
Of Mice and Men
監督・製作:ゲイリー・シニーズ 原作:ジョン・スタインベック
出演:ジョン・マルコヴィッチ、ゲイリー・シニーズ
1992年アメリカ/111分/配給:UIP

 舞台演出家としても定評のあるゲイリー・シニーズが同盟小説を映画化したドラマで、盟友ジョン・マルコヴィッチとの共演作。1930年、大恐慌時代のアメリカで、小柄で切れ者のジョージと、巨漢だが知恵遅れのレニーは、牧場を転々としながら働いていた。レニーは心優しい男だったが、いつもトラブルを起こしてしまい、ジョージの面倒になってばかり。レニーのために、なかなか一箇所にとどまっていることができないが、二人はいつか自分たちの牧場をもつことを夢見ていた…。
 とにかく主演二人の演技に感動させられる。もともとストーリーが感動的になっているので、涙を誘うのは当然だが、やはり二人の自然の演技があればこそ、よりそれも輝くのだと思う。脚本にも無駄は感じられないし、これぞ名作。ジョージとレニーは、本当にああなるしかなかったのだろうか? レニーは問題なく社会で生きていかれたはずだ。しかし、ほんの些細な人間同士の擦れあいから、事はこじれてしまう。普通ならそうはならないのに、レニーだからなってしまうのか。だから彼は哀しい存在でしかないのか。非常に複雑な心境…。


ハッカビーズ
I ♥ Huckabees
監督・製作・脚本:デビット・O・ラッセル
出演:ジェイソン・シュワルツマン、ジュード・ロウ、ダスティン・ホフマン、リリー・トムリン、イザベル・ユペール、マーク・ウォールバーグ、ナオミ・ワッツ
2004年アメリカ/107分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.huckabees.jp/ チラシ 1

 環境保護に熱意を燃やすオタクな青年活動家アルバートは、大手スーパーマーケット、ハッカビーズのやり手社員ブラッドが進める新店舗建設計画に立ち向かう。……が、その前に「敵を知る前にはまず自分から」と、“哲学探偵”夫婦に自分が何者であるかを探ってもらうことにしたが……。
 『スリー・キングス』のデビット・O・ラッセル監督が描く、ちょっと変な人々の幸せ探しの物語。アルバートやブラッド、哲学探偵の夫婦や、その宿敵で謎のフランス人熟女、エコロジストな消防士、美人脱却願望のモデルなど、へんてこりんなキャラ設定が面白い。特にリリー・トムリン、ダスティン・ホフマン演じる哲学探偵夫婦が、何食わぬ顔で周囲をかき回して、知らぬ間にみんなの思考が別々の方向へ流れていく。みんな何かを失って、何かを得て、幸せって何をいうテーマを描いているようだけど、正直ちょっとわかりにくいかも? オールスターキャストの顔合わせが楽しめれば、それでいいのかもしれませんけど。
☆☆☆★★


初恋のきた道
The Road Home
監督:チャン・イーモウ
出演:チャン・ツィイー、チョン・ハオ、スン・ホンレイ、チャオ・ユエリン
1999年中国/89分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.sonypictures.jp/archive/movie/roadhome/

 文化大革命直前の中国。とある田舎の村に暮らす18歳の少女ディは、都会からやってきた若い教師ルオに恋する。やがてその想いはルオにも伝わるのだが、押し寄せる文革の波が、2人を遠ざけてしまう。
 やばいくらいにかわいいチャン・ツィイー、美しく雄大な自然の風景、包み込むような柔らかな光と暖色系でとらえた撮影、シンプルでひたすら純粋な物語、郷愁を誘い胸の奥底を振るわせる音楽……もはやどれをとっても筆舌に屈しがたく、これ以上にないマスターピース。とにかくその全てに心を奪われてしまいます。ラスト近く、話がまた現代に戻ったところで、おばあちゃんの話が長引くので、その手前で終わってくれればよかったかな?と思ったのも束の間、そんなのはやっぱり杞憂で、最後もきちんと締めてくれましたし、もうこれは観るしかない。現代では失われてしまっているような純愛ですけど、だからこそ心打たれるものがあり、何も奇をてらっていない上にそれが全く嫌味にならないチャン・ツィイーのあどけない笑顔。涙なしには観られない一作ですね。第50回ベルリン映画祭審査員特別大賞受賞。


バットマン
Batman
監督:ティム・バートン 撮影:ロジャー・プラット 音楽:ダニー・エルフマン
出演:マイケル・キートン、ジャック・ニコルソン、キム・ベイシンガー、ロバート・ウール、マイケル・ガフ
1989年アメリカ/127分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 D.C.コミックの人気作を映画化したアメコミ映画の先駆け的存在。原作の雰囲気はわからないが、ティム・バートン的なこだわりの美術と世界観はなかなかで、特に敵役ジョーカー周りの子どもじみた騒がしい様相は彼ならではだろう。が、それ以上に“怪演”としか言いようのないジャック・ニコルソンの演じっぷりには、ただただ脱帽。アクションにものたりなさもあるし、演出にもキレがあまり感じられないのがちょっと残念か。あと、キム・ベイシンガーは金切り声がうるさすぎ。


バットマン リターンズ
Batman Returns
監督:ティム・バートン 音楽:ダニー・エルフマン
出演:マイケル・キートン、ダニー・デヴィート、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、マイケル・ガフ
1992年アメリカ/128分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 『バットマン』続編。開巻早々、より一層色味を増したバートンワールドがお出迎え。前作のジャック・ニコルソンほどの強烈な印象の敵はいないが、その代わりにダニー・デヴィート演じるペンギンと、ミシェル・ファイファー演じるキャットウーマンのダブル悪役(というわけでもないが)を配して、プロットの面白さで勝負。その甲斐あってか、人間関係が複雑になったぶん前作より面白くはなってるんだけど、ダニー・デヴィートはジャック・ニコルソンばりにがんばってはいるが、残念ながらそのキャラクター造形からして醜悪でウルサイだけ。敵としての魅力にはいまいち欠けた。生い立ちに不幸を背負わせているものの、行動が子ども過ぎて感情移入もできず、ギャーギャーと騒がしいだけの印象になってしまった。そのぶんを補うのがキャットウーマンとバットマンのロマンス(?)なのだろうが。なるほど、前作のヒロインよりはずっとこちらのほうが魅力的だ。


