ターミネーター3
Terminator3: Rise of the Machines
監督:ジョナサン・モストウ
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、ニック・スタール、クレア・デーンズ、クリスタナ・ローケン
2003年アメリカ/110分/配給:東宝東和
公式サイト http://www.t3-jp.com/ チラシ 12

 あれから10年、約束されていた審判の日も何事もなく過ぎ、青年に成長したジョン・コナーは自分の使命は存在しないと考えていたが、その一方で心の奥底になぜか不安が渦巻いていた。そんなとき、未来から驚異的な力をもったターミネーター“T-X”が現れ、抹殺すべくリストアップされた人物を次々と殺害していく。そして、T-Xを追うように“彼”が再びジョンの元に現れたのだった。
 前作から12年もたって作られたシリーズ第3弾。実は「1」も「2」も観たことがなくて、いきなり「3」を観ることになったわけですが、これがなかなか面白かったです。一応、キャラクターの設定や世界観は知っていたので迷うことはありませんでした。ストーリーもシンプルでわかりやすいですし。それに登場人物の心理も意外とよく描けていて、それを演じている各役者の技量と相まってなかなかのもの。加えてアクションもバリバリで、特にカーチェイスシーンは壮絶の一言につきますね。あんなに壊しまくるシーンをどうやって撮影したのかと思うし、よく撮影できたものだと思いました。そういうド迫力のシーンもある一方で、結構コミカルでユーモラスなシーンも多く、笑いを誘ってくれたります。けれど、やっぱりなんといっても印象的なのはラストでした。初めて観た僕でも「こういう終わり方になるんだ〜」って思うくらいですから、今までのシリーズに思い入れのある人が観たとき、あれをどう受け止めるのだろうと、とても興味深いです。そして先ほども書きましたが、そのラストへつながるのが、ヒロインであるケイトのお父さんがとった行動。それに加えてターミネーターの取った行動。この2つがそれぞれにとてもリアルに絡み合って、ジョンとケイトをあそこに導いたと思うと、人間の心理をリアルに描いているなぁ…と思うわけなのですよ。これは「1」や「2」も観てみたいなぁ、と素直に思わせるものがありました。シュワちゃんも、最近落ち目とはいえ、さすがにこれでスターになっただけのことはある、と思いました。ターミネーターをやらせれば彼は見事にはまるのですから。


ターミナル
The Terminal
監督:スティーブン・スピルバーグ 脚本:サーシャ・ガヴァシ、ジェフ・ネイサンソン 原案・製作:アンドリュー・ニコル
撮影:ヤヌス・カミンスキー 音楽:ジョン・ウィリアムス
出演:トム・ハンクス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、スタンリー・トゥッチ、チー・マクブライド、ディエゴ・ルナ、クマール・パラーナ
2004年アメリカ/128分/配給:UIP
公式サイト http://www.terminal-movie.jp/ チラシ 1

 東欧の小国クラコウジアからアメリカにやってきたビクター・ナボルスキーだったが、彼が飛行機に乗っている間に祖国で軍事クーデターが発生し、一夜のうちにクラコウジアという国が事実上消滅。パスポートもビザも無効になってしまったビクターは、入国審査を通過できず、かといって帰国することもできなくなってしまう。英語も話せず、もちあわせていた通貨も使えなくなったビクターは、仕方なく空港の発着ロビーで事態が改善されることを待つことになったのだが……。
 フランスのシャルル・ド・ゴール空港に実際に住み着いているという男の話に着想を得て、脚本のサーシャ・ガヴァシと『ガタカ』のアンドリュー・ニコルが物語の原案を生み出し、スピルバーグとトム・ハンクスの3度目のコンビで映画化されたヒューマンドラマ。現実にこのように空港で暮らすことは到底不可能だろうが(働くこととかできないでしょ)、そういったリアリティは抜きにしても、衣食住の必要なものがなんでも揃っている空港という場所と、そこに集まる人々のある種の特異性を新たに認識させられたというか、空港って確かにその国であっても、一番外国に近い場所というか(特に国際線なんか)、そうした不思議な空間であると思う。そうした特殊な舞台であっても、繰り広げられるのは変わらない人間ドラマで、恋があり、友情がある。そのひとつひとつのエピソードに派手さはないけど、徐々に人々と心を通わせていくビクターの姿が、時に笑いを交えながら温かい視線で描かれているのが心地いい。


