日時：平成28年7月10日(日) 9：00〜
【司会】富岡クリニック 桑原郁美(くわはらいくみ)
【一般演題座長】白根クリニック 小野隆(おのたかし) 平成日高クリニック 下田富美子(しもだふみこ)
日高病院 安藤哲郎 先生
〇高橋伴彰(たかはしともあき)、麓真一、林秀輝、才木多恵子、斎藤たか子、石田秀岐、関口博行、伊藤恭子、安藤哲郎、筒井貴朗、安藤義孝 医療法人社団日高会 腎臓病治療センター
【目的】職場の業務改善プロジェクトの一環として、業務技能チェックリストと技能の階段を作成し、技能向上の効果を検討する。
【方法】透析業務で習得すべき技能の詳細を明らかにし、習得すべき順序を決定した。また、難易度に応じて11段階のグループに分け、順番に習得するように階段状の図を作成した。評価は6班に分かれた班ごとにリーダーが行い、評価対象者の総数は透析室に所属する看護師および准看護師29名であった。評価は月に1回とし、期間は2014年9月から2015年1月までの計5回実施した。
【結果】指導プログラム開始1回目の評価の数値と第2回目、第3回目、第4回目、第5回目の評価の数値の結果から、評価された技能の分布は上方推移した。
【考察】業務技能チェックリストと技能の階段を用いた指導プログラムは、業務改善に有効な効果があったことが示された。
〇大城香代子(おおしろかよこ) 白根クリニック
【目的】新規鉄含有リン吸着であるスクロオキシ水酸化鉄の臨床効果について検討する。
【方法】当院維持透析患者の内スクロオキシ水酸化鉄を投与した患者15名を対象とし、投与開始前と投与３か月後のデータを比較した。Ｈｂ、フェリチン、ＭＣＶ、血清Ｐ値、Ｃａ、ＥＳＡ使用量、静注鉄投与量について検討した。
【結果】血清ＩＰ値は低下し、Ｈｂの上昇に伴い、ＥＳＡの使用量が減少した。また、フェリチン、ＭＣＶについて投与後より上昇する傾向が見られた。一部の症例において、Ｈｂの上昇に伴い投与を中止せざるを得ない症例があった。
【考察】スクロオキシ水酸化鉄は、強力なＰ吸着作用を示し、Ｐのコントロールに有用であるが、鉄欠乏状態にある症例では、貧血改善効果がより強く出現するため、注意が必要であると考えられる。
○秋和麻未(あきわあさみ)、竹内茂、小林充 日高リハビリテーション病院
【目的】高P血症治療剤スクロオキシ水酸化鉄の飲み易さについて検討をする。
【対象】�‥�院透析室スタッフ13名。男性6名、女性7名。平均年齢35.9歳。
��当院透析患者12名。男性10名、女性2名、平均年齢52.7歳、平均透析歴7.6年。
【方法】スクロオキシ水酸化鉄を�ヽ�み砕き、�∧�割、��少量の水で懸濁の3つの方法で内服して、各内服後の飲水量と、内服後にアンケートを取り、比較検討する。
【結果】スタッフ13名の結果、平均飲水量は�ヽ�み砕きでは125.4ｍｌ、��4分割では26.2ｍｌ、6分割では23.1ｍｌ、��少量の水での懸濁では44.6ｍｌ。内服後のアンケート結果は、�ヽ�み砕きでは、「非常に飲みずらい」6名、「飲みずらい」4名、「何とか飲める」2名、「飲み易い」1名。��4分割では、「非常に飲みずらい」1名、「飲みずらい」2名、「何とか飲める」2名、「飲み易い」8名。6分割では、「非常に飲みずらい」0名、「飲みずらい」0名、「何とか飲める」5名、「飲み易い」8名。��少量の水で懸濁では、「非常に飲みずらい」1名、「飲みずらい」5名、「何とか飲める」4名、「飲み易い」3名。
透析患者12名の結果、平均飲水量は�ヽ�み砕きでは25.0ｍｌ、��6分割では21.3ｍｌ、��少量の水での懸濁では27.9ｍｌ。内服後のアンケート結果は、�ヽ�み砕きでは、「非常に飲みずらい」1名、「飲みずらい」2名、「何とか飲める」3名、「飲み易い」6名。��6分割では、「非常に飲みずらい」0名、「飲みずらい」1名、「何とか飲める」2名、「飲み易い」9名。��少量の水で懸濁では、「非常に飲みずらい」4名、「飲みずらい」3名、「何とか飲める」2名、「飲み易い」3名。
