空中庭園
Hanging Garden
監督・脚本:豊田利晃 原作:角田光代
出演:小泉今日子、鈴木杏、板尾創路、広田雅裕、國村隼、瑛太、今宿麻美、勝地涼、ソニン、永作博美、大楠道代
2005年日本/114分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://kuutyuu.com/
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 何事も包み隠さず、タブーを作らず、すべてを分かち合う。そんなルールのもと、フランクな家庭を築いている主婦・絵里子。しかし、そんなルールとは裏腹に夫は愛人を作り、娘や息子は学校をサボりがちで、ふらふらとしていることに薄々気が付いていた。また、絵里子自身もひとつだけ家族に隠していることがあった……。
 原作読んでないし、豊田監督の作品も観たことないので、そうしたものとの比較はできないんだけど、想像するに原作の持ち味をよく活かせているんじゃないかと思う。「互いに隠し事はしない」という家族のルールが平然と、だがごく自然に破られている現状が徐々に明らかになっていき、それと同時に絵里子の仮面の下に隠された素顔が露呈していく。そして、母親との対峙を経てたどりつく結末は、痛々しく、空々しいのにどこか重たい空気を常に携えた本作の少しの希望になっているのかもしれない(原作とラストが少し違うらしいのだが)。オープニングのふわふわと漂うカメラワークがまさに「空中庭園」というタイトルを表現して、“地に足がついていない”家族の実態をうまく象徴している気がした。全体としてよくまとまっているんだろうけど、好き嫌いはわかれる映画かもしれない。
☆☆★★★


クジラの島の少女
Whale Rider
監督・脚本:ニキ・カーロ
出演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、ラウィリ・パラテーン、ヴィッキー・ホートン、クリフ・カーティス
2003年ニュージーランド/102分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.herald-arthouse.com/kujira/ チラシ 1


 ニュージーランドの浜辺の小さな村。ここには1000年前、勇者パイケアがクジラに乗ってやってきたという伝説があり、村に住むマオリ族はその末裔だった。今、族長コロの息子ポロランギに双子が生まれる。しかし、難産の結果、弟と母は直後に他界、ひとり生き残った女の子にポロランギはパイケアと名付ける。しかし、あくまで後継ぎの男子を望んでいたコロは冷たく、落胆したポロランギは村を去る。それから12年、少女になったパイケアは祖父母とともに穏かに生活していた。祖父も表面上は優しかったが、あくまで女であるパイケアを認めようとはしないのだった。
 ニュージーランドの自然のなんと美しいこと! いや、観るところはもちろんそれだけではないんですが、本当に溜息がでそうっていうか、行ってみたいというか。随所に何気なく、そういった自然の美しさをカメラに収めつつ進行するドラマに、現代でありながらもファンタジーな世界観もちらり。そして少女パイケアを演じるケイシャ・キャッスル=ヒューズ、すごく巧いです。かわいいし(笑)。初めての演技にして、惜しむらくはあんまり笑顔がなかったのは残念ですが(そういう映画だが)、あの影のある、それでいて純真な心の強さを体現するような表情は、とても素敵です。頑ななおじいちゃんに冷たくされても、「おじいちゃんは悪くないの」。なんて良い子なんでしょ。そしておじいちゃんのほうも、一見すると酷いかもしれないけれど、彼は彼なりの正義というか信念があり。それは現代社会では完全に失われているものかもしれないけど、「伝統を守る」ということ。それに縛られすぎるのはバカバカしいかもしれないけれど、祖先を大切にし、誇りに思う心は決して悪いことではないでしょう。パイケアはそれを理解していたと思う。そしてその上で、伝統には反するかもしれないけれど、自分を認めて欲しいと思って頑張る。その健気な姿がなんともいじらしい。そして、最後に起こる奇跡……。最初にも書きましたけど、自然の描写が切ないほどに綺麗で、海の中を悠然と漂うクジラの姿が何度か映るんですが、その姿には畏敬の念を抱かせるものがあります。自然の生んだものの偉大さを感じます。現代の社会が抱える伝統と個の喪失といったテーマ性に少女の心の成長が絶妙にブレンドされたストーリー、それを真正面から見据える力強さ、心洗われる美しい風景、確かな演技力の役者たち……文句のつけどころナシ。観て間違いナシ。


