日時：平成22年6月27日(日) 9：00〜
【総合司会】白根クリニック 林恵美子
【座長】日高リハビリテーション病院 林高志 両毛クリニック 和田好正
日高病院 安藤義孝 理事長
〇田村弘明 両毛クリニック
【目的】維持透析患者のVA（バスキュラーアクセス）としては、自己血管または一部人工血管によるAVF（arteriovenous fistula）が一般的である。しかし、高齢者、長期透析例、血管荒廃を来たしやすい原疾患を有する例では、AVF作成が困難な場合がある。また、AVFによる不自然な血流状態は、心臓血管系に大きな影響を及ぼしている。今回、我々は、BH穿刺により、AVFによらないシャントレス透析を行っているので報告する。
【対象】シャントトラブルを繰り返した維持透析患者10例（男性6例、女性4例）。年齢は57歳から87歳、透析歴は11ヶ月から30年2ヶ月。原疾患は慢性糸球体腎炎4例、糖尿病性腎症3例、腎硬化症3例。
【方法】閉塞した内シャント吻合部、手関節部の橈骨動脈および表在化上腕動脈を最初数回は透析クランプ針で穿刺し、その後はBH穿刺針で穿刺する。
【結果】閉塞した内シャント吻合部のBH穿刺例は5例で17回から144回。そのうちの1例は14年間、最初はクランプ針で吻合部を穿刺し、その後BH穿刺にして87回になる。もう1例は、肘部に近い閉塞した橈骨動脈吻合部を7年間、最初はクランプ針で穿刺、その後BH穿刺針にして78回になる。手関節部橈骨動脈のBH穿刺は3例で49回から64回。表在化した上腕動脈のBH穿刺は2例でそれぞれ23回、19回。
【考察】現在、最も多用されているVAは、動静脈短絡を作成するものであり、当院でも全体の95.5％が内シャント、人工血管である。しかし、長期透析例や心機能の低下した患者などで問題になる動静脈短絡の影響はシャントレス透析では解消できる。従来の動脈および内シャント吻合部の繰り返し穿刺は血管瘤の形成が問題であったが、BH針は針先がボールペン状となっていて、同じルートを通るためにこの問題を解決した穿刺針である。現在までのところ、瘤の形成はみられず、穿刺時および透析後の消毒および家庭での清潔指導を徹底することで感染の問題も起こっていない。
【結語】長期シャントレス透析を行う上で、BH穿刺は有効な手段になりうる。
〇松本晃 富岡クリニック
当院では、患者の高齢化がすすみ、平均年齢も上昇してきています。高齢化がすすんでくると、患者の理解力・記銘力も低下し、服薬コンプライアンスの低下や指導に影響してきます。認知症患者のケアにおいては、早期発見・早期介入が重要であり、適切な対応・診断やサービス利用が出来れば、その後の患者指導のあり方や家族との連携の仕方も変わってくると思います。
そこで、2005年に当院で行った認知症調査と同じ「群馬県もの忘れ健診」の形式で調査を行い当院での状況を調査し比較・検討したのでここに報告します。
〇高橋一貴 平成日高クリニック
【目的】糖尿病透析患者の増加に伴い、閉塞性動脈硬化症の発症が問題となっている。今回ブラジキニン(BK)による血管拡張作用に注目し、AN69膜によるBK、NOXそしてABI・下肢皮膚灌流圧(SPP)の推移について検討した。
【対象および方法】ABI測定にて下肢血流障害(ABI＜0.9、ABI＞1.2)が認められた維持透析患者25名に対しAN69膜使用同意が得られた患者(ホスパル群)10名と対照群13名に分けABI ・SPP測定し、BK・NOX推移はA側回路より3ポイントで測定した。
【結果および考察】ホスパル使用群の中でHD開始5分後にBK上昇を示した5名と2時間目に上昇した5名に分類された。早期BK上昇群は年齢・透析歴が有意に若くPWVが有意に低値であった。さらにNOX値は5分・2時間値において早期BK上昇群で有意に高値であった。各群のBK最高値は対象群より有意に高値であった。
【結語】AN69膜によるブラジキニン反応性は血管拡張及び動脈硬化指標により異なる可能性を示唆された。
〇杉木哲也 白根クリニック
シナカルセト塩酸塩、(レグパラ)は、副甲状腺表面のカルシウム受容体に、直接作用することで、ＰＴＨの分泌を抑制する薬剤です。レグパラの特徴としては、ＰＴＨの抑制のみならず、血清カルシウム、リンを低下させる作用を有しており、透析患者において問題となっている、異所性石灰化による心、血管系障害の発症・進展の阻止に寄与すると考えられている。そこで、今回当院にてレグパラを長期間使用した患者を経験し、臨床においてのレグパラの効果について、若干の考察が得られたので、ここに報告する。