バットマン・フォーエヴァー
Batman Forever
監督:ジョエル・シュマッカー 製作:ティム・バートン
脚本: アキバ・ゴールズマン、リー・バチェラー、ジャネット・スコット・バチェラー
出演:ヴァル・キリマー、トミー・リー・ジョーンズ、ジム・キャリー、ニコール・キッドマン、クリス・オドネル、マイケル・ガフ
1995年アメリカ/119分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 『バットマン』シリーズ第3弾。主人公ブルース・ウェイン=バットマン役がマイケル・キートンからヴァル・キリマーにバトンタッチしたが、特別な違和感はなし。感情を押し殺し、過去に苦悩するブルース像を上手に体現している。プロダクションの面でも、前2作で築き上げたティム・バートンの世界観を引き継ぎつつも、ダークだがよりSFチックに。それはそれで悪くなく、スタイリッシュな仕上がり。今回も悪役はトミー・リー・ジョーンズのトゥー・フェイスとジム・キャリーのリドラーの2人体制だが、対するバットマンにもロビンという相棒が誕生。継承しながら新しくしようという努力は確かなものだと思う。それにしても『バットマン』の悪役はどうしてこうも奇抜でうるさいのか……。というか、そうでなくてはいけないのか。3作目ともなると、多少その面に不満もなきにしもあらず。


バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲
Batman & Robin
監督:ジョエル・シュマッカー 脚本:アキバ・ゴールズマン
出演:ジョージ・クルーニー、アーノルド・シュワルツェネッガー、ユマ・サーマン、クリス・オドネル、アリシア・シルバーストーン、マイケル・ガフ
1997年アメリカ/124分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 『バットマン』シリーズ第4弾。今度は主人公ブルース・ウェイン=バットマン役がジョージ・クルーニーに。これはなんとも今までの2人に比べると違和感が……。クルーニー自身が悪い俳優なんじゃないけど、彼の雰囲気がどうもバットマンに合わないというか。ブルース・ウェイン=バットマンは過去に苦悩する暗さも持ち合わせているのが魅力だが、クルーニーにはそうしたダークな雰囲気がない。まあ、今回はテーマがブルース自身の苦悩というよりは、“家族の絆”のようなものなので、必要以上に主人公が暗い必要はないのかもしれないが……。それにしてもシリーズが進むにつれて、どんどん全体的に軽くなっていくというか、ティム・バートン的世界観はすでに風化して、単なるSF的で雑多な世界になってしまったし、ラストの闘いの設定(街全体を凍らせたり暖めて溶かしたり)も大雑把。また、はなからリアリティを求めるような作品ではないが、新登場の“バットガール”にいたっては、誰でもあのコスチュームさえ着れば強くなれんの!? っていうレベル。バットマンやロビンは修行を積んでああなったはずだが……。まあ、そんなわけだが、頭をカラッポにして楽しめば、それなりに楽しめる。それにそもそも好きな人でなければ、4作目まで観ないっしょ?


バットマン ビギンズ
Batman Begins
監督・脚本:クリストファー・ノーラン 脚本:デビット・S・ゴイヤー 音楽:ジェームス・ニュートン・ハワード、ハンス・ジマー
出演:クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、リーアム・ニーソン、ケイティ・ホームズ、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリーマン、渡辺謙、キリアン・マーフィ、トム・ウィルキンソン、ルドガー・ハウアー
2005年アメリカ/140分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.batmanbegins.jp/  チラシ 123

 幼い頃、目の前で両親を強盗に殺害された大富豪ブルース・ウェインは、己を責め続け、同時に悪を滅ぼすための戦いを決意する。各地をさまよったブルースは、やがて生まれ故郷のゴッサムシティに戻り、闇の騎士“バットマン”となって巨悪に立ち向かう。
 誰もがその名を知っているであろう、人気アメコミシリーズ『バットマン』の最新作。今回は主人公ブルースが、いかにしてバットマンとなり戦うようになったかを描く、いわゆる“エピソード1”的な物語。ただし、これまでのシリーズとは若干設定が異なっており(例えば両親を殺した犯人が違う)、完全に連続したシリーズものというよりは、現代風にリメイクした新シリーズの序章といったところ。独特なファンタジー色との絶妙なブレンドが人気のティム・バートン版、ただの娯楽SFアクションに成り下がったジョエル・シュマッカー版との比較は避けられないが、個人的にはこのクリストファー・ノーラン版の出来栄えには満足。いかにもノーランらしい重厚感と陰影の施された作風は、これまでのどこか子どもじみた『バットマン』を一気に大人のドラマへと昇格させた。ただ、一方でこれといった決定的な部分にも欠けて、無難な印象も……。いや、個人的にはこの重たい雰囲気は好きなんですけどね。キャストも豪華でいい味を出しているし、違和感もない。ひたすら真面目に取り組んだスタッフ、キャストの努力は垣間見れるが、『バットマン』を知っている人でないと、ちょっと楽しくないかもしれない。
☆☆★★★


バッファロー'66
Buffalo '66
監督・脚本・音楽:ヴィンセント・ギャロ
出演:ヴィンセント・ギャロ、クリスティーナ・リッチ
1998年アメリカ/118分/配給:キネティック

 俳優、モデル、画家、写真家、バンド活動、バイク・レイサーなどなど…文字通り多才なヴィンセント・ギャロの初監督作品。この映画でも原作・監督・脚本・主演・音楽を担当している。見た目はクールなんだけど、とても不器用な男ビリーと、彼と出会ったレイラの恋愛物語。ストーリー自体は悪いわけでないのだが、何故だかギャロの演技からビリーのキャラクタがうまく伝わってこなくて、そのために見ていてちょっと違和感を感じてしまった。不器用な男だとしても、もう少しわかりやすい人間味をだしたほうがよかったのではないかと思うが(もう少し表情であらわしてほしかった)・・・。でも実は最大の要因は、僕がギャロの顔が気に入らなかったからだろうか。なぜか、どうしても彼のあの面構えが怖くて好きになれないんです。ファンの方スイマセン。演出や音楽、脚本など、スタイリッシュな一本で根強い人気のある作品だが。まぁ、クリスティーナ・リッチのかわいさでワンランクアップ。


