亡国のイージス
Aegis
監督:阪本順治 脚本:長谷川康夫、飯田健三郎 原作:福井晴敏 音楽:トレバー・ジョーンズ
出演:真田広之、寺尾聰、佐藤浩市、中井貴一、勝地涼、チェ・ミンソ、吉田栄作、岸部一徳、原田芳雄
2005年日本/127分/配給:日本ヘラルド映画、松竹
公式サイト http://aegis.goo.ne.jp/ チラシ 12


 最新鋭の防衛システムを搭載した海上自衛隊のイージス艦「いそがぜ」が、某国対日工作員ヨンファと、彼と共謀した副長の宮津二佐らに乗っ取られる。彼らは、米軍が密かに開発した驚異的な破壊力を持つ特殊兵器「GUSOH」を盾に、政府にある要求をつきつける。一方その頃、「いそかぜ」先任伍長の仙石は、艦を取り戻すため行動を開始するが……。
 「終戦のローレライ」を映画化した『ローレライ』に続き、原作が3本連続で公開される福井晴敏の小説「亡国のイージス」を映画化。撮影には防衛庁、海上自衛隊、航空自衛隊が全面協力し、本物のイージス艦や戦闘機を用いて撮影が行われており、その分、本物の迫力は十分に出ている。また、音楽や編集をハリウッドのスタッフが手掛けていることも話題で、確かに音響効果はいいんだが、音楽は派手さに欠けるし、編集は主要人物の過去を細切れに見せすぎて、人物像がいまいちはっきりしないまま物語は事件に突入してしまう。いそかぜが占拠され、それを取り戻していくという事件の中心部分の過程はよく描けているんだけども、前述したような人物の人間性というのがあまり描かれているようには思えず、なかなか感情を揺さぶられないし、一事が万事、割とあっけなく流れていってしまう。せっかく音楽をハリウッドスタッフがやっているのに、キレイなだけで盛り上がらないし、坂本監督らしいといえばらしいのかもしれないが、もっとエモーショナルにたたきつけてもいいんじゃないのかしら。あるいはもっと時間かけてしまえばよかったのに。最後もあっけない。舞台も艦の中と会議室の中を交互に写すだけで、どれだけ危機感が迫っているのかというのが、いまいち伝わってこない。ただ、原作のもつテーマは忠実に再現されていると思え、そこは救いだったが……。せっかくの豪華キャストなのに……と思ってしまう。せめて編集はわかっている日本人にやらせたほうがよかったのでは!? ちゃんと原作読んだのかな……。先に公開された『ローレライ』と足して2で割って欲しい感じだな(笑)。
☆☆★★★


抱擁
Possession
監督・脚本:ニール・ラビュート
出演:グウィネス・パルトロウ、アーロン・エッカート、ジェレミー・ノーザム、ジェニファー・エール
2002年アメリカ/102分/配給:ワーナー・ブラザース映画 チラシ 1


 19世紀の詩人ランドルフ・ヘンリー・アッシュを研究しているローランドは、ある日、図書館でローランドの蔵書のあいだに本人直筆のものと思われる、書きかけの恋文を見つける。生涯、夫人ひとりを愛していたといわれるアッシュが、詩人でありレズビアンとして知られていたクリスタベル・ラモットに宛てたものだった。アッシュとラモットが恋仲であったのなら、それは文学史を塗り替える大発見となる。ローランドは、独自に調査を開始し、ラモットを専門に研究している大学教授モードに協力を依頼するが、ローランドとモードは、アッシュとラモットの足跡を訪ねるうちに、次第に惹かれ合っていく。
 イギリスの女性作家A・S・バイアットのブッカー賞受賞作品を映画化。過去と現在の2組の男女を描く恋はとても大人の恋。過去の2人の悲しく切ない、許されない恋の過程を描き、それをなぞりながら現代の2人も、互いに心に傷を持ちながらも、徐々に惹かれあう。そのさまはとても知的でかつ、美しい。謎解きの要素もはらみながら進むお話なので、しかも過去と現在がだんだんとシンクロしてくるという過程は面白いのですけれど、いかんせん、作品の与える印象が小さいのが残念です。悪い作品ではないのですが、ものすごくひかれる何かがあるかといえば、それほどでもないような気がします。さらりと綺麗に流れて終わり。なんの害もないぶん、ひっかかるものもないというような。う〜ん。大人がちょっとインテリジェンスな雰囲気にひたりたいとき(?)には、ちょうど良いかもしれません。


ボウリング・フォー・コロンバイン
Bowling for Columbine
監督・脚本:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア、マリリン・マンソン、チャールトン・ヘストン
2002年アメリカ/120分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/bowling/ チラシ 1


 1999年4月20日、コロラド州の小さな町にあるコロンバイン高校で2人の少年が銃を乱射し、12人の生徒と1人の教師を殺害、多数の負傷者を出したあと2人は自殺した。この事件を受けて、「なぜアメリカでは銃事件が絶えないのか?」という疑問に真っ向からぶつかったドキュメンタリー。
 ……といっても小難しいことはありません。“マイク片手に突撃アポなし取材”という独自スタイルを貫くマイケル・ムーアが笑いも交えてわかりやすくアメリカの銃社会の暗部をえぐりだしてくれます。ドキュメンタリーとしては異例の大ヒットとなったし、なにしろカンヌ映画祭は、この映画のために「カンヌ映画祭55周年記念特別賞」なるものを作って授与したくらいです。とにかく、それだけ話題になっているならば観ないわけにはいきません。そして、これほどわかりやすく、アメリカという国の怖さを教えてくれる作品はないでしょう。まあ、だからといってアメリカ全てを批判するのは短絡的だし、僕自身もそんなつもりは毛頭ないですが、この映画は銃社会の問題だけではなく、貧困や戦争、メディアの報道といった現代社会の抱えた問題をいろいろと浮き彫りにしてくれて、考えさせられるんじゃないでしょうか。基本的には「こんなアメリカに誰がした?」っていうコンセプトですけど、提示される問題はアメリカだけでなく、日本や他の国にも通ずる部分はありますから。そして僕が最もうなずけたのはマリリン・マンソンの意見でしたね。恐怖によって縛られている。そういうことなんですね。やられる前にやれ。その精神が根底にあるかぎり、戦争なんてなくならない。
 ドキュメンタリー映画がこんなにも盛り上がるなんて驚きましたが、観てみればそれも納得できると思います。特に今はイラク情勢が不安定な上、反戦気運も高まっているから話題性も手伝ったのでしょうが、いわゆる普通のドキュメンタリーよりも若者にも観やすいですしね。諧謔的精神もきいているし、テーマ曲が「この素晴らしき世界」ってのも非常にわかりやすいです。


