世界の中心で、愛をさけぶ
Crying Out Love in the Center of the World
監督・脚本:行定勲 脚本:坂元裕二、伊藤ちひろ 撮影:篠田昇
出演:大沢たかお、柴咲コウ、長澤まさみ、森山未來、山崎努
2004年日本/138分/配給:東宝
公式サイト http://aiosakebu.yahoo.co.jp/

 朔太郎は、突然自分の前から姿を消した婚約者の律子が、故郷の高松に戻っていることを知り、後を追う。しかし、故郷には高校時代に付き合っていた同級生で、白血病で他界した広瀬亜紀の思い出が残されていた……。
 日本の小説史上最高の売り上げを誇る大ベストセラーの映画化で、そのブームについてはもはや説明する必要はあるまい。さて、劇場公開時に散々ブームになって、原作は読んだんだけど、映画館には行かれず、DVDで鑑賞しました。これだけ話題になったので、どんなものかといろいろ先入観や不安もたくさんあった状態で観たにも関わらず、印象としてはそんなに悪くありませんでした。話の内容はアレですが、それはそもそも原作がそうなのであって、2時間もあれば読めてしまう原作に、ほどよい映画なりのアレンジを加えてきちんと見せている点は好意的(ただ上映時間も2時間におさめてほしかった)。いろいろと意地悪に解釈する人も世の中にはいるが、それは繰り返しになるがそもそも原作がそうなのであって、その原作を映画化したにしてはきちんとしたものになってると思う。大胆に改変してしまえば、それはそれでこの作品の魅力が失われてしまうし、つまり原作にしても映画にしても、受け入れられない人は受け入れられない類のものなのだと思う。これが遺作となってしまった篠田昇の撮影も美しく、役者の感情表現も悪くない。特に本作で一躍注目を浴びたのが長澤まさみだが、この映画の大半は完全に彼女のものだろう。森山未来もいいが、それ以上に存在感を発揮していた。


セクレタリー
Secretary
監督・脚本:スティーブン・シャインバーグ
出演:マギー・ギレンホール、ジェームズ・スペイダー、ジェレミー・デイヴィス
2002年アメリカ/111分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/secretary/ チラシ 12

 自傷癖のあるリーは精神病院から退院したものの、体を傷つける衝動はなかなか抑えられない。社会復帰のためにタイプを習い、秘書を募集していた弁護士グレイの事務所へ就職する。グレイはちょっと変な秘書教育を施すが、しかし、リーは次第にそれが快感になり、自分の本来の性癖に気付き始める。そんな彼女の様子にグレイは困惑するが、その理由は……。
 サンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞した異色ラブストーリー。こりゃ、確かに異色だ。早い話が 、グレイはサドでリーはマゾ。SMのお話なのです。何が素晴らしいって、主演の2人。久しぶりにお目にかかるなー…と思うジェームズ・スペイダーは、そもそも「セックスと嘘とビデオテープ」での変質ぶりでお馴染みだし、マギー・ギレンホールも、まさしく驚きの体を張った演技で(いや、ホントに驚きました。彼女の女優魂に乾杯)。2人とも、いかにも“神経質です”って風貌を醸し出しているから、その時点でこの変な映画の半分は成功している感じ。ストーリー展開がどうもつかみどころのない感じなんですけど、それにしても、2人が互いの快感に目覚める、お尻ペンペンのシーンは笑えました。それから、怪しげな音楽が印象的と思ったら、アンジェロ・バタラメンティでした。どうりで。


セックスと嘘とビデオテープ
Sex, Lies and Videotape
監督・脚本:スティーブン・ソダーバーグ
出演:アンディ・マクダウェル、ジョームズ・スペイダー、ピーター・ギャラガー、ローラ・サン・ジャコモ
1989年アメリカ/100分/配給:ヘラルド

 ソダーバーグ監督のデビュー作にしてカンヌ映画祭パルムドール(最優秀賞)を獲得した作品。弁護士ジョンとその妻アンは、一見すると理想の夫婦だが、ジョンはアンの妹シンシアと不倫関係にあった。そんな時、ジョンの大学時代の親友グレアムが、彼らのもとを訪れたことから、ジョンとアンの夫婦関係は崩壊していく。
 セックスと嘘というものをテーマにしている本作。正直いって言葉にするのは難しいものがありますが、心理描写に徹底し、それによって非常に惹きつけられる深みのある作品。BGMもほとんどなく、時々印象的に使われている程度。しかし、それが退屈にはならず、むしろ真っ向から人の内面を捕らえるような、そんな感じを受けました。下手に安易な解答を示すのではなく、繊細で危うい人の心の動きを読み取ることが要求されるような映画。敷居は高いかもしれませんが、観てみる価値はあるでしょう。パルムドールというのも、うなずける作品です。


