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1.準備
暮れも差し迫る2000年12月末、awine家はおおわらわな日々を送っていた。
恒例の年末大掃除だけでも大変だっちゅーに、さらに部屋の模様替えまでを決行。家具もいくつか買い換えよう、という話になっていた。
何故か?
それというのもすべて、12月29日に来日するawineの彼氏を迎え入れるためだ。
そのうえ、その彼氏は我があばら家に滞在しようというのである。学生の頃は、この娘にして彼氏無し・・・と親に要らぬ心配をかけていたawineなだけに、もしかしたら間違って結婚してもらえるかもしれない相手がやって来る、というわけなので、両親の気合の入れ方はハンパではなかった。
しかし学生身分のお気軽な弟以外、皆仕事をしているわけで、職場から疲れて帰ってきて家の大掃除をする、というのは、この上なくハードなことであった。それが一週間ほど続いたであろうか、働き者だが短気な母親を筆頭に、終わりごろにはみなぴりぴりムードで、awineの晩酌がいつもより増えていたのはいうまでもない。
も〜、あの彼はそんなことまでしなくてもいい客だっちゅーに。
などと、掃除とか家のこととが得意でないawineは、家族の前でこんな失礼なことまで言っていた。
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2.来日
さて、前日までさんざんドタバタしていたawine家。仕事も前日までぎっしりあったので、いくらまだぴちぴちのawineといえど、結構疲労がたまっていた。
それなのに彼氏の飛行機の到着時刻は、午前8:30。ということは遅くとも7:50には家を出ていなくてはいけない。ということは遅くとも7:00には起きていなくてはならない。朝がからっきしダメなawineの中には、会社が休みの日は朝寝をしなくてはならない、という公式が出来上がっていた。
そして当日。
お約束どおり、awineの当初の予定から見事に30分ずつ繰り下げとなった。
10時間を越す空の長旅。約1年半ぶりの愛しい恋人とのロマンチックな対面を期待して空港に降り立った彼氏は、到着ロビーで、30分ほど待たされることになったわけである。
そしてその5ヵ月後、今度はawineがヒースロー空港で見事にお返しをされることになる。ギャフン!
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3.ご対面
その日、空港の帰り道に友人と3人で昼飯。長旅で疲れている彼氏は、恋人の優しい運転によって車の中でリラックスできたのはよかったが、このために、宿(awineん家)には直行してもらえず、寄り道することを余儀なくされてしまったわけである。言葉も通じない異国のはじめての場所で、彼氏はまさに「まな板の上の鯉」状態であった。
夕方になっておこなわれた、awineの両親との対面は比較的穏やかに行われた。とくに特記すべきネタもない。あえて言うなら、両親は無意識であっただろうが、不自然な英語が節々に入っていたのが少々気になったぐらいだ。あとは、awineというウソくさい通訳のおかげでナントカ無事初顔合わせが終了した。
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4.奥飛騨温泉への旅その1
温泉に行きたい。山がいい。
という、かねてからの彼氏の希望をかなえるため、「1万円台の温泉の宿」というガイドブックを購入したawineは、その行き先を岐阜県の奥飛騨温泉にすることとした。日本3大名泉のひとつ、下呂温泉の方が近いのでそこでもよかったのだが、値段が少々張るのと、あと、その名前の音の響きが、我々酒飲みカップルにはどうも縁起のよくない感じがしたので、却下となった。
ここでひとつ、ぶっちゃけた話をすると、この旅行、当初は母親が大反対であった。
結婚を前提としているとはいえ、未婚状態での旅行なだけに、親の反対も当然といえば当然のこと。が、事情が事情なだけに、一週間ほどの母娘の冷戦ののち、許しを得られることとなった。理解のある親を持つというのは、有難いことである。
そして旅行当日。
最寄の駅まで送ってくれた母。降り際に「子どもだけはまだ作らないように!」という大変ありがたいアドバイスをいただいた。・・・理解のアル親を持つというのは、本当に有難いことである。
