船形山へ登るのは、旗坂キャンプ場または大滝野営場(最短)からのコースや山形側からの観音寺コースが一般的だが、今回は横川林道の最高点付近から登る横川コースをとることにした。
仙台市内から車で1時間ほどで定義如来に着く。そこから更に林道を使い30分ほど走ると横川コースの登山口に着く。横川林道はダートコースの上、落石があちこちにあるため、遠方から来る方は事前に通行状況を確かめた方がよいだろう。
横川コースは、ブナ林の中をいきなり急登で始まるが、登山口は既に1000m近くにあり一時間ほど汗をかき登ると、いきなり眼前に山々山が連なる奥羽山脈の景色が飛び込んでくる。10時に出発し約1時間で後白髭山に到着した
前に後白髭山に登ったときにも、深山の雰囲気を持つこの景色を目にし感激した。遠くに蔵王の屏風岳を望み近くには大東岳、面白山、船形山が並ぶ。
前回直ぐ手が届くように感じられた船形山に今日は足を伸ばす。
後白髭山から船形山までは、稜線上の登山道が続く。この山塊では森林限界を超えるのは船形山山頂近くだけであり、稜線上とは言っても低木に挟まれた道であり展望が望めるのは所々しかない。
いくつかの小さな雪だまりを越え、泉ヶ岳・三峰山からの縦走路と合流し蛇ヶ岳を越えて12時40分に船形山山頂に到着した。
山頂付近はミヤマキンバイの群生地となっている
船形山山頂避難小屋は、火事で焼失後昨年建て替えられたばかりである。
ストーブ、バイオトイレ付きの大変綺麗な小屋であり、いつまでも大切に使いたい小屋である。
時間が早かったので、昼食を食べた後、一度升沢小屋の先まで先まで下り瓶石分岐から蛇が岳に登り返すこととした。夏なら木道が敷かれ草原となっているコースである。
この思いつきが失敗の始まりであった。
升沢小屋までのコースは夏は沢となるが、6月だというのに今年はまだ長い雪渓状態であった。幅20〜30mほどの雪渓はザラメ雪となっており、アイゼンを付ける必要はなく、おもしろいように駆け下りることが出来る。
所々にはコースを示す赤い旗が立っており心配はいらなかった。
調子に乗って下っていくもののなかなか升沢小屋が見えてこない。
そのうち段々雪渓幅も狭くなり、下を流れる水の音も大きくなってきた。
足を踏み抜きそうな所は、草や木に捕まりながらヒヤヒヤしながら更に下る。
このあたりよりどうもおかしいな、と思うようになってきた。雪は随分薄くなっている。いけるところまで行ってみようと思っていると、突然小さいものではあったが滝の上に来てしまった。足を踏み抜いてしまえばそのまま10mほど下の滝壺まで落っこちてしまう。
ゾッとするとともに、冷や汗をかきながら急いで引き返すことにした。
15分ほど登り返していると、登山者が1人こちらに下りてくる。自分と同じように道を間違い下りてきたようだ。状況を伝え二人で戻る。
しばらくして上方を見ると登山者が雪渓を横切って登っていくではないか。
どうも自分たちは雪渓横に見える登山道を見落として、そのまま下り続けてしまったようだ。
登山者が横切っていた所まで辿り着くと、確かにしっかりとした登山道を見付けることが出来た。しかし道標を示す赤い旗は、今登ってきた雪渓の先の方に立っている。恐らくは想像だが登山口に立てていた旗が、雪渓とともに下に流され自分たちはそれに導かれてしまったようである。
どうにか一般道に戻ると直ぐに小屋が見えてきた。時間を随分ロスしてしまったので、登り返しのための瓶石分岐に急いだ。
ここはもう雪はなくしっかりとした分岐が確認できる。
蛇が岳を目指し再び登り始める。すると直ぐに再び雪面が現れてきた。
今度は沢状のものではなく、山の斜面一面が雪である。
何人かの足跡が、雪面の斜めに横切るように付いている。
何人かは通っているもののその数はかなり少ないようだ。
斜度は40°ほどある。雪が切れた先の下は土だが、やはり滑り落ちたくはない。斜面の先は見えない。もう少しまともな道に戻ることを期待して登り続ける。
視界が開けてきたものの嫌になった。
斜度こそ緩くなるものの先を見通せない雪面がずっと続いている(イメージとしてはリフトが見えないスキー場のゲレンデ)。
今から来た道を戻り返そうかとも考えたが、日が暮れてしまうであろう。
このまま登り続けて迷ってしまったら、雪の中でビバーグする事になってしまう。
立ちすくみ迷っていると、上方から二人の登山者が下ってきた。
蛇が岳から下ってきたとのこと。上の様子を聞くと蛇が岳分岐までずっと雪は続いているらしい。コースが間違いないことを安心するとともに、今下りてきた人の足跡を辿れば間違いなく分岐まで登っていけるであろうと考え安心した。
途中ガスが出てきて遠望は利かなくなってきたが、足元に気を付けながら登り続けた。気が焦っているため実際はすごい速いペースで歩いていたと思うが、時間が経つのは随分遅く感じられた。瓶石の分岐から40分ほど過ぎ15時20分に蛇が岳分岐に着きやっと安心した。(今思えば午前中自分が歩いていた登山道は稜線上にあり、おおよその方向さえ間違えずに登っていけば間違いなく登山道に着くのであるが、その時は先に雪渓を危ないところまで下り続けてしまった思いもあり、本当に焦っておりました。)
実はこのとき緊張からか喉がカラカラになっていた。
下の沢で補給しておけばよかったものの、その余裕も無くしていたため水は残り二口ほどしか残っていなかった。登山口まではまだ2時間以上かかり、その間には水場はない。何とか我慢すれば持つだろうと思い、帰路を急ぐことにした。
後白髭山までの稜線は悪路ではないものの、木をまたいだり潜ったりするところが多い。急いで歩いているうちに、頭を上げたときものすごい勢いで木に脳天をぶつけてしまった。目から火が出るような感じであったが、しばらくうずくまった後手を当てると、血がベットリと付いてきた。頭皮を伝い顔の方にも流れてくる。
今度は出血多量で意識を失ってしまったらどうしようとの不安が湧いてきた。
持っていた少ない水で傷口を洗い、バンダナを被せて帽子をかぶり傷口を押さえて止血した。
のどの渇きは限界を超えようとしていた。
「ココに止まっていても仕方ない。先を急ごう。」
夢中で歩き後白髭山までたどり着いた。そこから登山口まで駆け下りるようにして下りた。(余計危なかったかもしれないが。)
16時15分に登山道に辿り着いた。
横川林道には、沢水が流れ出しているところがある。
車でそこまで急ぎ着いた後、水を何杯飲んだか分からない。
しかしカラカラになった後では、いくら飲んでも直ぐには充たされなかった。
家に帰ると頭の怪我の血は止まっていた。
しかし苦い想い出を残すことになってしまった。
大事にはいたらなかったものの、これまでの山行の中で一番の失敗山行でありました。
以上
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