サーティーン/あの頃欲しかった愛のこと
Thirteen
監督・脚本:キャサリン・ハードウィック 脚本:ニッキー・リード
出演:エヴァン・レイチェル・ウッド、ホリー・ハンター、ニッキー・リード
2003年アメリカ/101分/配給:メディア・スーツ
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/thirteen/ チラシ 12

 13歳になったトレイシーはハイスクールに進学するが、元来おとなしい彼女は、学内のギャルグループにダサいとからわかれる。そんなとき、“学校で一番ホットな”女の子イーヴィと出会う。最初は相手にされなかったトレイシーだが、イーヴィのようになりたいと、次第に服装や髪型を変え、彼女に近づいていく。そして、2人が友達になったとき、トレイシーは次々と行動をエスカレートさせていく……。
 それまで親しかった親へのちょっとした反抗や、かっこつけたい、背伸びしたいという思いが芽生えていく13歳という微妙な年頃の少女のドラマ。脚本を書いたのはイーヴィ役のニッキー・リードで、この映画は彼女の実体験だという。13歳で脚本を書き(監督も共同でクレジットされているが)、撮影当初は14歳。これだけでもなかなかスゴイことだが、内容も重たく、心に突き刺さるようなハードなものなので、たいそう話題になったそうだ。サンダンス映画祭で監督賞を受賞したほか、ホリー・ハンターやエヴァン・レイチェル・ウッドはアカデミー賞やゴールデン・グローブ賞にノミネートされている。ドラマもいいが、彼女らの熱演もまた、忘れがたい印象として残りました。痛々しいほど現実的であるけれど、こういう現実がもしそこら中にあふれているのだとすると、アメリカという国の抱える問題も深刻だな……と思うんだけど、実は日本だって、最近は変わらないんじゃないのかなって。まあ、それにしても毎度の感想ですが、エヴァン・レイチェル・ウッド、かわいくなったなぁ〜。いい感じで成長してます。あんまり作品が観られないから、このように主演作でしかも質が高い作品ならなおさら貴重です。


13デイズ
Thirteen Days
監督:ロジャー・ドナルドソン
出演:ケビン・コスナー、ブルース・グリーンウッド、スティーブン・カルプ
2000年アメリカ/145分/配給:日本ヘラルド映画

 1962年10月16日、カストロ将軍による社会主義政権下のキューバに、ソ連が核弾頭ミサイルを設置しているという情報が偵察機により入手され、ジョン・F・ケネディ大統領のもとに届けられた。アメリカ主要都市を射程内に捕らえるミサイルをどうにしかして取り除かなくてはならないが、一歩間違えれば第3次世界大戦の勃発は免れない……。ホワイトハウスは緊迫した空気に包まれた。
 “キューバ危機”を描いたサスペンス。一応、史実に基づいているんだろうけど、やっぱりどうしてもアメリカ中心に視点になってしまっていて、なんだかよくわからないけどソ連がキューバに核ミサイルを持ち込んだってところから話が始まるわけで、じゃあ何故ソ連はそのような行動に出たのか?という歴史的事実の説明はないため、予め勉強しておくとより面白いのかもしれません。ところどころで画面がモノクロになったり、当時の映像を入れたりして、リアル感を出そうとしたのかもしれないけど、それはなくてもよかったような気がしました。むしろ違和感が……。あとはちょっと長い気はしましたね。


サイダーハウス・ルール
The Cider House Rules
監督:ラッセ・ハルストレム 原作・脚色:ジョン・アービング
出演:ドビー・マクガイア、シャーリーズ・セロン、マイケル・ケイン、キーラン・カルキン
1999年アメリカ/131分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.asmik-ace.com/Cider/

 「ガープの世界」で知られる米作家ジョン・アービング原作・脚色の映画。田舎の孤児院で産まれたホーマーは、孤児院院長のラーチに愛情を注がれ、医師としての知識や技術を教えられて育っていた。一人前になりつつあるホーマーだが、“堕胎”の手術に納得ができず疑問をもっていた彼は、やがて医師としてではなく、自立した自分の道を探そうと、孤児院を去っていく。一人の孤児の青年が、孤児院から離れ、様々な出会いや経験を通して成長していく様を静かに感動的に描く。
 登場人物たちそれぞれの優しさや愛に満ちた行動が、温かく、心にじんわりと染み入ってくる作品です。特に孤児院の子供達、院長、看護婦さん…彼らの血の繋がりはないけれど、本当の家族以上の絆をもって暮らしている様は、それだけで一種のノスタルジーのような、憧憬の念を抱かせてくれて、心を温めてくれます。残念なところは、タイトルである「サイダーハウス・ルール」というものが、いまいち活きていなかったという点でしょうか。原作の小説でそのあたりがどのように扱われているかを知れば、また見解も変わるかもしれませんが、映画をみるだけでは、別にサイダーハウス・ルールじゃなくても良かったのでは? とも思えるのですが…。それを差し引いたとしても、温かな感動作であることには変わりないんで、文句はありません。


