2007年5月24日提出の上告理由書

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被告側の姓名は匿名として公開致します

尚以下は弁護団作成の上告理由書を元に
HP用に加工しております。



平成19年(ネオ)第253号 損害賠償請求上告事件
上   告  人 須藤 光男 外1名
被 上 告 人 栃 木 県 外2名 

上 告 理 由 書


2007(平成19)年5月24日

最高裁判所 御中

上      告       人
須  藤  光  男
上      告       人
■ ■   ■ ■
上告人ら訴訟代理人弁護士
大  木  一  俊
同              上
若  狭  昌  稔
同              上
田 名 部  哲 史




第1 はじめに

  原判決中、正和君を殺害した加害者■■の両親である被上告人■■原らの
監督責任についての判断には、最高裁判例が要件としていない極めて詳細な内
容をもった具体的予見可能性を要件として加えて、上告人らを不利益に扱った
憲法14条1項違反がある外、なんら理由を示さずに■■は被上告人■■らが
監督義務を尽くしてもその効果を期待し難い状況にあったとする点、及び被上
告人■■らが監督義務を尽くしたとする点において、民事訴訟法312条2項6
号の理由不備の違法が存する。

  また、栃木県の責任についての判断についても、正和君の言動が■■及び
加害者らによって強制されたものであることが明らかであるにもかかわらず、こ
れを理由に正和君の生存の可能性を3割としただけでなく、さらにはこれと実質
的には全く同じ理由によって、50パーセントの過失相殺をしている点及び本件
のような個人では訴訟追行が困難な訴訟について弁護士費用を認めない点で、
上告人らを不利益に扱う点で憲法14条1項違反がある外、正和君の生存可能
性を3割とする点及び弁護士費用を認めない点等について判決に何らの理由も
付しておらず、民事訴訟法312条2項6号の理由不備ないし理由齟齬の違法が
存する。

  よって、原判決は破棄されなければならない。

  以下詳述する。




第2 被上告人■■らの監督責任について

1 憲法14条1項違反について

(1)原判決の判断

  原判決は、「被控訴人■■らにおいて、本件事件の発生を具体的に予見し
又は認識し得たと認めるべき証拠はないから、上記予見、認識に基づき(こ
の上記予見及び認識が何を指すのかについても原判決からは不明確ではあ
る)、本件事件の発生を防止又は中止させるための具体的な監督義務」は存
在しない(24頁)として、被上告人■■らの■■に対する監督義務違反を否
定した。

  しかし、この判断は、以下に述べるとおり、最高裁判所の判例に反してい
る。


(2)未成年者の監督義務者の義務違反に関する最高裁判所判例

   最高裁判所昭和49年3月22日第二小法廷判決(昭和47年(オ)第1067
号・民集28巻2号347頁、以下「昭和49年3月22日最高裁判例」という)
は、「未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と
当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めう
るときには、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する」とし
たが、この判決文の文言から明らかなとおり、この判例は、監督義務者におけ
る未成年者の不法行為についての具体的予見可能性を監督義務者の義務違
反の要件とはしていない。

  また、事案の内容を見ても、中学生である未成年者Aが中学生Bに対して
強盗殺人を行ったものであるところ、この第1審判決及び第2審判決の内容か
らして、Aの親権者らにおいて、未成年者AがBに対して強盗殺人に及ぶとこと
について具体的に予見し又は認識し得たとは到底言えないにもかかわらず、
Aの親権者らのBに対する不法行為責任を認めている。すなわち、この判決
は、親権者らにおいて、未成年者Aが不良交友や万引き、喫煙、怠学などの
悪性癖を有していたことを認識していたのにもかかわらず、これに真剣に対処
しなかったことをもって、Aの親権者らの監督義務違反を認定しているのであ
って、Aの親権者らにおいて、AがBに対して強盗殺人に及ぶことを具体的に
予見しまたは予見し得たことまでを具体的に認定した上で、監督義務違反を
認めているわけではないのである。

  なお、原判決のように、未成年者の不法行為についての具体的予見可能性
を監督義務者の義務違反の要件としてしまうと、未成年者を監督する親権者
らにおいて、未成年者が具体的に、いつ、どこで、誰に(何に)対してどのよう
な不法行為に及ぶということについての予見(可能性)がなければ、親権者ら
には、未成年者が不法行為に及ばないように監督すべき義務が発生しないと
いうことになってしまう。これは、監督義務者に不作為犯が生じるような場合で
もない限り、不法行為責任も負わないでよいとするようなものであり、被害者
救済、損害の公平な分担をその趣旨とする民法709条以下の不法行為責任
の制度趣旨を著しく阻害することになる。