ほえる犬は噛まない
Braking Dogs Never Bite
監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ぺ・ドゥナ、イ・ソンジェ、コ・スヒ、キム・ホジョン
2000年韓国/110分/配給:ファイヤークラッカー
公式サイト http://www.hoeruinu.com/


 うだつが上がらず、なかなか教授に出世できない大学の非常勤講師ユンジュは、飼うことが禁止されているはずの犬の泣き声がマンション内に響くのにいらだち、犬を見つけると地下室に閉じこめてしまう。一方、マンションの管理事務所で働くヒョンナムは、平凡な毎日に退屈していたが、相次ぐ犬の失踪事件に正義感を燃やし、飼い主の捜索を手伝うのだが……。
 『殺人の追憶』が高い評価を得たポン・ジュノ監督の長編デビュー作。犬の失踪事件に絡むごく平凡な人々の日々をユーモラスに描きながら、ときどきサスペンスだったり、ドラマだったり、ホラー(?)だったりと、いろんな味が楽しめます。ジャズを主体とした音楽も軽快でテンポがよいし。単純明快なコメディとはちょっと違うんだけど、その微妙な人間模様の絡まり具合がなんともいえず。それにしても、韓国人って本当に食べるんですね……。


ボーン・アイデンティティー
The Bourne Identity
監督:ダグ・リーマン 脚本:トニー・ギルロイ、ウィリアム・ブレイク・ヘロン 原作:ロバート・ラドラム 撮影:オリバー・ウッド
出演:マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、クライブ・オーウェン、ブライアン・コックス
2002年アメリカ/119分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/bourne/


 何者かに撃たれて重傷を負い、海上を漂っていた男はイタリアの漁船に発見され、一命を取り留める。男は意識を取り戻すが記憶を失っており、体に埋め込まれていたマイクロカプセルに記された、スイスの銀行の口座番号が唯一の手掛かりだった。そして、その銀行の貸金庫には複数のパスポートと大金、そして一丁の拳銃があり、男はパスポートから“ジェイソン・ボーン”という名前を知ることができたが、その時、何者かが彼を狙って動き始めた……。
 ジェイソン・ボーンを主人公にした、ロバート・ラドラムのクライムサスペンス小説3部作の1作目を映画化。これまでは繊細な青年役などが多かったマット・デイモンが、意外にもタイトルロールを演じ、格闘からカーチェイスまでをバリバリこなして、いっちょ前のアクションスターに。ただのアクション映画と違って、そこはマット・デイモンを起用した理由もうなずける、本作は“知的な大人向けのアクション映画”なのだ。確かに銃も出てるが、無鉄砲にガンガン撃ちまくり、無駄に火薬の量ばかりが多いハリウッド映画と違って、主人公はむしろ銃に手を出さず(自分の過去に恐れをなして)、例えば地図や無線機を奪って敵の動きを探りつつ危機を回避する。その抑制されたアクションセンスが効果的でかつ魅力的。脳みそをカラッポにしないと楽しめないような、大味なアクション映画に食傷気味な方はお試しあれ……といったところだが、最後に明かされるネタがちょっと弱いのが残念ではあるんだが。


ボーン・スプレマシー
The Bourne Supremacy
監督:ポール・グリーングラス 製作総指揮:ダグ・リーマン
脚本:トニー・ギルロイ、ブライアン・ヘルゲランド 原作:ロバート・ラドラム 撮影:オリバー・ウッド
出演:マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、ジョーン・アレン、ブライアン・コックス、カール・アーバン
2004年アメリカ/108分/配給:UIP
公式サイト http://www.bourne-s.jp/ チラシ 12


 CIAのパメラ・ランディは、ベルリンで内部の不正な金の流れを調査していたところを何者かに襲われ、証拠となるファイルを奪われてしまう。一方、2年前の事件以来、恋人マリーとインドで静かな暮らしを送っていたジェイソン・ボーンは、正体不明の刺客が彼を探していることに気付き、マリーを連れて逃げ出す。同じ頃、ベルリンの事件では、現場から採取された犯人の指紋がボーンのものと一致していた……。
 ロバート・ラドラム原作の“ジェイソン・ボーン”シリーズ第2作「殺戮のオデッセイ」を映画化。“オトナが楽しめる知的なアクション映画”という路線を前作『ボーン・アイデンティティー』から見事に引き継ぎ、より洗練されたものに仕上げた本作の出来は、1作目に勝るとも劣らない。銃撃戦はほとんどなく、カーチェイスは前作よりスケールアップしたものの、出来る限り力を振るわず、知恵と自らの肉体を使って逃走・反撃を企てるボーンの腕前が光る。さらに断片的に現れるボーンの記憶のフラッシュバックが徐々に鮮明になる過程や、前作との絡みがキレイに昇華され、集約されるサスペンスフルな展開も退屈しない(よって本作鑑賞前は、前作を観ておくことをオススメする)。クライマックスのカーチェイスはとにかく手に汗握る派手さだが、使っている車は普通だったり、舞台が寒々しいモスクワだったりして、やっぱり凡百のハリウッド映画とはどこか違う。派手になっても、その精神と根幹は失われていない、続編として大いに賞賛できる作品になっている。


ぼくセザール 10歳半 1m39cm
Moi Cesar, 10 ans 1/2, 1m39
監督・脚本:リシャール・ベリ
出演:ジュール・シトリュク、ジョセフィーヌ・ベリ、マボ・クヤテ、マリア・デ・メディロス、ジャン=フィリップ・エコフェ
2003年フランス/99分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.boku10.com/ チラシ 12