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5.奥飛騨温泉への旅その2
JR特急飛騨高山号で名古屋から約2時間。さらにバスで1時間。
awineたちは、当初の予定より2時間ほど遅れていたので、到着時には日はすでにどっぷりと暮れていた。この3時間の長旅に、ビール500ml缶4本を費やす。
日本のビールがこの世で一番おいしい、と思っている彼氏はかなりご満悦の様子。発泡酒をビールだよ、と偽ってもよかったか、とawineは横で貧乏クサイことを考えていたりした。
到着してすぐ、我々は旅館の近くにある酒屋へ、いざというときのために日本酒を購入しに行く。しかし、awineは日本酒は好きだが、銘柄品種等はさっぱりピーマン。何がよいのか分からず、店員さんに尋ねたものの、ますます分からなくなってしまったので、辛口でパッケージの可愛いものを選んでみた。いうまでもなく、このお酒の銘柄は覚えていない。
奥飛騨地方の名物を夕食としていただいた後、いよいよお風呂場へ向かう。
自分には日本人の血が40%ほど混じっているんだ、などとたわけたことをいう彼氏ではあったが、一応外国人だし、温泉は初体験ということもあって、プライベートな露天風呂のある1万円台の宿、を厳選した。この宿が、なかなかのものであった。プライベート露天風呂は大小4つ、共用大露天風呂1つ、そのいずれもが山に面していて、雪なんか降ったりして、まさにカップルのための小規模旅館、という感じであった。
無論、彼氏は大喜びであった。
そして初の体験に子どものように無邪気にはしゃぐ、awineよりも6歳も年上の彼氏は、日本酒の酔いも回ってきたのか、そのまま子どものように眠りに入っていった。
ぐっすり眠れた彼氏は翌朝も朝早くから、露天風呂へ入りに行くと張り切っていた。その張り切りようは、朝が弱いawineを差し置いて独りで温泉に行ってしまうほど。しかもカメラまで持っていく始末。
出来上がった写真は、当然のごとく何が写っているんだかよく分からない芸術作品が出来上がった。それを人に見せるときには必ず、撮った本人による解説が必要になった。
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6.奥飛騨温泉への旅その3
チェックアウトをすませたawineたちは、近くの民族博物館へと足を運ぶ。この民族博物館には、当時の人々が住んだという伝統的な藁葺きの家屋が2件、お寺の境内にある、というごく素朴なものであった。入場料を払って入ってみると、敷地の真ん中に露天風呂が!おそるおそる彼氏のほうを見てみると、その目は子どものようにキラキラと輝いていた。
イヤ〜な予感。
「せっかくだから入ろう!」
予感的中!!
ええ〜?! さっき入ったばっかじゃん!! また入るの〜?!
木造掘っ立て小屋の入場券売り場のおっちゃんが、目の前の我々のやりとりを見て、さらに追いうちをかける。歯がいくつか抜けてしまった口で満面のあどけない笑顔を作るおっちゃんの、この博物館のように素朴で温かい後押しがあっては、さすがのawineも風呂に入らないわけにわけにはいかなかった。
が、男子用の風呂は使用中だという。
そこでこの気のいいおっちゃんは、
「女子風呂のほうは今朝から掃除して湯を入れ替えたりしないかんかったから今まで閉めとったで男子の方がうまっちゃったけど女子は誰もおらんで今から開けたるから誰か来たら知らせたるでそっち使うといいわ。」
と言ってくれた。
要は「女子風呂が空いているから次の人が来るまで使っていいよ。来たら知らせてあげるから。」ということだ。このおっちゃんとの心温まるコミュニケーションを経て、我々はふたたび雪の中の露天風呂を堪能したのであった。
その後、博物館見学を済ませ、おっちゃんにお礼とお別れを告げて、バス停へ。
バスを待っているうちに雪がどんどん積もり、気がつくと二人は雪合戦をしたりしていた。
奥飛騨の旅はこうして思い出深いものとなった。
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7.年の暮れ
奥飛騨から無事生還した2人。
大晦日は、awineの家族と心静かに過ごした。
恒例の紅白歌合戦を見ながら、彼氏は、ポップより演歌の方が好きだ、と言った。
こいつ、自分の彼女の両親のハートをつかむツボを心得ているな、とawineは思った。
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8.親戚一同