∀ガンダム I地球光/II月光蝶
∀ Gundam: I Earth Light / II Moon Butterfly
監督・原作・脚本・絵コンテ:富野由悠季 メカニカルデザイン:シド・ミード
声の出演:朴路美、高橋理恵子、村田秋乃、青葉剛、福山潤、渡辺久美子、子安武人
2002年日本/258分/配給:松竹
公式サイト http://www.turn-a-gundam.net/ チラシ 1

 99年にTV放映された「∀(ターンエー)ガンダム」の全50話を再編集し映画化。「I 地球光」「II 月光蝶」の2部構成で総時間は258分。
 50話もあるTVアニメを4時間強に収めるため、当然のことながら削られた部分が多い。が、しかし不思議と物語が伝わってくるのはどうしてだろう。別にTV版が冗長だったとは思わない。やはり、そこがテレビと映画の違いだろうか。監督曰く、「単なる総集編ではなく、ひとつの映画として非常に高い完成度にもっていくことができた」とのことだが、なるほど確かに、2本通して圧倒的なパワーに押しも押されてあっという間の4時間20分が過ぎる(実際は、2時間10分を別々にみたわけですが)。もともとこの作品って、牧歌的な印象のほうが強いんですが、今回の劇場版では、わりとハードな場面を連続させていましたね。そのほうがエンターテインメント映画としての見ごたえがあるということでしょうか。しかし、だからといってこの作品の良さが失われているわけはありません。削られたエピソードにも惜しいものはありましたが、凝縮されたことで、よりテーマ性がわかりやすくなってると思います。特に第1部「地球光」のほうで、地球人とムーンレィスという、異なる文化をもった人々の、相容れることができない関係は、現在の国際社会での民族紛争や宗教戦争となんの変わりがありましょうか? 大袈裟かもしれませんが、今の時代だからこそ、こういったことをとても感じ取れやすくなっている作品だと思います。
 …と、こんなふうにべた褒めしてますが、やっぱりこれは僕がもともと「∀ガンダム」が好きだったから。今回の劇場版がTVを見ていない人(もっといえば、そもそもアニメに興味ない人)にとってはどうでしょうか。やっぱり、いくら出来はよくても、現実的な見方をすれば、ファン向けの作品です。好きな人にはたまらなく良いでしょうけどね。残念な点は、「地球光」の出だしが駆け足すぎると感じられたこと。導入部はもうちょっとゆっくりとやってほしかったなぁ。そこで物語に入れるかどうかがポイントだと思うので。あと10分、全体を延ばしてでも導入部は丁寧にしてほしかった。あとはスクリーンがスタンダードサイズ(1:1.37)だったこと。あれじゃ、単に大きいテレビって感じで…。せっかく映画館で見られるんだから、せめてビスタサイズ(1:1.85)にしてほしかったけど、もともとがテレビだから、技術的に無理なんでしょうか…。
 一応、そんな不満点もあるにはありますが、全体的には凄く良いです。本作をみて、改めて「∀」が、数あるガンダム作品の中で一番の作品だと思いました。「∀ガンダム」が好きな人は見まみましょう。きっと満足できるはずです、うん。どうぞ、よしなに。


大停電の夜に
Until The Lights Come Back
監督:源孝志 脚本:カリュアード 撮影:永田鉄男
出演:豊川悦司、田口トモロヲ、原田知世、吉川晃司、寺島しのぶ、井川遥、阿部力、本郷奏多、香椎由宇、田畑智子、淡島千景、宇津井健
2005年日本/132分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.daiteiden-themovie.com/ チラシ 1

