上 絵 2

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一 抜紋 二 紋洗い 1 三 紋替 四 裃の紋入れ
五 紋洗い 2 六 背の張り紋 七 色差し

  七 色差し  
『一 抜紋』で色の生地の紋抜きを紹介しましたが、今回はその後の仕上げ=色差しを紹介します
紋抜きして、上絵直しをした状態ですが、紋の中とふちの色が抜けています
紋抜きの作業の時、なるべく紋の形に抜いて他の部分を抜かないようにするのが熟練した上絵師の腕なのですが、どうしても少しは抜けてしまいます
生地の地色に合わせた色を作ります
「黄」「黄茶」「赤」「橙」「緑」「青」「めいりん」「紫」「ピンク」「黒」の染料を使って色を作ります

取り出す量は耳掻きの先にほんのチョット、と云う感じで絵皿に出し、水を少し加え、焼き鏝で溶きます

試験的に作った染料を薬指に少し漬け、布(この布は黒留袖の紋に当ててある生地で再利用です)に移して乾燥させ、生地の地色と比べます

一発で地色に合わせる事は出来ませんので、少しづつ足らない色の染料(予め他の絵皿に溶いておきます)を加えながら調整します

日本の着物の色は、原色よりさび(くすんだ)が入った色が多く、最後に紫か緑を合わせてさびを出します

地色に合った染料が出来ましたら、色止め(滲み防止)にタラカントゴムの溶液を少し混ぜ、絵筆(彩色筆)で染料を差して行きます

昔はこの絵筆はもっと沢山ありましたが、今は少なくなっています
彩色筆で色を差して行きます
この場合、一定の目線でなく上下左右、四方向から見て、色の抜けた部分を捜して差して行きます
水際を直し、蒸気で染料を生地に浸透させて完成です

  六 背の張り紋
『張り紋』は、一般的には「紋替」「紋洗い」が不可能になった紋付に張るものです(張り紋ー参照)
その張り方は、<図T>に書きました様に、元紋を透けない様に黒く塗りつぶして生地に張り、背紋は左右の生地に張った後、背を縫い合わせます。これが一般的な張り紋の方法です。

しかし、最近簡単に張れる様な「張り紋」が作られる様になってから、背は一枚の張り紋で便宜的に張る様になりました。でも、それでは張った候の紋で、「いかにも張り紋」という感じで何とか上記の正規の張り紋のようにならないか、と考えていました。

このような折に、<図U>の様な古い『背の張り紋』と出会いました。色は褪せていますが、予め背合せをして<背の張り紋>を作った後に、着物の背に張ってありました。
これを参考に新たに『背合せ用張り紋』を作りました。<図V><図W>
この方法ですと、本来の背合せした張り紋と同じ様に見られます。(裏話しはブログへ

 <図 T>
左の写真は「浮線蝶」が上絵されている紋付に、「剣片喰」紋を張ったもので、右背の張り紋を取ったところです。

『張り紋』を生地に直接張りつけて、背を縫い合わせるのが、『張り紋』又は『貼り紋』『江戸付』の一般的な方法です。
普通元紋は黒く塗りつぶしてから張り紋を張りますが(この方が元紋が透けない)、この場合、元紋は張る紋の形に塗りつぶしてありました。(この張り紋の場合は、張り紋を更に他の紋・剣方喰を左三階松に替える注文でした)

 <図U>
左の写真は、今回『背合せ用張り紋』を作るきっかけになった、背の張り紋です。

 <図V>
左の写真は、黒紋付に張った張り紋ですが、左が『背合せ用張り紋』、右が従来の一枚の張り紋です

 <図W>
左の写真はそれぞれ裃と祭用の着物に張った『背合せ用張り紋』です

 五 紋洗い2   前に『二紋洗い2』で紋洗いの過程を紹介しましたが、その場合は元紋の上絵の墨(しべ・線)が、洗っても取りきれなくて残る場合で、紋洗い後再度元紋の線(しべ)をなぞって上絵して仕上げました。
今回は、上絵の線(しべ)がきれいに取れる場合の『紋洗い』の過程を紹介します。
この場合は、前の「紋洗い2」と比べて比較的楽に紋洗いが出来ます。

