振り返れば奴が居る
InterTrax2 + Cy-visor DH-4400VP
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◎下調べ。
ほんの数年前と比べても、今のPCの処理能力はたいしたもんです。10年前は数時間、場合によっては数日かけてレンダリングして、やっと一枚の静止画を得ることが出来たような細密ポリゴンと美麗テクスチャで構成された3Dオブジェクトを、今ではリアルタイムに動くシミュレーションの中の1オブジェクトとして、ゲーム中で眺めることが出来ます。
しかし「仮想世界」という言葉が使い古された感もある21世紀に入ってもなお、3Dシミュレーションを「見せる」デバイスは、10年前とかわらぬ「ディスプレイ」が主流です。ディスプレイの中で表示されるオブジェクトはPCの処理能力の向上に従いどんどん美麗になっていきますが、それを見る方法はあまり代わり映えがしません。
「ヘッド・トラッキング・センサー」という、頭の向きを読み取るセンサーを装備した「ヘッド・マウント・ディスプレイ」なる装置を装着し、実際に振り向くことで、仮想世界の中でも「振り向く」ことを可能にするデバイスは、結構以前から一般向けに市販されているものがいくつかあるものの、
高価である。
ヘッドマウントディスプレイ部分のスペックを見ると、画素数が少なく、低解像度にしか対応していない。
ヘッドマウントディスプレイの入力端子がコンポジットやS-Video等のみで、PCのVGA出力に対応しておらず、間に著しい画質劣化の元となる Video-Out コンバータを挟む必要がある。
実物を見る機会が皆無であるため、いまいち使用感の想像が出来ない。酔いそう。
ヘッドトラッキングセンサーに対応した専用のゲームでしか使えない。
か、家族の目が。
といった理由によりおいそれとは手を出せず、未だに「あこがれのデバイス」の域を抜けないかと。
その昔、DID という会社がフライトシムを作っていて、EF2000 という名作フライトシムを出しました。丁度Windows95が出た頃のことで、この EF2000 は MS-DOS 上で動作する最後期のフライトシムの一つでした。このシムは、後に「TACTCOM」と呼ばれるアドオンが出て、更に「G+」と呼ばれる特定の(Rendition または Voodoo)「3Dアクセラレータ」に対応するパッチがリリースされ、最後に「Super EF2000」という名前でWindows 95のDirectDrawに対応し、正式にWindowsアプリとなりました。(残念ながら Direct3D や Voodoo のGlideAPIには対応しませんでしたが。)
さて、この EF2000 の最初の DOS バージョンですが、実は当時としては画期的なことに、「VFX-1」と呼ばれるトラッキングデバイス付きのヘッドマウントディスプレイに対応していました。
「VFX-1」は、当時たしか10万円強の値段がついていたかと思います。当時の私は「頭の動きと視界の動きの一致」より、PCの処理能力を高めて満足なフレームレートを得ること」の方に興味があり、「ぉ〜すげーな〜」程度の興味しかありませんでした。
2〜3年前、NIFTY のFPCUGH #EF2000会議室等で活躍されていたでせんと氏が、このVFX-1を入手されていたという話を、FPCUGH 時代以来の Kali 古参である TE28氏から聞きました。TE28氏はでせんと氏宅を訪問し、VFX-1を使用させていただいたそうで、私はその折のTE28氏の感想を「む〜〜〜良いナー、今の技術でそれを作ったら、どんな風になるものかな〜」と興味津々で聞いておりました。ちなみに VFX-1 を使う場合、EF2000 の解像度は 320x200 にする必要があったそうです。
それからしばらくの間、VFX-1の話も思い出すこともなく過ごしていたのですが、今年2月にFuji氏からこういうものがあるでよ? と、Kali Plala #FlightSim の chat にて冗談半分にネタを振られ、再びあの話を思い出しました。
PCの高速化に関しては既に、逝くところまで逝っている私。近年はその処理能力をフルに発揮しても遊べないようなクソ重い新作フライトシムも無く、「力持て余し気味」で、主に画質面や音響面での質の向上が趣味のPC弄りのテーマとなっていました。