正月に、父親の家族の実家である我が家が、親戚一同を呼んで正月の食事を振舞うのは、毎年恒例のこと。今年はこれに副題がついた。
「awineが彼氏を連れてくるらしい。いよいよ年貢の納め時か?」
声をかけた人数だけでも、20人は集まってくる概算だ。その準備はかなり大変なものであった。
魚をさばくのが好きな父親は、当初の予定では自分で釣った魚をさばく、ということらしかったが、結局、知人のつてで漁師さんから希望の商品を購入していた。鯛、伊勢海老、サザエ、その他名前が覚えられなかった魚たちなど、なかなか豪勢である。
母親とawineは、煮物や揚げ物、サラダなどの準備をしていた。
勿論、彼氏も手伝わされていた。
続々と親戚が到着する。
そのたびに紹介しまくってて、彼氏は頭がこんがらがったことだろう。一生懸命メモしていた。プレゼントを持ってきてくれる従兄弟もいた。
お酒・ビール・刺身に寿司、何でもござれの彼氏は人気者であった。ウソくさい通訳awineを横に、場はかなり盛り上がった。適度に酔っ払ったおっさんたちのおかげである。常に関心を寄せてくれた従姉妹やおばたちのおかげである。お酌サービスをかってでてくれた従姉妹の中学生のお嬢様のおかげでもある。
テキトーな英語と日本語の混じった酒くさい、しかし笑いの絶えることのなかったあの晩餐会は、彼氏にとってもawineにとっても忘れられない思い出となった。
今ナオ感慨深い。
皆に心から感謝している。
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9.京都
年明けは、京都に旅行に行った。
案の定、自分達の予定より3時間ほど遅れたawineたちが京都に着いたのは、もうかなり日が傾いていた。1日目は、宿を探して夕食を食べて、結局そんだけだった。散歩がてら清水寺まで1時間ぐらい歩いていってみたが、門戸は固く閉ざされ、行きだけで歩き疲れてしまった散歩に出たはずの二人は、帰りはタクシーで宿に向かっていった。
翌日は充実していた。
まずは彼氏がもう一度行きたかったという二条城。それから念願の銀閣寺。
次に平安神宮へ。途中、ちっちゃなことで少し気まずい雰囲気になってしまったり、凶のおみくじをawineが引いてしまったり、と雲行きがあやしくなりかけたが、帰り道で見つけた八坂神社で、すっかり元通り。
何故かって?
そこには出店があったからさ。もう日も暮れかけていたので、あちこち閉まりかけていたものの、お目当ての「熱燗、おでん」の店だけは余裕で開いていた。
すっかりご機嫌になった二人は仲良く、awineが傘を忘れてきてしまった旅館に戻っていく。
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10.友人
awineの彼氏は幻想ではなかった!なんと実在していた!!
という事実を確認するため、古き友人も新しきもがわざわざ時間を取ってくれた。
いつもはかなり毒々しい大学時代の連れたちは、
その日ばかりはおとなしかった。
かのように見えたが、一番毒々しい奴は、日本語だろうと英語だろうと関係なしに、
いつも通りの勢いで彼氏とコミュニケーションをとっていた。
さすがである。
前の職場の友人達はかなり英語が出来たので、
awineは久しぶりに通訳から解放され、
飲み食いに集中できた。
外国人ハント実施中の友人、ハントにより現在進行形の我々、
そしてすでに結婚してしまった国際カップル、というように
見事に3段階に分かれた集いとなった。
スケジュールの都合上、さすがにすべての友人に彼氏を紹介できなかったのが残念。
ごめんねぇ。また次の機会を楽しみに!ということで。
時間を作ってくれた友たちよ、ありがとうねぇ。
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11.東京
彼氏が2週間のホリデーを取って日本にやってきたはいいが、
awineのほうはさすがにそこまで連続して休みは取れない。
フレキシブルというか、進んでいるというか、怠け者というか、
さすが英国である。
馴染みの友人が数人東京にいるというので、
彼氏は以前から、今回の来日の際には東京にも行きたい、と言っていた。
当初はawineも一緒に、という話であったが、
結局、awineの出勤する2日間、彼氏ひとりで東京へ行ってもらうことにした。
この東京の話は、とりたてて面白いネタもないので、これだけ。
awine冷たい?
