ピアノ・レッスン
The Piano
監督・脚本:ジェーン・カンピオン 出演:ホリー・ハンター、ハーヴェイ・カイテル、アンナ・パキン、サム・ニール
1993年オーストラリア/121分/配給:フランス映画社

 19世紀半ば、スコットランドから父親による縁組でニュージーランドへ嫁ぐことになったエイダ。彼女は6歳の時から口がきけなかったが、ピアノを弾くことがその代わりとなっていた。娘のフロラとピアノを伴ってニュージーランドに赴くが、夫スチュアートはピアノは重くて運べないからと浜辺に置き去りにしてしまう。さらに、土地と交換という条件で、その地に住むベイルズにピアノを渡してしまう。ベイルズはエイダにピアノのレッスンをしてくれれば、鍵盤をひとつずつ返すという。そうして始まった二人のピアノレッスンはやがて…。
 美しいピアノの旋律にのせて繰り広げられる、重苦しくも情熱的な愛憎劇。アカデミー賞で、ホリー・ハンターは主演女優賞を、娘フロラ役のアンナ・パキンは12歳にして最年少の助演女優賞を獲得して、大いに話題となった(ちなみに脚本賞も受賞)。内容としては、エロチシズムを交えた恋愛映画であるが、役者陣の演技と監督の手腕によって、芸術的に高められた作品。ただ、個人的には、ベイルズやフロラの行動などもちょっと理解しにくい部分もなきにしもあらず。さらに作品の主題とは関係ないかもしれないが、政略結婚のようなものへの憤りを大きく感じた作品。スチュアートのエイダへの仕打ちも、非常に許しがたい。なんてことを観てて思ったものです。ホリー・ハンターの声はなくとも発せられる強い意志のようなものと、それを漂わせる美しく気丈な容姿や、ラスト近くの海の中など、印象に残るシーンも多い。


ピアニスト
La Pianiste
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ 出演:イザベル・ユペール、ブノワ・マジメル、アニー・ジラルド
2001年フランス+オーストリア/132分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.herald.co.jp/movies/pianist/ チラシ 1

 厳格な母にピアニストになるべく育てられたエリカ。名門ウィーン音楽学院のピアノ教授として生徒を受け持ちながら、中年にさしかかった今でも、母の監視を受けながら生活していた。そんな時、彼女はある小さなコンサートでワルターという青年と出会う。ワルターは一目でエリカに惹かれるが、今まで男に触れてこなかったエリカはワルターを拒む。しかし、エリカにアプローチを続けるワルターに、いつしか彼女も惹かれはじめていくのだが…。エリカには秘密があった。
 2001年カンヌ国際映画祭で、グランプリと主演女優賞、主演男優賞の三冠に輝いた話題作。異常といえるほどの束縛を受けて育った女性の隠された秘密。その女性を愛してしまった男。その双方の苦悩が重苦しいほどにのしかかってきます。そう、とても重いです。正直なところ、ここまでの恋愛には精神的についていかれないところもあるのですが…。エリカが現在のように陥ったのは、束縛する母親がいたからなのか。たぶん、直接的な原因はそこなんだろうが、それだけだろうか。ちょっとそのへん、わかりづらくもありました。日常的にこのような恋愛があるとは思えないけど、人間の心とはわからないもので、一歩どこかで間違えると、こうもなりうるのだろうな。年下の若いハンサムな男から強く言い寄られても、今まで女として生きてこなかったエリカは受け入れることができず、それまで積み上げてきた自分の性癖を打ち明けるが、それは受け入れられるはずもない。そこには哀しいまでの人間の行き違いがあるような気がします。エリカが普通に育っていれば、こんなことはなかったはず。人間とはどこまでもわからないものだ…。主演女優賞、男優賞というのもうなずける二人の演技は良いし(特にイザベル・ユペールの厳しくも脆い哀れな人間像はお見事)、なんの妥協もなく、ひたすら冷静に…時には冷徹にといってもいいほどに、描ききる。そこには非日常的でありながらも、リアリティにあふれた哀しい人間像が描きだされていると思います。納得の出来ではあるけれど、個人的には感情移入しづらくて、観ていてちょっと重かったなぁ…ということはあります。ある意味、生々しすぎる…と言いましょうか。あるいは強烈…と言うべきでしょうか。印象に深い作品であることは違いないのですが。
 主演の二人がそれぞれピアノをちゃんと弾けて、劇中でも本人達が弾いたというのはすごい。余談だけど、ブノワ・マジメルほど「美青年」という言葉が似合う男はおらんな、ほんとに…。