 パリに暮らすセザール・プチ。年は10歳、慎重は1m39cm。学校の成績は良すぎず悪すぎず、背が小さくてちょっと太めなのが悩みの種。最近は、転校してきたばかりの美少女サラに恋している。一方、親友のモルガンは、背も高くてスマート、運動もできるし成績も優秀なナイスガイ。しかし、そんな彼にも両親が離婚していて父親を知らないという悩みがあった。ある日、モルガンが父親を探しにロンドンへ行くことを決意し、セザールとサラも同行して、子どもだけの冒険が始まる。
 ごく平凡な少年セザールを主人公に、子どもの視点から日々の生活とそこから抜け出してちょっと成長する様を描いたほのぼのムービー。ロンドンへの冒険は結構後半のほうで、それまでは日常的に起こるいろんな出来事を通して、よくありそうな大人と子どもの対立や家族の問題なんかも、さらりと描いている感じ。お子さま映画と思いきや、きっとこれくらいの子どもをもつ親には、子どもに対する接し方なんかを考えさせられるんじゃないでしょうか。この映画の主張するところは、つまり子どもも大人と同じであり、彼らも常に悩みを抱えていて、それは誰もが成長する過程で経験することであり、確かに大人になれば大したことだとは思わないかもしれないけど、当の子どもたちにとっては、それが人生を形成する大切な物事であり、大人はそれを忘れているだけで、誰もがそういったことを経験して大人になっていったということである(たぶん)。ちょっと冴えないセザールだけど、ロンドンへの冒険旅行では、実はこれといってスゴイことをしたわけでもないと思うんだけど、それでもハッピーな結末が待っているのは、つまりありのままの自分を見せることができたからということでしょうかね。「男のいいところは外見じゃないよ。10歳の女の子にそれをわからせるのは難しいけど」と、独白するセザールだが、彼の優しさが結局はサラには伝わったってことですかね。そして、同じ冒険を通してちょっと世間を見る目が広がった子どもたち、そして大人たちもちょっとずつ成長していく。ちょっとぽっちゃりめのセザールはかわいらしいが(演じているシュール・シトリュクは本当はやせているので、特殊メイクで太らせたらしい)、ヒロインの美少女サラを演じるジョセフィーヌ・ベリは、監督のリシャール・ベリの娘。自分の娘を「学校一の美少女」役で出演させてしまう監督って、ひょっとして親バカ?なんて思わなくもないですが、でも確かにカワイイもんなぁ〜。彼女はきっと美人になるでしょう!


僕と未来とブエノスアイレス
El Abrazo Partido
監督・脚本・製作:ダニエル・ブルマン
出演:ダニエル・エンドレール、アドリアーナ・アイゼンベルグ、ホルヘ・デリーア
2003年アルゼンチン+フランス+イタリア+スペイン/100分/配給:ハピネット・ピクチャーズ
公式サイト http://www.annieplanet.co.jp/buenos/


 ブエノスアイレスの下町のガレリア(アーケード商店街)に暮らす青年アリエルは、いつか祖父母の故郷ポーランドに移住することを夢見て、母の営む店を手伝いながら日々を過ごしている。そんな時、自分が生まれたときに家族を捨てて去ったと思っていた父が戻ってきて……。
 2004年のベルリン映画祭で審査員特別大賞と主演男優賞を受賞した下町人情物語。主人公と下町商店街で暮らす人々の交流を描き、さらに長らく不在だった父が現れたことによる主人公の緩やかな変化を描く。アルゼンチンの多国籍な人々の社会事情というのはよく知らないが、主人公はとにもかくにもヨーロッパに渡ることを夢見ていて、そこで何をしたいということもないんだけど、とりあえずヨーロッパに行けば何かが変わるんじゃないかという期待がある。そして、現状への小さな不満の鬱積が、さらに彼をヨーロッパへ駆り立てる。けれど、父親が戻ったことで両親の確執の原因も解き明かされ、父と向き合うことでアリエルは少しずつ緩やかに今を受け入れる。その温かいラストがなんともいい味を出していると思った。まるで誰かの目から見たように主人公に寄り添う手持ちカメラの撮影は、意図するところはわかるんだけど、個人的にああいう手持ちカメラのぶれぶれなところは酔うからちょっと苦手かも。
☆☆☆★★


僕の彼女を紹介します
Windstruck
監督・脚本:クァク・ジェヨン
出演:チョン・ジヒョン、チャン・ヒョク、キム・テウク
2004年韓国/123分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.bokukano.jp/ チラシ 1


 高校教師ミョンウはひったくり犯と間違われ、顔はかわいいが男勝りの婦警ギョンジンに逮捕されてしまう。真犯人がすぐに逮捕され、誤解とわかったミョンウは釈放され、やがてこの一件がきっかけとなって2人は付き合いはじめるのだったが……。
 『猟奇的な彼女』のクァク・ジェヨン監督とチョン・ジヒョンが再びコンビを組んだ“もうひとつの「彼女」の物語”。この監督のことだから、またかなり計算してるんじゃないのかなぁ……と、ずーっと勘繰りながら見ていたんですが、今回は前2作(『猟奇的な彼女』『ラブストーリー』)のようなトリックは、それほどなかったといえる。が、ちょっと話には聞いていたんで、『猟奇的〜』との繋がりがひょっとして……と思ってたんですけど、これは深読みしすぎたみたい。まあ、細かいところは見てのお楽しみですが、やはり本作を楽しむなら『猟奇的な彼女』を先に観ておくのは必須かなと。そして、まあ、展開や設定はかなり無理がありますが、そうしたものをふきとばすほど強引に泣かせられてしまう手腕は素直に認めるべきかなと思いました。僕もあんまり深読みや勘繰りをしていなければ、引きずり込まれて目が潤んでしまったかもしれない。そうでなくても、妙に涙腺は緩みかけましたが、しかし、あと一歩というところで泣けないのは、自分が荒んでしまったのかなと(笑)。とまれ、『猟奇的〜』に続いてチョン・ジヒョンの魅力は炸裂なので、まあ、それだけでも許せるか……と。細かいこと気にしなければ、泣ける映画かもしれませんが、毎度この監督は計算高いとわかっていながらも新作が気になる存在ですね。


ぼくの神さま
Edges of the Lord
監督・脚本:ユレク・ボガエヴィッチ
出演:ハーレイ・ジョエル・オスメント、ウィレム・デフォー、リアム・ヘス
2001年アメリカ/98分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/boku/ チラシ 1


 1942年、ポーランド。ナチの侵攻にあい、ユダヤ人が摘発されていくなか、11才のロメック少年は父の手によって田舎の農夫の家に預けられる。父はそれが息子との今生の別れであることを覚悟して。ロメックを預かった農夫グニチオには妻と二人の息子ヴラデックとトロがいた。同い年のヴラデックとは衝突することも多かったが、小さな弟トロは、明るく純真でロメックに懐いていった。ロメックの素性を知りながらも黙って見守る神父や、両親を亡くした少女マリアなどとの交流をもち、徐々になじんでいくロメックだが、その村にもナチの支配が広がっていく…。
 ナチスによるユダヤ人の迫害をもとにした映画は多く、そうしたものは戦争の愚かさと悲しさを訴えるものが多いと思うけど、この映画もそれにもれず。純真な子供達の遊びや喧嘩は、結構リアルな子供像を描いているようにみえます。しかし、それを狂わすのが戦争というものです。まったくもって不条理で理不尽な殺害が繰り返される戦争の悲劇を目にして、純真な幼い子供は、悲しい行動をとることになってしまうのです。トロという幼い少年が、この映画でポイントになるのですが、僕には、その行動がちょっと理解できないというか、行き過ぎてるというか、そういう風にもとれました。それがこの映画の一番のポイントだろうと思うのですが…。話の中心となるべく、トロの 行動にあまり感情移入できなかった一方で、マリアとロメックの関係、トロの兄ヴラデックとロメックの関係、その他の子供達の行動などのほうが、僕にはよっぽど現実的で感動的に映って良かったです。ウィレム・デフォーが演じる、タバコをふかして、強面で、ちょっと無愛想だけど、実は優しい神父さんもいいキャラでしたし。


