ファーゴ
Fargo
監督・脚本:ジョエル・コーエン 製作・脚本:イーサン・コーエン
出演:フランシス・マクドーマンド、ウィリアム・H・メイシー、スティーブ・ブシェミ、ピーター・ストーメア
1996年アメリカ/98分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.asmik-ace.com/Fargo/

 インディペンデンス映画の雄、コーエン兄弟の製作・監督作品。お金に困った冴えないカーディーラー・ジェリーは、偽装誘拐を企て、妻ジーンを誘拐させ、会社の社長である義父から身代金をとろうと考えた。誘拐を依頼されたカールとゲアは、ジーンの誘拐には成功したが、逃走中、なりゆきから殺人を犯す。次第に当初の計画からずれていく事件・・・。女性警察署長マージは、すぐさま捜査に乗り出すが・・・。
 ドラマチックに盛り上がるわけでもなく、非常に淡々と流れていく。悲惨な事件であるにも関わらず、そこに登場する人物たちは、みんなちょっと変なところがあって、図らずも笑わされてしまう。特に、台詞回しが面白く耳に残る(実際になんと言っているかわからないが、相槌を打ったりする部分が、妙におかしいのだ)。個人的にはジェリーの無能っぷりにイライラして、ここまでダメなやつっているかなぁ・・ と思いつつも、対照的に女性警官マージは、飄々としつつも有能に事件に迫るのが印象的。実に凄惨な事件であり、そこから感じられるのは人間の愚かさや哀しさ。マージが最後にゲアに向かって言う台詞が、“普通の人”の気持ちを見事に代弁してくれる。諧謔的要素も多少は含んでいますが、それがエッセンスとして効いているのであって、全体的には重いような気がした。観終ったあとに、じわじわと何か感じるものがある。そう思うと、キャッチコピーの“人間は可笑しいほど、哀しい”というのが、この映画を見事に表しているなぁ…と。


ファウスト
Faust
監督・脚本:ヤン・シュワンクマイエル
出演:ピーター・セペック 声の出演:アンドリュー・サックス
1994年チェコ/97分/配給:ユーロスペース

 ゲーテの戯曲「ファウスト」を独自の解釈で映画化し、シュワンクマイエルおなじみの粘土細工や人形のアニメーションと実写が組み合わせれた不可思議で不気味な世界が展開する。今回は特に粘土などよりも人形たちの出番が多く、その不気味さが秀逸。ただ、どこか滑稽な印象もある。ストーリーはもはや現実世界を跳躍したファンタジーで、目の前に展開される世界を楽しめばいい。ただ、冒頭の展開からオチはなんとなく予想できた。シュワンクマイエルらしいといえばらしいんです。


ファナイルファンタジー
Final Fantasy: The Spirits Within
監督・脚本:坂口博信
声の出演:ミン・ナ、アレックス・ボールドウィン、ジェームズ・ウッズ、スティーブ・ブシェミ
2001年アメリカ+日本/106分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.ff-movie.net/ チラシ 1

 もはや説明不要な同名ゲームの映画化で、総制作費160億円の驚異的なフルCG映画。時は2065年。地球は、“ファントム”と呼ばれる 謎の生命体に侵略され、荒廃していた。人々は、バリアに守られた都市の中での生活を続けている。実力行使でファントムを駆除しようとする軍部に対し、主人公アキ・ロス博士は、それが無駄であり、もっと別の方法を探るべしと主張するが・・・。
 FFの映画化とはいえ、原作のゲームシリーズが作品ごとに世界観も設定も異なるのと同じく、タイトル以外はゲームと一切関係ない。しかも、魔法もチョコボも、なにも登場しない、完全なオリジナルSF映画だ(でもシドだけはきちんとでてるな・・)。そして、やはり言えることは「とにかく映像がスゴイ」。これに尽きる。無精髭や染み、しわ、ほくろ、毛穴、手の甲に浮かぶ血管までリアルに再現し、隙がない。これは実に驚くべきことだと思う。もちろん、人物だけでなく、背景やら特殊効果までもが一級品だ。宇宙船が発射するさいの煙もすごかった。そういったCGの細かいところをあげていたらきりがない。なにしろ全てがCGでできているのだから・・・。
 そして一方で懸念された映像以外の面だが。展開が多少、軽いというか急いでいるというか、そういう感じを受けましたが、時間の制約があったから仕方ないでしょうか(これ以上延ばしたら、更に制作費が・・・)。ストーリー自体、非常にわかりやすいまでの典型的SFアドベンチャー(ついでに言うと、音楽や効果音まで、思いっきりハリウッドのSFアドベンチャーものといった感じ)。残念なことに、ちょっと説明不足な気もして、そのへんが少々独り善がりな気もしました。などなど、正直、叩こうと思えばいろいろ叩けそうなんですが、僕は別にそういうことをするつもりはありませんし。想像していた以上にリアルだったその映像には感服するばかりで、確かに“今までに見たことない映像”という点で評価は大きいと思います。ただし“映画”としてみた場合は、ちょっと難しいですかな。声の出演は、アレックス・ボールドウィン、ジェームズ・ウッズ、スティーブ・ブシェミなど、妙に豪華。あとはワーナー・マイカルのみで上映されるらしい、主題歌を歌うL'Arc〜en〜Cielの特別ビデオクリップがおもろかったです。


ファインディング・ニモ
Finding Nemo
監督・原案・脚本:アンドリュー・スタントン 共同監督:リー・アンクリッチ 製作総指揮:ジョン・ラセター 脚本:ボブ・ピーターソン、デヴィッド・レイノルズ
声の出演:アルバート・ブルックス、エレン・デジュネレス、アレクサンダー・グールド、ウィレム・デフォー
2003年アメリカ/101分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.disney.co.jp/nemo/ チラシ 12

 オーストラリアのグレートバリアリーフに暮らすカクレクマノミのマーリンは、妻と卵だった子供たちが襲われて生き残ったのはひとつの卵だけだった……。マーリンは、その卵から生まれた息子ニモを大切に育てるが、元気盛りのニモは過保護な父にちょっとうんざり。ある時、父と言い争いになったニモは、外洋に飛び出し、人間のダイバーに捕まってしまう。マーリンは必死で追いすがるが、ニモを連れたボートははるか彼方へ……。臆病なマーリンだったが、息子を助けるため、広い広い海の世界へ旅立つ。
 おなじみピクサー・スタジオがおくる海洋アドベンチャー。全米でアニメ史上ナンバー1、実写も含めて2003年度ナンバー1の大ヒット作。今回は全編が海の中で、CGではもっとも難しいとされる水の表現に挑戦。しかし、まぁ、これが凄い凄い。本当の水と見紛うほどのクオリティに感嘆。揺らめく陽光や泡の動き、どれをとってもリアル。ダイビングをやる人間としても興味をもった作品だけど、海の中の表現には、これなら納得です。お話のほうは、やっぱりどうしてもお子様向きなところがあるんで、個人的にはあんまり気持ちは盛り上がらなかったかも。そこそこ笑える要素、泣ける要素もあるけれど、「最高!」というほどにはならなかったです。まぁ、前述したCGなど含めて全体的なクオリティで大人の鑑賞に耐えるのはもちろんなんだけど。個人的には去年の『モンスターズ・インク』のほうがキャラがたっていて面白かったかも。それでもやっぱり、あれだけの高品質で良質なモノを見せ付けられると文句も言えないし、言う気もないかな。素直に褒めてあげたい。で、またまたダイバーとしての視点に戻るけど、カクレクマノミを主人公にもってきたのは上手いと思う。やっぱり熱帯魚の中でも特にかわいくてアイドル的存在だし、本来はマーリンがそうであるように臆病で決して外へ出ないという性質をもっているからこそ、それを克服していくことがドラマになるわけだし。他にもいろんな魚や海の生き物が出てきましたが、どれもこれも、きちんとそれぞれの性質を上手く利用した描き方をされていて(もちろんデフォルメしちゃってるところもありますけど)、そういうとこも感心。ちゃんと調べた上でキャラクター設定してるんでしょうね。で、あとはエンディング・クレジットが面白かったので、最後まで見逃しちゃイカンですね。


ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]
Fantastic Four
監督:ティム・ストーリー 脚本:マイケル・フランス、マーク・フロスト、サイモン・キンバーグ
原作:スタン・リー、ジャック・カービー 撮影:オリバー・ウッド 音楽:ジョン・オットマン
出演:ヨアン・グリフィズ、ジェシカ・アルバ、クリス・エバンス、マイケル・チクリス、ジュリアン・マクマホン、ケリー・ワシントン
2005年アメリカ/106分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.f4movie.jp/ チラシ 1

 宇宙ステーションで、宇宙雲が人類の進化や遺伝子に与える影響を研究していたリード、スー、ジョニー、ベンの4人は、事故で自ら宇宙線を浴びてしまう。すると彼らの体にはそれぞれ変化が生じ、様々な能力が発揮できるようになった。おのずと世間の注目を集める彼らは、やがて“ファンタスティック・フォー”と呼ばれるようになるのだが……。
 アメコミの大家、マーベル・コミックのスタン・リーが、1961年に発表した人気コミックの映画化。「スパイダーマン」などよりも初期に登場した、アメコミヒーローの老舗。その映画化となるわけだが、キャストもスタッフも地味で日本での知名度も圧倒的に低いから、どうしたもんかと思いきや、まあ、見ればなかなか楽しめる内容でした。いわゆる普通の人間が超能力を持ってしまったが故に悩む……という「スパイダーマン」に通じるドラマや、それぞれ個性的で異なる能力をもった超人の集団……という「X-MEN」に通じる面白さもある。ただ、概してそれらの作品よりはトーンが明るいのはなんでだろう? もちろん、それゆえに気楽に楽しめるわけで、大きな期待もないから大きな落胆もない……と受け取れるのかもしれない。なんか思ったよりアクションも控えめで、ようやく主人公たちが自分たちの能力を使いこなし、使命を自覚したところで終わってしまう感じがあるので、物足りないのかも。まあ、アメリカでは予想外のヒットとなったし、プロローグとしては申し分なく、続編が大いに期待される一本。
☆☆★★★


