神の子の献身
2023年12月
今号ではクリスマスにお薦めの絵本を紹介します。『ミシュカ』 (文 マリー・コルモン 絵 フョードル・ロジャンコフスキー 訳 みつじまちこ 新教出版社)です。ぬいぐるみのこぐま、ミシュカのクリスマスのお話です。クリスマス・こぐまと聞くと、可愛いメルヘンかと思われるでしょうが、この主人公はとても不機嫌な顔で登場します。
こぐまのミシュカはゆきのなかを ザックザックと あるいていました。あけがた、まどが ほんのりあかるくなりはじめたころ、いえでをしたのです。ちいさな ごしゅじん、エリザベットのいえからでてきたのです。エリザベットは いばりやで、おこりんぼうのおんなのこでした。ミシュカは「もう いやだ。こどもべやの ぬいぐるみなんて、やってられないよ!」
クリスマスの朝、ミシュカはそう決心して雪の森の中へと踏み込んでいくのです。自由になったミシュカは森の中で色々と楽しく過ごします。けれどもクリスマスは「おともだちを たすけたり、 ふしあわせなひとを なぐさめたり、ふこうへいを ただしたり…」なにか「じぶんにできるいいこと」をする日だと知らされて、「ぼくも なにか、いいことをしなくちゃ」と考えるようになります。
そんな時、クリスマスプレゼントをたくさん積んだそりを引くトナカイさんと出会ったミシュカは、村から村へ、家から家へとクリスマスプレゼントを配るお手伝いをします。それはとても楽しかのですが、ミシュカはやはり考えます。
「ぼくにできる いいことって、これっきり?」
そうしている間に、とうとう いちばんおしまいの家にきました。森のはずれの貧しい家です。ミシュカは大きな袋をさがしましたが、プレゼントは何も残っていません。この小さな家には病気の男の子がいました。クリスマスプレゼントを楽しみに待っているのです。明日の朝、だんろの前のきぐつがからっぽだったら、どんなにがっかりするでしょう。
そしてお話の最後はこうです。
「トナカイは、すんだ目で、じっと ミシュカを みつめています。
ミシュカは ふうっと ためいきをつくと、さんぽをたのしんだゆきのはらを わすれないように みわたしました。ひとりでほうぼうあるくのは、ほんとうにすてきでした。でも、いま、ミシュカは きめたのです。クリスマスに、じぶんのできる、いちばんいいことをしようと……
ミシュカは かたを すくめると、ちからづよく、いっち、にっ、いっち、にっと、てあしをふりながらいえの なかに はいっていきました。クリスマスに、じぶんのできる、いちばん いいことを するために。そしてプレゼントを いれる きぐつのなかに すわって、よがあけるのを まちました。」
クリスマスの日にミシュカがした決心、いかがでしたか?いばりやで、おこりんぼうのエリザベットの部屋から飛び出して、好き勝手に歩き回れた時間はとても楽しかったはずです。でも、今の自分の使命=命の使い方は、ひとりの病気の男の子のために、ふたたびぬいぐるみになることだと決心して、誇り高く歩いていくのです。ここにミシュカのクリスマスの「心」があります。自分をささげ、相手のために尽くすのが献身です。これがクリスマスの意味であり、メッセージです。なぜなら、クリスマスは神さまのひとり子、イエスさまが、私たちのところに来てくださったという「神の子の献身」の出来事だからです。
天使は言った。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」 (ルカ2:10‐12)
文:真壁 巌 牧師