僕のスウィング
Swing
監督・脚本:トニー・ガトリフ
出演:オスカー・コップ、ルー・レッシュ、チャボロ・シュミット
2002年フランス/90分/配給:日活
公式サイト http://www.my-swing.jp/ チラシ 1


 夏休みの間、祖母の家に預けられた10歳の少年マックスは、そこで出会ったジプシー・ギターの名手ミラルドの演奏に憧れ、ギターを志す。古いギターを買いにミラルドや仲間のマヌーシュ(フランス中部以北からベルギー、オランダなどに暮すジプシーの通称)が暮す地区にでかける。彼はそこで出会った少女スウィングに、自分のウォークマンと中古のギターを交換する。それからは、毎日マヌーシュたちの居住区に通い、ミラルドにギターを習う。そしてスウィングと野や河をかけるうちに、淡い恋心が芽生えるのだった。
 都会っ子で色白な少年マックスと、黒い瞳と少年のような顔立ちの少女スウィングの一夏の恋物語であると同時に、マヌーシュ(ジプシー)たちの悲哀や日常を描いた作品でもありました。個人的には、少年少女の恋…のほうにひかれていったので、思ったほど、そればっかりでもないのが意外でした。ジプシーたちが奏でるマヌーシュ・ジャズの演奏は、迫力満点で音楽好きには楽しいと思います。が、一方で映画としては、そのへんがストーリーのテンポを妨げているような感じも受けました。でも、演奏は本当に見ごたえ、聴きごたえがあるので(あのテクニックは楽器の経験が少しでもある人ならすごいと思うはず)。少年少女の淡い恋とジプシーたちの生活…この2つのどちらがメインの主題なのかがどっちつかずという印象になってしまったのが、僕には残念なところだったかもしれません。個人的にはマックスとスウィングが楽しそうに過ごしている時間を観ているときのほうが好きだったんですが…。ネタバレになるからいえませんが、ラストシーンのマックスとスウィングの心の行き違いも、前提になる2人の文化の違いをもっと強調していればなぁ…と思いました。もちろん、そういうシーンもありましたけど。もっと胸が締め付けられるようなせ綱さが出せそうな気もしましたが。あんまりそういう路線は狙っていなかったんでしょうね。たぶん、マックスという異文化の純粋な視点からみたジプシーたちの文化、生き方を描きたかったんだと思います。そう思うと、こっちのほうが主題なんだなぁ…と思います。それにしても、スウィング役のルー・レッシュという子の魅力はたまらない! 野生児のようなスウィングの魅力は、きっと彼女じゃなければ表現できなかっただろう…と思う。演技することにも興味をもっているとのことで、将来、結構な女優になりそうな予感も。顔立ちもいいしね。


ぼくの好きな先生
Etre et Avoir
監督・編集:ニコラ・フィリベール
出演:ジョルジュ・ロペス先生と13人の生徒たち
2002年フランス/104分/配給:ミラクルヴォイス、東京テアトル
公式サイト http://www.bokusuki.com/ チラシ 1


 フランス中部、オーベルニュ地方にある小さな小学校。3歳から11歳までの13人の子供たちが1つのクラスで、ロペス先生に教わっている。クラスはひとつ、先生も1人。美しい自然に囲まれたこの学び舎で、子供たちは今日もロペス先生にいろんなことを教わる。しかし、35年間教師を務めたロペス先生は、あと1年半で退職することに……。
 『音のない世界で』などで知られるドキュメンタリー作家、ニコラ・フィリベール最新作。とっても穏かでのんびり。そして、ほんわかと温かい。ドキュメンタリーなので、これといったストーリーのない日常生活が、こうも輝いて見えるのは、それと気付かないものが日常の中に潜んでいるということで、それを静かに見つめる視点がとても心地よいのです。子供とは実に豊かなもので、普通に振舞っていることが、何気なく可笑しかったり。また、カメラに映っているであろうことをほとんど忘れているというか、気にしていないのも、子供ならではというか。そして中心となるロペス先生も、飾ったり気取ったりしない自然体の人で、人柄が滲み出ています。子供たちが理解できないことは、わかるまで何度でも聞き、教える。そして優しいのは当たり前だけれど、ダメなものにはダメと有無を言わさず厳しさも見せる。けれど、これらの優しさや厳しさが、意識されていないように思いました。まさに自然に、当たり前のように言動の隅々に出てくるロペス先生。「大切なのは互いを尊重すること」と言わんばかりに、人の意見に耳を傾けて、子供たちに理解を求める(強要はしない)。なんだか、あったかいなぁ〜……。“先生”の存在が人生において(良い意味で)大きなものになるかそうでないかは、人それぞれかもしれませんが、いつまでも慕える、子供時代の大切な時間を担ってくれる先生に巡りあえたなら、それはとても幸せなことなんだろうなぁ…。徐々に子供たちが成長し、学び、新学期に向けて巣立っていく姿をじっくりと眺めることで、観ているこちらも同じ時間を共有したような気持ちになり、教室から離れるのが寂しくなる感じ。学ぶことの大切さと難しさ、そしてそれを教えてくれる優しいロペス先生。その心に触れれば、人間のもつべき最も大切なものが見えてくる気がします。『ボウリング・フォー・コロンバイン』も秀でたドキュメンタリーでしたが、こちらのほうがより、人間の根底を見つめるのに役立つかも? ロペス先生、ありがとう。


僕のニューヨークライフ
Anything Else
監督・脚本:ウディ・アレン 撮影:ダリウス・コンジ
出演:ジェイソン・ビッグス、クリスティーナ・リッチ、ウディ・アレン、ストッカード・チャニング、ダニー・デビート
2003年アメリカ/112分/配給:日活
公式サイト http://www.ny-life.jp/


 マンハッタンに暮らす新進コメディ作家のジェリーは、気まぐれな恋人のアマンダやマネージャーとの関係に悩みを抱え、先輩作家のドーヴィルに相談するが、肝心のドーヴィルもなにやら情緒不安定で……。そんな中、アマンダの浮気まで発覚してしまう。
 恋人やマネージャーとの関係に不満を抱きながらも基本的にお人好しな主人公と、彼の恋人で扱いづらい少女、そして主人公の先輩で神経質でちょっと狂った老人……基本はこの3人の物語なわけだけど、とにかくウディ・アレンのドーヴィルがいい。こういう役はまさにお手の物というか、これはもうウディ・アレンのファンなら観れば納得というか満足というか。理屈でどうこうじゃなくて、アレンがああいう神経質でわけわからん老人を演じて、可笑しなことを次から次にまくし立てるのを見られれば、ファンとしてはそれでOKという感じ。傑作というわけじゃないけど、アレン作品らしさがよく出ていて非常に子気味よく笑えて楽しかったー。
☆☆★★★