HERO
Hero
監督・脚本:チャン・イーモウ 撮影:クリストファー・ドイル 衣装:ワダエミ
出演:ジェット・リー、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイー、ドニー・イェン、チェン・ダオミン
2002年中国/99分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.hero-movie.jp/ チラシ 1

 後に中国全土を統一し、始皇帝を名乗る秦王の下に、無名と名乗る1人の剣士が現れる。彼は秦王の命を狙う3人の最強の刺客――残剣、飛雪、長空をたった1人で討ち取ったという。暗殺者から身を守るために100歩以内には誰も近づけない秦王だったが、無名には、彼らを討ち取った功績で20歩まで、10歩までと徐々に近づくことを許すが……。
 監督、スタッフも名立たる人ばかりでキャストも驚くほど豪華なオールスター。これだけでじゅうぶんに観たいと思わせるものがありますけど、実際、その豪華な顔ぶれに名前負けしない素晴らしい内容でした。中国映画史上最大の巨費を投じて作られた大作でもありますが、百凡のハリウッド大作とは違って、実に「心」のある映画です。華麗なワイヤーワークもあり、アクションも楽しませてくれますが、それ以上に面白い、主人公が物語っていく構成。それが二転、三転して、やっと真実にたどり着くという。しかも、その都度に色調が、赤、青、白、緑と統一されて、この上なく印象的。基本的に登場人物は6人で、それら以外の余計な人々や感情は極力排しているようで、そこもまた中国の精神が表れているようで(?)良し。ジェット・リーが主人公だけど、話の美味しいところもってくのはトニー・レオンでしたね。でも、ジェット・リーの最後も美味しいですけど。静かだけど深く、ぐっとくる骨太な作品でした。投げかけられるメッセージには涙せずにはいられませんよ。実際には泣きませんでしたけど、観終えて振り返ってみると、無名や残剣、秦王のとった行動の切ないまでの潔さは、まさしく「英雄」なのであった……。それから和太鼓や琴なんかを使った和風の音楽がすごい良かった。マジでサントラ欲しいですよ。


光の旅人
K-Pax
監督:イアン・ソフトリー 出演:ケビン・スペイシー、ジェフ・ブリッジス
2001年アメリカ/121分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.k-pax.jp/ チラシ 1

 自分は地球から1000光年離れた“K-パックス星”からやってきた異星人だと自称する男、プロート。当然のことながら、彼は妄想病の患者として精神病棟に入れられてしまう。高名な精神科医マーク・パウエルが彼の担当にあたるが、あらゆる検査でも異常は認められず、あまりに理路整然とした説得力のあるプロートの言葉にマークも戸惑う。プロートは病棟の患者たちから信頼され、彼の感化を受けた患者たちは次第に癒されていく・・・。
 この映画の一番の見所はケビン・スペイシーかな。やっぱり、彼はすごい。本物の役者だと思う。遥か遠くの宇宙から旅をしてきたというプロート。地球人よりも、超越した何かをもつ彼は、かといって地球人を見下すようなことはなく、不思議な優しさをもったキャラクター。そんな難しい役どころを見事に演じきっちゃうケビン・スペイシーに感動です。結局、彼が宇宙人なのかどうなのかは、見てのお楽しみで、最後はああいう展開になるのはちょっと意外でしたね。きちんとした説明はなされませんが、じゅうぶんに理解はできるでしょう。人と人の絆を描いた作品のようで、そのテーマ自体は安易といってしまえば安易なのですが(マークが家族の大切さを実感したりするところや、プロートの過去なんかも)、それを描く過程として、精神科医と自称・異星人という二人をもってきたのは面白いと思いました。しかも、この二人がお互いを理解しあえずとも理解しあおうという、友情ににた何かを得ていく過程がまた、とても良かったです。で、繰り返すようですが、この映画のケビン・スペイシーは本当にいいです。彼のことが少しでも気になっている人なら必見かと。


