マーサの幸せレシピ
Bella Martha
監督・脚本:サンドラ・ネットルベック
出演:マルティナ・ゲデック、セルジョ・カスタリット、マクシナ・フェルステ
2001年ドイツ/105分/配給:アミューズピクチャーズ
公式サイト http://www.martha.jp/ チラシ 12

 ドイツの洒落たフランス料理店で働くシェフのマーサは、絶対的な味覚と料理の腕を持っていたが、人との付き合いが下手で、仕事一筋に生きてきた独身。ある日、たった一人の姉が交通事故で突然の他界。残された8歳の姪リナは、父親の行方も知れないため、マーサが引き取ることになった。しかし、母を失ったショックで心を閉ざしたままのリナは、一切食事もせず、マーサと衝突してうまくいかない日々を送っていた。一方、そんな時、マーサの厨房には、新たに雇われた陽気なイタリア人シェフ、マリオが現れるのだが…。
 頑固でプライドが高くて自信家のマーサが、同じような性格の姪と暮らすことで成長していくお話。かなり女性向けな印象を受けたけれど、どうなんでしょうね? たぶん、同じような境遇にいる女性にこそ、訴えるものが大きいんじゃないかなと思うんですけど。マーサとリナは似ている…とマーサが劇中でも語っていますが、確かに見ていると、マーサもリナも結局、愛情に不慣れな生活を送っていて、愛情の表し方がわからなくて互いに傷つけてしまう…っていう関係だった。だから、“大人”な人にはなんてことないテーマかもしれないけれど、そういう“大人”だって自信をもって言える人って、そうそういないんじゃないかなぁ。基本的にほのぼのムービーなのかと思っていたら、結構、暗いというか、重いというか、堅いというか。もうちょっとスカッとする爽やかさもあっていいものなのに、なんとなく地味でした。さすが堅実なドイツ人…って感じです。でも考えてみると、やっぱりこういう映画は好きです。優しいから。好感度は大きいですね。マーサも美人だし、リナもかわいいし。それにしても料理は美味しそうで、特にスパゲティが食べたくなりました。


マイ・ガール
My Girl
監督:ハワード・ジーフ
出演:アナ・クラムスキー、マコーレー・カルキン、ダン・エイクロイド、ジェイミー・リー・カーティス
1991年アメリカ/102分/

 72年のアメリカ、ペンシルバニア州マディソンで、葬儀屋を営む父と痴呆の進む祖母と暮らす11歳の少女ベータ。ある夏、遺体に死化粧を施すために雇われた美容師のシェリーがやってきて、父ハリーと次第に恋仲になっていく2人。なんとなくそれが気に入らないベータは、幼馴染で遊び友達の少年トーマスとその恋路にちょっかいを入れたりするのだが、上手くいかない。やがて、ベータ自身にも変化が訪れる……。
 思春期の少女が体験する一夏の恋、出会いと別れを描く。母親を知らずに育ち、新しい母親になるかもしれない女性の出現による父への不信、担任の先生への背伸びした恋、女の子とは遊ばず、病弱な少年を引き連れた悪戯……何か漠然とした不安や苛立ちを抱えながらも、やがて心身ともに訪れる変化に揺れる少女を、アナ・クラムスキーががんばって演じてます。が、ちょっとマセすぎじゃないですかねぇ…と思うのも正直なところなんですが、これ、全編を通してとてもわかりやすく描かれているストレートな青春感動モノなので、これはこれでいいかなと。演出なんかも、いい意味でわかりやすい反面、物足りなさも感じつつ、あまり重たくもなく、けれどちょっと切ない感動を味わいたい方にはちょうど良いのかなと思うさじ加減。全体としての筋はなかなか良いのですが、見ごたえという意味ではやや薄い印象なので、気軽に一夏の感動を経験したい方にオススメします。こういう少年・少女の成長モノは、なんていうか心が洗われる感じがして好きですけどね。


マイノリティ・リポート
Minority Report
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、マックス・フォン・シドー、ピーター・ストーメア
2002年アメリカ/145分/配給:20世紀フォックス
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/minority/ チラシ 12

 2054年のワシントン。プリコグと呼ばれる3人の予知能力者によって犯罪が予知され、犯罪予防局が未然に犯人を逮捕することにより、殺人事件はゼロ、犯罪自体も90%減少するという社会が訪れていた。犯罪予防局のチーフ、アンダートンはこの完璧なシステムを信じていたが、なんと彼自身が見知らぬ男を殺すことを予知されてしまい、彼はプリコグの1人を連れて逃亡を図る。
 スピルバーグ×トム・クルーズということで話題のSFアクション。スピルバーグといえば、昨年「A.I.」で近未来ものをやってくれましたが、あれがちょっといまいちだっただけに、本作も心配といえば心配。でも原作はフィリップ・K・ディックだし…と思ってみましたが、なかなか。「A.I.」も、ビジュアルは完璧だったけどお話がいまいちだったのに比べれば、今回は話も結構しっかりしてると思います。2時間半あるわけだけど、その長さは感じなかった。しかも、複雑なプロットをあまり説明しないで進めてるから、ちゃんと理解できず、勘違いな批判をしてる人もちらほらネットでは見かけますが。確かに突っ込みどころはあるにはありますが…。徹底的に作りこまれた未来世界の描写は「A.I.」にも負けず劣らずなのですが、「A.I.」で“見慣れてしまった”感があるだけに残念。で、あとはキャストがいまいち弱かったのも…。コリン・ファレルもあんまり活きてなかったですねぇ。トム・クルーズとの掛け合いをもっと見たかったのですが、ああいう終わり方になるとは思わなかったので。それにしても、原作がディックなわけだから、「ブレードランナー」のレプリカントよろしく、プリコグの悲哀なんかを描いてくれても面白かったかなぁ…と思うんですが、そこんとこはスピルバーグ。エンターテインメント色のほうが強いような気がしました。でも、かなり暗いスラムの描写とかスピルバーグっぽくないところもあって面白かったです(個人的にはピーター・ストーメアが闇医者役で出演してるあたりが好きです)。もっと暗くしてくれてよかったのになぁ…とは思います。やっぱり最終的に比較しちゃうのは「A.I.」よりも「ブレードランナー」ですね。


