日時：平成26年7月20日(日) 9：00〜
【総合司会】平成日高クリニック 下田 富美子(しもだふみこ)
【一般演題座長】白根クリニック 小野 隆(おのたかし) 日高リハビリテーション病院 下田 一幸(しもだかずゆき)
日高病院 安藤 義孝 理事長
○後藤 沙織(ごとうさおり)、島田美樹子、永野伸郎、伊藤恭子、安藤哲郎、筒井貴朗、安藤義孝 平成日高クリニック 透析センター、日高リハビリテーション病院 栄養課、日高学術研究センター、腎臓病治療センター
【背景】透析患者の約4割が便秘症であり、年齢とともにその割合は増加する。透析患者における便秘は、水分管理の実施を困難なものにするとともに、重症化した場合、虚血性腸炎や腸穿孔などの生命に関わる重大な疾患に至る危険がある。しかしながら、透析患者では、カリウム制限による繊維不足、水分制限、下剤の使用制約などにより、排便コントロールが容易ではないのが現状である。
【目的】食習慣の違いが、便秘改善薬の服用有無と関連するか否かを検証する。
【対象】1年以上の透析歴を有する外来維持血液透析患者で、便通が１日１回以上ある患者71名を対象とした。
【方法】下剤の服用有無の2群間で、身体計測値、血液検査値、食事摂取頻度調査（FFQg）結果を比較するとともに、2項ロジスティック回帰分析で下剤服用のリスク因子を抽出した。
【結果】�ヾ擬塲愀福�男性が女性に比較して、下剤服用割合が多かった。��栄養成分：下剤服用群では、非服用群と比較して、カリウム、レチノール当量、葉酸、ビタミンC、食物繊維の摂取量が少なかった。��食品群：下剤服用群では、非服用群と比較して、野菜類、海藻類、果実類の摂取量が少なく、豆類の摂取量が多かった。�そ轍鶺∧�析：下剤服用と関連する因子として、栄養成分ではカリウム摂取量の増加およびビタミンC摂取量の低下が、食品群では緑黄色野菜、海藻類、果実類の摂取量低下および豆類の摂取量増加が選択された。
【考察】下剤服用群では、非服用群と比較して、カリウム、レチノール当量、葉酸、ビタミンC摂取量が低値であり、野菜、果物、海藻類の摂取量が少ないことと符合した。本結果は、便通促進作用を有するこれらの食材摂取量の少ない食習慣の患者は、それを補完するために下剤服用に繋がる可能性を示唆する。
【結語】透析患者において、野菜類、海藻類、果実類に関する食習慣が、便秘改善薬の服用有無に影響する。 今後は、下剤服用患者に対して食事指導を介入することにより、下剤服用量を減少させることが可能かの検証が課題である。
〇新井 和樹(あらいかずき) 富岡クリニック
2014年2月14日から15日にかけて、本州の南海上から関東地方へと低気圧が通過したため関東甲信越地方で大雪となり、当院のある富岡市も大雪に見舞われ交通機関に甚大な影響をもたらしました。
2月15日、大雪のため交通網が麻痺し患者の送迎ができず、また、職員も出勤できない状態にて透析中止という経験をしました。大雪に対してのマニュアルがなかったため、対応が困難でした。
今回の大雪を経験したことにより様々な問題点・改善点が明確になり、今回の対応を振り返る事で今後の課題を検討したので報告します。
〇清水 順子(しみずじゅんこ) 丸山雅美、永野伸郎、金井一美、高山悦子、萩原紘子、成田ひとみ、石田秀岐、関口博行、野原ともい、星綾子、伊藤恭子、安藤哲郎、筒井貴朗、安藤義孝 平成日高クリニック 透析センター、日高学術研究センター、腎臓病治療センター
【背景】透析患者において、皮膚掻痒症は高頻度で発症する合併症であり、患者のQOL低下を招き、生命予後低下と関連する。その成因として、皮膚の乾燥、末梢神経障害、ミネラル代謝異常、二次性副甲状腺機能亢進症、尿毒症物質の蓄積、透析に伴う炎症反応、ケミカルメディエーター、オピオイドなどの複合的関与が挙げられる。これまでに掻痒症と皮膚乾燥症との間に、“関連あり”とする報告と、“関連無し”とする報告が混在する。