セプテンバー11
11'09"01
監督:ケン・ローチ、クロード・ルルーシュ、ダニス・タノヴィッチ、ショーン・ペン、今村昌平、アモス・ギタイ、サミラ・マフマルバフ、ユーセフ・シャヒーン、イドリッサ・ウエドラオゴ、ミラ・ナイール、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
2002年フランス/134分/配給:東北新社
公式サイト http://www.tfc.co.jp/110901/ チラシ 1

 2001年9月11日のテロ事件をテーマに、世界の11カ国から11人の監督が「9.11」をテーマに撮った11本のオムニバス。各作品は11分9秒であるという規則以外は全て各監督の自由に撮られている。
 単純に映画ファンとして、これだけ豪華な顔ぶれの監督たちの短編集が観られるというだけで、価値があるものですが、何しろテーマはあの「9.11」。11作品個々に感想を書くことはできませんが、どれも甲乙つけがたい秀作ばかりであることは確かでした。直接的に訴えるもの、間接的に訴えるもの、またテロの非道さを訴えるものもあれば、感情的にならず冷静になってアメリカや現代の世界情勢を訴えるものもありました。国や地域、思想、生活習慣が違えば、物事の捉え方も違ってくる。あのテロ事件にしてもそれは同じ。こういうふうに考えている人もいる…ということを痛切に訴えてくる点で、非常に考えさせられるものがあります。物事を一方向からしか見ずに、決めてかかることの危険性。そういうことがあることを教えてくれる映画だとも思いました。


蝉しぐれ
Semishigure
監督・脚本:黒土三男 原作:藤沢周平 音楽:岩代太郎
出演:市川染五郎、木村佳乃、ふかわりょう、今田耕司、原田美枝子、緒形拳、柄本明、石田卓也、佐津川愛美
2005年日本/131分/配給:東宝
公式サイト http://www.semishigure.jp/

 江戸時代、東北の海坂藩。15歳の文四郎は、下級武士だが尊敬する父が権力闘争に巻き込まれて切腹を命じられ、さらにほのかな恋心を抱いていた隣家のふくも江戸の屋敷で奉公するために旅立ってしまう……。数年後、青年へと成長した文四郎は、ふくが江戸で殿の子を身篭ったことを知る。そして、密かに里帰りしていたふくとその子どもを巡って再び世継ぎ騒動が起こり、文四郎はその渦中でふくと再会するのだが。
 山田洋次の『たそがれ清兵衛』『隠し剣 鬼の爪』が立て続けに話題となった藤沢周平文学の最高傑作といわれる「蝉しぐれ」を映画化。監督が15年来望んでいた悲願の映画化というだけあって、山田洋次のそれと同じく原作の精神を尊んだ、下級武士の苦悩や苦しくとも正しく生きることの清さを謳った人間ドラマに仕上がってる。岩代太郎のスコアも感動的だが、役者陣の……特に文四郎とふくの子ども時代を演じる石田卓也と佐津川愛美の大人顔負けの名演にうなる。市川染五郎はやはり時代劇がぴったりくるというか、立ち姿がすごくいい。声も通るしね。脇ではふかわりょうはいいんだが、今田耕司のキャスティングはどうも? あの顔では学者に見えません。とまれ、“命のやり取り”を重く描いた殺陣シーンもよし、藤沢文学映画にはずれなし……ですね。
☆☆★★★


戦国自衛隊1549
Samurai Commando: Mission 1549
監督:手塚昌明 原作:福井晴敏 原案:半村良
出演:江口洋介、鈴木京香、鹿賀丈史、北村一輝、綾瀬はるか、生瀬勝久、嶋大輔、伊武雅刀
2005年日本/119分/配給:東宝
公式サイト http://www.sengoku1549.com/ チラシ 1