【考察】スクロオキシ水酸化鉄は丸飲みしても胃内で崩壊することより、分割しての内服でもP吸着効果が低下しない。そのため、分割しての内服のほうが飲みやすいと感じる患者には、そちらを選択させることで服薬アドヒアランスを向上させることができるのではないかと思われた。
〇下山大樹(しもやまだいき) 富岡クリニック
リンは骨・歯の構成要素や細胞膜の成分、またエネルギー代謝の担い手として、生体の形態や機能の維持に必須の元素となっています。リンは腸管から吸収され尿中、便中へ排泄されます。腎機能が正常であれば、リンの摂取量に関わらず、血清リン濃度は一定に保たれますが、透析患者は腎機能が低下している為、リンの排泄は低下します。そのため、透析患者にとってリンのコントロールは非常に困難な事です。さらにコントロールが不良の場合、様々な合併症（二次性副甲状腺機能亢進症、腎性骨症、IP関与による心筋梗塞・脳梗塞など）が懸念されます。そのうえ、高リン血症治療薬は錠剤が大きいうえに、複数錠服用している為、服用しづらいと言う患者の声も多く聴かれます。今回、新たにキッセイ薬品工業株式会社より、スクロオキシ水酸化鉄チュアブル錠が2015年11月に発売されました。この薬は噛み砕いて服用するため、錠数が多くなった際も飲みやすいのではないかと考えられました。そこで、現在当院で使用中の高リン血症治療薬、沈降炭酸カルシウム錠、セベラマー塩酸塩錠、炭酸ランタン水和物顆粒剤、クエン酸第二鉄水和物錠、スクロオキシ水酸化鉄チュアブル錠、計５種類を当院維持透析患者とスタッフに服用させ、飲み易さについてアンケート調査を行いました。その結果、若干の考察を得たので報告します。
〇小林充(こばやしみつる)、竹内茂 日高リハビリテーション病院
【緒言】マイクロコーン（東洋レヂン社製）は直径4ｍｍの樹脂製の円盤に多数の微細な突起を有する「刺さらない鍼」とも言える治療器具である。今回我々は透析時にのみ内シャント側の上肢痛を訴える3症例に対し、上記器具を使用して耳介治療（Nogier博士による）を行ったところ痛みが軽減したので報告する。
【症例】症例1は81歳、女性、透析中にのみシャント肢の肩関節痛の訴えがあり、透析終了後に消失していた。耳介治療によりVASが74ｍｍから0ｍｍに低下した。症例2は50歳、女性、透析時から翌朝までシャント肢の前腕痛の訴えがあるため耳介治療を行ったところVASが37ｍｍから0〜12ｍｍまで低下した。症例3は85歳、女性、透析中にシャント肢の前腕から上肢痛が出現していたが耳介治療を実施したところVASが78ｍｍから0ｍｍに低下した。
【考察】マイクロコーンによる耳介治療は透析時血管痛に有効であると思われた。
〇山��翔太(やまざきしょうた) 両毛クリニック
【はじめに】ボタンホール（BH）穿刺において穿刺孔の痂皮形成は大きな課題である。今回、気密性に優れた安価な市販の滅菌防水絆創膏を使用して穿刺孔の湿潤と痂皮形成抑制に有効であるかを検討した。
【材料および方法】基材に防水機能を有するポリエチレンフィルムを用いた止血用滅菌防水絆創膏ファーストエイド・バンソウコウ。比較したのは止血用パッド付絆創膏インジェクションパッド、インジェクションパッドマイルド、オーキューバンエコ。コストは、インジェクションパッドを1とした場合、インジェクションパッドマイルド、オーキューバンは1.2倍、滅菌防水絆創膏が1.5倍、高機能テープは24.2倍である。20歳代男性スタッフ3人に協力してもらい、簡易皮膚水分計モバイルスキンモイスチャーHP10-Nを用いて、次の各条件の前および1時間後の皮膚水分量を測定した。1.各種絆創膏貼付、2.イソジン塗布して各種絆創膏貼付、3.イソジン塗布のみ。
