「草」諸君、バンザイ!

記録:平成15年7月22日
掲載:平成15年7月25日
志波姫町の農家 菅原 

 ホタルイ、クログワイ、イボクサ、ピッピ・・・皆草達である。「雑草」ではない、それぞれに個性を持った「草」達、である。
 最近、心改めることの多い私であるが、今回もまた私の改心理由から始まる。冬期湛水水田で稲作りを始めた頃は、目の敵にし、除草剤で根絶にしてやるとまで考えた雑草達である。しかし、最近になって別の視点から雑草・・・ではなく「草」達を考えるようになってきた。
冬期湛水水田、夏の王者
ホタルイ

 なんで、「草」に対する俺の考えが変わってきたか?その前にまず現在冬期湛水水田を賑わす主要な「草」達を紹介しておこう。
 トップバッターは現在冬期湛水水田で最も勢いのある「ホタルイ」である。ホタルイは右の写真のとおりスレンダーであり
、先の尖った形をしている。田植え時にはほとんど姿を見ることのなかったホタルイであるが、5月末頃から除々に姿を現してきた。現在では最も勢力を拡大している草である。
 現段階では稲よりも大きく生長しているホタルイであるが、7月半ば頃よりこのホタルイに変化が起きている。
黄色に変色し、斑点が出ている部分が
ホタルイの病気


 左の写真を見てもらいたい。茎の部分が黄色に変色している。これはホタルイの病気であり、冬期湛水水田に繁殖するホタルイの大部分はこの病気にかかっている。そのため、このままの調子でいけば燃え尽きていく線香のように、盆過ぎあたりまでにホタルイも姿を消していくのではないかと思っている。
 水性雑草ゆえ、稲の最大のライバルと目されたホタルイであるが
7月22日の状況、写真中央部の濃い緑
の草がホタルイ
、しょせんは8月初旬までの草なのかもしれない。しかも、右の写真を見ても分かるとおり、ホタルイの繁殖により特に稲が弱っている気配もない。とすればである。例え盛大にホタルイが水田に群がろうと、稲刈りまでには消え去る運命のホタルイである。その意味では稲作上、ホタルイの存在は何の問題も無いのではないだろうか?
  次はホタルイと瓜二つのクログワイである。左の写真はクログワ
ホタルイとクログワイを並べた写真
イとホタルイを並べて撮った写真である。見てのとおりそっくりな姿のホタルイとクログワイだが、この写真については俺もどっちがどっちだか忘れてしまった。見た目のほとんど違わないホタルイとクログワイであるが、ホタルイは実を付け、種子で繁殖する。これに対し、クログワイは根茎で繁殖する。またクログワイの茎の中に房があるので、それぞれを区別する場合には茎の中を見てみるのが確実である。
上がホタルイ、下がクログワイ
 我が冬期湛水水田にはそれほどクログワイの姿は多くないが、このクログワイも病気に罹りやすい性質がある。そのためクログワイもホタルイと同じく、稲刈り時までには大部分が枯れてしまうのではないかと思われる。
 次はイボクサである。イボクサは畦畔脇から侵入し、水田に広がっていく。左の写真を見ても分かるとおり、頑丈な根茎を持っていて、根から横方向に繁殖する性質を持っている。また茎の節々からも横方向
冬期湛水水田の伏兵
イボクサ
に茎を伸ばして行く。
 イボクサはホタルイやクログワイと異なり上下方向の背丈があまりない。そのため目立たない存在であるが、現在冬期湛水水田を賑わしている草のうち、ホタルイに継いで勢力を拡大しているのがこのイボクサである。
 今後はホタルイを抜いて冬期湛水水田の覇者になりそうな勢いのイボクサであり、稲刈時にはコンバインの刃先に絡み付くため、稲刈り作業を手間取らせる性質もある。そのため要注意な存在でもあるが、このイボクサも一部病気に罹っているようである。

 次はガマノホ、冬期湛水水田で最も背丈の大きい草である。ガマ
ガマノホ
ノホは図体は大きいものの、面的には繁殖せず、点在して生えるだけある。そのため一本々抜いていけば除草対応が可能である。ただし、ガマノホの今後の推移を見守るため、俺はあえてガマノホの除草は行っていない。

 次は冬期湛水水田の異端児、シャジクモである。このシャジクモは海草の仲間であり、見た目も臭いも海草に似ている。シャジクモは稀少植物であるが、俺の冬期湛水水田にはたくさん繁殖しいる。これも無農薬水稲栽培の効果であると考えられる。
 以上のように、いろいろな「草」が冬期湛水水田を賑わせているが、俺はあえてこれら「草」を除草していない。除草しない理由は無農薬栽培を継続しているうちに少々「草」達が繁殖し過ぎたこともあるが、それ以外にもう一つ、いや二つある。
 
稀少植物と言われるシャジクモだが、菅原
冬期湛水水田には多量に生息している。

 一つ目の理由は、「草」が繁殖しているとはいえ、稲の生長を脅かすほどではないし、また繁殖の広がりも一定範囲で収まっているためである。しかも一部草は自ら枯れている状況にもある。
 もし、この状態で除草を行えば、草達は子孫繁栄のため、さらにその増殖を著しくするだろう。これでは人間と雑草のイタチゴッコであるし、疲れるだけだ。
 自然のままにしておく、草の生えるに任せ、できるだけそっとしておく。稲の生長を阻害しない限り、例え草が目障りであったとしても、そのままにしておく。そうすれば草達も自分の子孫を残せると安心し、必要以上に増殖しようとはしないだろう。
冬期湛水水田に広がるイボクサ
 二つ目の理由であるが、草と稲の共生関係である。適度な草の存在は稲にとっても良い影響を与える、俺はそう考えている。
 草が生長するのに負けじと稲も生長する。そうすることで病気に強く、丈夫で逞しい稲が育ってくれる、それを俺は期待しているのである。幸いにして俺の冬期湛水水田の稲は不耕起で育てているため、根はしっかりしており、頑丈に育っている。
 それで最近思うことであるが、稲作りをする場合、人間の役割は草と稲が仲良く成長できる土壌作りを行うことだけであり、それ以外は何も行う必要が無いのではないかと。良い水田土壌を作り、後は稲と草が成長していくのをだた見守ればよい。それだけが人間の役割ではないかと、そう思うのである。
 と言うことで、本年は稲作に関し人間の干渉をできるだ少なくしている。おかげ様で農作業もずいぶん楽になった。
 ちなみに、決して俺が楽をしようと屁理屈をこいてるわけではないので念のため付け加えておく。


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