陽だまりのグラウンド
Hardball
監督:ブライアン・ロビンス 出演:キアヌ・リーブス、ダイアン・レイン
2001年アメリカ/106分/配給:ギャガ・ヒューマックス、松竹
公式サイト http://www.hidamari-ground.com/ チラシ 1

 賭け事におぼれてダフ屋をやって暮らす青年コナーは、ギャンブルで大負けし、多大な借金を負ってしまう。なんとかお金を工面しなくてはならないために、友人の頼みでリトルリーグのコーチをやるはめに。最初はお金のために仕方なく始めたことだったが、少年達や彼らの担任教師エリザベスと触れ合ううちに彼も次第に自分を見つめなおすようになり…。
 すれた大人が、純粋な子供達に感化されていく…というのはよくあるパターンではあるけど、それ自体を批判する気はありません。さて、この作品は、そうした大人と少年たちの交流を描くハートウォーミングなストーリーなのですが、正直いって、ちょっと“感動”を意識しすぎたのではないかなぁと思います。オープニングからギャンブルに興じるコナーが負け金を払えずに脅されていたり、また、少年達の 住む街は貧困で治安が非常に悪いところを見せたりして、現実のハードな部分をあえて描いている気がします。そうすることで、より少年達の純粋さに心打たれるのだけど、それが感動を意識しすぎた作り…というふうにとれてしまいました。いかにそれが現実社会に基づいているのだとしても。ハートウォーミングな感動作にしたいのはわかるけど、もっとソフトに描いてもいいんじゃないかなぁ…と思いました。原題がHardballなだけに、ハードな(?)ハートウォーミングドラマという感じがして。いかにも…って感じのところと、それだけじゃないだろとばかりに、あえてダークな部分を描いてることが、逆に僕にとってはひっかかってしまいました。まぁ、別にそんなにいじわるに解釈する必要もないわけだから、これはこれでよいのですが、そういうわけでちょっとね。実際、感動できるのですが、上記のようなために心のどこかに完全に感動しきれないところがありました。あとは、申し訳ないですが、個人的に少年野球というものに思い入れもないし、あまり感慨もわかないため、そこが感情移入がしずらかったというのもあります。良かったと思ったのは、下手に恋愛を入れすぎずに、コナーと少年達を中心にしたことかな。そのぶんエリザベスの描写が少なかったのは仕方ないけど。


ビッグ・フィッシュ
Big Fish
監督:ティム・バートン 脚本:ジョン・オーガスト
出演:ユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ヘレナ・ボナム=カーター、アリソン・ローマン
2003年アメリカ/125分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.big-fish.jp/ チラシ 12

 まるでお伽話のような人生のストーリーを語るエドワード・ブルーム。彼の話は、聞く者すべてを楽しませ、皆から親しまれていた。しかし、息子のウィルは、子供の頃こそ、父の話を楽しく聞いていたが、いつまでたっても現実離れした話ばかりする父を「作り話ばかりで、本当のことを語ってくれない」と遠ざけていった。しかし、エドワードが病床に伏し、余命いくばくもなくなったため、ウィルは父と改めて向き合う。「善人でも悪人でもいいから、本当の父さんの姿を見せて」と。そんな息子にエドワードは、「私は常に本当のことを語ってきた」と返すが……。
 全米でベストセラーとなっているダニエル・ウォレスの同名小説を映画化。“ティム・バートンが大人になった”ということで、もっぱら評判ですが、確かに、そんなに強いバートン・ファンではない僕がみても、「こんな爽やかな感動作をバートンが撮るなんて」と、ちょっと驚き。でも、誰もが感動できるであろうストーリーであると同時に、随所にバートンらしいファンタジックな要素がいっぱい。ただ、それは原作通りの表現なのかもしれないけど、その原作を映像化するということに、バートンが適していたんだろうなと思う。どこまでが本当の話で、どこまでが作り話かなんてこと仔細なことは関係なくて、ただ、夢のような話が羨ましくて楽しくて、誰よりも自分に自由に奔放に生きて、そのくせ周りの皆を幸せにしていくエドワードに、いつの間にか観ている側も魅了されていくような。それだからこそ、この映画が感動できるものなんだと。思わずジーンときてしまう。バートンの映画は、これまでも結構切ないものがあったけど、それは理解されないがゆえの切なさだった(『シザーハンズ』がその最たるもので)。一風変わった主人公が、世間から理解されないが故の切なさという。だけど、今回の主人公(エドワード)は、皆から受け入れられた。とてもいい人生だった。だからこそ、その人生に幕が降りようとしているから、泣けてきちゃうのだ。でも、その涙は、切ないというよりも温かいのだ。とっても素敵なのだ。


