迷宮のレンブラント
Incognito
監督:ジョン・バダム 出演:ジェイソン・パトリック、イレーヌ・ジャコブ
1997年アメリカ/107分/配給:東宝東和


 贋作を描くことでは天才的な腕前を持つハリー。贋作から足を洗い、自分の絵を描こうと思っていたところに、レンブラントの贋作を50万ドルという破格の値で注文される。慎重な研究を重ね、見事な贋作を作り上げるハリー。鑑定家もほとんどが本物だと思い込むのだが…。
 贋作というのをテーマにしたところはなかなか珍しいと思います。そして、その絵にかける男の情熱のようなものも感じました。天才的なほど贋作の腕があるのに、自分の絵を描くことができないもどかしさ。そしてそのことを優しく諭してくれる父親の存在が良かったです。その気持ちにこたえようというハリーも。なかなかしっかりと手堅く作られた映画です。ちょっと、ヒロインとの出会いのシーンが偶然的すぎる…と思いますが、そんなこといったら映画なんてそんなもんか…。贋作(本物に似せた描いた偽物の絵のことです)って、具体的にどんなもん? っていう雰囲気がわかって、絵画好きな人には面白いかも。あそこまでこだわるんだ〜…って(映画だから多少の誇張はあるでしょうけど)。


迷宮物語
Manie-Manie
監督:りんたろう、川尻善昭、大友克洋 原作:眉村卓 製作:角川春樹
声の出演: 吉田日出子、津嘉山正種、水島裕、家弓家正、八奈見乗児、大竹宏、銀河万丈、屋良有作、田中和実
1987年日本/50分/配給:東宝


 りんたろうの「ラビリンス・ラビリントス」、川尻善昭の「走る男」、大友克洋の「工事中止命令」の短編3本からなるオムニバス。個人的には「ラビリンス・ラビリントス」が、その不思議な画風とともに印象的。「工事中止命令」は、後に『AKIRA』を生み出す大友克洋の監督デビュー作だが、メカや建物の細かな描き込み具合が、すでに後の作風を十分に連想させるものがある。


めぐりあう時間たち
The Hours
監督:スティーブン・ダルドリー
出演:ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ、エド・ハリス、ジョン・C・ライリー、クレア・デーンズ
2002年アメリカ/115分/配給:アスミック・エース、松竹
公式サイト http://www.jikantachi.com/ チラシ 1

 1923年、英国ロンドン郊外のリッチモンド、病気療養のために自然に囲まれたこの地に越してきた作家ヴァージニア・ウルフと夫のレナード。ヴァージニアは書斎で煙草をくゆらせながら著書「ダロウェイ夫人」を執筆している。1951年のロサンゼルスでは、閑静な住宅街に住む主婦ローラがベッドの上で「ダロウェイ夫人」を読んでいた。彼女には幼い息子のリッチーとお腹には2人目の子供、そして誰よりも優しい夫ダンがいた。しかし、ダンが与えてくれる理想の生活は彼女にとって重荷だった。2001年ニューヨーク、恋人サリーと暮らす編集者のクラリッサは、彼女のことを“ミセス・ダロウェイ”と呼ぶ親友で作家のリチャードが栄えある賞を受賞した記念にパーティを開く準備を進めていたが・・・。
 ヴァージニア・ウルフが書く一冊の本「ダロウェイ夫人」を軸に、異なる時代の異なる場所で暮らす3人の女性の1日を描いたドラマ。原作はマイケル・カニンガムの同名小説。驚くのはやっぱり全体の構成の妙というか。たぶん、この映画は原作小説を読んでいたほうがもっと面白く観られるんだろうと思いますが。3人の生活に繋がりはない、言ってみれば、全く関係ないストーリーが3つ同時進行しているわけですけど、混乱することもなく、絶妙に共通するポイントをおきながら描いていくことで引き込まれていきます。この3つのストーリーそれぞれが、どう結実するのだろうか? ということを考えながら観ていると面白いです。個人的には「リトル・ダンサー」ほど感動はなかったけど(そもそも目指しているものが全然違うか?)、映画としての完成度はとても高いと思います。というか、高いといわざるを得ないといった感じで、これといった欠点が見当たらないです。なんか低く評価することは許されません。


メゾン・ド・ヒミコ
Maison de Himiko
監督:犬童一心 脚本:渡辺あや 音楽:細野晴臣
出演:オダギリジョー、柴咲コウ、田中泯、西島秀俊
2005年アメリカ/131分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.himiko-movie.com/ チラシ 12

