帰郷
Going Home
監督・脚本:萩生田宏治 脚本・製作:利重剛
西島秀俊、片岡礼子、守山玲愛、光石研、相築あきこ、高橋長英、吉行和子
2004年日本/82分/配給:ビターズ・エンド
公式サイト http://www.bitters.co.jp/kikyou/ チラシ 1

 東京に暮らす独身男の晴男は、再婚する母親の結婚式のために帰郷し、そこでかつての恋人・深雪と再会する。深雪は既に7歳の娘チハルがいたが、半年前に離婚して故郷に戻ってきたのだという。「チハルに会わせたいから家に来て」と誘われた晴男は、翌日、深雪の家を訪問するが、そこにいたのはチハルひとり。深雪の帰りを2人で待つうちに、晴男とチハルの間には次第に父娘のような絆が生まれていく。
 のんびりとした田舎町を舞台に、どこか大人になりきれない男・晴男が、少女とのささやかな一日を通して、父性に目覚めていく。頼りないけれど、大切にしたい、守りたいという思いが伝わってくる優しさに溢れた一作。だだをこねるチハル相手に辛抱できずに怒ってしまったり、ちょっと姿が見えなくなったところで、異常に舞い上がってしまったりという細かいエピソードに、“親”として不慣れな晴男の一面がよく描かれている。海岸で晴男とチハルの2人がポツンといるところは、風景は寂れているのに、何か温かいものがあってよかったですね。そもそも主演は西島秀俊を想定して当て書きされた役だそうで、いつも肩に力が入っていない演技で、自然体が特徴的な彼によくあっていたと思う。
☆☆★★★


岸辺のふたり
Father and Daugther
監督・脚本:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット 音楽:ノルマン・ロジェ、ドゥニ・シャルラン
2000年イギリス+オランダ/8分/配給:クレスト・インターナショナル
公式サイト http://www.crest-inter.co.jp/kishibe/ チラシ 1

 幼い娘を置いて岸辺からボートに乗ってどこかへ行った父。娘は少女となり、女性となり、母へとなるが、いつまでもあの岸辺で父を待っていた……。
 たった8分の中で台詞もなく、絵と音楽だけで繰り広げられるドラマだが、これほど胸を締め付ける8分間もないだろう。どこかはかない情景の中で語られる深く、イノセントな親子の愛――。なにかを語ろうにも何しろ8分のドラマなので、機会があれば是非見ていただきたい。2000年アカデミー賞短編アニメーション部門を受賞したほか、各国の映画祭で絶賛された傑作。


キス・オブ・ザ・ドラゴン
Kiss of the Dragon
監督:クリス・ナオン 製作・脚本:リュック・ベッソン 原案・製作:ジェット・リー
出演:ジェット・リー、ブリジット・フォンダ、チェッキー・カリョ
2001年フランス+アメリカ/98分/配給:K2、日本ビクター
公式サイト http://www.besson-jp.com/kod/ チラシ 1

 中国警察の捜査官リュウは、フランス・中国間で麻薬取引を行っている麻薬王ソングを逮捕するため、パリに赴く。現地の捜査官リチャードと組んで捜査にあたるが、リチャードは裏で麻薬取引を独占しようとソングを殺害し、その罪をリュウに着せる。その策略から逃亡するリュウは、娼婦のジェシカと出会う。彼女は、リチャードに娘を人質にとられ、やむなく娼婦として働いていたのだった…。
 ストーリー自体はシンプルだが、もちろん、この映画の見どころはジェット・リーのアクションであり、ストーリーは正直それほど重要でもないでしょう。ワイヤーやCGを極力排して、生身のアクションにこだわった本作は、“武道家”ジェット・リーの本領が発揮され、パリのいたるところで繰り広げられる華麗なアクションに魅せられます。また、弱きを助け強き悪にのみその拳を振るうという哲学も貫かれ、強いけど優しく、そして不器用な男として、ジェット・リーはいい味を出していたと思います。敵役であるチェッキー・カリョの悪役っぷりもすごいし、ブリジット・フォンダも適役だと思いました。主演のジェット・リーは当然のことながら、キャストのために映画がある……という感じも受けますが、これはジェット・リーでなければ生み出せなかった映画です。だからこれで良いと思います。ジェット・リーの前作「ロミオ・マスト・ダイ」が個人的にダメダメだっただけに、この映画ではやっとこさジェット・リーの真価が発揮されているような感じで、思った以上に満足のいくものでした。


奇跡の海
Breaking the Waves
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー 出演:エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスゲールド
1996年デンマーク/158分/配給:ユーロスペース

 トリアー監督がカンヌ映画祭で特別賞を受賞した作品。おなじみのドキュメンタリータッチの撮影法で、無償の愛のドラマを静かに激しく描く。のちの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に通じるものがあるが(というか、本作と「イディオッツ」「ダンサー〜」で“無償の愛の三部作”とか言うんでしたっけ)、こちらのほうが、宗教的な神の存在などを意識しているような作品ですね。また、役者の演技が演技と思えぬほどに、そこにその人物がいるかのように感じさせるところも、このトリアー監督作品らしい。章仕立てにされた演出も面白い。すべてが素晴らしくできているけど、ラストシーンがいまいち腑に落ちないところがあって、それだけが唯一残念なところ。ただ、あのラストシーンなどをふまえて、全体を振り返ってみれば、あぁこれはひょっとしてファンタジーな要素も入っているのかな、なんて思えなくもない作品ですね。そう考えれば、あのラストにも納得はいきます。


ギター弾きの恋
Sweet and Lowdown
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマン、ウディ・アレン、グレッチェン・モル
1999年アメリカ/95分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ

 1930年代のシカゴ。ジャンゴ・ラインハルトを除けば世界一と自他ともに認められる天才的なジプシージャズのギタリスト、エメット・レイは、自由を気取って奔放な生活を送っていた。しかし、ある時、口のきけない娘ハッティと出会い、同棲することになるが……。
 ショーン・ペンとサマンサ・モートンがアカデミー賞にノミネートされたウッディ・アレン監督の恋物語。失って初めて気がつく大切さ……といおうか、負けず嫌いでプライドが高いために自分に素直になれない人間は、本当に大切なものを見失ってしまうということか。素直になることが大切ね。ラストは切なく、胸にくる。全編に流れるジプシージャズも素敵。


キッド
The Kid
監督・製作:ジョン・タートルトーブ 出演:ブルース・ウィリス、スペンサー・ブレスリン、エミリー・モーティナー
2000年アメリカ/104分/配給:ブエナ・ビスタ


 もうじき40歳になるラスは独身だが、著名人のイメージ・アップの助言をするイメージコンサルタントとして名をはせていた。仕事は順調で、裕福な生活を送る彼だが、ある日、自宅に一人の男の子が現れる。その子供は、なんと8歳のラスだった。困惑しながらも共に暮らすうち、ラスは子供の頃の夢を何も叶えていないことを思い出す。
 いかにもディズニー・・・という感じのBGMがやたらと耳に残っています。内容もやはりディズニーなだけあって、夢の大切さ、夢を叶えようとする努力の大切をテーマにした、心温まる現代のファンタジー。


機動警察パトレイバー劇場版
Mobile Police Patlabor
監督:押井守 脚本:伊藤和典
声の出演:冨永みーな、古川登志夫、大林隆之介、榊原良子
1989年日本/98分/配給:松竹