サイン
Signs
監督・脚本・製作:M・ナイト・シャマラン
出演:メル・ギブソン、ホアキン・フェニックス、ローリー・カルキン、アビゲイル・ブレスリン、M・ナイト・シャマラン
2002年アメリカ/107分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.movies.co.jp/sign/ チラシ 123

 最愛の妻を突然の事故で亡くしてから、信仰を失ってしまった牧師グラハム。今は農夫として、弟と2人の子供たちと暮らしていた。だが、ある日、農場のトウモロコシ畑に巨大なミステリーサークルが出現。幼い娘は不吉を予知するようになり、農場の周囲に次々と不審な出来事が起こる。ミステリーサークルがなぜグラハムの農場に現われたのか? その意味ははたして…?
 「シックス・センス」「アンブレイカブル」に続くシャマラン・マジック(?)第3弾。徹底した秘密主義で期待感を煽るのは、この監督お得意の手法ですが、しかし、今回は“前科”がありました。そう、他でもない「アンブレイカブル」です(あれはオチに期待していてはダメだった)。だから僕は今回、それほど大きな期待はせず、でも楽しみにはしつつ、なるべく真っ白な状態で観にいったつもりです。だから、結論からいえば結構楽しめました。ツッコミどころはあるにしても、それなりにハラハラして、この先なにが起こるのかということを考えながら観られるという点では、面白い映画だと思います。スクリーンの中で起こっていることを素直に受け止められれば、良いと思いますよ。なんで? ってことはあるにはあるんですけど。個人的にはこのB級テイスト漂う作風は好きですし、この監督の作品は“雰囲気”が好きです。微妙なカメラワークとかうまいですし、これといった特撮もなしに、身の回りにあるものだけで、日常的なものの描写だけで不安感をアップさせるのは上手いです(吠える犬、怪電波をキャッチするトランシーバー)。メル・ギブソン、ホアキン・フェニックスというキャスティングもハマッていますし、笑えるところも意外にあったりして(やっぱり、あの帽子が笑える)。ミステリーサークルがどうのこうの…ってことを最初から気にしすぎないのが、この映画を楽しむコツですかね。監督曰く「人間ドラマ」ということだけど、その通り。これからは、シャマラン監督作品は、あくまで“ミステリー、サスペンス調だけどテーマは人間ドラマ”ということを認識した上で観ると楽しいんじゃないかと。ああ、そういえばまた出演してました、監督。なんか作品を追うごとに出演時間が長くなってますけど…。


ザ・インターネット
The Net
監督・製作:アーウィン・ウィンクラー
出演:サンドラ・ブロック、ジェレミー・ノーサム
1995年アメリカ/114分/

 ネットによって、全ての個人情報が犯罪者のものに書き換えられ、命を狙われるはめになった主人公が、たった一人で立ち向かう・・・。というサスペンス映画。まだ日本で商用ネットが世間に普及していなかったころに「インターネット」というタイトル(原題は「THE NET」)を もってきたのは先見の明があったというか。情報管理社会の恐ろしさというものを描いているのだろうが、今観るとなってはちょっと古臭いだろう。しかも、この映画、ザ・インターネットとは言ってますが、ほとんどは主人公が現実世界で追われて逃げつづける、って感じでして、ネット自体はそれほど物語の中で登場しないです・・・。


サウスパーク/無修正完全版
South Park: Bigger Longer & Uncut
監督・脚本:トレイ・パーカー、マット・ストーン
声の出演:トレイ・パーカー、マット・ストーン、アイザック・ヘイズ、ジョージ・クルーニー、ミニー・ドライヴァー
1999年アメリカ/81分/配給:ワーナー・ブラザース映画

 かわいい顔した(と、自分は思わないが)小学生が、放送禁止用語を連発しまくる超過激アニメの劇場版。一部に熱烈な(?)ファンがいるので、ご存知の方もいると思う。テレビシリーズを観ていないんですが、後学のために劇場版である本作だけ観てみたんですが、特に思い入れがないため、まあ、笑えるところは笑える……という程度で終わってしまった。あの歌とか、妙にキャッチーでついつい口ずさんでしまいそうになるけど、ヤバイですね(笑)。まあ、良識にとらわれすぎてみると眉をひそめたくなってしまうかもしれないし、そういう気持ちもわからなくはないけど、これはまさにそうした“良識”を挑発する映画であるからして、こういう映画もあるんだよと思って観るのが吉。でも、正直よくここまでやるよな……。その勇気というか、才気というか、そういうものには感嘆しますが。やっぱ特に思い入れるわけではないな。やはり好みの問題でしょう。


ザ・エージェント
Jerry Maguire
監督・脚本・製作:キャメロン・クロウ 撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:トム・クルーズ、レニー・ゼルウィガー、キューバ・グッディング・Jr.
1996年アメリカ/138分/配給:COLTRI

