世田谷文学館で今日からはじまった堀内誠一展に行って来ました。
http://www.setabun.or.jp/
メイド服の写真を見たいというメールをもらったんで、
ついでに写真も撮って来ました。
堀内誠一氏は1932年生まれ。
雑誌『アンアン』や『オリーブ』のロゴを作った人ですが、
1987年に54歳で亡くなっています。
展示されていたエッセイの冒頭に以下のような一節がありました。
〈私には原型的な造形思考があって、
細部にこだわらない代り全体の形式が気になります。〉
雑誌には前菜やメインディシュやデザートがある、
どれから食べても自由なんだけれどもそういう整え方で雑誌をデザインする、
というような内容の文章なんで、
私の服作り感なんかといっしょくたにしたらいけないんだけど、
勝手に「そうそう、こういうことなのよ」とつぶやいてしまいました。
服作りも料理のフルコースのようなもので、
と言うのはちょっと無理があるけど、
素人が服を作る場合も
細部にこだわらず全体を気にしたほうがよい
と私は思います。
そもそも、服作りは服を縫うことだけを指すものじゃあありません。
どんな服にするか、どんな風にコーディネートして着るか
を想像することにはじまり、
服を着ることまでを含めて服作りなのです。
素人の服作り、というのが適切なのかわかんないけど、
自分が着る服を自分で作る場合ってことね。
私の服作りは、「縫い代つき型紙」を使います。
たとえば、
1センチの縫い代がすでについている型紙のとおりに生地を裁断して、
作り方によっては裁ち端に先にロックミシンをかけます。
ロックミシンとは切りながら端をかがるミシンで、
ロックミシンをかけると端が1〜2ミリ切れる場合があります。
1〜2ミリ切れても1センチの縫い代で縫え、と私は言うわけです。
「ロックミシンで切った1〜2ミリの誤差はどうするんですか?」
と聞いてくる人が必ずひとりかふたりいます。
少人数でやってる手芸部のときは「私の思想」を語ることもあるけど、
大勢の教室のときはそういうわけにもいかないので
「気にしないでいいです」とか「無視してください」と答えます。
相手はたいてい納得のいかない顔をしています。
最初のあいさつの段階で、
「この教室は初心者の方が対象ですし、
1〜2ミリを絶対ずらさずに縫ってくださいと言ってもどうせできないんだから、
1〜2ミリのズレなんて気にしないで切ったり縫ったりしてください」
と言うこともあります。
ほとんどの人はそこでドッと笑うのですが、
コワ〜イ顔をして笑わない人も必ずいます。
家庭科ではたしてそこまで気にしろと言われたのかどうか、
私自身は覚えていないんだけど、多くの人が
コウさんのソーイングはそういう細かいことを言わないのでラクだ、
という喜び方をします。
アバウトだとかいいかげんだとか言う人もいるわけですが、
いいかげんに縫っていいと言っているわけでは決してなく、
そんな細部にこだわるよりももっと大事なことがあるでしょ
と言いたいわけです。
デザインに合った生地選びをするとか、
着られるものを完成させるとか。
着られるもの、と言えば、
こちらも参加者にときどきいるんですが、
先日の教室でも
「はじめて着られるものができた」と喜んでいた人がいました。
ミシンをかける様子は普段わりとやってるという風だったんで
ヘンなことを言うなあと思い、
「でも、わりとやられてる感じじゃないですか」と聞いてみました。
「数だけはたくさん作ってるんですが、
着られるないものばっかりなんです」
と彼女は答えました。
「どうして、着られないものが? どういう風に着られないの?」と聞くと、
彼女は「よくわからないんです」と言いました。
だから私にも理由もどう着られないかもわかりません。
わからないけど、
こういう人はおそらくソーインガーの大半を占める、
と私は推察しています。
着られない服ばっかりできてしまう理由は、
ほぼ以下の2点にしぼりこまれると私は予想しています。
・生地選びが適切でない
・型紙がダサい
ダサい型紙に関してはともかく、
生地選びは「デザイン」の領域です。
素人の服作りに関して「デザイン」を教えてくれる本や人が存在しない
というのが大きな理由だろうけど、
そういう本や人が存在しないのは、
「デザイン」について学ぼうという気のあるソーインガーは
少ないってことでしょう。
堀内誠一氏もデザイナーだったわけですが、
デザイナーには全体を見る力が必要です。
既製服作りで、デザイナーと縫製者が別なのは、
デザイナーと縫製者では求められる能力が違うからです。
デザイナーは全体を見る力のある人がなるけど、
きれいに縫うのが得意な縫製者にはその力が欠如している、
欠如していていいから、です。
既製服の場合は、分業での縫製がほとんどですから、
余計に全体を見る力なんてなくていいわけです。
自分の服を自分で作る場合は、
自分がデザイナーであり縫製者なわけです。
デザイナーの部分と縫製者の部分、
どっちを重視すれば着られる服が完成するかといえば、
デザイナーの部分を重視することでしょう。
だから、
ヘタに一般的なソーイング経験なんてない、
不器用な人のほうがいいのです。
家庭科が苦手だった人のほうが柔軟に考えられるから
着られる服を作る可能性は高いんです。