 光輝くイルミネーションが街を彩るクリスマスイブの東京に、突如、原因不明の大停電が起こる。関東全域を襲ったその停電の中、人々はろうそくの明かりに照らされながら、それぞれの想いをめぐらせる。
 2003年8月14日に起こった北米の大停電にインスパイアされて生まれた物語。12人の主要キャストが織り成す群像劇で、個々のエピソードが飛びぬけて面白かったりするわけではないのがちょっと残念ではあるのですが、なんというか全体の雰囲気がしっとりしていて、個人的には結構好きかも。個々の話はありふれた物語かもしれないのだが、要はもっとも光り輝く夜に光を失い、闇の中で過ごす人々が、そのような状況であるがゆえに、少しだけ心が温かくなる……。そんな繊細な時間を描いた物語なわけで、こういうのが好きっていうのは、ちょっとロマンチストすぎるのでしょうか。まあ、時間のわりに内容がない……って言ったら酷かもしれませんが、やはりエピソードにばらつきが出てしまうのは仕方ないか。ちなみに脚本のカリュアードとは、源監督と脚本家・相沢友子のユニット名。撮影はフランスでセザール賞を受賞した永田鉄男が日本映画に初挑戦。
☆☆★★★


大統領の理髪師
The President's Barber
監督・脚本:イム・チャンサン
出演: ソン・ガンホ、ムン・ソリ、リュ・スンス、イ・ジェウン
2004年韓国/116分/配給:アルバトロス
公式サイト http://www.albatros-film.com/movie/barber/ チラシ 1

 韓国大統領官邸のお膝元の孝子洞で理髪店を営むソン・ハンモは、無知で純朴な小市民。政府のすることを無条件に信じていた彼は、1960年3月15日の不正選挙に加担、さらに4月19日、その選挙に怒った学生たちがデモを繰り広げた4・19事件の最中に、妻のミンジャが産気づき、息子ナガンが産まれる。それから数年後のある日、店に時の大統領・朴正煕の側近であるチャン・スヒョクがやってきて、彼をテストする。善良な人間であることがわかったハンモは、“大統領の理髪師”として雇われることになった。
 韓国の激動の時代と言われる1960年〜70年代の20年間を舞台に、大統領という最高権力の側にいながら、最後まで庶民であり続けたひとりの男とその家族の物語。監督が自分たちの父親世代に捧げると言っているが、確かにその時代を実際に生きた人々にとっては、きっと感慨深いものが多いだろう。そんな中にあっても、変わらないものは家族の絆であり、親子の情愛なのである。不正な選挙や軍事クーデター、果ては大統領暗殺などにより、政権は繰り返し交代されていき、歴史は動いていくが、それを間近で見ていながらも、ただ髪を切り続けた純朴な男は、政治の善悪にはとらわれず自分の心に従って生き続けた。そして、最後に彼は一人立ちするのである。最後まで庶民の視点で描いた心温まる物語。ただし、随所にあるちょっとブラックなユーモアは、人によって感じ方が違うかもしれないが。


タクシードライバー
Taxi Driver
監督:マーティン・スコセッシ 脚本:ポール・シュレイダー 音楽:バーナード・ハーマン
出演:ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、ピーター・ボイル、ジョディ・フォスター、アルバート・ブルックス、ハーヴェイ・カイテル
1976年アメリカ/114分/

 ベトナム帰りの青年トラビスは、ニューヨークでタクシーの運転手をして暮らすが、汚れきった世の中に不満を募らせている。大統領候補の選挙事務所に勤めるベツィと親しくなるがうまく行かず、さらに、街で見かける売春婦の少女の存在が心に引っかかるトラビスは、闇ルートで拳銃を入手し、ある計画を進めるのだが……。
 現代社会に潜む狂気を描いた傑作で、カンヌ映画祭パルムドール受賞作。世の中に不満をもっているだけの青年だったはずのトラビスが、やがていつの間にか狂気じみた思考にかられていき、その結果として起こす行動までが、静かに描かれる様は、デ・ニーロの演技とともに印象的。