 スポーツ・エージェントのジェリーは、選手の年棒をつり上げるばかりの会社のやり方に疑問を抱き意見書を提出するが、あえなくクビに。独立を宣言した彼についてきたのは、シングルマザーの事務員ドロシーと、落ち目のアメフト選手ロッドだけだった……。
 トム・クルーズがゴールデン・グローブ賞主演男優賞、キューバ・グッティング・Jr.がアカデミー賞助演男優賞を受賞した感動作で、成功していた男が一転して転落し、挫折や苦悩を味わいながらも、新しい恋や友情によって再び成功を勝ち取っていくドラマ。ビジネスはもとより、ビジネス以外でも、人としての大切な根本はなんであるかということを、ストレートかつ嫌味なく描いた秀作。どんな業界であれビジネスには後ろ暗さや汚さがつきものですが、だからといって人間を信じることをやめてはいけないという前向きなメッセージ。仕事に疑問を抱き、疲れたときに観てみてはどうだろうか。それにしても、この頃のレニーは初々しいというか若々しくてカワイイ。『ブリジット・ジョーンズ〜』以降がなぁ……。


サスペクト・ゼロ
Suspect Zero
監督:E・エリアス・マーヒッジ
出演:アーロン・エッカート、ベン・キングスレー、キャリー=アン・モス
2004年アメリカ/99分/配給:ソニー・ピクチャーズ
公式サイト http://www.sonypictures.jp/movies/suspectzero/ チラシ 1

 過去の失態から左遷されたFBI捜査官のトム・マッケルウェルは、殺害した人物のまぶたを切り落とし、謎のマークを死体の側に残していった犯人を追うことになる。しかし、続けて同一人物の犯行と思われる殺人事件が立て続けに2件発生する。やがて捜査線上にはオライアンという人物が浮かび上がるが、彼は元FBI捜査官で、捜査官時代に、「特定の犯行の手口を持たないため、決して捜査線上に浮かび上がらない犯人=“サスペクト・ゼロ”」がこの世には存在するのだと、特異な持論を展開していたという。果たしてオライアンはなんのために今、殺人を犯しているのか……?
 これまたネタバレしてしまうと面白くないというオチつきのサスペンス・ミステリーものなので、詳しくは書けないんですが、しかし、この映画が百凡のそうしたサスペンスものと異なっているのは、“人よりも秀でた能力を持ってしまったが故の苦悩”ということが丁寧に描かれていることで、ラストは思わず切ない気持ちにさせられてしまう。ただ、役者も地味で話もそんなに大きく広がるわけではないので、市場では埋もれてしまいがちかもしれないが、なかなかの良作。役者も地味とは言ったものの、やはりベン・キングスレーは巧いなと舌を巻かずにはいられません。アーロン・エッカートもなかなか良いし、キャリー=アンも出番は少ないが。


殺人に関する短いフィルム
Krotki Film o Zabijaniu
監督・脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ 脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
出演:ミロスワフ・バカ、クシシュトフ・グロビシュ
1987年ポーランド/85分/配給:ヘラルド・エース

 街中をさまようひとりの青年がタクシーを拾い、郊外に向けて走らせる。そして、人気のない川べりに着いたとき、青年は運転手に襲いかかるのだが……。
 モーゼの「十戒」をもとに製作された10話からなるテレビシリーズ「デカローグ」の第5話「ある殺人に関する物語」を再編集し、劇場公開された映画。青年とタクシー運転手と新米弁護士の3人の男の物語が、やがて収束していく様子はキェシロフスキ得意のパターンだが、本作でもその手腕は見事に発揮され、特にクライマックスにかけての青年と弁護士のやりとりは知らず知らずとひきつけられて、最後のシーンに至っては、これ以上になく静かに抑制された物語でありながらも、衝撃的に繰り広げられる。なるほど“殺人に関する”物語とはそういうことか……と。ここで描かれる2つの殺人は、性質こそ異なれ、人が人を殺すことになんら変わりはない。
 「デカローグ」からはもう1本、第6話「ある愛に関する物語」が『愛に関する短いフィルム』として公開されている。


殺人の追憶
Memories of Murder
監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル
2003年韓国/130分/配給:シネカノン
公式サイト http://www.cqn.co.jp/mom/ チラシ 1

 1986年から91年にかけて10人の若い女性が犠牲になりながらも、犯人は現在に至るまで捕まっていないという未解決連続殺人事件を描いたフィクション・ドラマ。86年10月23日、韓国のとある農村で若く美しい女性が無惨な姿になって発見され、数日後には同様の手口で2人目の被害者が出る。地元の刑事パクが早速捜査に当たるが、一向に手掛かりは見つからない。そんな時、ソウル警察からエリートのソ刑事が派遣される。操作方法の違いからたびたび衝突を繰り返す2人だが、その間にも犯人は次々と女性を手にかけていく……。
 長編1作目『ほえる犬は噛まない』で才能を認められた若手監督の第2作。しかし、2作目にしてこんなにも重厚でドラマを作ってしまうなんてスゴイ。あらゆるメディアで絶賛されている本作、2人の刑事の苦悩と絶望のさまがやっぱり見物。雨の日に繰り返される犯行、つかんだと思っては消えていく犯人像。それが徐々に徐々に積み重なっていくことで、登場人物たちに、そして観客たちに重たくのしかかってくる感じです。刑事モノであり、人間ドラマでもあり。どちらにしても骨太で、がっつりと画面に見入って鑑賞できる秀作。こんなに骨太な映画が近年の日本映画にはあるか? と考えると、思い当たるふしがあまりに少なくて、こういうホンモノが生まれる韓国映画界というのが実にうらやましい。


