ソードフィッシュ
Swordfish
監督:ドミニク・セナ 製作:ジョエル・シルバー
出演:ジョン・トラボルタ、ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、ドン・チードル
2001年アメリカ/99分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://www.swordfish.jp/ チラシ 1

 世界一と言われた腕前をもった元ハッカー、スタンリーのもとに、ジンジャーと名乗る美女が現れ、自分達のボス、ガブリエルに会って仕事を手伝ってほしいと話を持ちかけ、多額の報酬額を提示する。その仕事とは、かつて麻薬取締局が行った極秘作戦“ソードフィッシュ”によって利用されていたダミー会社がそのまま残され、そこにプールされ、95億ドルにも膨れ上がっている資金をコンピュータ操作によって奪い取ろうというのだが……。
 「全米がハメられた」という、ある種、お決まりなキャッチコピーで、二重三重に張り巡れた罠とどんでん返しが売りのこの映画。いきなりラストから始まり、時間軸を遡ってストーリーを追っていきます。そのどんでん返し自体は、それほど凄いとは思いませんが、まあ、普通に楽しめるのではないかと。トラボルタ演じるガブリエルという男の、悪役なんだけど完全な悪ではないという謎めいたキャラクター設定なんかは、面白かったかな(こういう男が映画の主役になれるあたり、アメリカってスゴイ国)。まあ、トラボルタが演じてるのが、いかにもって感じが面白かったということなんですが。また、冒頭にいわゆる“マシンガン撮影”の爆発シーンがあってそこは見ものなんですが、そこ以外には特に使われていないのが残念。全体的に、凡庸なアクションというわけでもなく、“スタイリッシュでクールなクライムアクション”という言葉はあながち出鱈目でもないかなぁ……とは思いました。スピーディーな展開と、掴みどころのないガブリエルに、観ているほうもスタンリーと一緒になって振り回されるといったところでしょうかね。また、ラストシーンはある意味で非常に見物。これは見てのお楽しみ。製作者は意図していなかっただろうが・・・。今のご時世からするとね。


そして、ひと粒のひかり
Maria Full of Grace
監督・脚本:ジョシュア・マーストン
出演:カタリーナ・サンディノ・モレノ、イェニー・パオラ・ベガ、ギリエド・ロペス、ホン・アレックス・トロ、パトリシア・ラエ
2004年アメリカ+コロンビア/101分/配給:ムービーアイ
公式サイト http://www.soshite-1tsubu.jp/

 コロンビアの田舎町の花農園で、単調な作業に従事する17歳のマリアは、母や赤子を抱えた姉から収入を頼りにされているが、トラブルで解雇されてしまう。さらに愛していないボーイフレンドの子どもを妊娠したことを知り、焦りを感じた彼女は、高額の報酬に惹かれて麻薬の運び屋の仕事を請け負う。それは、麻薬をお腹に飲み込んで国外へ持ち出すというもので……。
 主演のカタリーナ・サンディノ・モレノが映画初出演にしてアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた話題作。映画のほうもサンダンス映画祭観客賞ほか多数の映画賞を受賞。南米の貧しい非情な現実を知るにはいい映画だ。事実に基づいた話だというから、今この瞬間も、こうしたことが行われているのだろうと。主人公のマリア自身は、そのどうにもならない社会や家庭の環境に言いようのない不満が鬱屈していき、納得のできない現実から抜け出そうと行動する。それは若さゆえの反社会的感情もあるんだろうが、そうした行き場のない怒りや納得できない不満、将来に対する不安……あらゆる負の感情がないまぜになっているマリアを、カタリーナは絶妙な雰囲気で体現。オスカーノミネートも納得の演技で、観ている間、目が離せなかった。お腹のなかの赤子が、彼女にとってまさに「ひと粒のひかり」であり、大いなる恩恵に満ちている。そう考えると原題「Maria Full of Grace」の意味がとてもよくわかる。悲しい出来事から生まれた絶望感に打ちひしがれながらも、かすかな希望が感じられるラストはよかったです。
☆★★★★


ソニー
Sonny
監督・製作:ニコラス・ケイジ 脚本:ジョン・カーレン
出演:ジェームズ・フランコ、ミーナ・スヴァーリ、ブレンダ・ブレシン、ハリー・ディーン・スタントン
2002年アメリカ/110分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/sonny/ チラシ 1