 東京の新都市計画バビロン・プロジェクトで、作業用レイバーが密集する東京。そこで謎のレイバー暴走事件が多発する。特車二課の篠原遊馬は、自分の父が経営する篠原重工が開発し、レイバーに搭載された最新OS「HOS」が怪しいと睨むが…。ゆうきまさみ原作コミックの同名人気TVアニメの映画化。
 OSなんていうコンピュータ用語は今となっては一般のものだが、当時にしてみればよくわかんないけど、コンピュータ系の専門用語…と思ってた。そして、そのコンピュータの暴発を利用した犯罪を描くという点で、非常に先進的というか、押井監督らしい。


機動警察パトレイバー2 the Movie
Patlabor 2: The Movie
監督:押井守 脚本:伊藤和典
声の出演:大林隆之介、榊原良子、竹中直人、冨永みーな、古川登志夫、根津甚八
1993年日本/113分/配給:松竹


 「パトレイバー」劇場版第2弾。現実に感じている平和とは…、現代はもはや見えないところで戦争をしているんじゃないか…そんな人間社会の弱さのようなものを捉えようとした作品で、そういう割と重いテーマを語る。が、その感覚がなんとも心地よく、引き込まれます。SFメカアニメだから…と思ってみるけど、そういうアニメファンが期待するような、レイバーの戦闘シーンなどが実はほとんどない。さんざんひっぱってクライマックスでやっとレイバー出動と思ったら、見せ場はそんなにない。しかし、この映画はあえてそうしたメカアニメ的なものを排して、キャラクターに語らせる映画。動きを抑えた演出と、深みと落ち着きのある台詞の応酬で物語は進むのですが、全然だるく感じない。逆にどんどん引き込まれていくのは優秀な脚本があってこそでしょう。さらに、93年当時にして驚異的な作画レベル。ここ3、4年の劇場アニメを見ていれば、もうこれくらいは当たり前になってるけど、本当にこの映画が発表された時は、そのクオリティの高さに驚いたものです。そうした作画的な質もあいまって、作品そのものの質も極めて高い。大人のためのエンターテインメント。今回の主役は間違いなく、後藤隊長。で、その隊長役の大林隆之介とゲストキャラで出演している竹中直人の二人。この大人の男たちの声と演技が深みがあっていいんですよ。
 前作があくまで“パトレイバー”の劇場版であったのに対して、こちらは“押井守”の映画という感じがひしひしと伝わってきます。前作と雰囲気が違う…というよりも、前作よりもさらに監督の色を突出させたら、こんな風になった、というところではないでしょうか。


WXIII機動警察パトレイバー
WXIII Patlabor the Movie 3
総監督:高山文彦 監督:遠藤卓司 脚本:とり・みき
声の出演:綿引勝彦、平田広明、田中敦子、大林隆之介
2002年日本/100分/配給:松竹
公式サイト http://www.bandaivisual.co.jp/patlabor/ チラシ 1


 前作から9年ぶりのパトレイバー劇場第3弾。前2作のスタッフから離れ、総監督に高山文彦、脚本には漫画家兼小説家のとり・みき。原作はゆうきまさみのコミック「廃棄物13号」。昭和75年、東京。バビロンプロジェクトにより開発が進む東京湾岸一帯で、作業用ロボット“レイバー”ばかりが襲われる事件が発生していた。被害は既に4件。被害に遭った作業員の遺体は見る影もない。一向に正体のつかめない事件を担当する、警視庁城東署の刑事、秦と久住は、地道に捜査を続けるしかない。そんな時、秦は大学で講師を勤める岬という女性と知り合い、彼女に惹かれるが…。
 今回は特車二課の面々が完全に脇役に回って、主役は二人の刑事。しかも、謎の“怪物事件”ときたもんだから、ある意味、パトレイバーらしくないです。だけど、従来の世界観を壊してしまっているかといえば、そういうわけでもありません。怪物vsロボットなんて、下手すると笑いものになってしまいかねないものを、シリアスに作り上げたというところは凄いと思います(TVシリーズではやってましたが、あの頃はシリアス路線じゃなかった)。その代わりといってはなんですが、脚本がなんとなく平坦気味で、盛り上がりにいまいち欠けた気もします。怪物とレイバーの対決シーンなんて、もっとカタルシスがあってもいいようなものですが。それは先述したように、パトレイバーという世界観を壊さず、リアリティを追及した結果、全体的に抑えた演出になってしまった故だと思います。まぁ、それにしても僕はそのクライマックスたる怪物vsレイバーのシーンは結構好きです(だからもっとカタルシスが欲しい、とも思うのですが)。ドラマ部分でメインになっているのは秦と岬の関係のようですし、岬の過去とそこからくる現在の感情もまた、重要な部分なんですが、そのへんももっと濃密にしてくれてもよかったかなと。秦と久住の関係にしても、なんとなく微妙。そういう意味で全体的にやっぱり印象が弱く感じましたが。そして、やっぱり特車二課の出番が少なすぎるのが残念なような…。今回は最初からそれを期待してはいけないんでしょうが、ファンとしてはどうしても気にしてしまいますね。まぁ、そういう点を差し引いても、やっぱりこの手のアニメーションは面白い、と個人的に贔屓があるので。風景の細かい部分まで(建物とか、広告とか、しかもそれらが意図的に懐かしいものとして描かれてる)気を配って描き込んでいるところとかも好きですし、そう思ってみると、静かで日本映画的な匂いもする作品だなと思います。
 なお、本作と同時上映の短編アニメ「ミニパト」(押井守脚本)は、世界初の作画技法を用いながらもチープな作風で、かつパトレイバー本編からのセルフパロディが楽しい、類まれなる秀作で傑作。パトレイバーファンは必見! 全3話ながらも、上映されるのはそのうちの1話のみ(日によって異なる)というのはずるい。ビデオを待つしかないですね…。


機動戦士Zガンダム 星を継ぐ者
Mobile Suit Z Gundam: A New Translation - Heirs to the Star
監督・原作・脚本:富野由悠季 音楽:三枝成彰
声の出演:池田秀一、飛田展男、古谷徹、岡本麻弥、勝生真沙子、鈴置洋孝、新井里美
2005年日本/95分/配給:松竹
公式サイト http://www.z-gundam.net/ チラシ 1


 宇宙世紀0087。地球連邦軍の特務部隊ティターンズのスペースノイドに対する圧制は日増しに強くなり、対抗する反連邦組織エゥーゴと一触即発の状態にあった。民間コロニーのグリプス1に暮らす少年カミーユ・ビダンは、ある時、ティターンズがテスト運用していた新型MS“ガンダムMk-II”を奪取し、そのままエゥーゴに参加。激しい戦いに身を投じる。
 日本のSFアニメの金字塔「機動戦士ガンダム」の正当なる続編として1985年に放送された「機動戦士Zガンダム」が、20年ぶりに3部作の劇場映画として復活。物語は再構築され、オリジナルのテレビ版とは多少エピソードの順番が異なったりしているが、それも違和感は全くない。むしろ非常にテンポのよい進め方で、ぐんぐんと物語に引き込まれていきました(なかには若干、強引な部分もなきにしもあらずですが……)。そしてなんといっても注目なのが、新たに描き起こされた新作カットの数々! 20年前のテレビアニメの部分はやはりどうしても古臭いのですが、その部分と新作カットの部分がわりとバランスよく配分されている感じで、特に後半に行くに従ってアクションシーンでの新作カットが増え、見応え十分。というか、オリジナルのファンとしては、新しいキレイな画で『Z』が見られるってだけでも感動なんですが。エイジングという技術で新旧グラフィックの質感を統一させているのはなかなか良かったですが、それでもどうしてもクオリティに差があるのが気になるところ。でも、それはどちらかといえばマイナスではなく「ここまで出来ているのなら、もっと!」といういい意味で。そう思わせてくれるだけの物語の面白さが、十分伝わってくるのが素晴らしい出来でした。早くも第2部が見たくてしょうがない。今回はちゃんとビスタサイズになっていたりしたところも映画的にOKでした(『∀ガンダム』のときはスタンダードのままだったかんね)。オリジナルの「Zガンダム」ファンは、間違いなく必見!
☆★★★★