座頭市
Zatoichi
監督・脚本・編集:北野武 原作:子母沢寛 衣裳:黒澤和子 衣裳監修:山田耀司 音楽:鈴木慶一
出演:ビートたけし、浅野忠信、夏川結衣、大楠道代、橘大五郎、大家由祐子、ガダルカナル・タカ、岸部一徳
2003年日本/115分/配給:松竹、オフィス北野
公式サイト http://www.office-kitano.co.jp/zatoichi/ チラシ 1

 ある町に3組の旅人が偶然集まる。1人は盲目で仕込杖を持った居合抜きの達人・座頭市。1組は凄腕の浪人・服部源之助と病弱なその妻おしの。そして最後の1組は三味線に刃を忍ばせ、旅芸人をしながら親の仇を探すおせいとおきぬの姉妹。妻の病気を治すために金が必要な服部は、町を牛耳るやくざの銀蔵の護衛を買ってでるのだが、銀蔵こそおしのとおせいの仇であり、また彼女らと座頭市が知り合ったことで三者の運命の糸が絡みはじめ……。
 子母沢寛原作で故・勝新太郎が主演を務めた大ヒットシリーズのリメイク版。ただし、一部の設定以外は全て一新された北野流の座頭市。第60回ベネチア映画祭・銀獅子賞(監督賞)受賞作品。時代劇でありながらも、あまり時代考証にはとらわれずに、タップダンスやコントを取り入れ、また、素早い殺陣も話題。観る前は、それらが不安要素だという声も聞こえたましたが、むしろ僕はそれらがあってよかったと思いました。コントは割りとベタで、まあ笑える…という程度のもので、タップダンスも同じくわかりやすいのですが、逆にそれが新鮮でした。日本人の心の奥底に眠っているであろう“祭”の心を掻き立てる和太鼓の拍子にあわせて下駄をならすタップダンスは、全然不自然に感じなくて、むしろ今までなかったのが不思議なくらい(あったのかもしれませんが、とりあえず知らないので)。たぶん、ベネチアで受けたのも、こういった和的なものを鼓舞するところだろうな、と。西洋人からすれば、あれはとてもエモーショナルなものに映るんだろうと。個人的には、このタップシーンは良かったです、とても。ストーリーやキャラクターはわりと乾いた感じで、まあこれは監督自身が言っていることですが、「座頭市は正義の味方だか悪人だかわからない」。もちろん主人公ですから、それなりに活躍するんですが、表舞台には出ない。ふらっとやってきて、斬るだけ斬って去る。どうして彼がそうなのかという説明はなし。でも、それで楽しめるならOKというのが、この映画の意図のようですから、それならそれで良いのでは、と。あんまりベタベタと人情話されても、この映画にはあってませんからね。ちなみに僕は勝新太郎バージョンは全く観たことがないので(当たり前)、“座頭市”というもの自体に触れるのは初めてです。勝新版が好きな人には受け入れられるものなのでしょうか?


サベイランス/監視
Antitrust
監督:ピーター・ハウイット
出演:ライアン・フィリップ、レイチェル・リー・クック、クレア・フォラーニ、ティム・ロビンス
2001年アメリカ/108分/配給:20世紀フォックス
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/surveillance/

 友人たちとガレージでコンピュータソフトの開発を行っているマイロは、世界的な巨大ソフト会社ナーヴの社長ウィルソンに直接目をかけられ、ナーヴの社員になる。それまで一緒に開発を行っていた親友のテディは、ナーヴのやり方を好まないので、二人は別々の道を歩むことになるのだが・・・。
 コンピュータのソフト開発にからんだサスペンスドラマ。しかし、この映画、本当は「アンチトラスト」じゃなくて「アンチ ビル・ゲイツ」にしたかったのではないのか?(笑) 僕が見た限りでは、あからさまにそう思えました。ティム・ロビンス演じるナーヴの社長ウィルソンの外見はビル・ゲイツに似てるし、ナーヴのソフト開発とその市場を独占するやり方と、それに反発しオープンソースの大切さを訴えるテディ・・。さらに彼らはガレージからベンチャーを目指しているという設定・・・・。そういう意味で楽しめた作品ではあります。が、映画としては、ごくありがちなサスペンスという感じも拭えなかったと思います。それでも、ライアン・フィリップ、レイチェル・リー・クック、クレア・フォラーニという人気若手陣に、実力派ティム・ロビンスという豪華なキャスティングなだけに、そのへんは楽しめると思います。