ダスト
Dust
監督・脚本:ミルチョ・マンチェフスキー
出演:ジョセフ・ファインズ、デビッド・ウェンハム、ニコリーナ・クジャカ、アンヌ・ブロシェ
2001年イギリス+ドイツ+イタリア+マケドニア/124分/配給:松竹
公式サイト http://www.shochiku.co.jp/dust/ チラシ 1

 ニューヨークのとあるマンションの一室に盗みに入った黒人の青年エッジ。彼はそこの住人である老婆に逆に銃をつきつけられ、彼女が突如語りだした物語を聞かされる羽目になる。それは、ちょうど100年前の物語。賞金稼ぎの兄弟で、気質の荒いが銃の腕前は誰にも負けないルークと、彼の弟で繊細なイライジャ。同じ女性を愛した兄弟は、決別し、ルークは独立運動のさかんなバルカン半島、マケドニアに渡る。そこで賞金首である運動の指導者を狙うが、やがて皮肉にも彼は、その指導者の側にたつことになるが・・・。
 94年、初監督作品「ビフォア・ザ・レイン」がベネチア映画で祭金獅子賞ほか、10部門を独占し、賞賛された奇才ミルチョ・マンチェフスキーの7年ぶり第2作。基本的にはルーク(とイライジャ)のお話ではあるのですが、それと並行して、現代のニューヨークで語り部の老婆アンジェラと聞き手のエッジの物語も並行していきます。その2つに何が共通してるのか? それはそれで気にはなりますが、それよりも老婆の語るルークの物語のほうが、壮絶で悲哀があって、ひきつけられました。単純に、ルークとイライジャのストーリーにしてしまえばいいのに、それを現代の、しかも盗みに入った青年に突然、語って聞かせる老婆、という変わった設定でストーリーを進めるところが面白いなぁ、と思いました。現代と100年前を対比して、何か語るものがあったのか? それを洞察するほどの力は僕にありませんが。全くのオリジナルで、これだけの物語をつくれるこの監督は、“奇才”と呼ばれるだけのことはあるな、と。かなり壮絶な物語なんですが、そこがまた良し。ルーク役のデビッド・ウェンハムも良し(「ロード・オブ・ザ・リング」に出演)。


たそがれ清兵衛
The Twilight Samurai
監督・脚本:山田洋次 原作:藤沢周平
出演:真田広之、宮沢りえ、田中泯
2002年日本/124分/配給:松竹
公式サイト http://www.shochiku.co.jp/seibei/ チラシ 12

