日時：平成24年12月16日(日) 9：00〜
【総合司会】平成日高クリニック 飯塚昌代（いいづかまさよ）
【一般演題座長】両毛クリニック 和田好正（わだよしまさ） 白根クリニック 池田恵子（いけだけいこ）
日高病院 安藤義孝 理事長
〇田村弘明（たむらひろあき） 両毛クリニック
【はじめに】透析患者のカルシウムCa、リンPの管理は骨病変だけではなく、心血管系への石灰化に大きく関与し、透析患者のQOLと生命予後にも影響を与えている。長期に透析療法を行なっていく上で、透析液によるCaバランスに注意する必要がある。平成23年3月からCa濃度2.75mEq/Lの透析液（キンダリー(R)透析剤4E）が上市され、当院でも使用開始したのでその結果を報告する。
【対象および方法】本年4月から10月まで当院で定期的に血液透析を受けている患者。�儀押�Ca濃度3.0mEq/Lの透析液から2.75mEq/L透析液に変更した197例(男性116例、女性81例、平均年齢66±9.5歳、平均透析歴8.6±6.2年)。�況押Д咼織潺�D製剤パルス療法施行中で2.5mEq/L透析液から2.75mEq/L透析液に変更した11例(男性4例、女性7例、平均年齢66±8.9歳、平均透析歴18.6±5.7年)。�儀欧�よび�況欧箸發�6月からすべて2.75mEq/L透析液に変更し、�況欧�5例は途中から2.5mEq/L透析液に戻した。
【結果】�儀欧任蓮�透析前Ca値は透析液変更前後で平均8.6mg/dLでほとんど変化は認められなかった。透析後値は平均9.8mg/dLから平均9.4mg/dLと有意に下降が認められた。�況�5例は、透析前値平均9.2mg/dLが9.7mg/dLに、後値平均8.9mg/dLが9.6mg/dLに、ともに変更後に高くなる傾向が認められ、2ヶ月後には元の2.5mEq/L透析液に戻さざるをえなかった｡残りの6例も透析前値平均8.8mg/dLが8.9mg/dLに、後値平均8.7mg/dLが9.3mg/dLに、ともに変更後に高い傾向を示している。
【考案】ビタミンD製剤がない初期の血液透析では、透析液からCaを補給する目的で比較的Ca濃度の高い液を使用したが､多種のP吸着剤、活性型ビタミンD製剤の登場により個々の病態に対する治療の選択肢が広がったため、現在ではCaバランスが0に近い透析液の使用が求められている｡今回の検討で�儀欧任亙儿港阿茲蠅眩亜�後値の差が縮まり、かつJSDTガイドラインに求める範囲におさまっていた。しかし､ビタミンDパルス療法施行中の�況欧任蓮∧儿晃紊貌�析前、後値ともに上昇傾向があり、2.5mEq/L透析液の使用、ビタミンD剤の調整等が求められる。
【結語】Ca濃度2.75mEq/Lの透析液（キンダリー(R)透析剤4E）は、ビタミンDパルス療法施行例以外の一般透析患者ではCaバランスからみて有用であると考えられる。
〇青木亜衣（あおきあい） 白根クリニック
透析患者の高リン血症に対しては、炭酸カルシウム、セベラマー塩酸塩、炭酸ランタンといった３種類のリン吸着薬が用いられていたが、血清Ｃａ値の上昇、腹部膨満感などの消化器症状のリスク、体内への金属の吸収・蓄積などが懸念される意見もある。今回新たな選択肢として発売されたリン酸結合性ポリマーであるビキサロマー（キックリン）は、低膨潤タイプのリン酸結合ポリマーであり、リン吸着薬の副作用として問題となる便秘、腹部膨満感などの消化器症状の改善に期待されている。
今回、当院においてセベラマー塩酸塩を服用中の患者を対象にキックリンへ変更し、リン吸着効果、便秘、腹部膨満感などの腹部症状に関して検討したので、ここに報告する。
〇高橋紗綾佳（たかはしさやか） 日高リハビリテーション病院
透析患者の高リン血症治療剤として、カルシウムを含まないリン吸着剤、炭酸ランタン水和物が用いられるようになった。炭酸ランタンは腸管内において食物中のリン酸と結合しリン酸ランタンを形成、リン酸ランタンは消化管で吸収されずに排泄されるため、腸管からのリン吸収が抑制される。このため、炭酸ランタンチュアブル錠は、食事の直後によく噛み砕いてから服用しなければならない。スタッフは日常的に服薬指導を行っているが、一部の患者では噛み砕きが困難であるとの訴えもあった。２０１２年５月、新たに炭酸ランタン顆粒分包が発売され、当院ではチュアブル錠から顆粒分包に剤形を変更した。炭酸ランタンを服用している患者41名に対し、剤形変更によりリン値がどのように変化したかを検討したので報告する。