サマードレス
Une Robe D'ete
監督・脚本:フランソワ・オゾン
出演:フレデリック・マンジュノ、ルシア・サンチェス、セバスチャン・シャルル
1997年フランス/15分/配給:ユーロスペース

 友人とバカンスに訪れた青年ミックは、海辺でルシアという女性と知り合い、ひょんなことから彼女に一着の青いドレスを借ることになるが……。
 フランソワ・オゾン、初期の短編。オゾンにしてはなかなか微笑ましくて可愛らしい一編。ただ、あくまで“オゾンとしては”ということなんで、15分という短い中に彼らしい表現や描写も出てきます。まあ、そのへんはご愛嬌といいますか。こんなに短いのに、こんなに情感が豊かであり、かつセクシャリティなのはさすがというか。個人的にはこの映画のラストがものすごく好き。


サマリア
Samaritan Girl
監督・脚本:キム・ギドク
出演:クァク・チミン、ソ・ミンジョン、イ・オル
2004年韓国/95分/配給:東芝エンタテインメント
公式サイト http://www.samaria.jp/ チラシ 12

 父親とふたり暮らしの女子高生ヨジンは、親友のチェヨンが海外旅行のために援助交際を繰り返すことに嫌悪感を覚えながらも、彼女のためにホテルの外で見張り役を務めていたが、ある時、ふと目を離した隙に警察がホテルに入り、逃げようとしたチェヨンはホテルの窓から飛び降りてしまう。親友を失った罪悪感から、ヨジンは罪滅ぼしのため、あることを始める。そして、そんな娘の実態を知ったヨジンの父は……。
 韓国映画界の鬼才にして異端児と呼ばれるキム・ギドク監督が、ベネチア映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した秀作。監督が「内面に怒りを抱え、その憤りに震える季節」と語る秋を背景に、純粋に思いつめるがゆえに痛々しい少女と、その父の様子を描く。カメラに収められる紅葉に染まった風景が美しく、印象的である一方、寡黙な登場人物たちの今にも糸が切れてしまいそうな不安定な描写が、静かに観る者を不安にさせる……。すでにいくつかの過去の作品で高い評価を得ているキム・ギドク監督の作品は、チェックしようしようと思っていながらも、つい見逃していて、本作で初めて観たのですが、これは過去の作品も是非観てみたいと思いましたね。


鮫肌男と桃尻女
Shark Skin Man and Peach Hip Girl
監督・脚本:石井克人
出演:浅野忠信、小日向しえ、岸部一徳、我修院達也
1998年日本/107分/配給:東北新社

 組から金を盗みとって逃亡をつづける鮫肌黒男。逃亡の最中に偶然出会って、共に逃げることになる桃尻トシコ。奇妙な二人の逃避行は、やがて二人の間に微妙な関係を作っていく・・・。でてくるキャラクタすべてが一癖二癖あるような変わった連中。どこか淡々としながらも、ストーリーは進み、悲観的にならず飄々とした鮫肌を浅野忠信が好演し、脇を固める役者たちも個性揃い。


SAYURI
Memoirs of a Geisha
監督:ロブ・マーシャル 製作:スティーブン・スピルバーグ 原作:アーサー・ゴールデン
脚本:ロビン・スウィコード、ダグ・ライト 撮影:ディオン・ビーブ 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:チャン・ツィイー、渡辺謙、コン・リー、ミシェル・ヨー、役所広司、桃井かおり、工藤夕貴、大後寿々花
2005年アメリカ/146分/配給:ブエナビスタ、松竹
公式サイト http://www.sayuri-movie.jp/

 家の貧しさゆえに9歳で置屋に売られてしまった少女・千代。厳しい下働きの生活が続くなか、希望を失いかけていた彼女は、ある日、“会長さん”と呼ばれる優しい紳士に心を奪われ、立派な芸者になっていつか彼と再会することを心に誓う。
 原作はアメリカ人が書いたとは思えないほどに、花柳界や京の文化についてのあれこれが細かく記述されていて舌を巻いたが(その上にきちんと女同士のいさかいとか、さゆりの一途な愛と成長とかが描かれてるから面白い)、映画もかなり原作に忠実で、いわゆる「とんでも映画」にはなってないと思う。……いや、主人公を演じてるのが中国人で、せりふは全部英語っていう時点で、とんでも映画なのかもしれませんし、確かに細かなところで突っ込みの入れようはあるんですが、個人的にはあまり気にならなかった。監督自身が歴史に忠実にするのではなくて、ある種のファンタジーとして撮ると言っていたわけだし、これはもう割り切って観るのが正解かと。原作の重要なエピソードもそつなくまとまっていて、さゆりの成長と彼女をめぐる人物関係とその苦悩が描けていたと思う。それにしても役者たちはよく頑張ったというか、主人公が日本人じゃないということに不満を抱く人もいるかもしれないが、やはりこれを観てしまえばチャン・ツィイーに適う同世代の日本人女優がいるとは思えないし、ハリウッド映画初出演の役所広司がいい。そして実はさゆりの少女時代を演じた大後寿々花は、かなりスゴイのでは!?
☆☆★★★