 幕末の庄内。海坂藩の平侍、井口清兵衛は、妻を病気で亡くし、2人の娘と呆けかかった老母の3人を養いながら暮らしていた。当然ながら生活は苦しく、城の勤めが終わると、酒の付き合いも断って帰宅し、家事と内職に勤しむ日々だった。同僚たちはそんな彼を“たそがれ清兵衛”と仇名した。ある日、清兵衛は親友の飯沼倫之丞の妹、朋江が、夫の酒乱が原因で離縁したことを知る。清兵衛の幼馴染でもある朋江は、清兵衛の家にたびたび姿をみせるようになり、彼の2人の娘とも仲良くなっていく。そんな時、朋江の元夫が酒に酔って飯沼家に現れ、行きがかり上、清兵衛は彼と果し合いをすることになるが、木刀一本で軽々と勝利する。その噂はすぐに城に広まり、清兵衛はある藩命を受けることに…。
 藤沢周平の短編小説「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」を原作に、「男はつらいよ」「学校」シリーズの山田洋次が映画化。監督にとっては初めての時代劇で、構想10年を費やしたそうな。僕は普段、時代劇というものを観ませんが(大河ドラマくらいか)、これはいい。時代劇だからとかいう理由でこの作品を敬遠するならば、それは愚かだと断言したい。ちょっと言い過ぎかもしれないけど、それくらい言ってもいいと思いました。実にしみじみとする日本映画の誉れ。それがここにありました。時代劇ではあるのですが、これがはっきり現代に照らし合わせれるの比喩が効いていました。清兵衛はしがない会社づとめの貧乏でやもめのサラリーマン。家には幼い娘と老いた母親。同僚たちは勤めのあとに飲み屋にいくが、それには一切付き合わずにいそいそと帰宅…。でも、彼にとってはそれが幸せであった。貧しくとも、幼い娘たちが清々しく成長していくのがたまらなく幸せだった。出世できなくても、お金は儲からなくても、それが自分にとっての幸せなのだと。…けれど、そんな清兵衛も、男社会でいきる侍の端くれ。穏かな生活を守るために、決断を迫られるときがくる。そこには、己と、己の愛する家庭を守るために、自ら望まないこともやらねばならぬ男の姿があるのです。一見すると、きりりとした男の姿がかっこよくもあるのだけど、それは虚しさがつきまとうだけのものでした。そして、その決断とそれによって得た結果も、彼が後に消え行く時代の波に飲まれてしまうのかということがわかっているだけ、とてもとても切ない気持ちになります。男の生き方って、人の生き方ってなんだろう…。それを問いかけるような映画でした。
 まあ、惜しむなれば、やっぱりというか全体的に非常に地味なことでしょうか。全体からみれば地味であってしかるべきで、これが派手だったら作品の価値は落ちちゃったろうと思いますが、やっぱり若い世代には少し渋いかなあ…と思わざるをえません。そこんとこが残念ですね。あとはナレーションがやや過剰。ある程度は補助的にあってもよかったけれど、最後の最後のナレーションは、一気に説明的付け足しでしゃべっていたので、やや興醒め。あれは蛇足だった気がしました。わかりやすいと言えばわかりやすいけど。個人的にはもっと思いっきり泣ける作品かなぁ〜…と思っていたら、意外とそうでもなかったのは、期待が過剰だったせいかも。真っ白な状態でいけば結構泣けると思います。そうでなくてもしみじみと感慨にふけることができる作品ではあります。清兵衛の次女の子もかわいい。思ったほど、恋愛要素がうるさくでしゃばってなかったのは良かったです。映画初出演という舞踏家、田中泯の演技、役どころの演出もかなり良かったです。こうしてみると、語るべきところが多い作品ですね。


■2006年4月8日公開■
立喰師列伝
The Quest of the Ultimate Fast Food
監督・原作・脚本:押井守 撮影:坂崎恵一 音楽:川井憲次
出演:吉祥寺怪人、兵藤まこ、石川光久、川井憲次、河森正治、樋口真嗣、寺田克也、鈴木敏夫、品田冬樹、神山健治
2006年日本/104分/配給:東北新社、プロダクションI.G
公式サイト http://www.tachiguishi.com/

 太平洋戦争に敗戦した日本の首都・東京。混沌とした闇市にたたずむ立喰い蕎麦屋に、ひとりの男が現れる。その男こそ、“月見の銀二”と呼ばれ、人々に怖れられる伝説の“立喰師”だった……。
 一食を得るためだけに自身の全てを懸けて飲食店主たちに挑み、無銭飲食を勝ち取る“立喰師”たち。戦後から現代まで連綿と続く、彼ら立喰師たちの生き様をドキュメンタリータッチで描き、同時にこれまで語られてこなかった日本の戦後史を語るという異色作。ドキュメンタリータッチとは言ったものの、現実にあったこともあれば虚構もあり、しかし、それらがあたかも真実であるかのように真面目に語られるために、その境界が曖昧になっているのが、押井作品たるゆえん。しかも特徴的なのはその画面にも現れており、実際の人間を撮影したスチール写真をデジタル加工し、パタパタ(表裏をひっくり返したりするもの)アニメ風に作っているので、実写的な質感を持ちながらも分類としてはアニメになるのか。立喰師を演じているのは監督の知り合いの業界人たち(例えばジブリの鈴木敏夫とか、プロダクションI.Gの石川光久とか)で、そこがまた身内映画っぽい気がして見る前は心配だったけど、見てみれば確かにこれは有名俳優でやる必要はないと納得。もちろん、演じている人のことを知っていればより楽しめますが。個人的には神山健治(TV版「攻殻機動隊」監督)が演じた牛丼屋店主は爆笑もの。小難しい言葉を連呼する独特のナレーションに加えて、内容は真面目なふりしたコメディで、立喰師がテーマという、ある意味、押井守の本当の集大成といっていい作品かもしれない。
☆☆★★★


