Wish

「普通は子供って、何歳くらいまでサンタクロースのことを信じているのかしら?」
「どうしたんだ、急にそんなこと聞いて?」
「街中のイルミネーションを見てたら、ふと疑問に思ってね。だって、新ちゃんは……」
「あいつの場合は、サンタクロースの正体に気付くのがやけに早かったからな」
「そうそう。それと、蘭ちゃんも例外でしょう?」
「ん?」
「ほら、蘭ちゃんが初めてクリスマスに泊まりに来た日の夜のこと、覚えてる?」
「ああ、そういうことか」
「ええ。あの日以来ずっと、蘭ちゃんは、蘭ちゃんだけのサンタクロースを待っているのよね……」

星月夜は街中が冷え出し、閑静な住宅街を彩るクリスマスイルミネーションは、澄み切った空気でより一層その輝きを増していた。

その夜、工藤家の子供部屋には新一と蘭の姿があった。クリスマスイブに蘭が工藤家に泊まるのは、この夜が初めてのことだった。この年の初夏、蘭の母の英理は家を出ており、蘭とは別々に暮らしていた。そして、父の小五郎もこの日に限って仕事が入り、結局、蘭は工藤家で預かることになったのである。

時間は午前1時を回っていた。新一は既にサンタクロースから“卒業”していたのだが、まだ信じている蘭のため、小五郎が用意したプレゼントを手に、優作と有希子は2階の子供部屋へと向かった。子供たちを起こさないように、細心の注意を払いながら子供部屋のドアを開けると、二人が眠っているはずのベッドにその姿がない。慌てて部屋中を見渡すと、窓辺で頭からすっぽりとブランケットを被り、小さな肩を寄せ合うようにして座る二人の姿があった。二人とも、優作たちが部屋に入ってきたことには気付いていないようだった。

「今年はきっと、サンタさんは蘭のところには来てくれないよね?」
「何でだよ?」
「だって、蘭は良い子じゃなかったもん。だから、今日、お父さんはお仕事に行っちゃったし、それに、お母さんだって……」
「バーロー。おじさんの仕事はたまたまなんだし、おばさんのことだって、別に蘭のせいじゃないだろ? それにさあ、サンタクロースが良い子のところにしか来ないって言うのなら、俺のところにはもう3年は来てないんだけど?」
「ウソ?」
「ホント。俺って、そんなに悪い子だと蘭は思うか?」
「だろ? だからさ、もし今年、サンタが来なかったとしても、蘭が悪い子だったっていうわけじゃないから」
「うん」
「それに、もし蘭がサンタが来なくて寂しいって言うなら、俺が変わりに蘭の側にいてやるよ。そしたら、おじさんが仕事の時だって平気だろ?」
「ホントに?」
「ああ。来年だって、再来年だって、ずっとクリスマスには、俺が側にいてやるから」
「ずっと?」
「ああ、ずっと。約束するよ」

優作と有希子は二人には気付かれぬよう、子供部屋を静かに後にした。
窓の向こうには、淡雪が舞い始めていた。

「だいぶ冷え込んできたし、この分だと、夜更け過ぎには雪になるかもしれねーな。蘭、寒くないか?」
「うん、大丈夫」
「ならいいけど」
「ねえ、覚えてる? 私が始めてクリスマスにこの家に泊まった日のこと」
「ああ、覚えてるよ」
「あの時に約束、新一はずっと守ってくれてるのよね」
「一度、かなり危なかった時もあったけどな」
「でも、ちゃんと戻ってきてくれたから。これからも、守ってくれる?」
「当たりめーだろ? 何だよ、今さま」
「だって、こうしてゆっくりこの家で過ごすのって久しぶりのことだから、今までのこと、色々と思い出しちゃって……」
「4年振り、か?」
「そう。去年はホテルで、一昨年は大阪から服部君や和葉ちゃんが、それに、歩美ちゃんたちも来てくれて賑やかだったでしょ? その前の年は、新一は事情聴取で忙しくて、とてもクリスマスどころではなかったし……」
「そうだったな。そして、また来年から騒がしくなるわけか……」
「そっか。こうして二人で過ごすクリスマスも、来年から暫くお預けなのよね……」
「正確には、今年だって、もう既に三人なんだけどな」
「そうでした。あ、そうだ、来年は、昔みたいに庭にイルミネーションを飾らない? きっと、この子だって喜んでくれると思うんだけど?」
「イルミネーションは構わないけど、普通、産まれて半年ぐらいじゃ、わからねーんじゃないのか?」
「いいのよ、仮にわからないとしても。だって、私が見たいんだもん。あの時みたいに、頭からブランケットを被って、新一と肩を寄せ合って、この子と三人で、この部屋の窓から……」

スランプの時に書くとこういう結果になります(苦笑)
気が付けば、「予言」と同じパターンで書いてます。しかも、文章力が後退してます(冷汗)。
えー、念のために断っておきますが、新蘭が20歳(新婚)の時に、7歳の時を回想しているというお話です。
本当はMain設定なんですが、年表で迷ったことと、極短だったので、Shortにしておきました。

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