構造学習法とは
構造学習法とは、工学博士であり、元NEC研究開発グループ主席研究員の佐藤隆博先生が提唱される教育理論です。先生は、「S-P表理論」という学習評価法の創案とその実用化に対して、1983年度科学技術庁長官賞(研究業績賞)を受賞され、同理論は現在20数カ国で利用されています。以下に、佐藤隆弘先生の著書を一部掲載いたしますので、ご参照ください。
教育情報工学博士
元NEC研究開発グループ主席研究員
佐藤隆博先生の著書による
1.認知心理学より
(12)「与える教育」からの脱却
工業化社会から情報化社会へと時代が変わっていくなかで、画一主義的教育からの脱却、論理力・表現力の要請、暗記型教育の打破とスローガンを掲げているだけでは、教育現場は混乱を起こすばかりである。では具体的にどうするかということの提案が必要である。
私は,構造学習を提案するにあたって、「学び方を学ばせる」(Learning How to Learn)ということを目標にすべきであると主張している。本章で述べた認知心理学を踏まえた指導方法はその具体的な提案である。そして、問題は「与える教育」からの脱却と考えられる。「与える」のではなく、生徒自らに情報・知識を「組織させる」教育が大切である。
2.構造学習法
(1)構造学習
ここでは「認知心理と構造学習」の内容にかかわる「構造学習法」について述べる。
私がよく言う「短絡的正解追求型」の教育、つまり、なぜそうなるかということよりも素早く答えを出すことが勉強がわかることだと思い込み、ただ正解だけを求めるという教育のあり方が問題だということは、教育関係者ばかりではなく、社会一般にも問題意識としてもたれるようになった。
以前、イギリスの『The Economist』誌1990年4月21日号で「Why can’t little Taro think?」という日本の教育の特集が組まれた。日本の子供たちが解法の暗記とそのあてはめのしかたを身につけることに熱心で、教師は正解を効率よくたどらせる教育を行っていること、その原因として大学入試に「膨大な量の事柄に関する暗記力」をためす○×式問題の方法を取り続けていること、そして、表現力や分析力などの思考力を問う試験間題がほとんどないことを指摘している。そして、その結果として高校以下の教育課程では、生徒たちはあまり意味のない細かな知識をつめ込むような勉強をしているという記事であった。つまり「思考指導の欠如」の指摘である。
こういった指導を積み重ねることは、思考の短絡や思考の省略を行わせることにつながり、子供の思考力の低下に結びつくことになりかねないという危惧は、日本においてもいろいろな形で取り上げられている。
では,具体的にどのようにすれば「短絡的正解追求型」ではない指導ができるかという方法論となると、具体的なものがほとんとないのが現状である。これから述べる「構造学習法」というのは、そういった「考える力をつける」指導の具体的方法の一つだと考えられる。
(2)構造学習法の実際
○学習構造チャートを活用させる
◆学習構造チャート
教科内容の構造(concept map)を分析したのち、教材要素を抜き出してそれを体系的・構造的にチャートを用いて表示したものが教材の構造チャート(conceptual chart)です。
この教材の構造チャートの表現は、生徒の学習の場面において、以前に学習したことを新しく学習することに結びつける作用を助けたり、学習のまとめの場面において生徒が学習内容を体系的・構造的に理解したり、あるいは学習内容の間の関連性について、自ら深く考える場を作ることに役立ちます。
◆まとめとして学習構造チャートを与える
一つ一つの学習要素について学習した後、節目ごとにそれらの学習要素の関連を体系的に描いた学習構造チャートを与えることは、生徒に学習のまとめをさせるのに有効です。
また、学習のまとめ段階において、完成した学習構造チャートを与えるのではなく、学習要素を体系的に配置して、まだ要素間の関連を線で結んでいない状態のプリントを与えて、教師が説明を加えながら要素間の関係を示す線を生徒に結ばせる方法も効果的です。節目ごとに新しく学習した要素を加えて更新させていくのもよいと思われます。