ビフォア・ザ・レイン
Before the Rain
監督・脚本:ミルチョ・マンチェフスキー
出演:グレゴワール・コラン、ラビナ・ミテフスカ、カトリン・カートリッジ、ラデ・シェルベッジア 
1994年イギリス+フランス+マケドニア/115分/配給:大映

 マケドニアの修道院で沈黙の誓いをたて、言葉を発しない青年とそこに逃げ込んできた少女の物語である第一部「言葉」。ロンドンで働く女性編集者アンと、その愛人でカメラマンのアレックスの物語である第二部「顔」。アレックスが故郷のマケドニアの村に戻り、幼馴染の女性や懐かしい人々と再会し、そこで起こる事件を描く第三部「写真」の3部構成で描かれたオムニバスドラマ。
 この3つの物語が実は微妙に繋がっているところが興味深いです。微妙に・・・というのは、本当に微妙なのであって、輪廻や循環する時間軸のようなものを感じさせるつくりで、不可思議。そして、そのねじれた時間軸の中で、人と人が憎みあうこと、愛しあうことの、業の深さのようなものを巧みに描いているようです。マケドニアという映画ではあまり目にすることができないところが舞台なのも面白いです。そして、そのマケドニアという地に存在する、民族同士の確執も、この映画を語る上で重要なもののような気がします。監督は、それを根底にして描きたいものがあったのかな。初監督作品にして、ベネチア映画祭で金獅子賞以下9部門に輝いた秀作。


ビフォア・サンセット
Before Sunset
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
脚本・出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー
2004年アメリカ/81分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.warnerbros.jp/beforesunset/ チラシ 1

 アメリカ人のジェシーとフランス人のセリーヌが、ユーロトレインの車内で偶然出会い、ウィーンの街で一夜だけを共したあの日から9年。作家となったジェシーが、キャンペーンのためにやってきたパリの書店にセリーヌが訪れ、2人はついに再会を果たす。しかし、ジェシーはすぐに飛行機に乗って帰国せねばならず、2人は飛行機が飛び立つまでの85分間をパリの街を歩きながら、積もった思いを話し合う。
 1995年の『恋人までの距離《ディスタンス》」(原題「Before Sunrise」)の続編。映画と同じく前作から9年後という設定で、パリで出会った2人が別れるまでの85分間が、ほぼそのままリアルタイムで進行する物語。個人的に前作は恋愛映画というジャンルの中では最も好きな作品といってもいいくらい気に入っており、その続編だから非常に楽しみにしていたわけですが、最初のうちは少々会話の応酬に違和感を感じなくもなかった。ですが、観ているうちに自然と「これはまさしく前回から9年の時を経た2人の物語なんだ」と感じて、それ以降はただただ会話に引き込まれていくのみでした。前作が好きだったのは、今の自分がまだ前作の彼らと同じような年頃であり、9年前の彼らとのほうが感情を共感できたわけではないかなと。9年を経た2人は、互いに決まった相手がいながらも、不満を感じて生活に疲れている面があり、そうした人生経験が本作の会話に反映されています。よってそれが今の僕には少し遠い話に聞こえたということかもしれません。何事も直接的な表現を避けて巧みに相手との距離を測っては詰め寄ろうとする2人の物語が終わり、エンドロールが終わったあとは、目の前にいたはずの彼らと別れを告げた不思議な寂しさに包まれたのでした。あたかもそこに存在するかのように語りつづける2人の物語を、もっと観ていたいと思わせる魅力は本作でも健在で、会話はオトナになったけれど、やはりロマンチックな物語であることには変わりないのだなと。あと、映画の中でも使われているジュリー・デルピーの歌が素敵でした。