 塗装会社で事務員として働く沙織のもとに、岸本と名乗る若い男が訪れてくる。彼は佐織が幼い頃に家を出たゲイの父親・照雄の恋人だという。ゲイのための老人ホーム“メゾン・ド・ヒミコ”を運営してる照雄は、癌で死期が迫っており……。
 『ジョゼと虎と魚たち』の監督・犬童一心と脚本・渡辺あやのコンビによる第2作。前作は原作付きで今回はオリジナルストーリーだが、前作は身体障害者、本作では同性愛者と、いつも“普通と少し違う”人々に、主人公が戸惑いや迷いを感じながら関わりをもっていくことになる……というプロットと、それを通じて描かれる切なさと痛さと温かさが同居するような独特の空気感は同じものを感じた。「生きていくには欲望が必要なんだ」っていうのは、ある種の真理ですね。普通の欲望がわからなくて、沙織と関わることで微妙に変化が訪れる春彦の様子や、様々な人間模様を呈するゲイの老人たちを見て緩やかに価値観が転換し、本来の表情を取り戻していく様子が優しい視点で描かれる。ラストシーンには心和んだ。ただ、若干長いかなぁ……と感じたところもあるんだが、終わってみたら2時間11分か。2時間以外希望。
☆☆★★★


メトロポリス
Metroplis
監督:りんたろう 脚本:大友克洋 原作:手塚治虫
声の出演:井元由香、小林桂、岡田浩暉、富田耕生、若本規夫、滝口順平、石田太郎
2001年日本/107分/配給:東宝
公式サイト http://www.bandaivisual.co.jp/metropolis/ チラシ 1

 故・手塚治虫が「鉄腕アトム」以前に描いたという原作をもとに、大友克洋が脚本を執筆。りんたろう監督によって生まれたアニメーション。人間とロボットが共存する未来型都市国家メトロポリス。そこでは権力者レッド公が事実上の支配者であった。超高層ビル「ジグラッド」の完成記念式典が催される真っ只中にメトロポリスへやってきた日本の探偵、伴俊作と甥のケンイチ。彼らはある犯罪者を追っていたが、その捜査中にケンイチはティマという不思議な少女と出会う。しかし彼女はレッド公が亡くした愛娘に似せて造らせたロボットであり、ジグラッドの支配者となるべくして力を備えられていた…。
 また凄いアニメーションが生まれたな、というのが正直な感想です。手塚治虫・りんたろう・大友克洋というだけで、期待できてしまうのですが、まさにその通り。宮崎駿や押井守とも違ったテイストがあるのですが、それは手塚治虫のキャラクターが大きいと思いました。膨大な年月と製作費をかけただけあって、その完成度には唸らされるばかりです。アニメーションというのは、“全て人が書いた絵が動いているもの”とするならば、恐ろしいものです。今更ながら。そして、この映画は、そんなビジュアル面だけに留まらず、ストーリーも秀逸。話の展開が非常にスムーズかつテンポが良い。キャラクターの性格設定がはっきりしていて、行動も理解しやすいので、感情移入もしやすい。これらはともすると、典型的・古典的ともとれるのですが、それはやはり手塚治虫だし(しかも原作は50年前ですよ)、結局は変わらぬ普遍性というものがあるんだと思います。つまり、主要な人物の行動の裏にあるのは、それぞれの“愛情”なんです。・・・なんて、我ながら単純に感動できました。未来的な都市を描いているのに懐かしい雰囲気もするのはジャズを使ったBGMや手塚キャラのデザインの功績かな。


メメント
Memento
監督・脚本:クリストファー・ノーラン 原案:ジョナサン・ノーラン
出演:ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス、ジョー・パトリアーノ
2000年アメリカ/113分/配給:アミューズ・ピクチャーズ
公式サイト http://www.otnemem.jp/ チラシ 123