機動戦士ZガンダムII 恋人たち
Mobile Suit Z Gundam: A New Translation II - Lovers
監督・原作・脚本:富野由悠季 音楽:三枝成彰
声の出演:飛田展男、池田秀一、古谷徹、ゆかな、池脇千鶴、岡本麻弥、勝生真沙子、鈴置洋孝、新井里美
2005年日本/98分/配給:松竹
公式サイト http://www.z-gundam.net/


 地球降下作戦が終了し、宇宙に帰還することになったカミーユ・ビダンだが、その過程で立ち寄ったニューホンコンで、フォウ・ムラサメと名乗る少女と出会い、2人は惹かれあう。しかし彼女は、ティターンズが人為的に生み出したニュータイプ=強化人間で、巨大なMSサイコガンダムに乗り、カミーユと敵対することに……。
 新訳「機動戦士Zガンダム」の第2章。3部作ものの第2部ということで話を繋がなくちゃいけないことに戸惑ったのか、第1部よりもやや話のまとまりを欠いた感はありましたが、それでも随所に挿入されるTVシリーズを踏襲した新エピソードは、これはこれでありだと思わせる出来にはなっていると思いました。「Z」の象徴的かつ代表的なエピソードであるカミーユとフォウの悲恋が、意外とあっさりしていたというか、そんな感じだったのがちょっと残念ではあるんですが、確かにTVシリーズの進行から考えてみれば第2部でそこがクライマックスにはなりえないんですが……。そんなわけでフォウとの別れが前半で終わってしまって、でも、その後も話は続いているわけで、やっぱり第2部は“つなぎ”の話だなぁ……と思ってしまうのですが、非常にいいところでいい形で終わっていたで、第3部が非常に楽しみ! あのラストはしびれました(ファンならではでしょうが)。それにしても前作以上に新作カットが増えたようで嬉しいのですが、それゆえに旧作カットが出てくるとテンションが若干ダウン。もちろん「旧作カットという制約があってこそ生まれた“新訳”であり、全部新しく描き直すなら、全く違う物語になってしまう」という監督の言葉もわかるが、それでもファンとしては全編新作カットを望んでしまうのは罪ではないでしょう……。また、タイトルロールでもあるZガンダムが登場するのですが、意外と活躍が少なかった気がします。本作はロボットものというよりも恋愛映画として作られたというように、割と人間ドラマ主体で第1部のような派手なアクションは少なかったかも。ともあれ、いよいよTVシリーズとは別のラストを迎える第3部に期待大!
☆★★★★


機動戦士ZガンダムIII 星の鼓動は愛
Mobile Suit Z Gundam: A New Translation III - Love is the Pulse of the Stars
監督・原作・脚本:富野由悠季 音楽:三枝成彰
声の出演:飛田展男、池田秀一、榊原良子、島田敏、鈴置洋孝、岡本麻弥、勝生真沙子、新井里美、井上和彦、島村香織
2005年日本/99分/配給:松竹
公式サイト http://www.z-gundam.net/


 宇宙に戻ったカミーユを待ち受けていたのは、さらなる混迷した戦局だった。ティターンズでは“木星帰りの男”パプティマス・シロッコが台頭、さらにはジオン再興を目論むアクシズのハマーン・カーンも地球圏に帰還する。ハマーンはかつての同胞であるクワトロ=シャアに手を差し伸べるのだが……。
 新訳「機動戦士Zガンダム」の第3章にして完結編。エゥーゴとティターンズの争いに第3勢力のアクシズも加わり、戦局や人間関係はさらに複雑に。アクシズとエゥーゴが共闘したかと思えば、今度は敵対したり……結局は3者の“三つ巴”(←監督は当初、これをサブタイトルに考えていたらしい…)になるわけですが、このへんの展開がどうしても目まぐるしくて、オリジナルのTV版をみてあらかじめ知識のある人でないと、正直ついていくのはつらそう。もちろん、自分はそのへん問題なかなったですけど……。戦いに次ぐ戦いで、全編アクションシーンは盛りだくさんなため、3部作の締めくくりとしては大いに盛り上がるのですがね。そして訪れる“誰も知らないラスト”は、大方の予想通りの終わり方でしたが、なんとまあ、僕はこれが目から鱗というか。こうなるであろうことは予想できていたのに、実際に目にすると、なんというかものすごく溜飲を下げてスッキリとした気持ちになりました。逆に言えば、自分がどれだけカミーユの精神崩壊というTV版のラストにとらわれていたのか……ということがわかった。そう、この終わり方こそがあるべき姿なんじゃないかとすら思える。もはや伝説的とも言えるTV版のあの終わり方が、いかに異常(というと語弊がありそうですが)であったか! 本作のラストを見ることで、改めて“新訳”というタイトルのもつ意味の大きさを実感しました。惜しむらくは、エンディングなんですが……てっきり予告編で使われていたGacktのあのバラードがエンドロールで流れて感動のラスト……となるのかと思いきや、あの曲は挿入歌で、エンディング曲は……雰囲気ぶち壊しです。まあ、あのような曲をこのラストにもってくることこそ、富野御大の非凡ぶりをうかがわせるというものですが。それにしても、サラの声がなんで池脇千鶴じゃないのー? 別に彼女がよかったわけではないですが、どうせなら統一してくれ……。
☆★★★★


きみに読む物語
The Notebook
監督:ニック・カサヴェテス 脚本:ジャン・サーディ、ジェレミー・レヴェン 原作:ニコラス・スパークス
出演:ライアン・ゴズリング、レイチェル・マクアダムス、ジェームズ・ガーナー、ジーナ・ローランズ、サム・シェパード
2004年アメリカ/123分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.kimiyomu.jp/ チラシ 12


 とある療養施設に暮らす老婦人は、過去の思い出を全て忘れてしまっていた。同じ施設で暮らすデュークは、日々彼女の元に通い、ある物語を読み聞かせていた。それは、1940年の夏、ノース・カロライナ州シーブルックに避暑へやってきた富豪の令嬢アニーと、地元の材木場で働く青年ノアの情熱的な恋の物語だった……。
 『メッセージ・イン・ア・ボトル』の著者ニコラス・スパークスのデビュー小説を映画化。予告編を観る限りでは、いかにもハリウッドのベタベタな恋愛・純愛物語だなぁ〜……という感じだったんですが、観てみるとこれがなかなか。確かに奇をてらったようなところのない、ストレートなラブストーリーですが、それだけにとても美しく、図らずもちょっと感動しちゃったかも。「全米満足度94%」とか宣伝されてますが、まあ、これなら満足度は高いかもなと。自分の場合は、観る前にそれだけ期待してなかったからということもありますけど。


CASSHERN
Casshern
監督・脚本・撮影・編集:紀里谷和明 脚本:菅正太郎、佐藤大
出演:伊勢谷友介、麻生久美子、寺尾聰、樋口可南子、唐沢寿明
2004年日本/141分/配給:松竹
公式サイト http://www.casshern.com/ チラシ 12