  以上のとおりであるから、原判決のように、事件の発生を具体的に予見し
又は認識し得たことを監督義務者の不法行為責任を認める要件とすること
は、上記最高裁判例に違反するものである。


(3)昭和49年3月22日最高裁判例の具体的あてはめ

  他方で、原判決は、被上告人■■らにおいて、■■が従前から悪性癖(恐
喝、暴行、傷害、暴走族や暴力団との交友等)を有していたことを認識してい
たとした上で、さらに、「■■が、本件犯行期間において、遊興費を得るため
恐喝等の犯罪行為に及ぶことについて、一般的な予見可能性があった」と認
定している(24頁)。

  しかし、原判決が認定した被上告人■■らの上記予見可能性は、昭和49
年3月22日最高裁判例の第1審判決及び第2審判決の事実認定から想定さ
れる予見可能性の内容と同程度のものなのである。

  昭和49年3月22日最高裁判例が要求する予見可能性とは、この程度の
もので十分なのであり、この判例以後に監督義務者の責任を認めた裁判例
も、予見可能性については、この程度の認定しかしていない。本件でも、被上
告人■■らに対し、■■に対する監督義務違反があったことが認められなけ
ればならない。


(4)まとめ

  このように、原判決には、監督義務者らにおいて、未成年者の不法行為に
ついての極めて詳細な内容を持った具体的予見可能性がなければ、未成年
者が不法行為に及んだ場合の監督義務者の民法709条に基づく不法行為
が成立しないとした点で、昭和49年3月22日最高裁判例に反し、正当な理
由なしに上告人らを不利益に扱う点で憲法14条1項は反しているので、原判
決は破棄されなければならない。




2 理由不備について

(1)
■■は被上告人■■らが監督義務を尽くしてもその効果を期待し
難い状況にあっ たとする点について

  
  原判決のこの点についての判断にはまったく理由が付されておらず、そ
の適否すら判断できない。これが民事訴訟法312条2項6号の理由不備に
該当することは明らかである。

  ところで、上記のように本件犯行期間において■■が恐喝等の犯罪行為
に及ぶであろうことを認識することができた被上告人■■らのなすべき監督
は、単なる「就職への指導」や「一般的に違法行為をしないようとの注意」で
はなく、「恐喝等をしないように指導・監督」することである。しかも、第1審も
原判決もその事実認定において、被控訴人■■らが、■■に対し、「就職
への指導」「外出先や交友関係の確認」「遊興費の入手経路や使途の確
認」をした事実を何ら認定していない。

  しかるに、被上告人■■らが、■■に対し、「就職への指導」「外出先や
交友関係の確認」「遊興費の入手経路や使途の確認」をしたことを前提にし
て、その効果を期待しがたい状況になっていたなどという判断は、論理的前
提を欠く全く不合理な判断であり、この点についても理由不備というべきも
のである。

  ここで、被上告人■■らが、恐喝等の犯罪行為に及ぶかもしれない■■
に対してなすべきであった指導監督とは、「他人の身体・自由・財産」に対し
て危害を加えないように監督することであり、具体的には、原判決の言うと
ころの「外出先や交友関係の確認」「遊興費の入手経路や使途の確認」だ
けでは足りないのである。被上告人■■らにおいて、これが確認できないな
ど、■■の言動に不自然な点があれば、例えば外出を制限するとか、少なく
とも自動車での行動を制限するなどして、■■に対する指導監督を効果的
に行うことができるようにすべきだったのである。

  他方、被上告人■■らにおいて、■■に対し、「外出先や交友関係の確
認」「遊興費の入手経路や使途の確認」を真摯に行い、それによって、■■
や■■と行動をともにしていたこと、正和君もそこにいたこと、さらに遊興費
は正和君から巻き上げたということが確認されたとすれば、■■らによる正
和君殺害という本件犯行を未然に防げたことは明らかであるし、また、この
ような事実が確認し得ず、又は■■の言動に不自然さが認められた時点
で、■■の行動の詳細が分かるまでの間、自宅謹慎や、自動車のキーを被
上告人■■らにおいて取り上げるなどして、被上告人らの監督が十分及ぶ
範囲に■■の行動を制限していれば、本件犯行を回避し得たことは明白な
のである。

