21グラム
21 Grams
監督・製作:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 脚本:ギジェルモ・アリエガ
出演:ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロ、シャルロット・ゲンズブール
2003年アメリカ/125分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.21grams.jp/ チラシ 12345

 心臓疾患で余命1ヶ月と宣告された大学教授ポール。優しい夫と幼い娘2人と幸せに暮らすクリスティーナ。信仰に没頭することで心の平静を保っている前科者のジャック。全く別の人生を歩んでいた3人の運命が、ひとつの心臓を巡り絡みあう。ジャックは懸賞で手にしたトラックを神からの授かり物と思っていたが、そのトラックでクリスティーナの夫と2人の娘を轢いてしまう。脳死状態に陥った夫の心臓を、他人に移植することに同意したクリスティーナは、愛する家族を一度に失い、ドラッグに手を伸ばしていく。そして心臓移植を受けて一命を取り留めたポールは、自分に命を与えてくれたドナーのことを知りたいと思い……。
 『アモーレス・ペロス』で衝撃的なデビューを飾ったメキシコ人監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥのアメリカ進出第1作。ベネチア映画祭ほかで絶賛され、アカデミー賞にもノミネート。『アモーレス・ペロス』に深い感銘を受けたものとしては、この監督がこの役者陣で撮るというだけで大変楽しみにしていましが、これが期待を裏切らない素晴らしい出来栄え。別の場所で進行する3つの物語を複雑に絡み合わせた前作と同様、こちらも3人がそれぞれの人生を送り、事故をきっかけに出会い、結末を迎えるまでの様子が、時間軸を交錯させながら描かれています。その複雑な編集方法が、映画を見慣れない人には混乱させかねないものだけど、そこがまた破綻なくまとまっているからすごい。時系列をストレートに繋げるだけでも、それなりの物語にはなるけど、だいたい物語の最初のほうから、後で起こることがたびたびインサートされるから、3人にこの先何が起こるかを、観客は予測しながら観てるわけで、それだけに登場人物の一挙手一投足に関心を引き寄せられる。加えて芸達者な役者たちの熱演に心を揺さぶられ、悲痛な思いに胸を打たれる。細かい部分の描写にしても、時間軸が飛び交う編集にしても、監督はストレートに提示しないから、観客はある程度の理解力を要求されるわけだけど、本来映画というものはそういう部分が往々にしてあって然るべきだと思うし、個人的にはそういうの好きですし。「21グラム」というのは、人間が死ぬときに失う重さということで、生と死、命の重さ……といったものがテーマになってると思います。登場人物たちには常に死と生に執着し、死んでいく物、生き残った者、生まれいずる者……様々な“命”が描かれています。『アモーレス・ペロス』同様に、やっぱこの監督は凄いと思わざるを得ません。


2046
2046
監督・脚本:ウォン・カーワイ
出演:トニー・レオン、木村拓哉、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー、カリーナ・ラウ、チャン・チェン、マギー・チャン
2004年香港/130分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.2046.jp/ チラシ 1

 1967年、香港。新聞記者で小説家のチャウが、アパートの一室で小説「2046」を書いている。物語の舞台は2046年。失われた愛を求める人々が、アンドロイドの乗務員が乗るミステリートレインで“2046”と呼ばれる謎の場所を目指す。そして今、たった一人、“2046”から帰ってきた青年が、再び列車に乗り、2046に旅立とうとしている……。小説の登場人物は、チャウの周りの人々がモデルになっており、主人公の青年は、かつて愛した女性を忘れられないチャウ自身の投影だった。チャウは、本当の愛が信じられなくなり、何人も女性を変えては遊び歩いていたのだが……。
 製作の発表から5年近くも音沙汰がなく、一時期は完成もあやぶまれたものの、2003年に急遽、撮影が再開し、2004年のカンヌ映画祭のコンペティション部門に出品されるも、上映時間の15分前にフィルムが到着するという前代未聞の事態まで発生させた問題作。そして、日本人としては、あのキムタクが出演していることでも話題。錚々たる顔ぶれアジアのスターに混ざって、一体キムタクがどう演じるのか!? ということで興味津々だったが、考えてみれば自分はテレビドラマを見ない人間なので、キムタクの演技を見るのもこれが初めてでした。でも、キムタクを知らない外国の人がみれば、別にそんなに気になるものでもないのではないかな、というのが正直なところ。はっきりいって出演時間も少ないし(当初報じられていた7分よりは長いのでは?)。確かに重要な役どころではあるかもしれないけど、全体的に構成のバランスが悪いような気がして、かなり中だるみ感があったから、そっちのほうが気になってしまった……。これだけ豪華な面子が出ているのに、個々のエピソードがバラバラで、正直必要あるの?って思うところもあったし。『花様年華』の続編的な内容なので、どうしても比べてしまうけど、あっちのほうがずっと精神性があってよかったなぁ……と。さすがに画はいいんだけど。せめてもう20分は短くしてほしかったかなぁ……。


2001年宇宙の旅
2001: A Space Odyssey
監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック 原作:アーサー・C・クラーク
出演:キーア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド
1968年アメリカ+イギリス/139分/

 もはやいわずと知れたSF映画の古典的代表作であり、映画そのものの代名詞といっても過言ではないくらい。人工知能HALの叛乱によって乗組員が一人また一人と抹殺されていき、最後に残されたボウマン船長のとるべき道は・・・。というストーリーもあるのだが、この映画は単なるストーリー映画では終わっておらず、むしろそれは副次的なものに過ぎない。冒頭20分をかけて類人猿とモノリスが接触するシーンが描かれ、時を隔てて今度は人工知能が自ら叛乱を起こして人間を殺す・・・。そうすることで人間とはなにか?ということをを描いていたり、精神的な何か、神の存在のようなものを訴えていたりするような・・・。とにかく単なるSF映画ではなく哲学映画ともいわれており、解釈、切り口はいくらでもあるような作品。台詞を抑えて静止画にクラシック音楽を延々流したりする演出方法など、実に見るべきところが豊富で、まさに永遠に語り継がれる映画としてふさわしい。すでに30年以上前の作品であるが、今見ても色あせることはない。とにかく難しいことは抜きにしても、観てみることに価値がある映画ではないだろうか。生きているうちに一度は観てみるべき映画。