クジラの跳躍
Glassy Ocean
監督・原作・脚色・イラストレーション:たむらしげる
声の出演:永井一郎、永瀬正敏、三谷昇
1998年日本/23分/配給:メディア・ボックス


 絵本作家にしてデジタルアニメーション作家のたむらしげる氏が、自身の同名絵本を映像化した短編アニメーション映画。たむら氏の創造した架空の小さな星・ファンタスマゴリア。そこにあるガラスの海。その名の通り、海がガラスでできている。そこに暮らすものは時間がゆっくり流れる。半日かけたクジラの跳躍。それを見た人々は、それぞれの過去を思い出す・・・。
 2Dのアニメーションと、3Dで描かれたガラスの海が、見事に融合して美しい映像をかもし出している。静かに流れる時を、そのまま感じられるような、そんな作品です。映像の美しさと、手使海ユトロによる音楽、永瀬正敏の落ち着いたナレーションがなんともよくマッチしていて心地よい。第2回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞作。
 劇場映画として公開された際は94年にビデオで発売されたたむらしげる初映像作品である「銀河の魚」と短編アニメーション作品「a peace of PHANTASMAGORIA」(99年に全15編を集めてビデオ化)からの数編と同時上映で「クリスタリゼーション」という映画として公開された。たむら氏でなければ生み出せないであろう、最高のオリジナリティと静かな美しさに魅了されます。氏の次回作が楽しみです。


グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち
Good Will Hunting
監督:ガス・ヴァン・サント 脚本:ベン・アフレック、マット・デイモン
出演:マット・デイモン、ロビン・ウィリアムズ、ミニー・ドライヴァー、ステラン・スカルスゲールド、ベン・アフレック
1997年アメリカ/127分/配給:松竹富士


 どんな難問もあっというまに解けてしまう、まさに天才というべき頭脳をもったウィル。しかし、彼は愛されることを知らずに育ち、心に深く傷を負っていた。そんな彼を見出した数学教授ランボーは、精神科医ショーンにウィルのセラピーを依頼する。頑なだったウィルも、同じく心に傷をもつショーンに次第に心を開いてゆき、やがて二人はそれぞれの「旅立ち」を見つける。過去に傷をもち、人を信頼することができない青年が、傷を克服して成長していく姿を描いたヒューマンドラマ。ウィルとショーンという、青年と中年が、それぞれ友情にも似た信頼を獲得していく様は、真に人間同士が向き合っているようで感動できます。脚本をマッド・デイモンとウィルの親友役で出演しているベン・アフレックが担当しているところも興味深い(アカデミー賞で、脚本賞を受賞)。そして、作中でもこの二人が、本当の友情を見せてくれるところがとても印象深く残っています。


グッバイ、レーニン!
Good Bye, Lenin
監督・脚本:ウォルフガング・ベッカー 脚本:ベルント・リヒテンベルグ
出演:ダニエル・ブリュール、カトリーン・ザース、マリア・シモン、チュルパン・ハマートヴァ
2003年ドイツ/121分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ

公式サイト http://www.gaga.ne.jp/lenin/ チラシ 1

 ベルリンの壁崩壊前の東ドイツに暮らす青年アレックス。彼の家では10年前に父が西側へ亡命、以降、母はより強く社会主義に傾倒していった。しかし、ある時、アレックスは反社会主義デモに参加し、警察に連行される。その現場を目撃した母は心臓発作を起こして倒れてしまう。8ヶ月間の昏睡状態が続いた後、奇跡的に意識を取り戻した母だが、その間にベルリンの壁は崩壊し、社会は急激に変化していた。医者から「今度大きなショックを与えたら危ない」と警告されたアレックスは、母のために依然として東ドイツの体制が続いているフリをするのだが……。
 本国ドイツで大ヒットを記録し、ドイツ・アカデミー賞を総なめ。ところどころに笑いを誘うシーンを盛り込みながらも、母を想う息子の気持ちを一途に描く。でも、さすがにマザコン過ぎ? 基本的に軽い気持ちで観てOKだと思いますけど、きちんと手堅くドラマもしているので、満足度は高いです。ドイツで大ヒットしたというのも、きっとこれはかつての体制を経験している人たちにとっては、我が身の如く思える部分が多々あるからでしょうね。残念ながら自分にはそこまでは感じることができませんでしたけど、時代が急速に流れ、先が見えない不安な時期という点では、今の日本も実はそう変わらないんじゃないかな、と。そして劇中でアレックスが語るように、「母に見せようと思って作っていた世界は、実は自分が求める、昔のままで心安らげる理想の場所だった」という。確かに、自分も過去を振り返って、あの頃は……なんて思うことはあります。携帯電話もパソコンもなかった時代なんかを。今を否定する気はないけど、過去には過去の良さがあった。懐古主義ではないですけど、誰しにも、そういうことを、ふと思う時ってあるんじゃないでしょうかね。そう考えると、この映画もちょっと泣けてくる。でも、基本はコミカルで笑ってみてOKかと。テンポもしっかりしているし、キャラもたっているし、そして意外と含みのあるラスト(母はララからきいて知っていったのでは?)と、いろいろあってお薦めです。