フィオナの海
The Secret of Roan Inish
監督・脚本:ジョン・セイルズ
出演:ジェニー・コートニー
1994年アメリカ/103分/配給:大映

 母親が死に、アイルランドの祖父母のもとへ預けられることになった少女フィオナ。そこで彼女は、アザラシの妖精・セルキーの伝説を聞かされる。その話を聞いたフィオナは、小さいころ海にさらわれてしまった弟が、生きているのではと考え、かつて一族が住んでいたが 今は誰もいなくなったはずのローン・イニッシュ島で弟を探しはじめる。
 寂寥としたアイルランドの自然の中で、静かに語られる伝承と童話のようなお話。美しくもあり、暗くもあり、なんとも不思議な雰囲気をもった作品で、見ていると、まるで現実から引き離された世界にいるような気分にさせられる。フィオナ役のジェニー・コートニーも、幼いながらに、どこか影を落としたような表情を見せたりするところが、この作品の持つ雰囲気と相まって、より一層、静かな世界へ誘う。


フィフス・エレメント
The Fifth Element
監督・脚本:リュック・ベッソン
出演:ブルース・ウィリス、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ゲイリー・オールドマン、イアン・ホルム、クリス・タッカー
1997年フランス+アメリカ/127分/配給:日本ヘラルド映画

 SFアクション映画だが、コメディ・タッチで物語自体はハードではなく、気楽にみられる作品。未来の混雑した街の様子や、もと特殊警察の主人公など、「ブレードランナー」を思わせるようなところもちょっとあるが、それは穿った見方か・・。「レオン」のリュック・ベッソンとは、まただいぶ違ったものだ。レオンといえば、ゲイリー・オールドマンが今回も敵役として登場。ちょっと間抜けで極悪非道な悪の親玉を演じてるところが、またレオンとのギャップがある。その他の役者としては、クリス・タッカーがかなりの存在感を発揮して笑わせてくれます。


フェアリーテイル
Fairy Tale: a ture story
監督:チャールズ・スターリッジ
出演:フロレンス・ハース、エリザベス・アール、ハーヴェイ・カイテル
1997年イギリス/98分/配給:パイオニア
公式サイト http://www.pldc.co.jp/movie/movie/fairytale/

 1917年のイギリス。不思議な妖精に出会った二人の少女エルシーとフランシスの物語。周りの大人たちはもちろん信じてくれないのだが・・・。二人の少女が撮った妖精の写真を、かの「シャーロック・ホームズ」の生みの親であるアーサー・コナン・ドイルが本物だとして取り上げたことでおきた一連の騒動“コンティグリー妖精事件”を映画化。二人の少女の純粋でひたむきな心が、子供のころにもっていたなにかを忘れた大人たちの心にしみる。この映画はとにかく画面も物語も美しい。イギリスの大自然が見事にとらえられていて、瑞々しい緑が、今でも目に浮かぶような美しさでカメラに収められているのが印象的だし、歴史を感じさせる建物や、衣装や小道具もとても凝っていて、20世紀初頭のイギリスの様子がよく伺えます。不満があるとすれば、物語冒頭から妖精を画面に出しすぎること。最後のシーンまでもう少しぼかしてもよかったのではないかと思いますが。が、二人の少女の芝居もいいし、かわいいし、美しいし……僕の中では、すごく温かい作品として、心にじんわりと残っている作品です。優しい気持ちになりたい人は、是非どうぞ。


フェイク
Donnie Brasco
監督:マイク・ニューウェル
出演:アル・パチーノ、ジョニー・デップ
1997年アメリカ/126分/配給:東宝東和

 うだつのあがらない中年ギャングのレフティは、ある日、バーでドニーと名乗る青年に出会う。ひょんなことから彼と行動をともにするうち、2人の間には親子ような絆が生まれる。頭のきれるドニーに、再び人生を咲かせることができるかもしれないと夢を見るレフティ。しかしドニーの正体は、マフィア組織殲滅のために、囮捜査で単身、潜入しているFBI捜査官、ジョー・ピストーネだった。
 実在の事件を映画化。ピストーネは、今もなお、マフィアたちから50万ドルの賞金をかけられており、安全のために仮名で生活を続けているらしい。アル・パチーノとジョニー・デップの共演ということで、とても興味をもって観たのですが、ちょっといまいち。2人は良かった。このプロット自体が泣かせるものがありますが、いかんせん、2人意外のキャラが…。全体として地味なのに120分以上というのもちょっと。レフティのほうは良かったと思いますが、ドニーの描き方がどうも物足りない。もっと囮捜査の危険性とか、レフティに対する同情を強く描いてくれれば、ラストも盛り上がった気がするのですが。まあ、シンプルで静かな終わり方は良かったです。ラストのレフティの台詞と、ドニーの眼。そこがとても印象的でした。


フォーン・ブース
Phone Booth
監督:ジョエル・シュマッカー 脚本:ラリー・コーエン
出演:コリン・ファレル、フォレスト・ウィテカー、ラダ・ミッチェル、ケイティ・ホルムズ、キーファー・サザーランド
2002年アメリカ/81分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/phonebooth/ チラシ 1

 傲慢で自称一流のパブリシスト、スチュは、今日もアシスタントを従えて口八丁で契約を取り付けていく。そして、ニューヨークの8番街にある公衆電話で、いつもように何気なく結婚指輪をはずし、クライアントの新進女優パムに電話する。通話が終わり受話器を置くと、その公衆電話のベルが鳴った。思わず電話に出たスチュだが、電話口の相手は彼をライフルでどこからか狙っており、「電話を切れば命はない」と脅迫するが……。
 何はともあれ、アイディアが新鮮で、それだけで観てみたいと思いましたし、加えてコリン・ファレルの熱演で引っ張られた81分でした。映画はほぼ全編、電話ボックスの中だけで展開するといっても過言ではないですが、それにも関わらず、ほど良い緊迫感に満ちていて飽きませんでした。さすがにこれ以上長いとダレてしまうだろと思いましたが、そのへんも個人的には丁度良かったです。また、出ずっぱりなコリン・ファレルの半べそ演技はさすが。あれって要するにほとんど全部一人芝居に近いはずですけど、汗かいて涙流してベソかきながら、今までの虚像を、文字通り“剥ぎ取られていく”様は、彼の熱演あってこそでしょう。最後のオチがちょいと弱くて、予想できた範疇内だったのが残念といえば残念ですけど…。とりあえずいいアイディアが浮かんだから作ってみたけど、オチはどうしよう?って感じで。まあ、救いがあるラストではありますけど。最後まで不条理に突き進んでくれても、それはそれで良かったとは思いますが、そうなると観ているほうの気持ちはつらいかもね。


ブギーナイツ
Boogie Nights
監督・製作・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:マーク・ウォルバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア、ヘザー・グラハム
1997年アメリカ/155分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ

 1977年。ディスコで皿洗いのバイトをしていた17歳のエディは、「そのジーンズの奥に宝が眠っているぞ」とポルノ映画監督ジャックにスカウトされる。彼の家には、ポルノ映画界の女王アンバーや孤独な美少女ローラーガールなど、表の世界で心に傷を負い、この世界で肩を寄せ合い生きていく人々が集まっていた。エディはダークという芸名でデビュー。瞬く間にポルノ映画界のスターとして君臨するのだが…。
 ちなみに、70年代のポルノ映画は、今のようにビデオでみるのではなく劇場でみるものだった。それが80年代にビデオの普及によって現在の状況に変遷していくようで、その様子も物語中で描かれている。高校も卒業できずに、親にもなじられ、いわゆる“表の世界”では受け入れられないエディ。しかし、ポルノ映画という世界で彼は圧倒的な存在感を得る。そのことに彼はやがて傲慢を抱くことになる。なんとも寂しい人間像がここにある。しかし、お決まりのようにその傲慢によって彼はスターの座から転落することになる。それを失えば、彼は麻薬に溺れるだけ…。エディだけではない。アンバーも、離婚した夫との親権争いで、ポルノという仕事を理由に子供を得ることができない。勝手気ままに振舞えた世界も、世間一般からみれば、やはりある種の蔑みの目でしか見られない。でも、そんな世界にいようと彼らも一人の人間。どうやっても生きていかなくちゃいけないわけで…。前半、エディがスターに上り詰めていくまではわりと面白いけど、その後がちょっと長く感じましたね。全部で155分ですから、長いことは確かなのですが。一度、転落したエディが、どうなるのか、それはラストで明らかになります。…それにしてもデカイよな〜〜。いや、ほんとにデカイ(笑)。


復讐者に憐れみを
Sympathy for Mr.Vengeance
監督・脚本:パク・チャヌク
出演:ソン・ガンホ、シン・ハギュン、ぺ・ドゥナ
2002年韓国/121分/配給:シネカノン チラシ 12