【結果】各種絆創膏貼付による皮膚水分量の変化は、滅菌防水絆創膏以外では、水分量が減少または微増なのに対して、滅菌防水絆創膏のみ水分量が著しく増加していた。イソジン塗布後は、滅菌防水絆創膏以外は著しく水分量が減少しているのに対して、滅菌防水絆創膏は、反対に著しく水分量が増加していた。
皮膚にイソジン塗布のみでは、全員で皮膚水分量は減少していた。
透析終了後は、抜針時にイソジンを穿刺痕に塗布して絆創膏を貼付し、その上から紙ガーゼによる圧迫止血を行い、翌日の朝に絆創膏を剥がして綿棒等で痂皮を除去している。滅菌防水絆創膏使用は、現在全透析患者の19%、40名である。滅菌防水絆創膏についてスタッフは、「痂皮の縮小が見られた」「痂皮除去が容易になって穿刺孔からの針の挿入が容易になった」と評価していた。滅菌防水絆創膏使用患者は、「透析翌日の痂皮が滅菌防水絆創膏によって湿潤しているために痂皮の除去が簡単になった」「痂皮が縮小したため衣服に引っかかることが無くなった」と評価していた。
【考案】BH穿刺は、スタッフおよび患者にとって有用な方法だが、穿刺孔の痂皮形成とその除去は大きな課題である。創傷部の湿潤療法に使われるハイドロコロイド（高機能テープ）は痂皮形成の抑制と除去に有用だが、コストが高い。今回、一般に販売使用されている滅菌防水絆創膏は、皮膚湿潤度を著しく高めること、消毒に使用しているイソジンが皮膚の乾燥を高めることが分かった。実際使用している患者で痂皮形成の抑制が得られ、痂皮の除去が容易になった。それによって、穿刺孔からの針の挿入が簡単になった。
【結語】滅菌防水絆創膏は水分量保持、湿潤状態が維持されることから痂皮除去、縮小に有用であり、コスト面からも優れている
〇恩田ちづる(おんだちづる)、永野伸郎、高橋伴彰、熊倉美穂、後藤沙織、手塚愛里、石田秀岐、関口博行、伊藤恭子、安藤哲郎、筒井貴朗、安藤義孝 医療法人社団日高会 平成日高クリニック、日高学術研究センター、腎臓病治療センター
【背景】高齢者は様々な理由により低栄養状態に陥りやすい。一方、高齢の低栄養透析患者において、栄養指標と相関する血清リン値が高値を呈することは少なくない。今回、透析患者の栄養指標として用いられるGNRI[Geriatric Nutritional Risk Index: 14.89×血清Alb値 + 41.7×（現体重/理想体重）]および年齢により、高齢・低栄養リスク透析患者を抽出し、血清リン値と関連する因子を検討した。
【対象と方法】平成日高クリニック透析センターの外来維持血液透析患者全535名中、入院中の患者を除き、GNRI＜92かつ65歳以上の患者149名を高齢・低栄養リスク患者とした。血清リン値と患者背景および定期採血結果37項目の単相関解析ならびに重回帰分析を実施した。また、血清リン値の中央値（4.8 mg/dL）で、Low群（74人）およびHigh群（75人）の2群に別け、2群間比較ならびに2項ロジスティック回帰分析を実施した。
【結果】高齢・低栄養リスク透析患者において、血清リン値がJSDT基準上限値（6.0 mg/dL）以上の患者が22人（14.8%）認められた。血清リン値と正相関する項目は、BUN、Cr、UA、K、Mg、i-PTH、Alb、HDL-chol、RBC、Ht、Hbであり、このうち重回帰分析ではBUN、K、Mgが有意な独立した説明変数であった。Low群とHigh群間で有意差の認められた項目は、P、DM割合、BUN、Cr、UA、K、Mg、Alb、T-Bil、T-chol、HDL-chol、血糖、RBC、Ht、Hbであり、2項ロジスティック回帰分析の結果、BUNおよびMgが有意な独立した説明変数として選択された。