秘密のかけら
Where the Tures Lies
監督・脚本:アトム・エゴヤン 原作:ルパート・ホームズ 撮影:ポール・サロッシー 音楽:マイケル・ダナ
出演:ケビン・ベーコン、コリン・ファース、アリソン・ローマン、ソニヤ・ベネット、レイチェル・ブランチャード、デビッド・ヘイマン
2005年カナダ+イギリス+アメリカ/108分/配給:ムービーアイ
公式サイト http://www.himitsu-kakera.jp/

 50年代のショービズ界で一世を風靡したラニーとビンスの人気コンビだが、彼らが宿泊する予定のホテルの部屋で美女の死体が発見され、2人はアリバイがあるため容疑は避けられたが、この事件がきっかけで2人はコンビを解消する。それから15年後、野心的な女性ジャーナリスト、カレンが事件の真相を追って2人を取材するのだが……。
 『スウィート ヒアアフター』『アララトの聖母』のアトム・エゴヤンが、ルパート・ホームズのベストセラーを映画化。今回は原作もので、どの程度原作に忠実かはわからないけれど、謎めいた雰囲気の裏に怪しい性や狂気じみたなにかがうごめくエゴヤン風味(?)は健在か。ケビン・ベーコンとコリン・ファースの複雑な感情を押し隠した人物描写は見事で、最後に真実がわかったとき、ケビン・ベーコン演じるラニーの流していた涙の理由がまったく別の意味をもってとれるところにはハッとさせられたけれど、ちょっと全体的に長い気がして……。主演2人の魅力で引っ張るには話としてちょっと弱い気が。まあ、サスペンスを期待していたわけではないんですけど。
☆☆★★★


秘密の花園
The Secret Garden
監督:アグニエシュカ・ホランド 製作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ 原作:フランシス・エリザ・ホジスン・バーネット
出演:ケイト・メイバリー、ヘイドン・プラウス、アンドリュー・ノット、マギー・スミス
1993年アメリカ/102分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 両親の死によってインドからイギリスに戻ってきた少女メアリー。伯父の家に引き取られることになるが、伯父は10年前に妻を亡くして以来、悲しみにふさぎこみ、そんな伯父の館も暗く沈んだ場所だったが…。
 説明は不要なバーネットの名作「秘密の花園」を、コッポラのプロデュースで映画化。原作小説物の映画化というものは、しょうがないことだけど、この作品も細かいところがはしょられてしまっているのがやや残念。でも全体的な出来はとても高く、原作の雰囲気を全く壊していません。それどころか、見事な映像化といっていいと思います。特に“花園”の美しい映像化は素晴らしいです。また子役たちも良く、メアリー役の子はホントに10歳? と思ってしまいますね(実年齢は知りませんけど、それに近い年齢でしょう)。ごく自然に出来ているところがすごい。物語当初の小憎たらしいメアリーが(コリンもだけど)、気がつけば笑顔の似合う少女として終わる。泣くことを知らなかったメアリーが泣くことを知る。不覚にも、クライマックスにはじんときてしまいました。やっぱり名作は名作…原作の優秀さを改めて感じたというのが結論で、この映画が好きな人は、やっぱり原作が好きな人でしょうと思うのでした。でも、それをきちんと映像化したこの作品も偉いよ、うん。


ビヨンド・サイレンス
Jenseits der Stille
監督・脚本:カロリーヌ・リンク
出演:シルヴィー・テステュー、ハウイー・シーゴ、エマニュエル・ラボリ、タチアナ・トゥリーブ、シビラ・キャノニカ
1996年ドイツ/113分/配給:パンドラ
公式サイト http://www.pan-dora.co.jp/beyond1.html