 的場一佐率いる陸上自衛隊の第3特別実験中隊が、実験中の事故で戦国時代にタイムスリップしてしまう。やがて現代の日本に、彼らの歴史の介入によると思われる現象が発生。的場の元部下の鹿島や、実験を担当していた神崎らもタイムスリップし、過去に向かうが……。
 1979年にヒットした「戦国自衛隊」のリメイク。“自衛隊が戦国時代にタイムスリップする”という設定だけを残し、新たに「亡国のイージス」「終戦のローレライ」の人気作家・福井晴敏が原作を書き下ろした。オリジナルの評判がいいのは知ってるが、未見なので比較はできないが、全然燃えなかったなぁ……。荒唐無稽なのは設定からしてそうなので別にそれでいいし、陸自が協力して本物の戦車やヘリを使い、大規模セットも組まれてリアル感はあるので、それもいいんだが、それだけで物語が上滑りしている印象。変に恋愛なども入れないで男くさくまとめているのも潔いが、大義ばかりが先行して彼らが何故そうまでするのかというバックボーンもきっちりと描かれず、人間味が感じられない。だから感情移入もまったくできないのだ。北村一輝や伊武雅刀が演じる武将たちはキャラが立っていて面白かったが……。爆発のエフェクトなんかも派手で見応えはあるが、それだけではね……。現代の兵器と戦国時代の歩兵・足軽たちの圧倒的なまでの戦力ギャップみたいなのも、あってしかるべき描写がほとんどなくてつまんなかった。
☆☆☆☆★


■2006年4月29日公開■
戦場のアリア
Joyeux Noel
監督・脚本:クリスチャン・カリオン 撮影:ウォルター・ヴァン・デン・エンデ 音楽:フィリップ・ロンビ
出演:ダイアン・クルーガー、ギョーム・カネ、ダニエル・ブリュール、ベンノ・フユルマン、ゲイリー・ルイス
2005年フランス+ドイツ+イギリス/117分/配給:角川ヘラルド映画
公式サイト http://www.herald.co.jp/official/aria/

 第1次大戦下、フランス北部の最前線デルソー。ドイツ軍、フランス=スコットランド連合軍がそれぞれの塹壕からににらみ合う中、訪れたクリスマスイブの夜。ドイツ軍の塹壕に10万本のクリスマスツリーが届けられ、スコットランド軍の塹壕からバグパイプの演奏と兵士たちの合唱がこだました。それに呼応するように、ドイツ兵として前線に訪れていたオペラ歌手のニコラウスが塹壕から出て、歌声を響かせた……。
 第1次大戦時のクリスマスに前線の兵士たちが休戦し、敵味方を超えて友情を育んでいたという実話をもとにした感動のドラマ。戦争映画で敵味方が通じ合うという物語はあるが、これは実話だということに加えて、彼らはヒーローでもなんでもない、一兵士たちの集まりなわけで、その集団が片言の外国語で挨拶を交わし、酒を酌み交わし、歌を歌う姿は素朴であるがゆえに、戦争の愚かしさを訴えるには十分といったところ。もちろん、そうした行動をとった彼らはクリスマスの休戦が終わっても再び銃を向け合うことはできず、軍の上層部からは厳しい処分を受けるのだが、そこには悲壮感というよりも、“人間”あることに誇りをもつ前線の兵士たちの潔さと、戦争という行為の虚しさが同居した不思議な味わいが。物語のキーであり、非常に重要な役割を果たすオペラ歌手の歌声が、明らかに吹き替えなのが若干興醒めで惜しいのだが……。それにしてもダイアン・クルーガーってドイツ人だったと改めて思い出した作品でした。フランス映画界から出てきた人だから、ついそう思いがちですが。第78回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。
☆☆★★★


戦場のピアニスト
The Pianist
監督・製作:ロマン・ポランスキー
出演:エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、エミリア・フォックス
2002年ポーランド+フランス/148分/配給:アミューズピクチャーズ
公式サイト http://www.pianist-movie.jp/ チラシ 1