蜘蛛巣城
Throne of Blood
監督・製作・脚本:黒澤明 脚本:小国英雄、橋本忍、菊島隆三 撮影:中井朝一 原作:ウィリアム・シェイクスピア
出演:三船敏郎、山田五十鈴、志村喬、久保明、太刀川洋一、千秋実
1957年日本/110分/配給:東宝


 謀反を起こした敵を討ち取った武将・鷲津武時は、城に帰る途中、森の中で怪しげな老婆に出会い不思議な予言を受ける。その予言が現実となり、その話をきいた妻は夫をそそのかし、欲望と疑心暗鬼にのまれた武時は主を暗殺し、自ら城主の座に君臨するのだが……。
 シェイクスピアの「マクベス」を戦国時代に翻訳。時代劇であり、実物大の城のセットや大規模な軍勢は圧巻だが、大掛かりな合戦シーンがあったりするわけではなく、欲望にかられた人間が次第に狂気じみ、破滅していく様を描いた心理劇としてみるものだろう。クライマックスの矢ぶすまのシーンには、思わず言葉を失う。それほど恐ろしいのだ。


雲のむこう、約束の場所
The Place Promised in Our Early Days
監督・脚本・原作:新海誠 音楽:天門
声の出演:吉岡秀隆、萩原聖人、南里侑香、石塚運昇、井上和彦、水野理紗
2004年日本/91分/配給:コミックス・ウェーブ

公式サイト http://www.kumonomukou.com/ チラシ 12

 津軽海峡を境界に、南北に分断統治されたもうひとつの戦後日本。米軍統治下の青森に住む中学生のヒロキとタクヤは、同級生のサユリに憧れを抱いていた。2人はまた、海を挟んだユニオン占領かの北海道の地にそびえる、空までのびる謎の塔を見つめながら、いつかあの塔まで飛ぼうと、密かに飛行機を組み立てていた。しかし、中学3年の夏休みが終わったとき、サユリは何の音沙汰もなく転校し、2人の飛行機作りの情熱もいつか消えていった。それから3年、ヒロキとタクヤは別々の道を歩んでいたのだが……。
 たったひとりで25分のアニメ『ほしのこえ』を作り、その完成度とともに独特の作品世界観で絶賛された新海誠の初長編作品。今回は複数のスタッフを動員してはいるが、従来のアニメのようにスタジオ制作でないのはかわらず。『ほしのこえ』をみたときは、プロレベルのスタッフを入れて作れば面白いかも……と思いましたが、なるほど確かに前作よりスケールアップして、91分という長尺に仕上げることも可能になったし、背景美術などもより洗練されたと思う。特に今回は前作以上に、現実的な風景が多いので、そのあたりは。しかし、やっぱり妙にSF的な話の内容やキャラデザインといった要素は、前作同様もともとアニメ好きな人間でないと、ちょっと受け入れにくい部分があるんじゃないかとは思いますが。一方、前作でも好評だった“切なさ”をかき立てる作風も健在で、「恋愛と郷愁」という2大テーマはそのままで、本当にこの人の描く風景は、やたらと日本の懐かしい風景が多くて、図らずも胸を締め付けられそうになってしまいそうだ。そうした詩的な映像表現は素晴らしいし、作家として今後が気になる存在であることは確かである。思うに、あんまり手を広げすぎるより、この人には短編から中編あたりが一番いいんじゃないかなと。映像作家としてはいいとして、ストーリーテラーとして、これ以上に話を広げることができるかどうかが、その分かれ目であると思うのだけれど。……と、まあ、なんだかんだ言いつつも、実はこの“空気感”や雰囲気が結構好きだったりする。こういうアニメは意外と他にない。