【目的】維持血液透析患者の皮膚乾燥症を皮膚水分量を測定することにより定量化し、痒みとの関係を明らかにする。
【対象と方法】外来維持血液透析患者450名において、痒みに関するアンケート調査を実施するとともに、前腕内側部および腰背部の皮膚角質層水分量を肌水分計にて測定した。痒みの有無や程度（VAS値）と皮膚水分量との関係を血清生化学値を含めて解析した。
【結果】患者全体の65.6%が痒みを自覚していた。重回帰分析の結果、痒みの有無と関連する因子として、男性、糖尿病、透析後未補正血清Ca値が選ばれた。腕および背中の水分量と、性別、年齢、透析歴、糖尿病の有無、痒みの有無、痒みの頻度、痒みの程度、睡眠障害の有無、治療の有無、塗り薬の有無、治療満足度との間に関連性は認められなかった。
【考察】透析直後の一過性のCa値上昇は、皮膚にリン酸Ca塩の沈着をもたらし、痒みの原因となるとともに、皮膚の感覚神経終末に作用し、痒み刺激に対する閾値を低下させることや、皮膚のマクロファージ、リンパ球、角質細胞に作用し、炎症性サイトカインや痒み惹起物質を放出させる機序が想定される。本観点からは、透析終了時の血清Ca値を上昇させる3.0 mEq/LのCa透析液の使用は痒みを助長させることが懸念される。公表されているノーマル肌の腕水分量（36-45%）と比較して、透析患者の同部位の水分量の中央値（95パーセンタイル値）は30.9%（24.6-35.9%）であることより、透析患者の95%以上がドライ肌に分類されることが推察される。透析患者は、ひとたび透析療法に導入されれば、速やかに重度の乾燥肌に陥るため、皮膚水分量と、年齢、性別、透析歴、痒みの有無や程度に関連性が認められないものと考えられる。
【結語】維持血液透析患者において、皮膚水分量は、掻痒症の有無および程度と関連しない。
〇茂木 英彦(もぎひでひこ) 白根クリニック
はじめに カルニチンのおもな役割として、生体内の脂肪酸代謝、過剰アシル基の排除、赤血球の安定維持がある。透析患者は透析による除去や、腎不全によるカルニチン産生の低下などにより、カルニチンが不足、または、欠乏していると言われており、カルニチン補充療法による貧血改善効果、こむら返りなどの筋症状の改善効果など多く報告されている。そこで今回当院においてエルカルチン静注を使用する経験を得たので、ここに報告する。
〇上原 美紀(うえはらみき) 日高リハビリテーション病院
【はじめに】日本透析医学会が終末期の透析についての提言作りを進めているなか、患者家族が施設での終焉を希望し、希望通りに施設で看取った症例を経験したので報告する。
【症例】８０歳代女性、透析歴２年３ヵ月、認知症あり、要介護度３、キーパーソンは長女。
【経過】腰椎圧迫骨折のリハビリ目的で当院に入院後、近隣の施設に入所。その後胸痛、うっ血性心不全にて本院に入院。長女は医師より食欲低下が続き老衰の状態であり、急変の可能性があることの説明を受け、入院ではなく施設での生活を続け安楽な看取りを希望した。医師、看護師、ソーシャルワーカー、施設責任者、ケアマネージャーがチームとなり長女と十分話し合い、透析を見合わせることなく施設で看取った。
〇和田 好正(わだよしまさ) 両毛クリニック
【はじめに】今回，当院ではバイオインピーダンス法を用いた体組成分析装置BCM(R)（フレゼニウスメディカルケアジャパン，BCM）を導入した．本装置を使用して当院透析患者の体組成を測定，得られた体水分量の測定結果をもとに血液透析を施行した症例を報告する．
【対象】当院で維持透析を施行している男性12例，女性8例，計20例で，平均年齢は70.3歳，原疾患はDM 6例，非DM 14例，平均透析期間は9年9カ月．方法は，測定結果の再現性を確認するため，同一週内の血液透析計3回（月，水，金曜日，または火，木，土曜日）の透析開始前にBCMで体組成を測定し，正常体水分体重（NH Weight）の推移を検討した．また，現状のドライウェイト（DW）設定を確認するため，NH WeightとDWの差を検討した．
