恋する惑星
Chungking Express
監督・脚本:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、フェイ・ウォン、金城武、ブリジット・リン
1994年香港/102分/配給:プレノンアッシュ

 5年間付き合っていた恋人にふられた刑事モウと、金髪の麻薬密輸の女ディーラー。モウが通う料理店の新入り店員フェイと、スチュワーデスの恋人にふられた警察官。並行する2組の恋を描く。
 前半と後半の2部構成だけど、個人的には後半(トニー・レオン&フェイ・ウォン)のほうが好き。それはやっぱりベリーショートのフェイ・ウォンと、仔犬のような目をしてちょっととぼけたトニー・レオンの2人が、とってもキュートだから。前半もそうなんですけど、後半が特にね。何ともいいようのない、独特の恋しくなるような、切ないけれど、小さな幸せとかわいさとポップさが同居したような雰囲気が絶妙。この映画を観ると、自分も恋がしたくなる。音楽――特に何度も何度も流れる「恋するカリフォルニア」が素敵。この選曲は相当な確信犯だよなぁ〜。『恋する惑星』ってタイトルも、なかなか良いと思います。


恋におちたシェイクスピア
Shakespeare in Love
監督:ジョン・マッデン
出演:グウィネス・パルトロウ、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ、コリン・ファース、ベン・アフレック、ジュディ・デンチ
1998年アメリカ/123分/配給:UIP

 シェイクスピアが「ロミオとジュリエット」を書いたのは、自身の体験からだった……という話を悲劇的ではなく、コメディ・タッチで描く。が、最後はちょっと悲しかったりもする。全編を通して勢いがあって、かつ非常にわかりやすいので、とても観やすいとは思いました。あまりに偉大なシェイクスピアという芸術家を、彼の作品ではなく、彼自身を主人公にしたてた映画を作ってしまうというところ、さらにそこに「ロミオとジュリエット」というあまりに有名な作品が描かれる過程を、とても納得できるかたちでストーリーに盛り込んでいる点も上手いと思いました。


恋人までの距離《ディスタンス》
Before Sunrise
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー
1995年アメリカ/102分/配給:東宝東和

 ヨーロッパを旅行中のアメリカ人の青年ジェシーとフランス人女性セリーヌは、同じ列車に乗り合わせる。しょんなことから意気投合した2人は、ウィーンで途中下車し、ジェシーのアメリカ行きの飛行機が出る翌日の朝までの半日間、あてどなくウィーンの街を歩く。しかし、楽しい時間はあっと間に過ぎていき……。
 出会いのきっかけなんかを見ていると、単なるナンパ男の話か!?と思わなくもないけど、その後の展開に自然と惹き込まれていく不思議な魅力をもった映画でした。とにかく2人の会話がいい。……というか、この映画のキモはその会話であり、ほぼ2人の会話のみで展開していくという感じ。人によっては鼻白んでしまうかもしれないけど、正直この作品にはそういった類のクサいだけのドラマとは一線を画した繊細さがあると思いました。ただ何気ない会話を積み重ねていくだけで、次第に見えてくる相手の魅力、自分の弱さ。そして自然に惹かれていく2人の描写は、見てみて非常に甘酸っぱくもあり、初々しくもあり、ロマンティックであり、現実的でさえもある(出だしは多少強引かもしれないけど)。これといったドラマティックな事件が起こったりするわけでもないなかで、次第に迫っていくタイムリミットに向けて、見ているこちらも切ない気持ちがこみあげてくるような、実に細やかで味わい深い恋愛描写が、たまらなく素敵で素晴らしい映画なのでした。第45回ベルリン映画祭監督賞受賞作。


交渉人 真下正義
Negotiator: Mashita Masayoshi
監督:本広克行 原案・脚本監修:君塚良一 脚本:十川誠志 製作:亀山千広
出演:ユースケ・サンタマリア、國村隼、寺島進、水野美紀、柳葉敏郎、小泉孝太郎、石井正則、金田龍之介
2005年日本/127分/配給:東宝
公式サイト http://www.odoru-legend.com/ チラシ 1

 2004年12月24日、東京の地下鉄を走る最新鋭実験車両が何者かに乗っ取られ、暴走を始めた。“弾丸ライナー”と名乗る犯人は、交渉の窓口に交渉課準備室の真下を指名し、室井管理官に事件の担当者として推挙された真下は、雪乃とのクリスマスイブのデートの約束を抱えたまま、事件解決に向けて動き出すが……。
 『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ・ムービー第1弾で、ユースケ・サンタマリア扮する真下正義が主人公。なにかと存在感の薄い(?)真下に主人公が務まるのかと思いきや、今までとまったく同じキャラながらも、ちゃんと主人公になっていた。青島のように熱くはならないが、こつこつと仕事をこなして成長していき、強面のおっさんたちに徐々に認められていく様はわかりやすいし、そのように周囲の濃い存在が自然と真下を主人公に仕立て上げていく。適度な緊張感と笑いの連続で引っ張っていくお馴染みの手法で、見事にまぎれもない『踊る』映画に仕上がっていた。青島がいなくても『踊る』は成り立つという新たな可能性を、存分に提示しただけでも本作は成功したといえるのではないだろうか。結局のところ、犯人像や謎解きは少し中途半端で尻切れトンボな気もしなくはないが、観ている間は十分に楽しめるので、これはこれでありかなと思います。役者陣では、國村隼、寺島進がいい。
☆☆★★★


皇帝ペンギン
La Marche de L'Empereur
監督:リュック・ジャケ 音楽:エミリー・シモン
声の出演:ロマーヌ・ボーランジェ、シャルル・ベルリング、ジュール・シトリュック
2005年フランス/86分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/emperor-penguin/ チラシ 12

