ううんと唸ったまま寝てしまっていたらしい。

 果報は寝て待て。
 大好きな言葉だ。
 寝ている間に、事態は 大きく変わってしまっていた。
 眠る前は確かに地べたにいた筈なのに、起きたら畳の上にいた。
 身を起こして見回 すと、どこかの座敷部屋であるらしい。正面に
所々つぎの当たったふすまが見える。
 枕もとには、僕の荷物がぽつん と置いてあり、そのまま視線を
上に動かすと、これまたつぎはぎだらけの障子が見える。
 天井も古く、あちこちに雨 漏りの黒い染み後まである。その真ん
中に、古い傘のかかった電球がぱつんとあり、下につるつると今
にも切れそうな ひもが、てれんと垂れ下がっている。
 酷く古い家屋だと一見にして解るが、少なくとも地べたではない。
家の中である。
 寝ている間に、屋根のある所まで移動したのだ、これ以上に良い
事は無い。

 僕は布団から出ると、四つん ばいになって、そろりと障子を開けた。
 障子の向こうは、夜だった。暗い空には、ぽっかりと月が出ている。
深夜なの だろう闇が深い。
 雨戸は閉めない家らしく、正面には外の景色がそのまま見えた。
 あまりひろくない畑が広がっており、 その向こうにぽつぽつと他の
家も見える。
 どうやらここは、小さな農村らしい。他の民家の畑も、そんなに大き
い物 ではない。

 顔を出して右を見ると、すぐに突き当たりの壁が見えた。左を向くと、
古びた廊下が伸びており、ここ以外に 二つほど部屋があるのが
解った。
 どちらの部屋も、明かりは点いていない。

 僕は頭を引っ込めると、障子を閉めた。

 物音がしない所を見ると、どうやら、ここの家人は寝ている らしい。
そして、ここの寝ている家人の誰かが、山で遭難しかけているにも
かかわらず、呑気に寝こけている僕を、拾って 家に連れて来てくれた
ようだ。ありがたい事である。
 御礼を言いたいが、折角寝ている恩人を起こすのも申し訳ない。

 僕は再び布団に入り、翌朝まで大人しくしていようと思ったが、空腹
を思い出し布団に入る前に、枕もとの自分の荷物に 手を伸ばした。
 リュックを開け始めた所で、違和感を感じた。

 リュックのポケットに入れておいた物が中に移動していたり、 一応
持って来ていた応急処置用の包帯や薬等の入った袋が少し開けられ
ていたり、誰かが中の物を触った跡があるのだ。
 身分証明になる物を探していただけならいいのだが、半開きの薬袋
からいくつかの薬が抜き取ら れており、少し使った薬の小瓶が手ぬぐ
いの間にねじ込まれている。
 それが何となく嫌な感じがして、すっと空腹が去った。

 僕はまたううんと唸って、そのまま布団に潜り込んだ。
 面倒な事に巻き込まれなければいいなと思った。


  ……実際は、その時すでに巻き込まれていたのだが……



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