「おはぎ」と「ぼたもち」の違い
 
 基本的には「おはぎ」と「ぼたもち」は同じもので違うのは食べる時期(春は「ぼたもち」、秋は「おはぎ」)、大きさ、あん(こしあん・粒あん)の違いだけだったのですが、現在は一年中『おはぎ』で通すお店が圧倒的に多くなってきました。確かに、形は「おはぎ」であんもこしあん・粒あんの両方揃っております。本来なら、「ぼたもち」と「おはぎ」を「牡丹餅」「お萩」と書くとピンとくると思いますが、牡丹の季節、春のお彼岸に食べるものが「ぼたもち」で小豆の粒をその季節に咲く牡丹に見立てたものです。一方、萩の季節、秋のお彼岸に食べるものが「おはぎ」で、小豆の粒をその季節に咲く萩にに見立てたものです。
 では、何故牡丹の方にだけ餅が付いたのか?その由来は、「倭漢三才図会」に「牡丹餅および萩の花は形、色をもってこれを名づく」とあり、牡丹餅が「ぼたもち」になり、萩を丁寧に言って「おはぎ」になったというのが一般的な説です。
 お彼岸に「おはぎ」や「ぼたもち」を食べるようになったのは江戸時代にさかのぼり、この時代に、お彼岸や四十九日の忌明けに食べる風習が定着したようです。
 小豆の赤色には、災難が身に降りかからないようにするおまじない効果があると信じられていて、古くから邪気を払う食べ物としての信仰が、先祖の供養と結びついたと言われています。
 また仏教では、彼岸は、彼の岸として悟りの境地を言い、苦しみに満ちている此岸と対になる言葉として使われています。そこで彼岸中は仏道修行に励む訳ですが、日本では祖霊崇拝の慣習を合わさり、「ぼたもち」や「おはぎ」を捧げ、先祖を慰め、自分自身の功徳を積んでいました。 
 「暑さも寒さも彼岸まで」と言われるように、春の彼岸は農作業が始まる時期で、秋の彼岸は収穫の時期にあたります。春には収穫をもたらす山の神などを迎えるため「ぼたもち」を、秋には収穫を感謝して「おはぎ」を作ったとも言われています。
 大きさや形にも特徴があり、「ぼたもち」は牡丹の花をかたどって丸く大きく豪華に作って、「おはぎ」は、秋の七草、萩の赤紫の花をかたどって小ぶりで長めに丸められて作られたと言われています。
 粒あんが「ぼたもち」で、こしあんが「おはぎ」、と思いの方が多いのかもしれませんが、実はあんの材料である小豆の収穫時期に関係があるのです。秋のお彼岸は、小豆の収穫期とほぼ同じで、採れたての小豆をあんにすることができ、柔らかい皮も一緒につぶして使うので、つぶあんができます。春のお彼岸は、冬を越した小豆を使うことになり、皮は固くなっていますので皮をそのままに使っては食感が悪くなります。そこで皮を取り除いた小豆を使い、こしあんができます。春の「ぼたもち」はこしあんで、秋の「おはぎ」は粒あんだったのです。しかし、今では保存技術の発達や品種改良により、春でも皮のまま使うことができる小豆が登場してしまい、一年中こしあんだろうと粒あんだろうといただけるようになってしまった今の時代には、どっちがどっちと言ってもあまり意味がないのかもしれません。
 しかし、「ぼたもち」と「おはぎ」の歴史を思い、春のお彼岸にはこしあんの「ぼたもち」を、秋のお彼岸には粒あんの「おはき」をいただきながら、季節の風情を感じたいものです。
 春は「ぼたもち」、秋は「おはぎ」と春秋使い分けだけでなく、夏と冬にも違う呼び名があるらしいというので早速調査してみました。
 『おはぎ』(名前がたくさんあって呼びにくいので、一般的には『おはぎ』と呼ぶことにします)』は、お餅と違い、もち米とお米を混ぜて炊き、すりこぎで半つぶしにするのです。だから、ペッタンペッタン音がしないので、お隣さんなどからすると何時ついたのか分からないというところから、
 → 搗(つ)き知らず → 着き知らず、となり
夜は船がいつ着いたのか分からないことから「夜船」となったようです。
 夏の夜船。月を水面に浮かべて波間を行き交う屋形船などを思い起こせばいいのでしょうか。なんとなく夏と夜船がシックリくるところが不思議です。
 北窓と言われてピンときますか?『おはぎ』は餅つきと違い、杵でつかないのでペッタンペッタンと音がしない。だから、何時ついたのか分からない、までは同じです。ここからの変化が違います。漢字に注目です。
 → 搗(つ)き知らず → 月知らず、となり
月の見えないのは、北の窓なことから「北窓」となったか。
 寒い冬に北の窓。雪がシンシンと降り積もる外を北窓から眺めている状況でも想像してみましょう。冬と北窓もイメージが結びつきそうです。
 このように、季節感と風情を『おはぎ』と結び付けている想像力には、とても風情があって、心がホッっとする感じです。昔の人は、『おはぎ』一つをとっても四つの名前をつけるほど、自然や季節との結びついて、遊び心も風情もあり感心させられます。忘れてはいけない日本の心を思い出させてくます。美しい風情の日本語がこんな身近な『おはぎ』に隠されていたのですね。

春の「ぼたもち」

夏の「夜船」

秋の「おはぎ」

冬の「北窓」

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