靴はわりと私好みのものを持っていた。いっしょになったとき、服はほとんど捨てたけれど靴はあまり捨てなかった。靴は少々高価でもわりといいものを買って長く履くほうがお得だと私は思っている。というか、私の場合、そんなに高価じゃないのにわりと長く履けるかわいい靴を選べる。普段から服や靴を気にしながら街を歩いているからで、突然必要なときに買うんじゃなくていいものを見つけたときに買うからだ。
服や靴なんてどうでもいいと思っている人は、服や靴を気にしながら街を歩かない。買う必要が生じたときにいちばん安いものかいちばん高いものを買う。ポチの場合は前者だ。今履いているスニーカーが古くなってきたから新しいのが欲しい、正月のバーゲン期間にいちばん安いのを買いたいからつきあってほしいとポチが言った。
今履いているスニーカーは確か、正月のバーゲン期間に買ったものだ。本人はいたく気に入っていてすごく履きやすくていい買い物だったと私に向かってよく言う。私が「ジャイアンツ」と言って(黒地にオレンジ色の線が入っている)笑うからよけい意地になって「いい買い物だった」と繰り返すのだ。そもそも「安くて質のいいもの」なんてあるわけがない。安いものを買う人の大半は質のよし悪しを見分けられない人だ。
「タッセルつきのモカシン、あれ、履けばいいのに」
いっしょになったときからずっと私はポチに言い続けている。
ポチはタッセルつきの同じ形のモカシンをフツーの革のとスエードの素材違いで持っている。同形素材違いは身につけるものに関心が高い人の買い方だ。あのモカシンはポチが自分でそろえたものじゃない。と信じ込んでいたが、本人が選んだものだという。私好みのモカシンを素材違いで買う人が「ジャイアンツ」をいい買い物だと言い張るセンスとは、本当に他人の趣味はよくわからない。
「スニーカーのほうが歩きやすいんだ」
ポチは2990円のスニーカーを手にとって、これでいいかと聞いてきた。
「あそこに1990円のがあるよ」
「ああ、じゃあ、あっちにする」
「デザインはどうでもよくて、歩きやすさを優先するんなら、
うちにもあるじゃない」
いちばん安いものを買うんなら買わずにすませるほうがもっといい。家計的にも助かる。
「ほら、あのいかにも中高年用ウォーキングシューズって革靴」
ものすごくダサい靴なのだが、いかにもはきやすそうだし年寄りウケはよさそうだからいざというとき用にとっておいたのである。
「いやあ、あれはいくらなんでもかっこ悪くてはけないよ」
かっこよさの偏差値をつけるとしたら、今まさに買おうとしている1990円のスニーカーが30、「ウォーキングシューズ」は29.9。偏差値45以下はひととくりに「ダサい」でかまわないと思っている私にとったらどっちも大差がない。
1990円のスニーカーを買ってポチはレジのほうから歩いてきた。
「もう一足買いませんか、さらにお安くします、って言われた」
靴店はこのダサいスニーカーを早く捨てるか売るかしたいんだなと思った。