 1939年、ポーランドがナチスの侵攻を受けていた頃、シュピルマンはワルシャワの放送局でピアノの生演奏をしていた。しかし、演奏中に放送局は爆撃にあい崩壊。ワルシャワも陥落する。ユダヤ人はゲットーと呼ばれる居住区に送られ、シュピルマンも家族ともどもゲットーへ。飢えやドイツ兵による無差別殺人に怯える日々を送ることに。しかし、事態はさらに悪化し、何十万といたユダヤ人は“移送”される。シュピルマンの家族も例外ではなく、収容所への送られることになるが、シュピルマンだけは運良く逃れる。そして彼はゲットーを脱出、ワルシャワ市内で身を隠しながら暮らしていたが……。
 ポーランドの名ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの実体験を綴った回想録を、戦時、自らもゲットーの生活を強いられたロマン・ポランスキーが映画化。2002年カンヌ映画祭パルムドール作品。ナチスによるユダヤ人迫害を描いた作品はいくらでもあるけれど、この作品は特に徹底して描いていると思います。とにかく、そういうことがあって、必死で生き延びた人がいたということを。戦争ものではあるけれど、主人公はピアノが弾けるというだけでヒーローでもなんでもない、ただの弱い人。でも、理不尽な死から逃れ、生きたいと願って運良くそれが叶えられた人。それだからこそ、リアリティもあって引き込まれるのだと思います。もし自分が同じ立場にたたされたら。勇敢に戦う人もいるでしょうが、生き延びるために逃げることだって悪いことでもなんでもないと思います。家族も奪われ、なにもかも奪われても、またピアノが弾きたいという願いを糧にして。それにしても、ナチス・ドイツの行いは、非道極まりないもので、今更そういうことを考えされられるものですが、しかし、彼らとて人間であり、人間というものはああもなってしまう可能性を未だに秘めているということを学ばなければならないと思います。学ぶことで過ちを繰り返さないことができるのが人間であると。終盤に登場したヴィルムも、ナチスも人であることを感じさせてくれる人物。彼の登場時間は少ないけれど、とても印象的でした。また、リアリティに徹するために再現されたゲットーやワルシャワ市、そしてそれらが戦争によって崩壊し、瓦礫の街となった様は壮観でした。再びゲットーの中へ逃げこんだシュピルマンの前に荒涼と広がる瓦礫のゲットー・・・。すごいシーンでした。パルムドールというのもうなずける出来ですね。観て損のない作品であることは違いないでしょう。


千と千尋の神隠し
Spirited Away
監督・原作・脚本:宮崎駿 音楽:久石譲
声の出演:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、玉井夕海、菅原文太
2001年日本/125分/配給:東宝
公式サイト http://sentochihiro.com/ チラシ 1

 宮崎監督4年ぶりの新作ということで、いやが上にも期待は高まり、公開してみれば、興行記録を塗り替えまくるという大ヒット映画。
 製作発表当時から、現在の10歳の女の子にむけた映画だと公言してきただけあって、そのメッセージ性が強く表れてるような気がしました。そうしてみると、以前の宮崎アニメのほうが、よりエンターテインメントな要素が大きかったのかな、と思うけど、それは、現実と少し離れた冒険活劇だったり、ありえないファンタジー性が強かったりしていたからじゃないかなと。もちろん、今回の作品も、現実に起こり得るはずがないんだけど、かつての作品よりも主人公が身近に感じられました。それは、宮崎監督が意図した「典型的な現代っ子」として千尋を描いたからだろうか? そうだとすると、見事に監督のねらいにはまってしまったということになりますが。
 確かに千尋は今までの主人公のような、最初から前向きでなかったり、顔も美形でなかったりとというふうにされているけど、やはり主人公たりえるだけの活力をもって、我々を魅了してくれるわけです。それが、彼女の内から沸き上がる本来の生命力のなせる技と思うと、やっぱり宮崎監督はキャラクターを活かすことが上手い。現実世界でも、人は外見じゃなくて内面、なんていうけど、オープニングでぶーたれた顔してた千尋が最後には非常な魅力をもった表情を見せるまでになっているのに気が付きます。
 難しいことを抜きにしても、とにかく往年の宮崎アニメにも劣らぬ、むしろ勝ると言ってもいいくらいの傑作。宮崎駿のイマジネーションに改めて感嘆し、こういうものを作りだせる人だからこそ、若い世代に向けてもメッセージを託せることができると思います。
 第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞ほか、国内で数々の賞を受賞したうえに、アニメーションで初の第52回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞するという快挙も成し遂げてしまった、なんとも凄い作品。


セントラル・ステーション
Central do Brasil
監督:ウォルター・サレス
出演:フェルナンダ・モンテネグロ、ヴィニシウス・デ・オリヴェイラ、マリリア・ペーラ
1998年ブラジル/111分/配給:日本ヘラルド映画

