TAISENのおもひで

 

 

全ての始まりは、1996年のことでした。

本業は軍事用シミュレータであった Degital Image Design社から、その前年にリリースされたDOS版フライトシミュレータ「EuroFighter2000」通称EF2000について、当時の「パソコン通信」のメッカであったNIFTY-ServeのFPCUGM #MES12 は大いに盛り上がっていました。その盛り上がりは時間の経過と共に更に衰えるどころか更に盛んになり、FPCUGHに≪EF2000特設会議室≫が出来るまでに至りました。

そのころ、世界のPCゲーマーのなかで繁栄の頂点にあったのは、名作3Dアクション「DOOM」でした。勿論、FPCUGH の特設会議場には DOOM の会議室もありました。

そのDOOMの会議室でふと見かけたキーワード、「インターネット」「対戦」。その二つを結びつけていたのが、「Kali」というシェアウェアだったのです。当時は「インターネット」の黎明期。インターネットが一般向けに浸透し始めた頃です。

対して「対戦」はといえば…2台のパソコンを近くに並べ、RS232C(いわゆるCOMポート)によるシリアル接続を行うか、モデムを使って対戦相手の家に直接電話をかけるか、或いは極上の手段として、これまた近い距離にあるPCをLANを介してIPXプロトコル(今でこそLANでもTCP/IPが主流ですが、当時はLANで使われる代表的なプロトコルはIPXでした)による接続を行うしか、手段はありませんでした。これではフライトシムのような日本での普及率の低いジャンルのゲームでは、「対戦」なんて夢のまた夢。DOS版EF2000では上記3つの方法による対戦手段はあらかじめ用意されていましたが、インターネットで使用されているTCP/IPプロトコルを用いて接続する方法は、まだ用意されていませんでした。(後に、Windows版である「Super EuroFighter2000」ではサポートされました。)

ところが、先のDOOMの会議室を見ると、EF2000同様 IPX プロトコルしかサポートしていないDOOMを、「Kali」というソフトを使うことによって、インターネット越しにDOOMの対戦を行うことに成功した、とのこと。もしかしてこれを使えば EF2000も…そんな想いを抱いたのは、私だけではなかったのです。

ある日、私同様 FPCUGH EF2000特設会議室の常連であったJUNX氏から一通のメールを頂きました。そこには「『Kali』とやらを使ってEF2000の対戦を試みてみませんか?」とのお誘いが。

東京にあるJUNX氏の所属していた会社は、大手インターネットプロバイダを有する会社。対して京都に住む私は、まだインターネットプロバイダとの契約を結んでいませんでしたが、幸い大学生であったため研究室に行けばそこはまさに「インターネット発祥の地」でありました。東京←→京都間の主幹線に直接ぶら下がっている環境です。

「インターネットを使って、IPXプロトコルしかサポートしていないEF2000の対戦が可能かどうか?」を試すにあたって、これほどの好条件が揃うとは、まさに奇跡でした。JUNX氏に向け、「是非!」と即答する私。(笑)

氏と何度か連絡を取り合い、日時を定め、遂に決行の夜。あらかじめナップサックにJoyStick(当時使っていたのは Logitech の WingMan Extreame でした)を忍ばせ、夕方から研究室のソファーで居眠りぶっこき、人が皆帰ったのを見計らってむくっと起きあがり、EF2000のインストール。(笑)

研究室で私に与えられてたPCは、Clasic Pentium 120MHz、ビデオカードは ATi Mach64 というスペック。インストールを完了し、JUNX氏に準備完了の合図を電話で連絡。氏とはNIFTYの会議室やメールでのやりとりは何度もありましたが、肉声でお話したのはこれが初めて。。。の筈なんだが初めての気がしない、てのがお互いの最初の印象でした。(笑)

よく分かっていないネットワークの設定を、JUNX氏に懇切丁寧に教えて頂き、小一時間でようやく Kali の setup 完了。DOS の Kali.exe を使い、無事 chat 出来るところまでこぎ着けました。ローマ字でしたが。(笑) pingを測るとなんと10〜30msec。(爆) 当時の私にはこの意味するところがよく分からず、JUNX氏の「うぉ〜すげ〜」という興奮の声にも「ははぁ。相当に凄いらしい」というぐらいのことしか感じれませんでしたが……今にして思えば恐ろしい回線状態ですよね。(笑) 長年対戦やってますが、未だにこれに匹敵する ping で対戦出来たことはありません。(笑) ネット対戦やってる方は分かると思いますが、一桁違いますよね。(^^;

いよいよKali上でEF2000を起動。そして初めての IPX接続……成功! あっさりと接続に成功です。そして…ゲーム開始!!