 聴覚障害を持つ青年リュウは、重病に苦しむ姉を助けようと腎臓移植を決意するが、自分はドナーとして不適合だった。しかも、看病のために欠勤が続いて工場をクビにされ、ついには臓器売買の闇取引に手を出すが、逆に自分の腎臓となけなしの金を騙し取られてしまう。その直後、姉にドナーが現れるが既に手術代はなく、そんな彼の唯一の理解者である女ユンミは、金持ちの子どもを誘拐してお金を手に入れようと計画するが……。
 2004年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞した『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督が、同作の前に撮った壮絶な復讐劇。日本での劇場公開は『オールド・ボーイ』より後だが、本作と『オールド・ボーイ』、そして2005年初頭現在、撮影中の新作と合わせて“復讐3部作”を成す1作。『オールド・ボーイ』は「R-15」指定で、それでもかなり衝撃的だったが、今回はその上をいく「R-18」指定。暴力描写は苦手な自分ですが、それでもこの監督の作品は観てみたいと思うほどの力がある。登場人物には正義も悪もなく(もちろん殺人は悪いことだが)、それぞれの大切なものを不条理に奪われ、その復讐がさらに復讐を呼んでいくという悲劇を妥協なく描く本作の衝撃は、筆舌に尽くしがたく……。『オールド・ボーイ』が生易しく感じるほどの重さと激しさと凄惨だが、現実に目を向けると、世界中で今でも戦争が絶えないのは、報復や復讐を繰り返しているからであり、本作まさにそうした“復讐の連鎖”で成り立っている現代をこれでもかと鋭くえぐっているわけである。個人的にもとても気に入っている女優ペ・ドゥナが、これまでのイメージを覆すかのごとく、オールヌードでベッドシーンもあるのだが、そんな興奮(笑)もどこへやら吹っ飛んでしまうほどの重苦しさと凄まじさに息が詰まる思いでした。鑑賞後はまじで食欲なくなりましたよ……。


不思議の世界絵図
Orbis Pictus
監督・脚本:マルティン・シュリーク
出演:ドロトゥカ・ヌゥオトヴァー、マリアン・ラブダ、ボジダラ・トゥルゾノヴォヴァー
1997年スロバキア/105分/配給:シネカノン

 全寮制の学校から放校処分を受けた少女テレスカは、図書館で偶然見つけた一枚の古い絵図を頼りに、長いあいだ音沙汰のない母親を捜す旅に出る。
 ヨーロッパで高い評価を得ているスロバキアの映画監督マルティン・シュリークの作品が日本初公開、「マルティン・シュリークの不思議の扉」と題して上映された3作品のうちの1本。タイトルの通り、本当に不思議な映画で、学校から出たテレスカは、幻想的な森の中を次々と奇妙な人物や出来事に遭遇しながら進んでいく。宣伝文句にも使われているけれど、まるで「不思議の国のアリス」状態。でも、映画の中の人物たちは、なにもおかしいとは思っていない。ただ、淡々と出来事が起こり、それに対処していく。いちいち説明などない。その微妙な雰囲気が絶妙といえば絶妙。ただ、個人的には鑑賞中にときどき眠気に襲われ……。ちゃんと観れば、この独特な雰囲気がなんとも言い表しがたく、良い感じなんですけど。シュールであり、時にふと哀しくもあり、暗くもある。


不思議惑星キン・ザ・ザ
Kin-dza-dza!
監督・脚本:ゲオルギー・ダネリア
出演:スタニスラフ・リュブシン、レヴァン・カサブリア
1986年ロシア(旧ソ連)/134分/配給:パンドラ
公式サイト http://www.pan-dora.co.jp/kin-dza-dza/ チラシ 1

 86年、旧ソ連時代に製作された幻の超SF映画! というとものすごいものを想像されるかもしれないが・・・。そう、確かにこれはすごい。・・・冬のモスクワ。マシコフは妻に買い物を頼まれて外出する。するとバイオリンを持った青年に「あそこに自分を異星人だと言う人が いるのですが」と話かけられる。見ると裸足の男が街角にたっている。しかしそれを信じないマシコフはその男が“瞬間転移装置”だと言うもののスイッチを押してしまう。するとマシコフと青年は、見知らぬ砂漠の真中に立っていた。そこは地球から遠く離れたキン・ザ・ザ惑星のブリュク星というところで、なぜかマッチが大の貴重品。さらに身分の低い者は、「クー」というなんとも恥ずかしい格好の挨拶をしなくてはいけない・・・。
 この映画は本当にすごい。観にいく前から評判は聞いていたが、本当だった。冒頭、転移装置で瞬間移動してしまった、その“瞬間”で既に笑いをとられる。まさかあんなにすごい瞬間移動があったとは。ひょっとするとこの作品には政治的意図がこめられているのでは? といった憶測もあるが、もはやそんなことはどうでもいい気がする。本当に楽しめるお馬鹿な映画だ。しかし、お馬鹿といっても、頭が悪いのではない。これほどのユーモアを絞り出せるのは才能だろう。あまりに唐突な展開なくせに、上映時間は2時間を超えて妙に間延びした感じも受ける。しかし、その間延び感すらも、この独特な映画には必要なのだ。もしこれがテンポよく切れのよい演出と展開だったら、こうはならなかったはずだ…と思わされてしまいます。登場する機械やら人物やらも、どれをとっても独特でオリジナル。声を出して笑うとこから、クスクス笑いなところも随所に盛り込みつつ、ラスト近くでは人情っぽいしんみりシーンもあって、でも最後はやっぱり笑いで落としてくれる。観終って、思い起こしてみると改めて笑みがこぼれてしまう。そんな作品。あー、もっかい観たいなぁ〜。この強烈な印象は忘れがたいですよ。クー、クー。


ふたりの5つの分かれ路
5×2
監督・脚本:フランソワ・オゾン 脚本:エマニュエル・ベルンエイム
出演:ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ、ステファン・フレイス、ジェラルディン・ペラス、フランソワーズ・ファビアン、アントワーヌ・シャピー
2004年フランス映画/90分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/futarino/

 離婚の手続きをすませたばかりのマリオンとジルは、ホテルの一室で肌を重ねるが、もはや2人の間の溝は埋められるものではなく、マリオンはひとりホテルの部屋を後にするのだった……。
 ある一組のカップルが離婚するところにはじまり、ある夜のパーティー、出産、結婚式、出会い……と、時間を逆行しながら5つのパートにわけて2人の別れから出会いを描く。時間を逆行させて描く手法も珍しくはなくなったが、例えばチャーリー・カウフマン&ミシェル・ゴンドリーの『エターナル・サンシャイン』のような奇抜さがあるわけではなく、2人に起こった出来事を淡々と描き出す。2人が分かれることを知った上で見ることで、その伏線となる出来事が浮き彫りになる構成。ひとつひとつは一見、些細なように描かれているが、すでにそこに夫婦間の背徳というか裏切りというか、信頼がなくなっていることが見て取れる。結婚間際のカップルは見ちゃいけませんね(笑)


ふたりのトスカーナ
Il Cielo Cade
監督:アンドレア・フラッツィ、アントニオ・フラッツィ 原作:ロレンツァ・マッツェッティ
出演:ベロニカ・ニッコライ、ララ・カンポリ、イザベラ・ロッセリーニ、ジェローン・クラッベ
2000年イタリア/102分/配給:アルシネテラン
公式サイト http://www.alcine-terran.com/data/ilcielocade/ilcielocade.htm チラシ 1

 1943年、母を病気で亡くし、直後に父親も交通事故で他界してしまった幼い姉妹ペニーとベビーは、トスカーナ地方の伯父夫婦の家に引き取られることになった。自然の美しい村で、新しい家族や新しいクラスメート、近所の子供たちとの交流で、両親を亡くした悲しみを乗り越えて、明るく楽しい日々を送っていた。しかし、そんな平和な日々にも、戦争の足音が近づいていた…。
 戦争の恐怖、大切な人を失う悲しさを子供の視点から描いたドラマ。原作は映画監督でもあるロレンツァ・マッツェッティの自伝的小説「Il Cielo Cade(空が落ちてくる)」。子供が主人公ならではの明るくのびのびとした描写が多いなかでも、ところどころで、大人たちが戦争の話をしている描写があり、どこか不安感を漂わせているのですが、それが最後のほうにドッとやってきます。結局、この映画でもナチスによるユダヤ人虐待が描かれているわけで、この展開には泣かされずにはいられません。ペニーとベビーは両親をなくしているにも関わらず、明るく振舞っているので、観ているこちらはついついそういう不幸な境遇であることを忘れがちかもしれません。でも、彼女たちにとって伯父叔母の家が、どれだけかけがえのないものだったか。彼女たちには、もはやそこしかなかった。でも、そこで幸せが得られたから、両親を亡くした不幸も癒されるはずだった……けれど。これ以上はいえませんが、幸せは大きければ大きいほど、失ったときの悲しみは計り知れない。そして、そういうことを平然とやってのける戦争というものの非情さよ。これが泣かずにいられますか…。関係ないですが、この邦題はちょっとセンスないっていうか…。“空が落ちてくる”のほうが雰囲気にあっているのになぁ…と思いました。