 公害病に苦しむ妻を助けるため、人間のあらゆる部位を自在に造り出す“新造細胞”理論を提唱した東博士だったが、研究が思うようにはかどらずに焦りを感じていたとき、一人息子で戦地に赴いていた鉄也の戦死の報せが届く。また、時を同じくして、研究施設に謎の稲妻が落ち、研究中の実験体から“新造人間”が誕生する……。
 70年代に人気を博した竜の子プロダクション(プロダクションI.Gもここから生まれた)のアニメ「新造人間キャシャーン」を実写化。監督の紀里谷和明は、写真家や宇多田ヒカルのPVで活躍し、彼女との結婚で世間にも名が知られるようになった存在。で、初の映画となる本作は、前評判どおり映像は確かに凄いけど、そのCGの処理が過剰なまでに施されているところは賛否が分かれるところではないかなと思いました。人物と背景の融合は成功していると思いますが、常にキラキラと輝いていたり、コテコテにカラフルな色彩もあれば、銀残しっぽいモノクロもありで、監督の映像センスの幅広さはわかるんだけど、正直、僕の目にはちょっと過剰でした。俳優は置いてきぼりにされて、はっきりいって演技などどうでもいい感じで(がんばってる人たちもいましたが)、果たして映画としてそれはいいのかという疑問もあり。で、さらに音楽が鳴りすぎ。これまたほぼ全カットに渡って常にBGMがなっており、141分のうち音楽が流れていないのは10分あるかないか。まあ、全てにおいて力が入っていて、ある意味圧倒されることはされるんだけど、映像と音で盛り上げるばかりで、もうちょっと役者の演出とかドラマの展開そのもので盛り上げてほしかったということろ。ただ、この手の映画にそのようなものが必要かどうかというのもあるし、そう考えると、俳優も映像の素材として一つの映像を作り上げてしまった本作は、これはこれでいいのかもしれないが……。あと、写真家なだけあって、フレームの切り方が普通と違うな〜という感じで目をひくところがいくつかあって、それはさすが。ストーリーのほうは、オリジナルを知らないのでなんともいえないんですが、やや説明不足と思われるところもいくつかあって、カットの繋がりや不自然というよりも不親切な部分が見受けられたけど、これもまた、ちょっと“絵”に凝りすぎた結果じゃないかなと。まあ、このへんは細かいところなんで気にしなければいいだけだけど、やっぱちょっと冗漫な印象はあり。せめてもう少し短くまとめてくれていれば、更に良かったかなと。


キャスパー
Casper
監督:ブラッド・シルバーリング 製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
出演:クリスティーナ・リッチ、ビル・プルマン
1995年アメリカ/100分/配給:UIP


 アメリカでは有名らしいキャラクタ「キャスパー」を使った、スピルバーグ製作総指揮のファンタジー映画。友達がほしい無邪気な幽霊キャスパーと、人間の少女キャットの心の交流を描く。最新のCGで描かれたキャスパーと、三人組のいたずら好き叔父さん幽霊たちは、動きもとても滑らかで(いかにもアメリカチックな動きなのだが)、見ていて楽しいです。軽快なコメディタッチでパロディなどもありつつ、キャスパーが生前のことを思い出していく過程など、心温まるシーンも随所にあります。子供が楽しめるように、難しい話は特にないですが、それだけとても安心してみられます。こういう映画の存在もとてもありがたいですね。


逆境ナイン
Adversity Nine
監督:羽住英一郎 原作:島本和彦
出演:玉山鉄二、堀北真希、田中直樹、藤岡弘、
2004年日本/115分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://gk9.jp/ チラシ 12


 全力高校の弱小野球部のキャプテン不屈闘志は、校長から廃部を言い渡され、無謀にも甲子園行きを宣言。部員たちは不屈の言葉に乗せられて猛練習を始めるが、そんな彼らに数々の問題が続出し、“逆境”にさらされていく……。
 バカバカしくもアホらしい熱血青春スポ根映画。『少林サッカー』の高校野球版というと、ちょっと違う気もするが、似たものはある。島本和彦の原作は読んでいないが、彼の描く漫画は熱血バカ満載なのは知っているので、果たしてそれがどこまで映像化されているのだろう……というのが楽しみでしたが、まずまず満足。ただ、予告編で見せすぎたなぁ〜。予告の映像で期待できたし、「全力でない者は死すべし」とか「それはそれ、これはこれ」といった本当に無意味なのに笑えるセリフの数々も、大方先に見せられてしまって、本編にそれ以上の物が少なかったのが残念。それでも存分に笑えて楽しめる出来にはなっていました。ハイテンションな演技は大変だったのでしょうが。個人的には田中直樹の演じる監督が気に入ったんですが、出番少なめ……。そして、もうひとつ楽しみにしていた堀北真希のカワイサは抜群。こっちももっと見せてぇ〜(笑)。十分、続編が出来る終わりになっていて
たとえ本作がヒットしなくても、そんな逆境をはねのけて続編を作ってほしいかもです。
☆☆★★★


キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
Catch Me If You Can
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、クリストファー・ウォーケン
2002年アメリカ/141分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/catchthem/ チラシ 1


 1960年代、両親の離婚から家出をした16歳のフランク・アバグネイルは、生きるために小切手詐欺を思いつき、見事に多額の現金を手にする。さらに、彼はパイロット、医師、弁護士と、人が無条件で信頼する憧れの職業を転々のなりすまし、わずか数年で400万ドルの小切手を偽証したのだった。FBIの堅物捜査官カール・ハンラティが彼を執拗に追うが、あと一歩のところで逃げられてしまう。
 主人公フランク・アバグネイルは今も健在の人で、本作はその自伝的物語。しかし16歳そこそこの子供にここまで出来てしまうって本当にすごい。今じゃこうはいかないだろうなぁ〜…っていうところはいくつかありますけど、楽しめるからそれで良し。なによりも、この映画の良いところは、フランクとお父さんの関係であり、フランクとカールの関係。それぞれに傷をもった男たちのビタースウィートな(?)物語で、何故か観終わったとにちょっとだけしみじみしちゃったりします。追って追われての関係も、きっと彼らがそれぞれを求め合っていたから。ちょっと長いんですけど、小粋な作品で好きですね。オープニングのアニメと音楽は秀逸の一言。劇中にも挿入したら面白かったんじゃないかなと思うんですが。ちょっとインディペンデント系っぽくなりますけどね。レオもハンクスも、ウォーケンもみんなとっても好感度大な作品です。


キャットウーマン
Catwoman
監督:ピトフ
出演:ハル・ベリー、シャロン・ストーン、ベンジャミン・ブラット、ランベール・ウィルソン
2004年アメリカ/106分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.catwoman.jp/ チラシ 1