小手調べに、離陸後互いに距離を取り、向かい合って戦闘開始。……すげぇっ!!! AI相手にすんのとは全然違うっ!!!!なんだこの動きはっ!ぐはっ、弾が痛いっ!!

フライトしながらの chat にはまだ馴れておらず(当然ですが)、肩口に電話を挟んで会話しながらの対戦でした。二人とも、夢中でした。Gunsのみを試したり、AIM-9Xを試したり…全てが新鮮でした。対AI戦と違い、自分と同じく血の通った人間が操縦する機体。その動きから、容易に相手の表情を感じとることが出来たのです。

あっというまに時が流れ、空が白み、雀の鳴き声に我に返りました。初めての EF2000 対戦を経験した我々の感想はただ一つ。「これは面白い!!!!」

このとき、私に出来ることは、その面白さをつぶさに NIFTY の会議室に報告すること、対戦までの手順を事細かに書き綴ることだけでした。

一方、JUNX氏の行動は迅速でした。この後すぐ、Kali の Server 用ライセンスを購入し、社内に走る太い回線に直接ぶらさがったマシンを用意し、しばらくの間限られた数名の参加者向けにテスト的な意味合いの Kali Server を建立しました。 これが今の日本を代表する Kali Server "TAISEN" の前身、"ACE HANGAR" です。

最初のJUNX-HUQ間対戦のような極上のpingは望むべくもありませんが、それでも288モデム接続にも関わらず、各対戦者間400〜600msecのpingが確保出来ました。EF2000 が対戦として快適に成り立ちうるpingは500msec程度であることも、経験から分かりました。

ちなみに "ACE HANGAR" の "ACE" とは、"Air Cruise of EF2000" の頭文字を取ったものです。これも NIFTY の FPCUGH の EF2000 特設会議室でアイディアを出し合い、決まったように記憶しています。

しばらくの間、私達は ACE HANGAR をベースに、NIFTYで知り合ったフライトシム仲間との対戦に明け暮れたり、海外のフライトシム系プレーヤーが多く居る Kali サーバへ「武者修行」に出向いたりしていました。

海外の Kali Server の中では特に "TNP" というサーバに出向き、拙い英語で Wildman, RR, SurfDog, ANGIE といったプレーヤーによく、相手してもらったものです。中でも強かったのは RR氏。当初は、どうやっても勝てないんじゃなかろうか?と思った程です。私や Fuji が EF2000 で彼と対等に戦えるようになるには、半年以上の時間を要しました。

また、香港の英語教師であった、大変にジェントルな Wildman 氏は、私のハンドルネーム "HUQ"の名付け親でもありました。当時私は、本名を音読みした "fukyu"(ふきゅう)をハンドルネームにしていましたが、これが海外で実に評判が悪い。(^^; 行く先々で無視されたり喧嘩腰になられたり。ずっと、「なんでだろうなぁ?」と思っていましたが…この名前では "fu*k you" を思わせるということを指摘してくれたのが Wildman 氏だったのです。(爆) そら〜あかんわな。(^^; 「じゃ "FUQ" は?」「ん〜まだあかん」「じゃ "HUQ" ならどうすか?」「それならいいでしょう。"ハック" ですね」といういきさつでこの名に落ち着いたわけで…(笑) てなわけで、"HUQ" は、日本語読みとしては「ふきゅう」、英語読みとしては「ハック」と読むのが正しいのです。(笑)

ちと話が逸れました。(^^ゞ

そうやって我々が「ネット対戦」を満喫している間に、JUNX 氏は上司にかけあい "ACE HANGAR" を正式にプロバイダのサービスの一環として無償提供するように説得してしまいました。(^O^; 以来、Kali Server "TAISEN" は、日本を代表する Server として5年もの間、続いてきたわけです。

この5年間、TAISEN で本当に沢山の、色々な方々と出会うことが出来ました。開催して頂いたOFF会に出席した折、直にお会い出来た方々もいらっしゃいます。

中でも富士山麓で開かれた山中湖OFFのときは、本当に沢山の方々とお会い出来ました。持ち前の優れた方向音痴力で、名古屋での待ち合わせに失敗して京都に引き返したHUQ。そこにgura氏からの「新幹線で来いやぁ!」との強力な Push。(笑) ありがたいことに最寄りのこだま停車駅まで車で迎えに来て頂き、到着した会場の扉を開けるとそこには…LAN接続されたフライトシム仕様の8台のPCが唸る、異様な光景が。思わず一歩引くHUQ。(爆) でも安心しろ、みんな引いたらしいぞ?(笑) そして皆様一人一人との自己紹介。遂に出会ったTAISENのTOPGUNパイロット「TAISENの妖怪」こと Fuji。その真面目そうな細面の青年の面影のどこにあのような妖力を棲まわせているというのか。訝しげに「……ほほぉぅ?」思わず口を付いて出るHUQの呟き。それを聞いて爆笑する一同と、ガックリとうなだれるFuji。