タッチ
Touch
監督:犬童一心 脚本:山室有紀子 原作:あだち充
出演:長澤まさみ、斉藤祥太、斉藤慶太、RIKIYA、生田智子、小日向文世、宅麻伸
2005年日本/116分/配給:東宝
公式サイト http://touch.yahoo.co.jp/

 双子の兄弟・上杉達也と和也は、隣に住む浅倉南と小さいときから何をするにも一緒の幼馴染。成績優秀で運動神経抜群の弟・和也は野球部でエースを務め、「甲子園に連れて行って」という南の夢を叶えようと努力している。しかし、達也もまた南に対しては特別な感情を抱いており、南はそんな達也に惹かれているのだが……。
 国民的人気といっても過言ではない、あだち充の原作コミックの映画化。なぜ今、これを映画化するのか……その意図はいまいちわかりかねるのだが、しかも観てみるとなんと時代設定は現代に変えられている。80年代という時代性とともに、独特な空気感をもっていればこそ魅力的な「タッチ」というコミックのよさが、この時点で半減した気もする。セットや美術の関係上難しいのであれば、不特定にしてしまえばいいのに。なぜか上杉兄弟がテレビゲーム(「バイオハザード4」)で遊ぶ場面が入ったりして、よくわからない。長澤まさみのかわいさは抜群で、アイドル映画だと思えばいいのだろうけれども、ラストのとってつけたようなあの告白もいただけない……。いっそもっとオリジナルな方向に走ってもよかったのにという気もしなくもない。
☆☆☆★★


ダニー・ザ・ドッグ
Danny the Dog
監督:ルイ・レテリエ 脚本・製作:リュック・ベッソン
出演:ジェット・リー、モーガン・フリーマン、ボブ・ホスキンス、ケリー・コンドン
2005年フランス+アメリカ/103分/配給:アスミック・エース
公式サイト http://www.dannythedog.jp/ チラシ 12

 幼い頃に誘拐され、闘うためだけの“闘犬”として育てられたダニーは、ある事件に巻き込まれて重傷を負ったところを、盲目のピアニストのサムに助けられる。そして、サムや彼の娘ヴィクトリアとの生活で次第に人間らしさが芽生えていくが……。
 『キス・オブ・ザ・ドラゴン』でコンビを組んだジェット・リーとリュック・ベッソンによるアクション。もはや“リュック・ベッソン製作・脚本”ということはイコール“ダメ映画”というレッテルは覆せないが、『キス・オブ・ザ・ドラゴン』はそんな作品たちのなかでも、ジェット・リーのアクションのおかげでまだ見どころのある映画だった(……と思う)。だから今回も一縷の望みを託して観にいったが……改めてベッソンの映画はダメだということを強く再認識。ジェット・リーのアクションのファンでなければ、我慢して観ていられないですよ。ジェット・リーのアクションは、まだまだキレが冴え渡っていて、一瞬目を見張るのだけど、あくまで一瞬の話。全体的に彼の流麗な武術が生かされているとは、あまり思えませんでした。話も乱暴で、観るところはどこにあるというのだろう……。ま、モーガン・フリーマンとケリー・コンドンはなかなかよかったので救いといえば救いですけど。
☆☆☆☆★


