やかまし村の子どもたち
All A Vi Barn I Bullerbyn
監督:ラッセ・ハルストレム 原作・脚本:アストリッド・リンドグレーン
出演:リンダ・ベリーストレム、アンナ・サリーン、ヘンリク・ラーソン、エレン・デメルス、ハラルト・ロンブロ
1986年スウェーデン/90分/配給:アスミック・エース

 アストリッド・リンドグレーン原作の絵本をリンドグレーン自らが脚本を執筆、ラッセ・ハルストレムが監督したというなんとも贅沢なほのぼのムービー。家が3軒しかない小さな村“やかまし村”に住む6人の子供たちの日常を、豊かな自然とともに映し出しています。特にこれといった大事件があるわけでもなく、夏休みを過ごす子供たちの日々をそのまま綴ったような作品で、場合によってはちょっと退屈するかもしれませんが、微笑ましく、温かいことこの上ない作品です。強烈なキャラで物語を進めるロッタちゃんとはまた別の方向性で、こちらのがより“本物”って感じです。ストーリー性で弱いってところはありますが、絶えず聞こえてくる幸せな笑い声と、本当に美しい自然に、この世の楽園があるとすれば、それはやかまし村なんじゃないかなぁ…って思えてくる、そんな幸せな作品です。


やかまし村の春・夏・秋・冬
Mera Om Oss Barn I Bullerbyn
監督:ラッセ・ハルストレム 原作・脚本:アストリッド・リンドグレーン
出演:リンダ・ベリーストレム、アンナ・サリーン、ヘンリク・ラーソン、エレン・デメルス、ハラルト・ロンブロ
1986年スウェーデン/86分/配給:アスミック・エース

 前作「やかまし村の子供たち」では、夏休みの始まりから終わりまでが描かれていましたが、こちらは前作の終了直後から始まって、秋から冬、春と季節の移ろいが描かれています。前作よりも、ちょっとだけ子供たちの成長ストーリーみたいなのがあるんですが(子羊のエピソードとか、子守のエピソードとか)、基本的には前作と変わらず。溜息が出るような自然の中でのびのびと暮らす子供たちと、彼らを優しく見守る大人たちに、人間の本来のあるべき姿を見る……なんちゃって。前作も本作も、BGMを流すように、何の気なしにビデオを流していたりしてもいいんじゃないかなぁ…って思う作品でした。目に映る美しい自然と、そこにこだまする無邪気な子供たちの笑い声。これだけで、幸せな気分になれるような気がします。


焼け石に水
Gouttes D'eau Sur Pierres Brulantes
監督・脚本:フランソワ・オゾン 原作:R・W・ファスビンダー
出演:ベルナール・ジロドー、マリック・ジディ、リュディヴィーヌ・サニエ、アンナ・トムソン
2000年フランス/90分/配給:ユーロスペース

 70年代のドイツ。街で中年男レオポルドに声をかけられた青年フランツは、恋人アナとのデートに行くはずがなぜか彼の誘いに乗り、レオポルドの家へ。そして、そのまま彼の家に居候してしまう。やがて、その家にアナやレオポルドの元恋人ヴェラもやってきて……。
 ドイツの戯曲家ファスビンダーの未発表の戯曲を映画化。4幕構成で成る男女4人が繰り広げる室内劇で、最初は男2人の同性愛から始まって、そこへ女2人(1人は元・男性)が絡んできて、愛と欲情が入り混じった悲喜劇を見せる。レオポルドというおっさんがなんとも食わせ物で、そんな男に夢中になってしまうフランツが健気で、この2人の男女さながらのやりとりが滑稽。オゾンはゲイだというから、描写もなんかリアルなものを感じてしまう……。4人が踊るシーンが楽しみだったんですが、相変わらずその意味もよくわからないシュールさがなんともオゾンらしいというか、でも楽しいからOK。あのダンスシーンは好き。


やさしい嘘
Depuis Qu'otar Est Parti...
監督・脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ
出演:エステール・ゴランタン、ニノ・ホマスリゼ、ディナーラ・ドルカーロワ
2003年フランス+ベルギー/102分/配給:東芝エンタテインメント
公式サイト http://www.yasashii-uso.com/ チラシ 1

 グルジアの首都トビリシに暮らすエカおばあちゃんと母マリーナ、孫娘アダは女3人で些細な衝突はありながらも、毎日を幸せに暮らしていた。エカおばあちゃんは、パリで働いている最愛の息子オタールからの手紙を毎日心待ちにし、手紙が届いたらフランス語が堪能なアダに読んで聞かせてもらうのが、最大の楽しみだった。そんなある日、突然オタールが事故で他界したという報せが届き、マリーナとアダは、エカおばあちゃんを悲しませないため、そのことを知らせず、オタールになりすまして手紙を書くことに……。しかし、何かおかしいと感じたエカおばあちゃんは、息子に会いにパリへ旅立つことを決意する。
 85歳で女優デビューし、本作を撮影時には90歳という高齢のエステール・ゴランタン演じるエカおばあちゃんが、なんともいえずいい。息子を思う母の気持ちが微笑ましく、優しく、強い。また、女同士でちょっといがみあったりしながらも、心の底では3人一緒がすごく幸せな彼女たちの姿がとても良かった。それぞれの苦悩や葛藤がきちんと描かれていて、オタールを追ってパリにたどり着いた3人がそれぞれに感じたところと、その結果として描かれる行動は、何にも増して優しく、母娘の大きな愛情を感じさせてくれたような気がする。とても優しい気持ちになれる一作です。


山猫
Il Gattopardo
監督・脚本:ルキノ・ヴィスコンティー
出演:バート・ランカスター、アラン・ドロン、クラウディア・カルディナーレ
1962年イタリア/186分/配給:クレスト・インターナショナル
公式サイト http://www.crest-inter.co.jp/yamaneko/ チラシ 12

 1860年5月、統一戦争下のイタリアで、腐敗した貴族支配からの解放の波がシチリア島にも押し寄せる。シチリアの地を300年に渡って統治していきた“山猫”の紋章で知られる公爵家の当主サリーナは、貴族社会の終焉が目前に迫りながらも、これまでと変わらぬそぶりで優雅な日々を送る。公爵が目にかけている甥のタンクレディは革命軍に参加し、新しい時代の波に機敏に対応していたが、ある日、片目を負傷して休暇の出たタンクレディは、避暑に向かうサリーナ公爵一家と合流、やがてそこで新興ブルジョワジーの娘アンジェリカと出会い恋に落ちる。
 巨匠ヴィスコンティの代表作で、第16回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作。日本では64年に大幅に短縮された英語の国際版が公開(20世紀フォックス配給)され、81年にイタリア語のオリジナル版がリバイバル(東宝東和配給)。そして、イタリアが国家事業として取り組み、撮影監督のジュゼッペ・ロトゥンノ監修のもとで復元された「イタリア語・完全復元版」が2004年に公開され、僕が観たのはこれになります。なんというか、これだけの巨匠の作品を、今更僕ごときがあれこれ言うことは何もないので、言いませんが、とにかく圧巻。特に有名な舞踏会のシーンは驚きである。確かこの映画の撮影で使われた劇場だったか、美術館だったかが火災で焼失した部分を修復する際、映画を参考にしたというような話を聞いた。つまり、この映画はすでに映画という枠を越えた究極の文化であり芸術なのだ。