暗い日曜日
Gloomy Sunday
監督・脚本:ロルフ・シューベル
出演:エリカ・マロジャーン、ステファノ・ディオニジ、ヨアヒム・クロール、ベン・ベッカー
1999年ドイツ+ハンガリー/115分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gloomysunday.jp/ チラシ 1


 1930年代末、ハンガリーのブタペストに一軒のレストランがオープンする。支配人のラズロと、その恋人イロナは、店内で演奏するピアニストに、アラディという青年を雇う。やがてアラディとイロナは惹かれあうが、ラズロもそれを認め、3人は別れることなく、愛を共有しあう不思議な関係へ発展していった。そんな時、アラディはイロナの誕生日プレゼントンに、自ら作曲した「暗い日曜日」という曲を捧げる。物悲しくも美しい旋律のこの曲は、ラズロの力添えもあってレコード化され、瞬く間に世界中でヒットとなる。しかし、この曲を聴きながら自殺をするものが後を断たず、いつしか「自殺の聖歌」と言われるようになってしまった。さらに、同時期、ナチス・ドイツがハンガリーに侵攻。3人の運命は次第に狂い始める・・・。
 実在する(と言わなくとも知ってる人は知ってるでしょう)シャンソンの名曲「暗い日曜日」の誕生に待つわる謎に、男女の恋愛を絡めて描いたドラマ。タイトル曲からして、概ね想像はできるでしょうが、やはりちょっと重いですね。それほど暗いわけではないのですが、悲しいです。3人の関係・・・普通に考えたら、優柔不断とか倫理的でないとか言われるでしょうか。確かにそうかもしれませんが、映画の中で語られるように、人間の欲とは深いもの。何かが欲しい。何かを得たくない。この映画の登場人物は、見事にそれが根底に動いているようでした。それが悲劇でもあるのですが。タイトルでもある「暗い日曜日」の意味、アラディがこめたメッセージ・・・ちょっと深くて考えさせられます。なかなか良かったですよ。登場人物が少ない中でよく描けてると思いました。個人的には、主演のエリカ・マロジャーンの美しさに惚れ惚れ。まじで、すっげー綺麗です・・・。


クラッシュ
Crash
監督・原案・脚本:ポール・ハギス 脚本:ボビー・モレスコ 撮影:ジェームズ・ミューロー 音楽:マーク・アイシャム
出演:サンドラ・ブロック、ドン・チードル、マット・ディロン、ジェニファー・エスポジト、サンディ・ニュートン、ライアン・フィリップ、ブレンダン・フレイザー、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、マイケル・ベニャ
2005年アメリカ/112分/配給:ムービーアイ
公式サイト http://www.crash-movie.jp/


 クリスマスの近いロサンゼルス。刑事グラハムと同僚で恋人のリアは交通事故に巻き込まれてしまう。偶然、事故現場の道路脇では若者の死体が発見され、現場に警官たちがかけつけていた。グラハムもそちらの現場にひきつけられるが……。
 『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家ポール・ハギスのオリジナル脚本による監督デビュー作。ひとつの事故を起点に、ロサンゼルスに暮らす様々な人種・職業・階層の人々の人生が交錯していく群像劇。登場人物は最初、みんながささくれだっていて、他人を人種や見た目で差別化し、決定付けようとする。それによって引き起こされるちょっとしたいざこざが絡まりあって、悲劇を生んでいく。「ぶつかりあって、それでも人は生きていく」というのは宣伝文句そのままだが、この映画はまさにその通りなのだ。最初はなんで彼らはこんなに嫌な人間なんだろうと思ってみていたが、ふと思えば、自分も日々嫌なことが積み重なっていくと、ついつい他人に対してささくれだった気持ちになってしまうなぁ……と。そんな気持ちで人とぶつかって、結果として自分が傷付き、それでもやはり人であるからには人と寄り添って生きていかなければならない……。そんな人々の心の痛みや叫びを、この映画は見事に切り取っている。
☆★★★★


