お花のキモチ


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海風の好きなディゴの話

ここは潮の香りがする。
時折、人が散歩するのを見下ろす意外、フェンスの向こうの喧騒を横目に、
私は静かに生きてきた。

花期になると、わたしは赤い花を付ける。
花は虫を集め、そして人を集める。
潮風は、この時期ちょっぴりわたしにあまい。

カメラを向ける老人、眩しそうに見上げる少年、思わず手を伸ばす少女。

これから、どんどん暑くなる。
潮の香りも強くなる。

花は終わった。
わたしはもっと枝を伸ばし、強くなろう。
冬を越し、次の花を咲かせるために。

あるお家のパキラの話

わたしは、マンションの一室に買われてきたパキラ。

ここへ来た5年前は、ほんの30cmほどの大きさだったのに、今や、葉っぱの大きさが、30cmを越えてる!と私を買ってくれた子は言う。『木の大きさは変わってないのに!』喜んでくれてるのか、困っているのか、時々判らなくなるけれど、わたしは、結構ここの環境が気に入っている。

わたしは、何処の木の何処の枝だったのかしら。時々そんなことも考える。きっともっと幹の太い、立派な木だったんだろう。

・・・まあいいか。今は、やわらかい光があって、時々栄養も貰って、ここは湿度もあるし。この間落ちた、30cmの葉っぱを拾って、あの子は『勿体無い』と言ってくれたし。

レンガ倉庫横の植栽の茂みにいた、オキザリスの話

本当は、ここに来るとは思わなかったのよね。たまたま、土に紛れてココまで来ちゃった。

ココは、季節ごとに、お隣さんが変わっちゃう。今居る、黄色いパンジーさんは、もう4ヶ月になるかしら。暑くなって、この頃、ちょっと元気がないのよね。陽気なくせに、時々真剣に哲学しちゃう面白い彼。

お隣さんが抜かれちゃう時、わたしも抜かれるか、切り取られるか、しちゃう。でもわたしは平気。土の中に、もういくつか球根を作ってあるから、直ぐに芽が出せるわ。

でも。

わたしが新しい芽を出したとき、お隣には誰が居るのかしら。

駅前の花壇に植えられた、エリカの話

なぜか、冬からずっと此処に植えてもらってる。春になっても、夏になっても、他の季節の花と植え替えられないのはどうしてだろう。

此処は賑やかだ。人は、僕にカバンを預けたり、僕に半分座るようにして、携帯電話でおしゃべりしている。僕はちょっと枝が折れたところで、大丈夫だが、可哀想に、僕の下に居たビオラは死んでしまった。

これからの季節は、僕にはちょっとしんどいが、まだまだコンテナの土の容量はたっぷりだ。どんどん根を張って、頑張って乗り切ってみせる。

だが、太陽は容赦なく僕に照りつけ、水分を奪ってゆく。僕を見る人も余り居ない。

あるお家の、へそを曲げた琉球朝顔の話

わたしは種をつけないの。普通の朝顔と違い、冬もちゃんと越せる。

でも、ご主人、わたしを小さなウォールプランターに植えちゃったのね。わたしは、壁を伝って、どんどん広がることが出来るけど、根を広げることは出来ないわ。

しゃくだから、去年はご主人の目に付きにくいところに花をつけてやったの。

枯れ枝のようになっていたわたしが、4月ごろ青葉を付けて声を上げていたご主人。今年はどうするの?窮屈なのには、そろそろウンザリよ。

あるお家に買われたマーガレットの話

ここの奥様は、緑がお好き。だから愛犬と一緒に、お花をよく見に行って買って来られる。好きだから勉強もなさる。

『サマー・メロディ』と、奥様は歌うようにわたしの名を口ずさむ。『夏の太陽に負けず、綺麗に咲いて頂戴ね』

奥様は愛犬と一緒に暮らしておられる。

わたしは、頑張って沢山花を付けようと思う。


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