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12.カラオケ
彼氏の滞在の最終日、再びawineの家族と水いらずで食事に行こう、ってなことになった。
最後ぐらい豪勢に、ということでawineの提案により、
回転寿司へ行くこととなった。
ビール付きで、好きなネタを好きなときに好きなだけ食べたあと、
カラオケに行こうという話に。
すると彼氏の顔がまっさおに!
英国でもカラオケは結構浸透しているものの、
彼氏はまだ初体験も済ませていない。
張り切るawineの家族たちの中で唯一彼氏だけがビビッていた。
「い、行くのはいいけど、僕は歌わないからねっ!」
「お願いだから僕に歌わせないで!!」
「僕はシャイだから!」
と、
移動中の車の中でしきりにawineにお願いする彼氏。
そのお願いはカラオケボックスに到着してからも続いていた。
しかし、「はいはい」と言いつつ、程よく酔ったawineの耳には、
その懇願は、右から左であった。
ボックスに入って一人ずつ順番が回ってくる。
腹を決めたのか、彼氏は、
「分かった。歌うから、君も一緒に歌って」。
「must」を使ってawineに強制してきた。
仕方がないのでawineでも歌えて、かつ彼氏の大好きな「プレスリー」の唄を選曲。
曲が流れる。
唄う。
間奏。
唄う。
両親も喜ぶ。
この一曲が彼氏を変えたようだ。
唄い終えた次の瞬間には、
「次何を唄おう」
と必死に曲探しをしている彼氏がそこにいた。
さらに終わった頃には、
「またカラオケに行きたいな。いつ行こう。」
などとほざく彼氏がそこにいた。
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13.おみやげ
帰国の準備でせっせと荷物をかばんにつめる彼氏。
いろいろな人からもらったプレゼントは
さすがにすべて一度に持って帰ることはできない。
持っていけないものは後から送るしかない。
かなりの量となった。
しかし、彼氏は、
父からもらった金箔入りの日本酒一升瓶だけは
一生懸命工夫して、自分のかばんに詰め込んでいた。
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14.終わりに
長いようで短かった13日間。
日本語と英語に挟まれて、そういう意味ではしんどい2週間であったが、
内容としてとても濃い日々でもあった。
何よりも家族、親戚、友人達の温かい声援、協力を得られ、
そういう人々の存在の、有り難さ、素晴らしさを再認識できた、
貴重な時間であった。
いま一度、ここで感謝の意を述べたい。
彼氏が帰国してからの3日間、awineの心にはぽっかり穴が空いたようだった。
日々の生活でそれなりに気は紛れたものの、
ひとりになったときは涙が止まらなかった。
遠距離恋愛はこういうのがツライ。
3日間は、彼氏が寝ていた布団の中で、彼氏の匂いの中で眠った。
awineもなかなかオンナのコでしょ?
彼氏の方も帰国してからすぐは、
いつになく頻繁に連絡をくれたりした。
この2週間の余韻は、お互いにとってそれほど大きかったのだ。
が、
その感慨も今となっちゃぁ、どこへやら。
再びお互いの生活ペースに慣れ、
それほどマメでない2人のペースに戻り、
のんきな日々を送っている。
人に、「よくその距離で関係が続くねぇ〜」としばしば言われる。
ひとつには、この「のん気さ」、言い換えれば
「楽観さ」が功を奏しているのではないかと思う。
先のことなんて誰にも分からない。
でもいつも前を向いて歩いていきたい。
一度きりの人生、楽しく生きようじゃないか。
awineも彼氏もいつもそう思っている。
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