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●オフィシャル・サイト●http://www.cinemart.co.jp ★★★★ (2004/03/30 映画美学校試写室) おもな舞台は、8畳ほどの真四角な台所。その家に派遣された調査員のフォルケは、台所の片隅に設置したプールの監視台のようなヤグラにすわり、住人の動線を記録する仕事を始める。かたや住人のイザック老人は、景品の馬(それはホンモノの馬じゃなく、スウェーデンの民芸品として有名なダーラナ馬の置物だった)が目当てで調査に応募したものの、他人から「見下ろされる生活」が気に食わず、台所中に洗濯物を吊したりしてフォルケにいやがらせ。さらに、2階の寝室の床に穴をあけ、監視する立場のフォルケを、あべこべに監視したりする。 そんなふたりの意地の張り合いが終わりを告げたのは、パイプの葉を切らしたイザックに、フォルケがタバコを投げてやったことがきっかけだった。お礼にコーヒーを淹れてやるイザックと、彼の言葉に従って監視台から降りてテーブルに着くフォルケ。「同じ目線」で会話をはじめたふたりのあいだには、やがて稀有な友情が芽生えていく。 と、ただそれだけのシンプルなドラマの中に埋め込まれているのは、「何が人を幸せにするか?」という問いかけだ。フォルケが行う「動線の調査」は、より機能的、より便利な生活に向けたツールを開発するための情報収集に関わる作業だ。が、その結果、まったく無駄のない完璧な動線のキッチンが誕生したとしても、それで人は幸せになれるわけじゃない。しょせんキッチンなんて、お湯が沸き、物が洗え、料理するスペースがあればすむ代物。人生を豊かにするのは、そんなものの進歩ではなく、一緒にコーヒーを飲み、他愛ない会話を楽しむ相手を得ることである。 そのことを、「スローライフのススメ」などという押しつけがましさをいっさい感じさせず、飄々と描いている点がこの映画の魅力。アキ・カウリスマキ系の映画が好きな人には、強力におすすめする。 |
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●オフィシャル・サイト●http://www.eigafan.com/ ★★★ (2004/01/22 東宝東和試写室) ドラマは、この主人公インマンの旅を描くパートと、彼を待つあいだに牧師の父を亡くし、自立せざるをえなくなった恋人エイダの苦闘を描くパートの2本立てで進行する。インマンのパートは、南北戦争時代の「オデュッセイア」、あるいは同時代の『地獄の黙示録』の面持ちだ。ピーターズバーグの戦場を出発したインマンは、道中、黒人奴隷をはらませた牧師(フィリップ・シーモア・ホフマン)、彼らをホームガードに売り渡す男(ジョバンニ・リビジ)、乳飲み子を抱えた戦争未亡人(ナタリー・ポートマン)、彼女を犯そうとする飢えた北軍兵など、奴隷制度と戦争の傷跡を物語る人物たちと遭遇。いわば「時代の目撃者」の立場を兼ねつつ、生き残りを賭けた500キロの道のりを歩む(なかには、アイリーン・アトキンス扮する山羊飼いのオババのように魔女を思わせるキャラも登場する)。 いっぽう、料理だの野良仕事だの裁縫だの実用的なことが何ひとつできなかったお嬢様育ちのエイダは、流れ者のルビー(ゼルウィガー)から辺境の地でのサバイバル術を学び、たくましい大地の女に変貌を遂げていく。インマンがオデュッセウスなら、こちらは、『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラを、より現代的に、よりインテリにしたようなイメージだ。 そんなふたりが、ひたすら「愛」にプライオリティを置き、苦難を乗り切っていく姿をみつめた作品は、ある意味、ひじょうにシンプルな純愛映画と言える。難解さはまったくないし、ナイーブなインマンも、芯の強さを秘めたエイダも、観客が感情移入しやすいキャラに仕立てられている。まとまりの良さという点では、オスカーの作品賞候補になった『マスター・アンド・コマンダー』や『シービスケット』よりも、こっちのほうが得点は高い。 が、逆に、そのソツのなさがやや物足りなく感じられるのも事実。この映画を最初にNYで観たとき、私がいちばんひっかかったのは、インマンがあまりにも都合よく生き延びすぎる点だった。映画の冒頭、南軍の陣地が北軍の爆破攻撃にさらされる場面で、瓦礫の下からはい出たインマンは、その後、ゲリラ任務に駆り出されたときもかろうじて命拾い。さらに、故郷を目指す旅に出てからも、鎖でつながれた捕虜のなかでただひとり生き残るといった具合に、悪運(!?)がつきまくる。この点に関しては、同じように命拾いしまくる『戦場のピアニスト』の主人公と同様、インマンが「神に選ばれた時代の証人」の役割を背負っているという解釈が成り立つだろう。 が、私の希望的な解釈(笑)では、現実のインマンは最初の戦闘シーンで死んでおり、その後の物語では、彼の魂が故郷に向かって旅を続けるというふうに、この映画を捉えてみたくなった。つまり、ロマンチックなゴースト・ストーリーという感じ。そう考えると、ラストのオチ(ネタばれになるので書かないよ)が「奇跡」の輝きをおび、映画全体がグンと味わい深いものになるような気がするのだけど、どうだろ? ま、この解釈に関しては、とある先輩評論家に「あんた、それは無理があるわよ」と一笑に付されてしまったのだけどね。なにはともあれ、「同じ戦うなら戦場じゃなく、自分のフィールドで愛のために戦えよ、お前」というテーマをはらんだこの映画は、志の高さが買いだ。 |