マイ・ボディガード
Man on Fire
監督:トニー・スコット 脚本:ブライアン・ヘルゲランド
出演:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、クリストファー・ウォーケン、ラダ・ミッチェル、ミッキー・ローク
2004年アメリカ/146分/配給:松竹、日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.mybodyguard.jp/ チラシ 12

 誘拐事件が多発するメキシコ・シティで実業家の9歳の娘ピタのボディガードに雇われたクリーシー。彼はかつてCIAに所属し、長年に渡り暗殺任務をこなしてきたが、そのために心は乾ききり、酒に浸る毎日を送っていた。しかし、純粋でひたむきなピタと触れ合ううちに、クリーシーは次第に人としての温かみを取り戻していき、ピタとクリーシーは互いにかけがいのない存在になっていく。だが、そんなある日、ついに誘拐犯の魔の手がピタにおよび、クリーシーは犯人たちとの銃撃戦に倒れ、目の前でピタを誘拐されてしまう……。
 全米でベストセラーとなったA・J・クィネル原作「燃える男」を映画化。原題はそのまま「Man on Fire」だが、邦題はなんとも腑抜けた『マイ・ボディガード』。映画の前半は確かに男と少女の交流が温かいが、後半は一転して復讐に燃えるクリーシーが犯人グループをひとりずつあぶりだし、拷問にかけて裁いていく。その一部の流血シーンのためにR-15指定にもなっている硬派なアクションなんだから、『マイ・ボディガード』はねぇだろうよ……と。そもそもトニー・スコットとデンゼル・ワシントンだぜ? そりゃ、『マイ・ボディガード』なんて甘ったるい邦題が似合うわけがない……と、思っていたんだけど、そういう方針の宣伝を見続けていた結果か、案外映画を観てみると、特に違和感を感じなかった。確かに硬派なアクションではあるが、男と少女の交流や絆が思っていた以上に僕の心には響いてしまったようだ。そりゃ、ダコタ・ファニングはかわいいけど、それだけじゃないと思うんだ。デンゼルの演技がいいのは言うまでもないけど。トニー・スコットの相変わらずの凝りまくった画作りは、ちょっとこの長尺では疲れるんだけど嫌いじゃないし、腕が確かな職人気質な人たちが集まってつくった映画だからか、地味ながら全体的に良かったですよ。ウォーケンの演じるキャラとかも含め。


マイライフ・アズ・ア・ドッグ
Mitt Liv Som Hund
監督・脚本:ラッセ・ハルストレム
出演:アントン・グランセリウス
1985年スウェーデン/102分/配給:フランス映画社

 少年イングマルはいつも愛犬シッカンと一緒だった。父親は外国へ出稼ぎに行ったまま帰らず、母親は病弱でヒステリー気味、兄はいじわる。そんな生活だけど、スプートニクに乗せられて宇宙に飛ばされたまま死んだライカ犬のことを思えば、自分のほうがまだマシだ。そんなことを思いつづけて日々を送っていたが、母の病状が悪化し、イングマルは叔父の暮らす田舎町へ行くことになった…。
 ラッセ監督お得意の、実に温かい人間ドラマ。この物語って、実は結構悲しい要素を多く含んでいる。イングマルの境遇は、お世辞にも幸福とはいえないはず。それなのに、悲劇的ではない、温かみを感じさせてくれるのが、この映画。どこまでも母親を愛する心と反してそれが伝わらない現実、仲の悪い兄、帰ってこない父親。それでも、田舎町での生活に溶け込み、ちょっと変わった住人たちや新たな友達との間で少年が生きていくその様が、温かい。
 イングマルにとって、愛犬シッカンの存在は非常に大きなものであったようだが、もう少しそのことに関する描写があってもよかったのではないかな? とも思う。彼の想いは、シッカンよりも母親に強く傾いていたような印象もあるのだが。あと、関係あるかないか、個人的にはイングマルの女の子関係が面白かった(?)。実家のほうでは、金髪おさげのしっかりした女の子らしいかわいい子と、田舎では一見すると少年のようなボーイッシュな少女と仲の良いイングマル君。なかなか隅に置けない(笑)。まぁ、少年の成長にあながち無関係ではない人物たちですからね。
 見終わったあとにも、なにかジーンと優しい温もりが心に残るのは、ラッセ監督の定番だけど、この作品だって、勿論後をひきますね。心のどこかに、あの田舎町の人々と暮らすイングマルの姿を留めておきたい。特にラストシーンが大好きです。


マイ・リトル・ガーデン
The Island of Bird Street
監督:ソーレン・クラーク=ヤコブセン
出演:ジョーダン・キズック、パトリック・バーギン
1997年デンマーク+ドイツ+イギリス/107分/

 実際にホロコーストを体験したという、ユダヤ人作家ウリ・オルレブの「壁のむこうの街」を映画化。第二次大戦下のポーランドで、ユダヤ人たちが"選別"と称して次々とナチスに連れ去られていった。そしてついに、街全体からユダヤ人を排斥しようと、大規模なホロコーストが行われた。父と伯父と三人で暮らしていた少年アレックスは、その時、父と伯父の機転により難を逃れ、ただ一人、無人と化した街に残った。「必ず戻る」という父の言葉を信じ、廃屋の中に隠れ家を築き、白ネズミのスノーと、「ロビンソン・クルーソー」を心の支えに生き抜いていく…。
 少年のひたむきな努力を淡々と描き、それでいて、随所に緊迫感のあるシーンを挿入して、飽きさせません。一人で生き抜いていきながらも、その中で様々な人々との出会いと別れが、大げさではなくとも静かに語られている点も、非常に良いです。そして最後には…。
 大作ではないけど、いい映画です。テーマ曲がこれまた泣かせてくれる旋律だし。主人公の少年は、決して美形とはいいがたい。それがリアリティをだしていていいんだけど、やはり、ちょっと気になってしまうときもあったりして。相手役の女の子はかわいいです。まぁそんなことは大したことじゃないですが、とにかく全編にわたってシナリオの進行具合なども上出来で、心に残る名作です。それにしても、「マイ・リトル・ガーデン」という邦題は微妙ですね。ビデオ屋でタイトルだけ見て選んだのですが、戦争を題材にしてるけど、結構メルヘンチックなのかも…なんて思ってしまった。まぁ、あるいはそのシビアな現実を、あえてかわいく名づけることで、ギャップを狙ってるのかもしれませんが。


