ナイトメア・ビフォア・クリスマス
The Nightmare Before Christmas
監督:ヘンリー・セメック 製作・原案:ティム・バートン 声の出演:クリス・サランドン、キャサリン・オハラ
1993年アメリカ/76分/配給:ブエナ・ビスタ

 ティム・バートンが製作総指揮・原案・キャラクター設定を担当して生み出したクレイ・アニメ(粘土人形のアニメーション)の傑作。ハロウィンタウンに暮らすガイコツ頭のジャックは、みんなを怖がらすことで右に出るものがいない、ハロウィンの王様だ。しかし、そんな毎日に疲れ、ふと迷い込んだ森の奥から、不思議なクリスマスの街にたどり着く。そこはきらびやかで美しく、皆が楽しく暮らす街。すっかりクリスマスの虜になったジャックはハロウィンタウンでクリスマスをやろうとするが・・・。というストーリーのファンタジーをミュージカル仕立てで送る。キャラクタはもちろん、全てがよく作りこまれていて魅力的。ジャックとつぎはぎ人形サリーの恋愛も、見せ場のひとつ。世界観作りが非常にうまいのがいかにもティム・バートン。こういうのを見ると、つくづく“イマジネーション(創造力)”の偉大さのようなものを感じますね。公開当時よりも年々、徐々に人気がでて、今ではクリスマスの定番映画のひとつだと思います。


ナビィの恋
Nabbie's Love
監督・脚本:中江裕司 脚本:中江素子
出演:西田尚美、村上淳、平良とみ、登川誠仁、平良進
1999年日本/92分/配給:オフィス・シロウズ、東京テアトル
公式サイト http://www.shirous.com/nabbie/

沖縄本島少し離れた粟国島に帰郷した奈々子。島に向かう船には謎めいた老紳士が同乗していたが、その老紳士こそ、60年前に奈々子の祖母ナビィと恋に落ちた男だったのだ。
 沖縄を舞台にした映画を撮り続ける監督・中江裕司の代表作。都会に暮らす自分のような人間が、夢にみるような……ゆったりとした時間の流れる沖縄を描いているが、それが本当にリアルなのかどうかは別として、ちょっと変な登場人物がリアリティを打ち消し、現実とファンタジーの境目のような微妙な空気感に。そのどこかふわふわとして、それでいてユーモラスで飄々としながらも、いつの間にか自分を貫いている登場人物たちがなんとも愛しかったりする。こんな暮らしがしてみたい……そんなふうに思わせるこれは、やっぱりファンタジーなんだなぁ……と思いつつ、愛さずにはいられないのがこの映画。沖縄っていいね。例えこれが幻想であったとしても。……それにしても本作の西田尚美はかわゆい! 健康的なかわいさがたまらんです。


NANA
Nana
監督・脚本:大谷健太郎 脚本:浅野妙子
出演:中島美嘉、宮崎あおい、成宮寛貴、平岡祐太、サエコ、丸山智己、玉山鉄二、松田龍平
2005年日本/114分/配給:東宝
公式サイト http://www.nana-movie.com/ チラシ 1

 パンクバンドのボーカルとして成功を夢見る大崎ナナと、何よりも恋が大事で東京にいる彼氏の元に向かう小松奈々。20歳同士で同じ名前を持つ2人は、上京する新幹線の中で偶然隣り合わせ、正反対の性格ながらも意気投合。東京で同居生活を始める。
 発行部数2500万部を超える(2005年9月現在/単行本13巻まで刊行)矢沢あいの人気コミック「NANA」を映画化。製作陣は、まあ、よくもこれだけ人気の作品を実写映画化するという、ある意味、物凄い冒険に出たもんだと思ったが、やっぱりという手放しでは褒められない苦い内容。事前から中島美嘉=ナナと宮崎あおい=奈々のビジュアルはいいと思ったものの、中島美嘉はやはり演技まだまだだし、一方の宮崎あおいはさすがに演技上手いが、彼女の本領はこういう軽い女の子よりもシリアスドラマのほうが発揮されるだろう。しかも中島は声が細いのにパンクバンド? と思っていたら、やっぱりただのポップロックで全然パンクとは思えないし(これは曲のせいもあるだろうが)。ストーリーも原作を丁寧になぞって必要なエピソードを上手につないでいて違和感はないんだが、それだけに終始して新鮮さもない。男性陣のキャスティングは目も当てられないし、終わり方も中途半端。まあ、仕方ないとは思うけれど、ヒットしたら続編もできるだろうし。どうなることやら。
☆☆☆★★


名もなきアフリカの地で
Nirgendwo in Afrika
監督・脚本:カロリーヌ・リンク
出演:ユリアーネ・ケーラー、メラーブ・ニニッゼ、レア・クルカ、カロリーネ・エケルツ、マティアス・ハーピッヒ
2002年ドイツ/141分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/africa/ チラシ 12