 大手化粧品会社のヘデア社に務める広告デザイナーのペイシェンスは、才能がありながらも引っ込み思案な性格で損をしてばかり。平凡な毎日を送っていた彼女だが、ある時、会社が発売する新製品に隠された秘密を偶然知ってしまい、その秘密を守ろうとする会社によって殺されてしまう。しかし、そんな彼女の前に不思議な猫が現れ、新たな命とともに超人的な力を与え、ペイシェンスは猫の力を宿した“キャットウーマン”として蘇った!
 1992年の『バットマン リターンズ』ではミシェル・ファイファーが演じ、「バットマン」の原作コミックにも登場するキャラクター、“キャットウーマン”を主演にしたアクション映画。『バットマン リターンズ』のほうを観ていないので、そちらとの比較は置いといて、この映画単体としては、まあ、可もなく不可もなくというか。ピトフなだけに、例のコテコテ感はかなりなりを潜めているけど、ビジュアルには凝ってる部分が見受けられるし。そしてストーリーは案外コミカルでしたね。もっとシリアスなのかと勝手に思ってたんですが、軽い軽い。昨今のスーパーヒーローものには必需(?)な主人公の苦悩とかが、あるといえばあるが、そんなにでもなく。危機的状況に陥るけど、それに重みが感じられず、観終わってもサラリと流れていった感じかなぁ。ハル・ベリーのボンテージ・ファッションも話題だが、別にエロくない(笑)。セクシーではあるだろうが、それを強調するようなところもないし。アクションももっと鞭をバンバン使ってほしかったわ。


キャメロット・ガーデンの少女
Lawn Dogs
監督:ジョン・ダイガン
出演:ミーシャ・バートン、サム・ロックウェル
1997年イギリス+アメリカ/101分/配給:アミューズピクチャーズ


 ケンタッキー州にある城壁に囲まれた町、キャメロット・ガーデン。そこに引っ越してきた10歳の少女デヴォンは、しかし、偽善的な住人たちになじめず、城壁の外の森に住んでいるという魔女を空想することを好んでいた。ある時、森の中で古ぼけたトレーラーに暮らす芝刈り屋の青年トレントに出会ったデヴォン。貧しくて学のない彼は、町の人々から疎外されていたが、デヴォンはそんな彼に親しみを感じ、友情を交わすのだが……。
 かわいらしいタイトルにかわいい女の子が主人公ってことで、子供向きな映画だと思ったら大間違い。これはとてもダークなファンタジーです。描かれているのむしろ、人間の暗部。キャメロット・ガーデンの人々は、デヴォンとトレント以外、みんなどこか陰湿。それがなぜなのかは別に理由付けはいらなくて、そういうふうに固定化されたキャラクターたちによって、人の心の闇を浮き彫りにしているのだと思います。誰しもがもっているであろう、人間の暗い部分をキャメロット・ガーデンの人々によって具現化し、そんな中でも腐らずに生きているトレントという青年の(あまり作中でははっきりと見せないが)優しい心が描かれているのだと思います。そして、そんな彼に惹かれるデヴォンも。ミーシャ・バートンはとても大人びていて10歳にはみえない演技で説得力抜群。でも、彼女の行動が、子供っぽさをあらわす部分もあり、難しい。そんなわけで、ファンタジーといっても意外と重たいのでついつい深刻になって観てしまいますが、最後はやっぱりファンタジーに終わる。でも、あの後、彼らはどうなっていくのだろうか? とても印象的な幕引きでした。


ギャラクシー・クエスト
Galaxy Quest
監督:ディーン・パリソット 出演:ティム・アレン、シガニー・ウィーバー、アラン・リックマン
1999年アメリカ/102分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/galaxyquest/


 放映終了から20年たった今も、一部に熱狂的なファンをもつSF番組「ギャラクシー・クエスト」。今日もあるところでファンの集いが催され、出演者たちもそこに招かれていた。そんな出演者たちの前に、“自分たちの星が異星人の侵略をうけているので助けてほしい”という奇妙な者たちが現われる。最初は何かのイベントだと思い込んだ出演者たちだったが、彼らは本物の異星人で、地球から受信していた「ギャラクシー・クエスト」を本物と思い込んでいたのだ。
 基本的に「スター・トレック」のパロディ満載ってことらしいのですが、僕は「スター・トレック」を見たことがありません。が、それでもじゅうぶんに楽しめました。完全におバカなSFコメディなのかと思いきや、実は結構、泣かせてくれます。仲たがいしていた出演者たちが、どうにもこうにもならない状況で必死に戦いぬき、本物の友情を培っていくのは、典型的パターンながらも、最高にハッピーな気持ち。キャラクターがよくって、特に「トカゲ頭の誇りにかけて〜」は笑えた。


キャロルの初恋
El Viaje de Carol
監督・脚本:イマノル・ウリベ 原作・脚本:アンヘル・ガルシア・ロルダン
出演:クララ・ラゴ、フアン・ホセ・バジェスタ、アルバロ・デ・ルナ、マリア・バランコ
2002年スペイン/104分/配給:東京テアトル、ポニーキャニオン チラシ 1


 1938年の春、ニューヨークで生まれ育った12歳の少女キャロルは、母親の故郷であるスペインの田舎町にやってくる。折りしもスペインでは内戦が続いており、キャロルの父は義勇軍として戦争に行ったまま、時折手紙が届くだけで長い間会っていない。初めての田舎の暮らしや、周囲の大人たちの思惑に戸惑いながらもキャロルは成長していき、やがて腕白だが心優しい少年トニーチェと恋に落ちる。
 少年少女の初恋を瑞々しく描きながらも、同時に戦争に揺れる時代とそれに振り回される大人たちの“現実”をも同時に描き、単なる恋物語としてでなく、少女の成長物語としても見ることができる。映画の中でやがてキャロルの身に訪れる出来事は悲しいが、映画全体を貫く優しい視線が、悲観や諦観に浸ることなく、明るい希望すら残していく。その雰囲気はとても好きだし、主人公キャロルを演じるクララ・ラゴの真っ直ぐな瞳もとても印象的だが、周囲の大人たちがやや弱いというか魅力に欠ける気がするのが残念。


ギャング・オブ・ニューヨーク
Gangs of New York
監督:マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ、キャメロン・ディアス、ダニエル・デイ=ルイス、リーアム・ニーソン
2002年アメリカ/158分/配給:松竹、日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.gony.jp/ チラシ 1234


 1846年、ニューヨークは原住民と移民たちとの間で熾烈な縄張り争いが繰り広げられていた。少年アムステルダムは、そんな抗争の中で父親を目の前で殺され、彼自身も投獄される。16年が過ぎ、出所した彼は生まれ故郷に戻り、父を殺したギャングのボス、ビルが街を牛耳っていることを知る。アムステルダムは素性を隠してビルの組織に入り、復讐の機会を伺うが、そこで運命の女性ジェニーと出会うのだった。
 大規模なセット撮影や、長期に及ぶ撮影期間、巨額の製作費、そして2度に渡る公開延期となにかと話題の超大作。それだけのことはあって、とにかくスケール感はすごい。出てくる建物がすべて実物大のセットなわけだから、リアリティ万点です。確実に“存在する創造された世界”がそこにある…という感じで。上映時間は2時間40分と長く、それだけのドラマもあるのですが、ちょっと前半と後半のテンポが異なってる感じでした。前半はかなりじっくりとアムステルダムとビルの関係を描いているのがよかったのですが、後半は妙にテンポを早くなった印象がありました。なもので、個人的には、ストーリー的なものよりも、長い2時間40分という上映時間も含めスケール感の大きさと、後述するダニエル・デイ=ルイスに目を見張る作品でした。
 レオナルド・ディカプリオ、キャメロン・ディアス、ダニエル・デイ=ルイスの共演が売りでもありますが、とにかく凄いのはダニエル・デイ=ルイス。この人、5年間も俳優業をやめていたのに、むちゃくちゃ圧倒的でした。レオもキャメロン・ディアスも悪いなんてことは全くなく、彼らとて若手のスター。なのに、彼らの存在感すら薄くなってしまうほどにダニエル・デイ=ルイスは強かった…。若造に出る幕なしと言わんばかりの迫力。見ごたえありますよ。宣伝では、レオ主演なので「タイタニック」を引き合いにだして“愛”をうたっていますが、注意されたし。スコセッシはそんなぬるい監督ではありません。“壮絶”。この単語がこの映画にはよくお似合いです。迫力があるのは万人が認めるでしょう。観る価値は十二分にありです。製作費に恥じない出来にはなっております。個人的には、もっと“男泣き”できる映画であってほしかったです。前半のビルとアムステルダムをみていると、そんな予感がしたのですが。


