ムーラン・ルージュ
MOULIN ROUGE!
監督・製作・脚本:バズ・ラーマン 出演:二コール・キッドマン、ユアン・マクレガー
2001年オーストラリア+アメリカ/128分/配給:20世紀フォックス
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/moulinrouge/  チラシ 12

 1899年のパリ。作家を目指してパリにやってきた青年クリスチャンは、ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形スターで高級娼婦のサティーンと恋に落ちる。しかし、彼女をなんとしても手に入れようとするウースター公爵は、そんな二人に激しく嫉妬を燃やし、やがてそれは悲劇へと発展していく…。
 これは正真正銘のミュージカル映画。そんなことは見る前からの情報でわかってはいたが、正直言って想像以上だった。完全にミュージカルではあるが、しかし、この怒涛の映像は今まで見たことはないものだろう。パリの街並みやムーラン・ルージュの描写には、CGもふんだんに使われているが、それは、きらびやかなセットや衣裳とともに、まさに現実を飛躍したミュージカルにもってこい。音楽も現代のロックやポップス、R&Bに加え、往年のミュージカルの名曲なども取り混ぜているが、これらも全くもって違和感を感じない。それどころか、エルトン・ジョン、ビートルズ、マドンナ、デビット・ボウイ、T-レックスなどなど…そうそうたるアーティストたちのおなじみの名曲の数々が鳴り始めたときの昂揚感はなんともいえない。
 ――「真実」「自由」「美」そして「愛」。こんなあまりにストレートなテーマを、豪華絢爛に壮大に歌い上げパワフルに押し切ってくる。ならば観ているこちらも、それを真っ向から受け止めてこそ、楽しめるというものだろう。なんだこれは…みたいなツッコミや揚げ足とりなどいらない。次々と歌い上げられる名曲と繰り広げられるミュージカルに心躍らせ、昂奮しよう。そしてそのテンションで最後まで乗り切れば、絶対に楽しめる。怒涛のごとく押し寄せる映像と音楽の洪水にのまれろ! そして高々と謳いあげられる愛の賛歌に感情は高ぶり、最高潮を迎えることでしょう。出演者たちの歌と踊りも実に上手いし、音楽、演出、演技…全てがミュージカルとして見事にマッチした、最高に盛り上がれる作品だと思います。


ムーンライト・マイル
Moonlight Mile
監督・製作・脚本:ブラッド・シルバーリング
出演:ジェイク・ギレンホール、ダスティン・ホフマン、スーザン・サランドン、エレン・ポンペオ、ホリー・ハンター
2002年アメリカ/116分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.moonlight-mile.jp/ チラシ 1

 1978年、マサチューセッツ州の小さな町ケープ・アン。結婚を控えていた青年ジョーは、婚約者のダイアナが発砲事件の巻き添えになって結婚式の3日前に他界してしまう。結婚後は、ダイアナの父ベンの不動産業を手伝いながら生活する予定だったジョーは、そのままダイアナの家に留まり、ベンとダイアナの母ジョージョーとともに、家族のように生活を続ける。しかし、ジョーには2人に言えない秘密を抱えていた……。そんな時、ジョーは町の郵便局でひとりの女性、パーティーと運命的な出会いをするが。
 監督のブラッド・シルバーリングが、かつて恋人だった女優を、熱烈なファンによって殺害された体験をもとに描いた感動のドラマ。70年代の後半を思い出させるような(といっても自分は生まれていないが)選曲のサウンドトラックも秀逸。タイトルの「ムーンライト・マイル」も、ローリング・ストーンズの同名曲からつけられていて、これがなかなかの泣ける名曲。理不尽な事件によって最愛の人を失った人々が、それぞれのやり方で悲しみを超えていくさまを描いているわけだけど、その視線がとても温かくて優しいです。ベンとジョージョーは、それぞれに悲しみに対する向き合い方が違っていて、ことあるごとにそれで衝突するけど、その様子は現実的で、でもただ怒鳴ったりがなったりするだけじゃなくて、そこにそれぞれを見つめる優しさが溢れているところが好感触。こういう状況だと、神経が擦り切れるくらいに、どなったり、がなったり、悲嘆に暮れたりすることもできるけれど、そういう痛ましさを和らげて、遺された人間達が互いを想う気持ちがキチンと描いている。そういった登場人物たちの愛が、悲しみの中にも希望を輝かせていると思う。芸達者な俳優たちの演技も光る秀作。


息子の部屋
La Stanza Del Figlio
監督・原案:ナンニ・モレッティ
出演:ナンニ・モレッティ、ラウラ・モランテ、ジャスミン・トリンカ、ジョゼッペ・サンフェリーチェ
2001年イタリア/99分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.warnerbros.co.jp/sonsroom/ チラシ 1

 精神分析医ジョバンニは、妻パオラ、娘イレーネ、そして息子のアンドレアの4人家族で幸せに暮らしていた。しかし、そんな家族を突然の不幸が襲う。アンドレアが事故で死んでしまうのだ。残された3人は、ひたすらに悲しみに暮れる。仕事も手につかず、夫婦仲さえも危うくなっていく。しかしそんな時、アンドレアのガールフレンドから手紙が届く…。
 深く、そして静かに語られる家族の再生ドラマ。生きているとき、とても仲の良さそうだった親子。とても上手くいっていた。しかし、それでも子は親からしらずしらずのうちに離れていくもの。ガールフレンドからの手紙で、息子の知らない一面が知らされるかもしれない。そのことで家族は再び繋がりを取り戻していくようなのですが…。しかし、そのことは実はあんまり描かれていないように思えました。“息子の部屋”もそれほど登場しないし。ただ、確かにそこには父の知らない息子がいたのだと思います。どんなに仲良しな親子でも、親の知らない子供の一面がある。この映画をみて、もし、自分がこの立場だったら…と思うととても悲しい。自分はまだ子供であって親ではない。だから、本当にこの映画を理解するには、まだ若いかもしれない。人が生きることは何だろう。親として、子供として、それぞれ生きるということは何だろう。子供は親より先に逝ってはいけない。やっぱりそうなんだよね。それが一番思うことです。単純だけど…。ジョバンニは、もしあの時…ということで悩みつづける。そうしていれば息子は死なずにすんだかもしれないと。残された家族はひたすら悲しむ。それはとても湿っぽいことかと思われるけど、実はあまりそうではなくて、逆になぜか温かくもある。この静かで懐の深いような感覚がするところが、とても好きだ。シンプルな物語であるだけ、悲しさが伝わってくる映画でした。静かに流れるテーマ曲がとっても印象的で、大仰でないエンドロールがとても余韻を残してくれます。