〇山田亜希菜、飯塚春美、久永悦子、小林充 日高リハビリテーション病院
【はじめに】鳥居薬品株式会社より発売したナルフラフィン塩酸塩（以下レミッチカプセル）は選択的κ受容体作動性の経口掻痒改善剤で、透析患者における既存治療抵抗性のかゆみに対して改善が期待できる薬剤である。
当院においても、かゆみの訴えが強く、従来の抗ヒスタミン剤等では改善が見られなかった透析患者に対して、レミッチカプセルを投与した。投与開始から6ヶ月間が経過したのでその使用経験を報告する。
【対象】既存治療抵抗性のかゆみがある当院透析患者で、レミッチカプセルを服用することに同意を得られた9名。
【方法】
�．譽潺奪船�プセルを服用前にかゆみの程度をVASを用いて評価し、同時に皮膚の状態を観察する。
�▲譽潺奪船�プセルを1日1回2.5μg服用する。
��レミッチカプセルを服用4週後、8週後、12週後、16週後、20週後、24週後に痒みの程度をVASを用いて評価し、同時に皮膚の状態を観察する。
【結果】6ヶ月間服用を継続している7名は痒みの著明な改善を認め、皮膚の落屑や掻破が減少した。副作用による服用中止が1名、死亡1名であった。
【考察】レミッチカプセルは透析患者のかゆみに対して有効であると思われた。
○林高志
前回検討テーマである多剤投与対策について、5施設の現状について報告をします。
各施設担当者よりの報告
1）平成日高クリニック（島田美樹子）
2）白根クリニック（小野隆）
3）富岡クリニック（松井孝介）
4）日高リハビリテーション病院（新井恵）
5）両毛クリニック（中村紀子）
協和発酵キリン�� 薬理研究所 主任研究員、徳島大学非常勤講師 永野伸郎先生
カルシウム（Ca）を豊富に含む海水中に棲息する魚類には、副甲状腺ホルモン（PTH）分泌器官である副甲状腺は存在しない。一方、陸に棲む脊椎動物は、移動しながらCaを摂取する必要があるため、生体の支持・支柱としての骨組織は、同時にCaの貯蔵庫としての機能も担う。また、骨に蓄えたCaを取り出すために、骨吸収作用を有するPTHを分泌する副甲状腺の存在が必須となる。細胞外Ca濃度の感知機構であるCa受容体に作用するシナカルセト塩酸塩の投与により、血中PTH値の低下とともに血中Ca値が低下する事実は、PTHが恒常的に骨からCaを動員させることで血中Ca値が維持されていることを実感させる。
腎機能が低下した場合、尿中リン（P）排泄を促進させるためにPTH分泌が上昇する。Pが直接的に副甲状腺機能を亢進させる機序も明らかとされている。保存期慢性腎不全患者へのシナカルセトの投与は、PTHの尿中P排泄促進作用を解除するため、血中P値を上昇させるとともに、著明な低Ca血症をもたらす。すなわち、腎機能低下時のPTHの上昇は、血中CaおよびP値を正常域に維持する方向に働いていると理解できる。一方、PTHの持続的高値は、骨代謝回転を亢進させ、骨の劣化や血管石灰化をはじめとした様々な合併症の原因となる。透析患者におけるP吸着剤あるいはシナカルセトの使用により、副甲状腺機能の抑制ならびに合併症の発症・進展抑制が可能である。
腎機能低下時には、新規P利尿因子である線維芽細胞増殖因子23（FGF23）の骨からの分泌も上昇し、PTHと協調的に作用して尿中P排泄を亢進させることで、腎不全末期まで血中P値が正常域で維持されている。また、FGF23の上昇は、1,25(OH)2D産生を低下させることで、PTH分泌に対し促進的に作用していると考えられる。本考察は、FGF23の作用を中和する抗体の腎不全ラットへの投与実験で裏付けられる。
以上のように、保存期慢性腎不全時のPTHおよびFGF23の上昇は、生体防御機構の一環として理解しうる。一方、作られた病態とも言える透析患者におけるPTHの分泌亢進は治療対象となり、その選択肢も確立されている。また、近年、FGF23の高値も、透析患者の死亡、心肥大、血管石灰化などに関連することが明らかにされつつあり、その病態生理学的意義の解明が期待される。
両毛クリニック 池内広邦 院長