プッシーキャッツ
Josie and the Pussycats
監督・脚本:ハリー・エルフォント、デボラ・カプラン 製作総指揮:ベビーフェイス
出演:レイチェル・リー・クック、タラ・リード、ロザリオ・ドーソン、アラン・カミング
2001年アメリカ+カナダ/99分/劇場未公開(ビデオリリース:20世紀フォックス)

 ジョシー、メル、ヴァルの3人は売れないアマチュアバンド。今日もお情け程度のギャラをもらい地元のボーリング場で演奏するが、誰も聴いていない…。そんな彼女たちだが、ふとしたことで大手レコード会社メガレコードのマネージャー、ワイアットと知り合い、とんとん拍子でメジャーデビュー。“ジョシー&プッシーキャッツ”として、一躍スターダムに駆け上がる。しかし、その裏には…。
 70年代にアニメ化され、日本でも「ドラドラ子猫とチャカチャカ娘」というタイトルで放映されて人気を博した作品のリメイク。ベビーフェイスが音楽を含めプロ−デューサーを勤めている。
 やっぱりというか、当然というか、日本では劇場公開されずにビデオに直行でした。ま、そりゃそうでしょうが。映画といっても、いわゆるティーンムービーというか、ドラマでもいいくらいのものですし。やたらと企業のタイアップが画面にちらつくなぁ…と思ったら(そこここに、いろんな企業のロゴや商品がでてくる)、その理由は劇中でちゃっかり明かされるから、ああなるほどね、とは思いました。要するにセルフパロディっていうか。映画として万人に観る価値があるとは思えませんが、ドラマ感覚で軽く見られるというのが好きな人はいいでしょう。僕が待ちわびていた理由は、もはや言うまでもございませんでしょう。主演のレイチェル・リー・クックですよ。あぁ、レイチェル。なんでこんなにかわいいんでしょう。相変わらずのかわいさ(しかも本作では猫耳っすよ!)に、作品がどうであれ、レイチェルが観られればそれでよし! 他の2人がちょっとかわいそうだけど、レイチェルには敵わないのです。レイチェル、さいこー! ブラボ〜!! レイチェル…。君がいれば、どんな作品も輝いてみえる……なんて。でも、そのくらいに思えちゃうのよ、レイチェルをみてると。不思議なもので、レイチェルじゃなければ、この作品だって観なかっただろうに。彼女が主演だからこそ、この映画もありえるのだ、というものですが。だから、劇場でなくても観られるだけ幸せかなぁ。で、一応バンドもののお話ですから、音楽も重要になってるんですが、メインになってる歌はわりといいと思いましたよ、うん。たまにはああいうロック・ポップもいいかな、と。


不滅の恋 ベートーヴェン
Immortal Beloved
監督・脚本:バーナード・ローズ
出演:ゲイリー・オールドマン、ジェローン・クラッペ
1994年アメリカ/120分/配給:ギャガ・ヒューマックス

 1827年、ウィーンで没した偉大なる作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン。耳が聴こえないという、音楽家にとして致命的な障害をもちながらも、数々の名曲を生み出した天才作曲家。彼の死後、遺書とともに一通の手紙が見つかる。それには"不滅の恋人"と称される女性に、彼の遺したものを託すというものだった。“不滅の恋人”とは誰のことなのか? ベートーヴェンの親友であったシンドラーは、彼の遺志をまっとうさせようと、謎の女性を探し始まる。その中で語られる、人々に知られなかったベートーヴェンの素顔。女性の愛を得ることもなく、世間からは偏屈物として疎まれたベートーヴェンだが、その繊細な本当の姿は・・・。耳が聴こえないがために、なおさら人々からの理解も難しかったベートーヴェン。自ら作曲した音楽も、聴衆の拍手も聴こえない彼の壮絶な生き様を描く。この映画は、単なるラブロマンスではなく、ベートーヴェンの苦悩や、謎の女性をめぐる謎解きなども盛り込まれ、綿密に設計された作品のようです。衣装やセットも見事なまでに豪華だし、やはりゲイリー・オールドマンの演技は良いです。


プライドと偏見
Pride and Prejudice
監督:ジョー・ライト 脚本:デボラ・モガー 原作:ジェーン・オースティン 撮影:ロマン・オーシン 音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:キーラ・ナイトレイ、マシュー・マクファディン、ドナルド・サザーランド、ブレンダ・ブレシン、ロザムンド・パイク、ジェナ・マローン、ジュディ・デンチ
2005年イギリス/127分/配給:UIP
公式サイト http://www.pride-h.jp/

 18世紀末イギリス。田舎町に住むベネット家には5人の娘がいたが、女性には財産相続権がないため、なんとかして結婚相手を探さなくてはならない。そんなある時、近所に独身の大富豪ピングリーが引っ越してくる。そして舞踏会の夜、ベネット家の次女エリザベスはピングリーの友人で富豪のダーシーと出会うのだが……。
 何度か舞台化やTVドラマ化もされているジェーン・オースティンの人気小説を映画化。あの『ブリジット・ジョーンズの日記』が本作を下敷きにしていることからもわかるように、イギリスの元祖ラブコメともとれるもの。もちろんシリアスな場面もあるが、笑いあり感動あり。ウィットに富み、ペーソスの効いた会話も楽しい。オールイギリスロケの風景は目に贅沢なほどだし、衣装も豪華ということなし。特にさりげなくだが舞踏会のシーンではワンカットの長回しで行き交う人々の悲喜交々を捕らえており、監督は本作が映画デビューとなる若手とは思えぬ実力ぶり。キーラ・ナイトレイは文芸作品向きの顔じゃないかもしれないけど、それが逆に文芸作品のとっつきにくさを払って、現代風な雰囲気を出していていいじゃないかしら。総じて満足のいく作品でした。オススメ。
☆★★★★


フライトプラン
Flightplan
監督:ロベルト・シュベンケ 脚本:ピーター・A・ダウリング、ビリー・レイ 製作:ブライアン・グレイザー
撮影:フロリアン・バルハウス 音楽:ジェームズ・ホーナー
出演:ジョディ・フォスター、ピーター・サースガード、ショーン・ビーン、エリカ・クリステンセン、ケイト・ビーハン
2005年アメリカ/98分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.flight-p.jp/

 夫を事故で失ったカイルは、夫の遺体を故郷のニューヨークに還すため、6歳の娘ジュリアとともに自身が設計した最新鋭のジャンボジェットに乗り、旅立つ。しかし、極度の疲労から居眠りをした彼女が目覚めるとジュリアが忽然と姿を消していた……。
 高度1万メートルの旅客機内という密室で繰り広げられるサスペンス。舞台設定は面白いんだけど、ぶっちゃけ話が破綻してる……。最初はひょっとしてトンデモ系の映画なのかと疑ったけど、考えてみればジョディ・フォスターがそんな脚本を選ぶはずないし、ちゃんと人為的なものに落ち着いていたのはいいんですが、犯人の動機や手法がなぜそんなことをするのかさっぱりわからず(いや、一応理由は説明されるが、到底常識的に考えて理解できない)、観終わっても「はぁ……」って感じ。ジョディ・フォスターの鬼気迫る演技は見応えあるが、反面ちょっとヒステリックになりすぎな気もするし、個人的に好きな役者のピーター・サースガードがあんな役なのはちょっと不服だったりするし。総じて残念な映画でした(別に期待もしてなかったけど)。監督はドイツの新鋭、ロベルト・シュベンケ。この人は悪くないと思うが、悪いのは脚本。カメラマンのフロリアン・バルハウスはミヒャエル・バルハウスの息子だそうで。
☆☆☆★★


プライベート・ライアン
Saving Private Ryan
監督・製作:スティーブン・スピルバーグ 脚本:ロバート・ロダット、フランク・ダラボン
出演:トム・ハンクス、トム・サイズモア、エドワード・バーンズ、バリー・ペッパー、マット・デイモン
1998年アメリカ/169分/配給:UIP

 1944年6月、第2次世界大戦のターニングポイントとなった、連合軍によるフランス・ノルマンディ上陸作戦。その発端となるオマハビーチでの最大の激戦区をなんとか生き延びたジョン・ミラー大尉に、新たな指令が下る。それは、ジェームズ・ライアン二等兵なる人物を戦場から救出せよというもの。ミラーは7人の部下を選び、生きているのか死んでいるのかもわからない、ライアン二等兵を探すため、奥深い戦場へと出発する。
 スピルバーグに監督賞をもたらした一大戦争映画(他に撮影賞、編集賞、音響賞などを受賞)。とにもかくにも、冒頭のオハマビーチの戦闘シーンは圧巻で、無常にも次々と人が倒れていき、爆風で腕がふっとび、浜辺はおびただしい死体で埋め尽くされる。その戦場の残酷さを真っ向から捕らえた映像は驚異的。そして、不条理な理由であてもない任務に就き、命を落としていく兵士たちは、そもそもライアン二等兵を救い出すための理由と完全に矛盾している。その戦争の無意味さというか、おかしさを、ただ当たり前のように描き、つきつめたリアリティある映像は、そんな非現実的な理由すらも有無を言わせないのが戦争という愚かしい状況であるということを強く物語るのに、これ以上ないほどに効果を発揮してると思いました。


プライマー
Primer
監督・製作・脚本・撮影・編集・音楽:シェーン・カルース 製作:デビッド・サリバン
出演:シェーン・カルース、デビッド・サリバン、ケイシー・グッデン、アナンダ・アダヤヤ
2004年アメリカ/77分/配給:バップ、ロングライド
公式サイト http://www.primer-japan.com/