全てが、まるで昨日のことのように鮮明に脳裏に浮かんできます。(笑)

その後2年余の後、D.I.D.からは新作 ADF、続いて、それに(ちょっち胡散臭い(笑))ダイナミックキャンペーンを内蔵した Total Air War が出ました。私はそれを機に EF2000 の戦列を外れ、Total Air War(D.I.D)−Europian Air War(Microscope)−Flanker2(SSI)と渡り歩くことになりました。一方 Fuji は Mac で有名だった Graphic Simulations Corporation社のF/A-18 を駆るハードコア系フライトシム "Hornet"−"KOREA"へと戦場を移し、最近は Flanker2 もぼちぼちと飛びつつ、今もなお、その妖怪ぶりは健在です。(笑)

TAISENにおけるEF2000の部屋は、私とFujiが引退した後も1年以上続き、pori, sin といった面々がその後のTopGunとして君臨していました。

TAISENの始まりから現在に至るまで、FlightSim関係の部屋でずっと「常連」を続けているのは、私とFujiだけになってしまいました。「TAISEN はネット対戦を楽しむための場。みんなそれぞれが、自分の好きなゲームを楽しむが一番!」という思想の元、「去る者は追わず、来る者拒まず」を基本姿勢としてきたはずです。FlightSim以上に「ハマる」遊びに出会って去って行かれた方々も数多くいらっしゃいます。去っていかれた方々のうち、何人かの方とは、今もメール等の手段でお付き合いさせて頂いてます(^^)。音信不通になってしまった TAISEN 初期メンバーのことも、今でも懐かしく思い出します。みなさんが、今日もどこかで元気に楽しい毎日を送っておられることを、心から祈っております。

一方、人間関係に関して、色んな難しい局面が存在したことも事実です。(^^; 欠点の多い人間同士のつき合いである以上、どうしても衝突は避けがたいことです。中には不幸な断絶に至ったこともあることでしょう。大変残念なことですが、それでもきっといつか、また不意にどこかで出会って、仲良くやっていけるという希望を持ち続けていきたいと思っています。(^^)

商業的には、"TAISEN" は成功とは言えなかったかもしれません。(^^; そもそも「ネット対戦」というもの自体が、今のところ日本では爆発的に流行ている、もしくは流行した、とは言い難い状況です。しかし、これだけ多くの方々と、ネット上でよくある「匿名性を逆手に取った無責任なつき合い」とは異質の、「好き者同士の濃ゆいお付き合い」が出来たのは、ひとえにTAISENの存在と、その構成メンバーの努力の賜だと思います。

振り返ると、私は既に、初めてJUNX氏と電話で話したあのときのJUNX氏の齢を越えていました。あの時の彼の行動は、結果的に「たくさんの人の心に残るかもしれない何か」を形にすることが出来ました。今の自分に、何かそんなことが出来るだろうか? ふと、そう考える今日この頃です。

最後に、TAISEN公式 HomePageの最後の「お知らせ」から、TAISEN ADMIN の最後の言葉を引用させて頂き、このページを締めたいと思います。

 

親愛なる皆様へ

潮が満ちるように静かにスタートしたサービスだから、
また潮が引くように静かに終わりたいと思うよ。
プラットフォームが変わろうとも、帯域速度が10倍速に
なろうとも、最初に交わした「Hi ALL!」の言葉を忘れずに。
いつか、何かの偶然と少しばかりの幸運で
こんな感じの溜まり場を作ることができたら、その時はまた。



For the great thing that I could feel the value and the indescribable
thrill that were brought forth by people's communication through
the Internet, with my appreciation for your service and
expectation for the next generation.

TAISEN ADMIN.

 

ありがとう、TAISEN。

ありがとう、TAISENを訪れたことのある、沢山の人達。(^^)

そして、これからもよろしく。(^^)/

bbtaisen.JPG (105445 バイト)

Photo by Asbel


2001/03/31(土) 0:00 HUQ
mailto: huq@ah.wakwak.com