  よって、原判決は、民事訴訟法312条2項6号の理由不備を理由に破棄
されなければならない。


(2)被上告人■■らが監督義務を尽くしたとする点について

  原判決は、上記のとおり、被上告人■■らは、■■が本件犯行期間に恐
喝等に及ぶことを予見しえたと認定しているが、それはとりもなおさず、客観
的に■■が恐喝等に及ぶような状況にあったことを意味しており、そのこと
自体からして、被上告人■■らにおいて、■■を一般的に監督していたとは
到底言えない。

  なお、原判決は、被上告人■■らは、「車両事故に対して叱責するなどし
ていた」とか、「違法な行為を犯してはならないことへの注意をしていた」など
と、お門違いのことや至極当然のことを持ち出して、監督義務を尽くしてい
たとしているが、■■が恐喝等の犯罪行為に及ぶであろうことを認識してい
た被上告人■■らに求められる監督とは、その程度のものではなく、前述
のとおり、■■をして、「他人の身体・自由・財産」に対して危害を及ぼす行
為に及ばないように指導・監督することなのである。

  原判決は、被上告人■■らの本件犯行期間当時の認識にしたがった指
導監督を、同人らが現実に行ったか否かに触れずに、監督義務を尽くした
と認定しており、この点も民事訴訟法312条2項6号の理由不備に該当す
る。




第3 栃木県の責任について

1 憲法14条1項違反について
(1) 正和君の強制された言動を上告人らにとって二重に不利に扱う
ことの憲法14条1項違反について

   原判決は、「(11月25日に亡洋子が東京の銀行から、正和君が火傷等
の傷害を負っており、その姿が防犯ビデオに写っている旨の情報を受け、こ
れを石橋警察署に連絡した時点での)上記嫌疑に基づく捜査手順としては、
この段階でも、火傷の時期、原因、程度は不明であり、被害者となるべき正
和の協力も得られない状況であるから、直ちに傷害被疑事件として逮捕状
を請求し得たということはできないし、正和から頻繁に無心の電話があり、
正和自身が自己の意思で加害者らに加わっている外形の下で監禁罪での
強制捜査を行うことも期待し得なかったといえるから、この段階で正和の生
命への切迫した危険を予想しての緊急、広範かつ集中的な捜査の必要性
までを認識し得たということはできない」(32頁)ことを前提に、「正和の殺
害を阻止し得たと高度の蓋然性をもって認めるには足りない。」(32頁)も
のの、「正和の殺害を阻止することにつき3割程度の可能性はあったという
べきである。」(33頁)とする。

  また、原判決は「本件は、正和の無断欠勤の当初から、加害者らの威迫
により正和が加害者らへの従属関係に陥ったために、被害者である正和が
衆人環視の中を加害者らと行動を共にし、勤務先、同僚のみならず、両親
に対しても、自らの意思による如くにうそをついたり金員を無心したりするこ
とを強制されながら、2か月という短期間で破局に至った事案であり、このよ
うな立場に追い込まれた正和の立場は極めて痛ましいものであり、正和本
人に非難されるべき点はないが、控訴人栃木県に対する正和の請求権とし
て考慮する限り、正和の上記行動が、栃木県警警察官に対して、被害者で
あることを認識することの妨げとなり、正和を素行不良者グループの一員で
あると誤認させる原因となったものであり、損害の分担という観点からは、
控訴人栃木県において全額を負担すべきものではなく、民法722条2項を
類推し、控訴人栃木県が負担すべき範囲は5割をもって相当と解される。」
(36頁)として、損害額について50%の過失相殺をしている。

  しかし、原判決が過失相殺をする根拠として上げる正和君の言動は、■
■らの壮絶なリンチによって強制されていたものであり、正和君の自由意思
によるものでないことは、原判決も認めているとおり関係証拠から明らかで
ある。しかも、栃木県警察は、正和君の両親や同僚らの訴えにもかかわら
ず、正和君がこのような状況にあることを見抜けず、正和君を死に追いやっ
てしまったこともまた明らかである。

  加えて、原判決が過失相殺をする根拠として上げる正和君の言動は、生
存の可能性を3割とした根拠と本質的に同一のものであり、原判決は、正
和君の生命侵害に対する賠償額を認定するに当たって、正和君が強制され
て行った言動を、二重に不利益な方向で用いている。

  にもかかわらず、正和君の言動を栃木県警察の責任を軽減する方向で
過失相殺に用いるのは、正当な理由なしに上告人を不利益に扱うものであ
り、憲法14条1項に反するものである。