さよなら、さよならハリウッド
Hollywood Ending
監督・脚本:ウッディ・アレン
出演:ウッディ・アレン、ティア・レオーニ、トリート・ウィリアムズ、ジョージ・ハミルトン、デブラ・メッシング、マーク・ライデル
2002年アメリカ/113分/配給:日活
公式サイト http://www.nikkatsu.com/movie/sayonara/ チラシ 12345

 かつてはアカデミー賞を2度も受賞した神経過敏の映画監督ヴァルだが、今はすっかり落ちぶれていた。そんな時、ヴァルを捨ててスタジオ経営者の男のもとに行っていた元妻エリーが、自身がプロデューサーを務める超大作の監督をヴァルに依頼してくる。再起をかけて監督を引き受けたヴァルだが、撮影開始の前日になってストレスから目が見えなくなってしまう……。
 映画製作の内側を舞台にしたウッディ・アレン監督&主演のドタバタコメディ。自身が神経過敏症なアレンだが、そのまま自分を投影させたようなキャラクターで、いつもどおりのアレン節も全開。ただ、なんとなく全体的に間延びというか、そんな感じ。もっとタイトに90〜100分以内でバタバタと終わらせたほうが楽しかった気が。また、せっかくのいつものアレンらしい台詞まわしが楽しいのに、BGMが大人しすぎる気もしましたね。でも、要所要所で笑いのツボは押さえているので、よしとしましょう。そもそもコメディとしてよりも、ハリウッド嫌いで有名なアレンがこういう映画を撮ったということのほうが面白い。何しろ「Hollywood Ending」ですからねー。あと、2002年の映画なのに2005年になってやっと日本公開とは、遅すぎ!


さらば、わが愛、覇王別姫
Farewell to My Concubine
監督:チェン・カイコー 原作・脚本:リー・ピクワー 撮影:クー・チャンウェイ
出演:レスリー・チャン、チャン・フォンイー、コン・リー、グォ・ヨウ
1993年香港/173分/配給:ヘラルド・エース

 幼少の頃から、京劇養成所で互いをかばいあいながら厳しい修行をともにし、兄弟のように育った小豆と石頭。華奢で美少年の小豆はやがて女形の役者に、大男の石頭は立役者になり、それぞれ程蝶衣、段小樓という芸名で北京きっての人気役者コンビとなる。しかし、幼い頃から密かに小樓(石頭)を思い慕っていた蝶衣(小豆)は、小樓が遊女の菊仙と結婚したことに嫉妬し、コンビを解消してしまうのだが……。
 京劇「覇王別姫」を軸に、2人の男と1人の女の複雑に絡み合う運命を、激動の中国史とともに描く大河ドラマ。中国映画史上初となるカンヌ映画祭パルムドール受賞作。3時間に及ぶ長尺なのだが、観終えたあとに本当にそんなに長かったのかと思うくらいのめりこんでしまう傑作。要は体は男でも心が女であるがゆえに不幸になっていく物語なのだが、それだけではなく、そこに日本軍による統治時代、第2次世界大戦、共産党の台頭、文化大革命と歴史の波を巧みに絡ませ、小さなエピソードが必ずどこかで繋がっているという脚本の完成度が素晴らしく、そこで暴かれる登場人物たちの愛憎や欲望、葛藤が非常に説得力をもって突き刺さってくる。自分は自分の思ったことをしたい、自分の望みを叶えたいと思うだけ蝶衣が、自分ひとりではどうにもならない大きな時代や運命の流れといったようなものに抗おうにも抗えず、どうすることもできずに悲しみを深めていく。その様子はあまりに切ない。


ザ・リング
The Ring
監督:ゴア・ヴァービンスキー 原作:鈴木光司
出演:ナオミ・ワッツ、マーティン・ヘンダーソン、デビッド・ドーフマン、デイビー・チェイス
2002年アメリカ/116分/配給:アスミック・エース、角川書店
公式サイト http://www.thering.jp/ チラシ 12