パニック・ルーム
Panic Room
監督:デビッド・フィンチャー 脚本:デビット・コープ 撮影:コンラッド・W・ホール
出演:ジョディ・フォスター、クリスティン・スチュアート、フォレスト・ウィテカー、ジャレット・レト
2002年アメリカ/113分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.panicroom.jp/ チラシ 1

 マンハッタンの高級住宅街。4階建てのタウンハウスに離婚したばかりのメグは、娘のサラを連れて引っ越してくる。エレベーターも設置された豪華で広々とした家。しかし、この家はそれだけではない、ある秘密の部屋があった。“パニック・ルーム”と呼ばれるその部屋は、鋼鉄の扉と外壁、家中を監視するモニター、独立した配線や換気装置によって完全に独立した隠し部屋で、作られた目的はただ一つ。誰も侵入させないこと。メグが引っ越してきた夜、この家に3人組の強盗が押し入る。メグはとっさにサラをつれて、このパニック・ルームに逃れるのだが、強盗たちの目当てのものは、他でもない、パニック・ルームの中に隠された金庫だった・・・。
 外部から隔離された部屋の中と外での攻防。舞台は家の中のみ。登場人物も母娘と強盗たちでほとんど。上記のイントロダクションに書いたことが発端で、それ以上でもそれ以下でもなく、とにかくこの限定した状況の中でストーリーは進みます。しかし、これだけ絞られた単純な設定ながらも、それを活かしてよく出来てます。単純だからこそ、ハラハラドキドキ・・・。次はどうなるだろう・・・と。それだけといえばそれだけですが、それだけで2時間飽きさせずにひきつけるパワーは、鬼才デビッド・フィンチャーならではなのでしょうか。ただ、おそらくは監督の「セブン」や「ファイト・クラブ」ほどのインパクトはないのではないかと。同じジョディ・フォスター主演の「羊たちの沈黙」と比べても、当然のことながら・・・。まぁ、これらは飛びぬけたタイトルですから、それと比較するのもなんですが。
 ところで本作の主演は、当初ニコール・キッドマンでした。ニコールが撮影中に怪我をして( 「ムーラン・ルージュ」撮影時の骨折がひびいたとか)降板となり、替わってフィンチャーとの仕事を熱望していたジョディがカンヌの審査員長を断って本作に臨んだというのは有名な話です。そして、完成したフィルムがニコール・キッドマン主演の「アザーズ」と同時期に公開されてる(日本では)のはなんだか因縁めいてて面白いです。個人的には「パニック・ルーム」の強い母親はジョディ、「アザーズ」の高貴だけど、ピリピリと張りつめた神経症の母親はニコールで正解だったかなぁと。ニコールの「パニック・ルーム」でも悪くないでしょうけど、イメージとしては「アザーズ」のがはまってるし(しかし、両方とも限定された家の中だけでストーリーが進むサスペンスものというのも面白いですね)。


パニッシャー
The Punisher
監督・脚本:ジョナサン・ヘンズリー 脚本:マイケル・フランス 撮影:コンラッド・W・ホール
出演:トム・ジョーンズ、ジョン・トラボルタ、レベッカ・ローミン=ステイモス、ウィル・パットン
2004年アメリカ/124分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.sonypictures.jp/movies/thepunisher/  チラシ 1

 FBI捜査官フランク・キャッスルは長期にわたる潜入捜査により、麻薬の取引現場を押さえることに成功するが、繰り広げられた銃撃戦の中で、闇社会のボス、ハワード・セイントの息子が死亡する。それを知ったセイントは、息子の仇を討つために休暇中のフランク一家を襲い、一人残らず無差別に殺害する。フランクだけがからくも生き延びることができたが、愛する妻子を殺されたフランクは、自ら復讐のために立ち上がる。そして、フランクが生きていたことを知ったセイントもまた、次々と刺客を送り込むのだが……。
 『スパイダーマン』や『ハルク』でおなじみのマーヴェル・コミックが生んだダーク・ヒーロー、処刑人=パニッシャーの壮絶な戦いを描く。アメリカではあまり評価も芳しくなかったようだし、個人的にも特別期待してないで観たんですが、まあ、そのおかげかそこそこだったかも。コミックヒーロー物といっても、パニッシャー=フランク・キャッスルはスーパーヒーローではなく、己の鍛え上げられた肉体を駆使して敵に立ち向かう一人の人間である。また、非常にストイックであり、法が裁けぬ悪に制裁を下す闇の仕置き人みたいな存在なのだが、今回は彼がそうなるまでの過程を描いているようなわけなので、今後、続編などがあるのかは不明ですが、原作も知らない身としては、これは良く出来ているのかそうでないのかも、いまいちわからず。主人公は暗いが(笑)アクションはそこそこ派手。ただ、どうも人を痛めつけすぎる気がする。能天気なアクションとは違って、ダークな雰囲気を出したかったからだろうが、その割には意外とユーモアのあるシーンもあったりして、どっちなんだかよくわからず。トム・ジョーンズはストイックで無口な主人公にあっていし、トラボルタも似合ってる役柄ではあるが、こんなのばっかでいいのか……? まあ、正直特にオススメするほどでも、また観るのを止めろというほどでもなく、可もなく不可もなくといったところで、あえて言うならもうちょっと短くしてほしかった。あと10分くらいは短くてよいんじゃないでしょうかねぇ。 


バニラ・スカイ
Vanilla Sky
監督・脚本:キャメロン・クロウ 製作:トム・クルーズ 原案:アレハンドロ・アメナバール
出演:トム・クルーズ、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、カート・ラッセル、ジェイソン・リー
2001年アメリカ/138分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/vanillasky/ チラシ 1

