振り返れば奴が居る

InterTrax2 + Cy-visor DH-4400VP

(4)

 

◎向き・不向き

InterTrax2 が遂にまともに動作したことに感動した後、今度は本格的に Flanker2 での「バーチャル有視界飛行」を味わってみました。

ところがしばらくするうちに、どーも Flanker2 でのバーチャル有視界は具合が良ろしくない、という結論に達しました。

まず、視界移動が滑らかじゃない。Flanker2 においてそう感じられることは、エーアイキューブ様からあらかじめメールで教えて頂いていたのですが、PCのパワーを上げれば解決する可能性もあるかもしれない、と聞いていただけに残念でした。

もう一つ、こちらの方が深刻で、

  1. 正面を見る。

  2. 右90度を見る。

  3. 首を正面に戻す。

これだけの操作なのに、手順の3番目で視界が正面に戻ってきません。視界を正面に戻すには、首を30度ほど左側に向ける、つまり「正面を行き過ぎる」必要があるのです。どうも Flanker2 が、視界の移動量を取り落としている感じを受けます。

もう一点、Flanker2 は視界の移動制限が結構きつくなっています。真後ろを見ることは出来ませんし、コックピット内の自分の身体が位置している部分、すなわちシート等を見ることも出来ません。身体を捻りながら首を右回りに真後ろに向けると、画面は右120度方面で止まったままとなり、そこから先の頭の移動分が「ズレ」として記憶されてしまいます。特に左右どちらかに大きく首を振った後、少しでも首を下に向ける(左右視界でキャノピーの縁をのぞき込む感じ)と、画面視界上下方向でこのズレが大きく発生します。これらのズレもまた、再度正面を向いたときに画面視界が正面に戻らない原因になっています。

画面視界と頭の絶対位置の間にズレが発生する度に Flanker2 側で KP5 を押して正面視界にした後、 InterTrax2 のリセットボタンを数秒〜10秒程度押しっぱなしにしてリセットする必要があります。

これではちょっと、実用に耐えそうにありません。

また、移動中の視界の描画も、「スーッ」という感じで動くのではなく、動きの途中のコマが頻繁に端折られるような感じで、滑らかさに欠けるところがありました。

InterTrax2 使用中に、頭の動きを止めて本物のマウスを使って視界移動を行った場合、視界の動きは InterTrax2 を使用した時よりもずっと滑らかに感じられます。

しかし、左SHIFT + 右 CTRL + BackSpace キーを同時押下することで画面左上にフレームレートを表示させてみると、PS2 マウスで視界移動した場合も、InterTrax2 を用いて視界移動した場合も、Flanker2 のフレームレート表示はほぼ同じ値で 25.00fps〜50.00fps 間を変化しています。どうもフレームレート落ちして見えている理由がよく分かりません。(フレームレート表示は、通常一定の短時間における表示フレーム数を元に算出されるものであり、一枚一枚のフレーム表示速度を反映するものではありません。しかし、 Flanker2 のフレームレート表示は体感されるフレームレートに比較的近く、表示で 33.33fps 出ているときに引っかかりを感じることは滅多に無いのですが…)

 

その後他のシムも試してみたところ、"MigAllay"(日本語版「ミグアレイ」もあります) も同様な感じで、あまり InterTrax2 でのプレイが(可能ではあるものの)向いてない、と感じました。

以上の感触から、InterTrax2 のゲーム互換モードが利用可能なシムでも、次のような特徴を持つシムは向かないように感じました。

う〜ん、ここ数年間の私がマルチプレイするシムは、このあまり感触が良くなかった Flanker2 だけなので、かなり残念。(^^;

 

◎「あたりまえ」を手に入れたとき

では他のシムはどうだろう、と、今度は UBI が販売している最新の WWII コンバット物、IL-2 Sturmovik で試してみました。

このシムは、現時点における最高クラスのグラフィックと、大迫力のサウンドと、マニアックなフライトモデルが合致した、近年のフライトシム不作の時代にして希有な名作です。

水面には動くもやが立ちこめ、空のグラデーションと3D雲は本物と見まごうばかり。多彩な航空機、地上車両の造り・動きも精緻を極めており、素晴らしいグラフィックでありながら比較的動作が軽いのも◎。

音響もすばらしいものです。4ch のスピーカに繋ぐと、自機の機銃の射撃音がフロントのスピーカから聞こえると同時に、自機の後方を右から左へ突っ切る他の飛行機のエンジン音がリアスピーカの右から左へ吹き抜ける、という凝り様。また、3Dサウンドの同時最大発音数設定の最大値が64音と、現状では私の知る限り Philips Acoustic Edge PSC706 というサウンドカードしか対応出来ないような「賑やかな」設定が可能です。また今では倒産して無くなってしまった Aureal 社の、VortexII というサウンドチップ専用API「A3D」にも対応している点も見逃せません。もちろん Creative 社の Live シリーズ専用 API「EAX」にも対応しています。

フライトモデルに関しては多くを語りませんが、とりあえずこう申しておきましょう。

「離陸するだけで、ご飯三杯はいける。(*゚▽゚)ъ」

ちなみに地上で 30mm 砲やロケット砲なんかぶっ放すと、反動で機体がバックします。(笑)