 自宅のガレージで科学研究に励むエンジニアのアーロンとエイブは、ふとしたことから箱型のタイムマシンの開発に成功。過去に戻って株で大儲けをするが、時間を行き来するうちに次第に歪みが生じていく……。
 自身もエンジニアという新人監督のシェーン・カルースが監督・脚本・主演ほか、ほとんどの役割を務めて作った半ば自主映画的なもので、低予算ながらも2004年のサンダンス映画祭で審査員特別大賞を受賞。しかし、やはりタイムパラドックスを扱っているだけに内容は非常に難解。おそらく何度みてもわからないだろう。予算がないだけに、あらゆるものが必要最小限のなかでよく出来てはいると思うし、それは認めるに値すると思うが、いかんせんわかりにくくて……。かといって何度でも観て解き明かそうという気が起こるほどでもないしなぁ……。
☆☆☆★★


ブラザーズ・グリム
The Brothers Grimm
監督:テリー・ギリアム 脚本:アーレン・クルーガー
撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル 音楽:レスリー・ウォーカー
出演:マット・デイモン、ヒース・レジャー、レナ・ヘディ、モニカ・ベルッチ、ピーター・ストーメア、ジョナサン・プライス
2005年アメリカ/117分/配給:東芝エンタテインメント
公式サイト http://www.b-grimm.com/

 19世紀、フランス占領下のドイツ。ウィルとジェイコブのグリム兄弟は、八百長の魔物退治で有名になっていたが、フランス軍に嘘を見破られて捕らえられてしまう。罰として、少女が次々と行方不明になっている村で、呪われた森の調査を命じられるが……。
 「グリム童話」で有名なグリム兄弟が、物語を創作するヒントになった冒険の数々を繰り広げるというファンタジー・アドベンチャー。キレたキャラやちょいグロな描写、ブラックなユーモア、いい意味で子どもじみた空想的世界観などが画面から伝わってくる、いわゆるギリアム・テイストが満載。ただ、熱狂的なギリアム・ファンにはやや不評なようで、確かに普通の観客でもなんら問題ないファンタジー・エンターテインメントになっていて、わかりやすくて楽しかったけど、それがつまりギリアムらしさが薄れてしまったということなのかなと。口が軽くてナンパな兄をマット・デイモン、真面目な弟をヒース・レジャーが演じているというのも面白かった。これまでのイメージなら逆だものね。あと、ピーター・ストーメアは相変わらず変人を演じさせると上手いですね(笑)。
☆☆★★★


ブラザーフッド
Brotherhood
監督・製作・脚本:カン・ジェギュ
出演:チャン・ドンゴン、ウォンビン、イ・ウンジュ
2003年韓国/148分/配給:UIP
公式サイト http://www.brotherhood-movie.jp/ チラシ 12

 靴磨きをしながら家計を支える家族想いの兄ジンテは、優秀な弟ジンソクの成長を温かく見守っていた。しかし、1950年、突如始まった朝鮮戦争のため、兄弟は強制的に徴兵されてしまう。体が弱いジンソクを想い、なんとか手柄を立ててその報酬として弟を除隊させようと、ジンテは危険な任務に自ら志願していくが、そんな兄の姿にジンソクは戸惑う。そして、次第に兄弟の溝は深まっていき……。
 「シュリ」で現在に至る韓国映画ブームの基礎を築いたカン・ジェギュ監督が、同作以来4年ぶりにメガホンを取った戦争超大作。韓国映画史上最大の製作費をかけ、同時期に公開された「シルミド/SILMIDO」を抜いて韓国映画史上最高の観客動員数を記録した大ヒット作。全体的にやや長いもののこれでもかと言わんばかりに続くド迫力の戦場のシーンは、言わば韓国版『プライベート・ライアン』とも言うべきで、まずはその映像の迫力に驚きました。もはやこの迫力はハリウッドになんら劣らない。そんでもって、ストーリーのほうは、とにかく戦争の悲劇性を訴えるために、感動の涙を誘うラストへ一直線。やや長めに感じた導入部分も、後から考えれば、感動を約束するためには必要最低限だったと思うし、そこで見せ付けられた兄弟仲がやがて南北の戦争によって引き裂かれていくという設定そのものが、すでに感動しないわけがない。また、例によって韓国映画特有の熱さや骨太さも健在。ただ、感動するのが前提のようなつくりなので、正直、素直に感動できなかったという部分もありました。監督の意図としては、「かつてこのような戦争があったということすら知らない若い世代にも、わかりやすいように作った」ということだが、確かにそれには成功してるんじゃないかと。朝鮮戦争があったということと、それによって悲しい人生を送った人々がいたという、そのことを伝えることに腐心しているから、映画は軍事的・政治的な駆け引きをみせるドラマ展開より、徹底して兄弟を中心に据え、戦争によって狂わされていくことの悲劇を描いてる。そして、北と南にわかれていても、元は同じ民族なのに、その両者が罵り合いながら殺し合うさまは、とても哀しくもあり、戦争の愚かさを伝えるには、それを観るだけでも十分でした。


ブラス!
Brassed Off
監督・脚本:マーク・ハーマン
出演:ピート・ポルストウェイト、ユアン・マクレガー、タラ・フィッツジェラルド
1996年イギリス/107分/配給:シネカノン

 炭鉱夫たちで結成されたブラスバンド、グライムソープ・コリアリー・バンドの実話をベースにした物語。政府の炭鉱閉鎖政策によって、閉鎖に追い込まれる炭鉱の町は、職を失い、生活を追われ、悲壮感ばかりが支配していた。炭鉱夫たちで結成された伝統のバンドは、音楽を支えとし、全英大会優勝を目指す。しかし、炭鉱閉鎖の決定で、彼らの絆も崩れていった・・。政府や会社の不条理な決定に逆らえずとも、人々のつながり、友情や愛情、音楽のもつ強さをストレートに教えてくれる作品。音楽を大切に思う人たちの気持ちってのがよかったなぁ。


ブラックホーク・ダウン
Black Hawk Down
監督・製作:リドリー・スコット 製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ジョシュ・ハートネット、ユアン・マクレガー、トム・サイズモア、サム・シェパード、エリック・バナ
2001年アメリカ/145分/配給:東宝東和
公式サイト http://bhd.eigafan.com/ チラシ 1

 ベトナム戦争以後、アメリカ軍にとって最大の市街戦となり、多くの犠牲を出したソマリア内戦を描く戦争映画。1993年、激化するソマリアの内戦にアメリカが軍事介入。敵対するアイディード将軍を捕らえようとするが、3週間の予定も6週間がたち、一向にめどがたたず、ついに強襲作戦を実行することとなる。その作戦は1時間で終了するはずだった。しかし、敵の思わぬ反撃で、戦闘ヘリ“ブラックホーク”が撃墜。そこから事態は悪化し、兵士たちは混沌とした無秩序の市街戦へと突入する。
 “そこにある戦争の真実のみを描いた”と監督が言うだけあって、この映画にはエンターテインメント性はあまりありません。凄惨な戦場の描写がひたすらに繰り返されます。ただ、さすがに完全なドキュメンタリーというわけでもない微妙なさじ加減。真実のみを描いた…とは言っても、やはりアメリカ側の視点で描いたのは事実だし、登場人物がアメリカ側なので、ソマリア側のドラマはまったくありません。米兵が一人死ねば大事だけど、ソマリア兵が次々と撃ち殺されていっても、そちら側のドラマは全くでてきません。ですが、それが通俗的な「アメリカ万歳!」映画というわけでもないのが、この作品の凄いところでしょうか。やっぱり“真実”を売りにしてるだけあって、作り話的なドラマは無いし、2時間を超える上映時間の大半をひたすら戦闘シーンに費やすことで、戦場というものを徹底してリアルに描いていると思います。ジョシュ・ハートネットやユアン・マクレガーというスターが出演していながらも、誰かに、いかにも主人公、という明確なスポットがあたるわけでもなく、登場人物の紹介も最低限。あとは戦場に駆り出された彼らが、ひたすらに戦いつづける様を描くだけです。そこにはあるのは、皆が一人一人の兵士であるに過ぎない…ということです。そういう意味の描写も上手いと思いますし、なによりも市街戦のリアリティ。もう、ここまでくると、本当の戦場を撮影してるとしか思えないくらい。人によっては、この延々と続く銃撃戦が単調に感じられてしまうかもしれませんが、僕はそこが凄いと思い、魅力を感じました。2時間以上あるのに、飽きずに最後まで緊張感を保ち、ひきつけられました。ここまで徹底してこだわった映像を作り出せるのはリドリー・スコットあってのことでしょう。彼の映像センス。それがなくしてこの映画は生まれなかったでしょう。さすがリドリー・スコット…とうならずにはいられませんでしたね。プロデューサーがあのジェリー・ブラッカイマー(「アルマゲドン」「パール・ハーバー」)ですから、ちょっと不安もありましたが、監督リドリー・スコットは伊達じゃなかったようです。
 この映画にあるのは、戦争の悲惨さ。画面からソマリア兵側の気持ちが伝わってこない点は残念ではありますが、先述したようにアメリカ側の視点でみたものとしては、上等の出来でしょう。これを観て、戦争とはこういうものなのだ、ということを学び取れればよいと思います。


BLOOD THE LAST VAMPIRE
Blood the Last Vampire
監督:北久保弘之 キャラクターデザイン:寺田克也 企画協力:押井守
声の出演:工藤夕貴、中村佐恵美、ジョー・ロマーサ
2000年日本/48分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.sonymusic.co.jp/Animation/blood/