 マイナス40℃の南極大陸で、時速250Kmのブリザードにさらされながらも120日間絶食して子どもを育てる、皇帝ペンギンの生態を追ったネイチャー・ドキュメンタリー。ここで映されている皇帝ペンギンは、ただひたすら“子どもを産み、育む”という目的のために数々の苦難を乗り越えていく。一組のカップルが1年に産み落とす卵は1つ。その全てが孵り、成長していくかといえば、そうではないのは自然界の必然であるからして、誰しもがご存知のことと思う。しかし、だからこそ皇帝ペンギンたちの凄まじい苦行に耐えながらも生命を紡いでいこうとする姿が感動的でもある。ドキュメンタリーとはいっても、声の出演者たちがたまにペンギンたちの“台詞”を述べ、時としてペンギンたちは擬人化され、あたかも演出されたドラマのように映る。それがドキュメンタリーとして賛否が分かれるかもしれないが、逆にそれだけペンギンたちの行いが人のそれと同じであり、むしろ自らを極限まで切り詰めても子どもを守ろうとする親ペンギンたちの行動には、人間以上の純粋な“愛”すら感じられる。これは生命の賛歌であり、愛の物語でもあるのだ……と僕は思う。エミリー・シモンによる音楽も効果的で、“求愛のダンス”のシーンはまるで振り付けられたダンスを踊っているかのよう。必見のドキュメンタリーだ。


GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊
Ghost in the Shell
監督:押井守 脚本:伊藤和典 原作:士郎正宗
声の出演:田中敦子、大塚明夫、家弓家正
1995年日本/80分/配給:松竹

 西暦2029年。電子ネットが張り巡らされた近未来。サイバー犯罪を摘発する公安9課の草薙素子を隊長とする通称“攻殻機動隊”。そんな彼らのもとに、ある日、世界的なハッカー・人形使いが逮捕されたという情報が舞い込むのだが…。
 士郎正宗原作の同名コミックを映画化。大友克洋の「AKIRA」で生まれた「ジャパニメーション」という言葉を決定付けたといっていい作品。とにかく高密度に作られた画面には驚愕するのみ。専門用語(?)を多様してかつそれの説明をしないというのは、普段からSFアニメなどになじみのない人にはとっつきにくいものがあるかもしれないけど(というか、理解できない?)、それにしても、この映像だけでも観ておけって感じ。間違いなく日本アニメにとって金字塔のひとつ。


ゴーストワールド
Ghost World
監督・脚本:テリー・ツワイゴフ 原作・脚本:ダニエル・クロウズ 製作:ジョン・マルコヴィッチ
出演:ゾーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンスン、スティーブ・ブシェミ、ブラッド・レンフロー
2001年アメリカ/111分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://gw.asmik-ace.co.jp/ チラシ 1

 アメリカで人気の、ダニエル・クロウズが描く同名コミックを、ジョン・マルコヴィッチ製作のもと、映画化。親友同士のイーニドとレベッカは、ついに高校を卒業した。つまらない学校とつまらないガキっぽい連中ともこれでおさらば。夏休みのある日、ちょっとしたいたずらで知り合った冴えない中年男シーモアに、イーニドはなぜか関心をもつ。一方、レベッカは自立のためにカフェで働き始めるが、シーモアに興味津々のイーニドが理解できず、イーニドも、仕事を始めて遊びにつき合ってくれないレベッカにいらだちを感じる。こうして二人は互いに距離感を感じ始めるのだが・・・。
 自分はどこか人とは違う、という強い思いに支配されがちな青春時代の心を見事に描いた作品。誰しも、きっとそういう思いをもっていた時代があるはず。あるいは、今も持ち続けて生きている人もいるはず。イーニドもそんな一人。ただ、その思いが極端に強い。だけどそれは、結局、不安でしかないみたいな。言葉で表すのって難しいけど、だんだん大人になっていくんだな、ってときに感じられる、焦燥感や不安感というものが表されてるんだと思う。そのために、無茶な行動をしてみたりして…。そうすることで自分を確立しているつもりが、それこそが実は子供なんだってことを表してしまう。でも、しかし、それがあってこそ、成長していくということが、よりわかりやすくなるもの。この映画はそんな感じがしました。きっと誰しもが、この映画に多かれ少なかれ、共感するものがあると思います。


CODE46
Codde 46
監督:マイケル・ウィンターボトム 脚本:フランク・コットレル・ボイス
出演: サマンサ・モートン、ティム・ロビンス
2003年イギリス/93分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.code46.net/ チラシ 12

 地球規模の砂漠化が進んだ近未来。安全が保たれている都市部で生活するにはパペルという滞在許可証が必要だが、人々の間には時として偽造されたパペルが行き交っている。ある時、パペルの偽造事件を調べるために上海へやってきた調査員ウィリアムは、パペル製造会社で働いているマリアという女性が犯人だと見破る。しかし2人は、互いに出会った時から密かに惹かれあっていたおり、ウィリアムはマリアを見逃し、2人で街に出掛けるが……。
 管理された社会を舞台に禁じられた恋に落ちた2人の物語。人々は遺伝子レベルでも管理され、クローンが存在するこの社会では、同一の遺伝子を持つ者同士の生殖は、“コード46”と呼ばれる法によって規制されている。ウィリアムとマリアは、この法に抵触する存在であるわけだが、恋とはそうしたものに縛られることができるのだろうか?と問う。いくら管理された社会でも、人々の自由な意思は管理できない……。未来社会が舞台のSFだけど、一部のセットを除いては上海のロケ撮影で、それが不思議と未来感を醸し出していて、お金をかけてCG使ったりセットを組んだりということをしなくても、こういう風に撮れるんだという、いい見本。『惑星ソラリス』で日本の首都高を未来社会のセットに見立てたとの同じ理論だけど。テーマや物語はいいんだけど、どうもいまいちのめり込めない感じはしましたし、この映画はR15指定になってるんですが、そうなってしまったシーンは本当に必要だったのかが、とっても疑問。あのワンシーンさえカットすれば問題なかったはずなのに。