魔王 THE ORGE
Ded Unhold
監督:フォルカー・シュレンドルフ 原作:ミシェル・トゥルニエ 出演:ジョン・マルコヴィッチ
1996年ドイツ+フランス+イギリス/118分/配給:ケイブルホーグ
公式サイト http://www.cablehogue.co.jp/OGRE/ogre.html チラシ 1

 第二次世界大戦直前のパリ。小さな時から内向的だったアベルは、子供のような純真さをもったまま大人になっていた。そのため人付き合いは下手だが、近所の子供たちとは仲が良かった。ある時、ふとしたことから少女強姦罪で摘発され、折りしもドイツ軍の侵攻にさらされていた前線へ送り出される。ほどなくして、ドイツ軍の捕虜となってしまうが、その従順さを買われ、ドイツ軍の士官学校で働くことを任される。さらに、子供になじめる彼は、近隣の村から少年をスカウトする任務を負わされる。
 なんと言おうか、映画的なエンターテインメント性はなく、非常に文学的な、手堅さというか奥深さというか。そういった雰囲気をもっている作品だと思います。第二次大戦時のドイツ軍というと、どうも悪役な描かれ方が多い気がするのですが、この作品で、主人公アベルはフランス人でありながら、敵国ドイツの中で強かに生き抜いていく。でも、そんなことは彼にとってあまり重要でないようだ。ただ、運命のもとに自分は生きていると。子供たちのために。直接的な戦争の悲惨さを表すような描写は少ないけど、そこに生きる人たちを描くことによって、戦時下の残酷さや異常さなんかも伝わってくる。マルコヴィッチは、いつも不思議な雰囲気をもった、難しい役どころが多い気がするけど、今作も彼ほどぴったりの人はいなかっただろうなぁ。彼なくしては、決してこの作品はできなかっただろうと思う。


マグノリア
Magnolia
監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズ、ジュリアン・ムーア、ジェイソン・ロバーズ、ウィリアム・H・メイシー、フィリップ・ベイカー・ホール、ジョン・C・ライリー、フィリップ・シーモア・ホフマン
1999年アメリカ/187分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.magnoliamovie.com/japan/

 病で死の床に伏せる大物プロディーサーと、その若い妻。彼を見守る看護士。彼の息子で音信が途絶えているが父とは別に有名になった男。末期癌に苦悩する人気クイズ番組の司会者と、彼を恨む娘。娘に恋する警察官。そのクイズ番組で天才ともてはやされる少年。同じ番組でかつて天才といわれ今は落ちぶれた男…。これらの人々が、皆、どこかでつながっている。そして、皆、どこか不幸を抱えている。そんな人々の24時間を描いた群集劇。
 これだけの人物をそれぞれ丹念に描いて、かつ、それぞれに不思議な繋がりをもたせる構成と脚本に拍手。ただ、それだけに長いんですけどね(189分)。いや、かなり長かった…。ただ、長いとは感じても、それがつまらないとは感じなかった。確かにもっとこざっぱりとまとめてもできたんじゃないかとは思うが、出来うる限りのことをやってみせたということで、これはこれでよいと思います。内容については、なんだか上手く言葉でいえません。「こんなことも起こるかもしれない」という偶然を描きつつ、それを感じさせない人間くさいドラマをひたすら続けていく。しかし、クライマックスで、“こんなことも起こる得るんだ”という、ある出来事で、皆がちょっとふっきれたようにみえる。ハッピーエンド? それともアンパッピー? それははっきりしないけど、僕にはちょっとだけ気持ちが軽くなって終わったような気がしました。人生どこで何が起こるかわからないけど、そのふとしたことで、自分の中の何かが変わるのかもしれません。とにかくこの映画は観てみないと…うまく言葉で表せないものがありますね。


マジェスティック
The Majestic
監督・製作:フランク・ダラボン
出演:ジム・キャリー、ローリー・ホールデン、マーティン・ランドー
2001年アメリカ/152分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.themajestic.jp/ チラシ 1

 「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」のフランク・ダラボン監督がおくる3つ目の感動の物語。事故で記憶を失った男と町の人々の心の交流を描く。1951年のハリウッド。新鋭脚本家のピーターは、ふとした誤解で共産党員であるとされ、赤狩りの対象になってしまう。新しい脚本も検閲に取り上げられ、絶望したピーターは酒を飲んで車を走らせる。しかし、その車は事故にあい、川に転落。ピーターも頭をうって記憶を失い、見知らぬ町の海岸に打ち上げられる。そこで一人の老人に拾われ、町に連れられるが、その町で彼は戦争で消息不明となったルークという若者であると皆に歓迎される。自分の名すら知らないピーターは戸惑うが、徐々にルークとして町に溶け込んでいく……。
 初監督作品が大絶賛され、今でも感動の名作として名高い「ショーシャンクの空に」で、第2作が5年後に撮った「グリーンマイル」。そして本作が3作目となる寡作なダラボン監督。今回もやはり、人々に希望と感動を与える物語なのですが。やっぱり、どうしても「ショーシャンク〜」と比較してしまいますね。宣伝もそういうふうにしてるし。で、こういう言い方はどうかと思いますが、率直に言えば、「グリーンマイル」より上だけど、「ショーシャンク〜」よりは下って感じです。話の筋立ては悪くないのですが、いまいち新鮮味に欠ける気もします。記憶を失った男…ということなら、もう少し謎解き要素もあってもいいかな、と思うのですが、観客はピーターがルークでないことを最初からわかってますから。あとは感動がどう与えられるか、ってことになってきますけどね。ピーターが熱弁をふるうクライマックスシーンは盛り上がって感動的。そこはいいんですが、やっぱりどうしても「ショーシャンク〜」の大きさに比べるとねぇ・・・規模が小さいっていうか。そういう見方をしないで、プレーンにこの作品を観れば悪くないんですけど。“「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」のフランク・ダラボン監督がおくる〜”なんていわれれば、どうしてもそう思っちゃうじゃないですか…。ジム・キャリーも良いですけどね。