 1938年、ドイツに暮らすイエッテルは、幼い娘のレギーナを連れ、ナチスの迫害から逃れるために先にアフリカに渡って住居を確保していた夫ヴァルターを追い、祖国ドイツを後にする。しかし、お嬢様育ちのイエッテルは過酷なアフリカの大地になじまず、ヴァルターとの小さないさかいが絶えない。一方で娘のレギーナは、現地人の料理人オウアと仲良くなり、すくすくと育っていくのだが……。
 何から書いていいやら迷いますが、まずは僕はこの監督の作品が大好きだということですね。『ビヨンド・サイレンス』『点子ちゃんとアントン』に続く3作目になるわけですが、恐ろしいほどに完成度が高くて、カロリーヌ・リンクという人はもう映画監督として完成されてしまっちゃったんじゃないかと、変な心配すらしてしまいかねません。それくらい、しっかりしています。前2作で「子供を描かせれば右に出るものはいない」という評判を確立している監督ですから、今回もそこに期待してみたところ、確かに相変わらず子供の描き方は素晴らしいです。でも、実は本作ではどちらかといえば母イエッテルと父ヴァルターのほうが、物語において比重を置かれて描かれているように思いますね。また、ナチスとかユダヤ人とかそういう設定ですけど、百凡のナチス迫害ものとは異なって、そこで観客を泣かせたりしない。あくまで父と母と娘の、それぞれの生き方、それぞれの苦悩、それぞれの成長が描かれていて、テーマはまさしくそこ。たぶん、レギーナを完全な主人公にしたら、もっと簡単に泣けたと思います。でも、監督はそんな安易なことは許さないみたい。別に泣かせようとしているわけじゃない。むしろ、「泣かせてくれない」と言ってもいいですね。あと一押しでも、感動的な演出をすれば泣ける物語にもなります。でも、リアルな物語には、そうそう劇的な演出などないものです。淡々と、あっさりと、でも、深く染み入る。3人の家族が、あくまでそれぞれの人間として成長する様を、丹念に、そして一歩引いた視点からみていることで、観ているこちらは、より明確に彼女たちが変わっていくさまを観ることができるのだと思います。2時間以上あるのに、全然長く感じないです。最初はアフリカの地に拒否反応を示していたイエッテルが「違うことにこそ価値がある」と言う。人と人とは違うからこそ価値があるのだ、と。ユダヤ人であるが故に排除されそうになりアフリカへ逃げてきた彼女だが、結局自分も最初は自分と違う文化を拒否したのに、それを悟った。この重みは大きいと思いました。
 まあ、それでも個人的にはレギーナに一番感情移入をしたかったところですから、彼女をもっと活躍(?)させてほしかったかな、という不満はあります。そして、前述したように、「もうここまできたら泣きたい!」と思う場面でも、ぎりぎりのところで抑えて泣かせてくれない。まるで、目の前に好物をぶら下げられて、取ろうとしたらひっこめられたような…そんな感じです(笑)。この絶妙の演出の加減が監督の力量を物語っていますね。泣きたい(と感じさえるところまでもっていかれながら)のに泣けなかった(泣かせてくれなかった)から、むむ……と思ったけど、観終わって振り返ってみれば、恐ろしく素晴らしい映画です。個人的な好きさ加減は前2作のほうが大きいかもしれないけど、完成度はこっちは更に高まっているし、何より贔屓せずにはいなれれないので、この評価。それにしても、レギーナ役が子役から少女役に切り替わる瞬間は、ちょっとびっくり(笑)。でも、この2人、すごい似てますねー。そういう意味では全く不自然でないですよ。


ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女
The Chronicles of Narnia: The Lion, The Witch and the Wardrobe
監督・脚本:アンドリュー・アダムソン 脚本:クリストファー・マルクス、スティーブン・マクフィーリー、アン・ピーコック
原作:C・S・ルイス 撮影:ドナルド・マカルパイン 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
出演:ウィリアム・モーズリー、アナ・ポップルウェル、スキャンダー・ケインズ、ジョージー・ヘンリー、ティルダ・スウィントン、ジェームズ・マカボイ、ジム・ブロードベント、リーアム・ニーソン
2005年アメリカ/140分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.disney.co.jp/movies/narnia/

 第2次世界大戦下のイギリス。ペベンシー家の4人の子どもたち、ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシーは、田舎のカーク教授の家に疎開する。かくれんぼをして遊んでいたとき、末っ子ルーシーが衣装箪笥のなかに身を隠すと、その先には雪に覆われた不思議な国“ナルニア”の地につながっていた。
 読んだことはなくとも、誰でもタイトルは知っているであろう、C・S・ルイスによる名作ファンタジーの完全映画化。自分も昔、第1巻の「ライオンと魔女」は読んだことあるような気がするんですが、細かい内容は覚えてない。また、原作者が「指輪物語」のトールキンと交流があり、同じく英国ファンタジーの傑作と称されていること、また本作の撮影がニュージーランドで行われたこと、特殊造形をWETAが手がけたことなど、なにかと『ロード・オブ・ザ・リング』と共通することが多いので、比較は避けられないと思うんだけど、やはりあちらに比べてこちらは子ども向けなんだろうなと。VFXを駆使したキャラの造形などは確かに大したものだと思うけれど、『ロード〜』に比べて一応こちらは1本で話は完結しているので話に大河的なドラマが感じられないし、主人公が子どもなので戦闘シーンにも迫力がないし(もともとそういう話じゃないが)。原作のファンで、その世界がそのままイメージどおりに映像化されていることに感動することができれば、それはそれでOKなんだけど、そういう部分がない限り、あまり楽しめなかったかも。また、映像も妙に明るすぎて、これまた『ロード〜』と比べてしまって申し訳ないが、例えば登場人物や小道具の“汚れ”ひとつもないとリアルに感じられないんだよなぁ……。
☆☆☆★★