盗難事件

その日、俺は寝坊をした。
寝坊といっても10分ほどだ。

いつもはゆったりと車を運転して、渋滞なんぞ問題にしない。
渋滞も計算に入っているしね。
渋滞をくぐりぬけるのは、お手のもん。(すんません、本当は毎日がギリギリ)

基本的に渋滞を回避する裏道が俺の通勤ルート。


だけどその日はあせっていた。遅刻寸前。
そこそこすごい雪(1日で20〜30センチほど)で、いつものように進めない。
なんで裏道にこんなに来るんだ?



お前ら渋滞抜けれると思ってなんとなく来ただろ?

そう思わずにいられない。


なんだかんだで、始業時間に3〜4分ほど遅れてなんとか会社にたどりついた。
だが、会社の前に
2台のパトカーが停車している。

何だろうと思いつつ、車を駐車場へとめて、工場入り口から事務所へ入った。
いつもなら朝のミーティングタイムである。
だが、どうも様子がおかしい。




工場に入ると・・・

警官と鑑識が多数うろちょろしてる。


俺をみつけた警官が、近づいてくる。

「従業員の方ですか?」

「ええ、そうですけど。何かあったんですか?」

話を聞いてみると、どうやら
泥棒が入ったらしいことがわかる。


まあ、とりあえずは作業服(ツナギ)に着替えるべく更衣室へと移動した。


更衣室兼休憩室には警察官の姿はなかった。

さっさと着替えようと自分のロッカーまで歩んだとき、床になにかが落ちてるのを発見。

















茶褐色の棒状の物体・・・


そう、それは
ウンコだった!




なぜ、ウンコが・・・

しかも無意味に健康的な便。



唖然としていると、すでにツナギに着替えたTさんが現われて、答えてくれた。

「びっくりしたでしょ? なんか窃盗犯がそれ(ウンコ)してったらしいよ」

「泥棒+愉快犯ですかい・・・」

朝から脱力しまくる俺。



ウンコを避けて着替えを終える。



そして普段より遅い時間のミーティングが始まった。

「えー、もうこの状況でみんなわかってると思いますが、昨夜泥棒が入ったようです。
幸い被害はいまのところデスクの上に置いてあった数千円が盗まれた程度ですが、
まだ無くなったものの確認が完全に取れてません。
各自、自分の持ち場でなくなっているものがないか確認してください。
あと、現場検証は午前中いっぱいはかかりそうなので、
警察の方々にはなるべく協力するようにしてください」

社長は朝のミーティングではウンコについては触れなかった。
俺達従業員の中では最大の疑問点であるにもかかわらず。





普段よりずいぶん遅れて、仕事は始まった。
いつもとは違う作業をこなしつつ。


高価な工具や機械が無くなってないか確認。
自分の工具も確認。(プロ用工具は結構値段高いのあるし)
犯人によってすべての車のドアが開け放たれていたので、それを閉める。
ドアが2柱式リフトにあたって傷がついてないか確認。
ルームランプがつきっぱなしになり、バッテリーあがりしているのを充電。


しばらくして、ある程度余計な作業も落ち着いた。
そして、急ぎの仕事をこなしてない面々で情報交換&愚痴りを始めた。



「客の車から無くなってるものあったらどーするんだ?」


「金は手さげ金庫で社長が持って帰るから、とられたのは小銭程度だったらしいぜ」
「なんかのお釣りをデスクに置いてたってやつだけだろ?」


「ドア開いてた車のバッテリー液の比重から考えるに、犯行時刻は・・・」


「あの指紋とる粉、外装手入れをやらない車にもべったりついてるぞ」


「昼一で納車なのに、バッテリー充電終わらねーよ・・・」


「ドアに傷ついてるのはやっぱうちの責任になんのか?」


「今回の被害で保険でるのか? 事故とは違うわけだし」


いろいろな意見が飛び交う。
そりゃそうだ。
バッテリー充電機は限界以上に酷使され、
余計な板金や清掃をしなくてはならなくなったわけだし。


だが、しかし・・・・























「なんでウンコしてったんだよ?」








この謎は、プロの窃盗犯だということを裏付けるものだったらしい。
思ったよりも盗みの成果がなかった場合、腹いせにウンコかますとかなんとか。
俺の地元だけだとは思うが、そういう泥棒さんがいるみたい。

他の社員達の話によると、プロの泥棒はみんなそんなタイプだとか言ってた。
だが、そんなわけないと俺は思うんだけど・・・

ようするにウンコ泥棒がいて捕まってなくて、警官からプロうんこ泥棒の話が出たからプロは腹いせにウンコすると思ったんだろう・・・







話はまだ終わらない。

そのウンコはすぐに処理されるはずだったのだが、警官に止められた。

事務のおねーちゃんが処理(ゴミ箱行き)しようとしたら・・・


















「証拠になるので、現場をしばらく維持したい」

と言われたらしい。


キツイ臭いの健康的なウンコは、昼休み直前まで
維持された。

そして、昼休みはやってきた。




















臭い残ってるところで昼食。




あれほどメシがマズく感じたのは、生涯一度きりだ。


TOPへ