キューティ・ブロンド
Legally Blonde
監督:ロバート・ルケティック
出演:リース・ウィザースプーン、ルーク・ウィルソン、セルマ・ブレア、マシュー・デイビス
2001年アメリカ/96分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/cutieblonde/

 大学でファッション・ビジネスを専攻するブロンド美女のエルは、女子社交クラブの会長も務める人気者。しかも、政治家志望の恋人ワーナーからは、遠からずプロポーズを受けるだろうと幸せいっぱい。しかし、そんな彼女を待っていたのは予想外の別れの言葉。「政治家の妻にマリリン・モンローはいらない」と、ブロンドを理由に振られたエルは一発奮起、ワーナーがハーバードの法学部を目指すことを知ると、彼を見返そうとハーバードを目指す。そして見事、法学部に合格したエルだが……。
 リース・ウィザースプーンの人気を決定付けた作品。最初のうちはよくあるラブコメもののような気がして、あまり乗り気でなかったのですが、後半にいくほど面白くなってきて、観終えたあとは思ったより満足感の得られる作品でした。負けん気の強いエルが、我が道を貫きながら成功を収めていく様は見ていてとても気持ちのいいもので、楽しくなりました。しかし、リースのあの顎は特徴的ですねぇー。


キリング・ミー・ソフトリー
Killing Me Softly
監督:チェン・カイコー 製作総指揮:アイバン・ライトマン
出演:ヘザー・グラハム、ジョセフ・ファインズ、ナターシャ・マケルホーン、イアン・ハート
2002年アメリカ/101分/配給:アミューズ・ピクチャーズ
公式サイト http://www.killingmesoftly.jp/ チラシ 1


 「さらば、我が愛/覇王別姫」「始皇帝暗殺」などで知られる中国人監督、陳凱歌(チェン・カイコー)のハリウッド進出第一弾。ロンドンに渡って暮らしているアメリカ人女性アリス。仕事も順調。プライベートでも恋人と同棲し、幸せな生活だった。しかし、ある朝、出勤途中の交差点で、見知らぬ男と手と手が偶然に触れ合う。その瞬間、アリスは男を見つめ、男もまたアリスを見つめていた。会社にいっても男のことが忘れられず、ついにアリスは男の後を追いかける。男と再会し、誘われるまま彼の家へ…。一度きりだと自分に言い聞かせても、アリスは再び男の家に向かってしまう。
 まずキャスティングが良いですね。それで結構楽しめました。個人的にこの映画のキャストは好きです。ヘザー・グラハムは相変わらずチャーミングかつ色気たっぷり。ジョセフ・ファインズのほうも、男の色気と怪しげな雰囲気を漂わせるにはうってつけでした。ストーリーも、徐々に男の暗部が明らかになっていく雰囲気はでていたと思います。ですが、なんとなく物足りなくもあります。というのも、やはりラストにかけての展開が一気にお粗末になってしまったような気がするからです。これはネタバレになるのであまりいえないのですが、最初のうちから、なんとなく読めてしまいました。官能のサスペンス…ということにしたかったんでしょうが、肝心のサスペンス部分が弱いですよね。だから結局のところ何をしたかったのか、いまいちはっきりせずに終わってしまったような気もしました。…ところで、この映画は成人指定です。そう、おかげさまで(?)ヘザーの素晴らしいプロポーションを拝むことができました(「ブギーナイツ」でも脱いでたけど一瞬だし)。いやはや、個人的にはそれで十分、ご馳走様って感じですわ。ヘザー・グラハムってかわいくて綺麗でスタイル抜群なもんですから。なんて書いていると、それが目当てかと思われてしまいますが、まぁそれはそれ、ということでね…。


ギルバート・グレイプ
What's Eating Gilbert Grape
監督・製作総指揮:ラッセ・ハルストレム 出演:ジョニー・デップ、ジュリエット・ルイス、レオナルド・ディカプリオ
1993年アメリカ/117分/配給:東北新社


 アメリカのとある田舎町に住むギルバートは、知能の発達に障害がある弟と、父が死んだショックで250Kgにまで太ってしまった母を抱えて、姉と妹と5人暮らし。町のしがない食品店で働いて家族を養う毎日だった。そんな彼の前に、祖母とともに放浪の旅をしているベッキーが現れる。気の向くままに旅を続ける彼女とふれあい、ギルバートは、自分の今の生活を、自分が本当に望むものは何かを見つめる・・。
 悩める青年のドラマが、田舎の広大な自然にのって美しく描き出されています。ハルストレム監督の作品はいつも美しく温かいですが、この作品も例にもれず、というよりも、抜きんでて、その特徴を発揮しているように思われます。小さなドラマの連続で成り立っていますが、それぞれに無駄も感じられないし、とても感動できました。何故、この作品が好きなのか。おそらく、こういうテイストや雰囲気そのものが、僕にとっては無条件で好きなものなのだと思います。
 ディカプリオは、この役でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされているだけあって、白痴という難役を演じきっているのはお見事でした。


キル・ビル
Kill Bill: Vol.1
監督・脚本・製作:クエンティン・タランティーノ 美術:種田陽平 アニメーション:プロダクションI.G
出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、ダリル・ハンナ、デビッド・キャラダイン、千葉真一、栗山千明、マイケル・マドセン
2003年アメリカ/113分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.killbill.jp/ チラシ 123


 最強と言われた女暗殺者は闇の世界から足を洗い、結婚式を挙げて、幸せな普通の人生を歩むはずだった。しかし、結婚式当日、彼女――ザ・ブライドの元ボスであるビルは、4人の部下を彼女の元に送り込み、婚約者や彼女が身篭っていた子供、結婚式に参列していた友人まで全てを惨殺する。そしてブライド自身も重症を追い、昏睡状態に陥ったのだった……。それから4年後、奇跡的に目覚めた彼女は、自分を不幸のどん底にたたきおとした4人の暗殺者たち、そして何よりもビルに対する復讐心をたぎらせ、世界に旅立つ。
 タランティーノ6年ぶりの新作は、彼が敬愛するカンフー映画、マカロニ・ウェスタン、日本の時代劇やアニメ、武侠映画などの要素がゴッタ煮になった、究極の趣味爆発映画。ただし、元ネタは知らなくてもとにかく笑える(タランティーノ自身も笑っていい映画だと発言してるけど)! 千葉ちゃんの威勢のいい英語や、ユマ・サーマン、ルーシー・リューの日本語による会話、普通に日本刀を携帯してるカトー・マスクのヤクザたちなどなど、(日本人ならなおさら)笑える要素がたくさん。でも、そんな荒唐無稽な世界観なのに、それなりにかっこよく見せてしまうのがタランティーノ。おなじみの時間軸が交錯する構成も健在。ただ、あの血の量はちょっと辟易。日本刀での格闘の際は、手足がぶっち切れるのは朝飯前で、生首吹っ飛ぶわ、はらわた飛び出すわ、脳天断ち割るわ、目玉えぐるわ……。僕はもともとバイオレンス描写は苦手ですが、本作はそういうものがあるということを覚悟して観にいったから、ある程度は良かったし、そういうのも通り越してぶっとんでいるから、笑って終わることが出来ましたが。前述したような描写が苦手な人は観ないほが無難かも。それにしても、エンドロールの最後で「Vol.2」の予告映像でもちょっと流してくれれば良かったのになぁ…。そういうのはなし。続きの「Vol.2」では、舞台が日本から離れてしまうので、今回ほど笑えないかもしれませんねぇ……。