コーラス
Les Choristes
監督・脚本:ルイス・マンドーキ 製作:ジャック・ぺラン
出演:ジェラール・ジュニョ、フランソワ・ベルレアン、ジャン=バティスト・モニエ
2004年フランス/106分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.herald.co.jp/official/chorus/ チラシ 12

 1949年、フランスの片田舎。失業中の音楽教師マチューは、問題児を矯正する施設に舎監として赴任する。しかしそこは、子どもたちのイタズラは大人に怪我をさせるほど激しく、さらに校長はそんな子どもたちに非情な罰を与えることが日常茶飯事の荒んだ教育現場だった。悪童たちの騒ぎに手を焼くマチューだったが、彼らのイタズラは、寂しさを紛らわすためにやってることだと悟ったマチューは、決して彼らを叱らず、代わりに少年合唱団を結成し、歌によって少年たちの心をまとめようとするのだった。
 2004年、フランスで興行成績1位を記録した感動作。映画そのものは実に良心的であり、何もてらったところもなく、膨大な予算をかけた大作でもない。ただ、大人と子どもたちの心温まる交流を描いた、本物のドラマなのだ。毒気も何もないけれど、それこそが映画の基本であり、それゆえにフランスでは万人に受け入れられたのではないだろうか。ピエール役のジャン=バティスト・モニエは、本物のサン・マルク合唱団に所属するソリストで、本作で映画デビュー。その歌声は冗談抜きで鳥肌が立つ美しさ。少年期のある一定期間だけしか発することが出来ない美しい声、変声期を迎えれば失われてしまう無形の美しさを見事にフィルムに捕らえている。ただ歌ってるうところを映しているだけでなく、歌うことによって心が満たされてゆく過程を丁寧に優しく描いて、相乗効果を生んでいると思う。とにかく、素直な心で観て、素直に感動してほしい。僕も思わず涙が出た。これは理屈で何か言えることではない、無償の愛とも言える優しさに包まれている。そういう映画だと思う。少年たちの合唱シーンは、サン・マルク合唱団によるものだそうだが(もちろんジャン=バティスト・モニエのソロは吹き替えなし)、これは是非、サントラ聴きたい。まさに珠玉の名作である。



コール
Trapped
監督:ルイス・マンドーキ 原作・脚本:グレッグ・アイルズ
出演:シャーリーズ・セロン、ケビン・ベーコン、スチュワート・タウンゼント、ダコタ・ファニング、コートニー・ラブ、プルイット・テイラー・ヴィンス
2002年アメリカ/106分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.call-movie.jp/ チラシ 12

 アメリカ、オレゴン州ポートランド。美しい妻カレンは、夫で将来を有望される青年医師ウィルと、6歳になる娘アビーと幸せに暮らしていた。しかし、ウィルが講演のためシアトルへ出張した日、何者かによってアビーが誘拐、カレンのもとにはその犯罪一味のリーダー、ジョーが現れる。銃をつきつけ抵抗するカレンにジョーは言う。「30分ごとに仲間と連絡する。連絡がなければ人質は死ぬ。あんたがいま撃てば2人死ぬことになる。俺とアビーだ」。用意周到な誘拐劇の始まりだった。しかし、アビーには、喘息の持病があり、投薬を怠れば死に至る危険性をはらんでいた……。
 なかなか豪華なキャストが揃ったクライム・サスペンスなんですが、なんだか気持ちののらないまま終わってしまった。どうも、ストーリーが原作のプロットをなぞっているだけで感情移入ができなかったです。原作を読んだわけではないのでわかりませんけど、脚色したのは原作者本人だから、わりと忠実なんじゃないかとは思うんですが…。そもそも犯人たちは「完璧な犯罪だ」と言っているのに、のっけからアビーが喘息とわかった時点でもう完全じゃなくなってるし、ジョーはともかく他の2人のやる気が最初から感じられなくて、全然怖さが伝わってこない感じ。ウィルなんて犯人より強いじゃん…って感じで("投薬攻撃”には笑った。さすが医者)。完全犯罪を謳いながらも、当の犯罪者たちが穴だらけでは全然緊迫しない。もちろん主犯格であるジョーには、ある種の不気味さがあって、ケビン・ベーコンもよくそれを表していましたけど。「24時間」という時間制限を設けていながらも、その差し迫る感じが全然なかったのも敗因かしら? ともかく、もうちょっと脚本練ってほしかったかなぁ。好きなキャストが揃っているだけに残念。


コールド・フィーバー
Cold Fever
監督・脚本:フリドリック・トール・フリドリクソン 出演:永瀬正敏、リリ・テイラー、鈴木清順
1995年アイスランド+アメリカ/86分/配給:シネカノン、ケイブルホーグ

 永瀬正敏主演のファンタジックロードムービー。日本で平凡なサラリーマンとして生活する青年が、アイスランドで客死した両親の供養のため、現地に赴く。両親の死地までの旅路の中で、様々な人との出会いや、自然、奇跡との遭遇によって変化していく。ストーリーや登場人物など、正直これとった点もなく、面白みがあまりないのがちょっと残念なところです。しかし、なによりもこの映画をみて感動させられるのは、アイスランドの美しさ。極寒の地の、果てしない白さ。全てがきらめく雪で覆われた平原。生きるものを全て凍りつかせるような厳しさすらも、ただひたすらに美しく感じる。いくら綺麗な映像を人が作り出すよりも、美しい。幻想的な自然美に見とれる。それだけでも一見の価値があるのではないでしょうか。


コールド マウンテン
Cold Mountain
監督・脚本・製作:アンソニー・ミンゲラ
出演:ジュード・ロウ、ニコール・キッドマン、レニー・ゼルウィガー、ドナルド・サザーランド、ナタリー・ポートマン
2003年アメリカ/155分/配給:東宝東和
公式サイト http://www.coldmountain.jp/ チラシ 12