グラディエーター
Gladoator
監督:リドリー・スコット
出演:ラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス、コニー・ニールセン、オリバー・リード、リチャード・ハリス
2000年アメリカ/155分/配給:UIP
公式サイト http://www.uipjapan.com/gladiator/


 中世ローマを舞台に繰り広げられる一人の男の復讐劇。次期皇帝の座を約束された将軍マキシマスだが、皇帝の息子コモデゥスの策略により家族や地位を奪われ、一介の剣闘士(グラディエーター)として生きていくことに・・・。
 コロシアムがすべてCGで描かれていると、観たあとに聞いてびっくり。栄光ある立場から一転して、奴隷の立場に。しかし、そこでも持ち前の腕で再び脚光を浴び始める様は、本当の強さをもった男の生き様が見える。しかし、ただ強いだけではない男の生きた道は・・・。なによりもラッセル・クロウがハマリ役といった感じで、ただ腕っ節が強いだけじゃない、意志の強さをもち、それでいて優しさと苦悩する部分を持ち合わせた男を見事に演じていると思いました。第73回アカデミー賞作品賞受賞作。


グリーンマイル
The Green Mile
監督・製作・脚本:フランク・ダラボン 原作:スティーブン・キング
出演:トム・ハンクス、マイケル・クラーク・ダンカン、デビット・モース
1999年アメリカ/188分/配給:ギャガ・ヒューマックス


 1935年のアメリカ大恐慌時代、ジョージア州のコールド・マウンテン刑務所の死刑囚官舎で看守主任を務めるポールのもとに、巨漢の黒人ジョン・コーフィが送られてくる。二人の少女を殺した罪で投獄されたのだが、彼はその巨体とは裏腹に心優しい男だった。そして信じられないことに、彼は人の傷や病を治癒する奇跡のような力をもっていた。「ショーシャンクの空に」と同じくスティーブン・キング原作&フランク・ダラボン監督コンビが送る感動作で、188分という上映時間も気にならないほど、みせられます。しかし、やはりどうしても「ショーシャンク〜」と比べてしまうところ。あちらよりもフィクションの要素が強く、小さくまとまっているような印象を受けました。だが、どちらにしても感動の名作であることに変わりはないですけど。


クリクリのいた夏
Les Enfants du Marais
監督:ジャン・ペッケル
出演:ジャック・ガンブラン、ジャック・ヴィユレ
1999年フランス/115分/配給:シネマパリジャン


 1930年のフランス。大自然に囲まれた沼地で自給自足の生活を送る人々の心温まるドラマ。復員兵のガリスは、偶然通りかかったこの沼地で、一人の老人の最期を看取る。老人の遺言で、そのままそこで暮らすことになったガリス。隣人のリトンは二人の息子と一人の娘クリクリと、妻との暮らし。でもおつむがちょっと弱い彼の尻拭いをするのはいっつもガリスで…。
 美しい自然に囲まれた人々の優しさ。何か凄いドラマが起こるわけじゃないけど、ちょっとした喧嘩とか、恋とか、そして友情とか…。本当の「自由」があった時代の、優しいヒューマンドラマ。是非、みてください。この映画が面白いかどうかは別としても、僕としては批判してほしくない映画です。そんな意地悪な人とはつきあいたくない。人の心の根底には、こういう優しさが必要なんだって思います。衝撃的なほどの映画ではないけど、いつでも取り出せる心の引き出しにしまっておいて、クリクリの、登場人物たちの、暖かい日差しに照らされた笑顔を、たまに覗き込んで、幸せな気持ちをかみしめたい。


クリミナル・ラヴァーズ
Les Amants Criminels
監督・脚本:フランソワ・オゾン 脚本: アナベル・ペリション、マルシア・ロマーノ
出演:ナターシャ・レニエ、ジェレミー・レニエ、ミキ・マノイロヴィッチ、サリム・ケシュシュ
1999年フランス+日本/95分/配給:ユーロスペース


