俺が冬期湛水水田を始めようと思ったきっかけ

平成15年5月頃掲載

志波姫町農家 菅原  

 田んぼというやつは、普通、稲刈前に水を落とし田植え直前まで水を入れない乾いたままの状態を保つ。これは、たんぼを乾かすことで機械作業に支障が生じない状態を保つことを目的にしているのだが、冬期湛水水田とうのは、稲刈前に落とした水を稲刈り後に再び田んぼに水を張り、これを田植えまでそのままにしておく。
 なんで、わざわざ稲刈後も水を張った状態にしておくのかと言うと、冬になると飛んでくる渡り鳥が田んぼで一休みできるようにするためだ。
 俺は生まれも育ちも宮城県の志波姫町なんだが、この町の近くには伊豆沼や長沼と呼ばれるでっかい沼があり、冬になると白鳥とかガンなんかが、たくさん飛んでくる。だから、白鳥なんかの渡り鳥は珍しくもない。それでも俺は自分の田んぼを冬の間も水を張ったままにし、渡り鳥のために冬期湛水水田にすることとした。
 冬期湛水水田は、渡り鳥の休憩場所になる以外にも、いくつかの利点がある。例えば田んぼにたむろする渡り鳥は田んぼに糞をしていく。俺の田んぼに糞していくなんぞいい度胸だと思うが、これがこれで稲のいい肥やしになるらしい。それと、渡り鳥は田んぼのあちこちに散らばっている雑草の種も食べていくらしく、夏の草刈りの手間も省くことができるので除草剤を使わず無農薬で米を作ることもできる。あと、田んぼに水を張り続けることで、田んぼに糸ミミズがたくさん繁殖するらしく、これも稲の生長にはいい結果を与えるようだ。
 そんなこんなで、冬期湛水水田というのは、いろいろいいことがあるようなのだが、これは岩渕さんという高校の先生から聞いた話であって、俺が考えたわけではないし、俺はこの冬期湛水水田の効果をまるまる信じているわけでもない。それでも冬期湛水水田をやろうと思ったのは、もともと人並みのことをするだけでは満足できない性格と、なんというか、やっぱり新しいことへの挑戦、という気持ちですかね。俺も今年で40歳になって、いいかげん落ち着いているんですが、やっぱりドキドキしながらも新鮮な気分ってのを感じてみたいし、無農薬米を販売し、私の顧客に喜ばれてみるのも悪くはない。
 とはいいつつも、俺も家族を養う身、見込みがないとわかっているものに自分の仕事を賭けるつもりはない。ゆえに、冬期湛水水田の結果として田んぼに雑草が繁殖するようであれば躊躇なく除草剤をかけるつもりだ。まあ、とりあえず今年一年、ためしに冬期湛水水田につきあってみっか、というのが今の気持である。


[HOME]
 

[目次] [戻る] [次へ]