 南北戦争末期の1864年。バージニアで南軍兵士として従軍していた青年インマンだったが、度重なる凄惨な戦いに身も心も傷付いていた。彼の故郷コールド・マウンテンでは、牧師の娘で美しいエイダがインマンの帰りを待ち続け、2人は手紙を交わしながら互いを想っていたが、インマンは悲惨な殺し合いの続く戦場から彼女の元に戻るため、脱走兵は見つかれば死罪という危険を承知の上で、コールド・マウンテンへの遥か遠い道のりを歩み始める。
 全米図書賞を受賞したチャールズ・フレイジャーの同名小説を、『イングリッシュ・ペイシェント』『リプリー』のアンソニー・ミンゲラが映画化。南北戦争を背景にした、今時には珍しい、まさに“大河ロマン”といったところ。戦場の描写や、インマンやエイダの周辺で起こる事件で倒れていく人々の様も悲惨なものが多くて、彼らの「生」は多くの「死」の上に成り立っている……というよりも、多くの死が存在する中でこそ、相手への一途な想いだけで生き続けるインマンとエイダが、より際立っているというところでしょうか。でも、こんなにもお互いを想い続けることができるということは、とても美しくもあり(しかも演じてるのは絶世の美男美女だ)、ある種の理想でもあるよなぁ……と思いながら観ていました。2時間半の過酷なインマンとエイダのサバイバルは、多少長くは感じましたが(でもミンゲラの作品はいつも長いな)、映像や役者の演技にも力があって、観ているこちらもなんとかサバイバルすることができました(笑)。また、アカデミー賞助演女優賞で念願のオスカーを手にしたレニー・ゼルウィガーは、男勝りな女という、今までとは違うイメージの役で存在感があり、確かに本作の中では一番オスカーに近い存在だったでしょうが、個人的にはナタリー・ポートマンが一番印象的。戦争で夫を亡くした未亡人で、病気の赤子を抱え、戦争を否定しながら最後は自ら銃を取るという悲しい存在を熱演。また、彼女のみならず、とにかく俳優が豪華なのもまた、印象的。ドナルド・サザーランド、フィリップ・シーモア・ホフマン、ジョバンニ・リビジ、ジェナ・マローン、アイリーン・アトキンス、キリアン・マーフィなどなど。中にはほんの数分しか登場しない人もいたりしますが。そういう部分も含めて見ごたえはありました。にしても、すでにアカデミー賞常連になっているミンゲラだけど、確かにいつもいい作品で損したとは思わないんだけど、何か今一歩足りない気がするのはなんだろう。


心の旅
Regarding Henry
監督:マイケル・ニコルズ 出演:ハリソン・フォード、アネット・ベニング
1991年アメリカ/106分/配給:UIP

 敏腕弁護士のヘンリーは、弁護士としての有能さに比例した仕事人間で、妻や娘とはあまり時間を共有していない。そんな彼が、ある日、強盗事件に巻き込まれ、頭部にうけた一発の銃弾によって記憶を失う。リハビリを続け、次第に元の生活に戻っていくが、しかし、以前の自分は思い出せずに苦悩する。やがて今の自分に大切なもの、家族と心を通わせていく。その様子は、温かいものがあります。


心の羽根
Des Plumes Dans la Tete
監督・脚本:トマ・ドゥティエール
出演:ソフィー・ミュズール、フランシス・ルノー、ユリッス・ドゥスワーフ、アレクシス・デンドンケル
2003年ベルギー+フランス/110分/配給:オフィスサンマルサン
公式サイト http://www.sanmarusan.com/hane/ チラシ 1

 5歳になる息子アルチュールと夫とささやかで幸せな生活を送っていたブランシュ。しかし、ある日、アルチュールは渡り鳥を追いかけていったまま行方不明になり、やがて沼地でその遺体が発見される。最愛の息子の死が受け入れられないブランシュは、やがて幻にアルチュールを見るようになるが……。
 ベルギーの新人監督が描く、最愛の息子を失った母親の心の再生を描いたドラマ。なによりもその美しい画面が特徴的で、随所に鳥や小動物、自然の営みがちりばめられて、どこか荒涼としたベルギーの小さな田舎町の風景とともに、一枚の風景写真を見ているような画面がいくつも登場します。特に水中に据えられたカメラに向かって、魚を捕らえるためにカワセミが飛び込んでくる最初のシーンは、物凄く美しかった。そうした自然の描写に人物の心象を重ねているからか、台詞は少なめで、ちょっと眠たくもなるんですけどね……。


五条霊戦記
Gojoe
監督:石井聰亙 出演:隆大介、浅野忠信、永瀬正敏、岸部一徳
2000年日本/137分/配給:東宝

 京の五條橋で、夜な夜な平家の武士が殺されていた。「鬼」の仕業だと囁かれるが、その正体は源氏再興を目指す遮那王(源義経)だった。弁慶は鬼を退治すべく、五條橋に向かう。平安時代を舞台にした、アクションSF時代劇。内容はとにかくこだわったつくり。冒頭から雰囲気作りはばっちりといった感じで、それがラストまで続く。その雰囲気はなんと言ってよいか難しい。妖しい、重い、暗い、といった要素もあるにはあるが。浅野演じる遮那王の殺陣は、流麗で見ごたえがある。しかし、全体的に少し間延びしてる感じを受けました。もうちょっと凝縮すれば引き締まるのに。まぁ、それでも引き込まれるものがあったのは凄いですね。ストーリーなどもさることながら、かなり雰囲気に“酔いしれる”作品です。
 それにしても、主役は隆大介なのですが、浅野・永瀬の共演というほうが目立ちすぎて、ビデオのジャケットも真ん中にこの二人が陣取ってるものだから、てっきり浅野忠信と永瀬正敏がチャンバラするんだと思った…。この二人は同じ場面には登場するけど、言葉を直接交わしたりする役柄ではないです。