ぼくは怖くない
Io Non Ho Paura
監督:ガブリエレ・サルヴァトーレス 原作・脚本:ニコロ・アンマティーニ 脚本:フランチェスカ・マルチャーノ
出演:ジョゼッペ・クリスティアーノ、マッティーア・ディ・ピエッロ、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ディーノ・アッブレーシャ
2003年イタリア/109分/配給:アルバトロス
公式サイト http://www.albatros-film.com/movie/bokukowa/ チラシ 12


 1978年の夏、一面に麦畑が広がる南イタリアの小さな村に住む10歳の少年ミケーネは、村はずれの廃屋のそばに掘られた穴の中に、鎖につながれて閉じ込められている少年を発見する。あまりに怖さにそのときは逃げ出したミケーネだったが好奇心にかられて再びその穴へ……。少年に言われるまま、こっそり水や食糧を運んでいるうちに、次第に2人は打ち解けていくが、ある夜、大人たちが家に集まって何やら深刻な話し合いをしている場を立ち聞きしたミケーネ。それは、穴に隠された少年に関することだったのだが……。
 イタリアで文学賞を受賞した同名小説の映画化。穴の中を恐る恐る覗くところなんかは、一瞬ホラーみたいで面白かった。それはともかく、一面に広がる金色の麦畑とどこまでも続く青い空のコントラスト、そこにぽつぽつと静かにたたずむ小さな村、といった風景がこれ以上になく美しくて、明るいんだけどノスタルジックな情景を醸し出しているようです。そこで繰り広げられる少年の冒険は、その風景とあいまって、おのずと子供のころの懐かしさが湧き上がってくる感じ。また、ミケーネの好奇心や家族への愛情、同年代の少年への友情、大人への不信感……そういった少年期独特の感情全てが、とても丁寧に織り込まれていて好印象。なぜ、少年が穴に閉じ込められていたのか?という謎に関してはご覧になっていただくとして、でも実は、その理由はさして重要ではなくて、あくまでこのような状況に置かれたときのミケーネの行動こそが、この映画の肝であります。


■2006年4月22日公開■
ぼくを葬る
Le Temps Qui Reste
監督・脚本:フランソワ・オゾン 撮影:ジャンヌ・ラポワリー
出演:メルヴィル・プポー、ジャンヌ・モロー、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ダニエル・デュヴァル
2005年フランス/80分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.bokuoku.jp/


 パリで活躍するフォトグラファーのロマンは、ある日、医者からガンの診断を受け、余命3カ月を宣告される。ロマンは化学療法を拒否し、仕事を辞め、同居する恋人にも家族にも病気を告げずに日々を送る。ただひとり、愛する祖母にだけは秘密を打ち明けるロマンだが……。
 『まぼろし』に続くフランソワ・オゾンの“死にまつわる3部作”の第2作。『まぼろし』では“愛する人の死”を描いたオゾンが、今回描いたのは“自分自身の死”。そのためか、これまでは女性主人公が多かったオゾン作品にあって、本作では主人公が監督とほぼ同年代の男。ついでに言うともちろんゲイ(笑)。ストーリーは簡潔で、ただ死を宣告された男が、そのことを内に秘め、愛する人たちと自分なりの別れを告げていくというもの。実際のところ、本当に死期が明確になったら大切な人にはそれを打ち明けるのが大半の人間の取る行動じゃないかと思うんだけど、主人公は逆にそれを拒絶する。……その点に個人的に共感するわけではないけど、シンプルな物語であるがゆえに、非常にわかりやすく悲しみが伝わってくる。『まぼろし』よりもはっきりと“死”がそこに横たわっている現実が見えるからこそ、そして泣き叫んだりすることはないロマンの時折見せるわずかな涙や悲しい表情がロマンの本当の心情を痛切に表しているからこそ、胸にくるものがあるのではないかと。ちなみにタイトルは『ぼくを葬(おく)る』と読む。
☆★★★★


星になった少年 Shining Boy and Little Randy
Shining Boy and Little Randy
監督:河毛俊作 製作:亀山千広 音楽:坂本龍一
出演:柳楽優弥、常盤貴子、高橋克実、蒼井優、倍賞美津子
2005年日本/113分/配給:東宝
公式サイト http://www.randy-movie.com/ チラシ 1

 動物プロダクションを営む小川家の長男・哲夢は、母がタイから買ってきた象のミッキーと会った瞬間から心を通わせる。ほどなくして小川家には子象のランディもやってきて、象の魅力に惹かれ、タイに“象使い”と呼ばれる人々がいることを知った哲夢は、自分も象使いになるため、単身タイに渡る。
 中学生で単身タイに渡り、日本人で初めて象使いになりながらも、20歳で夭逝した少年・坂本哲夢の半生を描いた感動のドラマ。『誰も知らない』で日本人初にして史上最年少でカンヌ映画祭主演男優賞を受賞した柳楽優弥の主演第2作。『誰も知らない』は是枝監督の演出方針からしても、ほぼ素のままでカメラに映っていたから、ある意味“俳優”柳楽優弥の真の第一歩はここから始まるといってもいいわけで、本作の見どころはやはり彼を置いてほかにない(象の演技も見事だが)。映るだけで画になる――よく評される柳楽の存在感は本作でも健在。一方、“俳優”としての“演技”はどうかといえば、正直まだセリフも棒読みっぽいところもあるし、まだまだこれからといったところ。でも、今はまだ手探りで前進しているであろう柳楽が、そのまま将来の象使いとしての夢や両親への愛情表現に戸惑う、思春期の哲夢にあてはまっていて、このキャスティングは今でなくしてはありえず、今だからこそなりえた、なんとも運命的な配役といってもいいんじゃないかと。そんなわけで、柳楽は俳優としての第一歩をしっかりと踏み出したようで、今後にも期待したい。さて、柳楽以外の本作は、もっと「感動大作」らしく冗漫に大河的に長くできることもできただろうに、適度によく2時間以内にまとめてると思う。物語がどこまで現実に忠実なのかわからないけど、こういうお話なら涙は誘われずにはいられないでしょう。
☆☆★★★


ほしのこえ
The Voices of Distant Star
監督・原作・脚本・制作:新海誠
声の出演:篠原美香、新海誠
2002年日本/25分/配給:MANGAZOO
公式サイト http://www.hoshinokoe.com/ チラシ 1