 シアトル・ポスト紙の記者レイチェルの姪にあたる16歳の少女ケイティが謎の死を遂げた。彼女の葬式に参列したレイチェルは、そこからケイティを含む4人の男女が、同日同時刻に不可解な死を遂げていたことを知る。ケイティの死を調べるレイチェルは、“人を殺すビデオテープ”という噂を耳にする。それを見たものは、7日後に必ず死ぬという。レイチェルは、ケイティたち死んだ4人がちょうど一週間前に泊まっていた山のモーテルで、謎のビデオテープを手に入れる。早速、再生してみると、そこには不可解なイメージが次々と映し出されていた。そして、テープが終わったとき、電話が鳴った。電話の主はレイチェルに言った・・・・・・「あと、7日」。
 言わずとも知れた鈴木光司原作「リング」のリメイク。さすがハリウッドなだけあって、製作費は70億円とか。でも、金がかかっているからといって、無駄にアメリカナイズされていることはなくて、ほぼオリジナルのまま・・・らしい。実は、僕はオリジナルの「リング」を観ていなくて、今回が初“リング”体験だったのですが、十分に有名ですから、なんとなくは知っているので。ラストはちょっと違うらしいのですが、それがオリジナルと比較して良いのか悪いのかはわかりません。ですが、全体的に怖いことには変わりないと思います。よく日本のほうは“おどろおどろしさ”があると言われていますが、さすがにアメリカ版にはそういったものがありません。でも、日常的に潜む不気味さというのはよく出ていたと思います。たった一本のビデオテープが。どこにでもあるビデオテープが・・・。テレビだって、どこの家庭にもあるものですから、そこから・・・と思うと、余計に怖いです。見た目で怖がらせるような流血とかはないんですが、御大リック・ベイカーの特殊メイクはコワっ! あれはびびりますね・・・。そのへんにお金がかかっているのかも。なにはともあれ、「怖い」。そして、よく出来ています。あの“呪いのビデオ”の映像だけでも、十分よく出来ていて、クオリティが高いですね〜。いやはや。それにしても、ナオミ・ワッツは見るたびに思いますが、素晴らしい美人。ちょこっとサービスショット(?)もあり、怖がりの僕にはちょっとした救いに(笑)。ちなみにちょっとネタバレっぽいことを言いますと、山村貞子は、サマラ・モーガンという名に。演じるデイビー・チェイスは、アメリカの「千と千尋の神隠し」で千尋の声もやってたりする子役。この子が可愛くてあんまり怖くない、って言ってる人もいるようですが、確かに、日本版のあのギロッと睨む血走った眼に比べると、弱いんですよねぇ。


ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
The Royal Tenenbaums
監督・脚本・製作:ウェス・アンダーソン 脚本・製作総指揮:オーウェン・ウィルソン
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロウ、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン
2001年アメリカ/110分/配給:ブエナビスタ
公式サイト http://www.movies.co.jp/royal/ チラシ 1

 ロイヤル・テネンバウムの3人の子供は、妻エセルの熱心な教育で、それぞれに天才と呼ばれる子供たちだった。長男チャスは10代で不動産売買に精通し、国際金融に長けたビジネスの天才。長女マーゴは、12歳で劇作家となりピュリッツァー賞を受賞した戯曲界の天才。次男リッチーは3年生のときからジュニア界で連続優勝を果たしたテニス界の天才。しかし、そんな彼らの父親、ロイヤル・テネンバウムは身勝手な男。やがて家族は別々に暮らして早22年。かつての天才児たちも精細を欠いていたころ、父親が“もう一度やりなおしたい”と再び家族が同じ家に住むことになるのだが…。
 監督自身も若き天才と呼ばれるウェス・アンダーソン。長編3作目の本作(日本ではこの映画が初公開)にして、数々の映画賞を受賞。脚本、出演のオーウェン・ウィルソンとは旧知の仲で、彼の弟であるルーク・ウィルソンも本作に出演。非常に淡々とどこかおとぎ話のように語られる口調が面白いです。それぞれに思い悩み、父子の、夫婦の、兄弟の葛藤があるにも関わらず、それが激しく表れるわけでもないのです。登場人物たちは、どこかみんな表情が乏しくて、悲しそうな顔をしているのですが、別に辛気臭い家族再生ドラマだと思ったら大違い。ジャンルとしてはコメディに分類されるものだと思うのですが、だからといって単に笑いをとるだけのものではなくて、ちゃんと人物の心理も描いているわけでして。げらげら笑うよりも、所々にユーモアをきかせて軽く笑いながらも、最後にはちょっとした余韻が残る静けさもある。現代のニューヨークを舞台にした、ある種のファンタジーのようなお話で、また、絵本のような雰囲気もする作品でした。登場人物たちはリアルでありながらも、常に同じ格好をしていたり、登場人物は多いようで、彼ら以外の人間がほとんどでてこなかったりと、どこか寓話めいている作品でした。ひたすら人物を真正面に真ん中にとらえるカメラも面白いです。ほぼ全てのシーンがこの構図で割り切られていますから。


ザ・ロック
The Rock
監督:マイケル・ベイ 製作:ドン・シンプソン、ジェリー・ブラッカイマー 音楽:ニック・グレニー=スミス、ハンス・ジマー
出演:ニコラス・ケイジ、ショーン・コネリー、エド・ハリス、マイケル・ビーン、ウィリアム・フォーサイス、デビット・モース
1996年アメリカ/135分/配給:ブエナビスタ

 米軍の方針に憤るハメル准将が、忠実な部下を連れて反乱を起こした。強力な毒ガスを搭載したミサイルを奪取し、81人の観光客を人質に難攻不落のアルカトラズ島――通称“ザ・ロック”に立てこもった。FBIの科学兵器処理班のグッドスピードは、かつてアルカトラズ島から脱走した経験をもつ、元英国諜報韻メイソンとともに、島に潜入する。
 『バッドボーイズ』のマイケル・ベイ監督、ジェリー・ブラッカイマー&ドン・シンプソン製作によるアクション・エンタテインメント。随所に突っ込みどころはあるものの、テンポのよい進み具合でアクションと熱い男たちのドラマを見せるのは、なかなか。観終わったあとは、音楽のうるささが耳に残った気もして、疲れるんだけど、荒唐無稽になりすぎず、娯楽アクションとしてはなかなか秀でていると思いました。