【結果】BCMで測定した週内のNH Weightの推移は，いずれの症例もほぼ同じ値で，再現性が認められた．次に，BCMでの測定時に設定されていたDWとNH Weightを比較した．差が±0.5kg以内でDW設定が適当と思われた例が4例（20%），−0.5kgよりも少ない，すなわち除水過剰状態と思われたのが5例（25%），＋0.5kgよりも多い，すなわち除水不足状態と思われたのが11例（55%）であった．次に，BCMで得られた測定結果をもとに血液透析を行なったところ，1例はΔBVが−20%を下回ったにもかかわらず，安定した血圧で透析を行なうことができてDWは1kg下がった．その他の数例でも同様の結果が得られた．
【考察】従来から，DW設定のための因子として，血圧，心胸比，下大静脈径，ΔBV，HANPなどが用いられてきた．しかし，それらのデータでは，余剰体水分の存在を示すことはできても，具体的な数値を知ることはできない．今回，当院で導入したBCMは，非侵襲かつ手軽にベッドサイドで体組成を測定することができ，体水分過不足量が表示されるうえ，再現性も認められ，余剰体水分の具体的な数値を知ることができる装置と考えられる．当院透析患者20例のBCMによる測定で，55%の例で除水不足，25%の例で除水過剰という結果が得られた．このことから，多くの例でDWの再検討が必要とされる可能性が示された．除水不足とされた一部の例で，BCMの測定値をもとにDWの再設定がスムーズにできたことから，その他の症例でもDWの再設定を検討する必要がある．除水過剰と判断された例では，一般にDWを上げる必要があるが，体水分に因らない心疾患，その他の原因も考慮しなければならない．今後も，BCMの測定結果をDW設定の新たな目安として活用していきたい．
【結語】当院透析患者のドライウェイト設定で，体組成分析装置BCM(R)の有用性が示された．
〇武藤 駿介(むとうしゅんすけ) 両毛クリニック
【はじめに】当院では、4年半前よりBH穿刺を導入し、すでに多くの患者で行っており、その有用性が実証されている。しかし、今回、BH穿刺による血管痛で透析中にショック症状を呈した症例を経験したので報告する。
【症例1】75歳女性、原疾患は慢性糸球体腎炎、透析歴は18年6ヵ月、現在1回5時間、週3回血液透析施行中。ドライウェイトは42kg、体重増加量は1.74±0.37kg。既往歴に子宮筋腫、胆石症、慢性硬膜下血腫がある。平成22年からペインレス針によるBH穿刺開始。平成26年2月7日、透析中に内シャントのある左第2〜5指の痛みを訴えたので手を保温してECUM施行するも血圧が低下し、途中で終了した。その後の透析でも、手の痛み、血圧低下発現を繰り返した。その都度、手の保温、ECUM、血流量を下げる、鎮痛剤を投与する、等を行った。2月24日、透析開始2.5時間後、同様の症状が発現し、返血側の穿刺部位を変更、刺し替えをしたところ、一時、痛みが軽減した。その後の透析では、返血側の穿刺、針の留置に注意して透析を行った。しかし、透析中の手の痛みは持続し、3月7日には、透析中に手の痛みが激しくあり、急激に血圧が低下してショック状態に陥った。その後の透析でも、手の痛みが発現して血圧が低下し、透析を中断することを繰り返した。3月31日、脱血側の針先が血管壁に触れているための血管痛を疑い、脱血側穿刺部位を中枢向きに変更し穿刺したところ、手の痛み、血圧低下をきたさず、透析を終了できた。現在は、血管痛の訴えや血圧低下もなく、順調に透析施行中である。
