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小さな座敷牢の中、僕は彼女と二人きりだった。 彼女は丸いとび色の目をくりくりさせながら、僕の話を一心に 聞いている。僕は彼女のその表情が好きだった。 話は、2週間ほど前に遡る。 僕は大学時代の友人に 誘われて、山へとやってきた。 山と言っても、そんなに標高が高いものではない。自他ともに 認める運動オンチの 僕が、そう高い山に挑める訳がない。 低めの山を景色を見ながら散策する趣向なので、登山という よりハイキングに近い。 そもそも、出不精な僕が山に行く事になったのは、友人の中に 矢鱈と行動力がある上、お節介な奴がいたせいだ。 「人間は日の光に当たらんと駄目になる。医者のくせにそんな 事も知らんのか」 と僕を、無理矢理引っ張り出した のだ。 何が悲しくて、男だけでハイキングに行かなければならない のかと溜息をついたが、当然それは向こうも思ってい た事らしく、 集合場所には、妙齢のご婦人方が揃っていた。 下町の芸者だという。 よく聞いてみると、友人が飲み 屋で姐さんの中の一人に会い 意気投合し、酔った勢いでそれぞれ友人を呼んで、春のハイキ ングに行く事を約束したらしい。 どうやら僕は、人数合わせで呼ばれたようだ。 いい天気だなと上機嫌の友人に肩を叩かれ、僕はそっと溜息を ついた。 それから数時間後、僕は泥だらけで山の中をさまよっていた。 友人が言った通り、天気はすごぶる快晴だった。 山道はそんなに急ではないハイキングコースだった。 なのに何故か僕はこの比較的低い山で、遭難しかけていた。 15分もしない内に息が上がってしまった僕は、友人達に先に 行く様促した。まさかこんな緩やかな山で、遭難する奴など いない と思ったのだろう友人達は、先に行って待っているぞと一言残し、 どんどん歩いていってしまった。 友人達と 離れてどれ位経ったか解らないが、ある程度疲れの 取れた僕は、再び歩き出した。 そして、どうやら、どこかでコースを外れ てしまっていたらしい のだ。 なんだか、歩き辛い道だなあと思った時には、すでに元の道が 解らなくなっていた。 慌ててウロウロしたせいで、足を滑らせ沢の方まで転がり落ち、 本来なら沢づたいに下るべき所を黙々と登っていき、そうこう して いる内に日が傾き始め、あせって闇雲に歩き回り、本格的に 迷ってしまったのである。 流石に自分の間抜け ぶりに呆れてしまった。 大きな水音に誘われるように歩を進めれば、そこには高さばかり ある細い滝があった。それを 見た瞬間諦めがつき、無駄な体力 消耗を避け救助を待つ事にした。背負っていたリュックを降ろし、 その場に座ると、どっと 疲れがあふれ出た。 よくよく考えてみれば、昼もまだ食べていなかったのである。 昼食は友人が用意すると言っていた (多分、正確にはご婦人方 が用意したのだろう)ので、食べられるものは、チョコレートが 一枚と、ガム一個位だった。 暗くなる空を見上げながら、僕はううんと唸った。 |