そんなときに見た、この InterTrax2 というヘッドトラッキングセンサー。振られた HomePage を詳しく読んでみると、なかなかどうして優れ物じゃぁありませんか。
詳しい仕様についてはこちらを読んでいただくことにして、最も私のココロの琴線に触れたのは「ゲーム側で特別に InterTrax2 対応となっていなくても、マウスやジョイスティックのアナログ軸で視界移動出来るゲームなら対応できそう」という汎用性でした。
この製品は、InterTrax2 という、汎用の高精度ヘッドトラッキングセンサーと、Cy-visor DH-4400VP (2002年10月現在、"Cy-visor" は "i-visor" と名称が変わった模様) という、コンポジットやS-Video等のビデオ映像出力に加えPCからのアナログVGA出力(解像度800x600まで)に対応したヘッドマウントディスプレイを、エーアイキューブ株式会社がセットで販売しているものです。InterTrax2単体で購入することも可能ですし、他のヘッドマウントディスプレイと組み合わせて購入することも可能なようです。
価格はバンドル価格 \248,000- のところを、100セット限定の特価で \198,000-也。結構なお値段です。(^^; でも、「サブPC用に、場所をとらない液晶の17inchぐらいのモニタが欲しいな〜」と思ったことがあるなら、それとあまり変わらない程度のお値段、と考えることも出来ます。おまけに普通のモニタは画面を表示するだけの機能しか無いけれど、このセットならフライトシムファンなら一度は夢見た筈の「パッドロック要らずのリアルな有視界飛行」が可能ってワケです。
ここで大切なのは、「もうキーボードやジョイスティックのハットスイッチ、またはパッドロック視点の使用による視界操作に馴れたからいいやヽ('ー`)ノ」と考えてしまっては、使ってみなければ絶対に分からない、新しい何かを発見する機会は永遠に失われてしまう、ってことです。幾つになっても好奇心が旺盛、ってことが呆けないコツかと。(o^-')b
さて、肝心の製品の性能ですが…私は現状の一般向け市販レベルのヘッドマウントディスプレイやヘッドトラッキングセンサの具合には明るくないのですが、InterTrax2 の仕様を見る限り、
「最大検出可能角速度 : 左右・上下の首振りに対して毎秒±720度、首を横に傾げる動きに対して毎秒±360度」
「最小検出可能角速度 : 毎秒3度」
「データ遅延時間 : 4ミリ秒」
「データ更新レート : 毎秒256回」
「角分解能 : 0.02度」
と、ヘッドトラッキングセンサとしては、フライトシムに使用するには十分過ぎる程の精度があるように思われました。(スケート選手じゃないんだから一秒間に2回転なんて出来ません)
一方、ヘッドマウントディスプレイである Cy-visor DH-4400VP の仕様はココ、ココ、ココにある通り。こちらは正直なところ、普通のPCモニタ(液晶を含む)の仕様と比べると、最大解像度が SVGA(800x600ドット)、視野角31度(約70cmの距離〜拳を握って腕を前に突き出して、ブラン感に届く距離〜に置いた17inch型液晶モニタ相当)という点が物足りなく感じられました。
そこでヘッドマウントディスプレイに関して Web 検索を行い色々調べてみましたが、2001年までの情報から判断する限り、Cy-visor DH-4400VP と同価格帯のもので、飛び抜けて優れていそうな製品は見あたりませんでした。特に解像度に関しては、Cy-visor DH-4400VP の価格帯で、両眼用で XGA(1024x768ドット) 以上の出力が出来るものは、ほぼ皆無でした。(XGA対応で、視野角50度を超えるものも、あるにはあるんですよ。コレとか、コレ(爆)とか。後者はともかく、前者は "Datavisor HiRes" ぐらいなら…と思っちゃいますね。(^^; $350,000- ナリ(w))