GODZILLA/ゴジラ
Godzilla
監督・製作総指揮・原案・脚本:ローランド・エメリッヒ 出演:マシュー・ブロデリック、ジャン・レノ
1997年アメリカ/138分/配給:東宝
公式サイト http://www.godzilla.co.jp/

 いかにも「ハリウッド」なゴジラ。要するに怪獣パニック映画で、映画としては楽しめると思うが、ゴジラのもつ神聖性のようなものは 完全に失われている。はっきりって日本のゴジラを知らなくてもまったく問題ないです。逆にゴジラに感情移入してる人にとっては、ちょっと面白くないのでは。この映画がゴジラである必要性はあまり感じません。要するにブランド名だけ拝借したって感じで。「ゴジラ」という強烈な個性をもったキャラクターではない。ただの怪獣……。うーん、やっぱりゴジラはゴジラじゃないとだめっすね。哀しいかな、“人格”を失い、本能のままに生殖を繰り返すゴジラは、ただのでかい爬虫類になりさがってしまった……。それでも、パニック物としてはそれなりに面白くできてるはずです。CGで描かれたゴジラの重量感とスピード感が見事に表現されているし。


ゴジラ FINAL WARS
Godzilla: Final Wars
監督:北村龍平
出演:松岡昌宏、菊川怜、ドン・フライ、北村一輝、水野真紀、ケイン・コスギ、宝田明
2004年アメリカ/125分/配給:東宝
公式サイト http://www.godzilla.co.jp/ チラシ 12

 西暦20XX年、特殊能力を持った超人類=“ミュータント”による特殊部隊“M機関”の尾崎真一少尉は、北海道沖で謎の巨大怪獣のミイラが発見され、その調査に国連から派遣された科学者・音無美雪の警護任務に就く。しかし、時を同じくして、ニューヨーク、パリ、上海、シドニーなど世界各地に怪獣が同時に出現。M機関は苦戦を強いられるが、その時、突如として上空から放たれた光線により、怪獣たちは消滅する。その光線は、はるか外宇宙からやってきたという“X星人”たちによるもので、彼らは地球と友好関係を結びたいと申し出るのだが……。
 1954年から始まった『ゴジラ』シリーズの28作目にして「最終作」と銘打たれた大作。これまでに登場した怪獣が10体以上も登場。ゴジラとの壮絶なバトルを次々と展開する。いやー、最後だと言うから久しぶりに『ゴジラ』を見ましたが、いろんな意味でスゴイ……。突っ込みどころは満載で、映画としてははっきりいってどうなのよと思うんだが、これはもう過去の『ゴジラ』ファンに対するサービスのようなもので、きっと思い入れの強い人は、あんな怪獣やこんな怪獣がスクリーンで動いているのを観られるだけで嬉しいんだろうなぁ……と。僕も小学生後半から中学生前半にかけて、平成シリーズを何本か観てましたけど、やっぱり一番はゴジラなわけで、今回はどうも人間のほうが主人公で、前半1時間はゴジラは“おあずけ”状態。やっとこさ出るぞ〜……ってところでも、なんかその「待ってました!」感が意外と薄く、あっさり出てきてしまう。いや、出てくれたのは嬉しいんだが……。どうも全体的に演出に「溜め」というかなんというか、そうしたものが感じられず、ただただ画面が流れていくのみ。やっぱり北村龍平にまともなドラマは演出できないのか……。怪獣たちの暴れっぷりや特撮はさすがというか、迫力があって良かったと思います。今回はかなりスピード感のある怪獣たちの戦いというのもひとつ見どころですが、それは良かったかな。はっきりいって人間たちのどうでもいいアクションより、もっと怪獣たちの壮絶バトルを見せてほしかったですね。まあ、それにしても繰り返しになりますが、ハチャメチャな映画ではありますよ。でも、ゴジラというキャラクターのもつ強さには改めて認識させられて、過去作品とかちょっと観たくなった。あと、ハリウッド版ゴジラを一蹴したのはナイス! 「マグロばっか食ってるやつに…」では、場内に拍手と笑いが。


ゴスフォード・パーク
Gosford Park
監督・原案・製作:ロバート・アルトマン 製作・原案・出演:ボブ・バラバン
出演:マギー・スミス、クリスティン・スコット=トーマス、ケリー・マクドナルド、エミリー・ワトソン、ライアン・フィリップ、マイケル・ガンボン、ヘレン・ミレン、アイリーン・アトキンス、クレイブ・オーウェン
2001年アメリカ/137分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/gosfordpark/ チラシ 1

 1932年11月。イギリス郊外にあるウィリアム・マッコードル卿のカントリー・ハウス“ゴスフォード・パーク”でパーティが催される。数々の貴族たちが招待され、またそれぞれの従者やメイドも、彼らについて館に集まる。2日目の晩餐の席、客の一人であるハリウッドの映画プロデューサーは、この貴族たちが集う館を舞台に殺人事件が起こる映画の構想を語るが、その夜、実際にウィリアム卿が何者かによって殺される事件が発生する…。
 アルトマン監督が得意とする群像劇で、アカデミー賞の脚本賞をはじめ、数々の映画賞を受賞した作品。なにしろ主な登場人物が数えてみるとざっと24人。これだけの人物が一同に会するわけですから、最初のうちは登場人物の把握だけで精一杯で。観終えてみると2時間以上あったのも納得です。あれだけ人物が入り乱れていると、集約するのに最低でもそれくらいの時間はかかってしまいます。本音をいえば、もうちょっと人を減らしても出来たのではないかと。ですが、これだけの人物が交錯しても、まったく脚本が破綻していないあたり、賞賛されるだけのことはあると思います。一応の、観客の視点となる人物として、メイドのメアリーがいますけれど、彼女が主人公というわけでもなく。殺人事件が発生するまでが、ちょっとだるかったのですが(あまりに人が多いので覚えきれず)、この映画は、ドラマを楽しむというよりは、その人と人とが織り成すアンサンブルを、階上の人々(貴族たち)と階下の人々(召使たち)とにわけて、それぞれに思うところを語らせて、20世紀初頭の貴族文化ってものを描くことが目的かな、と。でも最後はちゃんとドラマにもなっているところがスゴイですね。個人的には、予告編でみられたような、もっとテンポよいコメディを期待したのですが、そこはそれほどでもなく。気に入ったのは、メイドのメアリーを演じるケリー・マクドナルドと、とぼけた感じでちょこちょこと顔を出すライアン・フィリップ。