旅するジーンズと16歳の夏
The Sisterhood of the Traveling Pants
監督:ケン・クワピス 脚本:デリア・エフロン、エリザベス・チャンドラー 原作:アン・ブラッシェアーズ
撮影:ジョン・ベイリー 音楽:クリフ・エデルマン
出演:アンバー・タンブリン、アレクシス・ブレーデル、アメリカ・フェレーラ、ブレイク・ライブリー
2005年アメリカ/118分/配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/sisterhood/

 生まれたときからずっと一緒だったブリジット、リーナ、ティビー、カルメンの4人組は、16歳の夏、初めてばらばらの場所で過ごすことに。旅立ちの前日、体型の違う4人がはいても全員にピッタリする不思議な1本のジーンズを見つけた彼女たちは、夏の間、友情の証にそのジーンズを着まわすことを約束する。
 全米でベストセラーとなった小説「トラベリング・パンツ」を映画化。単なるティーン向けの青春映画かと思いきや、中身はわりとしっかりした成長ドラマだったりする。ティーンエイジャーの夏休みといえば、安易な出会いから始まる恋愛ものだったりするのはありがちだが、本作は4人は個性がばらばらだが、それぞれにあったドラマが用意されていて、もちろん恋愛もあるんだけど、それが必ずしもハッピーとは限らない。男との甘いロマンスもあるだろうけれども、家族や友達の大切さこそを訴えているのが、この映画なのです。いい話。4人のうちでは、やっぱりアレクシス・ブレーデルの美しさは要注目かな。使用されてるサントラがいかにもティーン向けだけど、これも嫌いじゃない。
☆☆★★★


誰も知らない
Nobody Knows
監督・製作・脚本・編集:是枝裕章
出演:柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、清水萌々子、韓英恵、YOU
2004年日本/141分/配給:シネカノン
公式サイト http://www.daremoshiranai.com/ チラシ 1

 とあるアパートに引っ越してきた母・けい子と、その息子で12歳の明。けい子には父親の違う4人の子どもがいたが、アパートを追い出されるのを恐れる彼女は、夫は海外赴任中で、子どもは明ひとりだけと偽って生活していた。そのため、子どもたちは外に出ることも許されず、学校にも通ったことはなかったが、それでも家族5人でそれなりに幸せな日々を送っていた。しかし、そんなある日、新しい男ができたけい子は、わずかな現金とメモ書きを残して姿を消してしまう……。
 ご存知、主演の柳楽優弥が14歳で(映画の撮影時は12歳)カンヌ映画祭史上最年少で主演男優賞を獲得。カンヌで日本人が俳優部門を受賞するのも初めてだったということから、一気に有名人になったわけですが、確かに柳楽優弥は主人公なわけだし、あの眼力と佇まいは、やはり他の子どもたちよりも際立って見えるのは確かではありますが、彼以外の子どもたちも素晴らしいし、やっぱり演出した監督の手腕ももっと称えられるべきなんじゃないでしょうかね。そして作品自体も。個人的には『華氏911』よりこっちのほうが圧倒されたし、痛かった。是枝監督の作品を観たのは実はこれが初めてなんだけど、評判どおりドキュメンタリーとドラマの境目を淡々といくような作風から、演技というよりも本物を追ったドキュメンタリーのような雰囲気だが……。それ故か非常に現実感があって、子ども達のおかれた状況が痛々しく、観ていてつらいくらいだった……。でも、目を背けたくなるようなつらさではなくて、これは向き合わなくてはいけない現実であり、忘れてはならないのが、これが実際に起きた事件をモチーフにしているということだ。もちろん、モチーフにしてるだけであって、細部に至ってはフィクションなんだけど、改めて認識しなおさなければいかけない何かがこの中にはあると思いました。もちろん監督はそういったことを声高に叫んでいるわけでもなく、むしろ静かに見つめているだけだが、その視線の真摯さと丁寧さは特筆ものだと思うし、そうして送り出されたこのフィルムから、観客が何かを感じ取ることこそが大事じゃないでしょうかね。とにかく、観ていてこんなに心が痛かったのは久しぶり。個人的にはこの母親こそが最大の“悪役”だが、もちろん悪が倒され、反省させられてめでたしめでたしなんてことはない。それが現実だから。でも、とにかくこの母親はムカツイたなぁ〜。個人的にYOUってもとから好きじゃないから余計に憎々しかった(笑)。


