おがた愛

残念ながら私は彼女の現役当時をまったく知らないのです。当時小学生でしたので
さすがにこんなコアな人までチェックしてはいなかったのですが、それにしても残念。
本名・廻本治子、1952年4月16日岩国市生まれ。20歳の時スター誕生第6回決戦大会で合格してデビュー、
ただ以前からキャンプ回りでジャズとか歌われてたそうで、歌謡曲を歌いたかったかどうかは微妙なところ。
それでもこれだけの楽曲を残された彼女にはもう少し正当な評価を与えられてもよいのでは?
1977年に結婚され、歌手は引退されたそうですが、もしこれをご覧になられたら、
今更おがたさんのファンになった人間がいる事を知って頂き、永遠の歌手としての誇りを持ち続けて欲しいと思います。

別れのブラック・コーヒー
   うさみかつみ/鈴木邦彦/竜崎孝路
C/W ひとつ残らずあなたに
   うさみかつみ/鈴木邦彦/竜崎孝路
     コロムビア LL-10223 1973.08.

デビュー曲は解りやすいマイナー歌謡、朱里エイコとか欧陽菲菲とかあの辺りです。まぁ当時の曲としては普通かもしれませんが今聴くと結構ハマる感じ。しかも愛さんの歌唱が素晴らしいというか、サビで突然狂ったかのように喘ぎ叫び始め、A'メロに戻っても戻らない感じがたまんない快感です。まず声質が素晴らしくて、割れるようなダミ声をふりしぼるように出すシャウト歌唱は歌謡曲の枠を超えたソウルを感じさせますね。B面なんかイントロからコテコテのジャズソウル、デビュー曲ながらプロの余裕を感じさせるミディアムナンバーで、ラストの遠吠えもソウルフル極まりない見事な作品です。B面の方が彼女の本来の持ち味には合致しているのですが、さすがにA面には出来ないでしょう。そういう意味ではAB面の振り分けも見事なデビュー曲といえるかも。
恋は魔もの
   なかにし礼/鈴木邦彦/鈴木邦彦
C/W こわれた愛の部屋
   なかにし礼/鈴木邦彦/鈴木邦彦
     コロムビア P-324 1974.01.


デビュー曲は売れなかったと思いますが、よりパワーアップしたセカンドが登場。曲前半は「笑って許して」なんだけど、サビからリズムが変わって割れるようなシャウトを披露、さらに♪あぁ〜っぁああっ、と饐えたお色気も織り込みつつ元のリズムでシャウト仕上げという凝りに凝りまくった楽曲です。これ、売れないでしょう…こんな難しい曲売れないよやっぱり。でも聴く分には感動を何度もリピートさせ、聴く度にその宝味を堪能できるというまさに“魔もの”のような曲。Aメロからサビにいくところなんか何度聴いても期待でウズウズしちゃうもんね。B面はタイトルこそメロウな感じですが、聴いてビックリ、攻撃的に弱い女を演じるアップテンポのロック歌謡。AメロからBメロへのブリッジでのギターとの掛け合いなんて失神しそうなくらいのカッコ良さです。ラストも秀逸。こういうのを誰かリメイクすればいいのに。
はじめての夏
   林春生/鈴木邦彦/鈴木邦彦
C/W 雨の街
   林春生/鈴木邦彦/鈴木邦彦
     コロムビア P-347 1974.06.


同一人物?と思うでしょ。そうです、前の2作での完成度をブチ壊すかのようなスローバラードです。つってもさすがに“はじめて”ってのは喪失関係ではないですけど(もしそうだったら逆にスゴいイメチェンですが)。彼女はもともと基本の歌唱力は身につけてるのでとりあえず何を歌ってもサマにはなるんですが、さすがにこれはイタいというか、ハスキーヴォイスを隠し切れずに美しいメロディーラインを歌うのにはさすがに無理があるというか…。B面の「雨がやんだら」風の歌謡曲の方が絶対いい!抑え気味で歌い始めて、サビで8分目くらいまで盛り上がるウナリの加減がちょうどいい塩梅なんだけどなぁ、まぁどちらにしても「恋は魔もの」には遠く及ばないんだけど。ここまで全曲鈴木邦彦氏の作曲なんですが、どういう意図でこんな曲を提供したんでしょうか?やっぱ売れなかったから中庸路線に転じたんでしょうか、惜しいです。しかし前作でジーンズ、次が白のドレスてのはさすがにやり過ぎよ。
女は女
   吉田旺/三木たかし/三木たかし
C/W 夢の終り
   松本隆/三木たかし/三木たかし
     SNK 001-PS 87.06.21.


ジャケットを見た時思わず小声で「ぎゃ」と云ってしまったこの写真。白ドレスのお姫様から化粧塗りたくりのオバチャン(しかもわざと蒼白く写してオバケ感UP)への転落具合に、これが歌謡界の常と分かっていてもクラクラします。コロムビアってやっぱスゴい…。でもこのジャケットに怯んでちゃダメよ、曲はさらに驚愕する程の名曲!これこそ歌謡ソウル!男声コーラスをバックに損なオンナの悲哀と未練を吶々と語る愛さんのダミ声が五臓六腑に沁みわたりますねぇ。ホントは同じ歌謡ソウルなら「恋の十字路」みたいなヤツを歌ってほしいところだけど、こういうライトな感じもまたいいじゃないの。私が彼女を評価するのはこの曲に依るところが大きいです。B面は前曲B面と同路線の歌謡曲で、松本隆の詩はいまひとつ(“みそ汁”は必要ないと思います)なんですが一応及第点ではあります。つかA面だけで充分幸せです。
愛人どまり
   橋本淳/穂口雄右/穂口雄右
C/W ある体験
   橋本淳/穂口雄右/穂口雄右
     コロムビア P-431 1975.10.01.


ラストシングル。一度ご紹介しているので重複しちゃうんですが、ホステスの愛人稼業の一喜一憂を臭わせながら、合法タカリを強要する歌ですね。橋本淳氏の素晴らしさは語り尽くされているとは思いますが、ここでも一切手を抜いてません。お得意の観念的な表現を含みつつもっとストレートに、ディディールにも拘った作品(何しろ「木ぼりの人形」で「これ以上女の部屋にこないで」ですから)となってます。B面の方がどちらかというと橋本淳らしい詩というか、私が分析するのもおこがましいんですが、何一つ特徴的なものは表示されないんだけど全体でイメージを魅せてくれるような素晴らしい作品。タイトルの「ある体験」とはどんな体験なのか?と考えるだけでもおぞましい妄想に浸らせてくれます。とうとう最初の路線に戻る事無く歌手活動を終えた愛さんですが、どの曲も未だに色褪せない素敵な楽曲ばかり。全く売れてなかったのに5枚もシングルリリースさせてくれたコロムビアとともに、諦めずに歌い続けてくれた愛さんにも惜しみない拍手を贈りたいですね。




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