ゴッド・ディーバ
Immortal
監督・原作:エンキ・ビラル 脚本:エンキ・ビラル、セルジュ・レーマン
出演:リンダ・アルディ、トーマス・クレッチマン、シャーロット・ランプリング
2004年フランス/104分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.god-diva.jp/ チラシ 1

 人間やミュータント、エイリアンが混在して暮らしている2095年のニューヨークに、2つの怪現象が発生する。1つは“侵入口”と呼ばれる、宇宙から現れた謎の空間がセントラル・パークを占拠し、周辺を雪と氷で覆っていること。もう1つは巨大なピラミッドが突如として街の上空に現れたことだった。そしてそのピラミッドから、鷹の頭を持つ神・ホルスが人間界へ降り立つ。彼は、反逆罪で神々から死刑を宣告されているが、最後に与えられた7日間で、ある女性を探そうとしていた……。
 バンド・デシネの巨匠、エンキ・ビラルの監督第3作。自身のコミック「ニコポル3部作」をベースにしたオリジナルストーリー。登場人物はリンダ・アルディ、トーマス・クレッチマン、シャーロット・ランプリングの演じる3人以外は全てCG……なのだが、このCGのクオリティが……。「今更これかい!」ってマジで突っ込みたくなる。『FF』は映画としてはダメだったけど、CGのクオリティは確かにすごかった。けど、こっちは完全にそれに負けている(CGのクオリティという面で)。ゲームの「FF10」とか、そのへんのムービーシーンのほうがクオリティは高いでしょう。「アニメは自分のコミックを動かすのには適さない」とビラル自身は語っているから、アニメはNGだったとしても、3DCGならよかったのか(CGと実写の両方というがビラル的にはミソだったみたいなんだが)? そうだとしても、今時これではつらいでしょう……。CGを担当したディラン・デュボア社というのは、『アメリ』や『ロスト・チルドレン』にも参加しているそうだが、あれらはあくまで実写がメインで、その味付けとして使われていたが、今回はほぼ全編がCGメイン。でも、主人公たち3人は実写。このミスマッチが最初から最後まで抜けなかった。最近は実写キャラとCGキャラの共演というのも多く、それも違和感がなくなってきてはいるけれど、さすがにこれはちょっと。商業レベルの映画としてはちょっとつらいでしょう。世界観はとても良いんだが、ずーっと違和感を感じながら観ていたから、のめりこめなかった。残念。また、ストーリーに対する説明も、あいかわらず不親切だなぁ〜…と。このへんも、“あえて”そうしているならまだわかるんだけど、それにしてもあんまり上手じゃないような気がして。やっぱりビラルはコミックはすごいけど、映画人としてはちょっと難しいかもしれないと疑問に感じてしまいました。


ゴッドファーザー
The Godfather
監督:フランシス・フォード・コッポラ 脚本:フランシス・フォード・コッポラ、マリオ・プーゾ
出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュバル、ダイアン・キートン、ジョン・カザール
1972年アメリカ/175分/配給:パラマウント・ホーム・エンタテインメント(04年リバイバル時)
公式サイト http://www.thegodfather.jp/ チラシ 12

 もはや説明不要の映画史に残る傑作中の傑作。2004年6月にデジタル・リマスター版が劇場公開され、初めて鑑賞しましたが、さすが……というのもはばかられますが、なるほど納得の力強さや人間同士の絶妙な描かれ方は圧巻でした。序盤の結婚式のシーンは華やかでありながらも、屋敷の中でのドンたちの会話などからなにやら異様な静けさを感じて、続けて馬の首のシーンや冬の襲撃シーンなどショッキングなシーンが続いて、そこから先は言うまでもない。特にクライマックスの洗礼式と暗殺のカットバックは物凄かった。なんか、今更あれこれ言う作品でもないんで、これ以上書くこともないんですが……。


子猫をお願い
Take Care of My Cat
監督・脚本:チョン・ジェウン
出演:ぺ・ドゥナ、イ・ヨウォン、オク・ジヨン、イ・ウンシル、イ・ウンジュ
2001年韓国/112分/配給:ポニーキャニオン、オフィス・エイト
公式サイト http://www.koneko-onegai.jp/ チラシ 12

 夢想家のテヒ、野心的なヘジュ、アウトサイダーのジヨン、陽気な双子のピリュとオンジョの5人は、高校時代を一緒に過ごした親友同士。高校を卒業して1年が経った今も、時々集まっているが、それぞれの立場の違いから、次第に互いの距離が遠のいていく。特に上昇志向で一流企業に就職したヘジュと、無職で内向的なジヨンが対立し、テヒは2人の仲を取り持とうとするのだが……。
 韓国で2001年、<韓国女性が選ぶ最高の韓国映画第1位>に選ばれた、等身大の女性像を描いた青春劇。誇張や過度な演出もなく、いつかどこかで自分も感じたことがあるような雰囲気が伝わってくる自然さがいい。小学校から中、高……と進学し、さらに社会へと出ていくと、その段階ごとに世界が次第に広がっていき、これまでの世界の狭さを実感するといったことは、誰にでも経験があることだと思いますが、そうした中でいかに過去と、今と向き合うか。必死で過去を捨て、上を目指すヘジュにも、立ち止まって考え、その結果として過去の自分と決別しようとするテヒやジヨンにも、どこか共感する部分がある。これから彼女たちはどこへ向かっていくのだろう……。そんな、登場人物たちのその後が、観終わったあとに気になる映画でした。