 妻を殺されたときのショックで、それ以降の記憶を留めることができなくなってしまったレナード。彼は忘れないためにポラロイド写真とメモ、そして体中にタトゥーで書き込むことによって物事を繋ぎとめている。そして、そんな状態でありながらも妻を殺した犯人に復讐を誓い、独自に調査を続けるが・・・。
 いやはや前評判の高さも納得できるすごい作品です。主人公は前向性健忘症といって、そうなる前の記憶は全て残っているが、それ以降、新しいことを記憶できない。10分程度前のことはすっかり忘れてしまう。だからポラロイド写真とメモとタトゥーをひたすら頼りにしているのだが。この映画はいきなりラストから始まる。だから見ている我々は誰が犯人か知っている。しかし、レナードは知らない。また、我々もなぜそうなったのかという過程を知らない。ラストから始まって、10分程度の単位で時間軸を逆行しながら進むストーリーは、まさに目が離せない。記憶力に挑戦する映画・・・というのは本当だ。「あれはなんだっけ?」「なるほど、こういうことか」ととにかく考え、 順序と人物関係を頭の中で整理していかなくてはついていかれない。これほど頭脳を刺激する映画はないでしょうね。妻を殺された男が、犯人を探しだし、復讐する。このコンセプト自体は極めて単純でこれをただ一直線に見たのではつまらない。そこにこれほどまでの構成力をもって構築されたフィルムにしあげている監督には恐れ入ります。一度見ただけでは、おそらく完全に把握することは難しいと思います。二度、三度と楽しめる映画でしょう。また、そういった作品的な評価もさることながら、記憶というものの怖さといいましょうか、主人公レナードはこれからどうなってしまうんだろう、ということを考えると悲しいような怖いような。普段、“記憶”なんて意識もせずに行っているけど、それが出来ないということはなんたることか。全てを書き留め、誰を信じていいかもわからず。それでも犯人を追いつづけるレナードのすごさ。そういったものにも感心する作品でした。また、そのレナードを演じるガイ・ピアースの魅力もばっちりです。
 映画は何も考えずに楽しめればいいの・・・っていう人にはつらいかもしれませんが、一度見てみるとはまるかもしれませんよ、これは。また、映画好き、映画通を自称する人なら是非見てほしい作品です。ちなみに、原案のジョナサン・ノーランは監督の弟で、彼が学生時代に書いた作品をもとに監督が今回の映画にしたという。


MEMORIES
Memories
総監督・企画・原作・製作総指揮・脚本:大友克洋
監督:森本晃司、岡本天斎、大友克洋
声の出演:磯部勉、山寺宏一、高島雅羅、飯塚昭三、田中信男、羽佐間道夫、大塚周夫、林勇、キートン山田、山本圭子
1995年日本/113分/配給:松竹

 大友克洋原作の短編「彼女の想いで」(森本晃司監督)、「最臭兵器」(岡本天斎監督)、「大砲の街」(大友克洋監督)の完全に独立した3本の話でなるオムニバス。それぞれに特徴があって面白いわけですが、「最臭兵器」のオチには不覚にも笑ってしまいました…。「大砲の街」は、ほぼ全編1カットというところが見ていて面白く、次の場面にどうつながるのかなぁ〜…と。また、設定自体が面白いというのもありますが。「彼女の想いで」は、一番アニメらしいといえばらしいですが、監督が監督なだけに映像がスタイリッシュなところが良いなと。企画としてはとても面白いですが、やっぱり短編3つだけだとなんだか、物足りなさが…。


メリンダとメリンダ
Melinda and Melinda
監督・脚本:ウディ・アレン
出演:ラダ・ミッチェル、クロエ・セヴィニー、ジョニー・リー・ミラー、ウィル・フェレル、キウェテル・イジョフォー、アマンダ・ピート
2004年アメリカ/100分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/melinda/ チラシ 1

 マンハッタンのレストランで「人生は喜劇か悲劇か」と議論を交わす劇作家たちは、メリンダという女性を主人公に即興で物語を語る。かたや喜劇に、かたや悲劇にと物語は別れていき……。
 ウディ・アレン監督で本人が出演しないラブストーリー。同じ女性を主人公に喜劇版と悲劇版の2つのストーリーが交互に物語られるわけですが、結局のところラストでも語られるとおり、「人生は見方によって悲劇にも喜劇にもなりうる」ということ。喜劇といってもそこに登場する人物に悲劇は訪れるし、悲劇といって語られるストーリーのなかにも笑いや幸せがある。そうしたことを、このようなシチュエーションで語ることが、この映画の面白いところであり、オリジナリティであり、ウディ・アレンの創作性の表れといったところでしょうか。どちらの物語も僕は面白かったけど、特にウィル・フェレルが後半に見せるコメディアンぶりはさすがで、笑いを誘わずにはいられない。
☆☆★★★