(2)弁護士費用を認めないことの憲法14条1項違反について

  原判決は第1審で認定された弁護士費用について認めないという判断を
した。

  しかし、この判断は、最高裁判所第一小法廷昭和44年2月27日(昭和
41(オ)第280号・民集23巻2号441頁、以下「昭和44年2月27日判
例」という)と相反する判断である。

  わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行
なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されている
のみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の
訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求し
ており、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可
能に近い。

  とりわけ、相手方の故意又は過失によって自己の権利を侵害された者が
損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己
の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人
は弁護士に委任しなければ、十分な訴訟活動をなし得ない。

  今日においては、このようなことが通常であるから、訴訟追行を弁護士に
委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された
額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものである
以上、不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。

  現に、実務では、不法行為による損害賠償請求訴訟の場合には、損害
額の一割相当額を弁護士費用として認め、これを付加した額を不法行為者
に支払うよう命ずるのが通例となっている。

  本件のこれまでの審理経過に鑑みれば、本件は、上告人が単独で十分
な訴訟活動をすることが不可能なことは専門訴訟の範疇に属することは明
らかである。

  にもかかわらず、原判決は、被上告人栃木県の過失を認め、被控訴人ら
の損害賠償請求を一部認容しながら、第1審で認容された弁護士費用の全
部について何ら判断することなく判決を言い渡した。

  これは、正当な理由がなく、上告人らを不利益に取り扱うもので、憲法1
4条1項に反するものである。


2 理由不備ないし理由齟齬について

(1)正和君の生存可能性を3割とする点について

  前述のおり、原判決は正和君の生存可能性を3割とする(33頁)が、何
故、10割や5割ではなく、3割なのかについては説明するところがない。こ
の3割という可能性については、何の根拠も論証もなく、「このくらいは助か
ったかもしれない」という裁判官の感想を述べるに過ぎないものであり、理
由不備の違法があると言わなければならない。

(2)弁護士費用を認めない点について

  前述のとおり、不法行為による損害賠償請求訴訟の場合において、弁護
士費用も相当因果関係のある損害として認めるのが最高裁判例である。

  1審判決は、この判例に従い損害額の一割を弁護士費用として認め、被
上告人栃木県に対し、これを付加した額の支払いを命じた。

  しかるに、原判決は、被上告人栃木県に対して損害賠償請求を一部認
容しながら、何ら理由を示すことなく、弁護士費用についての請求を排斥し
ており、理由不備の違法があると言わなければならない。

(3)理由齟齬について

  原審判決が、「司法警察官に対する供述は、被害届の趣旨に従って聴取
される可能性が高く、恐喝被害を離れて正和の負傷を積極的に申述したと
の事情もうかがえない」(16頁)と認定する点については、「正和が怪我をし
ている事実について、■■又は■が述べたことはあったが」(15頁)とする
部分と齟齬する認定である。

  また、原判決は、「正和の殺害を阻止し得たと高度の蓋然性をもって認
めるには足りない。」(32頁)としつつ、「@11月26日以降も正和から正和
両親に対する無心の電話が頻繁にあり、従前の加害者らの行動の態様か
らすれば、これらを利用して正和の居所を探知したり正和を誘い出す余地
は十分にあったとみられること、A加害者らが移動に使用している車両の
登録番号は既に判明していたこと、B加害者らが11月28日には■■の両
親の家に立ち寄り、C12月1日には■■が被控訴人■■らの家に立ち寄
っていること、さらには、D11月28日から12月2日の開け加害者らは栃
木県内において行動していたこと」を考慮して、「殺害前に正和を発見し得
た可能性も3割程度はあったものと認めることが相当」(32〜33頁)とする
のであるが、これだけの事実があれば、警察が動いてさえいれば、正和君
が無事救出された可能性は100%あると考えるのが、経験則に従った常
識的な判断であろう。

  すなわち、11月25日以降も十分に正和君を救える蓋然性があったとい
うのが、原判決の認定事実から導かれるべき結論である。

  原判決はその事実認定においては警察の作為義務違反を認めつつ、結
論においては、経験則上これと相反すると思料される認定を行っているの
であり、明らかに理由齟齬に陥っているのである。




第4 結語

  以上のとおり、原判決には、憲法14条1項違反及び理由不備ないし理由
齟齬の違法があり、破棄されるべきである。

以上




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