 父の遺産を受け継ぎ大手出版社のオーナーとして不自由なく暮らすデヴィッド。ハンサムでスマートな彼は、自由な恋を楽しむプレイボーイで、ブロンドの美女ジェニーとも遊びのつもりでつきあっている。そんな時、彼はパーティで親友ブライアンの連れてきたソフィアという女性に一目で恋に落ちる。惹かれあう二人だが、嫉妬したジェニーはデヴィッドを車に乗せたまま暴走する。交通事故で顔面に重症を負い、デヴィッドの顔は醜く傷ついてしまう。ソフィアにも冷たくあしらわれ、絶望感を感じるデヴィッドだが、ある日、目覚めると不可能といわれていた手術が可能になり、彼の顔は元通りに。全てが事故の前と同じ幸福な状態に戻ったと思われたが…。
 アレハンドロ・アメナバール監督の「オープン・ユア・アイズ」のリメイク版であるが、まさにオリジナルそのまま。正直、もう少しアレンジされているのかと思ったのですが…。まったく「オープン〜」のキャストを変えて(ペネロペは同じ役)やってるだけ。華やかなハリウッド・スター達とキャメロン・クロウ監督らしいポップな音楽が使われている点で、多少異なった印象もあるのだけど、逆にそのために「オープン〜」のもっていたほどの、引き込まれる不思議でちょっと不気味な雰囲気が減ってると思いました。ただ、これは、僕がオリジナルのほうを知っているからであって、初めてみる人にはやはり面白いと思います。豪華スターの共演を楽しみたければ、こちらを観たほうが良いですが、同じストーリー展開ならば「オープン〜」のほうが映画として面白いかも、と僕は思います。そもそも、元の映画がまだ4年前のもので、それをリメイクするには時期尚早な気もします。あるいはやはりもっとアレンジしてしまうほうが良かったと思います。と、まぁちょっと辛口になってしまいましたが、要するに、同じストーリーだけど、「オープン〜」はよりサスペンス風味な、「バニラ〜」は恋愛色と華やかさを加えてメジャー嗜好な…という異なった雰囲気をそれぞれで楽しめば良いのだと思います(そう、「オープン〜」には見るものを引き込む、陰鬱で怖い雰囲気が確かにあったのに、本作にはそれがない。そこが本作のいまいちなところかもしれない。あぁ、やっぱりオリジナルの良さを知っているだけ、あちらのほうが良いと僕は思ってしまいます)。
 超有名な某S・S監督がカメオ出演してるらしんだけど、僕は気がつきませんでした。


パパってなに?
Bop
監督:パーヴェル・チュフライ
出演:ミーシャ・フィリプチュク、エカテリーナ・レドニコワ、ウラジミール・マシコフ
1997年ロシア+フランス/97分/配給:コムストック

 戦後の混乱期にあった1952年のロシア。6歳の少年サーニャは、父は生前に戦争で亡くなっており、母カーチャと2人きり、あてもない旅をしていた。そんな時、列車の中で出会った軍人トーニャとカーチャは恋に落ち、3人は共に生活をはじめることになる。サーニャには、時々、兵士の幻が見える。それこそがきっと自分の父親であると信じてるサーニャは、トーニャを父親と呼ぶことに抵抗を感じる。しかし、ケンカの仕方などを教えてもらううちに、次第に心を開いていくのだが……。
 タイトルのとおり「父親とは何か?」を描いたドラマ。サーニャはいつも幻に父親を見ていてが、現実において、血の繋がらないトーニャから、いくつもの男らしいことを教えてもらうことで、男として彼に心惹かれる。それは決して母親では教えられないこと。トーニャの人物像は見ればわかると思うが、決してほめられたものではないかもしれないけど、あくまで1人の孤独な少年にとっての父親・大人の男を描いているのがこの映画。どこか物悲しい雰囲気と、サーニャ役の少年の演技が光る珠玉の作品です。


パピヨンの贈り物
Le Papillon
監督・脚本:フィリップ・ミュイル
出演:ミシェル・セロー、クレール・ブアニッシュ、ナド・デュー
2002年フランス/85分/配給:東京テアトル チラシ 1

 息子を亡くしてから孤独に暮らしている元時計修理人のジュリアン。今は趣味の蝶々の蒐集をしながら孤独に暮らす日々だが、彼の住むアパートに、ある日、8歳の少女エルザが引っ越してくる。仕事ばかりで母親にかまってもらえず、父親もいないエルザは、ある日、蝶探しに南仏へ出かけるジュリアンの車に潜り込む。こうして2人は、幻の蝶々“イザベル”を探しに山野を歩むことになるが。
 孤独な老人と少女の自然を通した心の交流を描いた、温かな秀作。頑固でときにはエルザを邪険に扱いながらも、なんだかんだと言いつつ彼女に優しい眼差しを向けるジュリアンと、寂しさを隠して大人ぶりながらも、様々な場面で素直な子供らしさをみせるエルザのコンビが絶妙。もちろん出てくる自然もとても美しく、人も優しい。いろいろな疑問を投げかけるエルザに答えるジュリアンの言葉には、人生の酸いも甘いも経験してきたジュリアンならではの重みがある。さらに明確な言い回しよりも、たとえ話やユーモアを含むんだその語り口が素敵でした。「人生は一秒一秒の積み重ねなんだ」とか。派手さは一切ないけど(でもラストにちょっと事件?もあり)、ゆったりとした心地になれる映画でした。心が温まるし安らぐし、余計なモノは一切なくて、自然の中での2人のやりとりがほほえましくて。85分という上映時間も過不足なく。そしてエンドロールにながれる曲に、これまた素敵な贈り物が。最後まで微笑ましい雰囲気で締めくくってくれて、とても気持ちよく映画館を出ることができました。


ハモンハモン
Jamon Jamon
監督・脚本:ビガス・ルナ 脚本:クーカ・カナルス
出演:ペネロペ・クルス、アンナ・ガリエナ、ステファニア・サンドレッリ、ハビエル・バルデム、ジョルディ・モリャ、ファン・ディエゴ
1992年スペイン/93分/配給:アルシネテラン、シネマテン

 スペインのある小さな町、下着メーカーの工場で働く美しい娘シルビアは、社長の息子ホセルイスと恋仲にあり、彼の子を妊娠する。しかし、ホセルイスを溺愛する彼の母コンチータは、2人の結婚に反対し、策略をめぐらせるが……。
 シルビアと彼女の母カルメン、ホセルイスと彼の母コンチータと父マヌエル、コンチータによって雇われたラウル。この6人の男女が織り成す大人の愛憎劇なわけだが、話が進むにつれて絡まっていく人物関係は、なんだかもうぐちゃぐちゃというか……。ある意味、ここまで入り乱れるのはすごくない? なんだかそんなところにばっか感心してしまいましたが。さすがは情熱の国スペインという感じ(?)。ベネチア映画祭銀獅子賞受賞作。