マシニスト
The Machinist
監督:ブラッド・アンダーソン
出演:クリスチャン・ベイル、ジェニファー・ジェイソン・リー、アイタナ・サンチェス=ギヨン、ジョン・シャリアン
2004年スペイン+アメリカ/102分/配給:東芝エンタテインメント
公式サイト http://365sleepless.com/ チラシ 1

 機械工のトレバーは原因不明の不眠症に悩まされ、すでに365日一睡もしていなかった。それでも毎日工場に勤務し、単調な作業を繰り返していたが、ある日、自宅の冷蔵庫に見覚えのない不審な張り紙を見つける。さらに職場にアイバンと名乗る見慣れない男が現れ、次第に何かが狂いはじめる……。
 『ワンダーランド駅で』『セッション9』のブラッド・アンダーソン監督のサスペンス。何よりも驚きであり、話題でもあるのが、トレバー役のクリスチャン・ベイルの約30キロにも及ぶ減量。1年間眠れずにいる男を文字通り“体現”するために、全身の骨が浮き出るほどにやせこけた体は、ある意味とてもショッキングでもある。肝心の話のほうは、得体の知れない恐怖と猜疑が全編に満ちているのはいいにしても、結局のところはあまり驚きのない結末に落ち着いてしまい、雰囲気はいいだけに少々残念な感じ。要はクリスチャン・ベイルの痛々しい役作りのみに集約されてしまうんだよなぁ……。


魔女の宅急便
Kiki's Delivery Service
監督・脚本・プロディーサー:宮崎駿 音楽:久石譲
声の出演:高山みなみ、佐久間レイ、戸田恵子、山口勝平
1989年日本/112分/

 13歳になったら一人立ちして修行をするとう魔女のしきたりに則って、修行にでることにしたキキ。海の見える街に住むことになった彼女は、箒に乗って空を飛べる特技を活かして、配達屋を始めるが・・・。
 これまたジブリの、宮崎監督の代表作。かわいい魔女の奮闘記が微笑ましい。やはり、世界観が非常に美しく、また登場人物も魅力的。 全体的に結構あっさりしていて、ラストももう少しあってくれてもいいと思うんだけど、最後の一演出がとても後味よく、気持ちよく終わってくれる。あっさりしているとはいえ、ナウシカやラピュタのような冒険活劇とは違った、日常的な(魔女というのは非日常だけど、それをあたかも普通の少女と同じように描くこと)物語であるから、それはそれで良いのかも知れない。下手に盛り上がりすぎても、あの穏やかな世界観を損なってしまうかもしれないしね。キキもジジもかわいくって、見ていて夢を見させてくれる、そんな往年のジブリ&宮崎作品の特徴を、見事に備えた傑作品。


マスター・アンド・コマンダー
Master and Commander: The Far Side of the World
監督・製作・脚本:ピーター・ウィアー 脚本:ジョン・コリー
出演:ラッセル・クロウ、ポール・ベタニー、ビリー・ボイド、ジェームズ・ダーシー、マックス・パーキス、マックス・ベニッツ
2003年アメリカ/139分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.movies.co.jp/masterandcommander/ チラシ 1

 ナポレオンの快進撃が続く1805年。英国海軍の軍艦サプライズ号は、伝説的な艦長ジャック・オーブリーのもと、フランスの私掠船アケロン号拿捕の任に就くが……。
 パトリック・オブライアンによる原作は、アメリカでは誰もが一度は読んだことがある……というくらい有名らしい。さて、始まっていきなりの砲撃戦ほか、全編を通して非常にリアリティがありました。船そのものの様子や、乗組員達の衣裳やら。戦闘シーンも圧巻で、見ごたえは十分。カリスマ艦長のもと、困難な船旅に出るも、次々に襲う苦境に、疑心暗鬼に絡まれたり、犠牲を伴っていたりと、ドラマ展開も程よい感じでした。中でも12歳の少年兵ブレイクニーが、傷つきながら人々に学び、成長していく姿をさりげなく描いている点はとても好感度大。ただでさえ膨大な製作費がかかるといわれる海洋モノ(この映画はなんとミラマックス、ユニバーサル、20世紀フォックスの共同製作)、ここまで作りこめれば十分じゃないんでしょうか……と思う一方、どこか物足りなさも残るのは事実。見ごたえはあるんですけどねぇ。男だらけの骨太なドラマで、いいことはいいんですが。うーん、なんでだろう? ま、見て損はしたとは思いませんけど、かと言って絶対見とけというほどもでないかなぁ。事前の評判がそれほどでもなかったんで、そういう気持ちで見たら、意外と悪くないというポジティブな感想なんですけどね。


マッハ!
Ong-Bak
監督・製作:プラッチャヤー・ピンゲーオ
出演:トニー・ジャー、ペットターイ・ウォンカムラオ、プマワーリー・ヨートガモン
2003年タイ/105分/配給:クロックワークス、ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.mach-movie.jp/ チラシ 12

 タイの田舎、敬虔な仏教徒たちが暮らす村で崇められる神聖なる“オンバク”の仏像から首が切り落とされ、盗み出されてしまう。犯人は村の出身者で、今は万国で麻薬の密輸をしているドンだった。村に住む青年で古式ムエタイの使い手ティンは、嘆き悲しむ村の人々を救うため、オンバク像の首を取り戻しにバンコクへ単身旅立つが……。
 「一、CGを使いません。二、ワイヤーを使いません。三、スタントマンを使いません。四、早回しを使いません。五、最強の格闘技ムエタイを使います」という公約(?)の通り、全編これ、主人公ティンを演じるトニー・ジャーの目を見張るアクションが満載。格闘技には詳しくはありませんが、トニー・ジャーの肉体から繰り広げられる素晴らしくキレのよいパンチやキック、華麗な回し蹴りやら飛び膝蹴り、肘鉄などなど……常人とは思えない身のこなしと跳躍力(滞空時間の長いこと!!)……。まずはバンコクの街中で、追っ手から逃れるために障害物を軽々と飛び越えていき、次に紛れ込んだ闇格闘技場で、ついにその力と技を披露する。いや、人間って鍛えればここまでできるものかと変な感心をするばかり。もちろん、今までにも生身のアクションスターはいますが(それこそジャッキー・チェンとか)、ムエタイ専門(?)のアクションスターというのは記憶にないし、個人的にはハリウッド製の派手なばかりのアクションものはそんなに好きではないけど、こういう“本物”はいい。ジェット・リーもしかりだけど。ストーリーはきわめて単純で、だからこそアクションが際立つというか、トニー・ジャーのアクションが第一だからストーリーは別に普通に流れていれば問題なし。しかも、基本的に勧善懲悪ものだから、主人公ティンが正義の鉄拳を下して敵をバカスカ倒していく様はスカッとする。むやみやたらに拳を振るうのではなく、必要のない暴力は振るわないという精神性もなにげにきちんと貫かれていて、だからこそ余計に主人公がその力を発揮して悪党に立ち向かっていく様が気持ちよいのだ。とにかく、“本物”のすごさをとくと味わってください。こういっても百聞は一見にしかずなので、公式サイトで予告編をチェックしてみたくださいまし。