キル・ビル Vol.2
Kill Bill: Vol.2
監督・脚本・製作:クエンティン・タランティーノ
出演:ユマ・サーマン、デビッド・キャラダイン、ダリル・ハンナ、マイケル・マドセン、ゴードン・リュウ
2004年アメリカ/136分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.killbill.jp/ チラシ 12


 日本でオーレン・イシイを、アメリカでヴァニータ・グリーンを葬ったザ・ブライド。残るはエル・ドライバー、バド、そしてビルの3人。ビルはテキサスのバドの元を訪れ、ブライドが2人を仕留めたこと、次はここにやってくるであろうことをバドに忠告するが、酒びたりの日々を送っていたバドは本気で受け止めようとしなかった……。
 なにかと話題をふりまいた『キル・ビル』の後編にして完結編。前作はヘンテコな日本描写などが笑えた一方で、血みどろなバイオレンス描写などがふんだんだったが、今回はそれらはなりを潜めて(もう日本は出てこないし)、従来のタランティーノらしさがより前面に出ている感じ。いろんな批評などで書かれていますが、今回は特にタランティーノ独特のダイアローグが堪能できて、これまでのタランティーノ映画を観たことある人にとっては「ああ、こういう感じ。これこそタランティーノ」という感覚を覚えるんじゃないかなと。『Vol.1』があまりにハチャメチャにはしゃいでいたのに対して、今回はすっかり落ち着いているから、その落差に多少面食らうかもしれないれど、観ているうちに「これこそが本来のタランティーノだよな…」というが思い出されるんじゃないかなと。特にデビッド・キャラダイン演じるビルがいい味を出していて、彼とブライドの最終対決は「ザ・ラブ・ストーリー」と宣伝で謳っているのもあながち嘘じゃないと納得させられた。ビルとブライドの間にあるいろんな感情が交錯する会話と一瞬の対峙は、『Vol.1』『Vol.2』を通した『キル・ビル』という1本の映画の最高のクライマックスでしょう。見た目のインパクトでは『Vol.1』に劣るけど、『Vol.1』があって『Vol.2』があり、2本揃ってこそ『キル・ビル』という映画が成り立っていることを実感しました。ただ、それでも136分というはちょっと長いかなぁ……と思いましたけどね。今回はオープニングテーマをロドリゲスが作曲してるし、エンディングでは『Vol.1』からの全ての出演者を紹介してます。また、エンドロール(にしても、また梶芽衣子ですか)の最後まで、お見逃しなく〜。


銀色の髪のアギト
Agito with Silver Hair
監督:杉山慶一 原案:飯田馬之介 脚本:椎名奈菜、柿本直子 音楽:岩崎琢
声の出演:勝地涼、宮崎あおい、古手川祐子、濱口優、布川敏和、遠藤憲一、大杉漣
2005年日本/93分/配給:松竹
公式サイト http://www.gin-iro.jp/


 遺伝子操作の失敗により“森”が人々を襲うようになった300年後の世界。少年アギトはある日、300年間眠り続けていた少女トゥーラと出会う。長い眠りから覚めたトゥーラは、変わり果てた世界に困惑するが……。
 OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)「青の6号」「戦闘妖精雪風」やTVシリーズ「LAST EXSIL」など、早期から3DCGを取り入れたハイクオリティアニメを手掛けてきたアニメスタジオGONZO(ゴンゾ)が、初めて送り出す劇場用アニメ。さすがにGONZOなだけあり映像は見事だが、正直それ以外は平板。設定はなんだか『天空の城のラピュタ』を思わせるし、これといった深いバックボーンも説明されず、ドラマもないので、ただただ表面的に物語が流れているだけといった感じ。声優には実力派の俳優をもってきて、ひとかどの劇場アニメっぽくしようとしているんだろうけど、中身が伴っていないので、それも虚しい。どこかで見聞きしたことのあるような設定ではあるが、これだったらお得意のOVAやTVシリーズでもっと深く掘り下げて描いたほうがよっぽど面白くなったろうに……。主題歌と映像がよかったので、それに免じて★2つ。少しは興味を抱いた状態で観たからいいものの、そうでない人には全く面白くないだろう。
☆☆☆★★


キング・アーサー
King Arthur
監督:アントワン・フークワ 脚本:デビッド・フラゾーニ 製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:クライブ・オーウェン、キーラ・ナイトレイ、ヨアン・グリフィズ、ステラン・スカルスゲールド
2004年アメリカ/126分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.movies.co.jp/kingarthur/ チラシ 123


 ローマ帝国の支配下にあったブリテン(現・イギリス)では、ローマの支配に抵抗する土着民族=ウォードと、大陸から侵略する残虐なサクソン人との争いが続いていた。ブリテン人とローマ人のハーフで、ローマ帝国に使えるアーサーと彼の無敵の騎士団は、この地で“ハドリアヌスの城壁”の警護にあたっていたが、15年に渡る兵役が終わるというその日に、ローマ帝国から過酷な任務を言い渡される。それは、城壁の外の北方へ赴き、サクソン人の勢力に囲まれて孤立している帝国の要人を救うことだった。アーサーたちは、自らの自由を得るため、この無謀な任に就くが……。
 西洋史上最大の伝説として語り継がれる“アーサー王と円卓の騎士”を、独自の解釈でアーサーが王として即位することになった過程に焦点を当てて映画化。『アルマゲドン』『パール・ハーバー』『パイレーツ・オブ・カリビアン』といった娯楽大作を生み出しきたお祭り男ジェリー・ブラッカイマーがプロデュースした歴史超大作だが、前述の作品のような派手さは、どちらかといえばなりを潜めていて、登場人物はそれぞれの立ち位置をわきまえて物静かだし、描かれているアーサーの人柄は一言でいえば“高潔”で、なかなか素晴らしい。が、どうにもこれといって魅力があまり感じられないのは何故だろう……。甲冑やら衣裳やら美術セットやらは、とてもよく出来ているし、終始、曇り空や吹雪が続く画面は適度に硬質感もあって、寒々しい感じが重苦しい時代の雰囲気を伝えていると思う。物語のテンポもそんなに悪いとは思わなかったし、長さは感じなかった。でも、なにか物足りないのは、キャラクターを描ききれてないからじゃないかなと思う。登場人物は限られているけど割りと多く、アーサーとその騎士だけで7人登場するけど、彼らの苦悩が伝わるには時間がなさすぎる。確かに彼らは、先程も書いたように自分の立ち位置が守られていて、必要以上の自己主張はしないわけだけど、それだから故に、特に魅力のある人物として伝わってこなかった。アーサーにしても、高潔ではあるけど、“そう描かれている”という感じがしてしまって、どうも……。敵・味方が入り乱れる大掛かりな合戦シーンもあるけど、それもなんか決まりごとのように展開されているだけで、それほど心踊らさせるものでもなく……。素材はいいんだけど、どうも消化不良というか。これこそ『ロード・オブ・ザ・リング』なみの大叙事詩として描かないと伝わってくるものが薄くなってしまう気がします。それにしてもキャストも地味だしなぁ〜。クライブ・オーウェンは別に悪くないけど、もうちょっと若くても良かったと思うし。キーラ・ナイトレイのかわいさ&美しさが救いでしたな、キャスト面では。