【考察】KおよびMgは、リン酸とともに細胞内液濃度が高いイオンである。栄養障害リスクを有する高齢透析患者において、血清リン高値患者の血中リンの由来は、食事由来の可能性は否定できないものの、サルコペニアの急激な進行や組織障害、蛋白異化亢進に伴い、筋肉・臓器・骨から逸脱したリン酸由来の可能性が考えられた。
【結語】栄養障害リスクを有する高齢透析患者（65歳以上かつGNRI＜92）において、BUN、K、Mgは血清リン高値と関連する独立した因子である。今後は、GNRI≧92の患者群との比較に加え、食事摂取量、リン吸着薬の調査や体重変化量を加味した前向き研究が課題である。
〇島崎日和(しまざきひより) 両毛クリニック
【はじめに】血液透析患者では、体外循環による機器への残血および頻回の血液検査などで鉄を喪失していることから鉄の管理は重要である。今回、鉄関連指標から鉄欠乏性貧血を検討した。
【対象および方法】週1回の定期採血で貧血が増悪傾向にある92例について血清鉄、TIBC、TSAT、MCV、血清アルブミン値（ALB）について検討した。血清フェリチン値（フェリチン）100ng/mL未満例については、フェリチンおよび体重を勘案して含糖酸化鉄製剤フェジン®注（フェジン）40mgを3〜20回透析時に投与した。フェジン投与中にESA量は変更しなかった。
【結果】フェリチン別にTIBCと血清鉄をみるとフェリチン100ng/mL未満例はTSAT20%未満が多いものの、TSAT20%以上の例もあった。同じくフェリチン100ng/mL以上例もTSAT20%で分けた双方に分布していた。フェリチン100ng/mL未満例のTSATでは、TSAT20%未満例が69例中43例（62.3%）で、TSAT20%以上例が26例（37.7%）であった。フェリチン100ng/mL以上例のTSAT20%未満例が23例中12例（52.2%）で、TSAT20%以上例が11例（47.8%）であった。フェリチンと血清鉄では、血清鉄50µg/dL以下の例でフェリチンに関係なく大多数がTSAT20%未満で、血清鉄50µg/dL以上ではフェリチンに関係なく、大多数がTSAT20%以上であった。フェリチンとTIBCでは、TSATに関係なくフェリチン100ng/mL 未満例の大多数がTIBC200µg/dL以上であった。フェリチンとALBでは、フェリチン100ng/mL未満ではTSATに関係なくALB3.5g/dL以上が大多数を占めていた。フェリチンとMCVでは、フェリチンやTSATに関係なくMCVは80fL以上で、多くは正球性で一部大球性であった。フェジン投与終了後、Hct上昇例は58例（84.1%）、非上昇例は11例（15.9%）であった。非上昇例のほとんどはフェリチン50ng/mL以上と高めで、従ってフェジンの注入量も少なくなっていた。しかし、この非上昇例11例中7例（64%）はTSAT20%未満であった。
【考案および結論】腎性貧血治療ガイドラインには「鉄補充療法の指標として、ESA投与下で目標Hb値が維持できない患者において、血清フェリチン値が100ng/mL未満かつTSATが20%未満の場合、鉄補充療法を推奨する」とあり、TSATを重要な指標にしているが、今回の検討では、TSAT20%未満、以上の例をフェリチン100ng/mLで分けた場合、両者の数に大きな差はなかった。むしろ、TIBC200µg/dL以上、ALB3.5g/dL以上、MCV100fL以下の例で、フェリチンが100ng/mL未満となっている例が多いことがわかった。一般的な鉄欠乏性貧血は、小球性低色素性貧血でMCVは80fL未満とされているが、今回のフェリチン100ng/mL未満例はすべて80fL以上で、多くは正球性、一部大球性であった。
仁真会白鷺病院理事長、日本透析医会常務理事 山川 智之 先生
【座長】日高学術研究センター室長兼腎臓病治療センター研究統括部長 永野伸郎先生
両毛クリニック 池内広邦 院長