左の紋は「細輪に梅鉢」の紋です。
雨に濡れたか、何らかの原因で紋の白場に、刷込んだ染料が滲んでいます。
紋付自体が古く、上絵の線も少々薄くなっています。
上絵の線(しべ)は何とか取れそうな感じに見うけられました。
レジュランを紋場に塗って、柔らかく擦って上絵の線を取ります。
生地が弱っている場合もありますので、無理をせずていねいに擦ります。
水洗後、乾燥すると左の様になります。
きれいに上絵の線が取れ、刷込んだ染料も少し落ちました。
三品(抜き剤)をかけて、染料の色を抜きます。
前の染料が少し残り、黄味が残っていますが、同じ紋を入れるので問題はありません。
紋型で「細輪に梅鉢」の紋を擦り込んで上絵して仕上げました。
インクで捺染してますので、再度紋が泣く(染料が滲む)事はありません。
 三 紋 替(もんかえ) 紋替とは、今入っている紋を他の紋に替える事をいいます。
例えばお母さんの留袖(母方の在所の紋が入っている事が多い)を娘に譲る時に、当家の家紋を入れる為に紋を替えます。又頂いた着物に先方の紋が入っている時、自分の家紋を入れ直します。

紋替は、インデックスで紹介したように<面倒で、手間の掛かる作業>です。
既製品の留袖・喪服は白く丸い「石持」に紋(例えば五三の桐)が入れてあって、まずこれを元の石持の様に白く抜かなければなりません。紋の回りー紋と石持の空いた部分ーは黒の染料(又はインク)でしっかり刷込まれていて、これを白く抜くのは非常に手間のかかる作業です。   
又、生地に無理ー負荷をかけますので、生地が弱り、場合によっては生地を破る可能性もあり、リスクのある作業でもあります。

で、紋替をする場合、まず生地が紋替に耐え得るかどうか、生地を見て判断して注文を受けます。
 一 生地が古く、紋が黄ばんでる場合ーー生地が破れる可能性が強く、「張り紋」(江戸付け)にしてもらいます。
 一 生地は古いがある程度しっかりしている場合ーー生地が弱っている可能性もあり、掛かってみて出来たら「紋替」をし、破れそうだったら「張り紋」に変更させてもらいます。この判断は難しいです。
 一 生地が新しくしっかりしている場合ーー紋替は可能です。ただ、色々な染料・インクが使われていますので、完全に白く抜けない場合は、部分的に白をかけさせてもらいます。
 一 染抜き紋の場合ーー紋の形にしっかり染料で染めていますので、なかなか抜き切れません。どうしても黄味が残りますので、これも部分的に白をかけさせてもらいます。
「五三の桐」が入っていて、これを抜いて「片喰」の紋を入れます。

まず、上絵の墨と縁くくりを取り除きます。
今回の場合、上絵はインクで刷られてるので、溶剤で落としました。
上絵直しの墨が少し残っているのが分かります。
「レジュラン」という界面活性剤入りの石鹸系統の薬品を、紋場に刷込みます。
水とレジュランを溶いた溶液を紋場に塗りながら、揉みます。
染み込んだ染料を生地から緩める為にします。
揉み加減が勝負で、強過ぎると生地を傷めます。又弱いと染料が多く残ります。

この時点で、生地が弱っている場合、生地が薄くなりほつれそうになりますので、紋替を中止して張り紋に変更します。
揉み終わった時点。刷込まれた染料が少し薄くなっています。
レジュランが紋の回りに散っていますが、後できれいに水洗します。
丁寧に水洗して、石鹸っけと汚れを洗い落とします。
こてで乾かした状態です。

揉んだ性で石持の回りが少々擦れています。
これは仕上げの時点で直します。
再び、紋場にレジュランを塗って、今度は焼きこての上に晒しを置いて、レジュランを塗りつけながら染料を落としていきます。
その間、焼きこてで生地が焦げない様に水を晒しにかけながらの作業です。
水洗して乾かした状態。染料は完全に落とし切れてません。あまり無理も出来ませんので、この程度の落とし方で止めます。
前の揉み方が弱かったのか、染料がしっかり入っていたのかで、元の染料の残り方も違ってきます。
三品(抜き剤)をかけて紋洗いして乾燥させた状態。
少し黄味が残ってますが、後で紋を入れると、殆ど分からなくなります。
黄味が目立つようでしたら、少し白をかけて白くします。
片喰の紋を入れましたが、前に記した様に部分的に黄味が残っています。
黄味が残っている部分に白をかけました。(化粧するーと言う表現もある様です)
紋の回りは染料が落ちて薄くなっています。
石持の回りの色の剥げた部分を修正して、紋の回りに色を差して仕上げました。