 聾の両親をもつララは、10歳にして手話を使いこなし両親の通訳をし、耳は聞こえずとも優しい両親との生活は幸せなものだった。そんなララは、クラリネット奏者の叔母からクラリネットをプレゼントされ、音楽に目覚めていく。将来は音楽の道に進むことを決意するが、父親はそれに反対し、2人の間には次第に溝が深まってしまう。
 この映画では、ララの両親役には実際に聾の役者さんを配役したそうで、そのへんが真実味を増していてよいと思います。さらに子役までも見事に手話を使いこなしていて(自分は手話がわからないんですけど、たぶん、ちゃんとやっているんでしょう。知ってる人が見たらばれるような安っぽい作りでなはないはず)、言葉を発しないのに、感情のやりとりがきちんと伝わってくるところがすごいと思いました。陳腐な台詞を並びたてても、全然感動しないようなドラマとは大違い。主要人物の一人一人を丹念に描いていて、深みがあります。父と娘、母と娘、姉と妹、兄と妹、夫と妻…いろんな人間関係を、きちんと描いているようでした。障害を抱えている人も、そうでない人も、同じ人。悩みもあれば苦しみもする。同じ境遇にいるから理解できる、理解できない・・・そんな行き違いを描いて、でも深い愛情で結ばれている人々。障害者を描くといっても、それだから感動するわけじゃなくて、やっぱり結局は親子の愛に泣かされるんだと思います。まさに“沈黙を越えて”、静かで、深い親子の絆。これが感動せずにいられましょうか。


ビューティフル・デイズ
Ada Apa Dengan Cinta?
監督:ルディ・スジャルウォ
出演:ディアン・サストロワルドヨ、ニコラス・サプトラ、ラディア・シェリル、シシー・プリシラ
2002年インドネシア/112分/配給:エデン
公式サイト http://www.beautifuldays.jp/ チラシ 12

 作詞が得意な新聞部のチンタは、学校の作詞コンクールで今年も優勝確実と目されていたが、優勝したのはランガという男子学生だった。ランガに興味をもったチンタは、新聞部の活動を利用して彼を取材しようとするが、つっけんどんに断られてしまう。ランガの不遜な態度に最初は怒り心頭だったチンタだが、彼が読んでいたある一冊の古い詩集がきっかけとなり、2人は急接近。しかし、その一方で、ランガと仲良くなるほど、チンタは女友達との距離が離れていくことに悩んでいた。
 なかなかお目にかかれないインドネシア映画。本国では並みいるハリウッド映画を抑えて大ヒットを記録して、映画賞を総なめにしたとか。基本的にというか、もうそのまんま直球の青春映画で、題材としては新しくもないんだけど、インドネシアの映画だからということだけからして、何かしら新鮮だったりもする。ただ、チンタがランガに対して最初は反発していたのに、いつのまにか惹かれていく過程とその描写が実に自然でいい。恋愛って、概してそういうものだったりするよねぇ……と、思わず相槌を打ってしまいたくなる。そうした少年少女の普通の恋愛や友情を描いているところや、ポップな音楽を多様しているところなど、現代的なセンスは持ち合わせているものの、やはりどこかちょっと垢抜けきれない部分もあったかなぁ……という印象もあり。ちなみに主人公の名前になっている“チンタ”は、日本語でいうと“愛”であり、原題は「チンタに何が起こったか?」という意味だそうで、ダブルミーニングになってるわけですな。


ビューティフル・マインド
A Beautiful Mind
監督・製作:ロン・ハワード 出演:ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、エド・ハリス、クリストファー・プラマー、ポール・ベタニー
2001年アメリカ/136分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/beautifulmind/ チラシ 1