ザ・ワン
The One
監督・脚本:ジェームズ・ウォン
出演:ジェット・リー、デルロイ・リンド、ジェイソン・ステーサム、カーラ・グギノ
2001年アメリカ/87分/配給:東宝東和
公式サイト http://one.eigafan.com/ チラシ 1

 宇宙はひとつだけではなく複数存在する。多次元宇宙<マルチヴァース>の次元を超えた旅が可能になった世界だが、当然ながら次元間の行き来は監視され、制限されていた。並行して存在する宇宙には、それぞれに異なった“自分”がいるからだ。しかし、その均衡を破ろうとする男、ユーロウは、125存在する宇宙を旅し、それぞれに存在する“自分”を抹殺してきた。一人の自分を倒すと、そのパワーが残りの自分に移っていく。123人の自分を殺したユーロウは、既に超人的なパワーを手にしていた。残りの一人を倒せば、全能なる唯一の自分<ザ・ワン>になれる。しかし、最後の一人、この世界のロサンゼルス市警の警察官ゲイブも、知らず知らずのうちに力を増していた。そこへ、彼を殺しにユーロウがやってくる。もう一人の自分の存在に驚愕するゲイブだが…。
 善のジェット・リーと悪のジェット・リーの対決。この映画の見物はそこです。だけど、逆をいうと、それしか見るべきものがありません。あらかた予想はしていたけど、それ以上にチープな映画。…いえ、CGとかそれなりにすごいんですよ。すごいといっても、今のハリウッドならば、これくらいは出来て当然と見慣れてしまった目には、特に新鮮には映りません。その上で、安っぽいSFの世界観ときたものですから、お世辞にも褒められない。登場人物に感情移入するようなドラマもなく。要はジェット・リー対ジェット・リーを見せたい。そのために作ったような映画ですね。確かにその着眼点は面白いかもしれませんが。リーのアクションの素晴らしさは、あえて本人同士で対決させなくても既に承知でしょう。ならば、もっと違った見せ方をしてほしいものです。ちぐはぐな出来だった「ロミオ・マスト・ダイ」から一転、生身のアクションを見せ付け、ジェット・リー・ヒロイズムをストイックに展開した秀作「キス・オブ・ザ・ドラゴン」。その次で、またハリウッドのCGアクションに飲まれてしまった本作…。前述したように、リー対リーのシーンはそれなりに面白かったです。クライマックスでその対決が始まったときは、面白かった。だけど、結局のところ、消化不良なんですよね。物足りない。内容がない映画だからしょうがないですが、予告編にすべてが詰まっていますよ。中国武術界の至宝と言われるリンチェイのアクションの見せ方は、もっと他にあるはず。わざわざ変てこな設定に絡めなくてもね。悪役もあんまり似合ってないしなぁ・・・。
 しかし、まぁ確かにリー対リーのシーンはどうやってるんでしょう? って思います。本当に本物が2人いるとしか思えない出来。今のCG技術ってスゴイですよねぇ。…とはいえ、リーは「マトリックス・リローデッド」のオファーを蹴って本作に出演したといいますが、「マトリックス」にでておいてほしかったですよ。誰がどうみたって、そう思うじゃないですか・・・。


サン・ピエールの生命
La Veuve De Saint-Pierre
監督:パトリス・ルコント
出演:ジュリエット・ビノシュ、ダニエル・オートゥイユ、エミール・クストリッツァ
1999年フランス/112分/配給:シネカノン

 1849年カナダの仏領サン・ピエール島に暮らす駐留軍の隊長ジャンとその妻ポーリーヌ。ある日、島に漂流した漁師ニールが酔った勢いで殺人を犯す。極刑に処されることになったニールだが、島にギロチンが届くまでのあいだ、ポーリーヌの手伝いで花を育てたり、島民のために働くようになる。そんな彼の働きぶりをみて、次第にニールは島にとけこんでいくのだが・・・。
 まず印象的なのはその美しい画面構成。カメラワークや、錆び付いた感触のする色彩。それらがストーリーの放つ寂しさを際だたせていると思います。その点は非常によいのですが、登場人物の動機がいまいち分かりづらいという印象を受けました。それにはっきりとは語られない登場人物の心情のようなものを、どこまで深読みしていいものやらも、ちょっと難しいです。そういう意味で、語られるものがはっきりとしていないような気もしなくはないですね。あと、こういう言い方はステレオタイプかもしれませんが、いかにもフランス映画って感じのする作品です(パトリス・ルコントだしね)。この雰囲気は、フランスじゃなければ出せないだろうなぁ・・・。
 ちなみに、劇場公開時のタイトルは「サン・ピエールの生命(いのち)」だが、ビデオでは「サン・ピエールの未亡人」。