ハリー・ポッターと賢者の石
Harry Potter and the Sorcerer's Stone
監督:クリス・コロンバス 脚本:スティーブ・クローブス 原作:J・K・ローリング
撮影:ジョン・シール 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパード・グリント、エマ・ワトソン、リチャード・ハリス、マギー・スミス、アラン・リックマン、ルビー・コルトレーン
2001年アメリカ/152分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://harrypotter.jp.warnerbros.com/ チラシ 12


 魔法使いの少年ハリーは赤子のときに両親を亡くし、それ以来、心ない叔父一家にこき使われる日々。そんなハリーが11歳の誕生日を迎えた日、ホグワーツ魔法魔術学校の入学許可証が届く。実はハリーの両親は有名な魔法使いで、ハリー自身も魔法界にその名を知られた存在だったのだ。
 もはや説明不要であろう世界的大ベストセラーの映画化。原作大ファンの自分は大きな期待とちょっとの不安を胸に待ち望んでいましたが、この世界観の映像化は見事でした。ただ、当然といえば当然かもしれませんが、2時間32分という長尺にも関わらず原作のストーリーを追うのに精一杯という感じで、展開を急いでいたり人物の細かいところまで描ききれていなかったり……。様々な魔法や人物、動物、建物などなど……ファンタジー色にあふれた夢の世界を見せてくれるという意味で、この映画は成功だと思いますが、細かい山の連続の構成がちょっと気になるといえば気になるかも。気になるキャスティングはバッチリで、ハリーのダニエル・ラドクリフはホントにぴったりだし、ハーマイオニーのエマ・ワトソンは抜群にかわいく、ロンのルパード・グリントだけが当初イメージとちょっと遠いと思いましたが、ロンの明るく少年っぽいところがよく出ていてよかったですね。この3人がとにかく最高のキャスティングであることは、誰しもが認めることでしょう。シリーズ1作目ということで、今回は大きなプロローグ的な印象もあって、続編以降がとても楽しみになる要素がいっぱい詰まった作品でした。とにかく原作に忠実なので、原作ファンは安心してみてよいと思います。


ハリー・ポッターと秘密の部屋
Harry Potter and the Chamber of Secrets
監督・製作総指揮:クリス・コロンバス 脚本:スティーブ・クローブス 原作:J・K・ローリング
撮影:ロジャー・プラット 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパード・グリント、エマ・ワトソン、ケネス・ブラナー
2002年アメリカ/161分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://harrypotter.jp.warnerbros.com/ チラシ 12


 相変わらず意地悪なダーズリー家に嫌気を感じながら夏休みを過ごしていたハリーのもとに、ある日ドビーと名乗る“屋敷しもべ妖精”が現れる。ドビーはハリーにホグワーツへ戻らないよう警告するが、ハリーはそれを聞かずに、助けに来てくれたロンと共にダーズリー家を抜け出す。そしてホグワーツ魔法魔術学校で2年目を迎えたハリーだが、やがて校内では不気味な出来事が次々と起こり始める……。
前作から1年で登場したシリーズ第2作。監督、主要スタッフやキャストなどはほぼ続投して製作。今回は魔法界の説明的シーンは少なく、最初から流れもスムーズ。もちろん、ハリーたちは学生であり、日々の学校生活がありつつ、その中で細かな事が起こり、全体像としての事件が進展していくというスタイルに変わりはないので、場面展開が急なところはありますが。また、前作よりダークなトーンは、そもそも古代の城郭を呈した荘厳な雰囲気をもつホグワーツはでは暗めのトーンが似合うのでいい感じ。舞台がほとんど学校内で統一されている点も統一感がでていてよかったかと。逆にいうと、それだけクィディッチのシーンが浮いた印象を受けてしまいましたが。また、前作ではどちらかというと状況に対して振り回されていた3人が、逆に状況に対処し、率先して動いていく姿勢がストーリーにスピード感を持たせているような気もしてよかったかな。今回はクライマックスがしっかり盛り上がる構成なので映画としての出来も前作より高いのでは、と思います。振り返ってみると今回は前回よりも9分長い2時間41分。こりゃ、次回は3時間になるね。


ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
Harry Potter and the Prisoner of Azkaban
監督:アルフォンソ・キュアロン 脚本:スティーブ・クローブス 原作:J・K・ローリング
撮影:マイケル・セレシン 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパード・グリント、エマ・ワトソン、ゲイリー・オールドマン、デビッド・シューリス、マイケル・ガンボン
2004年アメリカ/142分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://harrypotter.jp.warnerbros.com/ チラシ 1


 ホグワーツ魔法魔術学校での3年目を迎えるハリーのもとに、魔法界の刑務所アズカバンから凶悪犯シリウス・ブラックが脱獄したという知らせが入る。彼は“例のあの人”の部下でハリーの命を狙っているという。シリウスを捕らえるため、アズカバンの看守で、人の恐怖心を喰らう吸魂鬼<ディメンター>がホグワーツに配置されるが。
 前作から1年半の間をおいて登場したシリーズ第3弾。前2作の監督クリス・コロンバスは製作に回り、メキシコ人のアルフォンソ・キュアロンが監督。また、他界したリチャード・ハリスに変わり、ダンブルドア役はマイケル・ガンボンにバトンタッチ。監督交代による変化が一番大きな楽しみでしたが、今回は前作以上に全体的にダークで、色調も暗めの画面に厚みと重みがあってよかったなと。事前に言われていたとおり、今回はキャラクターが私服で登場することも多く、自然と“学園物”っぽさが抜けたし。元来はお子様向けな作品が、その質感は大人の鑑賞に耐えうる出来栄え。またこれまでの3作の中で原作はもっとも長いのに、映画は今回が一番短いのは特筆すべき点かと。原作ファンとしては「あれの説明はこんなもんでいいのか?」と思うところは、なきにしもあらずですが、もう3作目でもありますし、完全にハリーを中心に据えてグイグイ進むあたりは、思い切りがよくていいと思います。子役たちの内面的、演技的な成長ぶりも顕著で、彼らは完全にハリーやロン、ハーマイオニーを自分のものにしてますね。もちろん身体的に大人に成長してるというところもありますが、表情からある程度の自信が感じ取れるというか、いい意味で慣れてきてますね。エンドロールの音楽と演出も新しかったです。ともかく、キュアロンのビジュアルテイストはかなりよかったし、今回の監督人選は成功かと。さて、次回のマイク・ニューウェルやいかに?