 1966年の日本、闇には人を喰っていきる吸血鬼が存在し、主人公である謎めいた少女・小夜(さや)は、そんな鬼たちを密かに葬るのが役目だった。ある日、米軍横田基地に吸血鬼がいると情報をえた組織は、小夜を基地内のアメリカンスクールに潜入させる…。
 「ジャパニメーション」はお家芸・プロダクションI.G製作、北久保弘之監督作品のアクション中編映画。特筆すべきは、全編フルデジタルで制作された劇場アニメーションであるということ。細かい技術的な点をここで言及はしないが、とにかくその描写能力、演出手段がデジタル映像に振り回されず、違和感無くみられること。これからの日本のアニメーションの行き先の先駆になるのではないかと思われる作品でした。たぶん、将来はこういった感じのデジタル制作が当たり前になっていくんでしょうね。同時期のフルアナログ制作の映画「人狼」と比べてみても面白いかも知れません。内容のほうは、監督曰く「痛快B級アクションホラー」ということで、テーマ性うんぬんより、素直にそのまま楽しめばよいというもの。ただ、48分なので短く感じます。もっとボリュームが欲しいと思うのは、それだけ内容が良いということですね。つまんなければもっと見たいとは思わないわけですから。第4回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞作品。


PLANET OF THE APES/猿の惑星
Planet of the Apes
監督:ティム・バートン
出演:マーク・ウォルバーグ、ヘレナ・ボナム=カーター、エステラ・ウォーレン、ティム・ロス
2001年アメリカ/119分/配給:20世紀フォックス
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/planetoftheapes/ チラシ 12

 1968年の衝撃的なSF映画「猿の惑星」を、あの個性派監督ティム・バートンが再映画化。西暦2029年、米国宇宙軍所属のレオは、謎の磁気流を調査中に、その磁気流に飲み込まれてしまう。不時着した星は、言葉や道具を操る猿人が、人間を奴隷として扱う未知の惑星だった…。
 この基本プロットのみを活かして、他は一切オリジナルを目指したという今作。監督曰く、「リメイクではなく“リ・イマジネーション”」だそうだ。色々と語ることもあるけれど、まずは特殊メイクによる猿たちのすごさ。もはや人間が演じているとは思えない。本当にああいう生物がいると思うほどのメイク。元の役者がかろうじてわかるのは、猿と人間が同じ霊長類だからだろう(笑)。オリジナルでは衝撃的な結末が話題だが、こちらも負けじと、ラストにはひねりを与えている。これは、観ていない人のために語るわけにはいくまい。
 ティム・バートンといえば、前作「スリーピー・ホロウ」がこてこてのバートン・ワールドだったわけで、今回のこの作品で、どこまでバートン・ワールドが拝めるのか、ファンとして楽しみなところだが、実はその点はあまり…。しかし、観ている間は、バートンということを忘れ、一SF映画として、とても楽しめました。それにしても、これだけの世界観を作り、パワフルに仕上げるこだわりは彼の手腕だと思いたい。役者たちの猿の演技(とくにティム・ロスの)も凄いし、話の展開もスピーディで退屈しない。猿と人間を逆転させて、人間の危険性を示唆するシーンも少しはあったりするけど、基本的に一級のエンターテインメント作品として申し分ないと思う。
 僕はオリジナルを観ていないので、とても楽しめたけど、オリジナルを知っている人にとっては、どのように写ったのか? 興味は尽きない作品です。


ブリジット
Bridget
監督・脚本:アモス・コレック
出演:アンナ・トムソン、ラス・ルッソ、デビッド・ワイク、ランス・レディック
2002年フランス+日本/90分/配給:ワイズポリシー
公式サイト http://www.wisepolicy.com/bridget/ チラシ 1

 最愛の夫を昔の男に殺され、失意のうちに酒浸りの日々を送るブリジットは、やがて母親失格の烙印を押され、ひとり息子のクラレンスも里子に出されてしまう。「いつか息子と一緒に暮らす」という願いを唯一の夢に、そのためにはどんなことでもしようと決意したブリジットは……。
 『ファーストフード・ファーストウーマン』のアモス・コレック監督とアンナ・トムソン主演で送るドラマ。2002年ベルリン映画祭コンペティション部門正式出品。ひとつの事件がきっかけとなり、次々と転落していくブリジットの人生は不幸極まりないのだけれど、それでもなんでも「息子のため」と危ない橋も渡ろうとするブリジットに、母の愛の強さを見る。極限に陥ったとしても、人はそうであれば生きようとすることができると。ただ、そうしたなかで最初はお金を得るために始めた結婚生活から、彼女が新たな幸せを見出していくことが救いであった。


ブリジット・ジョーンズの日記
Bridget Jones's Diary
監督:シャロン・マグガイア 原作:ヘレン・フィールディング
出演:レニー・ゼルウィガー、コリン・ファース、ヒュー・グラント
2001年アメリカ+イギリス/97分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/bridgetjones/

 イギリスで大人気の同名小説を映画化。出版社に勤める32歳で独身のブリジットは、恋人もいなくて、体重は61Kg。タバコもお酒も大好きな彼女は、新年を迎えて日記をつけるとともに、今年こそは「体重を減らしてタバコもお酒もやめて、恋人をつくる!」と決心する。恋に仕事に悪戦苦闘しながらも、ポジティブに生きる等身大の女性を描いて、同世代の女性の共感を呼んだという。
 僕自身は、男で、まだ学生ですので、ブリジットと境遇は似てませんので・・。ただ、そうでなくても、この映画は楽しめます。笑えるシーンがいっぱいあって、楽しいんです。登場人物のキャラクターが、誰も彼もいいですしね。それが演じている役者ともマッチしてるし。こういうところは映画にとって重要な要素でしょう。楽しく笑えるけど、じんわり温かい。そんな作品です。恋人がいない人。いたけどふられた人。恋じゃなくても何かにくじけてる人。そんな人は、これを見ると前向きに気持ちが軽くなるんじゃないかな。なんかよくわかんないけど、自分もちょっとがんばってみようかな・・・なんて気持ちになるかもしれません。僕も実はそうかもしれない。


プルーフ・オブ・マイ・ライフ
Proof
監督:ジョン・マッデン 原作・脚本:デビッド・オーバーン 脚本:レベッカ・ミラー
撮影:アルウィン・H・カックラー 音楽:スティーブン・ウォーベック
出演:グウィネス・パルトロウ、アンソニー・ホプキンス、ジェイク・ギレンホール、ホープ・デイビス
2005年アメリカ/103分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.proofofmylife.jp/

 天才的な数学者ロバートの次女で、自身も父譲りの数学の才能をもつキャサリン。晩年の父は精神を病み続け、その父も1週間前に他界し、悲嘆にくれるキャサリンのもとにロバートの教え子ハルがやってくる。2人は恋仲になり、ある日ハルはロバートが残したノートの中に画期的な数学の証明を発見する。しかし……。
 ピュリッツァー賞受賞の舞台劇を『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン監督&グウィネス・パルトロウ主演コンビで映画化。なるほど舞台劇の映画化ということで、登場人物も舞台も限られているけど、現在と過去を頻繁に行き来しながら次第に核心に迫っていく様子は映画的に上手に解釈しんたんだろう(もともとそうなのかもしれないけど……)。結局のところ、登場人物たちが騒いでいる“証明”がどれだけスゴイことなのかがわからないので(具体的に明確にされないので)、いまいちパッとしないのは否めないけれど、役者の演技には光るものがあり。特にグウィネスは失礼ながらもともとゴージャスとはいえない顔立ちだけど、逆に常に不安げな顔で情緒不安定で何かにおびえるキャサリンを熱もこもりすぎずに自然体で表現。なんだかんだといって、この人やっぱりなかなかな役者だなぁー……と思わされました。しかし、グウィネスとジェイク・ギレンホールが同年代の恋人という設定はさすがにちょっと……。劇中でグウィネスは27歳、ジェイクは26歳の役だけど、実際は33歳と25歳ですから……どうしても年の差カップルにしか見えません(笑)。
☆☆★★★


blue
Blue
監督:安藤尋 原作:魚喃キリコ
出演:市川実日子、小西真奈美、今宿麻美
2001年日本/116分/配給:ミコット、スローラーナー
公式サイト http://www.blue-movie.jp/ チラシ 1