この森で、天使はバスを降りた
The Spitfire Grill
監督・脚本:リー・デヴィット・ズロトフ 出演:アリソン・エリオット、エレン・バースティン
1996年アメリカ/116分/配給:東宝東和

 刑務所での服役を終えて、ある小さな町に降り立ったパーシー。彼女は、頑固な老嬢ハナが経営する、町の食堂スピットファイアー・グリルで働くことになるが、変化のない田舎町の住人たちは、よそ者であるパーシーに奇異の視線を投げかける。しかし、忙しく働くうちに、パーシーもハナたちも、互いに打ち解けていく。何故、パーシー刑務所に入っていたのか・・・その過去が明らかになる事件が起こるのだが・・。
 暗い過去を背負ったパーシーが、人々と触れ合うことで、自らも変化し、周囲も感化していき、真の絆が生まれていく過程が温かい。最初は、誰も寄せ付けないような雰囲気をもったパーシーだけど、本当は優しい女性なのだ。ただ、ちょっと、ハナと息子の関係がいまいちわかりにくいんですけど・・。それが心残りといえば心残りだが、全体的には好きですね。


コラテラル
Collateral
監督・製作:マイケル・マン
出演:トム・クルーズ、ジェイミー・フォックス、ジェイダ・ピンケット=スミス、マーク・ラファロ
2004年アメリカ/120分/配給:UIP
公式サイト http://www.collateral.jp/ チラシ 12

 ロサンゼルスの街で、12年間、タクシー運転手として働き、平凡な日々を送っていたマックスは、ある夜、アニーという名の女性検事を乗せる。ふとした会話から彼女といい雰囲気になり、別れ際に名刺をもらって上機嫌なマックスだったが、次に乗車してきたのはビジネスマン風の男だった。ヴィンセントと名乗った男は、マックスに多額のチップを渡し、今夜中に5箇所を回ってくれと依頼する。それを引き受けたマックスだったが、しかし、ヴィンセントの正体は麻薬組織に雇われた凄腕の殺し屋で、組織に不利な証言をする5人を殺すためにロスへやってきたのだった……。
 トム・クルーズが初めての本格的な悪役に挑戦したことでも話題の本作だが、トムの出来栄えはなかなかないんじゃないでしょうか。まあ、さすがはマイケル・マン監督といったところで、全体を通して非常に緊迫感があり、映像もスタイリッシュでありながら、物語は熱すぎず、一見クールだけど、2人の男の微妙な力関係とそれぞれの心の奥底にあるものが熱く感じられる。ジェイミー・フォックスが世間ではとても評判で、オスカー候補町がないなしというところだけれど、トム・クルーズがかなり引き立てている部分もあると思ったし、やっぱ監督の演出もすばらしいんじゃないでしょうか……ってことで、個人的には3人ともオスカー候補でもいいんじゃないかと思ったけど、褒めすぎかなぁ。音楽もいいし、夜のロサンゼルスのきらびやかだけど、どこか寂しい雰囲気が、また物語の情感を豊かにさせていると思った。


転がれ!たま子
Korogare! Tamako
監督:新藤風 脚本:しんどうぎんこ 撮影:佐々木原保志 音楽:磯田健一郎
出演:山田麻衣子、岸本加世子、竹中直人、松澤傑、与座嘉秋、ミッキー・カーチス、広田レオナ、松重豊
2005年日本/103分/配給:シネカノン
公式サイト http://www.tamako-movie.com/

 どこへ行くにも父お手製の鉄かぶとが欠かせない用心深いたま子は、日進月歩堂の甘食だけがこの世の幸せ。しかし、ある日、日進月歩堂のじいちゃんが入院し、日進月歩堂は休業に。さらに、母はたま子の幼なじみと恋に落ち、弟や近所に住む父も自分の夢に夢中で、たま子はついにひとり立ちしなければならず……。
 24年間自分の殻に閉じこもって生きてきたという変テコな主人公たま子が、嫌が上でも外の世界へと出ていかなくてはならなくなってしまう姿をコミカルに描いた一作。たま子のみならず、登場人物全てが何かしらの“新しい自分”を発見し、新しい道を歩んでいくという物語でもある。まあ、設定やキャラが変わってるが、要は成長物語。妙に漫画チックだと思っていたら、逆にまともなテーマだったので面食らったというのも正直なところだが。クセのあるキャラで引っ張れる1本ですね。個人的にいつもいい味出してるバイプレイヤー、松重豊が今回もいい仕事してたのが良かったっす。
☆☆☆★★


殺しの烙印
Branded to Kill
監督:鈴木清順 脚本:具流八郎
出演:宍戸錠、小川万里子、真理アンヌ、玉川伊佐男、南原宏治
1967年日本/91分/配給:日活

 鈴木清順監督が日活を追い出されるきっかけとなったカルトムービー。ストーリーは余分な説明を大胆に省略し、映像はスタイリッシュでノワール調(?)だが、正直、清順好きじゃないとちょっとつらいかも。真里アンヌのエキゾチックな魅力はたまりませんが……。意外と出番が少なかったのが残念。自身満々の殺し屋ナンバー3・花田が徐々に狂っていく様が面白く、その結末には哀しさも漂う。