ハリー・ポッターと炎のゴブレット
Harry Potter and the Goblet of Fire
監督:マイク・ニューウェル 脚本:スティーブ・クローブス 原作:J・K・ローリング
撮影:ロジャー・プラット 音楽:パトリック・ドイル
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパード・グリント、エマ・ワトソン、レイフ・ファインズ、ブレンダン・グリーソン、マイケル・ガンボン
2005年アメリカ/157分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.gobletoffire.jp/


 ホグワーツ魔法魔術学校の4年生になったハリーたち。クィディッチのワールドカップ会場で闇の帝王復活を示唆する恐ろしい出来事が発生、さらにホグワーツでは、100年ぶりに開催される3大魔法学校対抗試合で、資格もなければ立候補もしてないハリーが代表選手に選ばれる。誰もが不審に思うなか、ハリーは代表選手として命懸けの試合に臨むことに……。
 今までキャストや撮影場所に原作通りの英国にこだわってきた本シリーズで、初の英国人監督となるマイク・ニューウェルがメガホンを握った第4弾。シリーズもここまでくればもはや安泰というか、新しい驚きのようなものは正直少ないが、それでもマンネリ化をなくそうという努力は伺えるし、監督ごとに独自のカラーを出そうという気概は見て取れる(今回は歌物があったり音楽が結構新しい)。今回は今までになかったような遠景の引いた構図が多く見受けられたような気がして、意外にダイナミックな画作りが印象的。特に最初のクィディッチワールドカップ競技場に向かう途中の朝日の丘とか。かなりハッとさせられたが……。ストーリー展開は覚悟はしていたが駆け足気味になってしまっているのは否めないか。前作でアルフォンソ・キュアロンがかなり原作を大胆に削って驚かせたが、今回も同様に相当削ってる……んだけど、それが当たり前になってしまって、あまり驚きがなく。かなり削ってるのに前作より長い2時間37分(原作そのものが3巻より4巻のが遥かに膨大なのは言うまでもない)。これならばいっそ開き直って3時間にでもして、もう少しじっくり描いてほしかったとも思う。どうせもうここまでくればファンしか観ないのだから。まあ、それにしても原作ファンには嬉しい出来栄えであることに変わりはありません。
☆★★★★


ハルク
The Hulk
監督:アン・リー
出演:エリック・バナ、ジェニファー・コネリー、サム・エリオット、ジョシュ・ルーカス、ニック・ノルティ
2003年アメリカ/138分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/hulk/ チラシ 123


 遺伝子学者のブルース・バナーは、実験中の事故で致死量のガンマ線を浴びるが、何故か彼は無傷だった。しかし、事件の後、ブルースは身体の異変に気付く。彼は“怒り”の感情が高まると全身が緑色の巨大なモンスター=“ハルク”に変身してしまうのだった。そんな時、ブルースの前に死んだと思われていた父親が姿を現し、ブルースの身体に隠された事実を語るが……。
 『X-MEN』『スパイダーマン』『デアデビル』に続くマーヴェル・コミック原作ものの映画化。例の如く原作は読んだことないですし、70年代に放映されていたというアニメシリーズも知らないので、今回がほぼ初めて。余計な思い入れがないぶん、楽しめましたし、前評判はいまいちだっただけに、そういう意見に比べれば、「割といいじゃん」という印象。ただし、それは多分にジェニファー・コネリーのおかげかも。とにかくジェニファー・コネリーの美しいこと…。そして、彼女の流す涙にだまされてしまいます(笑)。……とは言ったものの、アン・リーなだけあって、ドラマ部分の演出が巧いというか、他のアメコミ映画に比べると、大人っぽい雰囲気(エリック・バナとジェニファー・コネリーが落ち着いた雰囲気もってますからね)。そのぶん、コミカルなところやカタルシスには欠けるんで、どうも半端な印象になってしまうかもしれませんけどね…。個人的にはブルースとベティが山小屋で語りあうシーンなんて好きなんですけど(っていうと、やっぱりジェニファー・コネリーじゃん…って思われそうですが)。肝心のハルクは、完全CGキャラとしては最近の他のCGキャラに比べても遜色はないと思いますが、やっぱり顔アップになったりするとね……。ださいし。それからクライマックスの父子対決はいきすぎな感があり…。ま、アメコミだし…と思えば、なんてことないんですけど。
 あと、コミック調のコマ割りの画面演出は面白かったです。ちょっと違和感感じなくもないですが。それから、同様にコミック調に仕上がっているエンディングのスタッフロールは秀逸ですわ。あれは、かっこいいと思います。


春の日は過ぎゆく
One Fine Spring Day
監督・脚本:ホ・ジノ
出演:ユ・ジテ、イ・ヨンエ
2001年韓国+日本+香港/113分/配給:松竹
公式サイト http://www.shochiku.co.jp/harunohi/ チラシ 1


