11、そして、希望


 サイラス。俺はお前になにもしてやれなかった。…弱虫だった。守られてばかりだった。最後の、最後まで。
 サイラス。俺はお前がいなくなって、ようやく気づいたんだ。ただ強くなるだけではどうにもならないってことに。
 サイラス。俺は、お前に…。


 「カエル!」

 王妃様のお声。俺の体が動かない。重くて動こうとしない。なんだ?どうなってんだ?王妃様のお声に、答えなければならないのに。暗い、暗いままだ。

 「カエル…。」
 目をあけて、俺はようやく事態を飲み込むことができた。
 俺は兵士用のベットで眠っていたようだ。いや、寝かされていたようだ。背中が痛くて、体が動かない。目の前に、リーネ王妃のお姿。…泣いている。
 「王妃様、私などのために涙など、もうったいのうございます。」
 「でも、よかったわ。…本当に。」
 そうか、俺は背中を斬られて…。

 「カエル。」

 俺を呼ぶもう一つの声。騎士団長だ。王妃様の後ろで、下を向いている。動かない体の代わりに、目を向けた。
 「俺は、俺は…恥ずかしい。」
 黙って聞いていた。
 「お前は知っていたんだな。あの決闘の場の中でひとつだけ、違う殺気があることに。俺はお前のものだとばかり思っていて…気にも留めなかったのに。」
 団長のこぶしが震えている。遠くから見ても明らかだ。
 「まさか、あの集団の中にミアンヌが潜んでいたなんて。」
 俺はようやく口をあけた。
 「前からおかしな殺気には気づいていたんだ。まさか魔物が潜んでいるとは思ってはいなかったがな。」
 そして…笑った。
 団長が顔を上げて、俺を見る。
 「開始の合図を聞いて、すぐにお前が後ろを向いたとき…俺はお前が試合を放棄したもんだと思った。だが体の方が先に反応していて、止められなかったんだ。俺が斬りかかってくるってのに、お前はミアンヌと戦うことを優先させた。無防備なお前の背中に俺の剣が斬りかかることをわかっていてだ。…なぜあのような行動ができたんだ!?俺は、俺は…。」
 「…あの魔物は、どうした?」
 その質問に、王妃様が代わってお答えになられた。
 「ありがとう、カエル。あなたが剣を投げてくれたおかげで誰一人、怪我人が出なかったわ。魔物を捕らえることもできた。…本当に、ありがとう。」
 俺は、笑顔を見せる。
 団長が言った。
 「俺は、恥ずかしい…。目先の感情に捕らわれていて…いや、自分の欲望に捕らわれて君主を守る騎士の役割を忘れていた。」

 目を閉じて、俺は言う。
 「いいじゃねえか。こうして、君主が守れたんだ。」

 そうだよな、サイラス。


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