 1994年にノーベル賞を受賞した実在の天才数学者ジョン・F・ナッシュの半生を描いたドラマ。1947年9月、プリンストン大学院の数学科に入学したジョン・ナッシュ。非社交的で自身の研究に没頭するナッシュは周囲からも変人扱いされるが、彼は画期的な論文を発表、その才能を知らしめる。念願のMITウィーラー研究所に採用されたナッシュは、ある時、国防総省に呼び出され暗号解読の依頼を受ける。米ソ冷戦のさなか、ソ連からの暗号を解読したナッシュは、その才能を買われ、暗号解読の極秘任務につく。MITで出会った女性・アリシアと結婚し、子供生まれようという幸せな時・・・彼は、その極秘任務のために、何者かに狙われていると感じはじめるが・・・。
 ゴールデングローブ賞やアカデミー賞などで数々の受賞、ノミネートを受けた話題作。観てみると、なるほど確かに、良くも悪くもアカデミー賞好みの作品です。ストーリーはいい。精神分裂病に悩む主人公の様子が良く描けていると思いますから。それに非社交的な部分とか、ちょっとは個人的に共感できる部分もあったり。そういうことで、前半、かなり引き込まれていくのですが、難点だと思ったのは長いことです。2時間を超えても、長く感じないものは感じないですが、この作品はちょっと中だるみ感があって、後半もそのまま、観ているこちらの気持ちが失速・・・。主人公が精神分裂病であると診断されてからがちょっと長いなぁ〜・・・と感じてしまいました。役者陣もいい。ラッセル・クロウの演技は、やはりいろいろとノミネートされるだけはあると言えるでしょう。また、個人的にはエド・ハリスが良かったですね。出てくるだけで、存在感がありますから。作中での彼の“存在”とかけるとなかなか面白いです。そんなわけで、確かに良い作品ではあるのでしょうが、何か決め手にかけるというのも実感としてあります。うーん・・・やっぱり長いのがダメだったかなぁ。うまく言葉では表せませんが…。


ヒューマンネイチュア
Human Nature
監督:ミシェル・ゴンドリー 脚本・製作:チャーリー・カウフマン 製作:スパイク・ジョーンズ
出演:ティム・ロビンス、パトリシア・アークエット、リス・エヴァンス、ミランダ・オットー
2001年アメリカ+フランス/94分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.humannature.jp/ チラシ 12

 12歳のときからホルモン異常で男以上に毛深くなってしまった女ライラ。その身体で人間社会に生きることに絶望し、森の中で自然とともに暮らすようになる。しかし、友人から紹介された、ネズミにテーブルマナーを教える研究をするネイサン博士と知り合い、二人は付き合うようになる。そして森にハイキングにでかけた彼らは自分を猿だと思い込んでいる男に出会う。言葉も話せないその野性人を連れ帰り、人間として再教育するネイサン。パフと名付けられたその猿男は、目覚しく人間として成長していくが、動物的本能を抑えるのがちょっと苦手。一方でネイサンは、研究の傍ら、彼の助手であるガブリエルと不倫し、ライラにそれがばれてしまう・・・。
 「マルコヴィッチの穴」のスパイク・ジョーンズ製作&チャーリー・カウフマン脚本で、監督はスパイク・ジョーンズと同じく、これまでミュージッククリップで活躍してきたミシェル・ゴンドリー。さて、このスタッフからすれば、当然ながら“マル穴”と同じようなものを期待してしまうのですが、やはりあそこまでの奇抜さはなかったように思います。自分を猿だと思い込んでいる男、宇宙一毛深い女、テーブルマナーに執心する博士、アメリカ人なのにフランス訛りで話す助手・・・・・・など、そのへんの登場人物は奇妙で愉快。また、それらを演じる役者がぴったりはまっていて良いです。特にリス・エヴァンスは最高。彼が見事に猿男を演じて笑いをとってくれます。こんな役はそうそうないでしょうが、それをまったく不自然なく(?)演じきっちゃうから凄いし、本作が発表されたときから、猿だと思い込んでいる男の役がリス・エヴァンスだというのには二の句もなく納得してました。それで実際に観てみれば、やっぱり彼以外にここまではまる人はいないでしょう。また、ライラ役のパトリシア・アークエットには、美人女優がよくもこんな役を引き受けたなぁ〜・・・と、ひたすら感心。登場人物の設定には奇抜さがあって、フィルムからも、その人物たちが織り成すどこかちょっと変な世界が伝わってきました。ストーリーの進み具合も絶妙で、そのへんはやはりチャーリー・カウフマンという脚本家の力量がうかがえるところでしょうか。で、設定は変わってるけど、その上で展開されるストーリー自体は結構、普通かも・・・とも思うのですが、やはり最後に振り返ってみれば、微妙に人間に対する毒を含んでいるんじゃないかな、と思わされるブラックユーモアのような部分もあったと思いました。