 二 紋洗い1  紋洗いは、紋付の紋が雨とか汗の水分によって刷込んだ染料が流れて汚れたり、着物自体古くなって紋が黄いばんだり薄汚れてきたのを、元の様に白くきれいな紋に復元する作業です。
最近は紋付の使用頻度が少なくなり、又古くなった着物を箪笥から出して着る、という事があまり無くなった為、この作業の機会は少なくなりました。
又、古い着物で紋を白くしたい時、生地自体が弱っていて「紋洗い」出来ない場合は、「張り紋」にします。
この紋は「丸に橘」という紋ですが、紋の白い部分に刷込んだ染料が入りこみ汚れています。
上絵のしべ(線)は薄くなっていますが、それはこの写真を撮る前に石鹸で軽く洗った為です。(生地自体が古くて薄いので無理して完全に上絵のしべを落とす事は出来ません)

最初に余分な染料と上絵墨・ふちくくりを落とす為に石鹸で洗い、水洗します。
色紋付の抜き紋の作業と同じ様に、抜き剤を混ぜた糊を紋の部分に置いて、蒸気に当てにじみ込んだ染料を抜き、漂白します。
紋の部分は白くなりましたが、紋の回りが少し抜けています。
又元のしべ(線)も薄く残っています。

しべ(線)がきれいに取れていたら、うち(千太屋)の紋型で描くのですが、元のしべが残っている為、そのしべの通りに描かなくてはなりません。
前に書いた様に、元のしべ(線)に沿って上絵して行きます。
橘の紋は、上絵師それぞれの型があり微妙に格好が違いますが、紋の割り方の基本は同じなので、分廻しで弧を描き上絵して行きます。
しべの上絵は完了しましたが、紋の際がじぐじぐしています。
これを「ふちくくり」という墨(にかわの含有が少なく描いた時にてからない)で補正して行きます。

更に、この写真では分かりませんが、刷込んだ黒の部分は水洗した為染料が少し落ちていて薄くなっていますので、上から黒の色をかけて仕上げます。
少し不恰好ですが、元の紋がこういう描き方ですので仕方ありません。

一 抜き紋  抜き紋とは生地の色を薬品を使って紋の型に従って白く抜き、そこに紋を描く
         (上絵)紋の事です。一般的には、色物(色留袖・訪問着・色無地)の生地の
        色を白く抜いて上絵をします。時には黒物(黒留袖・喪服)の黒の色を抜いて上
        絵する時もあります(最近はあまりないけど、裁ち損なって違う所に紋を入れる
        事もあります)
        ここでは、色無地に「上り藤」の紋を抜く作業を紹介します。
色無地の肩印と紋の位置を決めます(指定が無
ければ4尺7寸の断ち切りで積もる)
紋下がりは2寸取ります(人によっては繰越を入
れて2寸5分取る事もある)
そこに、上り藤の素描の紋をプリントする。

その紋に抜く薬品を乗せるわけですが、職人によ
っては、紋をプリントする前に、下図の様に紋型を
置いて抜く薬品を乗せ、その後上絵する方法もあ
ります。又、抜く薬品を細い筆で塗って抜く方法も
あります。
先金を付けた糊筒(筒ガッパと言ってますー硫酸
紙で作る)に糊状の抜き剤を入れ、絞りながら紋
の形に置いていきます。
抜き剤を置き終わりました。紋の外に薬がはみ出
ると、その部分も抜け、補修の手間が掛かるので
なるべくはみ出さない様に気を付けます。
抜き剤を置き終わったら、焼き鏝で薬品がにじまな
い様に少し乾かし、沸騰した釜(フラスコ)の蒸気に
当て蒸しますー長い時間蒸すと薬品が滲むので2
、3秒位で戻して鏝で乾かし、又蒸すーという作業を
きっちり色が抜けるまで繰り返します。
抜き終わったら、抜き剤を落とすために水洗します
抜き終わって乾かした所です。
まだ上絵の線が飛んだり、色の抜けている所があ
ります。
上絵の切れている部分を手直しして、滲んで色の
抜けた所を補色し、水際を直して出来あがりです。
時には抜いても、図右の様に赤味が残る場合が
あります。これは染めた時の染料の種類によって
であり、何回抜いても抜け切れません。
この場合、特殊な薬品を使う事によって図左の様
に、少し赤味があり、白さはいまいちですが、白の
胡粉を使うより良く仕上げる事が出来ます。
(場合によって赤味が全然抜けない時もあります)
最近生地の色焼け防止の為特殊な染料(含金染料
?)を使う場合があり、これは三品で抜いても黄味が
残り白く抜けません。(左)
これも特殊な薬品を使う事によって白く抜く事が出来
ます。(右)
この生地jは実際は紫色の生地なんですが、紫色の
生地も抜いても黄味が濃く残る時があります。(右)
これも上記同様、白く抜く事が出来ます。(左)
中には全然抜けない場合もあります。