マッチスティック・メン
Matchstick Men
監督・製作:リドリー・スコット 脚本・製作:テッド・グリフィン 脚本:ニコラス・グリフィン 製作総指揮:ロバート・ゼメキス
出演:ニコラス・ケイジ、サム・ロックウェル、アリソン・ローマン、ブルース・マッギル、ブルース・アルトマン
2003年アメリカ/116分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.matchstick-men.jp/ チラシ 1

 ベテラン詐欺師のロイは、重度の強迫神経症で潔癖症。ドアの開け閉めも3回しなくては気がすまない、家の中は土足厳禁、受話器は使い終われば必ず拭き、食べる物はほとんどツナ缶だけ(しかも皿が汚れるのが嫌なので缶のまま)。そんな彼だが、詐欺の仕事に没頭しているときは症状を忘れ、鮮やかな手口で人を騙す。ある日、たまりかねた相棒のフランクから医者を紹介され、彼の元でカウンセリングを受けている中で、かつて別れた妻に子供がいたかもしれないことを思い出したロイ。気になって連絡をとってみると案の定、アンジェラという14歳になる娘が彼の前に現れる。彼の清潔な部屋に入り込んでくるアンジェラに戸惑い、しかもロイの仕事をやってみたいとせがむ娘にロイは抗えずに……。
 割りとコメディ色の強い映画なんで、リドリー・スコットが? と思わなくもないのですが、考えてみればいろんなジャンルをやっている監督なわけで、そういう疑念はとりあえず脇に置いてみる。というか、それ以上にアリソン・ローマン待望の2作目ということで、そっちが気になってしまってしょうがない作品でした(笑)。話としては、親子の絆を多少絡めながらの軽めの映画かと思っていたのですが、結末が結構意外。こういってはなんですが、予想していなかったぶん、楽しめました。ただ、あの終わり方では、結局ロイ意外のキャラクターって……と思ってしまい、ちょっと不満も残らなくはないです。アンジェラに関してはフォローがあって終わりますけど。それまでできれば、見せられてきた雰囲気をそのままにして終わらせてくれればなぁ〜って気はしました。確かに脚本は巧いと思います。主人公たちは犯罪者だけど、ユーモアがあって親しみやすいキャラなんですが。うーん。まあ、これはご覧になった人それぞれで。話の流れがちょっと緩やかで、しかも設定にあるロイの“強迫神経症かつ潔癖症だが詐欺の手腕は鮮やか”という部分、潔癖症のほうは嫌っていうくらい良く(笑える)描けているんですけど、詐欺の手腕のほうはちょっと描き方が甘くないですかねぇ? とも思いますね。「こんなに凄いヤツなのに、こんな変な癖がある…」っていうギャップがいまいちで、潔癖症のほうばかりが強調され気味なのがどうも。…と難癖つけてばかりですが、はっきりいって作品としては好き。役者がいいです。ニコラス・ケイジは相変わらず本当に巧いし、サム・ロックウェルの出す味も好き(この人はほんとに無二の人だと思う)、そしてそして我がアリソン・ローマンの彼らに全く引けを取らずに存在感を発揮する演技力。彼らの作り出すキャラクターがかなり映画を助けていると思いました。彼らの味付けがあってこそ、という。ロイの潔癖症具合が笑えるし、さらにそこへアンジェラがやってきてロイが怖がるあれこれをどんどんやっちゃって困らせる様子がまた楽しくて、会場からも結構笑いが。あのへんはとても楽しかった。そしてその過程で生まれる親子の絆が温かく…(でもラストは!!)。個人的には観て十分に楽しめる映画ですが、最後に申しますのは、やはりアリソン・ローマンの魅力で作品に対する評価は贔屓目。というか、彼女が出ているとどうにも冷静に見られません(笑)。はぁ〜、この作品でも魅力全開でとにかくそれだけも嬉しかったです。それにしても予告編で観たシーンや、スチル写真でみかけるプールサイドのシーンなんかがなかったので、本編からはカットされたんだなぁ…と。


マトリックス
The Matrix
監督・製作・脚本:ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー 製作:ジョエル・シルバー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ローレンス・フィッシュバーン、ヒューゴ・ウィービング
1999年アメリカ/136分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://japan.whatisthematrix.com/

 ストーリー展開も特に申し分はなく、かつ、これだけのビジュアル的面白さを見せつけてくれたのは嬉しい。有名すぎるアクションシーンの数々も、確かに今まで見たことのないもので非常に楽しめる。スローモーションだけでなく、その際に急に回りこむカメラの動きが、これまた非常に上手い見せ方。ただ、不満があるとすれば主人公ネオとトリニティーの恋愛関係が、ちょっととってつけたような感じがするところと、あとはもっとアクションシーンがみたかったっていうことかな。予告編で見せられていたものが、ほとんどだったので、もっとあの奇抜なアクションが観られると思ったのだが…。予告編をみれば、その映画のハイライトがすべてわかるという皮肉な現実(?)の象徴ですね……。2時間以上あるわりに、そんな長さも感じさせない面白さ。


マトリックス リローデッド
The Matrix Reloaded
監督・製作・脚本:ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー 製作:ジョエル・シルバー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ローレンス・フィッシュバーン、ヒューゴ・ウィービング、ジェイダ・ピンケット・スミス、モニカ・ベルッチ
2003年アメリカ/138分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.thematrix.com/japan/ チラシ 1234