「自分には、これを飛ばすのはちょっと難しいかな〜」と感じても、最初からリプレイファイルがいくつか用意してあり、その中から "ALL.trk" を選択して繰り返し再生させると、何とも美麗なスクリーンセーバとなります。

あまりシングルプレイはしない私ですが、最近たまにシングルプレイするときは Flanker2 よりこの IL-2 を楽しむことが多いです。

 

さて、シムの紹介はこれぐらいにして。ヘッドマウントディスプレイを机の上に置いた状態で IL2 を起動することにしましょう。

メニュー画面は同時接続の液晶モニタで見ながら、PS2 マウスでメニュー選択。そしてフライト画面へ。

10秒程度待った後、そっとヘッドマウントディスプレイを被ります。

軽く左右に頭を振ってみると、これは非常に良好な使用感。

「ふむ。ええ具合やの〜」

このシムは元々マウスによる視界移動も軽く、視界移動制限が殆ど無いため、首振りの速度と視界移動描画速度がほぼ完全にシンクロしています。目に映るフレームレートも、滑らかさを失うことなく十分です。

右を見て、左を見て、空を仰ぎ、前を見る。画面には前方視界が見えています。

少しヘッドマウントディスプレイの装着位置を上にずり上げ、部屋の様子と画面が同時に見えるようにして首を振ると、自分の首が90度右を向いたとき、画面にはコックピットのほぼ右横から見た風景が描画されました。

勢い良く首を振って左を向くと、画面も勢い良く、滑らかに回って左視界に。左翼の翼端が下方に見えます。

「・・・・・・・・。」

左を向いた状態から、右上を見やると、高い高い空に浮かぶ、雲。丁度太陽が視界に入り、雲がまばゆく輝いています。

さっと首を下に振ると、そこにスロットルが。

スロットルを前に倒しながら正面に向き直ると、動くスロットルが視界の左下に消えていきました。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

Windows デスクトップ画面を表示していたときに感じられた「画面の小ささ」は、シム中では殆ど感じられません。視界移動が極めてスムーズに出来るため、画面外を見たいと思った瞬間反射的に頭が動き、見たい場所を見ることが出来るからでしょう。スキーでゴーグルをかけて滑っているとき、視界は前方に限定されますが、自分が思うままに滑っているときに「視界が狭い」と感じないことと同じだと思います。

ついでに、頭を正面から45度ほど左へ向け、更に身を乗り出すように腰を45度ほど左へ捻っても、正面から90度左側の視界を得ることができました。つまり、このヘッドトラッキングセンサは、視界を移動させるために「頭だけを動かす」必要は無いのです。自分の真横を見るとき、首だけを90度回転させる人はあまり居ません。体を半分ねじりながら見る筈です。後を見るときはなおさらのこと。180度首が回転するなんて、エクソシストの世界です。(古

こんな「自然な」ことまで再現出来るのだなぁ…と、ちょっと感心しました。

しかし…どうも、腑に落ちません。こんなに理想的な仮想世界を見る窓を、産まれて初めて体験しているというのに、いまいちこう、心が騒がないというか、ボルテージが上がらないというか…

 

とりあえず、離陸してみよう。と、エンジンをかけ、スロットルをゆっくりと前に倒します。ラダーで滑走路からはみ出ないように調整しながら、重い機体をなんとか離陸させました。

そのまま暫く水平飛行して加速した後、左45度バンクの後機首上げ。と、同時に、頭が勝手に左斜め上に動き、進路変更方向の水平線を見ている自分を発見。

 

「そうか! これが 『あたりまえのこと』 なんだ!!!」

 

フライトシムでは、ハットスイッチやキーボード、或いはマウス等を用いて「モニタ画面上に描画される視界の移動」に慣れることが、上達の第一歩です。

「慣れる」という行為は、「頭の中で直感的に直接は結びついていない複数の物事を、無理矢理結びつける回路を組む」ということです。

長年フライトシムをやった人は、ある程度自分なりの「視界の使い方」、言い換えれば「癖」が体に染み込んでいます。

私の場合、強引に機体を左に寄せるとき、顎を左に突き出すようにしながら頭は右斜め上に向け、しかし視線はディスプレイ左端を睨みつけながら、体を僅かに左に寄せるようにしつつ、ハットスイッチを左斜め上に連打します。体の傾きで左斜め上を見ようとしていることを頭に伝えながら、実際には振り向くことが出来ない抑圧をハットスイッチにぶつけるわけです。(爆)

ところがヘッドマウントディスプレイを装着し、何度か「シム中の自由視界」を経験したとき、私の「癖」はその必要性を失ってしまいました。実世界で右を見る必要が起こったとき、普通に頭が勝手に右に向く。健康な人は、それが出来ることに感動したりはしないでしょう。

最初にヘッドマウントディスプレイで仮想世界中での自然な視界を得たとき、私は「見ることが出来るから首を回し、見ることが出来るから空を仰ぐ」ということをやっていました。