 リオ・デ・ジャネイロの中央駅で代書業を営む初老の女性ドーラのもとに、息子を連れた女性が夫へ手紙を出したいとやってくる。しかし、手紙を書き終えて駅を出たところで、女性は交通事故に遭い、他界する。ひとりのこされた少年ジョズエを見かねたドーラは自分の家に招き、更には彼の父親を訪ねに一緒に旅に出ることになるが……。
 偏屈で独り者の女性が、同じく孤独な少年との旅を通して心が溶かされていくロードムービー。照りつけるブラジルの太陽を捉えるような色彩の中、次第に心を通わせていく2人。少年の父親探しが物語にはなっているけど、その旅は初老の女性が人間味を取り戻していく過程でもある。代筆業という仕事が成り立つブラジルという国柄ゆえの物語でもあると思った。その手紙が最後にまたいい味を出して使われているんだけど、まがりなりにも教育が日本じゃそんなことないもんね……。旅の途中で出会ったトラックの運転手が「出会いは偶然で、二度と会うこともないかもしれない」というようなことを言っていたけど、それがドーラとジョズエの2人にも重なるのかなぁ……と思うと、意外と後から考えて心に響く台詞でありました。ラストシーンの2人が忘れられない、珠玉の名作であります。ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作。


千年女優
Millenial Actress
監督・原案・脚本・キャラクターデザイン:今敏
声の出演:荘司美代子、小山茉美、折笠富美子、飯塚昭三、小野坂昌也、山寺宏一、津嘉山正種
2001年日本/87分/配給:クロックワークス
公式サイト http://www.1000nen.net/ チラシ 1

 「PERFECT BLUE」の今敏監督第2作。弱小映像プロダクションの立花源也は、30年前に引退した女優、藤原千代子のドキュメンタリーを制作するため、カメラマンの井田を従えて隠居生活を送っている千代子を訪問する。滅多に人に会わない千代子が立花の訪問を許したのは、彼が持っているという「鍵」。それはかつて、若かりしころの千代子が大切な人から預かったもの。その「鍵」の思い出を語る千代子。立花と井田は千代子の語る物語の中へと入っていく。
 前作「PERFECT BLUE」の陰湿さはどこへやら、今作は時空を超越した純愛物語。主人公・千代子が初恋の相手をひたすらに想いつづける様を、文字通り、千年の時代を飛び越え、空間を飛び越し、描く。同じモチーフを何度も繰り返すことと、また、インタビュアーであるはずの二人が当然のごとく物語の中にいたり、女優として演じた千代子か、はたまた現実の千代子かということまでが入り乱れ、虚構と現実が錯綜しています。しかし、それは観るものを混乱させるようなものではないと思います。ただ、一人の男を想いつづけ、追いかける千代子というテーマがあって、それをちょっと変わった表現にしているだけということです。現実と虚構が入り混じることによって、混乱ではなく楽しさが与えられていると思います。そういう表現はとても面白いと思いましたが、そこにインタビュアーの二人が入り込んで、井田というキャラがいちいち突っ込みをいれたりするのは、逆にしらけるなぁ……と思っていたのですが、物語が進むにつれ、登場人物である彼らも物語に入りこんで、違和感がなくなりましたね。結構、コメディっぽい要素を与えるためにいたのかな、と思いました。しかし、後半で立花と千代子の繋がりができてから物語がより一層面白くなりました。そして、ラストには感動が待っています。
 この監督は、前作にしろ今作にしろ、いかにも“アニメらしくない”ものを作るのが好きなんだなぁ…と感じますね。実写的な演出といいましょうか、実写でやってもおかしくないものを…逆に言えば、アニメーションではなかったものを作ることにこだわっているようですね。しかし、この作品は実写が良かったかというと、そんなこともないと思います。やっぱりアニメならではの楽しさ、絵の美しさもあります。主な舞台が昭和初期になっているあたりも、たぶん実写よりも絵で描いたほうが綺麗だろうし(世界で高い評価を受ける日本アニメが自ら“和”を描く。なんだか、いいですなぁ)。前半部分のコミカルなところもアニメならではって感じもしますし。これを言ったらおしまいかもしれませんが、アニメだろうと実写だろうと面白いものは面白い。そして、この映画は既成のアニメーションのジャンルにとらわれず、自由な発想で作ってみせた傑作だということです。監督の次回作にも大いに期待したいですね。「千と千尋の神隠し」と並んで、第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞。また、ドリームワークスによる世界配給も決定している。