【症例2】68歳の女性、原疾患は慢性糸球体腎炎、透析歴は12年5ヵ月、現在1回4.5時間、週3回血液透析施行中。ドライウェイトは36.5kg、体重増加量は1.48±0.16kg。右膝半月板石灰化症手術の既往がある。平成25年1月からペインレス針によるBH穿刺開始。平成26年6月21日、透析中に内シャントのある右手の痛みを訴え、その数分後にショック状態になった。患者は、「春先から透析中に手の痛みが出てきた。我慢できたから言わなかった」と言った。6月24日、脱血側穿刺部位を中枢向きに変更したところ、手の痛み、血圧低下の発現がなく透析を終了した。その後、血管痛は消失して血圧低下もなく順調に透析施行中である。
【考察および結論】内シャントによる血管は月日が経過するにつれて発達し、蛇行してくる。蛇行部に針先が触れているとやがて耐え難い血管痛を生ずることになる。特に、ボタンホール穿刺では、穿刺部位が固定されるので毎回同じことを繰り返すことになる。長期透析例では透析アミロイド症、その他の運動器障害でも四肢の痛みを訴えることが多く間違いやすいので注意が必要である。
〇飯島 美由紀(いいじまみゆき) 両毛クリニック
【はじめに】透析患者の長期施行例、高齢者、糖尿病例が増加しており、最悪の場合の壊疽を予防するためにもフットケアは極めて重要である。当院でも定期的にフットケアを行っているが、今回は足踵部に注目して病変を有する症例には積極的に処置、指導を行い、検討したので報告する。
【対象および方法】当院維持透析患者207名（男性128名、女性79名）、平均年齢はそれぞれ66.5歳、66.9歳、透析歴はそれぞれ9年8ヶ月、11年4ヶ月。期間は平成25年2月から平成26年5月までの16ヶ月。皮膚の水分量は簡易皮膚水分計Mobile Skin moisture HP10-Nを用いて下腿で測定した。皸裂病変に対しては当院で調合したヒルドイド(R)ソフト軟膏と白色ワセリン混合剤（以後ミックス軟膏）を塗布した。足踵部の状態を1・異常なし、2・皮膚の乾燥・肥厚、3・皸裂、に分けて検討した。
【結果】平成25年2月の足踵部の状態は、異常なし41名（19.8%）、乾燥・肥厚109名（52.7%）、皸裂57名（27.5%）｡年代別では、皸裂は30歳代では0、80歳代では40%で、年齢が上がるにつれて増えていた。透析歴年代別では、10年未満例を除くと透析歴が長いほど皸裂例が増えていた。糖尿病例と非糖尿病例の比較では、差は認められなかった。足踵部の状態と簡易皮膚水分計による水分量は、異常なし例に比べて乾燥・肥厚例、皸裂例の順で水分量が減っていた。足踵部症状のある男女別平均水分量は、女性より男性の方が少なかった。足踵部に異常のある患者には、積極的に処置、指導を行なった。1）皸裂から感染の危険があり、改善する必要性を説明、2）皸裂がひどく、自分で軟膏を塗布する意欲が欠ける患者には透析日毎に観察して軟膏を塗布、3）必要時には角質を削る、4）自宅での軟膏塗布状況を確認して、改善されている場合は成果を伝えて励まし、改善のない場合は塗布出来ない理由を聴取する、5）1日1回以上軟膏を塗布して自分の足を観ることを習慣づける、である｡その結果、足踵部に異常のある85名および他の薬剤を使用していて異常のなかった6名を加えた91名の希望者にミックス軟膏塗布を主とする介入を行った結果、異常なしは6.6%から38.5%に増加し、皸裂例は58.2%から13.2%に減った。ミックス軟膏についてアンケート調査を行ったところ、92.1%が使用したと答え、ベタつきについて56.1%が気になる、残りの43.9%は気にならない、効果について89.0%があった、今後について86.6%が使いたい、であった。
【考案および結論】足踵部の皮膚の乾燥・肥厚、皸裂は加齢に伴って皮膚の水分量が減ることによって引き起こされる。従って、足踵部の変化には医療スタッフの積極的な介入が有効である。
自治医科大学 腎臓内科学 主任教授 長田 太助 先生
両毛クリニック 池内 広邦 院長