 前作から4年、ついに登場した第2弾。一部の新キャラ以外は、直前までストーリーが一切謎に包まれていた本作ですが、フタを開けてみると、奥深い謎がいっぱい。なのですが、一方で「マトリックス」といって逃してはならないのが、宣伝文句っぽいですが、驚異のVFXアクション。これがあってこその「マトリックス」。“マシンガン撮影”を上回る“バーチャル撮影”というのが売りで、やっぱり最も見物なのは1人のネオと100人のエージェント・スミスの戦い!? これは公開前から話題になっていたシーンだけに、始まったとたんに「キター!」と喜んでしまいました、個人的に。ただ、はっきり言えばやりすぎ。ここまでやると笑うしかないのですが、製作者側はそれも承知の上で、半分開き直っているのでしょうか。他にも「スーパーマン」とか・・・。確かにすごいんですが、よく観れば、「CGだなぁ・・・」っていうのはわかっちゃって、やっぱり隠し切れないです。それにしても、これだけやればスゴイとしか言いようがないですけど。あと、まあ、CG好きな自分はいいですけど。ストーリーに関してですが、実はアクションに目を奪われているとわからなくなってしまいがちなくらい複雑です。もともと神話や哲学を設定の下敷きにしている作品ですから、そういう要素がふんだんなのは当たり前ですけど、今回はラストで語られるあることに関しては、よーく考えてみていないとわからなくなりますよ。そこが一番重要なのに。それ以外にもオラクルの語りも相変わらず意味深だし。そもそもオラクルの存在自体が、「そうだったのか」ということがあるし、今回の新キャラのキー・メーカーやセラフ、パーセフォニーなども、はっきりとしない。ネオの存在についても、「そうだったのか」と思う反面、「じゃあ、あれはどういうことよ?」っていうのも出てきてしまって、結局、最大の謎は次の「レボリューションズ」に持ち越されたことになるでしょう。しかし、ここまで風呂敷を広げて、どういうかたちで決着をつけるのか? それが今から最大の感心事ですね。語り出すといくらでも論議できる作品なので、そういう意味では抜群に面白いです。でも、映画単体としては前作だけのほうが面白かったかもしれません。


マトリックス レボリューションズ
The Matrix Revolutions
監督・製作・脚本:ラリー・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー 製作:ジョエル・シルバー
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ローレンス・フィッシュバーン、ヒューゴ・ウィービング、ジェイダ・ピンケット・スミス、メアリー・アリス
2003年アメリカ/129分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.thematrix.com/japan/ チラシ 1

 何を言ったらいいのか、ついに完結した『マトリックス』。様々な謎をふっかけた『リローデッド』から半年、誰もが固唾を飲んだ(はず?)その結末は……ご自身の眼で是非ご覧になってください。以下、ネタバレしてますのでご注意を。まぁ、とにかく語るべきことは沢山あるでしょう。それぞれに言いたいことも沢山あるでしょう。なので簡単にまとめることはできませんが、個人的には満足してます。(ラストは)ものすごく衝撃的ではなかったですけど、かといって文句を言うほどのことでもない。良く出来ていると思いました。1作目はブレット・タイム、2作目はバーチャル・シネマトグラフィ、そして3作目はバーリーブロールと、次々に新しい技術を生み出したアクションシーンは楽しいし、迫力もある。そして頭をフル回転させてくれるストーリー。結局わからないで終わった点は多々ありますが、そういうのは結局、枝葉末節に過ぎないと(「エヴァンゲリオン」なんかと同じですな)。ネオは救世主として力に目覚め、圧倒的な戦闘力をもつにも関わらず、それをひけらかさずに「自分の存在、自分のなすべきことはなにか?」を自答しつづける姿は、確かに日本のアニメ的だし、アメリカの単純なヒーローアクション物じゃない。超絶な力を手にした主人公が、悪をバタバタとなぎ倒して、(例え本人が犠牲になったとしても)最終的に善が勝ってハッピーエンドになるなどという、単純明快なラストにならなかったのはよくやったと思います(まぁ、もとはといえば人間が悪いんだけどね、どっちかといえば)。結局、最後は平和になったものの一時的なもので、将来また戦争が起こるかもしれない。なにしろザイオンに生き残った人々は、ネオが機械と取引をしたことを知らないのだから。まだマトリックスの世界が続いているとしれば、戦争をしかけるかもしれないし……。さて、映画単体として観れば『リローデッド』より面白かったと思ったけど、それはやはり『リローデッド』を観ていたからこそであり、この2つはやっぱり2本で1本な気がするな。それにしても、途中、ザイオンでの戦闘シーンが長くて、まるで別の映画を観ているようだったよ……。ほとんど吠えてるだけのキャプテン・ミフネに主役とられちゃうし(笑)。ナイオビもすげぇカッコイイ! そして強烈すぎるスミスの殴られ顔には拍手喝采! 本当に、なんだかんだ言いながらも、このシリーズは凄いよ。ハリウッド大作でここまであーだこーだと言い合える作品ってあまりないもの。完結してしまって一抹の寂しさがあるのは事実ですねぇ。ビバ、『マトリックス』!


まぼろし
Sous le Sable
監督・脚本:フランソワ・オゾン 脚本:エマニュエル・ベルンエイム、マリナ・ドゥ・ヴァン、マルシア・ロマーノ
出演:シャーロット・ランプリング、ブリュノ・クレメール、ジャック・ノロ
2001年フランス/95分/配給:ユーロスペース

 25年の結婚生活をともにしてきた50代の夫婦マリーとジャン。子供はいないが幸せな2人は、毎年夏には、南仏のランドにある別荘でバカンスを過ごしており、今年も別荘を訪れた。翌日、人気のない海辺にでた2人だったが、マリーが眠っている少しの間、海に入ったジャンが行方知れずになってしまう。警察の捜査も虚しく何も手がかりをつかめないまま、マリーはパリに戻って日常の生活を始めるが、やがてジャンの幻が見えるようになり……。
 長年連れ添った愛する人を失ったマリーの孤独を、シャーロット・ランプリングが見事に表現。淡々として静かな演出と、彼女の抑制された演技は絶妙で、マリーがすなわちシャーロット・ランプリングその人であるような。とにかくはまってましたね。そして、人生の折り返し点に差し掛かったところで、突如として愛する人を失った中年女性の哀切を、ここまで自然に描けてしまうオゾン監督は、やっぱある意味、変態的で天才的。それにしても、シャーロット・ランプリングの美しさは年齢から考えるとスゴイですね。まあ、しかし、もっと年を取ってから観ると、きっと違った見方ができるんだろうなと思わせる一作でした。