一つだけ MYCOM PCWEB 2001/6/7付 にて i-Grasses SVGA という製品が、解像度は800x600 ながら、「約1.8メートル離れたところから75インチの大画面を見ているかのようにバーチャル映像が楽しめる。」と紹介されていますが、これがど〜も胡散臭い。(^^; この紹介を文字通り受け止めれば、視野角が対角で56度となり、Cy-visor DH-4400VP の公称対角の31度より大幅に広く見える筈です。しかし、同ページのリンクを辿って調べてみると、イメージサイズは「13フィートの距離の76インチ」となっています。13フィートは約4m弱である筈です。これだと対角は27度となり、Cy-visor DH-4400VP より小さな画面に見えるではありませんか。(^^;;;
思うに、i-Grasses SVGA が「視野角27度のマイクロスクリーンが両眼用合わせて2枚あるので合計56度」という無意味な計算を、MYCOM PCWEB で勘違いして紹介しているのではないでしょうか? 私の邪推である可能性もありますので、i-Grasses SVGA をお持ちの方、是非真相をご一報ください。(^^;
ヘッドマウントディスプレイの売り文句にある「コンパクトな仮想大画面!」というフレーズも、色々なレビューを読む限り、誇大広告気味な感じが拭えません。
市場が狭くて顧客の争奪戦となるのは分かるんですが、こんな都合のいい広告ばかり並べているから、ヘッドマウントディスプレイに対して「たいしたことないなぁ」というレビューばかりが増え、ひいては「欲しいな」と思って下調べにこれらのレビューを読んだ人が「やっぱやめとこ」ということになり、潜在市場を自ら潰しているように思うのですが。調べますよ〜これからレアアイテムを買おうって人は。某ちゃんねる、とかで。(爆)
Web 上でのいくつかのレビューによると、ビデオ入力時やPCからのVGA入力時の画質の面でも、普通の家庭用TVや普及価格帯の17inchモニタとは同列に比べるべくもない、といった感想が多いようです(主にピントのボケと色の滲みの面で不満が残るようです)。また、目に対する負担が大きいようで、数時間ぶっ通しで見続けるには耐えられないということです。ヘッドマウントディスプレイ側でも、数十分〜2時間程度連続使用していると、勝手に電源が落ちるように設定されているようです。
需要が少なければ技術開発の歩みも遅く、私は今後も2〜3年のうちにヘッドマウントディスプレイが劇的な進化を遂げることは無いだろうなぁ、と予測します。牛の歩みで少しずつ向上はしていくでしょうが。
じゃぁ現状の Cy-visor DH-4400VP クラスの価格帯のヘッドマウントディスプレイは全く使い物にならないのか? といえばそんなことはないようです。あくまで普通のTVやモニタと比較すると見劣りがする、というレベルで、「映像を見る」という目的は十分に果たせそうです。ヘッドマウントディスプレイを買うことでモニタを手放すことは出来ないにせよ、その可搬性を活かした楽しみ方をすれば、画質やサイズの面で少々の不満はあるもののモニタでは得られない楽しみを享受出来るようです。そう、まさにフライトシムで有視界飛行をする、という楽しみ方にはもってこいではありませんか。
そんなわけで、早速私は HomePage から得られる情報からはよく分からない点について、エーアイキューブ株式会社に質問メールを出してみました。
返事は1週間ぐらいかかるかな〜と思っていたんですが、速い速い。(^^; 即日返答メールを頂くことが出来ました。大変に丁寧な対応をしていただけ、好感を持ちました。
その後何度か質問のやり取りを繰り返し、実物を触らなくても分かることは大概理解することが出来ました。以下、メールのやりとりで明らかになったことを、いくつかかいつまんで紹介します。
ヘッドトラッキングセンサーである InterTrax2 には、PCへの接続方法として USB ポートを使うものと、Comポートを使うものの2種類が製品ラインナップとして存在する。ただし、HomePage の謳い文句通りに使用するためには、InterTrax2 に内蔵されているROMのリビジョンがE以降である必要がある。現在のところ Comポート版のROM のリビジョン E 相当品は無く、事実上 USB 版の最新版 ROM を内蔵してるものだけが、各種フライトシムから利用可能である。
InterTrax2 は3軸の自由度をもち、首を縦に振る方向に相当する「ピッチ」方向を±80度、首を左右に振る方向に相当する「ヨー」方向を±180度、首を傾げる方向に相当する「ロール」方向を±90度まで検出出来る。