 ある夜、高校生のアリスとリュックは静まり返った学校の体育館にやってくる。アリスが1人で奥のシャワー室に向かうと、そこにはアリスと同じクラスのサイードがいた。サイードがアリスを抱き、それを陰から見守るリュックだったが、アリスが目配せをした刹那、リュックは隠し持っていたナイフでサイードを刺し殺す。2人は死体を車のトランクに隠し、森に向かう。そして、穴を掘って死体を埋めるが帰りの道に迷ってしまい……。
 まあ、タイトルどおり“罪を犯した恋人たち”のお話で、旧約聖書のアダムとイブもモチーフに含まれているんだろうなと思う(野生の動物たちに囲まれて裸で抱き合うのも、どこか原初的なものを連想させるし)。アリスは別に蛇にそそのかされて知恵の実を食べたわけではないが、少なくとも純朴なリュックを犯罪に誘ったわけで。でも、殺意のきっかけを作ったのがサイードだとすれば、彼が蛇にあたるとも解釈できるけど、そういう風に見るのは穿ち過ぎかもしれない。ただ、仮にそうであったとしても、リュックとアリスは結局それぞれが心の奥底では別の人を見つめていたという歪んだ心理状態や、中盤の男同士のあれこれといったところも含め、ある意味オゾンらしい変態っぷりが随所に散らばっていて、一筋縄ではいかない。そこが面白い。


クリムゾン・リバー
Les Rivieres Pourpres
監督・脚本:マチュー・カソビッツ
出演:ジャン・レノ、ヴァンサン・カッセル
2000年フランス/105分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/crimsonriver/


 アルプスに近い閉鎖的な村ゲルノンで、大学職員が無惨な死体となって発見された。パリ警察から派遣されたニーマンスは、村の中心ともなっている大学から捜査を開始する。一方、遠く離れた田舎町ザルザックでは、20年前に事故死した少女の墓が暴かれるという事件が発生。新人捜査官のマックスが捜査にあたっていた。一見、何の関わりもないこの2つの事件が、やがて交差し、二人は協力して事件を追うことになる…。
 ジャン・レノとヴァンサン・カッセルという2大スターの共演が見ものの本作。作品自体も悪くない。が、どうもいまいち消化不良な気もする。犯人の動機は、まぁわかったとしても、猟奇的な殺し方をする必要性はどこにあったのか?(見せしめのため?)とか、そのへんがいまいち説明不足な気がします。とりあえすサスペンス風につくってみせました…という感じも受けなくはない。主役二人にしても、割とあっさりと描かれてる気がしますが、あんまり確執があってどうのこうの…っていうのもくどいんで、これはこれでよいでしょう。最初のほうにあったマックスの格闘シーンを見ると、監督は格闘ゲーム好き? ラストにもつなっがると思えばいいんですが、ちょっとあの格闘シーンは浮いてる気がしました。なんとなく、事件の背景や経過について、説明不足な印象は受けますが、まぁ主演二人のかっこよさは楽しめるので良いと思います。また、こういう作品でも、完全なフランス映画ってところも好きです(台詞がフランス語。響きがなんとなくいい)。映像や雰囲気、カメラワークなど、素質はとっても良い作品だと思うので、監督の次回作に期待したい。こうした表面的な描写はさらに発展させつつ、もっと人物の内面というか、そういったものもがっちり描いてくれれば、さらなる大作として面白くできるはず。ハリウッドにはいかずに、そういうのをフランスで作ってほしい。


クレイジー/ビューティフル
Crazy / Beautiful
監督:ジョン・ストックウェル
出演:キルステン・ダンスト、ジェイ・ヘルナンデス
2001年アメリカ/99分/劇場未公開(ビデオリリース:ブエナビスタ)


 家は貧しいが真面目で勤勉な青年カルロスは、ある日、破天荒で校則破りも常習のニコールという少女に出会う。翌日、さっそく校内で顔を合わせた2人。タイプの異なる2人だが、互いにない魅力に強く惹かれあっていくが、それぞれの家族が2人の関係を認めなかった。
 よくあるティーンムービーかなぁ・・・と思っていたら、意外としっかりしてました。画面も結構綺麗だし。要は過去の傷から、ある意味で自虐的に心を閉じていた少女が一人の青年によって救われていくお話かなぁ、と。そして同時に父と娘の話でもありました。当たり前のことに気がつかずに傷つけあってしまう父と娘という。かなりシリアスなので、軽い気持ちだったのがいつのまにか見入っていたりして。ところで、やっぱりキルステン・ダンストには笑顔が一番似合ってるかな。笑っている彼女はとっても素敵なのでした。