 1981年、ニューオリンズ。軍を除隊し、故郷の街に帰ってきた青年ソニーは、幼少の頃から母親に男娼としての教育を受け、その美貌とテクニックで歓楽街の伝説となっていた。母は帰郷した息子を熱烈に迎え、仕事に復帰させようと躍起になるが、ソニーは売春から足を洗い、堅気になると心に決めていた。そして、母の元で働く新入りの娼婦キャロルと強く惹かれい、2人は普通の生活を送ろうともがくのだが……。
 ニコラス・ケイジの初監督作品ですが、全編に哀切の漂うこの雰囲気はとても良かったです。ただ、盛り上がったところでプツリと次のシーンに移行してしまって、盛り上がりつつあった気持ちの行き場に困った場面が何度かあり、あのまま盛り上げてくれれば泣けたのにぃ〜……という微妙な感覚。ストーリーとしては、出てくる人物が皆、それぞれが悲哀を背負っていて切ない。特に主人公ソニーは、劇中でも言われていたけど「世慣れした部分と純粋な部分」がアンバランスに存在して、売春という世界でしか自分を見出せない状況に苦悩を抱えている様がとてもよく表現されたと思います(友達の家で、理想と現実の違いにキレるところとかね)。その分、他のキャラがちょっと弱く感じましたが(特にキャロルとのエピソードはもっとあってもいいと思うんだけど)、僕はなんだかとても胸に迫るものがありましたね。こういう生き方しかできない人間の切なさが伝わってきた感じ。あとは前述したような演出面の課題があるかなというくらいで、なかなか良い作品だと思いました(役者を含め)。ニコラス・ケイジがちゃっかり出演してるのは面白かった。なんだ、やっぱり出てるじゃんって感じで。


ソフィーの世界
Sophie's World
監督:エリック・グスタヴゾン 原作:ヨースタイン・ゴルデル 出演:シルエ・ストルスティン、トーマス・ヴァン・ブロムセン
1999年ノルウェー/111分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.sophies-world.net/

 ヨースタイン・ゴルデル原作のベストセラー小説を映画化。14歳の少女ソフィーのもとに、ある日、「あなたは誰?」とだけ書かれた差出人不明の手紙が届く。そして翌日、また同じ手紙がくる。「世界はどこから来たの?」。この不思議な手紙を発端に、ソフィーの時空を超えた自分探しの不思議な旅が始まる。
 この映画は、原作を知っているのと知らないのでは、やはり見方が変わるでしょうか。僕は原作を読んでないんですが、原作にどれくらい忠実なのかとか、原作をどれくらい表現できているのか、という点が気になりますね。あの分厚い原作のどこまでを抽出してるのか。「哲学」というとやたらと小難しい印象がありますが、この作品は少女を主人公にしてそれをファンタジックに描くことで、とっつきにくさをなくしてます。それでいて、テーマはやはり哲学で、歴史上の様々な哲学者が登場し、名言を残していってくれますので勉強になります(笑)。時間軸や空間が交錯するシーンがいくつかあるので、多少混乱しなくもないですが、まあ、やはり重要なのはストーリー的な部分よりもテーマでしょう。


ソラリス
Solaris
監督・脚本:スティーブン・ソダーバーグ 製作:ジェームズ・キャメロン
出演:ジョージ・クルーニー、ナターシャ・マケルホーン、ジェレミー・デイヴィス、ヴィオラ・デイヴィス、ウルリッヒ・トゥクール
2002年アメリカ/139分/配給:20世紀フォックス映画
公式サイト http://www.foxjapan.com/movies/solaris/ チラシ 1

 スタニスワフ・レムの名作SF「ソラリスの陽のもとに」を映画化……といえば誰しもが知っているのがアンドレイ・タルコフスキーの『惑星ソラリス』ですが、本作はそのリメイクというよりは、「ソラリスの陽のもとに」を再映画化したといった感じ。でも基本的なプロットは『惑星ソラリス』に準じているような感じだから、リメイクといっていいのかも。それにしても、すこぶる前評判の悪い作品でしたが、個人的にはすごくいい映画だと思いました。ただ、評判が悪いのもうなずける気がします。これは全く大衆向けの娯楽大作なんかじゃないから。『トラフィック』や『オーシャンズ11』のソダーバーグ監督で、『タイタニック』のジェームズ・キャメロンがプロデューサーとして関わっているといえど、全くハリウッド的な大風呂敷の展開はなくて、極めてインディペンデントなスピリットを感じる作品でした。映像は美しくて、シンプルで余計なものを排除したストーリー展開と台詞まわし。過去と現在が並行しつつ描かれるクリスとレイアの愛…。確かに僕も睡眠不足で疲れていたから、途中眠くなったのは確かです。でも、つまらなかったわけではありません。とにかく綺麗な映画でした。タルコフスキー版のソラリスの海の映像を見たときほどの衝撃はなかったですけど、これはこれで及第点だと思います。映像が美しいだけでなく、ストーリーも美しい…そういう映画でした。あとは音楽が印象的。使われている場面は少ないですけど。この作品に対して、決して、娯楽大作なんてものを期待しないで下さい。ひとりでしんみりと、そしてゆっくりと、静謐で神秘で、美しくて悲しい愛の世界に浸りたい人には是非、お薦めします。