 西暦2037年。ミカコは中学3年の夏、外宇宙へ調査に赴く国連軍の選抜メンバーに選ばれ、翌年、ミカコは地球を後にした。同級生のノボルは高校に進学し、地球と宇宙に別れた2人は、携帯のメールをやりとりするが、ミカコの乗る船が火星を過ぎ、木星を通り越し、やがて太陽系外に旅立つにつれメールの届く時間は開いていく……。
 全編フルデジタルの自主制作アニメーション。個人制作である本作を一映画としてとらえてよいのかどうかということがありますが、一応、劇場公開されたので。まず、フルデジタルの映像は個人レベルの制作といえど大変素晴らしい出来。ただ、携帯メールという現代的な要素を取り入れてはいるけれど、それ以外の部分は既存のアニメーションの影響がちらほら。特に「トップをねらえ!」や「新世紀エヴァンゲリオン」といった作品の影響がありありと見られるんですが、そのへんは、まぁ、個人レベルの制作ってことで仕方ないとして、あとは声優が素人ということで、個人的にはそこもちょっと。もちろん繰り返しになるけど自主制作の作品なので当然といえば当然なんですが、ただ既にDVDの発売も決定しており、そこではプロが演じるとのことで、それならばDVDで観たほうが良いかも。あとはアニメ嫌いな人がちょっと拒否反応起こしそうな感じのノリはなきにしもあらずなんで、アニメオタクには抵抗ないだろうけど、今までそういうものを見たことがない人からするとどうなんだろう……と。ただ、遠く離れてしまった2人の悲哀というのはよくでていて、全体に漂う寂寥感と、清々しいけど寂しい空の風景など、切なさをかきたてる描写は秀逸で、思わずグッときてしまった……。ややオリジナリティが弱くて残念ではあるけれども、自主制作でここまで作ったレベルはスゴイことだろうし(だから小さいながらも劇場でやるわけだし、DVDもでるわけだし)。デザインとプロット、声優をプロレベルで高めたら面白いかも。


ホテル・ハイビスカス
Hotel Hibiscus
監督・脚本:中江裕司
出演:蔵下穂波、照屋政雄、余貴美子、平良とみ、ネスミス、亀島奈津樹、和田聡宏、登川誠仁、大城美佐子
2002年日本/92分/配給:シネカノン
公式サイト http://www.shirous.com/hibiscus/ チラシ 1

 「ナビィの恋」でお馴染みの沖縄監督・中江裕司が仲宗根みいこの同名コミックを原作に映画化。客室が1部屋しかない古い民宿“ホテル・ハイビスカス”を営む仲宗根一家の末っ子、美恵子は超元気で腕白な小学3年生。個性溢れる家族に囲まれ毎日を明るく過ごしている美恵子は、クラスの親友ガッパイとミンタマーを引き連れて、森の中へガジュマルの樹の精霊キジムナーを探しに行くのだが。
 とにかく楽しい! こんなに明るい気持ちにさせてくれる映画も久しぶりです。なによりキャラが個性的なのがいいし、それを演じている役者が演技しているとは思えない自然さで。特筆すべきは、やっぱ主人公の美恵子でしょ。演じる蔵下穂波はオーディションで選ばれた新人だそうだけど、すごいね、あの破天荒さ。普段からあんな子なのかなー、と思うと楽しい。彼女が男友達のガッパイとミンタマーを引き連れて歩く様がとても愉快。物語は一応4部構成になっていて、後半にいくとちょっとしんみりするシーンもあり、やや勢いにブレーキがかかってしまうのが残念なんだけど、ただひたすら元気に暴れまわるだけが能ではなく、ちょっとした悲しい(?)出来事を通してきちんと美恵子の成長が描かれているところが好印象。能天気に見せかけて、ちゃんとドラマもやってるわけで。でも、最後はやっぱり明るく終わる。観終われば満足感たっぷりの92分。沖縄って、やっぱりいいなーって思う1本でした。


ホテル・ルワンダ
Hotel Rwanda
監督・製作・脚本:テリー・ジョージ 脚本:ケア・ピアソン
撮影:ロベール・フレース 音楽:ルパート・グレグソン=ウィリアムズ、アンドレア・グエラ
出演:ドン・チードル、ソフィー・オコネドー、ニック・ノルティ、ホアキン・フェニックス、ジャン・レノ
2004年イギリス+イタリア+南アフリカ/122分/配給:メディア・スーツ、インターフィルム
公式サイト http://www.hotelrwanda.jp/

 1994年、アフリカのルワンダでは長年のフツ族とツチ族に対立が、フツ族の大統領が何者かに暗殺されたことを機に激化し、多数派のフツ族によるツチ族の虐殺が始まる。高級ホテル“ミル・コリン”の支配人でフツ族のポールは妻タチアナがツチ族であることからも、ツチ族の人々をかばい、ホテルに匿う。次第にホテルはツチ族や内戦による難民の避難所となっていく。
 民族対立で内戦状態に陥り、欧米諸国や国連にも半ば見捨てられてしまったルワンダで、1200人もの人々をホテルに匿い、その命を救ったホテルマン、ポール・ルセサバギナの実話。2004年アカデミー賞で主演男優賞にノミネートされながらも日本公開が決らず、ネットで公開を求める署名運動が起こり、公開された際には大ヒットを記録。主人公ポールは“アフリカのシンドラー”とも呼ばれるが、内容はまさにそんな感じ。ただ、『シンドラーのリスト』と違って、これはたかだか10年前の話。目を覆いたくなるような悲惨なルワンダの国状も衝撃的だが、そんななかで多くの人々を救ったポールの原動力になっていたのは、妻や子どもたちへの“愛”だと思った。ある意味彼がもっとも人として当たり前の行動を取っていたわけだけど、自分の命すら危ういなかでそのような行動を取ることができる勇気と行動力は、結果としてこのようなドラマになるほどのものなわけだし、これがドラマになりうる前提として、これが“真実”であると思うと、ますます痛ましいわけだ。また、これが作り話じゃなくて真実であるからこそ、この映画の重みがより伝わってくるわけで。平和な国に生まれ育った自分のありがたさを痛感。それにしても、見ている間途切れることない緊張感といい、上記したようなポールの家族を守ろうとする愛情といい、サスペンスとしてもドラマとしても見応えたっぷりなのに、危うく未公開になるところだったことを考えると、もったいないもったいない! 見るべき映画とはこういう映画をして言うべきだと思う。
☆★★★★