 海辺の町にある女子高へ通う桐島カヤ子は3年生に進級したが、特に目指す進路も見つからないまま。そんなカヤ子は、最近、同じクラスの遠藤が気になっていた。2年生の時に停学処分になっていた遠藤は、3年にはなったものの、クラスの中でどこか孤立し、浮いた存在だった。謎めいた遠藤が気になるカヤ子は、ある時、彼女を一緒に昼食に誘う。それから2人は友情を育むのだが・・・。
 魚喃キリコの同名人気コミックを映画化。自分は漫画のほうは知らないのですが、とても繊細で綺麗で切なくて懐かしくて・・・そんな感情がいっぱい詰まった映画になっていました。ひたすら抑制されたトーンの中に、思春期の複雑な心情を閉じ込めて。主人公のカヤ子は極端に口数が少ないけれど、そういうのってつまり、自分がどうしていいのか? どうしたいのか? ということを、言葉にできないからだと思います。誰しも、10代のころに抱えるもやもやとした漠然とした不安や不満。それがなんなのかよくわからなくて、言いたくても言葉にできない。そんなことってありますよね。この映画では、それが顕著で、さらに田舎の町を舞台にしていて、授業中の教室、夏休みの誰もいない校舎、田んぼの中をまっすぐに進む道路、そこを走るバス、水平線を果てしなく臨む砂浜、学校の裏の森・・・・・・そんな懐かしくて、美しい風景がいっぱいだから、感慨深さもひとしお。郷愁・・・とは違うけれど、静かで誰もいない風景は、美しくありながらもどこか寂しげ。かなり眠くなってしまいそうな映画ですが、個人的には大好き。最初は何もないと思っていたカヤ子が、大人の世界を知っている遠藤に惹かれていき、でも実はカヤ子のほうが遠藤を越えていってしまう。そんな、実は自分というものをしっかりともっている部分のあるカヤ子を演じる市川実日子もぴったりだし、ふわふわとして謎めいていて、最初はリードする立場かと思いきや、実は終始、受身だった遠藤を演じる小西真奈美も、その風貌からして不思議系少女に適役だと思いますし、いろんな面でとても印象的な一本でした。


フル・モンティ
The Full Monty
監督:ピーター・カッタオネ 脚本:サイモン・ボーフォイ
出演:ロバート・カーライル、マーク・アディ、スティーブ・ヒューイソン、トム・ウィルキンソン、ポール・バーバー、ヒューゴ・スピアー
1997年イギリス/93分/配給:20世紀フォックス

 鋼鉄産業で栄えたシェフィールドの街だが、現在は多くの工場が寂れ、失業者が溢れていた。ガズもその一人で、息子の養育費が払えず、離婚した妻との共同親権も危うい始末。そんな時、街にある男性ストリップ劇場が、女性客でにぎわっていることを知ったガズは、仲間を集め、自分たちもストリップで稼ごうと思い立つ・・・。
 観た後にスカッとする感じの映画です。それはやはり、あの終わり方によるところが多いと思いますが、それは観てのお楽しみ。質の良いコメディとして有名だが、それもそのはず、単に笑わせようとするのではなく、人間ドラマも盛り込まれていて、むしろそちらのほうこそがメインなんじゃないかと思うほど。僕が好きなのは、ガズと息子ネイソンの関係。いかにも男同士の友情といった感じの演出なのだが、それはそれで、とても好感のもてるものでした。男の裸なんて、男の僕はあまり観たくないですが、最後のストリップシーンは、思わず気分も乗ってしまいます(笑)。主演のロバート・カーライルは、その顔からして、少し情けなさを含んだ役がとてもしっくりきますね。それでいて、芯のある男という雰囲気も漂わせる、良い役者さんです。


ブレードランナー
Blade Runner
監督:リドリー・スコット 原作:フィリップ・K・ディック デザイン:シド・ミード
出演:ハリソン・フォード、ショーン・ヤング、ルドガー・ハウアー
1982年アメリカ/116分/配給:ワーナー・ブラザーズ映画

 SF映画で語り継がれる名作。精密な検査をしなければわからないほどに巧妙につくらた人造人間レプリカント。彼らは惑星開拓などの危険な仕事に従事させられるために産み出され、地球で使用することは許されていない。主人公デッカードは、そんな不法レプリカントを抹殺する屈指の"ブレードランナー"。地球に逃げ込んだ4人のレプリカント抹殺指令を受けたデッカードは、捜査中、レプリカント製造の巨大企業タイレル社を訪れ、神秘的な女性レイチェルと出会うが…。
 工業デザイナーとしても著名なシド・ミードのデザインによって生まれた、綿密に作られた酸性雨の降り注ぐ雑多で荒廃した未来都市や、スコット監督の重厚な映像美と、全体的なディテールに徹底的にこだわる姿勢などは、後のSF映画などに多大な影響を与えた。ハードボイルド風で、派手なアクションがないにも関わらず、観るものを引き込む。当時あまりに斬新だったため、一部の人々にしか理解されなかったという。映画公開時は、監督の意に反して、結末を変えたりモノローグを挿入したりといった手直しがされた。そして、10年後の1992年に監督自身が新たに編集しなおし、納得のいくかたちでだされたのが、ディレクターズカット版(最終版)である。これと劇場公開版のどちらかが良いかは、賛否の割れるところがあるようではある。僕が見たのは、このディレクターズカット版ですが、非常にこちらが好きです。


ブレス・ザ・チャイルド
Bless the Child
監督:チャック・ラッセル
出演:キム・ベイシンガー、ホリストン・コールマン、クリスティーナ・リッチ、ジミー・スミッツ、ルーファス・シーウェル
2000年アメリカ/107分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.b-t-c.jp/

 精神科の病院で看護婦として働くマギー。ある日、彼女のもとに音沙汰のなかった妹ジェナが生まれたばかりの赤ちゃんを連れて現われた。しかし、ドラッグで倒錯したジェナは父親が誰かもわからぬままコーディと名付けたその子を置いて消えてしまった。それから6年がたち、マギーは実の子のようにコーディを育てていたが、彼女にはどこか普通の子と違うところがあった。そして、折りしもニューヨーク市内で起こっていた6歳児ばかりを狙った連続誘拐殺人事件に彼女たちも巻き込まれていくのだが、その事件の裏には恐ろしい悪魔崇拝教団の姿があった…。
 アメリカなどキリスト教圏の国では、こういったオカルトスリラーはそれなりに説得力があるのかもしれないけど、いかんせん日本だと、その意味するところが理解されないんじゃないかなぁ、というのがあるんですが…。悪魔崇拝の教団は、アメリカで深刻な社会問題となりつつあるらしいのですが、日本にはあまりそういったものはないですからね(カルト教団…もとい“狂団”は存在しますけどね)。でも、まぁこの作品の場合、その教団に立ち向かうマギーの動機が純粋な娘(実子じゃないけど)に対する愛情であって、その実の母子ではない二人の絆がなかなかよかったです。単にオカルト的なものを求めるだけじゃなくて、そのへんには説得力があったかな。あとはクライマックスとなるべくシーンをもっと盛り上げてほしかったなぁ・・と思う。意外とあっさりというか簡単に終わってしまって。物語の鍵となる少女コーディを演じるホリストン・コールマンはとても演技が上手で良かったです。あとは個人的にお目当てだったクリスティーナ・リッチの出番が少なかったのが残念…。でも彼女はやっぱり存在感ありますね。


プレッジ
The Pledge
監督・製作:ショーン・ペン
出演:ジャック・ニコルソン、ロビン・ライト=ペン、ベニチオ・デル・トロ
2001年アメリカ/123分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/pledge/ チラシ 1

 その日、定年退職を迎えた刑事ジェリー。同僚たちが開いてくれた引退パーティーのさなか、少女の強姦殺人事件の報が届く。引退まであと6時間となった夜、ジェリーは最後の仕事として、少女の両親に訃報を届けにいくことを引き受けた。しかし、少女の母親と犯人を必ず捕まえるという“約束(プレッジ)”をする。事件直後に犯人として一人の男が捕らえられるが、ジェリーは犯人は別にいると感じる。そして彼は、“約束”を果たすために引退後も、一人、捜査を続けていくのだが、その“約束”が彼の運命を変えていく・・・。
 俳優ショーン・ペンの監督第3作。ジャック・ニコルソン演じる老刑事が、少女殺しの犯人を探してくわけだけども、ありきたりなサスペンスものというわけでもないように思いました。それよりも、主人公が独りであることの存在感・・・すなわち孤独感が、このうえなく表れていて切ないです。犯人探しをするのが目的ですが、単なる刑事物のドラマではなく、一方で新しい生活を築き始めている主人公がいることで、観ているこちらとしては、その生活が続けばいいと思うわけです。が、やはり彼には過去の“約束”があるわけで、結局それから逃れることはできないわけで。「そして、約束だけが残った」というキャッチコピーは、なかなか感慨深いです。重厚で骨太な演出に引き込まれて、主人公の孤独感に打ちのめされる。そんな映画でした。ショーン・ペンは俳優としてもすごいですが、監督としても才能がじゅうぶんにあることがわかる作品だと思います。俳優としてのショーン・ペンは知ってるけど、監督としては知らない・・・という人にもお薦め。彼のすごさがわかるかも。個人的にはすごい好きです。デル・トロを始め、サム・シェパード、ハリー・ディーン・スタントン、ミッキー・ローク、ヴァネッサ・レッドグレーヴなどなど、かなり渋いけど名優な人々が、ちょい役でいっぱい出てるのも特徴的。


ブロウ
Blow
監督・製作:テッド・デミ
出演:ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、レイ・リオッタ
2001年アメリカ/124分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.blow-jp.com/

