午前4時44分
まさに縁起の悪い時間にそいつはぼくの傍にやってきた。
「お前の願いをかなえてやる。3つだけかなえてやるよ」
キーボードに置かれた両手を止めぼくはそいつを見た。
変に驚きもしなかった。確かに時間も時間だったし何かあっても仕方がない。
「なんでもいい、お前の望むままをかなえてやる。さあ言え!!」
「そうだなー友人、血縁、恋人、その他、健康で長生き」
友人に話しかけるようにぼくは軽く願いを言った。
そして、そいつも軽いタッチで頷いた。
「一つ目の願いをかなえた。さああと二つだ!!なにを望む!!」
「うーーーん。じゃあとりあえず、争い事のない世界」
『人間って奴はなんて偽善的なんだ・・・まあいいここからが本番だ・・・』
「その願いもかなえた!!さあ最後の願いを言え!!」
「うーーーーーーーーーーーーーーん」
深夜の自分の部屋でうなっているぼくとそわそわしているあいつが妙には見えないのは何故だ。
「言い忘れたが3つ目の願いをかなえたときお前の大切なものをいただくぞ」
「うーーーん」
わかったのかそれとも悩んでいるのかどっちのもわからない答え方で返事をする。
しばらくそのままだったので、とうとうあいつが痺れを切らした。
「なんでもいいんだぞ?世界を自分のものにする権利をお前にいらないのか?」
「特に興味がない。権利なんて貰っても使い方がわからないさ」
『馬鹿かこいつ?』
「じゃあ、女はどうだ???お前の好きな奴よりどりみどりだぞ!!一生違う女をはべらす事だってできるぞ!!」
「あの子がいるしいらない。それに面倒臭いし、そんな体力だってないよ」
ぼくはちょっと想像して吹き出してしまった。
「じゃあ、金はどうだ?これなら困らないしいくらあっても構わないだろ?」
「金か・・・・・・」
『さあ言え!!最後の願いですべてが決まるお前の願いが自己のもので悪意があるものであるほど
お前の命が奪いやすくなるんだ。さあお前も欲にまみれた人間なんだろ?あんないい事を言っても
最後は自分の事なんだろ?さあ言え!!言って俺に命をささげよ!!』
「そうだな・・・じゃあ将来あの子と楽しく暮らせるお金をくれ。うーんちょっとでいいな。たくさんにあったら
なくなった時絶対へこむから。一生死ぬまで楽しく明るく暮らせるくらいの金をくれ」
「お・・・お前・・・」
そいつはさっきまでの自信に溢れそして僕を蔑む顔を変えていた。
「さあ、3つ目の願いを言ったよ。何を取られるんだ?まさか命か?」
冗談交じりにぼくは言った。その瞬間そいつは大きな黒い羽を出し天井近くまで飛んだ。
「そんな願いで命なんて取れるか!!!馬鹿かお前は!!!まあいい、お前の大切な物はいただいた
もうお前には二度と会わんぞ!!!!」
捨て台詞を残しそいつは消えた。
「なにを取られたんだ?」
別に命を取られたわけじゃない。脈も鼓動も聞こえてる。なんとなくぼくは横にある鏡を見た。
僕が映っている。なにもかわら・・・・・・・・・・・・変わっている!!!!!
「片眉がない!!!!!あいつこれを取っていったのか!!!」
確かに明日でかけるぼくとしては大切なものだ。こんな姿じゃ笑われる問題じゃない。
「なにしてくれんだーーーーーーーーーーー」
天井に向かった声は空しく響き、時計は午前4時45分となった。
「何だあの願いは!!あんなんじゃあぜんぜん腐った魂じゃないし怒られちまう。もっとまともな願いを
しろっていうんだ!!!しゃあねえ、あの野球選手のとこでも行くか若いしいろいろ持ってんだろうぜ・・・」
夜明け前そいつは東へと飛び立っていった。
願いに標準なんてない。それを他人が小さいや大きいなんて決めることは絶対にできない。