クローサー
Closer
監督・製作:マイク・ニコルズ 原作・脚本:パトリック・マーバー
出演:ジュード・ロウ、ジュリア・ロバーツ、ナタリー・ポートマン、クライブ・オーウェン
2004年アメリカ/103分/配給:ソニー・ピクチャーズ

公式サイト http://www.sonypictures.jp/movies/closer/ チラシ 12

 小説家志望のジャーナリスト、ダンは、ニューヨークからやってきたストリッパーのアリスと出会い、同棲を始める。やがて念願の小説を出版することになったダンは、撮影スタジオで出会った写真家のアンナに一目惚れしてしまうが、アンナはアリスの存在を知り、身を引く。そして、ある日、ダンのちょっとしたイタズラから医者のラリーと知り合ったアンナは、彼と結婚するのだが……。
 ロンドンを舞台に繰り広げられる男女4人の恋愛劇。世界中で上演された人気舞台を原作者自ら脚色し、映画化した。舞台版を知らないのだけれど、どうやらかなり忠実に映画化したのでは……というところ。場面が転換するたびに時間がかなり経過していて、その都度、各々の関係に変化が生じているのは面白かった。ただ、話としては正直ちょっとついていかれないなぁ……というか、これが大人の恋愛だと言われたら、自分がまだガキなだけなのかもしれないが。ただ、役者はよくて、特にともにゴールデン・グローブ賞を受賞して、アカデミー賞の候補になったナタリー・ポートマンとクライブ・オーウェンは、それぞれストリッパー、優しいけどやや偏執的な男とう、これまでのイメージとは異なる役を熱演して、非常に魅力的だった(役者として。キャラクター的にアリスはいいが、ラリーはちょっと……)。ま、あとは英語がわかれば、言葉のやりとりが非常に面白いんだろうなと思うんだけど(strangerとかbusterとか、同じ言葉が何回も出てくる。この映画は会話こそが肝だから)、なかなかそれも難しいですからね。
☆☆★★★


クローン
Impostor
監督・製作:ゲイリー・フレダー 製作:ゲイリー・シニーズ 原作:フィリップ・K・ディック
出演:ゲイリー・シニーズ、マデリーン・ストウ、ヴィンセント・ドノフリオ
2001年アメリカ/102分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.clone-jp.com/


 フィリップ・K・ディックの原作小説を映画化。超高度な科学力をもった惑星ケンタウリからの侵略に長らく抵抗し続ける未来の地球。米軍で兵器開発を担当してる天才科学者スペンサーはある日突然、軍保安局に監禁される。実はスペンサーは、ケンタウリの送り込んだサイボーグであり、本物のスペンサーは既に殺されているという。感情、記憶、全てをコピーする為、本人にもそれがわからないのだと言われ、スペンサーは殺されることになるが、からくも脱出し、逃亡を続けるのだが・・・。
 SF映画かと思いきや、とちらかといえばサスペンス・スリラー。ひたすらに追って追われて・・・の苦しい場面が連続する。そのために観ていてちょっと疲れるところがある。個人的な好みにあわないというものあるが、なんだか、ただただ怖がらせよう、スリルを味わせよう、というような作りに感じてしまって、あまりいただけない・・・。主人公の幻覚作用による、思わせぶりなフラッシュバックなんかも多用されているんですが、視覚的に疲れるだけで、あんまり意味がなかったような・・・。全く逃げ場のないように思える主人公が、最終的にどうなってしまうのか…。その結末には一工夫がなされていて良いのですが、どうしても全体的にみて粗いような印象を僕は受けました。ゲイリー・シニーズは好きな役者さんなので良いのですが、追っ手を演じるヴィンセント・ドノフリオの演技がどうも大仰に見えてしまって違和感を感じたのも、なじめなかったひとつの理由であります。しっかも必死になって追っかける理由に説得力がない。それに加えてラストではいきなりあの態度…。う〜ん、もうちょっと丁寧に描いてほしかったです。