 70年代のアメリカ。コロンビアからコカインを密輸する“トラフィッカー”の話で、実話に基づいて作られている。ジョージは、会社が倒産した父と、それに不平を抱く母のもとで育つ。理解ある父には、どこか尊敬の念を抱きながらも、自分は違う生き方をしようと固く心に決め、家をでた。やがて麻薬に手を染めてゆき、莫大な富を得るが、幾度かの刑務所も経験する人生。マーサと結婚し、娘を得た彼は、更正して娘のために生きていこうと誓うのだが・・・。
 主人公ジョージ・ヤングは、現実に2015年まで服役中であるそうで、70年代〜80年代のアメリカ、特に西海岸に行き渡った麻薬の8割は彼の手によるものだという。そんなドラッグ映画であり、当然麻薬のやり取りなどが前面にでてはいるが、テーマとして描いているものは、父と息子の絆であったり、娘への父としての愛であったりする。その辺りは、映画らしくするための感動的な挿話であるかもしれないが。 しかし、その肝心のテーマを描いている部分が少なく、間が長く感じた。編集がなかなか手際が良いような感じで、話の繋ぎはいいのだが、それでも長いと感じるということは、ちょっと詰め込みすぎなのではないだろうか。2時間程度に詰めるのに苦労したという印象。でも3時間レベルの映画にするにしては冗長になってしまうし、ストーリー構築での脚本の迷いのようなものを感じたような気がしました。
 それにしても、この映画の女性はちょっと嫌な女に見えるんですよね・・。ジョージの母にしても、妻であるマーサも・・。父と息子の絆など、男の良さが見え隠れした映画で、あまり良い女性というのが登場しなかった・・。ペネロペ・クルスも、こんな役柄でいいんかなぁ・・と思ったり。監督のテッド・デミはジョナサン・デミ(羊たちの沈黙)の甥。


プロデューサーズ
The Producers
監督:スーザン・ストローマン 脚本:メル・ブルックス、トーマス・ミーハン
撮影:ジョン・ベイリー、チャールズ・ミンスキー 音楽:メル・ブルックス、パトリック・ブレイディ
出演:ネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック、ユマ・サーマン、ウィル・フェレル、ゲイリー・ビーチ、ロジャー・バート
公式サイト http://www.sonypictures.jp/movies/theproducers/

 1959年、ニューヨーク。最近は鳴かず飛ばずの日々を送っていたプロデューサーのマックス。ある日、会計士レオが彼の帳簿の整理をしていると「舞台が失敗したほうがプロデューサーは儲かる場合もある」という法則を発見。それを聞いたマックスは、史上最悪の大コケ確実ミュージカルを作り、出資金を丸ごといただこうと画策するが……。
 メル・ブルックス監督による68年のオリジナルを舞台化し、トニー賞12部門を受賞したミュージカル劇を再映画化。セットや美術、場面転換も、おそらく舞台版をそのまんま忠実に映画にしたんだろうな……と思わせる作りで、俳優も舞台版と同じらしい。映画オリジナルな部分といえば、ユマ・サーマン(見事な歌声)とウィル・フェレル(この人は出てくるだけで笑える)の配役くらい? 元が元だけに若干古臭い印象もあり、現代の映画ならではの部分があまり感じられなかったのは残念といえば残念だが、ミュージカルとしてはオーソドックスで安心して観られるか。ミュージカル好き、オリジナルが好きな人には安心して観られるでしょう。基本的にミュージカルといえば、歌と踊りの迫力だけでも十分楽しめるのが魅力だと思っているので、その点では問題なし。クセのある脇役キャラやブラックユーモアたっぷりなナチス賞賛劇も笑える。
☆☆★★★


プロフェシー
The Mothman Prophecies
監督:マーク・ぺリントン
出演:リチャード・ギア、ローラ・リネイ、ウィル・パットン
2002年アメリカ/119分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.prophecy-movie.jp/ チラシ 1


 ワシントン・ポスト紙のエリート記者、ジョン・クラインは新居を購入したクリスマスの夜、妻の運転する車で突然、原因不明の事故に遭う。運転していた妻のメアリーは頭部に傷を追い、ジョンの介護もむなしくこの世を去る。メアリーは、死ぬ直前「あなた、あれを見たのね?」という不可解な言葉と、不気味な絵が描かれたスケッチを残していった。それから2年後、仕事でリッチモンドへ向かうジョンは、気がつくと目的地からは途方もなく離れた田舎街に迷い込んでいたのだった。そして、その街では不思議な事件が相次いでおり、メアリーの残したスケッチに共通するものがあることを知って驚愕するジョンだが…。
 この映画の原題は「The Mothman Prophecies」。“Mothman”…すなわち“蛾男”。人間と蛾を合わせた体をもち、予知能力を持つされる伝説の“Mothman(蛾男)”にまつわる実話を基にした物語(ちなみにprophecyは予言という意味です)。アメリカでは、各地でこのMothmanの伝説があるといいます。大きな災害の起こる前兆として、多くの人が彼の声を聞くといいますが…。この映画でも、その正体不明なMothmanに翻弄される主人公が描かれているわけですが。ジャンルとしては、サスペンス+ナチュラル・スリラーといった感じで、結構ドキドキします。この手のものとしては、なかなかな出来だと思いますが、結局、主人公がなぜあのような状況に陥ったかということはよくわかりませんでした。ただ、こういう伝説がある、ということを映画にしたということであれば、面白いのではないかと。姿なきMothmanは、姿が見えないからこそ不気味さが増していい感じでした。ラストで起こるある出来事も、見ごたえあるんですが、終わってみると、それだけかあ…って気もしなくはないんですけど。


PROMISE
Promise
監督・製作・脚本:チェン・カイコー 撮影:ピーター・パウ 音楽:クラウス・バデルト
出演:真田広之、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、ニコラス・ツェー、リィウ・イエ、チェン・ホン
2005年中国+韓国+日本/124分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.promise-movie.jp/

 戦乱で孤児となった少女・傾城は、運命の女神に出会い、“全ての男からの寵愛と何不自由ない生活を与えるが、その代価として真実の愛は一生得られない”という約束をする。やがて王妃の座につき、不自由のない生活を送っていた傾城に、無敵の大将軍・光明、その奴隷でこの世で一番の俊足を持つ奴隷・昆崙、非情な侯爵・無歓という3人の男の運命が交錯する。
 『さらば、我が愛〜覇王別姫』『始皇帝暗殺』のチェン・カイコーが、真田広之、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、ニコラス・ツェーという日・中・韓のスターを迎えて描くファンタジー・アクション。個人的にはチャン・イーモウの『HERO』『LOVERS』的なものを想像していったら、のっけからチャン・ドンゴンのアラレちゃんもびっくりな四つ足走法(?)で、ある意味ド肝を抜かれ、あんぐり。『HERO』『LOVERS』でもワイヤーアクションはあったが、あくまで流麗といった感じだったが、こっちはワイヤーアクションはまだいいとして、多用されているCGがいかんせんしょぼくて、なんかゲームのCG映像をただ見させられているだけのような……。ストーリーもあるにはあるが、世界に現実感がまったくないため、なにやらのめりこめず。“運命”というものに翻弄される人物たちを描いた寓話であることはわかるが、ずっと上滑りしているようで、なんだかなぁ……という2時間でした。チェン・カイコー、チャン・イーモウには敵わずってところか? 真田広之もチャン・ドンゴンも全部中国語でがんばっていたと思うので、彼らはいいんだが。
☆☆☆★★


フロム・ヘル
From Hell
監督・製作総指揮:アレン・ヒューズ、アルバート・ヒューズ
出演:ジョニー・デップ、ヘザー・グラハム、イアン・ホルム、ルビー・コルトレーン
2001年アメリカ/121分/配給:20世紀フォックス
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/fromhell/ チラシ 1

 1888年、ロンドン。娼婦メアリは5人の仲間とともに貧しい生活を送っていた。そんなある時、彼女の仲間の一人が、喉元を切り裂かれた無残な死体となって発見された。そして立て続けにもう一人…。ロンドンを恐怖に陥れた“切り裂きジャック”。その犯行の始まりであった。かつて妻子を亡くしたショックからアヘン窟に入り浸るようになっていたアバーライン警部は、時折、幻覚によって事件を垣間見ることができ、今回の事件を重くみた警察は、彼に切り裂きジャックの捜査にあたらせるが…。
 19世紀ロンドンで実在した猟奇的殺人者“切り裂きジャック”。5人の娼婦を殺した犯人の正体は未だ謎だが、この映画はイギリスで人気のグラフィック・ノベルを原作としており、独自の解釈で物語が展開される。19世紀ロンドンの街並みや人々の衣裳など、さらにそれらが暗く、荒廃した感じで細部までよく表現されていて、映画の雰囲気をより一層ひきたてていると思います。心理的な怖さもさることながら、そういった見た目でも忠実に再現しているところがよかったです(そのぶん死体なんかもかなりエグいですけど)。あとは個人的にキャストが好きなもんですから、そこも良かったところです。主人公が幻覚をみることができるという設定は、史劇でありながもちょっとSFっぽくていいんじゃないかと(その設定があまり重要だったようには思えないのですが。まぁ多用されすぎてもうっとおしいでしょうから、あれくらいでいいんでしょう)。ただストーリーとしては、ちょいと物足りなくもあります。結構、簡単に犯人がわかってしまうから。英国王室や秘密結社フリーメイスンを関わらせてはいるけど、それらがそんなにうまく機能してなかったようにも思いました。“エレファントマン”ことジョン・メリックも登場するのですが(デビッド・リンチ監督の「エレファントマン」でおなじみ)、そのへんも、知らないとわかんないですよね…僕もよくわかってません。まぁ、それだけ史実に忠実であるということでしょう。そういう歴史的な諸説や伝聞などを盛り込んでいて、そのあたりに詳しい人にはうなずける作品なのかもしれませんが、そこまでわからなくても、単純にダーク・スリラーとしてみて楽しめると思います。雰囲気などを楽しむだけでもね。僕はそれで十分、楽しめました。ちなみにR-15でそれなりにエグい表現も多いんで、そういうのが苦手な人にはお薦めできません。監督のアレン&アルバートは双子の兄弟。