ポネット
Ponette
監督・脚本:ジャック・ドワイヨン
出演:ヴィクトワール・ティヴィゾル
1996年フランス/99分/配給:アスミック・エース

 交通事故で母親を失った少女ポネットは、もう一度ママに会いたい、と想い続ける。周囲の人々が彼女に死の意味を諭すほどに、頑なになっていく彼女だが・・・・。幼子が亡くした母親を想う、というストーリーは、感動をさそわないわけがないから、それは卑怯だととることもできるが(一般に子供と動物は感動をさそいやすいとされる)、それはちょっといじわるだろう。この映画はそのシンプルさ故に、ポネットの想いがストレートに伝わってくるし、感動的なシーンでも、大袈裟に盛り上がるBGMを流したりビジュアル的な演出をしたり、ということがない。ほとんどドキュメンタリーに近いかんじで撮られている。そして、なによりもポネットを演じるヴィクトワール・ティヴィゾルの存在。たったの4歳なのだが、この役で世界最古の映画祭であるヴェネチア国際映画祭の主演女優賞を受賞している。もちろんこれは史上最年少。とにかく四歳児の絶品の演技に驚き、また感動させらた。彼女の悲しみに胸が痛くなる作品。ツボにはまりましたね。


ポビーとディンガン
Opal Dreams
監督:ピーター・カッタネオ 原作:ベン・ライス 脚本:フィル・トレイル
出演:クリスチャン・バイヤーズ、サファイア・ボイス、ヴィンス・コロシモ、ジャクリーン・マッケンジー
2005年オーストラリア+イギリス/86分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://c.gyao.jp/pobbydingan/


 オパールの採掘地として知られるオーストラリアの田舎町で、両親と暮らすアシュモルとケリーアンの兄妹。ケリーアンには“ポビーとディンガン”という2人の空想の友達がいたが、ある日、ケリーアンは2人がいなくなってしまったと言い、それ以来、彼女は徐々に元気を失っていく。アシュモルはポビーとディンガンは存在しないと思っているが、妹のために彼らを探そうとするが……。
 英国人作家ベン・ライスのベストセラー小説を映画化。自分は原作も読んでいるけれど、“21世紀の「星の王子さま」”という宣伝文句はあながちウソでもないと思う。見えるもの全てが本物か? 「星の王子さま」には「大切なものは目で見えるのではなく、心で見える」といったような台詞があるけど、要はこれと同じこと。最初は存在するはずのないポビーとディンガンを周囲の人間はひたすら否定するが、結果としてそれを認めることによって、ケリーアンも含めた彼らのなかには言葉にできない“何か”が芽生えるわけで、もちろんはなから「ただの空想癖の子供のわがまま」だと言ってしまえば見も蓋もないわけで、また、そういうことではあまりにも夢がなさ過ぎる。それこそ、こういう話だって信じてみてみることも決して悪くないし、こういう話を受け入れられる心がほしいと思う。それにしても映画の原題は原作どおりの「Pobby and Dingan」がワーキングタイトルで、結局「Opal Dreams」になったが変える必要があったかは疑問(意味は理解できるが)。
☆☆★★★


ホワイト・オランダー
White Oleander
監督:ピーター・コズミンスキー
出演:アリソン・ローマン、ミシェル・ファイファー、レニー・ゼルウィガー、ロビン・ライト・ペン
2002年アメリカ/109分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.white-oleander.com/ チラシ 1


 ロサンゼルスに住む15歳の少女アストリッドは、父親を知らず、写真家でアーティストの母イングリッドと2人暮らし。誰よりも強く美しいが、独善的なイングリッドは、常にアストリッドに自分の考えを言い聞かせて育ててきた。そしてアストリッドもそんな母を崇拝し、母子の生活は満ち足りていた。しかし、ある時、イングリッドは恋人のバリーとの関係がもつれて彼を殺害、収容所に入れられ終身刑となる。突然、1人になってしまったアストリッドは、福祉事務局に引き取られ里親の家で暮らすことになるが……。
 強烈な母に育てられていたのに15歳という多感な時期に身寄りのない世界へ放り出されてしまった少女が、様々な家庭環境を渡りあるくうちに、自己に目覚めて母と対立していく……というシリアスなドラマで、しかも大きな山場もなく、作品としては地味。だけど出演陣はご覧のとおり豪華。特にイングリッドのもつ鋭さを的確に現しているミシェル・ファイファーはお見事。母娘の対立…といっても、ただ憎しみあうようなものではなく、そこにあるのは“愛情表現”の違いだけ。2人とも互いをとても愛しているけれど、人の愛し方は個人によって違う。結局、このお話では、母イングリッドがそれを認められずにいたことが核だと思いますね。彼女は要するに子供だったと。自分の脆さを隠すために、誰にたいしても強烈に当たり、打ち負かす。そうすることで自分の弱さを隠しつづけていた。それはタイトルにもなっている“白い夾竹桃(ホワイト・オランダー)”そのものであると(夾竹桃は美しいが身を守るために強烈な毒素をもつそうです)。そして娘アストリッドは、3人の里親や施設で出会った人々から、自分は自分であるという当たり前のことを、愛し方にもいろいろな方法があるということを気付かされて、母から解放されたいと願う。「別に今の私たちのやり方でなくても、私たちは大切な母娘でいられるの」と。こうして “子供な母”と“大人になりつつある娘”が対等に渡り合うようになるのでした。でも、最後に母はやっぱり母であった……それがちょっと感動です。
 地味な作品ではありますが、こういう繊細なドラマは個人的に好き。無駄な説明なんかも最低限だし。ただ、アストリッドの心境の変化をもうちょっとじっくり描いてくれてもよかったかな…とは思うのですが(時間の流れがとてもさくさく進むので)。外見が変化していく点で、それを端的に表してはいましたが。それにしても、そのアストリッドを演じるアリソン・ローマンがでずっぱりなので、個人的にはもうそれだけで嬉しくって、たまらなくて、ちょっと冷静に観られていないかもしれないんです。なので本来ならA-のところをAにしときます。あとはテーマ曲もシェリル・クロウの「Safe and Sound」という大好きな曲でポイント高し。この曲が似合う映画は好きなのです、基本的に。


ホワイト・ライズ
Wicker Park
監督:ポール・マクギガン
出演:ジョシュ・ハートネット、ダイアン・クルーガー、ローズ・バーン、マシュー・リラード
2004年アメリカ/116分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.herald.co.jp/official/white_lies/ チラシ 1


