日記一覧

2009/01/07

ヒッコリーストライプのコート

〈某ラブホの前で写真を撮る。モデルはコウ新作のコートを着た僕。〉ヒコイチは日記に書いている。新作のコートは試作品だ。男性用コートのオーダーを依頼されてパターンの確認のために作った。試作品だから失敗した部分もあるし、省略したところもある。生地は「在庫」から選んだ。

私は、生地も服も靴も、安くて質のいいものを見分けられる。安くて質の悪いものをたくさん買ってきたからだ。安くて質のいい生地は自分用の服に仕立てる。安くて質の悪い生地はストックしておいて試作品に使うか、捨てる。在庫チェックは毎年年末に行う。

「コートを作ってあげる。どっちがいい?」
カーキ色の起毛デニムと、白とブルーのヒッコリーストライプデニム。年末にひとりで実家に帰省する前のヒコイチに2種類のデニム生地を見せた。

「こっちはコート向きじゃないんじゃない?」
ヒッコリーストライプを指さしてヒコイチが言った。ドキッとした。私もそう思っていたのだ。ヒッコリーストライプはオーバーオールスなどのワーキングウェアに使われる超カジュアルな生地だ。既製品ではワーキングウェア以外に仕立てたものはほとんど見たことがない。私はカーゴパンツにしようと思って買った。いや、安かったから買ったのかもしれない。

「それに、ゴワゴワしてる」
素人は正直だから嫌いだ。確かにこのヒッコリーストライプデニムは妙にゴワゴワしていて縫いにくそうだ。コートにするにはちょっと厚いかもしれない。わりと細かいパーツがあって縫い重なる部分の多いメンズコートは生地1枚で見たときにちょっとコートには薄いかなと感じる程度の厚さで仕上がりはちょうどいい。

「でも、こっちも色が暗過ぎる」
素人は正直だから嫌いだ。カーキ色の起毛デニムは色が暗いのが気に入らず、在庫の山に埋もれていた。カーキ色は私の好きな色だ。でも、カーキ色にはいろいろあってちょうどいいカーキ色に出会えるのはまれだ。だからカーキ色の生地ばかり買ってしまう。いいカーキ色は買ってすぐに自分の服に仕立てるから、イマイチなカーキ色の生地ばかり残ってしまう。イマイチなカーキ色は私にとってイマイチなだけで、「ほかの人」になら似合うかもしれない。そう思ってとっておくのだが、似合った試しがない。

結局、カーキ色で作ることにしたのだが、生地を広げてみたらいったいいつ買ったものなのかとビックリするような90センチ幅で前身頃が入らない。試作品はチャッチャッと作って帰京後のヒコイチに試着させ本番に着手したかったので新たに生地を探すこともせず、150センチ幅のヒッコリーストライプで作ることにした。ところがこれが完成したら意外によかった。思い出のラブホの前でニッコリ笑ってポーズをとるくらい、ヒコイチも「いいね」と満足していた。やっぱり、私ってセンスがいい。