でも、それは本当は不自然なことだったのです。

「見ることが出来るから、見る」ということなら、バーチャルコックピット備えているシムなら、マウスやハットやキーボードを使えば体験出来ることです。今まで体験しえた殆どの家庭用「バーチャルリアリティ」は、この方法を周到してきたわけです。

しかし、本当の「自然な」視界移動とは、「見る必要があるから」或いは「見た方が安心するから」頭がそちらに向く、ということなのです。

そう悟ったとき、機体と自分の一体感が、今までに無く強烈に強まるのが感じられました。

深いバンクを取りながら、眼下に見える翼端と水平線を同時に見つめていると、「この翼で、俺は今、大空を飛んでいる!」という思いが沸々とこみ上げてきます。これぞ、今までより一段階進んだ「バーチャル・リアリティ」です。

美麗テクスチャを張った細密ポリゴンで構成された3Dオブジェクトを、高性能 CPU と高性能ビデオカードを使って高フレームレートでモニタに表示する「家庭用ゲーム機の高性能版」的なPCバーチャル・リアリティとは、まるで一線を画した世界がここにありました。

 

更に本格的に飛んでみることに。

飛んでいる攻撃機の後に回り込んで Guns を撃ち込むと、AI敵機が翼を振りながら、減速しつつ左バンクを取り、降下していきます。それを High Yo-yo で追い抜かぬように気を付けながら再度射撃ポジションに就こうとするとき、パッドロック視点など使うことなく、自分の目が敵機を追えています。今までこんなシチュエーションを実世界で体験したことなど、無いのに。

そして敵機を見ながら深くバンクを取って機体全体が横滑りしたとき、不意に落下するような恐怖を覚え、慌ててバンクを戻して反対方向にブレイクしていました。

長いことフライトシムで遊んでいる私ですが、実機を操縦したことなどありません。視界の鎖を解き放たれたとき、「危ない状況」が本当に怖く感じられたのです。

今度は横滑りせぬよう安定した水平旋回を心がけ、軽くブラックアウトを感じながらも頭上付近の敵機を探します。速度が低下し失速気味になったと感じたら、水平線を見ながらスティックを引く手を緩めると安心出来ました。

そのまま水平旋回を続けながら可能な限り頭上を探していると、見つけました。さっきのAI機です。

いつもならここで敵機をパッドロックして、モニタ中央の敵機が照準器に納まるまでスティックを引いたり緩めたり、失速の限界を計りつつ、経験と勘で危うい橋を渡るように調整しながら操縦するわけです。

しかし、この自由視界なら同じことを、自機のエネルギー状態を最良に保ちながら行うことが出来ます。自転車にのってカーブを曲がるとき、わざと倒れようとするにはかなりの努力が必要な如く、画面の振動で表現される失速時の機体の挙動を見ると、限度を超えた操縦が心理的に出来なくなるのです。

 

こうしてAI機を後方から再度照準に入れ、射撃。

…元々 IL2 での射撃はかなり下手くそな私ですが、これはちょっとモニタでプレイする以上に辛いものを感じました。(^^; 当たらない当たらない。遠くに小さく見える敵機に命中させようと思ったら相当に近づかねばなりません。

画面の小ささを感じるのはこの時です。敵機を撃とうとするとき、命を落とす恐れが無い、仮想戦闘機パイロットである私は、狙った敵機だけを見つめてしまいます。このとき、目は回りの状況を把握することより、注視している部分をより拡大して見よう働きます。モニタでプレイしているときなら、私の体は知らず知らずのうちにもっと良く見ようと前のめりになります。しかし、ヘッドマウントディスプレイで身体を前のめりにしても、コックピット前方下部の計器類が見えるだけで画面に近づくことは出来ません。

IL-2 には「強拡大」のキーがあるらしいのですが、このとき私はその存在を知りませんでした。そんなわけで、一機撃墜するのに、総ての弾を撃ち尽くすハメになってしまいました。(^^;;;

Flanker2、或いは FlightSimulator 2002 で実装されているような、比較的1段分のステップの細かい画面の拡大/縮小機能があると良い感じです。実際、後述しますが Microsoft FlightSimulator 2002 のヘリコプターに乗ったとき、機体前方中央の小さなスペースにかためられた計器類を、見たいときにスッと拡大して見、すぐ自分の好みの広さの広視界に戻せる感触は絶品でした。

というわけで、ヘッドマウントディスプレイを使用したフライトシム有視界飛行は、「勝ちにこだわる」楽しみ方より、「自分の愛機との一体感、そして仮想世界の中で『自然な』行動が出来ること」に喜びを感じる楽しみ方に向いていると思います。RogerWilco等の音声chatツールを使いながらのネットプレーヤとのアクロ飛行では、喜びを何倍にも膨らますことでしょう。

「勝ち負けなんて、どうでもいい。
俺は今、大好きな大空を
愛機を自力で操縦して飛んでいる! (*゚▽゚)ъ」

 

 

次回は、私が用意した各種フライトシムでの動作状況です。


2002/03/07(木) 01:41 HUQ
mailto: huq@ah.wakwak.com