〇林秀輝（はやしひでき）1） 菊地勘（きくちかん）2） 平成日高クリニック1) 東京女子医科大学 血液浄化療法科2)
【目的】慢性維持透析患者におけるHCV感染と生命予後との関係を検討する。
【方法】2006年末〜201１年末までの5年間当院で維持透析を施行した患者674名を対象とし、HCV陽性患者の生命予後と死亡原因を比較した
【結果】HCV抗体陽性率12.2％（83/674）、HCV抗体陽性vs HCV抗体陰性において、年齢66.5±9.8歳vs68.2±12.6歳 透析歴12.3±11.5年vs8.7±7.9年 HCV抗体陽性患者は陰性患者と比較し、13.2％も有意に死亡率が高い傾向にあることが判った
【考察・結語】当院のHCV感染透析患者は非感染患者と比較し、予後不良であり、抗ウイルス療法が生命予後を改善すると考えられる。
○新井和樹（あらいかずき） 富岡クリニック
わが国は現在65歳以上人口23.1％と超高齢社会へと突入しており、比例して維持透析患者も高齢化も進んでいます。日本透析医学会の調査によると、2010年度の透析導入患者数は37.532人でありそのうち75歳以上の後期高齢者は5.850人(15.6％)、平均年齢は67.8歳で前年比+0.5歳と年々高齢化率が増加しています。透析人口全体の認知症状を有する患者においては9.9％とおよそ10人に1人が認知症状を有していると言われています。
高齢透析患者は合併症や感染、転倒、認知症などのリスクが高く、ADL低下により短期間で要介護状態に陥ることが考えられます。そこで当院における患者の年齢や家族構成、ADL状態、通院手段などのチェックリストを作りスクリーニングを行いました。その結果若干の考察を得たので報告します。
〇水品伊津美（みずしないづみ） 両毛クリニック
【症例】76歳、男性、元郵便局員。既往歴に胆石、左腓骨骨折、肺炎がある｡平成2年、S病院で糖尿病と指摘されK医院にて内服治療を開始し外来通院。平成23年11月、K医院にて腎機能障害を指摘され、A病院へ紹介された。11月15日に腎生検施行して組織診断は腎硬化症であった｡12月16日左前腕に内シャント作成して平成24年1月5日に血液透析導入。1月31日、維持透析目的で当院へ転院して1回4時間週3回の血液透析施行｡
【経過】A病院初診の平成23年11月2日から透析導入の平成24年1月5日までの2ヶ月弱で血清クレアチニン値は4.8から10.0mg/dLに上昇し、Hct値は32.5から22.2%まで急激に貧血がこうしん進行していた。A病院初診時の血清Ca値は9.6mg/dL、フェリチン値334ng/dL、CRPは0.71mg/dL｡当院転院後、貧血が増悪、7月と9月に輸血を行った｡炭酸Ca、ビタミンD製剤等のCaを上昇させる薬剤を投与していないのにもかかわらずCa値が上昇して最高11.7mg/dLに達した。平成24年2月両肩痛が出現し、4月14日にA病院整形外科へ紹介したところ、右肩関節周囲炎の診断。8月、右肩甲部腫瘤が発現して紹介の際も同様の診断。8月28日、腫瘤が肩甲部・右肩・右肘・右大転子部にも発現した時点での紹介に対し､｢MRI検査では両側肩甲部に滑液包炎と思われる所見がある（左＜右）。右肩関節にも関節水腫（血腫か？）、両側肘頭部にも滑液包炎を認める。レントゲンでは関節周囲に明らかな石灰化などはない。腫瘤に関してはしばらく経過観察でよい｣との回答｡
そこで、当院で検査を進めたところ、I-PTH、CEA、CA19-9、PSAは異常なく、IgG、IgA、IgMも正常範囲、リウマチ関連の検査異常なし、アンギオテンシン転換酵素、副甲状腺ホルモン関連蛋白も基準値内であった｡しかし、蛋白分画検査でγグロブリン分画にM蛋白を思わせるピークがあり、免疫電気泳動（抗ヒト全血清による同定）でM蛋白・IgG-κ型タイプベンスジョーズ蛋白が疑われ、免疫電気泳動による（尿中ベンスジョーンズ蛋白同定）ではベンスジョーンズ蛋白κ型M蛋白が認められた。尿のベンスジョーンズ蛋白熱凝固試験陽性｡A病院で骨髄検査にて多発性骨髄腫（IgG-κ型MM）と診断された。
【考案・結論】透析患者の血清Ca値はCa含有リン吸着薬、活性型ビタミンDおよびそのアナログ製剤の投与または低回転骨では高くなるが、透析導入期では低いことが一般的である。本例はCa上昇に働く薬剤を投与されておらず、透析導入初期で高Ca血症を呈する症例では多発性骨髄腫・悪性腫瘍の骨転移などを念頭におくべきである。
医療法人社団望星会 望星病院 院長 北岡建樹先生
【座長】日高病院 永野 伸郎
両毛クリニック 池内広邦 院長