レビュー:不確定世界の探偵紳士 らすとあっぷでーと:5月4日
不確定世界の探偵紳士[digi ANIME](Win)
ゲーム概要  このHPのタイトルの由来でもあるEVE burst errorのシナリオライター、剣乃ゆきひろ(現在は菅野ひろゆきに改名)の作品。基本的にはテキストアドベンチャー。時間の概念が存在し、同じ場所でも時間によって展開が変わる。依頼人から事件を依頼され、これを解決することで報酬を得ていく。複数の事件を受けて同時に進めていくことが可能。
 主人公、悪行双麻は世界に30人しかいないというクラスAと言われる敏腕のディテクティブ(探偵)である。しかし、驚異的な悪運の持ち主で、何もしなくても勝手に事件に巻き込まれてしまう。
システム  テキストアドベンチャーにしては凝ったシステムを採用しており、発生イベントのフラグ条件に時間の制約が付く。そのため、無駄な行動をしていると時間がどんどん経っていく。時間が経過し、依頼達成期日が過ぎると報酬が減額され、最終的には0となる。捜査にもある程度金がかかるので報酬無しだと手詰まりになる……というわけで、ゲーム自体に緊張感を持たせている。とはいえ、個人的にはフラグの立て方が複雑になっていてかなり辛いものが……(^_^;)
 基本システムはしっかりしており、スキップも速く設定も細か。特にキーボード操作が優秀で、ゲームパッドに割り当てることで長時間でも疲れない良質設計である。セーブ数が10とやや少ないのは残念。代わりに簡単なシナリオ展開をセーブ欄に表示してくれるのでゲームを戻る時には便利。途中からデータをロードしてはじめても、以前のプレイ内容のメッセージ履歴が読み返せるのはありがたい。途中のセーブから始めると捜査情報を忘れているので。
グラフィック  さすがはエクソダスギルティー(以下EG)のスタジオβ(というか田島直でしょう)だけあってクオリティーは抜群。ダメなCGというのが見受けられないし。デッサンの狂いも無いし(笑)立ちキャラCGの主線がちと太い気がするけど、EGもそんな感じだったし、好き好きか。服のデザインが妙に凝っているのもEVE以来の伝統かな?ミントの服とか結構好きです。デザインも不満なし。男キャラのデザインも面白くて、おっさんキャラが対照的な見た目なのが良いかな。米村の片目眼鏡と西船橋の長嶋風のヒゲが良いです(^^ゞ
 ところでデジアニメなのにアニメーションあんまりしなくて良いのかな?今回はシナリオを見せるって方針みたいなんだけど、ブランド自体のコンセプトから外れているような気がする。
シナリオ  ここ最近の菅野作品には『自己犠牲』というテーマが貫かれている。本作品でもそのテーマ自体は変わらない。見せ方も悪く無かった。それでも納得いかない。全ては描写不足が原因。
 このゲームでは複数のシナリオを攻略(ゲーム内では事件を解決)していき、それらが一つの物語として収束していくという性格を持つ。パズルのようにストーリーが展開していく手法は見事で、展開していく力に関しては一級である。プレイヤー側が推理する要素をあまり持たないという点でやや古いタイプのアドベンチャーではあるが、先を読ませない展開の意外さは秀逸である。ただ、展開は面白くても各キャラクターをシナリオで十分に生かしきれていない。なにぶん、依頼人とはいきなりHしちゃって、あとは一人で事件を解いて、という感じで各キャラと主人公が心通わせる部分が余りにも少ない。それではプレイヤー側が展開に納得できない。このことが最初から最後まで続いてしまい、物語の核心部分に至ってもどこか第三者的、傍観者としてストーリーを見てしまい、感情移入して楽しむことができないのである。
 さて、テーマの『自己犠牲』に関しては菅野氏作品のこの世の果てで恋を唄う少女YU−NOやEGに比べてむしろ分かりやすく伝えていると言えそうだ。愛する人を救うために自分を犠牲にする愛……その切なさ、哀しさはストーリー上では上手く展開されている(ただし、前述の描写不足のせいで感じられない)ラストの哀しさ、そして希望の持てる終着。もしもこの作品に続きがあるのであれば。是非見てみたいと思わせるラストではある。
キャラクター  この作品、最大の失敗とも言える部分。もちろん並のゲームと比べれば十分クオリティは高いのだろうが、菅野作品の中ではやや精彩を欠いたと言える。
 女性キャラクターはとにかくHするだけという淡白な印象を持つ。麻衣子、涼子など主人公と関わりを多く持つキャラクターでもとりあえずHしてから……という割と昔のエロゲーっぽい展開で進む。しかも、その後のエピソードも不足気味。とにかくキャラクターへの愛着を持ちにくい。魅力的なキャラクターを作り出すことに定評のある菅野氏としては致命的だろう。「Hな部分にこだわる」という企画コンセプトに引きずられてしまい、本来の魅力を生かしきることができなかったようだ。
 そんな中、一人奮闘したのがミント御剣。双麻と過ごす期間が長く、エピソードも豊富に盛り込まれているのでキャラの魅力が発揮されている。菅野氏にしては珍しい萌え系キャラクター。(まぁ、萌え系の定義は難しいが、可愛さが前面に出るってことかな)CGも多いしやたらと恵まれている。マルチに始まったロボット少女キャラだが、無愛想な性格から段々と変わっていくのは楽しい。To Heartのマルチと芹香のいいとこ取り、みたいなおいしいキャラ。
 さて、もう一人のキーパーソンのキャラがいる。物語の中心とも言えるキャラではあるが、最も描写不足だったと言える。終盤でようやく出てくるのに話の中心だと言われても少々困ってしまう。キャラクター的には少ない場面ながら面白味を見せていただけにとても残念。
 一方、男キャラは元気が良い。悪行双麻は菅野作品の中でもトップクラスのハードボイルドなタイプで、言動が格好良く仕上がっている。その分お馴染みのギャグが今一つ冴えなかったが。サブキャラは充実。デビッド西船橋はギャグ面でかなり頑張っていて、馬鹿すぎる行動で双麻の穴を埋めている。米村はEVEの本部長+源三郎みたいなおっさんで、双麻との飄々とした掛け合いがテンポよく展開されていた。
サウンド  音楽もEGの人らしく、クオリティの高さは折り紙付き。特に動きのある場面での曲がいい感じである。切ないシーンの曲もとても良くて、哀しさ、辛さがより伝わってくる。全体的に落ち着いた曲が多く、ゲームの雰囲気とも相まってEVEっぽい印象を受けた。ただし、最大の失敗はサウンドモードが無いこと。なんでやねん。
 菅野作品らしい効果音の使い方も相変わらずで、西船橋をボコボコ殴るシーンのゲンコツの音とかいかにも菅野作品らしいなぁ〜としみじみ思ったり。
総評  グラフィック、基本的なシステム、サウンドといったところが奮闘しているだけにシナリオの不出来が大変残念な作品となった。不出来というより未完といったほうが正確かもしれない。この作品はもう少しボリュームアップして出すべきだったといえそうだ。日常の描写と言えばTo HeartKanonなどではお馴染み。細かなエピソードの積み重ねがラストでの盛り上がりを左右してくるのである。
 あとね、諸般の事情もあるのだろうが、菅野ひろゆきの作品であるということをちゃんとアピールしてから発売して欲しかった。ほら、遠足よりも遠足の準備の方が楽しいってこと、あるでしょ?(^^ゞ

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