2010年
2010
監督・製作・脚本・撮影:ピーター・ハイアムズ 原作:アーサー・C・クラーク デザイン:シド・ミード
出演:ロイ・シェイダー、ジョン・リスゴー、キーア・デュリア
1984年アメリカ/110分/

 "2001年宇宙の旅"の続編として作られた映画。2001年のストーリー的な部分で謎のまま終わった部分(モノリスの存在とは? ボウマン船長の行方は? など)を補完するような形で作られている。なので、この作品は、2001年の続編とはいっても、さすがにあれほどの独自性は出せずに単なるストーリー映画として出来上がっている。ただ、映画として観るには面白いと思います。2001年を観たことあるなら、ついでにこちらも観てみてはどうでしょう。よくぞ、あの映画の続編を作ったと、今になってみれば思うものですが、そもそも原作小説はもっと後まで続くわけですし…。それに、今作が、前作(「2001年〜」)を陥れたりするような、劣悪な続編でないことは確かだと思いますし。それなりに面白いと思います。


200本のたばこ
200 Cigarettes
監督:リサ・ブラモン・ガルシア
出演:ベン・アフレック、クリスティーナ・リッチ、ケイシー・アフレック、ケイト・ハドソン、エルヴィス・コステロ
1999年アメリカ/102分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.asmik-ace.com/200Cigarettes/

 ニュー・イヤーズ・イヴ(大晦日)の夜のNY。若者たちは新年の最初の朝を一緒に迎えるパートナーを見つけることに躍起になっていた・・・という青春ラブコメディ。注目の若手が集まって総勢20名近い男女が、それぞれの夜をすごし、最終的にパーティ会場へ集う。
 それぞれの登場人物の個性がキャラ的にも外見的にもはっきりしていて、人数が多いにも関わらずよくまとまっています。全体を通して、各々の登場人物に割いている時間も均等で、且つその中でうまく個々の展開を綺麗に消化している点は良かったですね。関係ないような者同士が微妙にどこかでつながりがあったりして面白い。が、やはり凡庸なコメディであるとしか思えず、特にこれといったこともなし。個人的にはクリスティーナ・リッチ目当てで見たんですけど、とってもケバい役だったので、これまた残念・・・。


ニュー・シネマ・パラダイス
Cinema Paradiso
監督・脚本:ジョゼッペ・トルナトーレ 音楽:エンリオ・モリコーネ
出演:フィリップ・ノワレ、ジャック・ベラン、サルバトーレ・カシオ
1989年イタリア+フランス/124分/

 40年代のシチリアが舞台。映画に魅了された少年トトは、島に唯一の映画館パラダイス座に通いつめ映写技師のアルフレードと親しくなっていった。やがてトトは成長し、恋愛や徴兵を経験して大人になり、島をでていく。彼の可能性を広げるために、島にかえってくることを禁じるアルフレード。そして月日は流れ、アルフレードが死んだとき、再び島に帰ってきたトトは・・・。
 感動しないはずはない、といったようなつくりだけど、それが嫌味に感じないのがこの映画。映画のよさを知るにも、この映画をみることはいいかもしれない。名作といわれれば必ずその名があがる映画です。
 後に約51分、60カットとという異例の付けたしを行った完全版がだされたが、これはなにやらかなりオリジナルと違ったふうになっているらしく、評判はあまり芳しくない。いろいろ見方はあるだろうが、とりあえずは評判の高いオリジナル版を観ておけば間違い(?)はないでしょう。ちなみに僕が観たのもオリジナルのほうです。


ニュースの天才
Shattered Glass
監督・脚本:ビリー・レイ
出演:ヘイデン・クリステンセン、ピーター・サースガード、クロエ・セヴィニー、スティーブ・ザーン、ハンク・アザリア
2003年アメリカ/102分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.news-tensai.jp/

 1998年、ワシントン。大統領専用機にも唯一設置され、国内で最も権威があるとされる政治雑誌ニュー・リパブリック誌の記者として活躍する25歳のスティーブン・グラスは、斬新な切り口で次々とスクープ記事をものにしていった上、人当たりのよさで周囲の人々の間でも人気者だった。しかし、ある時、彼が手がけたある記事が、ライバル誌から捏造疑惑をかけられ……。
 アメリカで最も権威ある雑誌ニュー・リパブリック誌の最年少記者として数々のスクープ記事を執筆し、時代の寵児となったスティーブン・グラスだが、実はその記事の大半が捏造されたものだったという、実在の事件を映画化した社会派ドラマ。内容が内容なだけに、派手な演出もなく、事実に基づいて淡々と話しは進んでいくのだが、その過程で徐々に嘘がはがされていくグラス(ヘイデン・クリステンセン)の様が痛々しくもあり、逆に編集長のチャック(ピーター・サースガード)は事の重大さに苦悩しながらも、極めて冷静に事実を暴いていく……そのどちらの心理もそれぞれの役者がよく現していると思う。ひとつの嘘を取り繕うために、次々と小さな嘘を重ねていく。そうすればそうするほどに、人間が小さくみていく。この2人の対比がとにかく良くて、さらにチャックの潔さこそが、ジャーナリズムとはなんぞやということを教えてくれる気がする。