コンスタンティン
Constantine
監督:フランシス・ローレンス 原案・脚本:ケビン・ブロドビン 脚本:フランク・カペロ
原作:ジェイミー・デラノ、ガース・エニス 撮影:フィリップ・ルースロ
出演:キアヌ・リーブス、レイチェル・ワイズ、シア・ラブーフ、ジェイモン・フンスー、ティルダ・スゥイントン
2005年アメリカ/121分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.constantine.jp/ チラシ 1

 人には見えないものが見える特殊能力をつジョン・コンスタンティンは、かつて自殺未遂をしたことで地獄行きが決まっている我が身を、なんとか天国に行かれるようにと、この世の悪魔たちを地獄に送り返す日々を送っている。そんなある日、女刑事アンジェラが彼の元を訪れ、不審な死を遂げた双子の妹イザベラの背後に何が潜んでいるのか、その調査に力を貸すように依頼されるが……。
 ダークなヒーロー、ジョン・コンスタンティンが活躍するアメコミ「ヘルブレイザー」を映画化。主人公は生まれ持った能力のために苦悩する人生を送っており、そのためにとても皮肉屋で、悪魔退治をしているのも、あくまで自分のため……という、ヒーローといっても、かなり自分勝手でアウトローで熱血漢でも正義感に溢れるわけでもない。そんな主人公の人物像は、話に聞く原作に忠実なのだろうけど(原作は未読)、そもそも日本では原作が全く認知されていないわけで、じゃあどのようにこの映画を楽しめば……というと、やはりビジュアルになってしまうんだろうか。MTV出身の監督なだけに、VFXや画はとても凝っているんだけども、そうしたVFXもすっかり見慣れてしまった昨今、特に驚くほどでもないし、どうも全体的にそうした要所要所の見せ方に凝ったために他が(ストーリーなども含め)お粗末になった印象もあり。これといった新しい要素も見受けられず、ただなぞるように物語が進んで終わった2時間だった気がする。う〜ん。レイチェル・ワイズがキレイだったなぁ……ってくらい?(笑)


コンタクト
Contact
監督・製作:ロバート・ゼメキス 原作:カール・セーガン
出演:ジョディー・フォスター、マシュー・マコノヒー、ジョン・ハート、ジェームズ・ウッズ、デビッド・モース
1997年アメリカ/150分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 カール・セーガンの小説を映像化した作品。現代を舞台にしたSF映画。宇宙からの交信を夢見て、周囲から冷たくされながらも自らの信念を通していた主人公の科学者エリー。彼女がついに未知の音波をキャッチした。当然、それは国家レベルでのニュースになり・・。というのが物語の発端。この映画は単にそうしたSF的なものを描くだけでなく、人間ドラマとしてもとてもよくできあがっていて、そこが見所。実際に宇宙からの信号をキャッチしたら、人々はどう対処するか、どう反応するかがとてもリアルだと思うし、なによりも、宇宙とコンタクトするという未知の体験をすることで、エリーがどのように変わるか、なにをもたらされるかを描いている。そして終盤の展開は、「2001年宇宙の旅」を思わせるようなところがあり、比較もされますが、そういった神秘的な、神、あるいは人間(自己の内面?)といったものを深く掘り下げようとした映画であろうと思う。2時間以上の長尺だが、芯のあるドラマで、ひきつけられました。


コンフェッション
Confessions of a Dangerous Mind
監督・製作:ジョージ・クルーニー 脚本:チャーリー・マウフマン 製作:スティーブン・ソダーバーグ
出演:サム・ロックウェル、ドリュー・バリモア、ジョージ・クルーニー、ジュリア・ロバーツ、ルドガー・ハウアー、マギー・ギレンホール
2002年アメリカ/113分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.confession.jp/ チラシ 1

 1960年代のアメリカ、テレビの可能性にいち早く着目したチャック・バリスは、様々な娯楽番組の企画を考えてテレビ局に売り込むが、いずれも採用されず、悶々とした日々を過ごす。ある日、バーで酒に酔っていたいたところ、CIAの工作員だという男ジムに声をかけられる。彼はある仕事を引き受けてくれれば、多額な報酬を支払うとチャックに持ちかけるのだが……。
 70年代に「ゴング・ショー」などの視聴者参加型娯楽番組を生み出し、一世を風靡したプロデューサー兼司会者のチャック・バリスが、自分は裏ではCIA工作員として殺人を行っていたと記した自伝書を、ジョージ・クルーニーが初監督で映画化(ちなみに自伝に記された内容の真偽は今でも謎)。昼はテレビプロデューサー、夜はCIAの工作員。こんな面白い題材で風変わりな男の自伝を描くというのは、着想としてとても面白いと思うし、これを脚本にするところがいかにもチャーリー・カウフマンらしいと思いました。しかして、その脚本を映画化したのがジョージ・クルーニー。初監督作ということで、どんなものかと思いきや、これがなんとも質が高くて手堅い。何しろ画面がすごく綺麗。ちょっと古めかしさを醸し出す色使いとざらついた画面、照明の加減による陰影、抑えた演出、奇想な場面の切り替えなどなど、初めての監督なのに独特の雰囲気がとても出ていると思いました。ただ、そのぶん、あまりにしっくりとしっかりと作られているので、どうも盛り上がりに欠けましたね。あえてそうしたのかもしれませんけど、もうちょっと主人公の錯乱ぶり(?)をわかりやすく描いてくれてもなぁ……と思いました。話は面白いし、撮り方もむちゃくちゃ綺麗で質が高い。けれどいたって地味で、これでは一般受けはしないだろうなぁ…というのがひしひしと。なんだかアート系の単館公開のほうがよかったのではないかと思いました(買い付けの値段が高かったんだろうからしょうがないだろうけど)。決して悪い作品ではいけれど、積極的に「楽しい」とか「感動する」とかいうものとは違う気がしますね。いい脚本、俳優、監督…なんだか映画のお勉強にいったような感じで、興味のある人なら観て損はないと思うんですけどね。出来のよさは素直に認められる作品だと思います。