 録音技師の青年サンウと、ラジオ局のDJ兼プロディーサーのウンスは、番組制作の録音現場で知り合い、惹かれあう。すぐに恋人同士となった2人。両親と、悲嘆から殻に閉じこもっている祖母と4人で暮らすサンウは家族を大切にする純粋な青年。一方でウンスは、離婚経験もある一人暮らしの寂しい年上の女性。出会ってから恋をして、一緒にいることが何より幸せだった2人だが・・。
 普段、あんまり純粋な恋愛ものを観ない自分にすれば、こういうのもなかなか新鮮。しかも、この監督の作品は、とにかく繊細で美しいです。静かに流れる音楽、台詞、風景。特に今回は主人公が録音技師で、自然の音を録音していく場面が所々に挿入されて、風になびく竹やぶの音、川の流れる音、深々と降り積もる雪の音・・・どれもが心に染み入ります。そういった自然の音や情景、さらにサンウの家族の繋がり(おばあちゃんのエピソードは饒舌に語られないけど、なんだかジンとする)を丁寧に描いて、感銘を誘います。主人公サンウは純粋な青年であるから、人を好きになったときの気持ちとして、わりとわかりやすいというか、感情移入がしやすのではないかと。一方で、ちょっと謎めいたまま終わるウンスはどうなのかな(つまり録音技師であるサンウも、彼女の心の声は聞き取ることができなかった、と。これはキャッチコピーにも書いてありますけど)。演じているイ・ヨンエはめちゃくちゃかわいいですが(奥菜恵+広末涼子+常磐貴子÷3)。主人公の人間性も含め、どこまでも繊細で静かなドラマは、心が洗われる感じもするのですが、エンディング・クレジットで流れる松任谷由美作曲のテーマ曲は、この上なくいただけない。蛇足、という言葉以外に当てはまる言葉があるだろうか。せっかく築き上げてきた雰囲気を見事にぶち壊してくれます。これは監督の意思ではなく、日本のプロデューサーの意思でしょうが。監督もよくあの曲を許したもんだ。・・・ということで、エンディング曲以外は十分、及第点でお薦めできると思います。


パルプ・フィクション
Pulp Fiction
監督・原案・脚本・出演:クエンティン・タランティーノ
出演:ジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ハーベイ・カイテル、ティム・ロス、アマンダ・プラマー、ブルース・ウィリス
1994年アメリカ/154分/配給:松竹富士

 強盗を計画するカップル、ボスの金を取り戻しに行く2人組のギャング、ギャングのボスから八百長試合で金を受け取るボクサーといった人々を時間と場所を交錯して描く。94年のカンヌ映画祭パルム・ドール受賞。
 入り混じった物語がラストに向けて収束していく手腕はお見事。また、登場人物それぞれが基本的にワルな人物ばかりなのに、そう見えない。それぞれがなんか小さいことや大きいことで悩んでいたりして。特に2人組のギャング、ジュールスとビンセントのとりとめもないというか、よくわからない会話を延々と続けながらも、事態が進行していく様がなんだか不思議な感覚。


バレエ・カンパニー
The Company
監督:ロバート・アルトマン 脚本・原案:バーバラ・ターナー 原案・製作:ネーブ・キャンベル
出演:ネーブ・キャンベル、マルコム・マグダウェル、ジェームズ・フランコ
2003年アメリカ+ドイツ/112分/配給:エスピーオー
公式サイト http://www.thecompany.jp/ チラシ 1

 名門バレエ・カンパニー“ジェフェリー・バレエ・オブ・シカゴ”に所属するダンサーのライは、今年のシーズンが始まって早々に恋人でありダンスのパートナー同僚の浮気を知りことに。しかし、世界的な振付師によるダンスの主役が怪我をしたことから代役に抜擢され、公演は成功。カンパニーの芸術監督であるミスターAにも実力が認められるようになっていく。
 元バレリーナのネーブ・キャンベルが、企画から製作、主演までこなし、劇中のダンスシーンを全て吹き替えなしで踊り切ったとのこと。いくら元バレエ経験者とはいえ、出演しているバレエ・ダンサーたちは、全て本物の“ジェフェリー・バレエ・オブ・シカゴ”のダンサーたちだから、プロである彼らと対等に渡り合った(と思う。あんまりバレエには詳しくないから、詳しい人がみたら違うのかもしれないけど)彼女の熱演はスゴイと思う。これまでの代表作といえば『スクリーム』……という印象が強かった彼女が、女優として一段上にステップアップしたことは間違いないだろう。一応、ライが主人公であり、彼女がなんとか成功を収めていく過程を追ってはいるももの、彼女だけではなく、彼女を含めた全てのダンサーや、芸術監督のミスターAや振付師など、ひとつの舞台を成功させるために奔走する多くの人々の苦労が描かれていて、映画は全体を通してむしろドキュメンタリーに近い感じ。まさしくひとつのバレエ・カンパニーが主人公で、華やかに見えるダンサーたちの日常生活(特に繰り返される厳しいレッスンなど)がリアルで。過剰な演出はないけど、ひとりひとりの苦悩や苦労がちょこちょこと描かれているあたりは、群像劇の名手アルトマンの本領発揮か。プリンシパルが怪我をしてしまったり、主人公自身も大事なところで怪我をしても、ドラマチックで過剰な演出はなく、結局はある種の人間の肉体美の究極ともいえるバレエというもののストイックさと、そういったことは日常茶飯事的に起こり得ることだということを的確に描いてる。そしてもちろん、随所に挿入されるバレエの舞台は美しく(何しろ本物のバレエ団だから)、迫力満点。まるで生の舞台を観ているようで、終わったあとは思わず拍手したくなる。バレエ好きは観ておいて損はないかと思う一作。逆に、バレエに全く興味がないと断言できる人にはちょっとつらいかもしれないが。


ハロー、アゲイン
The Darkest Light
監督:サイモン・ボーフォイ、ビリー・エルトリンガム 脚本:サイモン・ボーフォイ
出演:ケリー・アーノルド、スティーブン・ディレン、ケリー・フォックス
1999年イギリス/94分/配給:東北新社
公式サイト http://www.tfc-movie.net/movie/hello-again/

 イングランドのヨークシャー。荒涼とした牧草地が広がるこの地で、農業を営むトムの長女キャサリンは、活発で明るい女の子。弟のマシューは白血病にかかっており、入退院と通院を繰り返してはいるが、大人たちも半ば希望を捨てかけている。ある時、キャサリンは友達のウマと学校をサボって谷で遊んでいたとき、真っ白な光に包まれ、その中でマシューが優しい光に覆われている姿をみる。奇跡が起こり、マシューの病気は治るのだと確信したキャサリンだが…。
 一見、ファンタジーっぽい要素があるのかと思いきや、この映画は実はとても現実的。それは見てもらえればわかると思うのですが。家族同士の感情のぶつかり合いやキャサリンのどこか純粋な少女っぽさ漂う言動なども自然でよいです。キャサリン役のケリー・アーノルドは演技自体が初めてというが、彼女を含めて全ての役者が自然で抑えた演技をみせてくれてとても良かったです。この作品はネタバレにならないように感想を書くのは難しいのだけど、奇跡というものが決して安易に扱われておらず、また、キリストやヒンズーといった宗教も 登場するがそれもいたって現実的に扱われている点がリアリティあって良いです。ヨークシャーの大自然の描写と、そこに立つ少女たちの風景もすごく好きだし、「ハロー、アゲイン」という邦題の意味がわかるラストシーンも、ジーンときて涙腺が緩んでしまいます。あの静かなラストシーンはすごく好きだな。