ダンサー・イン・ザ・ダーク
Dancer in the Dark
監督・脚本:ラース・フォン・トリアー 音楽:ビョーク
出演:ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ、デビット・モース
2000年デンマーク/140分/配給:松竹

 「奇跡の海」でもそうだったけれど、ちょっと極端な主人公の性格設定にリアリティがあるか? と思う人もいるかもしれませんが、 そんなことはどうでもよくなってしまいます。というよりも、“その人物がいる”と感じさせるまでも気迫というか…そういうものがあるんですよね。で、この映画も主人公セルマに降りかかる不運と彼女自身のかたくななまでの信念が観ている自分の心に、痛く突き刺さる、そんな感じの映画。
 全編ドキュメンタリータッチで撮影されるおなじみのスタイルに、この映画のひとつの見せ場でもあるミュージカルシーンは、デジタルカメラを駆使して鮮やかに彩るスタイルを、厳しい現実と、楽しい空想の世界を対比させるように使い分けています。2000年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。


ダンジョン&ドラゴン
Dungeons & Dragons
監督・製作:コートニー・ソロモン
出演:ジャスティン・ワリン、ゾー・マクラーレン、ゾーラ・バーチ、ジェレミー・アイアンズ
2001年アメリカ/107分/配給:ギャガ・ヒューマックス
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/dd/

 全てのRPGの元祖で、「D&D」の名称で知られる「DUNGEONS&DRAGONS」の映画化。魔法使い“メイジ”が平民を支配するという階級社会のイズメール王国では、女王サヴィーナが身分差をなくし平等な社会を作ろうとしていたが、悪の宰相プロフィオンは、自らが国の支配者になろうと女王失脚を狙っていた。女王には最強の生物「ドラゴン」を操る杖があり、プロフィオンはそれに対するためレッドドラゴンを操る力をもつサブリールの杖を探す。盗賊の青年リドリーはひょんなことから、この権力闘争に巻き込まれ、相棒のスネイルズやメイジのマリーナらと旅立つことになる。
 純粋なファンタジーの世界観…エルフやドワーフといった種族、盗賊や魔法使いといった職業がはっきりと描かれていけれど、そういったものの知識がない人にとっては、何のことかよくわからないんじゃないかなぁ、という不安があります。内容は古典的といっていいほどの勧善懲悪・冒険ファンタジーもので、それを楽しめるか、あるいは子供くさすぎて駄目ととるか、どっちかだろうか。最初のうちは後者だった自分も、最後のほうは概ね前者になっていはいましたが……。まぁ、この映画は要するに、「D&D」というRPGの古典をどう映像化するのかがキーポイントであって、ストーリーやテーマ性を深く掘り下げる必要はあまりない娯楽作品でしょう。だからこそ、キャラクターの造詣などが大切だと思うのですが、僕個人としては、それがいまいち気に入らなかったのが残念。衣装などがお世辞にも趣味が良いとは言いがたいし、作品のキーとなるドラゴンもちょっとださい。もっとかっこよく描いてほしかった。クライマックスの200匹以上のドラゴンの乱戦は確かに見ものかもしれないけれど……。「ロードス島戦記」のドラゴンはすごくかっこよかったんですけど、どうも日本のアニメを見て育った自分としては、アメリカのキャラクターデザインってあまりかっこよく感じません。あとは、スター・ウォーズファンにはぴぴっとくるシーンがあると思います。最後のほうで……っていうか、早い話がパクリ?
 監督は3部作の構想を練ってるそうですが、「ロード・オブ・ザ・リング」をみてしまえば、これの3部作はちょっとつらいでしょぉ…って思うのが、どうしても正直な感想。……っていうか、興行的にはずれたから続編もありえない?