真夜中のピアニスト
De Battre Mon Coeur S'est Arrete
監督・脚本:ジャック・オーディアール 脚本:トニーノ・ブナキスタ
出演:ロマン・デュリス、ニールス・アルストラップ、オーレ・アッティカ、エマニュエル・ドゥヴォス、リン・ダン・ファン
2005年フランス/108分/配給:メディア・スーツ、ハピネット・ピクチャーズ
公式サイト http://www.mayonaka-pianist.com/

 不動産の裏ブローカーをするトムは、時に犯罪まがいのこともしている。しかし、ある時、亡き母のようなピアニストになりたいという夢に再び目覚め、オーディションを受けるためにピアノの練習を始めるのだが……。
 1978年のハーベイ・カイテル主演作『マッド・フィンガーズ』のリメイク版。主人公トムは父親と同じような暴力や犯罪すれすれの激しく汚れた稼業で日々を送っていて、そうした生活やそれを強いてくる父親に嫌気がさしつつも、父親に愛情があるから否定しきれず、一方で母親が残したピアニストとしての夢も思い出して、汚れた仕事とは対照的なピアノの世界に没頭。父は理解してくれないが、ピアノを弾いているときの充実感や、言葉が通じない中国人のピアノの先生との交流で、トムにも次第に変化が訪れる。その対比の繰り返しでトムが成長していくかのようにみえるが、最後まで父の存在は払拭できるわけでもなく、訪れる結末は少し苦くて悲しいが、少しの幸せもそこにある。
☆☆★★★


真夜中の弥次さん喜多さん
Yaji Kita
監督・脚本:宮藤官九郎 原作:しりあがり寿
出演:長瀬智也、中村七之助、小池栄子、阿部サダヲ、柄本佑、清水ゆみ、研ナオコ
2005年日本/124分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.yajikita.com/ チラシ 12

 江戸時代。熱血漢でしっかり者の弥次さんと、ホモでヤク中の喜多さんはディープに愛し合うカップル。しかし、ヤク中が極度に進んでしまった喜多さんは、全てが薄っぺらで、何が“リヤル”かわからなくなってしまい、そんな喜多さんのために弥次さんはお伊勢参りに行こうと提案。こうして、ヤク中治しと“リヤル”を探しに、2人は伊勢への旅路に着くが。
 しりあがり寿の漫画「真夜中の真夜中の弥次さん喜多さん」「弥次喜多 in DEEP」を、『GO』『ピンポン』の人気脚本家・宮藤官九郎が初監督で映画化。原作は未読だが、しりあがり寿の漫画を映像化しようなどとは甚だ思わないのが普通だろうが、それに果敢に挑んで成し遂げてしまった。しかも、ハチャメチャでなんでもありで、とにかく笑いにあふれているけど、破綻していない。後半はやや失速気味で、広げた風呂敷をたたむのに迷走している感じも見受けられ、そのせいで映画が少し長く感じるんだけど、それにしても十分に及第点だろう。クドカン脚本の作品って実はまだ観たことなくて、最初にいきなり監督作品を観たわけですが、まあ、よくぞやってくれたじゃん。こんな時代劇もありあり! この映画ほど文章で詳細を表現するのが難しいものもないから、とにかく観て笑ってほしいわけ。主演2人の熱演(?)もスゴイが、またそれと同時に異様に豪華な出演陣も見どころで、それぞれが個性を存分に発揮して、ちょい役でもインパクト大。「あんな人がこんなところに!」っていうのを発見するだけでも面白いし、劇場では意外な人が出てきてギャグをかますたびに爆笑でした。


マラソン
Marathon
監督・脚本:チョン・ユンチョル 脚本:ユン・ジノ、ソン・イェジン
出演:チョ・スンウ、キム・ミスク、イ・ギヨン、ペク・ソンヒョン、アン・ネサン
2005年韓国/117分/配給:シネカノン、松竹
公式サイト http://www.marathon-movie.com/ チラシ 12

 自閉症のため5歳児程度の知能しかない20歳の青年チョウォンは、走ることが大好き。10キロのマラソンで3位に入賞したため、その才能を伸ばそうと、母親のキョンスクは、元有名ランナーで今は酒浸りの日々を送るチョンウクにコーチを依頼するが……。
 2002年、自閉症という障害を抱えながらも19歳でフルマラソンを完走した実在の人物、ペ・ヒョンジュン氏をモデルにした感動のヒューマンドラマ。いわゆる知能障害の主人公を描いた名作というのは、過去にもいくつかあり、正直またその手のものかと思って(過去の名作は名作だと思っています)観る前はあまり気乗りがしなかったんですが(それだけ心が荒んでしまったのか…)、観ているうちに結構ひきこまれた。なんか細かいところの台詞や伏線の張り方もうまいし、無駄がない。“韓国で500万人以上が泣いた”というキャッチコピーもあながち納得できるなぁ……。これは感動せざるを得ません。観る前にあり程度、斜に構えて観た自分でもそうなったとするなら、素直な人は号泣ものではないかと。でも、確かに気持ちいい。面白みにはかけるかもしれないけど、良質なドラマとはこのことか。けなすわけにはいかないような作品です。
☆☆★★★


マリー・アントワネットの首飾り
The Affair of the Necklace
監督・製作:チャーリー・シャイア
出演:ヒラリー・スワンク、サイモン・ベイカー、ジョナサン・プライス、クリストファー・ウォーケン
2001年アメリカ/118分/配給:日本ヘラルド映画
公式サイト http://www.necklace.jp/ チラシ 12