バンカー・パレス・ホテル
Bunker Palace Hotel
監督・脚本:エンキ・ビラル
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、キャロル・ブーケ、ハンス・メイヤー、マリア・シュナイダー、ヤン・コレット
1991年フランス/95分/配給:巴里映画

 退廃した未来世界、白い酸性雨が絶え間なく降り注ぐ中、政府軍と反乱軍の戦いは終局を迎えつつあり、政府はもはや崩壊寸前だった。大統領は、政府高官たちに召集をかけ、地下の避難壕“バンカー・パレス・ホテル”に入るが……。
 フランス劇画界バンド・テシネの巨匠エンキ・ビラルの監督第1作。どこかレトロ感があり、地球の未来のようで地球でないような不思議な場所の感覚…これらの表現力はさすがエンキ・ビラル。だけど、どうもこの人って、あくまでビジュアリストであってストーリーテラーというわけではないような気がします。この作品よりも先に、監督第2作である『ティコ・ムーン』を観たんだけれど、あっちのほうがストーリーとしては面白かったかも。どっちもすごく淡々としていることには変わりないのだけれど。もうちょっとストーリー展開に起伏が欲しいような気もするんですけど、この独特の雰囲気がいいってことなんだと思います。


パンチドランク・ラブ
Punch-Drunk Love
監督・脚本・製作:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アダム・サンドラー、エミリー・ワトソン、フィリップ・シーモア・ホフマン、ルイス・ガズマン
2002年アメリカ/95分/配給:東宝東和
公式サイト http://pdl.eigafan.com/ チラシ 123456789

 ロサンゼルス北部、サン・フェルナンド・バレーの倉庫街で、トイレの詰まりを取るための吸盤棒をホテル向けに販売している青年実業家(自称)のバリー・イーガンは、突然キレたり泣いたりとちょっと情緒不安定。気の強い7人の姉に辟易。そんな彼は、ヘルシー・チョイス社の製品を10個買えば500マイルがもらえるキャンペーンに目をつけ、なんとか安くマイルを稼ごうと考える。そんな朝、隣の自動車工場に車を預けにきた女性リナに出会い……。
 『ブギーナイツ』『マグノリア』と3時間レベルの群集劇を得意としてきたPTA(ポール・トーマス・アンダーソン)が描く95分のラブ・ストーリー。「パンチドランク・ラブ」とは“強烈な一目惚れ”という意味で、まさしくバリーとリナは理由もなく互いに一目惚れ。特にバリーはこの恋のために、勇敢に悪と立ち向かう(笑)! このパワーこそ、まさしく恋。シンプルなストーリーだけど、細かなところに不条理で不可解な現象がちりばめられているのが、いかにもPTAっぽい。アダム・サンドラーもまともな映画に出れば「いいじゃん」と思うし、やっぱり個人的にエミリー・ワトソンは好きだ(コレを言うと変わった趣味だと言われるが)。まあ、バリーのような性格は正直困ったものではあるけれど、こんな恋ならしてみたい。そのままハワイに行ってみたくなる(笑)。そういう映画でございます。


バンディッツ
Bandits
監督・製作:バリー・レビンソン
出演:ブルース・ウィリス、ビリー・ボブ・ソートン、ケイト・ブランシェット
2001年アメリカ/124分/配給:20世紀フォックス
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/bandits/ チラシ 1

 直情型で考えるよりも行動にでるジョーと、頭は働くが神経質で医学オタクなテリー。刑務所で知り合った二人は脱獄。その後、誰も傷つけず、誰も殺さずに次々と銀行強盗を成功させる。その手段から“お泊り強盗”としてすっかり有名になったジョーとテリー。そんな時、二人は、仕事ばかりの夫に欲求不満のたまった人妻ケイトと偶然知り合う。鬱屈した生活に嫌気がさしていたケイトは二人の計画に乗り気で…。
 3人の個性がそれぞれにでていて面白いし、演じる役者もぴったりで良かった。痛快犯罪映画と銘打ってるから、そういう部分に期待していたけど、結構、3人の友情と愛情のドラマがメインになってて、痛快な…というイメージはさほどでもなかった気がする。ただ、ラストの部分でその痛快さを感じましたけどね。そのラストは面白かったですが、そこに辿り着くまでがちょっと長かったかも。結構、普通の恋愛ドラマ? のようになってて。ただ、それにしても、やはりキャラクターがしっかりしてるからその点では良いですね。中だるみ感はあるのですが、配役が良いし、それなりに手堅く作られた、誰が見ても安心して楽しめるような娯楽作品。そういう意味で楽しめました。ケイト・ブランシェットの赤毛スタイルよかったですしね…。彼女はやっぱり魅力的でした。


ハンニバル
Hannibal
監督:リドリー・スコット 原作:トマス・ハリス 出演:アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア、ゲイリー・オールドマン
2001年アメリカ/131分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.hannibal.ne.jp/

 あれから10年、ハンニバル・レクター博士が帰ってきた。大ヒット映画「羊たちの沈黙」の続編でトマス・ハリス同名小説を映画化。 出来の良い映画であることはわかる。リドリー・スコット監督は個人的に好きだし、彼らしく重厚なつくりが感じられたし。前作「羊たちの沈黙」を観ているのと観ていないのでは、やはり差があるでしょうか。前作を知らなくても、話はわかりますし楽しめると思うのですが、前作のファンの人が観るとどう思うのだろうか? 原作小説読んだ人は、登場人物の一人メイスン・ヴァージャーの容貌がどう映像化されるか気になるところのようだが、あれは特殊メイクでしょうか…、すごかったです(演じてる役者の名を聞いてびっくり。わかんないですよ、あれじゃ)。