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●オフィシャル・サイト●http://www.gaga.ne.jp/pearl/ ★★★☆ (2003/11/28 ギャガ試写室) モチーフとなるフェルメールの絵画は、「真珠の耳飾りの少女」とも「青いターバンの少女」とも呼ばれているそうだが、劇中では、この「耳飾り(ピアス)」と「ターバン」が、どちらも官能の小道具として効果的に使われている。 タイル職人の父が失明して働けなくなったため、フェルメールの家に奉公に出されたグリート。アトリエの掃除中、窓を拭くと光の色が変わることに気づいた彼女の芸術的な感性の高さに着目したフェルメールは、次第にグリートに助手としての仕事を任せるようになる。フェルメール自身は、気位の高い妻とのあいだにボコボコと子供をもうけ、さらに家計を仕切る妻の母親も同居するマスオさん状態で暮らしているのだが、そんな彼にとって、アトリエは「俗」な日常と切り離された神聖な世界であり、グリートはその神聖な領域に立ち入ることを許した唯一の人間だった。 芸術を本能的に理解しあえる者として、同志的&共犯者的な絆で結ばれていくフェルメールとグリート。それが愛という感情に高められていくことをふたりは強く意識するが、どちらも思いは秘めたまま。決して、主人と使用人の境界線を越えることはない。 やがてフェルメールは、パトロンの挑発にのせられる形でグリートをモデルにした肖像画を描くことになる。最初にフェルメールがグリートにリクエストしたのは、髪を包んでいるキャップをはずすこと。髪を見せるのは裸を見せるも同然という思いから、当然グリートは拒否するが、フェルメールの執拗な要求に、彼女はキャップからターバンに「着替える」ことに同意する。その着替えの現場を垣間見てしまったフェルメールと、見られたことに気づいたグリートが、電流に打たれたように立ちすくむ刹那にほとばしるエロチックな情感。「髪を見る、見られる」という行為が、冒頭のタマネギの描写と呼応して、フォアプレイのような意味を帯びて鮮烈に印象づけられる。 この「ターバンの儀式」に続いて行われるのは、「ピアスの儀式」だ。フェルメールが「着けろ」と要求した真珠のピアスが、彼の妻のものだったこともあり、「ダンナ、それだけはカンベンしてくだせえ」と頑なに拒否するグリート。だが、描きかけの自分の肖像画が、内面までもを捉えた素晴らしいものだったことから、彼女は耳飾りを着けることに同意する。そのエピソードに、グリートのアーティスト魂を描きとってみせるドラマは、フェルメールが彼女の耳にピアス用の穴をあける場面で官能のクライマックスを迎える。芸術家の手に耳を貫かれ、一筋の涙を流すグリート。現実的な性行為よりもなまめかしく、鮮烈な処女喪失の瞬間。彼女の瞳には、歓びと悲しみがきらめき、それを敏感に察したフェルメールは、瞳の中に宿る感情を絵の中に封じ込めるべく「唇をなめろ」とグリートに命じる。 実は、この一件がフェルメールの家族の修羅場を招く以降のドラマは、ややソープオペラ的なものに落とし込まれていくのだけど、それでも、フェルメール家を去るグリートの姿を俯瞰で捉えるといったダイナミックな構図を配した演出は、最後までアートの領域から逸脱しない。見事だ。 特筆すべきは、フェルメールの絵画に宿る微妙な光と影の色合いを、そのままフィルムに移し替えた映像の美しさ。実は、ワケあってこの作品をビデオでも鑑賞したのだけど、ビデオでは黒の奥行きが丸つぶれで、映画全体に対する印象も大きく違ってしまった。なので、これはぜったいに映画館での鑑賞をおすすめする。 グリート役は、『ロスト・イン・トランスレーション』でも話題のスカーレット・ヨハンソン。彼女のデッドパン(無表情)な個性は、ターバンで覆われた髪と同様、感情を包み隠したこの役柄に、まさにドンピシャリ。ひとりの芸術家の手によって開花の瞬間を迎え、そのせいで現実の不幸を味わうかわりに、絵画の中にその存在をとどめる幸運を手にした少女の数奇な生き様に、グッとこちらの思いをひきつけていく。 |
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