キング・コング
King Kong
監督・製作・脚本:ピーター・ジャクソン 脚本:フィリッパ・ボウエン、フラン・ウォルシュ
撮影:アンドリュー・レスニー 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ナオミ・ワッツ、エイドリアン・ブロディ、ジャック・ブラック、トーマス・クレッチマン、ジェイミー・ベル、アンディ・サーキス
2005年アメリカ/188分/配給:UIP
公式サイト http://www.kk-movie.jp/


 30年代のニューヨーク。野心的な映画監督カール・デナムは、脚本家のジャック・ドリスコルや街でスカウトした売れない女優のアン・ダロウらを従え、かつてない冒険映画を撮ろうと幻の孤島“髑髏島(スカル・アイランド)”に向かう。しかし、島にはかつてなく恐るい巨大生物が生息していた……。
 33年製作のモンスター映画の名作『キング・コング』を、『ロード・オブ・ザ・リング』で大成功を収めたピーター・ジャクソン監督が念願のリメイク。監督自身が映画監督を目指すきっかけになったという作品であり、過去に何度も企画が頓挫していたものを実現させただけに、全編から監督の“愛”が感じられる出来っぷり。VFXも『ロード・オブ・ザ・リング』を進化させたものであるから申し分ないし、キャストもはまり役で芸達者な人たちばかりなので文句のつけどころもないのだが、自分はオリジナルを知らないし、当然そちらに対する思い入れもないと、批評家筋が絶賛するほどのよさが分からないというのが正直なところ。もちろん3時間8分という長尺も全く飽きずに見ることができるので大したものだし、コングの表情や仕草はまるで実在しているかのように雄弁に感情を語りかけるが、個人的にはそのコングとアン・ダロウの交流にもっと時間を割いてもよかったのでは……と。もちろん、うじゃうじゃと湧き出てくるクリーチャーはいかにもピーター・ジャクソンが好きそうで、それがわかるだけに楽しいんですけどね(笑)。3時間以内でも収められたとも思うんですが、なんにしてもこれだけのものを作ったことには感服せざるを得ないですね。
☆☆★★★


キングダム・オブ・ヘブン
Kingdom of Heaven
監督・製作:リドリー・スコット 脚本:ウィリアム・モナハン 撮影:ジョン・マシソン 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演:オーランド・ブルーム、エヴァ・グリーン、リーアム・ニーソン、ジェレミー・アイアンズ、デヴィッド・シューリス、ブレンダン・グリーソン、マートン・ソーカス、エドワード・ノートン
2005年アメリカ/145分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/kingdomofheaven/ チラシ 12


 12世紀フランス。妻子を失い悲しみに暮れる若き鍛冶屋バリアンは、十字軍の騎士ゴッドフリーが実の父親であると知り、エルサレムへ向かう旅路に同行する。その途上でゴッドフリーは他界するが、バリアンは高潔な父の意志を継ぎ、十字軍の騎士となって聖地エルサレムを守ることを誓う。
 『グラディエーター』でアカデミー賞を制し、その後に続く叙事詩大作ブームを生み出したリドリー・スコット監督が再び挑んだ歴史大作。『グラディエーター』以降、『トロイ』や『キング・アーサー』『アレキサンダー』、ちょっとジャンルは違うけど『ロード・オブ・ザ・リング』といった作品で、鎧兜を纏い、剣を振りかざして戦う騎士たちの大合戦……といった作品はたくさん出てきた。正直、食傷気味になりつつも、やはりこのような大スケールで繰り広げられる歴史絵巻には、興奮を覚える。ただ、今までの作品と違って、本作の大規模な戦闘シーンには、単なる派手さだけではなく、悲しみや虚しさが滲み出ている。バリアンの機転を利かせた作戦で、大軍に一矢を報いても、それがヒーロー的な行いとして描かれるのではなく、あくまで悲しい戦争の一幕でしかないのだ。全編を通して描かれるのは、主人公バリアンの成長といったパーソナルな部分ではなく、宗教や文化の違いで対立し、争う人々の愚かさ、戦争の悲しみといった大局的な構図であり、そうした描き方が出来るのは、さすがリドリー・スコットなのではないかと感心させられた。イスラム教に対する配慮からか、イスラム教徒側の大将は、かなり高潔な人物として描かれていた気もしたが、それもまた一方に偏るのではなく、愚かな人間も賢い人間も、宗派には関係がなくどこにでもいるのだと……人間は個人なのだという描き方ゆえなのだと思った。1000年近くたった現代でも、エルサレムを巡っての争いは絶えない現代だからこそ、響いてくる物語なのだ。
☆★★★★


禁じられた遊び
Jeux Interdits
監督:ルネ・クレマン 出演:ブリジット・フォッセー、ジョルジュ・プージュリー
1951年フランス/88分/


 第一次大戦の最中、疎開する途中で両親と飼い犬を失った少女ポーレットは、農家の少年ミシェルに出会い、彼の家で暮らすことになる。死んだ者はお墓に葬るのだということをミシェルから教わったポーネットは、飼い犬のお墓をつくり、一人ではかわいそうだからと、ミシェルと共に、そこに様々な生き物のお墓をつくっていった。
 「死」の意味がまだあまりわからないくらいに幼い少女の行動を通して、戦争の悲哀を描く。この上なく悲しい物語です。少年と少女の、二人だけの秘密も、大人たちの前ではどうしようもない。しかし、大人からしてみれば、彼らのしたことを簡単に許せるものでもなく・・・。あの有名すぎるギターのアルペジオを使った曲ととに、悲しみが込み上げてくる作品です。


金髪の草原
Across a Gold Prairie
監督・脚本:犬童一心 脚本:佐藤佐吉 原作:大島弓子
出演:伊勢谷友介、池脇千鶴、唯野未歩子、加藤武
1999年日本/96分/配給:ザナドゥー


 心臓病を患う80歳の老人・日暮里は、ある朝、20歳の青年として目覚め、自分が80歳の老人であるという記憶を失っていた。ちょうどその日から、新任のホームヘルパーで、18歳のなりすが日暮里の家で働きはじめたのだが、日暮里は学生時代のマドンナにそっくりな彼女に恋焦がれていく。
 「綿の国星」などで知られる少女漫画家・大島弓子の同名原作コミックを映画化。原作は未読なのですが、内容としてはなるほど大島弓子らしいファンタジー。現実的に考えて(?)、この恋愛が幸せなものかというと、決してそうでないのかもしれないが、なぜか観終わったあとの気持ちは暗くならない。それは、妙に前向きで明るいエンディングテーマなどの演出も巧く効いているからなんだけど、日暮里が青年になったことで、短い間だけど、友情や恋といった人生最後の青春を謳歌して気持ちを伝えることができたという達成感があるからなのかもしれない。伊勢谷友介は決して上手くない演技が逆に初々しいともいえなくもないが、ちょっとなぁ……という気もしましたが、全体の雰囲気がそれをうまくカバーしてる。池脇千鶴もまだまだなんだけど、時折見せる表情や仕草が逸品。