 冬のシカゴ。婚約者の女性とレストランにいたマシューは、かつての恋人で、2年前に何の前触れもなく彼の前から姿を消した女性、リサの後姿を偶然目撃する。すぐに後を追うが見失ってしまい、彼女がいた電話ボックスの中を見ると、そこであるホテルのルームキーを発見する。マシューはホテルの部屋に入り、そこで得た手掛かりをもとに、アパートメントの一室を探し当てる。そこには確かに今でもリサが住んでいると確信するマシューだったが、彼の前に現れた部屋の住人は、リサという名前だったが、マシューの探すリサとは似ても似つかぬ別人だった……。
 ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ、ロマーヌ・ボーランジェ主演のフランス映画『アパートメント』のリメイク。かなりオリジナルに忠実で、細かい描写までなぞっているけれど、ある部分がオリジナル版と大きく異なるため、オリジナルを知っている人は違和感を覚えるかもしれないが、これはこれで新しい解釈としていいのでは? というか、そのおかげでオリジナルと観終わったあとの印象というか、読後感が違う。こちらのほうがある意味、万人向けな印象で、その分、オリジナルのもっていた奥深さというか毒気のようなものはなくなってしまったが。ネタバレしてはいけないので、これ以上は言えないが。ダイアン・クルーガーとローズ・バーンというヒロインの組み合わせは、『トロイ』で注目を集めた新人コンビそのまんまだが、撮影されたのは『トロイ』よりもこちらが先。まあ、ダイアン・クルーガーの美しさは相変わらずで、ジョシュとの組み合わせも申し分ないんだが、ローズ・バーンがまたちょっとかわいそうな役柄な気も……。だって結局悪いのはあんただけやん!ってことだもんね。ストーリーの進行上、観客は割と早い段階でそれがわかってしまうから、それから先が結構じれったいというか。最後の最後までわからないほうがどんでん返しでよかったんじゃないかなぁ……とは思いつつ、でも細部のつじつまは合ってるし、なかなかよく出来ていると思いました。そのへんのつじつま合わせの説明も、オリジナルより細かいところでわかりやすくなってると思った。
 それにしても、舞台となるレストランの名前が「ベルッチーズ」なのは、オリジナルのモニカ・ベルッチを意識してんのかな?


ポワゾン
Original Sin
監督・脚本:マイケル・クリストファー
出演:アントニオ・バンデラス、アンジェリーナ・ジョリー
2001年アメリカ/116分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.poison-jp.com/

 キューバでコーヒー豆の会社を経営するルイス。以前からのペンフレンドのジュリアと結婚することになったが、お互いに一度も面識はなかった。結婚式当日、初めて顔を合わせた二人だが、結婚生活は順調だった。しかし、ある日、ジュリアが忽然と姿を消してしまい・・・。
 複雑な男女の愛憎が生む悲劇を追ったサスペンス風のドラマ。謎の仕掛け方、解き方など、人物の心情に絡めて、とてもよくシナリオが構成されているように思う。さらに、一筋縄では終わらないラストなど、なかなか意味深い感じのする作品。しかし、個人的には、キューバが舞台というだけあって、ラテン系のノリの、情熱的すぎるといっていいほどの男女の愛憎劇が、観ていてちょっと疲れた。僕はもっと、温かくてほんわかとした、あるいはさわやかな恋愛が好きなのですが、どうもこう激しいとね・・・。そういうわけで、作品はいいんだけど、個人的な趣向にちょっと合わないかな、といったところです。そればかりはもう、人それぞれ・・。
 まぁ、でも、アントニオ・バンデラス×アンジェリーナ・ジョリーのベッドシーンは良いです(笑)。これのおかげで日本では18禁映画。でも、言われてみれば、結構大胆だったよな。うぅ〜ん、あのシーンだけもう一度みたい(笑)。今や売れっ子女優のアンジェリーナがおしげもなく…。この映画の評価は彼女に捧げましょうぞ。


ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ
Hilary and Jackie
監督:アナンド・タッカー
出演:エミリー・ワトソン、レイチェル・グリフィス
1998年イギリス/121分/配給:日本ヘラルド映画

 20世紀最高のチェリストといわれるジャクリーヌ・デュ・プレの生涯を描いた伝記的映画。フルートを吹く姉ヒラリーと、チェロを奏でる妹ジャクリーヌ。幼少の頃は、姉のほうが注目を浴びていたが、才能を開花させたジャクリーヌは、姉を抜いて高名な音楽家としての道を歩む。ヒラリーはやがてフルートを辞め、結婚し、田舎で幸せで平凡な家庭生活を送るようになる。演奏家としては順調な歩みを見せたジャクリーヌだが、その裏ではチェリストである自分に対する苦悩があり、さらに、突然、不治の病である多発性硬化症に侵され、徐々に体の自由を失っていく・・・。
 この作品は、原題が“HILARY AND JACKIE”となっているように、姉と妹を対比させながら描かれています。同じ時を、二人の視点から描いてみたり、様々なところで対比や異なる視点からの描写があって、同じ事柄に関しても、違う認識が見えてきて、その演出方法は実に上手いと思いました。そして、天才であるが故の苦悩。我々凡人からすれば、才能のある人間は羨ましく思えるものだが、決してそんなに簡単なことではないのだろう。天才といえど、一人の人間であって、それ故の悩みや苦しみがある。それを実によく描いていて、また、エミリー・ワトソンの素晴らしい演技もあり、観ていて胸に押しかかるものがあります。ストーリー、役者、演出など、どれをとっても逸品の秀作。音楽に関心がなくとも、是非観てみる価値はあるのではないでしょうか。映画の原作は、ヒラリーと弟ピエールの共著「風のジャクリーヌ」。また、ジャクリーヌが使用していたチェロ“ダビドフ・ストラディバリウス”は、現在、ヨーヨー・マの手にあるという。


ポンヌフの恋人
Les Amants du Pont-Neuf
監督・脚本:レオン・カラックス
出演:ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュ
1991年フランス/125分

 パリで最も古い橋、ポンヌフで路上生活をしている大道芸人アレックスは、ある日、初恋の痛手と失明の病気を抱えて絶望し、良家の娘でありながら、放浪生活をしていたミシェルと出会う。互いの寂しさから、惹かれあっていく二人だが、ある時、ミシェルの眼が手術によって治ることがわかり、彼女はアレックスの元を去ってしまう・・・。
 単館映画として記録的大ヒットとなり、また、撮影中も大掛かりなセットなどの資金難から幾度と撮影中止になったという、なにかと話題の作品。ただ、個人的にはちょっとついていかれないと思うところが少なからずあり・・・。後半のほうにいくと面白いんだけど、それまでがどうも紆余曲折というか、そういう印象がありました。世間では、後半は“普通”になっていってしまい、むしろ前半のほうがいいという意見が多いようなのですが。只者ではないというのはわかるのですが、なじめなかったのは仕方ないです。それにビノシュとラヴァンって、あまり合わないと思ってしまって・・。でもなんだかんだ言って、結構いいシーンも多い。