InterTrax2 の USB 版は Windows 98/Me/2000 に「ジョイスティック」として認識され、首を縦に振る方向が「Y軸」、首を左右に振る方向が「R軸(通常のジョイスティックならラダー相当)」、首を傾げる方向が「X軸」として認識される。このモードを pdf マニュアル上では「ネイティブモード」と呼称しており、このモードを使ってフライトシム中で視界変更するためには、フライトシム側で「ジョイスティックのアナログ軸による視界移動」をサポートしている必要がある。
InterTrax2 は「JMouse」という付属の常駐ツールを走らせることにより、PCに「マウス」として認識させることが出来る。このモードは pdf マニュアル上では「ゲーム互換モード」と呼称され、フライトシム側で「マウスの縦横方向の移動による視界移動」をサポートしていれば、このモードを使って InterTrax2 を使用することが出来る。「ゲーム互換モード」では、InterTrax2 が持つ3軸のうち、首を縦に振る「ピッチ」方向と、首を横に振る「ヨー」方向が、それぞれマウスの縦方向、横方向の動きに相当する(「首を傾げる『ロール』方向」が無視される)。JMouse の設定により、縦軸・横軸それぞれの正負の反転、および動きに対する感度設定を行うことが出来る。
InterTrax2 の「ネイティブモード」と「ゲーム互換モード」の違いは、使用する軸の数の他、PCとの通信速度の違いがある。「ゲーム互換モード」はマウスと同じ9600bpsだが、「ネイティブモード」の通信速度はそれより速い。この点から、頭の動きに対する追従精度に差が出る可能性がある。通信速度が遅いと、瞬時に右に向いた時に一瞬遅れて画像が表示される等のフレーム落ち(データ遅延)の可能性がある。ただ現実的には、ゲーム互換モードでも、マウスで違和感なく操作できるソフトであれば問題無く使用できることが多いし、フレーム落ちが起こったとしても、その原因は InterTrax2 ではなく PCのCPUやビデオカードの処理速度に影響されている可能性がある。
JMouseを起動している間、常時 InterTrax2 がマウスとして動作するわけではない。ゲームをフルスクリーンで起動したときのみ、マウスとして動作するようになっている。このため InterTrax2 を接続した状態のままでも、Windows デスクトップ操作においてマウスが首の動きに合わせて動いてしまうようなことは無い。また、ゲームがフルスクリーンモードではなく Window モードで起動している場合、InterTrax2 をマウスとして使用することは出来ない。
InterTrax2 の pdf マニュアル上では、「ゲーム互換モードを使用できるのはシリアル版のみ」となっているが、最新の JMouse では USB 版でゲーム互換モードに出来た。(メーカ保証無し)
InterTrax2 +ヘッドマウントディスプレイの組み合わせで仮想世界中を動き回るとき、フレームレート落ちがあると使用者が「酔う」原因となりうる。このため、pdf マニュアルで紹介している Microsoft FlightSimulator20002 での使用例では、高いレベルでフレームレートを維持することに主眼を置いている。画質オプション等は、使用するPCによって、フレームレートが維持出来るレベルで変更して構わない。
ヘッドトラッキングセンサーである InterTrax2 を使用するにあたって、ヘッドマウントディスプレイの種類に関する制約は一切無い。もし既にヘッドマウントディスプレイを持っているなら、それと組み合わせて使うことも出来る。ただ、フライトシムで利用する場合はある程度解像度が無いと計器類が読めなくなるため、HomePage では Microsoft FlightSimulator 2002 での使用において 800x600 以上の解像度を持つヘッドマウントディスプレイを推奨している。
InterTrax2 を購入後、ファームウェアのバージョンアップがあった場合、実費+輸送代金を支払えば、メーカーにて内部のチップを最新バージョンに交換してくれる。
InterTrax2 は博物館等で一般客向けに利用されている実績がある。
その後も InterTrax2 がどんなものであるのか詳しく知るために色々とお話を伺い、ご厚意により通常個人向けには行っていないデモ機貸し出しをしていただけることになりました。(*゚▽゚)ъ
興味津々、実機使用感へと続く…