 王位にもついた歴史をもつ名門ヴァロワ家は、政略によって取り潰されてしまう。ジャンヌはわずか9歳にして平和な家庭を失い、孤児となった。しかし美しく成長したジャンヌは、爵位を得るため愛のない結婚をし、伯爵夫人として宮廷に入る。なんとかマリー・アントワネットに取り合ってもらおうとするが、相手にされない。そんな彼女をみた一人の若い貴族レトーはジャンヌに協力を申し出る。やがて二人の計画は、王政を揺るがす策略となっていく…。
 王妃マリー・アントワネットへの民衆の怒りを決定的にし、フランス革命への引き金ともなった“首飾り事件”を映画化。といってもこの映画は、そうした政治的背景を描くよりも、どちらかといえば、ジャンヌという一人の女性を描くほうが中心。ジャンヌ自身も自分の念願を果たすために行動し、特に王政打倒のためとかそうしたものは感じられない。ひたすらに、自分のついえた夢を取り戻そうと策略をめぐらす。彼女にはあまり復讐心というものはなかったんだろうか。自分の家を取り戻すことに邁進し、それだけで良かったのだろうか。もちろん、そのことに後悔はするが、結局、彼女は何を見ていたのか…いまいちはっきりしないような気もします。ただ、“首飾り事件”を追って描いたってくらいで。せっかくなんだから、もっとマリー・アントワネットも絡めて描いてほしかったなぁ。当時の社会背景の描き方が甘いような気もします。そういうものと絡めて描けば、もっと事の重大さ(?)がわかりやすいんじゃないかな、と思うのですが。あくまでこの映画は、一人の人間の悲哀というものを描きたかったというなら、そういう意味では良いと思いますけどね。まぁ、個人的にこういう歴史劇ものは好きですんで甘めに。華やかな衣裳とか宮廷とかで画面も美しいし(アカデミー賞の衣裳デザイン賞にノミネート)。
 一応、この映画には同名の原作小説があるようですが、同じ題材を扱ったものとしては、遠藤周作著「王妃マリー・アントワネット」がお薦めです。


マルコヴィッチの穴
Being John Malcovich
監督:スパイク・ジョーンズ 脚本:チャーリー・カウフマン
出演:ジョン・キューザック、キャメロン・ディアス、キャサリン・キーナー、ジョン・マルコヴィッチ
1999年アメリカ/112分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.mal-ana.com/

 ミュージッククリップやCMで才能を発揮するスパイク・ジョーンズが初めて作った映画。これほど独創的なストーリーの映画ってあったか? 「天井の高さが半分しかない、とあるオフィスビルの7と1/2階にある会社の壁に隠された穴を偶然見つけて、そこに入ってみると15分間だけ俳優のジョン・マルコヴィッチになれる」というお話。こんな設定を映画にしてしまったことは今まで無かっただろう。とにかく「独創的」という言葉がこれほど似合う映画はないでしょうね。何故こんなことに? なんて答えはなくても、まったくもってストーリーが破綻していないし。たったひとつの発想と、それをここまで仕立て上げたシナリオの勝利といった感じです。そしてやはり、ジョン・マルコヴィッチであることの大きさ。これが他の役者だったら? とか考えると想像できないです。演技派として知られるマルコヴィッチだけど、彼であったからこそ、この映画がなりたったような気にされてしまうところも面白いです。実にシュールな感じで、お笑いもあるのだけど、ブラックユーモアっぽい感じも受ける作品。
 余談ではあるが、なぜかカメオ出演が豪華。ウィノナ・ライダー、ブラッド・ピッド、ショーン・ペン、ミシェル・ファイファーなど。


マルホランド・ドライブ
Mulholland Drive
監督・脚本:デビッド・リンチ
出演:ナオミ・ワッツ、ローラ・エレナ・ハリング、アン・ミラー、ジャスティン・セロー
2001年アメリカ+フランス/146分/配給:コムストック
公式サイト http://www.mulholland.jp/ チラシ 1

 眼下にハリウッドを一望できるロサンゼルスの山を進む一本の道“マルホランド・ドライブ”で交通事故が発生。ひとり生き残った女は、街までたどり着き、隙を見てある留守宅に忍び込む。そこは映画女優ルースの家で、主が不在のその家に、ルースの姪で女優志望のベティがやってくる。誰もいないと思っていた家に人がいることに驚いたベティだが、相手が記憶を失っていることを知ると、その記憶を取り戻す手助けをしようとするが……。
 お馴染みのリンチ・ワールドが満載のミステリー。といっても、実は初めて観るリンチ作品だったので、なるほど、病み付きになる人がいるのもうなずけるという感想。なんといっても、アンジェロ・バダラメンティの音楽を含めて、音の使い方が異様に雰囲気醸し出している感じで。現実と妄想の境目もはっきりとしないけど、一応、なんとなくの解釈はできたつもり。でも、やっぱり「?」な部分が多くて一体なんなんだって感じなんだけど、そこが魅力であったりするわけで。ナオミ・ワッツが前半の純真な田舎娘っぽい部分もかわいくて、後半のアブナイ雰囲気もグッド!


マレーナ
Malena
監督・脚本:ジョゼッペ・トルナトーレ 音楽:エンリオ・モリコーネ
出演:モニカ・ベルッチ、ジュゼッペ・サルファロ
2000年イタリア+アメリカ/92分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.malena-jp.com/

 “イタリアの巨匠”ことジョゼッペ・トルナトーレの最新作。第二次大戦下、シチリア島の小さな村に美しいマレーナという女性がいた。村中の男たちの注目の的である彼女に、主人公の少年レナートは、一目見て恋に落ちた。既に夫がいる身のマレーナだが、遠征中の夫が戦死したとの知らせが村に届いた・・・。
 少年が年上の女性に恋をし、精神的にも肉体的にも大人へと成長していく過程を描くと同時に、戦時下という状況の、閉鎖的な村での人々の群集心理のようなものも描かれる。妬みややっかみといった、人々の心の黒い部分・・・。レナートの行動は、思春期の少年として非常にわかりやすく描かれいると思います。現代だったら、あれをストーカーといってしまうんだろうが・・。ただ、個人的には、感情の起伏の激しい登場人物たちがちょっと肌に合わないと感じました。それはたぶん、日本人とイタリア人の気質の違いもあるんじゃないかなぁと思います。あとは時代の違いとか…かな。